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第5章 トリガーの種をまき、点をつなげる方法

第5章トリガーの種をまき、点をつなげる方法

種をまき、予想外を誘発するトリガーがなければ、セレンディピティは始まらない居心地のいい場所から一歩踏み出す本やネット、新聞、映画の情報もトリガーになる「人との出会い」の力学者は人脈づくりの起点になる自分をさらけ出すことで道が開けるイベントのホストに自己紹介をしよう空間デザインもトリガーを増やすテクノロジーは「出会い」のゲームチェンジャートリガーをきっかけに、点と点をつなげる想像もしなかった機会を手に入れる「蓄積した知識」「初心者の心」はどちらも有効芸術に学ぶ、点と点をつなぐ3つの戦略データマイニング・バカにならず「現実的な哲学者」を目指すユーモアのセンスとセレンディピティまとめ

第5章トリガーの種をまき、点をつなげる方法打たなかったシュートは100%入らない──元アイスホッケー選手/コーチウェイン・グレツキー種をまき、予想外を誘発するニューヨークで教育関係の仕事に就いていたミケーレ・カントスは、友人・知人に送った近況報告のメールによって、プログラミング・ブートキャンプのディレクターの道が拓けるとは夢にも思っていなかった。

それまで4年間、低所得層出身の有望な学生リーダーを支援する慈善団体で働いていたが、数カ月仕事を休んで故郷のエクアドルに帰り、次のステップを考えることにした。

近況報告のメールは友人や知り合いなど100人ほどに送った。

そこには仕事を辞め、半年間旅行することを正直に書いた。

先の見えない状況だった。

「半年後には復帰します。

今は次のステップについて考えています」といった。

近況報告はその後も2回送り、旅行のエピソードや将来についての考えの変化を綴った。

自分の状況を誠実に伝えたかった。

ニューヨークに戻った後に送信した最後のメールでは、今ニューヨークにいることや、これまでの経歴や理想的な次のステップについて具体的に書いた。

複数の友人が「うまくいくといいね」という励ましのメールを送ってきたなかで、具体的提案を返してくれた知人が1人いた。

最近あるテクノロジー企業の面接を受けたという。

結局別の企業のオファーを受けることにしたのだが、そのテクノロジー企業にいたく気に入られ、この仕事に適した人材がいたら紹介してほしいと頼まれていた。

ミケーレにぴったりだと思った知人は、それまでこのテクノロジー企業での仕事について調べたことを教えてくれた。

知人からの紹介もあり、またミケーレの熱意も相手に伝わり、結局そのテクノロジー企業から仕事をオファーされた。

それまでテクノロジー業界で働いた経験がなかったミケーレにとって、予想もしない仕事だった。

イメージしていた仕事とはまったく違うので、自分なら応募しようとさえ思わなかっただろうと振り返る。

「知人が私の可能性に気づいて、私の人生を変えてくれた」。

新しい仕事によって収入が増えただけでなく、人生の質も高まった。

近況報告として送った4本のメールは、経済的にも人生においても途方もないリターンを生み出した。

このような重要な経験やキャリアチェンジをもたらしたのは、セレンディピティのパワーだとミケーレは思っている。

そして今では「いつでもどこでも」セレンディピティを経験するようになったという。

ミケーレはセレンディピティ・トリガーの種をまいたのだ。

セレンディピティが起こるようなきっかけをつくった。

主体的に、率直に発信し、少し弱さも見せた。

自らをセレンディピティの起こりやすい状況に置いたのだ。

ミケーレのケースでは、他人が点と点をつないでくれた。

これはセレンディピティは往々にして誰かとともに生み出すものであり、ときには他者の善意から生まれるという事実を示している。

自分では気づいていない機会や才能を他の人が見つけてくれることもある。

ときには私たちとは違う分野の知識を活かして、こちらのレーダーには映っていない点と点をつなぎ、さらに遠くのオポチュニティ・スペースを開いてくれることもある。

だが何に興味を持っているのか、何を探しているのかという潜在的トリガーを自ら発信しなければ、それが周囲に伝わるはずがない。

たくさんのセレンディピティを経験する人がやっているのは、突き詰めれば潜在的トリガーの種をまくことだ。

点と点をつなぐことで、トリガーが好ましい結果につながる。

どちらも重要で、順番に起こることもあれば、同時に起こることもある。

トリガーがなければ、セレンディピティは始まらない釣り針は常に下ろしておこう。

魚はまったく予想していないところにいるものだ──オウィディウスロンドンを拠点に複数の企業を立ち上げ、「スーパーコネクター(人脈づくりの達人)」でもあるオリ・バレットは、新しい人と出会うと共通点を見つけるためにいくつもの種をまく。

