MENU

第3章 自己イメージとブリーフシステムを変える方法

物事をどう捉えるか。そのことがよりよく生きるために重要だということは、たいていの人がみな頭では理解しているはずです。

たとえば、仕事で起こったことは何事もポジティブに考える、という人がいます。

ポジティブに考えることのできる人は、たとえよくないことが起こってもすぐに立ち直り、問題解決に取り組むのも早いものです。そのため、悪い状況をすぐに改善してしまいます。結果として、ネガティブな思考法を持つ人よりも、より多くの成果を上げることができます。

思考法は、人生のゴールを達成する上で、非常に大きなカギを握っています。一般的によく知られるポジティブ思考は、その点ではまだほんの序の口です。

この章では、どのような思考法を身につけたらよいかという点に的を絞り、その獲得法を紹介していきましょう。

人間が選択と行動を行う際に働く思考は、大きく次の3つに分けることができます。

  • ①意識的思考
  • ②潜在意識
  • ③創造的無意識

意識的思考とは、ふだん私たちが意識して行っている思考です。仕事上の問題や課題に対して論理的に解決法を導こうとするのは、意識的思考の代表格といえます。とはいえ、論理的思考ばかりが意識的思考とはいえません。

ルー・タイスは次のような例をよく挙げます。

ある小学生がクラスの学習発表会で初めてみんなの前に立ち、一生懸命に話を始めます。すると、それを聞いていたクラスメートが、突然笑い始めました。動揺した彼は、自分が何をいおうとしていたのかわからなくなり、顔を真っ赤にして席に戻りました。

すると、クラスメートが彼をこう囃したてました。

「とんま!ズボンのチャックが開いてるぞ!」 こうした少年時代の出来事に対する反応、つまり屈辱的な情動は、ネガティブな経験として脳に強烈に記憶されることになります。

それから 25年がたち、すっかりいい大人になった彼は、地元のボーイズクラブでのスピーチを頼まれました。彼は、何となく嫌だな、と考えました。小学生のころに味わった屈辱的な経験を連想したからです。

そして、彼は「忙しすぎてスピーチを引き受けることはできない」と答えました。学習発表会の初舞台でズボンのチャックが開いていなければ、おそらく彼の答えは違っていたはずだと、ルー・タイスはいいます。

この例が示すのは、意識的思考が必ずしも論理的に最善の答えを導き出してくれるわけではないという点です。

論理的に最善の答えとしては、子どもたちにスピーチを聞かせ、「いいお話を聞かせてくれて、ありがとう」と感謝されたほうがいいに決まっています。

それができる能力も人間的な魅力も、人はみな持っています。ところが、意識的思考によって過去の記憶を参照したがために、そのチャンスは阻まれてしまいました。

困ったことに、多くの人がふだん意識的に行う選択と行動は、この手の意識的思考によって行われたものが意外に多いのです。

潜在意識

ご存知のように潜在意識とは、顕在化していない意識のことです。

ルー・タイスは、潜在意識を高性能テープレコーダーにたとえます。

そこには、あなたが考えること、言うこと、察すること、感じること、想像すること、あるいは経験することへの情動的な反応とアティテュードのすべてが記録されています。

過去に起こった出来事とそのときの自分が、記録されているわけです。潜在意識は、あなたの選択と行動を自動的に決めてくれます。

たとえば、靴ひもを結ぶ、クルマを運転する、相手にあいさつするなど、いちいちやり方や手順を考えなくても、手やからだが勝手に動いてくれます。

あなたの潜在意識が自動的にあなたを動かしているわけです。もっとも、潜在意識に記録されていることは、必ずしもいいものばかりとはいえません。中には、成長への障害になるものもあります。

たとえば、よく見受けられるのは、これから取り組むべき仕事について、悪いところばかりあげつらったり、出来ない理由ばかりを考えたりする人です。

そういう人と話をしてみると、「仕事をやりたくない」というわけではありません。むしろ、「もっとうまくやりたい」と考えている場合がほとんどです。

とするならば、良いところや出来る理由を考えたほうがよほどうまく仕事を成就させることができるはずですが、それができません。理由は、潜在意識に記録されたネガティブな反応が、その人の選択と行動を自動再生しているからです。

潜在意識は、そこにどのような内容を記録するかによって、ゴール達成のための強い味方にも、それを阻む手ごわい敵にもなります。

創造的無意識

創造的無意識というのは、ルー・タイス一流の捉え方で、潜在意識の中でも自己イメージと強く結びついた無意識を指しています。「自分はこういう人間だ」というその人のブリーフシステムが潜在意識化したものと考えればいいと思います。

