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第2章 リセット禁煙法のしかけ

本当に厄介なのは「くせ」ではなく「欲求」B子さんタバコの記憶は一生なくならないんですか。先生それはそう。だって忘れようと思ってもそれは無理でしょ。だから、タバコを吸わなくなって何年たっても、ふとした拍子にタバコのことを思い出したり、気がつくと手がポケットを探っていたりするんだよ。一種の記憶に基づく、連想体系ができているといってもよい。B子さん困ったなあ。その記憶、消せないかなあ……。先生そうだよねえ。でもね、確かに記憶は消せないけれど、タバコは、〈くせ+欲求〉だったよね。だから、本当に厄介なのは、この記憶に基づく「くせ」の部分ではなくて、その後の「欲求」の部分なんだ。B子さんそうでした。船底の穴でした。そこから欲求が漏れてくるんですよね。先生そうそう。だから、タバコのことを思い出したとしても、その後、気持ちの整理がつきやすくなっていればいいんだよ。例えばね、脳の中に魚の群れが泳いでいると想像してみてほしいんだ。B子さん魚の群れ?先生そう。魚というのは脳の中にある神経細胞一つ一つのことさ。この魚(神経細胞)たちは普段はそれぞれに活動しているけれど、何かの拍子に、お互いに影響し合って一定の方向に信号を送るようになる。こうしていろいろな考えや欲求・感情が出てくると考えられているんだよ。例えば食後とかをきっかけに、タバコのほうに泳ぎ始める魚(神経細胞)が出てくる。でもよく観察すると、はじめのうちは、タバコとは関係なく泳いでいる魚もたくさんいる。だから、この早い段階で、つまり、群れが大きくなって「もう我慢できない」とならないうちに、早く気づけば、なんとかすることもできる。簡単なのは、歯を磨いたり体を動かしたりして気を紛らわしたりすることだね。これはタバコの代わりに歯を磨くというのではないよ。群れ、つまり吸いたい気持ちが大きくならないように、魚が別のほうに泳いで行くようにするんだね。でもそれだけじゃなくて、そもそも、群れをできにくくしたり、たとえ群れができかけたとしても、群れがなかなか大きくならないようにする方法もあるんだよ。B子さんそんなことができるんですか?先生今の時点では、見当もつかないと思うよ。でも、うまくいくこともあるんだよ。それをこれから少しずつ勉強していこう。

「減らしてやめよう」はほぼ失敗するB子さん次の質問は何ですか?先生興味が湧いてきたみたいだね。いい兆候だよ。B子さん禁煙できるかどうかは別にして、いろいろタバコについて理解しておくことはきっと役に立つと思うんです。先生うん。ちょうど熟した果物が自然に木から落ちるようなもので、タバコを吸っている状態についてよくわかってくると、ふっとやめられる時がくる。B子さん軽い気持ちで始めたほうがうまくいく気もします。先生そうなんだ。大事なことは、今まで知らず知らずに思い込んでいた、タバコにまつわる常識をすべて疑ってみることだ。曇りのない純粋な気持ちでね。では次の質問だ。タバコの本数を減らしていったらうまくやめられるかな?1日に30本も40本も吸うというのであれば、とりあえず、1日に20本とか10本くらいまで減らすのは確かにありだと思います。しかし、そこから先は、どこかで一気にゼロにしたほうがうまくいきます。確かに、1日に吸う本数を減らしていって最後にゼロにしようという計画は、一見合理的ですし、成功しそうに思えます。しかしこれは、ほぼ間違いなく、短期間で失敗します。それは、タバコの本質を間違えてとらえているからです。どう間違えているかわかりますか?それは、「タバコは習慣による繰り返しである」というとらえ方です。実際、1日40本吸う人なら、そのうち半分以上は、なんとなく「くせ」が出て無意識に火をつけているかもしれません。ですから、1日1本減らしていっても、そこまではうまくいきます。しかし、タバコの問題は、「吸いたい気持ち」が湧いてくることでしたね。ですから、1日5本くらいから先に進むのが、非常に困難になってきます。タバコは本数を減らせば減らすほどおいしくなるなにしろ、中毒自体は治っていませんので、あいかわらず「吸いたい気持ち」が湧いてきます。ところが、あなたは自分で1日何本と決めているので、それを守るために我慢をしなければなりません。我慢をすればするほど吸いたくなります。そして、我慢をした後のタバコほどおいしいものはないのです。なにしろニコチン切れもひどくなっていますし、「やっと吸えたー!」という解放感もあることでしょう。その1本が「本当においしい」1本になってしまいます。では、1本1本のタバコが「本当においしい」1本になってしまうとどうなるでしょう。困ったことに、ますますタバコが欲しくなってしまいますよね。だって「本当に、本当においしい」のですから。その先どうなるかは、もうおわかりですね。気がつくとだんだん本数が増えていって元に戻ってしまうのです。経験者も多いでしょう。人によっては「リバウンド」が起きて、さらに増えてしまう場合もあります。その理由はわかりますね。減らしていた間に、1本1本を「本当においしい」と思うようになってしまったからです。