「何の仕事をしているのか」と聞かれれば、こんな具合に答える。

「人と人を結びつけるのが好きだ。

教育分野の会社を立ち上げた。

最近は哲学に興味が出てきたけど、本当に好きなのはピアノを弾くことだ」。

この答えには、少なくとも4つの潜在的なセレンディピティ・トリガーが含まれている。

好きなこと(人と人とをつなげる)、仕事の説明(教育事業を立ち上げた)、関心があること(哲学)、そして趣味(ピアノ演奏)だ。

「起業家だ」とだけ答えていたら、相手が点と点をつなぐ余地はかなり限られてしまう。

4つ、5つのセレンディピティ・トリガーの種をまくことで、「すごい偶然だな!私も最近ピアノを買おうと思っているのだけど、おススメはある?」といった反応が返ってくる可能性は高まる。

相手が自分の人生とかかわりのある種に気づき、選択する余地を与えている。

それによって大小さまざまなセレンディピティが起こりやすくなる。

セレンディピティ・トリガーがなければ、セレンディピティは始まらない。

どうすれば上手にトリガーの種をまけるだろう。

居心地のいい場所から一歩踏み出すセレンディピティを誘発するために、まずは高校時代の私の天敵、化学に目を向けよう。

当時は化学への関心は恐ろしく低かったが、以来ずいぶんと高まった。

化学反応には人間関係との共通点が多いことに気づいたのがきっかけだ。

実験室でのセレンディピティを増やすことは可能であるとするプリンストン大学のディヴィッド・マクミラン化学教授らによる研究は、主要な科学誌『サイエンス』に掲載された当初、大きな論争をまきおこした★1。

化学の一般的な研究方法は、化学反応を起こしそうな分子を抽出し、実際に反応を引き起こす方法を見つけるというものだ。

それに対してマクミランの研究チームは、まったく反応が起こりそうもない分子を抽出し、「偶発的反応性」を探った。

互いに反応することが確認されていない物質同士を選び、まだ発見されていなかった反応を促すことで、価値ある新薬の開発につなげようとしたのだ。

研究チームの大前提は、セレンディピティは確率で説明でき、統計学によって管理可能だという考えだ。

このため実験室で発生しうる化学反応の数を増やせば、好ましい反応が起こる可能性は必然的に高まると考えた。

そして実際、そのとおりの結果が出た★2。

発想としては、宝くじを大量に購入することで当選確率を高める、あるいは私のように大量の大学に出願することでどこかに合格する確率を高めるのと似ている(私の母国ドイツを含めて、応募できる大学の数に上限がない国もある)。