創造的無意識はその人に対して、自己イメージに見合った行動を強制的にとらせます。

たとえば、ある人が「自分は沈思黙考が得意な参謀型の人間で、大勢の人々に語りかけたり、組織を率いたりする指揮官型の人間ではない」という自己イメージを持っているとします。

そこへ突然、自己イメージとはかけ離れた話が持ち上がります。何でもいいのですが、町の有力者から市議会議員に立候補しないかと誘われるとします。

その人には地域を発展させるためのアイデアも、市政改善のための提案も豊富にあり、市議として打ってつけの人材に見えたのです。

ところが、このような場合、まず「わかりました。立候補しましょう」ということにはなりません。

選挙協力、事務所の提供、落選した場合の身分保証……、有力者がどんなに強く好条件の協力を申し出ても、その人は自分が立候補できない理由を考えつきます。

最後の逃げ道は、「最近、持病が悪くなったので、期待どおりの働きはできない」かもしれません。健康に不安があったためしがないのに、なぜか、そのときだけは本当に病気になってしまうのです。

なぜ、こんなことが起こるのでしょうか? それは、表舞台に立つことがその人の自己イメージにそぐわない行動だからです。

市議会議員への立候補という、自己イメージから逸脱する話が目の前に降ってわいたことで、創造的無意識がもとの自己イメージの状態に戻るよう、その人に強烈に働きかけるからです。

そして、創造的無意識は、あなたが受け入れているいまの現状を維持させようとします。

無意識に働くこうした作用は、生命が持つホメオスタシス(恒常性維持機能)の働きからも、ごく自然に理解することができます。

たとえば、温泉につかっていると、人間は汗をかきます。

人間の平熱は 36・ 5度ですから、それ以上に体温が上がると、汗をかいて体温を下げようとするわけです。

とはいえ、温泉につかっている人間は、「体温が上がりすぎたから、ここで汗をかかなければいけない。体よ、汗をかけ」などと意識することはありません。

何も考えることなしに、脳が勝手に命令を出し、それによって発汗が起こり、体温を下げようとするわけです。これが、ホメオスタシスです。

まったく意識することなく働くこの作用によって、人間はいまの現状を維持するよう、つまり平熱を維持するようつくられています。

創造的無意識が人間にいまの現状を維持させるようにするのも、ホメオスタシスが働くからです。つまり、自己イメージから離れた状態から自己イメージどおりの状態に、無意識のうちに戻ろうとするわけです。

人間が行う選択と行動は、以上に述べた3つの思考によって成り立っています。

この3つの思考に対して、人間にはそれらをコントロールする「司令塔」の役割を果たすものがあります。

何かといえば、人それぞれが持つ自己イメージです。

意識的思考もそうですが、とくに潜在意識と創造的無意識は、あなたが現在持っている支配的な自己イメージをつねに維持するよう働きかけています。

たとえば、いま自分がどれほど優秀か、どれほど成功しているか、どれほど壮健か、どれほど頭脳明晰か、どれほど愛情豊かかなど、潜在意識と創造的無意識は、現在あなたが持っている自己イメージが崩れないよう、守ろうとします。

あなたがとる無意識の態度、行動は、すべて潜在意識と創造的無意識が自己イメージ維持のためにとらせているといってもいいほどです。

自己イメージを守ることは、すなわちいまの現状を維持することにほかなりません。じつは、現状維持は生物にとって、とても重要なことです。なぜなら、現状から抜け出すと、命を危険にさらすことになりかねません。

遠い知らない場所に迷い込んだ動物は、外敵に出くわすかもしれないし、谷底の隘路に追い込まれて身動きができなくなるかもしれません。

生き物にとって、現状の外側というのは、つねに死と結びついています。命を永らえるためには、いま生きている現状にこそとどまるべきなのです。

ところが、人間にだけは、こうした論理が当てはまりません。人間は夢を抱き、それを実現したいと努力します。そのための能力を獲得することに、無上の喜びを感じます。

また、見たことのない風景を眺めてみたいとか、まだこの世界に存在していない何かをつくり出してみたいといった、飽くなき希望を抱きます。

もちろん、人間も他の動物と同じように、生命を維持するために現状にとどまろうとするホメオスタシスが働きます。しかし、そのいっぽうでは、現状を維持することで満足できることは何もないと理解してもいます。

