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第4章 一方的に説明しても伝わりません

上手な教え方には 3つのポイントがある 学習 =「獲得」「参加」「変化」の1つ目、獲得を手助けする教え方について見ていきましょう。ここでは、不足分の知識・技術の付与を行うために、「上手な説明の仕方」を取り上げます。大人相手に教える際に、ここに苦労している方々が多いからです。「上手な説明の仕方」を、ここではコップに水を入れる行為を例にして説明していきます。押さえておきたいポイントとしては3つあります。 ●コップの大きさ ●小分けにして入れる ●理解度の確認伝える前にコップの大きさを確認する いざ、相手に教えよう、説明しようと思うと意気込んで、あれやこれやと重要なポイントを伝えたくなってしまいますが、相手に説明する前に、まずは相手の「コップの大きさ」をはかることが重要です。これは、前に述べた「現状のレベル把握」のことを指します。いきなり説明に入るのではなく、 など質問するということです。相手から、「いえ、全然知りません」「以前教わったのですが、すみません、うろ覚えで……」「前の会社では、 ~を、 ○ ○という感じでやってました」など回答を得ることで、だいたいの「コップの大きさ」、つまり「現状のレベルを把握」することができます。 この「コップの大きさ」は、知識・技術のレベル(度合)だけではなく、そのときの相手の状態、特に気持ちや意欲の面もはかる目的があります。相手も人間ですから、教わるときに万全の状態でないときもあります。 ずっと教わり続けていて、コップの中が満タン状態の日もあります。あるいは直前にミスをしたので気持ちが落ち込んでいるけど、ミスを何とかしたいと学ぶ意欲は高まっていて、コップの中に余裕がある日もあります。そのときどきによってコップに変化があるので、一方的に説明するのではなく、相手のレベル・状態を把握する、「コップの大きさ」をはかるという行為が必要になります。 この「説明をする前に質問する」というのは、特に中途採用で経験のある方や、新卒で高学歴の方に有効です。一方的に説明する前に、相手の経験や知識の度合を確認することで、相手の経験してきたことや学んできたことを尊重する私たちの姿勢が伝わるからです。 逆に、相手の今までの経験や知識をすべて否定して、「うちの会社に来たからには、うちのやり方に従ってもらいます」と一方的な教え方をしたら、相手から反発され、素直に私たちの説明を聞いてもらえなくなるでしょう。 実際、「組織社会化」という新しく組織に入ってきた人たちの適応について研究している分野でも、一方的な教え方を否定的に捉えています。その考えの中では、新人の価値観や個性を尊重するような教え方を「付与的」と呼び、新人のこれまでの経験や価値観を無視したような教え方を「はく奪的」と呼んでいます。「はく奪的」な教え方は、言ってみれば「今までのことは忘れろ! うちに入ったからにはうちのやり方に従え!」といった強制的なイメージで、新人にネガティブな影響を与えるという研究結果があります。 実際、営業のやり方を教える上で、「うちの会社のやり方は、電話してアポイント取って商談しに行くっていう順番だから」と言われるよりも、「今までどうやっていました? 一応、うちの会社のやり方は営業電話をして、アポイントを取った上で商談しに行くというやり方ですが、やりづらいとか非効率だなって思ったら教えてください。そのときにまたやり方を考えるので」と言われる方が、前向きに仕事に取り組めます。モチベーションを上手く保つためにも、新人のこれまでの経験や個性を尊重し、相手のコップの大きさに配慮する「付与的」な教え方の方が望ましいのです。

持っている情報をすべて伝えない 上手な説明の仕方、2つ目のポイントは、「コップに入るだけの量を、小分けにして入れる」ということです。「コップに入るだけの量」とは、「あれもこれも詰め込まない」「持っている情報を全部伝えない」ということです。仮に、持っている情報が 10あったとしても、相手のコップの大きさによっては、 3までしか説明しない、残りの 4 ~ 10は後で説明する、といった感じです。 自分本位な教え下手によくあるのが、自分が持っている情報をすべて伝えようとする、いわばコップから溢れるぐらい水をざばざば注ぎ込むような説明です。教えている本人はそれで、「伝えるべきことは伝えた」と、教えたつもりになっているので、注意が必要です。 一気に注ぎ込まれてしまった教わる側は、教えてもらったことを全部理解できなかっただけでなく、コップから水が溢れ出てしまうことで、情報が整理されず、曖昧な状態で記憶に残ってしまいます。 1 ~ 10まで教えてもらったにもかかわらず、ところどころ抜け落ちてしまって、結局、最初から教えてもらわなければならなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。「獲得を手助けする」という観点で考えると、注ぎ込まれた水がコップの中に収まらなければ、「教えた」とは言えません。自分本位な教え下手は、自分が水を注ぐこと(一方的に説明すること)を、教えることと勘違いしているのですが、結局相手のコップから溢れ出てしまった(伝わっていない)なら、教えたとは言えないのです。 教育哲学者のジョン・デューイの有名な言葉に「誰も学べていないのに、“教えた”というのなら、誰も買っていないのに、“売った”というのと同じだ」というものがあります。相手に伝わるかが、説明においては大事だということです。