私は大学に入れたのは、願書に書いた何らかの要素が選考担当者の誰かの心に響いたからだと信じている。

それが何だったのかは知る由もない。

だが40を超える大学に出願すれば、たとえ学業成績が(とんでもなく)お粗末でも、どこかの誰かが願書に興味を持ってくれる確率は高まる。

もしかしたら願書を読んだ人に、私と同じような問題児の息子がいたのかもしれない。

そうだとすれば偶然だが、膨大な数の出願をすることで、そんな偶然の起こる確率を高めたと言える。

化学の例と同じように、そして人生のさまざまな場面でそうであるように、数で勝負が

決まることもある。

たくさんシュートを打てば、偶然でもゴールに入ったり、的に当たったりする数は増える。

予想外のつながりは、予想外のところから生まれることが多い。

ここで誕生日のパラドクスを思い出してほしい。

予想外のつながりの可能性がたくさんあると、一見起こりそうもないことが実はとても起こりやすくなったりする。

すべての可能性を足し合わせると、予想外は常に起きていることに気づく。

しっかり目を開けて、注意を払ってさえいればいい。

そしてそんな偶然の出会いがたった一度あるだけで、人生が一気に好転することも珍しくない。

「私は今の状態に満足しているのだから、変える必要などない」と思うかもしれない。

だがおもしろいことに、そういうことを言う人に限って、セレンディピティが起こり始めると誰よりも幸せそうに見える(私の周囲にもそういう人が何人もいた)。

セレンディピティは必ずしも人生を変えるためにあるのではない。

より幸せに、より有意義に、そしてより成功にあふれたものにすることのほうが多い。

とりあえず今頭に入れておいてほしいのは、未知の状況に進んで足を踏み入れる必要がある、ということだ。

誰もが勝手知ったる居心地のいい場所でチャンスを探そうとするが、セレンディピティは思いがけない外部要因との出会いから生まれることが多い。

それは新たな情報であったり、リソースであったり、人やアイデアであったりと、さまざまな形で現れる。

本やネット、新聞、映画の情報もトリガーになる情報は人生における機会を左右するカギだ。

ミケーレ・カントスは、まったく予想していなかったような自分にぴったりの仕事に関する情報を受け取った。

自らその情報を探しにいったというより(存在することすら知らない情報など探しにいけない)、情報に対してオープンな姿勢をとることでもたらされた。

情報といっても、ごくささやかなものもある。

スロベニアの哲学者、スラヴォイ・ジジェクの有名な言葉に「自分が望んでいると思っていることが、必ずしも本当の望みではないこともある」というのがある。

ジジェクは妻と愛人のいる男の例を挙げている。

男は愛人と一緒になれるように、妻が消えてしまえばいいのに、と思っている。

だが妻がいきなり姿を消してしまうと、自分がもはや愛人と一緒にいたいとは思っていないことに気づく。

それは愛人との関係は特定の状況ではうまくいっていたものの、その状況が変化したことで魅力もなくなってしまったためだ。

愛人が「遠くにありて思うもの」ではなくなってしまったのだ★3。

人生ではよくあることで、事前に予測するのは難しい。

第4章でも見たように、何かと(偶然)出会って「これだ!」と感じ、自分が本当に望んでいたものに初めて気づくというのは珍しいことではない。

「静的な」情報源、たとえば新聞、インターネット、すばらしい本を読むことでこうした経験をする人もいる。

クーユン・ルアンは何年も前、お茶を片手に雑誌をめくっていたとき、クラウドコンピューティングに関する記事を見つけた。

ちょうど博士号のための研究テーマを探していたので興味を惹かれた。

潜在的なセレンディピティ・トリガーに反応し、興味の赴くままに研究を始めたルアンは今、優れたコンピュータ科学者であり、クラウド・フォレンジックとセキュリティの専門家となっている★4。

どのような手段にせよ、セレンディピティを経験するうえでは新たな情報に触れるのが重要だ*。

そこには映画も含まれる。

グアテマラでジャーナリストとして働きながら、アクティビスト、政治経済学者、起業家としても活動していたビビ・ラルス・ゴンザレスは2016年、ロンドンで会議に参加した。

そこでのある映画との出会いによって、人生が変わってしまうとは知る由もなかった。

トムソン・ロイターズ・ファウンデーション・トラストが開催した今日の奴隷制度に関する会議で、ビビは映画『Sold』のプレミアに出席した。

ネパールからインドの売春宿に売られた少女の物語だ。

映画はビビに強烈な印象を残した。

上映が終わると、監督に会いにいき、ぜひグアテマラで上映したい、もしかしたら自分が勤務している新聞で特集記事が書けるかもしれないと訴えた。

監督は同意してくれたが、映画にスペイン語の字幕をつける必要があり、その作業に2年かかった。

2018年、ようやく字幕が完成したという連絡が届いた。

すでにビビはジャーナリストを辞めていたが、当時の活動の1つが世界の現状を変えたいと願う若者たちの国際組織「グローバルシェイパーズ(世界で約8000人の若きリーダーが加盟)」グアテマラシティ拠点のリーダーだった。

そこでグローバルシェイパーズのメンバーとともに人身売買に関する地域プロジェクトを立ち上げることにした。

グアテマラでは長年タブーとされてきたトピックだ。

これを女性の権利と女の子の権利の両方にかかわる問題ととらえ、映画だけでなく監督もグアテマラに招き、地域の映画監督の指導をしてもらうという企画を考えた。

日程が合わず、監督自身はグアテマラに来られなかった。

ただカリフォルニア州サクラメントでのイベントに出席することになったビビは、その後にサンフランシスコの監督を訪ねても良いかと打診した。

監督が大丈夫だと言ったので、グローバルシェイパーズの仲間で、地元の映画監督であったラマザン・ナナイェフとメガン・スティーブンソン・クラウスとともに監督を訪ね、自宅でインタビューをした。

その後ビビはグアテマラで映画と監督のインタビューを上映し、プロジェクトを積極的に展開し始めた。

長年培ってきた人間関係が、ようやく花開いたのである。

「アンシェイプ・スレイバリー(奴隷制度を打破する)」と命名されたこのプロジェクトは、グローバル・シェイパーズの世界的なプロジェクトとなり、ビビはその過程で多くのすばらしい友人を得た。

映画とその監督との出会いはたしかにセレンディピティ・トリガーだったが、重要なのはビビが点と点をどこまでもつなぎ続けたことだ。

2019年にはトムソン・ロイターズの会議に、今度は「チェンジメイカー」として出席した。

3年前に同じ会議で初めて知った問題のエキスパートとなり、たしかなインパクトを残した証である。

セレンディピティ・トリガーは本や新聞、映画などから得られる情報であることが多い。

とはいえ突き詰めれば、セレンディピティ・トリガーの種をまくのも、そして点と点を結びつけるのも(たいていは他の)人である。

*情報で大切なのは情報そのものだけではなく、私たちがそこから何を読み取るかであり、それは置かれた状況によって変わってくる。

たとえばドイツ人は文章あるいは会話の事実的要素だけに集中する傾向があり、状況に応じて変化するニュアンスを見逃すことも多い。

一方、アジア諸国などハイコンテクスト文化においては、メッセージはより曖昧な傾向があり、行間を読むことが非常に重要になる。

ローコンテクスト文化では「ドアを閉めて」というところを、ハイコンテクスト文化では「ちょっと寒くなってきたな」「猫が外に出てしまうとまずいから」といった言い方をすることもある(Hall,1976)。