どちらをとるかは、人それぞれの考え次第です。でも、あなたはきっと、現状から抜け出す道を求めているはずです。

あなたは、自分の自己イメージがどのようにして成り立っているのか、考えたことがあるでしょうか。そもそも自己イメージとは何でしょう。それは、他人の目に自分がどのように映っているとその人が思っているか、ということです。

もう少し詳しくいえば、現在のブリーフシステムを持つ自分は他人からこう見られているに違いないという、その人自身の確信であり信念です。

つまり、自分がそう思うだけでなく他人からもそう思われているはずの、「私はこういう人間だ」という自分像です。この自分像のすべては、あなたが持つブリーフシステムが生み出しています。

「私はこういう人間だ」というブリーフのそもそもの成り立ちは、あなたの内部から生まれ、成立したのではありません。

それは、あなたが外部の情報を認識し、それを受け入れたことによって生まれました。

そのときに、あなたは関連するさまざまな情報を連想し、受け入れた情報に対する評価と判断を加え、「私はこういう人間だ」という確信にたどり着いたわけです。

外部の情報を受け入れたことによって、あなたのブリーフが生まれ、自己イメージがつくり出されたという点が、この場合のミソといえます。

たとえば、親が「こうすべきだ」と話したこと、「そんなことをしてはいけない」と叱ったこと、学校の先生や親友があなたについて語ったこと。

過去に外部の人が発し、あなたが肯定した情報が、あなたのブリーフシステムをつくっています。

自己イメージというと、自分の内側から生成し、オリジナルの個性にもとづいた、変えがたい自己像であると思いがちですが、じつはそうした理解は間違っています。

もともと外部の情報が生み出しているわけですから、「私はこういう人間だ。それは、私本来のものであり、簡単に変わるものではない」と、固定的に捉えなければならないようなものではないのです。

つまり、自己イメージは、あなたがその意思さえ持てば、簡単に変えることができるのです。

さて、自己イメージどおりのふるまいをつづけることは、自分のブリーフシステムに合致した情報をくり返し受け入れることにほかなりません。

なぜなら、ブリーフシステムに合致しない情報を受け入れると、自己イメージの整合性を保てなくなってしまうからです。そのため、それに合致する情報だけを受け入れていくわけです。

これを換言すれば、「私はこういう人間だ」と考えて、そのとおりにふるまえばふるまうほど、あなたの現状のブリーフシステムは、より強化されざるをえません。

つまり、現状のままほうっておけば、あなたのブリーフシステムは外からの情報によってどんどん強固になり、自己イメージも固定的になっていくわけです。

世の中には、そうした例がいくらでも見つかります。

たとえば、年齢を重ねるにつれ、老人が頑固で物わかりが悪くなる傾向にあるのは、「私はこういう人間だ」というふるまいをくり返すことで、固定的なブリーフシステムがどんどん強化されていくからです。

その結果、世の中が激しく移り変わり、若者をとりまく状況が過去とはまったく違ってしまったのに、「いまどきの若者は……」と時代錯誤の説教がくり返し口をついて出るわけです。

また、何十年も利権政治に浸ってきた政治家や、高度成長期の成功体験を忘れることのできない財界のお偉方などに対しても、同じことを指摘することができます。

彼らは、そのブリーフシステムを長年いたずらに強化してきたがゆえに、現状を抜け出せず、世の中にブレークスルーやイノベーションをもたらすことができません。

そして、いまや世界がすっかり様変わりしてしまったのに、まだ旧来型のバラマキ公共事業と円安に、景気回復の夢を見ようとするわけです。

このように、現状の固定的なブリーフシステムを維持することは、その人にとって成長を妨げる最大の原因といえます。

自分らしくありたい」と考えてはいけない、ということではありません。問題は、「自分らしく」というときの「自分」の中身です。その「自分」が昨日までと同じ自分であれば、大きな飛躍は望むべくもありません。

もし同じ自分でよいのなら、特別なことは何もしなくても、あなたの潜在意識が自動的にそれを維持してくれます。

また、たとえあなたが「何かを始めなくては」と考え、新しいチャレンジを始めたとしても、結局は昨日と変わらぬ自分が明日も明後日もその先もつづいていくだけのことです。

人生のゴールを達成しようと思うなら、まず自己イメージを変える必要があります。現状の自己イメージに縛られていれば、あなたが本当に望むゴールを見つけることもできません。