「¥ 1, 000, 000」にすると分かりやすい ここまで、相手の状態を把握して、「コップに入るだけの量」を教えることについて説明してきました。次に、入るだけの量を「小分けにして入れる」ことについて説明したいと思います。 教わる側に理解してもらうためには、情報を「分ける」ことが重要です。相手が食べやすい大きさにちぎってあげるというイメージでしょうか。フランスパンを丸ごと一本出されると食べづらいですが、小さく切ってあれば食べやすくなります。認知科学の分野では「チャンク(かたまり)」という言葉で表現されているのですが、例えば、 ¥ 1000000 → ¥ 1, 000, 000 0493655700 → 0493-65-5700 といったように、区切られているほうが情報を読み取りやすくなります。 ただ、こういった「分ける」といった配慮を、自分本位な教え下手はできません。教え下手は、自分が持っている情報を出せば、教えたことになると考えているので、一方的に情報を切れ目なく垂れ流します。聞いている側にしたら「いつまで話が続くんだろう……」と、話の終わりが見えず、集中して最後まで聞いていられません。 場合によっては、説明しながら話の着地点を考えるので、内容が「ぐちゃぐちゃ」になってしまい、論点を見失ってしまうこともあります。その結果、「何言ってるんだろう、この人」「話についていけない」「結局、何が言いたかったんだろう……」と聞き手が迷ってしまうような、まとまりのない説明になってしまいます。

言葉の遊びに聞こえるかもしれませんが「分けると分かる」のです。教わる相手にとって、初めて聞く話はなかなか頭に入っていきません。説明を聞いても、ひとつ分からないことがあるとつまずいてしまい、そのあとの説明の理解度が低くなり、混乱状態になりやすいのです。 一方、教え上手の説明は、内容ごとに分かれています。そういう初めて聞く情報も「 ~についてのポイントは、3つしかないからよく聞いてね。1つ目は ○ ○、2つ目は ○ ○、3つ目は ○ ○」と、小分けにして説明されれば、頭に入っていきやすくなるのです。教わる側も「ポイントは、全部で3つあるんだな。今1つ目、今2つ目、今3つ目について話しているんだな」と、聞きながら、教える側の説明を追っていきやすくなります。 説明する際は「コップに入るだけの量を、小分けにして入れる」ことを大事にしてみてください。「分ける」ことによって、相手に「分かって」もらえるのです。 また、この「小分け」にして説明する際、中身に「 Why(なぜ)」を入れることも意識してみてください。やってもらいたい何かを説明し、実際仕事として行動してもらう際に「 Why(なぜ)」やるのか、その理由や目的も説明してほしいのです。 これは、特に外国籍の方々に教えるときに必要になります。「何のために、その仕事をやるのか」「その方法を取る理由は何か」など、 Why(なぜ)が説明されれば、彼らの多くは納得して取り組んでくれます。逆に、目的や理由がはっきりしないと、その仕事に取り組む意義や、その方法を使う正当性が見いだせず、意欲が低下します。日本人に対しては「言わなくても分かるだろう」と暗黙の了解を期待してしまうことがあるのですが、外国籍の方の場合「言わないと分からない」のです。 それに対して、教え下手によくあるのが「理由なんてどうでもいいから、とにかくやれ」という説明です。これは、教える本人が「 Why(なぜ)」を分かっていないので、相手に説明できないということもあります。 例えば、営業電話をする前に商品のカタログを必ず送っている会社があるとします。コスト面から考えると、無差別にカタログを送るのはとてももったいない行為です。 新人に「なぜ、営業電話をしてから必要な会社にだけカタログを送らないのですか?」と聞かれたとき、「自分に教えてくれた先輩社員もそうやっていたから、自分も同じようにやっている」では話になりません。 どの行動にも理由があると考え、その理由を答えられるようにしておきましょう。 実際、資料を先に送っておくことで、電話越しに詳しい話をすることができ、興味を持ってもらえる可能性が上がります。また、運が良ければ資料に目を通してもらうことができ、「こんな会社があるんだ」と認知してもらえます。 短期的な目線で見れば、カタログを送り続けることは経費のムダのように思えますが、長期的な目線から見れば、商品を知ってもらうこと、そして買ってもらうことが最終目的になります。その目的を果たすための先行投資として考えれば、カタログを送ることも重要な仕事だと言えます。 説明する際に「 Why(なぜ)」を入れ込む努力をすることで、私たち自身が「そういえば、何でなんだろう?」と、改めて考える機会にもなりますので、「 Why(なぜ)」も伝えられるよう意識してみてください。上手な教え方は伝えて終わりじゃない 上手な説明の仕方、3つ目のポイントは「理解度の確認」です。 私たちが伝えた情報が、どれだけ相手のコップに入ったのかを確認します。会社で教えていて苦労することの一つが、この「相手の理解度」です。説明していても、相手の反応が薄いので「分かっているのか、分かっていないのかが分からない」という状況になったり、「ふんふん頷いて聞いているので、分かっているのかなと思ったら、ぜんぜん分かっていなかった」という状況になったりします。相手にどれだけ伝わったのか、説明直後に確認することが重要になってきます。 理解度の確認をする方法は、「言葉にしてもらう」「文字にしてもらう」「行動してもらう」の3つです。これは「現状のレベル把握」でも使ったものと同じになります。 説明したことが、どれだけ相手のコップに入ったのか、相手の理解度を確認する際の例を示します。 このように「言葉にしてもらう」「文字にしてもらう」「行動してもらう」という3つの方法を使って、相手のコップにどれだけ水が入ったのかを確認します。 仕事の理解度を確認するときに、一番やってはいけないのは、「分かった?」と訊くことです。このように訊かれると、「はい」と答えるか、「はあ」と答えるか、 2通りしかないのです。 教える側は、相手の理解度を知るために丁寧に質問しているつもりになっています。しかし、「分かった?」という質問は、 Yesか Noの二択で訊いてしまっているので、教わった側としては、 Noとは言いづらいのです。彼らも私たちが一生懸命説明しているのを分かっていますから、そんな教える側に対して「いいえ、全然分からなかったです」とは答えられません。 私たちが確認すべきは、 Yesか Noではなくて、「どのくらい伝わったのか」ということです。「 1から 10まで説明して、全部とは言わないけど、どのくらい伝わった? 1から 3ぐらいまでは伝わったかな?」ということを知るのが「理解度の確認」です。そこで有効なのが「言葉にしてもらう」「文字にしてもらう」「行動してもらう」という3つの方法なのです。 もう1つ、やってはいけないのは、「何か質問ない?」という訊き方です。こう訊かれた相手の多くは「特にないです。大丈夫です」といった回答を返してきます。初心者の場合、自分が何が分からないのかも分かっていないので、「質問しろ」と言われても質問ができません。ある程度、そのテーマに関して理解が進んでくると、自分が分かっていないことが分かってくるので、初めて質問ができるようになります。