「人との出会い」の力1960年代は冷戦時代で、アメリカ、中国、ソ連はほぼ完全に断絶していた。

そんななかポーランドのリゾート地ソポトで開かれた「パグウォッシュ会議」に出席したアメリカの国務長官ヘンリー・キッシンジャーが、東側ブロックの政府高官と出会い、歴史の流れを変えた。

アメリカ史上最も有能な(そして最も評価の分かれる)国務長官であったキッシンジャーは、パグウォッシュ会議での思いがけない出会いをきっかけに、1973年にはアメリカ政府と毛沢東政権との外交関係樹立にこぎつけた。

それは現職のアメリカ大統領による初の中国訪問につながり、地政学的状況を一変させた。

それを可能にしたのは、キッシンジャーの積極的に人とつながろうとする姿勢だ★5。

このような偶然の出会いはもっとささやかなレベルでも起きており、歴史までは変えなくても、少なくとも私たちの人生には大きな変化をもたらす。

キッシンジャーのセレンディピティから半世紀以上が過ぎた2014年、アミナ・アイツィ・セルミは人生の大きな岐路に立っていた。

医師としてキャリアを積み、輝かしい経歴を持ってはいたものの、アミナは目標を見失い、途方に暮れていた。

周囲からはこのまま安定したキャリアを積んでいくべきだと言われたが、安全な道は夢のない退屈なものに思えた。

10代の頃に抱いていた世界の健康問題に貢献したいという夢は遠いものとなり、ほとんど忘れかけていた。

そんななか、ある朝ロンドンでエレベーターに乗り込み、居合わせた人物に挨拶をした。

天気の話題は、思いがけない方向へ発展する。

「あなたは何をしているの?」と女性はアミナに尋ねた。

アミナは自分の仕事を説明したうえで、でも本当は健康問題について何か有意義な貢献をしたいのだ、と言った。

女性はアミナをじっと見て、こう言った。

「私に会いにきて。

私の仕事についてゆっくり説明するから」。

実はこの女性は国連機関の専門家グループで副代表を務めており、科学的知識と専門能力(さらには優れた人格)を持つ人材を求めていた。

こうしてアミナは国連の「2015年持続可能な開発目標」の1つである、公衆衛生と災害リスクの削減というテーマを担当することになり、国連の報告書を

はじめ、さまざまな刊行物の執筆陣に加わった。

こうした経歴によって、ロンドンの国際問題シンクタンク、チャタムハウスでシニア・クリニカル・レクチャラー兼コンサルタントという立場に就くことができた。

今では国連や世界保健機関(WHO)の委員会から助言を求められるようになった。

1年間悩み抜き、もうダメかと思っていたところで、20年越しの夢がかなったのだ。

エレベーターでの偶然の会話によって、アミナの人生が変わった。

アミナ・アイツィ・セルミとヘンリー・キッシンジャーには人生におけるセレンディピティ・トリガーを活かす力があり、自ら点と点をつなげていった。

どうすれば私たちも自らの人生において、同じようなことができるだろうか。

どこから始めれば良いのだろう。

学者は人脈づくりの起点になる学生や若い社会人から「どうすれば有意義な人脈ができますか?知り合いがあまりいなくて」という質問をよく受ける。

起業家でコロンビア大学の非常勤助教授でもあるマッタン・グリフェルは「数千個のささやかなセレンディピティ爆弾を仕かけよう」と説く。

たとえばダメ元で憧れの人にメールを送ってみる。

実は返信が来ることは驚くほど多い。

メールで相手がかかわっていたプロジェクトに触れると、返信が来る確率はさらに高くなる。

ニコラ・グレコは、ティム・バーナーズ・リーが主催するオープンソース・プロジェクトのために大量のコードを書き始めた。

ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の発明者として知られるリーに目を留めてもらうためだ。

それからこんなメールを送った。

「こんにちは。

〇〇プロジェクトに参加させていただきました。

お会いできたら嬉しいです」。

結局対面は実現し、リーはニコラの博士論文のアドバイザーを引き受けた。

それはニコラの研究やその後の活動の大きな後押しとなった。

私たちには知る由もなくても、相手にはこちらに関心を持ち、連絡しようと思う理由があることは意外と多い。

たとえばメールに書いた研究分野に、相手の研究者もちょうど関心を持ち始めたところかもしれない。

相手についてどれだけ調べても、すべてを事前に知ることはできない。

だから尊敬する相手にオポチュニティ・スペースを示すことで、セレンディピティ・トリガーを探してもらえるかもしれない。

たとえすぐに何かにつながらなくても、メールを送ったことで相手のレーダーに映ったのはたしかだ(もちろん相手がメールを読んでいればの話だが)。

尊敬する人にメールを書いて、自分が何に興味を持っているのか、その理由は何かを伝えてみよう。

相手自身に興味がなくても、それに興味を持っている知り合いはいるだろう。

多くの分野で人脈づくりの起点になり得るのが学者だ。

メールアドレスは大学のホームページに記載されていることが多く、特定の業界において比較的高い地位にいる知り合いが多く、人を紹介するのにも比較的積極的だ。

私の知り合いは、目当ての相手にツイートを送る、そのアシスタントにメッセージやインスタグラムで連絡する、あるいはリンクトインのつながりのない相手にメッセージを送信できるインメイル(InMail)機能を使って連絡するといった方法で成功した。