どうすれば自己イメージを変えることができるのでしょうか。

その方法はただひとつ、現状のブリーフシステムを壊すことです。

そして、現状のブリーフシステムを壊すためには、「自分はこうあるべきだ」「自分はこうでなければならない」と思い込んでいる、これまでの固定的なブリーフをすべてそっくり否定してみることが重要です。

たとえば、仕事には満足できないが、自分には高い学歴があり、いまの大企業勤めをやめるわけにはいかないと考えてきた人なら、「本当にやりたい仕事を探すために会社を辞めます」と上司に宣言した瞬間に、現状のブリーフシステムは壊れます。

本当にやりたい仕事がまだ見つかっていないとしても、いまの仕事を辞めてそれを見つけるための行動に踏み切った瞬間に、これまでのブリーフシステムは壊れてしまいます。

ここまで思い切った行動をとることはできないというのなら、アティテュードを変えてみてください。アティテュードを変えたビジネスマンには、こんな成功例があります。

これは、東証マザーズ上場の IT関連企業、アドウェイズの岡村陽久社長がじっさいに体験したことです。

直接の面識はないものの、松下幸之助の本を読み、その生き方に感銘を受けた岡村氏は、一風変わった人物に見えます。

それがきっかけとなり、彼は入学した高校をわずか 2カ月で中退し、ビジネスの世界に入ります。入社したのはエクステリアの訪問販売会社で、個人宅への飛び込みセールスを始めることになりました。

これは私の想像ですが、 16歳という年齢で飛び込みセールスを経験するのは、たいへんだったことでしょう。その岡村社長は、あるインタビューに答えて、こんな面白いことをいっています。

訪問販売で飛び込み営業をやっていたとき、夜 9時にマンションに飛び込むかといったら普通はやめます。

けれどそこで、『もしかしたら夜来たことをうれしく思う人もいるかもしれない』と前向きに考えていくと、実際に売れたりするんです。

( IT PLUS「ネット広告で世界進出を企む 26歳中卒社長―アドウェイズ岡村氏」 2006年7月 6日記事より) このインタビュー記事の一文には、夜のマンションを狙って飛び込みセールスをしてこいと命じられた岡村青年の、迷いがよく表れています。

彼は会社の利益を追求するために、マンションのドアのベルを鳴らすわけです。仕事から疲れて帰宅した住人たちのひとときの休息を、たとえわずかな時間であっても、会社の利益のために奪うわけです。

おそらく、「自分だったら嫌だな」という気持ちが、彼にはあったはずです。これは、もし自分のところに夜遅く飛び込みセールスがやってきたら、気分を害するし、断るということを意味しています。

これが当時の岡村少年の潜在意識

潜在意識であり、ブリーフだったということができます。当然、彼は夜 9時の飛び込みセールスに躊躇したはずですが、会社から命令された仕事を放棄することもできません。

そこで、彼はアティテュードを変えるというテクニックを自然に使います。

つまり、「うれしく思ってくれる人もいるかもしれない」と考えて、「前向きに」マンションの一戸一戸を訪ねていくわけです。

彼はその結果、セールスに成功します。じっさい、訪問を喜んでくれる人にも会えたに違いありません。

その瞬間に、彼の「自分なら、こんな夜遅くはお断りだ」というブリーフは崩れることになりました。

そして、おそらくこんなことを思ったはずです。

「そうか、こんな夜遅くにセールスマンが訪ねてきても、喜んでいいんだ。

自分も、きっとそれをうれしく思うときがあるだろう」 これが、彼の中で、自分や世の中に対する認識がガラリと変化した瞬間です。

この経験を境に、仮に夜遅く彼のもとに飛び込みセールスがやってきても、条件反射のようにそれを断るというアティテュードをとらなくなったに違いありません。

彼に無意識のうちにそうさせていたブリーフシステムが、崩れてしまったからです。

現状のブリーフシステムを壊すというのは、こういうことです。

現状のブリーフシステムを打ち壊し、新しいブリーフシステムを獲得すると、これまで思いもよらなかった人生のゴールが見えてきます。

「私はこういう人間だ」という、これまであなたを縛ってきたゲシュタルト(ひとまとまりの概念)が崩れると、人間はその代わりになるゲシュタルトをつくりだそうとします。

たとえば、「私は洗練された人間だから、東京でゲーム開発の仕事をするのが一番ふさわしい」として渋谷の I Tベンチャーに勤めていた人が、数年後、いつのまにか石炭を扱うカナダの商社に転職していたというような例はいくつもあります。