それまでは手間がかかるかもしれませんが「言葉にしてもらう」「文字にしてもらう」「行動してもらう」という3つを通じて、相手の理解度を確認してみてください。「急がば回れ」です。大人相手の説明に必要な「吐く・吸う・吐く」「説明を聞く」という行為は、教わる側にしてみれば、情報を「吸う」ような行為で、スーッと息を吸い込むといった感じでしょうか。ただ、人間ですから、ずっと息を吸い続けることはできません。息をハーッと吐くことも必要になります。ハーッと吐いた後であれば、スーッと吸いやすくなりますよね。 つまり、息で喩えると、私たちの説明を「吸わせたい(聞かせたい)」ならば、まずは相手に「吐かせる(言わせる)」ことが必要なのです。「上手な説明の仕方」で考えれば、 ●コップの大きさをはかり(吐かせる) ●分けて分かりやすく説明し(吸わせる) ●理解度を確認する(吐かせる) ということです。 呼吸で表現すると「吐く・吸う・吐く」といった流れになっています。 一方的に説明して、ずっと吸わせているような状態は、特に大人相手に教える際には避けるべき行為です。大人は経験があり、自分なりの考えを持っているわけですから、それを尊重せず、こちらのやり方だけを一方的に「吸わせよう」とすると反発されるのです。大人ですから、それを表には出さないかもしれませんが、私たちの説明を聞きながら「そんなやり方より、自分が考えているやり方のほうがよい」「とりあえず、聞いているふりをしておこう」と聞き流されているかもしれません。 そんな大人に納得して、説明を受け入れてもらえるように、本人なりの考えを言わせます(吐かせる)。その上で、私たちの説明を聞かせて(吸わせて)、最後に理解度や本人のやり方を聞く(吐かせる)というのが、大人相手の説明には必要なのです。 後日、教えたことが理解できているか確認するために、再度相手のコップの大きさを確認し(吐かせる)、空いている容量に合わせて、新しいことを教えます(吸わせる)。これを繰り返すことで、教わる側に無理なく教えることができます。

余談ですが、ネイティブ・アメリカン「テワ族」の言葉「ハホー」は、「学習」を指し、その意味は「息を吸い込むこと」と言われています。説明する際は「吐く・吸う・吐く」を意識するだけで、伝わりやすさがぐっと変わるのでぜひ試してみてください。 なお、知識・技術の付与のうち、特に、技術に関しては、説明するだけではなく、「やってみせる(吸う)」「やらせてみる(吐く)」という教え方も必要になります。「やってみせる」際には「どこを見てほしいのかを事前に伝えてから、やってみせる」こと。「やらせる」際には、その様子をよく観察し、やらせた後で「フィードバック(良い点と改善点を伝える)」を行うことが重要となります。このあたりの詳細な教え方については、拙著『これだけはおさえておきたい仕事の教え方』(日本能率協会マネジメントセンター)もご参照ください。

 

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