たとえば私のワークショップに出席したアルビン・オウス・フォードウォーというロンドンの若い学生は、セレンディピティ爆弾を仕かけてみようと思い立った。

温かい心と大きな夢を持つアルビンは、まもなくインターンとして勤務する予定の会社のCEOと共同社長に、それぞれリンクトインからメッセージを送ることにした。

そして2人ともアルビンと会うことに同意してくれた。

アルビンの送ったメッセージはシンプルなものだった。

「こんにちは、〇〇さん。

春から御社でインターンとして働く者です。

勤務する1週間の間にぜひお会いするかランチをご一緒するかして、御社でのご経験や成功した理由についてうかがいたいです」。

すぐに返信があったわけではない。

ただアルビンは社内でもう少し立場が低く、自分が運営していた社会事業をサポートしてくれそうな女性にも連絡を取っていた(2つめのセレンディピティ爆弾だ)。

アルビンは知らなかったが、共同社長はこの女性のメンターだったので、女性の口添えで社長はアルビンに興味を持った。

何度かコーヒーを一緒に飲むうちに「社長は僕の社会事業を心から応援し、僕が大学を卒業したらサポートしてくれるようになった」。

見知らぬ相手に思い切ってメッセージを送るだけでうまくいくこともあるが、その相手にさりげなくあなたを売り込んでくれる相手にも連絡を取れば、なお効果的だ。

リンクトインかフェイスブックに、あなたを相手に引き合わせてくれる人物はいないだろうか。

重要なのは、あなたがどこにいようと誰であろうと、関心のある相手と連絡を取ってみれば思いがけない効果があるかもしれないということだ。

もちろん自分自身をさらけ出すのは勇気がいることだ。

ロンドンの起業家で慈善事業家のアルビー・シェールは、父が心臓病で亡くなり落ち込んでいた。

ふつうならセラピストに相談するところだが、出席したパーティで初対面の相手にそのつらさについて話してみた。

偶然にも、その相手もちょうど同じようにつらい時期を経験していた。

そこで2人はメンタルヘルスのキャンペーンのアイデアを考えた。

ポッドキャストを使って死や悲しみといった難しいテーマについて話し合うコミュニティを立ち上げる、大切な人を亡くしたばかりであることを示すブレスレットのようなシンボルをつくるといったことだ。

こうしたアイデアを話し合うことが、2人にとって癒しになったという。

もちろん、ここで重要なのはコミュニケーションの方法だ。

たとえばアルビーは自己憐憫の情に溺れたり、余計なことまで打ち明けたりはしなかった。

自分の悲しみを手短かつ的確に伝え、そこから何かを学ぼうとする姿勢を明確にすることで、相手が共感しやすいようにした。

こうして弱さはセレンディピティを呼び込むトリガーとなった★6。

自分をさらけ出すことで道が開けるどうすれば潜在的なセレンディピティ・トリガーを増やし、自分や周囲が点と点をつなげるような状況を生み出せるだろうか。

ミケーレのエピソードを思い出してほしい。

メール、ツイッター、インスタグラムなどの手段を使ってニュースレター、ブログ、近況報告を出し、自分の関心のあるテーマをきちんと伝えれば(自己陶酔的にならないかぎり)思いがけないところからセレンディピティが起こる可能性がある。

自分をさらけ出してみると、魔法が起こることもある。

シンガポールの社会事業家ケン・チュアが「(ディーズ)アビリティーズ」を創業するきっかけとなったのは、グラハム・プリンの著書『デザインと障害の融合(DesignMeetsDisability未邦訳)』を読んだことだった。