現状の固定的なブリーフシステムが崩れたことで自分の可能性に気づき、自分に対する新しいゲシュタルトをつくりだしたからこそ、他人がびっくりするような飛躍を遂げることができたのです。

このように、新しい自己イメージとブリーフシステムの獲得プロセスは、自分が本当に望むことを発見するプロセスでもあります。

ちなみに、私のことを引き合いに出せば、私の人生のゴールは「戦争と差別のない世界をつくること」です。

就職したてのころの私は三菱地所の財務に所属し、将来は国際ビジネスマンになることを目標にしていました。

一流企業で活躍することがいいことだ、というブリーフシステムを持っていたわけです。

そのじつ、本当にやりたいことは、ものづくりでした。

楽曲をつくりたいとか、映画を撮りたいという人一倍の強い思いがありました。

しかし、そういう思いは、国際ビジネスマンになることがいいことだというブリーフシステムによって、自分では見えなくなっていたわけです。

会社からアメリカ留学を許され、大学院で認知科学や計算言語学を学んだ 20代後半、私は、会社を辞めることを決意します。

と同時に、コンピュータプログラムづくりの中にわくわくするような喜びを感じる自分に気づきます。

そして、 30代の 10年間はその仕事にのめり込みます。

私はそこに、非常にフラットで平等なコンピュータネットワークの世界を見出しました。

その発見が、世の中に権威者として認められた人が偉いとか、権力を握る人が肯定されるという、私のブリーフシステムを完全に壊すことになりました。

すると、本当に権威のある人は、世の中の表舞台では権威者として十分に認められていないということがはっきりとわかるようになりました。

「ニューズウィーク」の表紙は飾らないが、知る人ぞ知る人物。

私は、そういう生き方をしたいと思いました。

それが本心からの望みだと、得心がいったのです。

「戦争と差別のない世界をつくること」という人生のゴールは、そのときからはっきりと見えるようになりました。

ずいぶん抽象的で大きなゴールだと思うかもしれませんが、いまの私には、ゴールを達成したときの自分の姿を非常にリアルに感じることができます。

そのときの私はどのような環境で仕事をし、周りの人々と何を話し、どのようにふるまっているか等々、未来のビジョンが、いまの私の自己イメージを生み出しています。

あなたもまた、私がたどった道のりとは違うかもしれませんが、私と同じように現状のブリーフシステムを壊しながら、人生のゴールを見出していくことになるはずです。

現状のブリーフシステムを壊すという課題は、じつはスコトーマとも密接に関連しています。スコトーマとは盲点を意味しています。盲点といえば、あなたは眼球に存在する暗点(見えない部分)のことを思い浮かべるでしょう。

ご存知でしょうが、目を正面の一点を見る状態にして、鉛筆などを視野の端から徐々に中央へと動かしていくと、あるところで鉛筆は急に見えなくなってしまいます。この見えない部分が、一般にいう盲点です。

スコトーマは、目の盲点とは異なり、構造上見えない部分があるということではありません。むしろ死角のようなものと捉えたほうが、イメージ的には理解しやすいでしょう。

死角とは、クルマを運転するときにバックミラーで捉えられない範囲や、ホームに到着した電車が視界を遮って見えなくなった範囲を意味します。

私たちに死角を生じさせるものは、バックミラーや電車など物理的な障害物にかぎりません。

人間の思い込みは、えてして物理的な障害物よりも大きな死角を生み出します。

たとえば、家から急いで出かけようとしたときに、玄関のカギが見つからなくなったことはないでしょうか。あなたはこれから大切な出張に出かけなければならず、そのための新幹線のチケットも購入しています。

こんなときは、「カギがない!」という焦りがどんどん膨らんでいきます。いたずらに時間が過ぎ、焦りが募れば募るほど、カギを見つけることができなくなっていきます。

とうとう新幹線の出発時刻にどうやっても間に合わない時間になり、覚悟が決まって先方に断りの連絡を入れることになります。

そして、電話口で適当な言い訳を伝えているそのときに、テーブルの上に無造作に投げ出されたカギが目にとまります。

「そこは何度も探したはずなのに!」と、大切なアポイントメントもチケット代も無駄にしたあなたは、狐につままれたような気分になるわけです。

まるでマンガのような話に聞こえるかもしれませんが、私たちはみな多かれ少なかれ、こういう経験をしています。

なぜ、目の前にあるものを見つけることができないのか? 認知科学的にいえば、これは思い込みが障害物になって、見えない範囲をつくりだしたことが原因です。

「カギがない!」と強く思い込むことによって、目の前にあるカギを視界から遮ってしまったわけです。「ない!」と自分に強く語りかけることが、「ない!」というブリーフを生み、まさにそのとおりの現実をつくり出したといえるかもしれません。これが、スコトーマです。