ということは、なんと、減らしていた間の努力はまるで逆効果。タバコは本当にいいものだ、自分はタバコなしではやっていけない、と心に刻み付けていたようなものです。もちろん中には、減らした本数でかなりの期間続ける人もあります。正直に言って、この人たちは本当の意味で意志の強い人たちだと感心するのですが、実際、積極的に運動をしていたり、仕事で活躍していたり、非常に活発にいろいろな活動をしている人が少なくありません。しかし、その場合、気がつかないうちに別の形で袋小路に迷い込むことになります。それは、自分はもう「だいたい」禁煙できたと思い込もうとするということです。それはある意味、毎日頑張っている自分へのいじらしい「ご褒美」といえるかもしれません。禁煙に挑戦中の人に聞くと、毎日2~3本吸っているのに「禁煙できました」と答える人があります。あるいは、「休日に家でちょっと吸うだけですから」とか「酒の席でしか吸いませんので」とか答えます。この人たちの心境を思い浮かべると、私はいつもつらい思いをします。というのは、実はこの人たちは、あれほど達成を願っていた禁煙を自らあきらめつつあるのです。自分にとってはここまででせいいっぱい。実際ノンスモーカーとは本数的にはほとんど変わらないのだから、と必死に自分に言い聞かせようとしているのです。そして、遅かれ早かれ仕事や家庭でのトラブルなどが引き金となって、元に戻ってしまいます。つまり、減煙することで禁煙そのものをあきらめてしまうという、罠があるのです。「軽いタバコ」のウソ低タール、低ニコチンと称するタバコがありますが、全く効果がありません。むしろニトロサミンや血液中の一酸化炭素濃度が上昇するなど、有害性が高いとするデータがあります。実はフィルターの横に空気穴があけてあるのです。ニコチンやタール量は機械で測ります。機械にはフィルターの先を少し入れるだけで取り付けられるので、横にあいている穴からきれいな空気が混じり、煙は薄まって機械に入ります。軽いタバコには空気がたくさん混じるように穴が2列あったりします。きついタバコには穴はありません。

ところが、実際にスモーカーが吸う時は、穴は指で持ったり、唇ではさまったりしてふさがってしまいます。ですから、煙はあまり薄まらずに肺へ入っていくのです。ちゃんとニコチンが体に届けられるようになっているのです。私の患者の1人は、一生懸命減煙していましたが、このことに気づき、「なんだかスカスカする」と言ってこの穴の部分をセロテープでふさいでいました。セロテープでふさがなくても、肺の奥まで吸い込んで、しっかり息を止めて、ゆっくり出せば空気で薄まった分は取り戻せます。そして、軽いタバコに変えると知らず知らずのうちに、スモーカーは奥まで吸い込むようになるのです。もちろん、ニコチンが欲しいからです。短いストローと長いストローでは、どちらが勢いよく空気が吸えますか?短いほうですね。同じ理屈で、横に開いている穴から入ってくる空気は勢いがよいのです。そうすると、火のついたタバコの端からくる煙もそれに乗って、勢いよ