そこでデザイン、テクノロジー、障害の分野に精通した専門家を探したが、ほとんどいなかった。

グラハム本人にいきなりメールを送ってみることもずっと考えてはいたが、なかなか踏み切れなかった。

それでもソーシャルメディアに自分の会社の取り組みや理念について、継続的に投稿し続けた。

その1つが、あるインタラクション・デザイナーの目に留まった。

デザイン会社IDEOのシンガポール拠点で働いていたが、その前はダンディー大学でグラハムの薫陶を受けていた。

IDEOでのデザインの仕事は魅力的だったが、グラハムの下で障害を意識しながらデザインを研究した日々が忘れられなかった。

そこでソーシャルメディアでケンの活動を知り、連絡してきたのだ。

ケンはそのデザイナーと会ったとき、グラハムの弟子だとは知らなかった。

だがその後グラハムがダンディー大学のプロモーションでシンガポールに来ることになったとき、このデザイナーがケンに教えてくれた。

そこからいくつもの幸運が重なり、2時間の予定だったグラハムとのディナーは何時間も続き、仕事や人生を語り合った。

今では2人は友人で、協力できる方法を探っている。

どうすればプライベートで、あるいは仕事のうえで、セレンディピティを誘発するような話ができるだろうか。

私は自分の関心のある分野や、自分のライフストーリーに関するおもしろいネタを紙1枚にまとめておくのが役に立つと感じている。

誰にでも伝えたい物語はある。

ときにはそんな話をする自分を噓っぽいと感じることもあるが、共感してくれる人はどこかに必ずいる。

「セルフストーリー」を披露する機会はいくらでもある。

そのショートバージョンは「何の仕事をしているんですか」と聞かれたときの、新しい返答になるかもしれない。

私たちは世の中に自分をアピールする前に、まずは何らかの分野の専門家にならなければと思いがちだ。

でもあなたには子供を育てた経験がないだろうか。

今の仕事で何年も経験を積んできたのではないか。

あなたはすでに専門家だ。

パネルディスカッションに登壇するパネリストの多くもたいていは思いつきで話をしており、根拠といえば自分の直感だけだったりする。

たとえば大学教授は特定のニッチ分野にとことん詳しいだけかもしれないが、外部からは分野全体の専門家と見られることが多い。

直接の研究分野以外について聞かれて、その場で答えをひねり出すことも多い。

イベントのホストに自己紹介をしよう当然ながら、おもしろい人がたくさん集まるところに行けば、セレンディピティスコア(後で詳しく見ていく)は高まる。

大学やロイヤル・ソサエティ・オブ・アーツのような団体が主催する公開講座にはおもしろい人が集まる傾向があり、しかもイベントの多くが無料で、誰でも参加できる。

講演者は驚くほど積極的に参加者とかかわろうとすることが多い。

参加者が自分の取り組んでいるプロジェクトに心から関心を持っていれば、なおさらだ。

意外に思われるかもしれないが、立場の高い人ほど関心を持った相手と積極的につながろうとする。

マイク・チャーニー(仮名)は、ある企業のCEOの講演を聴きにいき、その後話しかけた。

すると、ちょうどCEOの運営する会社が小売店をいくつか閉めるところだったため、マイクの慈善団体が運営する10店ほどの新店に設備を寄付してくれたという。

CEOがマイクに興味を持ったのは、講演の後に良い質問をし、自分の物語を伝えたからだ。

だからCEOが店舗を閉鎖し、設備をどうしようか考えたとき、マイクの団体に役立つかもしれないと思ったのだ。

マイクにもためらいはあった。

すべてを手にしているような相手に、自分ごときが与えられるものなどあるはずがない、という思いだ。

だがこのような社会的に高い地位にいる人たちも、特別重要な役割ではなくても、誰かの人生の役に立つことに喜びを感じるかもしれない。

それこそ私たちが彼らに与えられるものだ。

結局のところ人はもらうより与えることのほうに幸せを感じる。

誰かに私たちの人生に貢献する機会を与えることは、それが双方の利益と共感に結びついている場合はどちらにとっても強力なモチベーターとなる★7。

セレンディピティをたくさん経験する人に共通するのは、ディナー、カンファレンス、ビジネス会議など、何かイベントに出ると必ずホスト(主催者)に自己紹介にいくことだ。

イベントの主役として招かれたわけではないが、そこでカギを握る重要な人物が誰であり、うまくいけば他の出席者に紹介したり、自分を話題にしてくれたりすることを知っているのだ。

これはコミュニティスペースやコワーキングスペース、地元のイベントなどでは特にそうだ。

おもしろそうなイベントに参加したら、まずこういう行動から始めてみるといい。

同じ興味を持つ人のコミュニティも、人脈づくりに適している★8。

私が格闘技「クラヴマガ」の教室(そこでの一番重要なルールは「ルールはない」だ)に入ったばかりの頃、金融市場のスペシャリストが予測モデルについて話しているのが聞こえてきた。

そこからセレンディピティが起き、予測モデルはレジリエンス(立ち直る力)を高めることよりミスを減らすことに集中しているのではないかという議論に発展した。

それは本書のテーマの1つになっている。

「弱いつながり」(あまりよく知らない人同士)に関する研究では、(予想外の)機会はふだんとは違う環境に身を置いたときに生じることが確認されている★9。

ただやみくもに多くの人と交流しても、継続的に連絡を取り合うようになるのは難しい。

私が見つけた有効な方法の1つは、相手に役立ちそうな人を紹介すると申し出ることだ。

それは名刺をもらう良い口実になるうえに、たいていの人は自分を他者と引き合わせてくれた人を覚えていて、お返しをしてくれるという恩恵もある。

人と人を引き合わせるコツとはどのようなものだろう。

私の仕事仲間のファビアン・フォートミュラーのような「スーパーコネクター」は人を引き合わせるとき、互いの肩書だけではなく、共通の関心があることを伝える(「この人もあなたの選んだテーマに関心があるんですよ」と★10)。