人間には、スコトーマはつきものです。この点を突き詰めて考えていくと、興味深い事実に行き当たります。それは、人間は自らのブリーフシステムによって物事を見ている、という事実です。

たとえば、「東京は日本で一番、素晴らしい街だ」というブリーフを持つ人は、東京に出て、東京の会社に就職し、そこでマイホームを持ち、子育てをしたいと願うでしょう。そして、たいていの人は、じっさいにそれを実行に移すと思います。

そのときに、東京の街は悪臭がするとか、水がまずいとか、家賃をはじめ生活コストがバカ高いとか、毎日のように人ごみにもまれて疲れるとか、子どもをのびのび育てられる環境がないとか、そういったデメリットについてはまったく目に入りません。

もちろん、知識としては理解しているかもしれませんが、「それが何か?」という具合で、まったく気になりません。

東京が持つ数々のデメリットにリアリティを感じないわけです。

いっぽう、「自然が豊かな田舎暮らしが一番だ」というブリーフを持つ人は、地方に出て、リゾート地などで商売を営み、そこでマイホームを持つでしょう。

そのときに、収入が大都市圏で勤めているときの半分近くになるとか、コンビニひとつ行くのにクルマで 15分もかかるとか、夜の 9時を回ると外食のできる店が一軒もなくなるとか、風土病に罹る確率が高くなるとか、そういうデメリットはやはり一切目に入らなくなります。

田舎暮らしをする人に「不便でしょう?」と水を向けると、あっさり「不便はないですよ」という答えが返ってきます。

私のように東京暮らしが染みついた人間は、「それは嘘だ。明らかに不便だろう」と思うわけですが、田舎暮らしの本人は自分が間違ったことをいっているとは少しも思っていません。

不便ということに、リアリティがないわけです。注目すべきは、いずれの場合も、「これが一番だ」というブリーフがデメリットを遮って見えなくさせている点です。

つまり、人間はブリーフシステムに従った物事だけを受け入れ、それ以外のことはシャットアウトしてしまうわけです。このように人間は、物理世界であれ情報世界であれ、その人が見たい世界だけを見て生きています。

このことを一言でいえば、次のようになるでしょう。あなたのブリーフシステムがスコトーマをつくり出し、見える範囲を決めている。これがスコトーマの原理です。

さて、ブリーフシステムを持っていない人はいませんから、現状のブリーフシステムを変えないかぎり、人間は、つねに自分がこれまで受け入れてきた世界だけを見つづけることになります。

それ以外の世界は、スコトーマがかかって目に入ってくれません。いまあなたの目に映っている現実世界は、あなたのブリーフシステムがつくり出している世界です。

あなたは、自分が信じているもの、つまりあなたのブリーフシステムが「世界とはこういうものだ」と示すものだけを見ているわけです。

ルー・タイスは、述べています。

スコトーマがあると、見たいものだけを見させ、聞きたいものだけを聞かせ、考えたいことだけを考えさせます。

「彼らには勝てないよ。勝てるわけがない」「彼女はデートなんてしてくれないよ。絶対に」「わが社をあの会社に売ることはできない。これまで買収されたことなんてないんだから」など、こうした選択肢の排除の例はどこにでも見られます。

一つの意見、信念、態度に縛られると、自分の信じることと矛盾するものに対してスコトーマを築きます。ものを見るときに先入観にとらわれ、何をするにも習慣にとらわれます。人生のゴールを考える上で、ブリーフシステムを壊すこととスコトーマの関係は、いささかやっかいです。

何とかして人生のゴールを達成しようと思っても、あなたに見えている世界が昨日と同じ現状であれば、どんなに努力したところで不満を解消することはできないといえます。

なぜなら、人生のゴールを達成する具体的な方法は、いまあなたが見ている現実世界にはなく、スコトーマがかかっていまは見えていない現状の外側にあるからです。

とすれば、いまあなたが現状を抜け出すために資格取得の勉強にいそしみ、あるいは仕事のスキルを高める特別な訓練に励んでいたとしても、それは全部、骨折り損にならざるをえません。