くジェット気流のように肺に届きます。勢いがよいから奥の奥まで短時間で行きわたります。その結果、ニコチンも一気に脳に届きます。動物実験などで、薬物の依存性は投与後効果が出るまでの時間が短いほど強くなる、つまり、やめにくくなることがわかっています。ちなみに、この時間は麻薬を血管注射した場合は3分、タバコではたった7秒です。それで、タバコの依存性は麻薬並み、あるいはそれ以上となるのです。メンソールの罠タバコ会社が特に力を入れているのがメンソールです。これには初めて吸う人でも、咳いたり、むせたりしないように、のどをスッとさせて痺れさせる麻酔薬が入れてあります。だから若い女性でも、すぐに、さまになる吸い方ができるのです。しかも、ニコチンの尿中排泄を妨げて、体の中にいつまでも残るようにいろいろな薬が添加してあります。早く依存させるためですね。タバコ産業は健康に良いタバコを開発するようなふりをして、吸い始めやすく、かつ、一度吸ったらやめられないような工夫を続けているのです。添加物については企業秘密ということで詳しくはわからないのですが、タバコの害が広く知られるようになって、臭いのないタバコ、電子タバコなど、「害の軽いタバコ」という幻想をふりまく手口はますます巧妙化しています。ところで、話題は変わりますが、依存症を金儲けの手段として使うために、安全だという誤解を意図的に誘導するイメージ戦略は、いろいろな分野でエスカレートしています。しかしその究極事例が、現在執拗に繰り返されている大麻をめぐる売る側の情報操作といえるでしょう。私は、日本の子どもたちは今、非常に危険な状況に置かれつつあると考えているので、これについては巻末に資料として改めて紹介しておきます。自然にやめられた人の実態B子さん私の父は最近タバコをやめたのですが、別に自然にやめられたと言っていますよ。病気になったわけでもなく。先生なるほどね。そういう人も中にはいる。高齢な人に多いよね。どうしてだと思う?B子さん……。スモーカーの心の中では、本人の思うタバコの「メリット」と、タバコのデメリットが戦いをしています。心の中に「タバコ検討委員会」という委員会があって、そこにはタバコを推進する委員と、タバコからの解放を求める委員がともに出席し、ことあるごとに議論になるというわけです。たいていは、まず「タバコをやめちゃおうよ」委員から意見が出るのですが、そのうちに、やっぱりストレスもあるしタバコも捨てがたい、という意見が出て、結論が出なくなり、「継続審議」となり、結局吸い続けるという形になるわけです。さらに悪いことに、一般に、年をとるにつれ、人生のストレスは増えていきます。それで、タバコによってストレスが軽くなる、と信じているタバコ推進委員は、ますますタバコに頼らなければと主張するようになります。しかし、体の害はもっと容赦なく増えていきます。B子さんのお父さんは、自分では大きな病気にはかかっていないつもりです。しかし、すでに体中、ガタガタでしょう。タバコのせいで、血管はボロボロ(動脈硬化)、肺はスカスカ(COPD=慢性閉塞性肺疾患)になっていきます。それでも、本人は「年のせい」と思っています。タバコ推進委員がぎりぎりまで頑張っているのです。しかし実際には、タバコに体をしゃぶりつくされて、もう苦しくて吸えなくなってしまったのです。このことは簡単に実験できます。洗濯バサミで鼻をつまみ、ストローを口にくわえて、そのストローから息をするようにしてみてください。その状態で、階段を上れますか?これがCOPDの患者さんの毎日です。この状態では、よほど意志の「強い」人でなければタバコを吸う気になれません。タバコは麻薬以上にたちが悪い呼吸器系の病気のように、タバコを吸うと即座に苦しい症状が現れるのであれば、いずれタバコの「快楽」を味わうどころではなくなっていきます。しかしそれでも、いつまでたってもメリットを信じ続ける人もあります。特に怖いのは、吸った時には症状がない場合です。例えば、タバコがもとで動脈硬化が進み、足を切断された場合でも、禁煙しなければ次は太ももから切断だとわかって