そこから会話が生まれ、立場の違いが目立たなくなる。

仕事上の立場ではなく、自分が何者なのか、本当は何に興味を持っているかをベースにすると、人間関係の質が変わってくる。

それによってセレンディピティは起こりやすくなる★11。

空間デザインもトリガーを増やす物理的環境がセレンディピティの起こりやすさに大きな影響を与えていることが、多くの研究で示されている★12。

私たちには自分のためだけでなく、組織、コミュニティ、さらには家族のためにセレンディピティを質量ともに増やすことができるのだ。

ネバダ州北部のブラックロックシティで開催される、世界最大級のコミュニティイベント「バーニングマン」では、公共スペースの一部に芸術品を置くようにしたところ、セレンディピティが大幅に増えた。

参加者の宿泊するテントはいくつかの区画に分かれており、A会場からB会場へと移動するのに「プラザ」と呼ばれる公共スペースを頻繁に通らなければならない。

バーニングマンの主催者は、新しいアイデアやイノベーションが生まれるには、多様な人とのつながりが必要なことに気づいた。

公共スペースを狭くし、その中央に芸術品を置くことで、参加者が(スペースの制約上)これまでよりも頻繁に顔を合わせるようになっただけでなく、芸術品の前で足を止めて見知らぬ相手とお互いの感想を話し合うなど、会話を始めるきっかけをつくったのだ。

この結果、セレンディピティにつながる会話がたくさん生まれるようになった(バーニングマンには返報性と「ギフティング(与える)」文化があることも、この試みを後押しした)。

人々が顔を合わせるきっかけとなる芸術品を置く、席の配置に気を配る、イベントの主催者が参加者と挨拶しながら初対面の者同士を引き合わせるなど、さまざまな方法で物理的環境を整えることで、セレンディピティ・トリガーの量と質、そして個人や組織のセレンディピティ係数を大幅に増やすことができる。

セレンディピティを誘発する空間デザインには、さまざまな形やパターンが考えられる。

たとえば協業を促すコワーキングスペースのなかには、一般的な長テーブルを置く代わりに、2~3席ごとにテーブルを「折る」ところもある。

ユーザーは誰かの隣に座りつつ、集中したいときには背を向けることも可能になる。

これは「開放」と「集中」のロジックを融合させたケースだ。

異なる会社から訪れたチームがこのようなテーブルに座り、思いがけない出会いをすることも珍しくない。

私もかつてロンドンのこのようなスペースで仕事をしていたときには、会社を立ち上げようとしているオペラ歌手など、予想外の相手との会話から新たなアイデアをたくさんもらった。

史上最も成功した映画会社の1つであるピクサー(映画1本当たりの平均興行収入は5億5000万ドルを超える)も、同じようなアプローチを取り入れた。

スティーブ・ジョブズはピクサーのオーナーだったとき、建築家に「思いがけない出会いを最大限増やすような」建物を設計してほしい、と頼んだ★13。

ピクサーでは芸術家やデザイナーがコンピュータ・サイエンティストと協力しながら仕事をする。

2つのまったく異なるカルチャーが融合するわけだ。

ピクサー再建の

立役者とされるジョブズは、リベラルアーツを重んじる姿勢を本社デザインに持ち込んだ。

カリフォルニア州オークランドの北部エメリービルの閉鎖された工場を買収した当初は、3棟の建物を造り、ピクサー幹部、アニメーター、コンピュータ・サイエンティストがそれぞれ別棟で仕事をする計画になっていた。

その案を潰したのがジョブズだ。

その代わりに中心にアトリウム(吹き抜け)のある巨大な建物を1棟だけ造るよう要求した。

会社の中心には社員同士の交流が不可欠だとジョブズは考えていた。

では2つのまったく異なる文化を持つ社員たちを、どうやって本社の中心に足を運ぶように仕向けたのか。

ジョブズはまずメールボックスをアトリウムに移した。

それから会議室を社屋の中心に集めた。

さらにカフェテリアもそこに持ってきた。

もちろん売店やコーヒーショップも。

本社内のトイレもアトリウムに集約しようとしたほどだ(この案は受け入れられず、トイレを数カ所に分散させることをジョブズも渋々受け入れた)。

このような要因が相まって、社員はアトリウムに頻繁に足を運ぶようになり、結果として互いに顔を合わせるようになった。

ピクサー・ユニバーシティの紋章には何と刻まれているか、ご存じだろうか。

「AlienusNonDiutius」、ラテン語で「Alonenolonger(もはや孤独ではない)」だ★14。

空間だけでなく、セレンディピティ・トリガーを質量ともに増やすようなシンプルなプロセスをデザインすることもできる。

たとえば「ランチくじ引き」は大規模な組織内で、業務分野を超えた社員同士の交流を後押しする。

またイノベーションを促進するためのイギリスの団体、NESTAでは、「ランダム・コーヒー・トライアル(RCT)」を通じて、社員に新たな同僚と知り合う機会を与えている。