現状で見えている方法を実行しても、現状を抜け出す役に立たないどころか、現状維持を強めるばかりです。では、いったいどうすればいいのでしょうか。

私たちは、目的を目の前にすると、それを達成するための方法を最初に考えるよう習慣づけられています。

方法を考えてから実行に移すことが、効率よく目的を達成することだと教えられ、そのための訓練を受けつづけてきたからです。現状を抜け出し、人生のゴールを達成しようとするときも、たいていの人はまずその方法を考えようとします。

そのため、達成する方法がわからないゴールは、なかなか思い描くことができません。たとえできたとしても、ひとときの楽しい空想のように受け止め、しばらくするとそのことを忘れてしまいます。

こうした思考パターンに慣れてしまうと、「方法は考えずに、将来こんな自分になれたらいいな、というゴールを考えてください」といっても、なかなかピンときてもらえません。

しかし、ゴールを達成する方法は、現状でわかるはずがありません。逆に、いま達成方法がわかるゴールを設定しているとすれば、それはあなたが本当に望むゴールではないということを意味しています。

そのゴールは、現状をつづけることで達成可能な、将来の「理想的な現状」にすぎないのです。あなたは、達成の方法を考える必要はありません。

ゴールを正しく設定すれば、それを達成する方法は、スコトーマの原理によって後から見えてきます。では、ゴールを正しく設定するために、何をすればいいか。

それは、やはり現状のブリーフシステムを壊すことです。現状のブリーフシステムが壊れてしまえば、スコトーマが自然に外れ、あなたが本当に望む自分の未来像も見えてくるのです。

そして、現状のブリーフシステムを壊すためには、ここでもまた、アティテュードを変えることがたいへん有効です。

先ほどのカギをもう一度、例にとりましょう。

私は、「カギがない!」と強く思えば、そのブリーフがスコトーマをつくり、目の前にあるカギが見えなくなると述べました。

もちろん、焦る気持ちが余計にそうさせるわけですが、困難な状況に陥ったときは、努めて肯定的に自分に語りかけることで問題が解決することがよくあります。

たとえば、「カギが見つからないときは、たいてい目の前にあるものさ」と自分に言い聞かせると、意外にあっさりとカギが出てきます。「必ず見つかる」という肯定的な方向に考えを向かわせてやると、発見が容易になるわけです。

アティテュードの変え方はいろいろありますが、自分が持つ現状のブリーフやブリーフシステムとはまったく逆の考えと立場を意識的にとることが、一番いいかもしれません。

人生のゴールを見出すための作業も、ここから始まるわけです。アティテュードは、あなた次第でいくらでも変えることができます。

まずは、あなたが「できない」「無理だ」と思っていることを片端から変えていきましょう。これまで排除してきたあなたの可能性を、そうやって取り戻していくのです。

「出世したいけど、自分の能力では起業して社長になることはできないだろう」と思っている人は、社長にはなれません。

「なれない」という世界だけが目に入り、「なれる」という世界はスコトーマによって隠されてしまうからです。

そのため、どうすれば起業できるかということもけっして見えてはきません。

また、「自分の生涯賃金は 2億円くらいだろう」と思っている人は、それ以上に稼ぐことができません。「生涯賃金 2億円」の世界しか目に入らなくなるからです。

視界の外側には上限なくお金を稼ぐことのできる世界がいくらでもありますが、その世界のことはまったく見えなくなるわけです。

それでもまだあなたはこう考えるでしょうか? 社長や富豪になる人は、よほどの強運に恵まれた、ごく一握りの特別な人だけだ、と。「いや、きっと簡単なことだ。誰にでもそのチャンスはある。そして、それは私にも達成可能なことなのだ」 一度、自分にそう語りかけてみてください。

そして、街ゆく人々をあらためて眺めてみてください。

すると、大きな邸宅から出てくる人や高級外車を乗り回す人が、意外にたくさんいることに気づくでしょう。

よく見れば、そのいかにも裕福そうな人たちは、特別に優秀な人だったり、天才的な人だったり、由緒正しい人だったりするわけではありません。

全部が全部とはいいませんが、どこにでもいる、ふつうの人が多いはずです。

特別な人でなければ社長や富豪になれないというあなたのブリーフは、急激か徐々にかの違いはあるにせよ、崩れざるをえないのではないでしょうか。

これまであなたが彼らのようになれなかったのは、単に「自分にはなれない」というブリーフがそうさせていただけの話です。

「自分もなれる。自分にもできる」、あるいは「特別な人間にしかできないというのは、嘘だ」と考えることさえできていれば、そういう人になる方法もとっくの昔に見えていたことなのです。