いても、タバコを吸うたびに足に激痛が走るというのでもない限り、なかなかやめられないのです。タバコのために足を失ってもいいというのです。あるいは失明してもいいという人もあります。もちろんその人の心の中には、「もういい加減にしようよ」というタバコ反対派の委員も必死に叫び声をあげています。家族など周囲の人もそれに同調していることでしょう。ところが反対の声が大きければ大きいほど、タバコ推進委員も頑張ってしまうのでなかなか結論が出ず、行動に移せないのです。もはや、常識的には「狂っている」ような状況ですが、それが依存症の現実です。そういう人も少なからずいます。つまりジワジワくる分、タバコは麻薬以上にたちが悪いのです。禁煙したい、いや禁煙したくないという、果てしなく続く心の中の議論。このいつ終わるともしれない心の罠から抜け出せない限り、実際にタバコ病にかかって殺されてしまいます。そうでなくても、お金も体もしゃぶりつくされた晩年になって、ようやく解放されるのです。麻薬で死ぬ人より、タバコで死ぬ人のほうが桁外れに多い。これが現実です。スモーカーの2人に1人、周りの人の10人に1人以上がタバコのために殺されます。本当にある「水依存症」B子さんでも、最近は、酒やタバコ、薬物ばかりでなく、ギャンブルや、買い物とかも依存症になるといわれているし、人は誰でも何かに「依存」しているものではないですか?先生人間は弱いものだから、誰でも何かに依存している、という考え方だね。確かに、人間が生きていくには、食べることから始まっていろいろなものが必要だよね。そして人は家庭や社会を作ってお互いに支えあって生きている。でもそのことと、依存症とは別のことだよ。私は、最近はやりの自分のお気に入りのものやことに対する「プチ依存」と「依存症」とは全く別のものだと考えている。例えば水。人間は水がなければ生きていけないけれど、それでは私たちは「水依存症」ということになるのだと思うかい?水中毒という状態があるので、その特徴を箇条書きにしてみます。〈水中毒〉・精神科入院患者の3~5%にみられる。・大量の水を飲み、多尿になり、トイレに頻繁に行き、夜尿してしまう。・低ナトリウム血症となり、悪心、倦怠、頭痛、けいれんを起こす(低ナトリウム血症というのは、水の飲みすぎで血が薄くなってしまうことです)。・一度に大量の水を飲み、むせて肺炎に。・蛇口のそばで倒れているところを発見されることもある。・「水を飲むな」と言っても、隠れて飲んでしまう。・飲んでも、飲んでも、満足できず、さらに大量に飲んでしまう。・それでもまだ、飲みたくなる。→コントロールできないどうでしょうか。これは明らかに「生きていくのに水が必要」という次元から逸脱していますね。水を飲めば飲むほどもっと飲みたくなり、具合が悪くなってもう飲みたくないのに飲み続ける。何かおかしなことが起きているのです。そしてそれと同じことが起きるのが、酒であり、タバコであり、薬物、ギャンブルなのです。結局、「人間は誰でも何かに『依存』しているものじゃない?」ではなくて、「依存症」の「依存」は、本人にも納得のできない、病的な状態なのです。「必要」という意味ではなく、「必要なくても」欲しくなるのです。例えば、アルコール依存では、飲んでも、飲んでも、まだ飲みたい。ますます飲みたい。喫煙者では、この先、1000本吸っても、1万本吸っても、もう吸いたくなくても、まだ「もう1本」という気持ちになる。買い物依存では、クロゼットが満杯でも、まだ着てない服があっても、隠してでも買いたくなる、というようなことが起きてくるのです。禁断症状は軽いが、依存性は麻薬並みB子さんタバコを甘く見ていたとわかりました。でも、やっぱりお酒や麻薬のほうが怖いように思えるのですが。先生そうだね。でも、実際にはタバコのほうが被害は桁外れに大きい。どうして勘違いしてしまうかというとね、

禁断症状と依存性の関係をごっちゃにしてしまうからだ。どういうことかわかるかな?重度のアルコール依存症者の場合、アルコールが切れると、その禁断症状は非常に強くなります。文字どおり、ベッドに縛りつけておかなければなりません。部屋の隅にいないはずの人がうずくまっています。体中の毛穴から無数の虫が湧いてきます。もちろん幻覚です。それは大変な恐怖です。逃げようにも頭は痛く、吐き気がし、手足は震え、うまく動かせません。助けてくれえ!酒をくれ、酒さえ飲めば、こいつはおさまるんだ。そして酒を手に入れるために大暴れするのです。ニコチンではどうでしょうか。タバコが吸えないからといって、警察沙汰になるような暴力事件を起こした人を知っていますか?タバコを吸わせろと暴れて、精神病院に入院させられた人はいますか?いませんね。ニコチンの禁断症状はずっと軽いのです。それで皆、混乱してしまうのです。タバコのことで悩んだことのない人はたいてい、厳しく注意すれば、あるいは、恐ろしい病気の写真を見せれば、タバコぐらいならやめられると勘違いしています。禁断症状が軽いので依存性も弱い、すぐやめられると誤解するのです。しかし、禁断症状は軽くても、依存性は麻薬並み。いや、禁断症状が軽いだけ余計にやめにくいとさえ言えるでしょう。特に若い人は。実際、覚醒剤はやめられたのにタバコはやめられないとか、ギャンブルと酒はやめられたのに禁煙できないという人はたくさんいます。また、身近な例でいえば、タバコが原因で退学となる高校生もあとを絶ちません。周囲の人は「なぜ退学になってまで」と思いますし、本人も家族も本気で禁煙しようとするのですが、うまくいかないのです。あなたは朝、昼、晩と繰り返し「酒をくれ」と暴れる人に一晩説教をしたとして、やめてくれると思いますか?そんなことはありませんね。タバコも一緒なのです。ただし、これは努力で禁煙しようとした場合の話。リセット禁煙は違います。「タバコと上手に付き合っている人」の胸の内は?B子さんタバコとうまく付き合っているように見える人もいるのですが。先生そうだね。いかにも、少ない本数だけ、自分の決めた特別な時だけ吸って、上手にタバコと付き合っているように見える人もいる。そんなふうになりたい?B子さんうーん。でも私には無理です。先生そのほうが正直だと思うし、素直な分だけ禁煙にも近いと思うよ。どういうことか説明しよう。少ない本数で、上手にタバコと付き合っているように見える人もあります。それどころか、覚醒剤や麻薬、大麻が相手の場合ですら、一時的かもしれませんが、一見するとそんなふうにうまく付き合っているように見える人がいます。その人たちは、「ハマらなければいいんだよ。普通だよ。自己責任だよ」と言ったりしますが、しかしそれに騙されてはいけません。そもそも、覚醒剤のような禁断症状の激しいものですら、普段はごく普通に見えるのです。ギャンブル、タバコ、大麻、買い物依存、セックス依存などでは、もちろん、見かけではわかりません。実際には借金まみれ、家庭崩壊の危機というような、どんなにひどいことになっていたとしても、です。薬物依存症のような場合でも、依存症者は、必ずしも、幻覚におびえ、ロレツが回らず、よだれがたれているというわけではないのです。目の前にクスリさえなければ、「普通の人」にしか見えません。仕事も普通にしていたりします。それで実際にそばにいる人は、依存症の怖さを実感できず、油断してしまいます。実際、覚醒剤を使いながら国会議員の選挙に当選した人もあります。選挙カーの中でも使っていたらしいのですが、誰も気がつかないのです。結局その人はそのまま使い続け、その次の選挙の後に発覚して逮捕されました。それくらいわからないのです。例えば、女優・歌手の酒井法子さんが覚醒剤使用で逮捕された時、謝罪している様子をテレビで見た人もあると思います。彼女が話す様子を見て、おかしな感じがしましたか?そんなことはありませんね。でも、彼女が覚醒剤の再使用をして捕まったとしても、残念だとは思うにせよ、びっくり仰天する人は少ないと思います。薬物の再使用は本当によくあることだからです。さて、タバコの話に進みましょう。要は、いくらスマートにタバコを吸っているように見えても、外見や言葉だけでは、その人の心の中までは、本当はよくわからない、ということです。それどころか人間には自尊心がありますから、つらい思いをしていればいるほど、それをカモフラージュしようとする人もいます。

私の知っている人にこんな人がありました。お父さんは肺ガン、お母さんは乳ガンで亡くなって、子どもは白血病なのです。自分もガンになるのではないか、と非常に心配していました。けれども、どうしてもタバコがやめられない。子どもが学校に行ってから1本、帰ってくる前に1本、そして寝る前に1本。合計3本しか吸っていない、という話でした。本当に意志の強い人だと思います。でも、そんな生活のどこが理想的なのでしょう。本当は、もっと自由に吸いたいだろうに、タバコの害が心配で、一生懸命に3本で我慢している。ところが、その一方で、その忌まわしい1本1本がますます貴重に思えてしまう。まるで心が八つ裂きになりそうです。そして、それを悟られまいとして、なるべくそのことは考えないようにして、いかにもタバコとうまく付き合っているように装い、禁煙するつもりはないから、とやめたい気持ちを心の奥に押し込んでいるのです。そういう人がいたら、試しに、自分の子どもに「自己責任だよ」と言ってタバコをすすめるかどうか尋ねてみるとよいかもしれません。きっと、どの人も黙ってしまうと思います。本音ではタバコはよくないと感じているのです。でも自分が惨めに思えるのがつらくて、それを認めることができないのです。そもそも「毎日1本だけ覚醒剤を打つことにしている。うまく付き合っているよ」と言う人を信用できますか?それと同じことなのです。

 

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