アティテュードを変えれば、現状のブリーフシステムが壊れ、スコトーマが外れます。そして、スコトーマが外れたら、新しい物事や新しい考え方の数々が見えてきます。

その結果、あなたは新しいブリーフシステムを獲得することができるようになります。そうするうちに、人生の捉え方や考え方がガラリと一変するきっかけをもつかめるはずです。

これまでは見えなかった、本当に望む人生の喜びや目標が見えるようになり、現状の外側にある人生のゴールが、あなたの目にはっきりと映るようになるのです。

新しい自己イメージと思考法を獲得するにも、アティテュードを変えるにも、大切なのはやはり「言葉」です。自分に語りかける言葉をコントロールすることが、その第一歩です。

自らへの語りかけを、私とルーは、「セルフトーク」と呼んでいます。じつは、人間は一日に何万回という頻度でセルフトークを行っています。

たとえば、「私はなんて不器用なんだ」「これなら私にもできる」「失敗しないようにしなくちゃな」等々。また、先に例として挙げた、目の前のカギを隠してしまう「カギがない!」も、セルフトークです。

このセルフトークをコントロールすれば、自己イメージを変えることができます。自分に対してネガティブに語りかけるのをやめ、ポジティブなセルフトークを行うことです。

たとえば、「私は優秀だ」「それは私には簡単なことだ」「私がチャレンジすれば最善の結果が出る」など、何事においても自らを肯定する言葉を語りかけます。

ルー・タイスは、こうしたセルフトークを「スマートトーク」と呼びました。スマートトークの効果は、その言葉と一致する行動をあなたにとらせる点です。言葉の力が行動を引き起こすのです。

その理由は、潜在意識があなたに、その言葉どおりにするよう命じるからです。

すでに述べたように、現状の自己イメージとブリーフシステムは、その人を現状に押しとどめ、つねに現状を維持していくよう働きかけます。

「私はこういう人間だ」という自己イメージとブリーフは、この段階では成長の妨げとなる、悪しき力の源泉でした。

ところが、この力は、成長を促すよい方向に利用することもできます。

スマートトークによって新しい自己イメージとブリーフを獲得すると、今度はそれらがあなたに新しい現状を自動的に維持するよう働きかけます。

潜在意識は、あなたにその新しい自己イメージとブリーフを維持する選択と行動をとらせ、いちいち意識しなくても、潜在意識があなたを目標達成に導いていきます。

ルー・タイスはいいました。

「すべての意味ある永続的変化は、内から始まり外に広がる」 これが、人生のゴールを達成する(より正確にいえば、 5章で説明するようにコンフォートゾーンを上げる)ための技術、「アファメーション」の原理です。

つまり、セルフトークをコントロールすれば、潜在意識の力によってあなたは現状をすぐに抜け出し、目標を達成するための行動を始めるのです。

あなたは、これからしばらくの間、自らにどのように語りかけているか、自分のセルフトークを注意深く監視してください。

そして、そのときどきのセルフトークから、さげすみ、皮肉、嫌味、敵意、自分や他人に対する過小評価など、ネガティブな言葉をすべて排除するよう努めてみましょう。それがスマートトークを自らに習慣づける秘訣です。

あなたが行うスマートトークの内容は、他人に対する肯定的な評価、そして自分に対する肯定的な評価です。正しいことをしているときは、「私はよくやっている」といいましょう。

ただし、声に出さずに、自分にだけこっそりというようにしてください。

とくに、「私はいったい何をやっているんだ」とか「どうしてこんなにバカなんだ」といった否定的なセルフトークは絶対にしてはいけません。

自分に対していまいましい感情が湧くようなときは、「私らしくない」とか、「これはいい経験になった」というように考え、そのさいの判断や行動を修正してください。

そして、次に同じ状況になったときに何をすべきか考え、「次は成功するし、私ならやり遂げられる」と語りかけるようにしましょう。

これが、内なる自分に意味のある永続的変化を起こさせる、大きな第一歩です。

ただし、スマートトークによって新しい自己イメージとブリーフを獲得したとしても、「よし、私の自己イメージは修正できたし、完成した」と考えてはいけません。

自己イメージはつねに修正していく必要があります。その蓄積は、あなたの新しいブリーフシステムと潜在意識を構築し、あなたを人生のゴール達成へと向かわせるのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次