定期的に(たとえば月1回など)それまで会ったことのない相手とペアになり、コーヒーを飲むのだ。

別のチーム、あるいは通常ならばかかわることのなさそうな立場の人が相手になるかもしれない。

ミーティングの方法は自由で、ペアはランダムに決定される。

直接会うことが難しい場合は、ビデオ会議でも構わない。

RCTは社内のサイロ(部署を超えた情報共有をしない傾向)を打破し、協業を促す傾向がある。

また思いがけない出会いも多い。

NESTAに続き、イギリスの国民健康保険(NHS)、国連開発計画、グーグル、赤十字もRCTを取り入れた。

グーグルでは自分がRCTの対象になりたい日を選ぶこともできる★15。

テクノロジーは「出会い」のゲームチェンジャーテクノロジーはセレンディピティを強力に加速する要因になり得る。

毎年リスボンで開催される世界最大のテクノロジー会議である「ウェブサミット」は、「セレンディピティをエンジニアリングする」ためにデータサイエンティストを採用している。

具体的には、誰を会議に呼ぶか、サミットで誰と誰を結びつけるか、そして誰がフォローアップするかをプログラミングするのだ★16。

今では5万人近い参加者を集めるようになったこのカンファレンスの創始者はパディ・コスグレイブだ。

パディにはカンファレンス業界での経験はなく、リソースも乏しく、また当時はやや辺境と思われていたダブリンに住んでいた。

20代前半のそんな若者に、なぜこんなことができたのか。

パディはウェブサミットがここまで成長できた大きな要因は、セレンディピティとデータドリブンなアプローチを組み合わせたことだと考えている。

名札のフォント、それぞれ幅の違う展示ブース、看板や列の並び方など、一見ささいなところまで緻密に計算しつくされている。

固有ベクトル中心性(ネットワーク上の特定の人物の影響度)のような、複雑なシステム理論やネットワーク理論を活用し、カンファレンスの運営に科学の知見を応用したのだ。

パディのチームはネットワークデータを分析し、推奨内容を参加者に応じてパーソナライズしている。

グラフ理論を使って参加者とマッチしそうな人を推奨するなど、ウェブサミットはソーシャルメディアがオンラインでしていることをオフラインでしているとも言える。

パディは5万人の参加者同士の創造的衝突を促すウェブサミットを「加速的加速装置」と呼ぶ。

イベントの最中にパブに繰り出すことに、たいした意味はないと思うかもしれないが、実は大ありだ。

ウェブサミットではコンピュータを使い、共通点が見つかりやすそうな参加者同士を同じグループにしている。

席の配置も同じように、おもしろい会話が生まれそうな参加者同士を近くに固めている。

オフラインとオンラインの融合は、参加者が会場に到着する前から起きている。

参加者とミーティングを設定することもできるし、自分の興味に合致していて創造的衝突が起こりそうな分野の仕切りを任されることもある。

サミット会場の天井にはカメラを取りつけ、コンピュータビジョンを使って会場の混雑状況を見守り、誰かがポツンと取り残されていたら主催者がアクションを起こせるようになっている。

また主催者が参加してほしいと思っている人がまだ参加登録していない場合は、フェイスブックのニュースフィードに、その人が尊敬する知り合いが登録したという情報がたくさん流れるようにする。

サミットに参加しなかったら損だということを、(ときには嫌というほど)わからせるためだ(もちろん「チャンスを逃すことの喜び(JOMO)」のほうが「チャンスを逃すことへの不安(FOMO)」を上回ることもあるが)。

個人レベルで見れば、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターのようなプラットフォーム(とりわけそのタグづけ機能)を使えば、少し交友関係を広げるだけでセレンディピティな出会いを質量ともに飛躍的に増やすことができるようになった。

テクノロジーは私たちが社会資本の自然な境界を広げるのを後押ししてくれる。

ほんの数十年前には、連絡を取り合える人の数は限られていたが、今ではかつてないほど大勢の人と弱いつながりを維持することができる★17。

うまく活用すれば、自分や周囲の人たちのセレンディピティ・トリガーを加速度的に増やすことができる。

方法はたくさんある。

たとえばあなたが興味のある記事を共有し、興味のある人をタグづけすることを積極的に始めれば、セレンディピティはもっと頻繁に起こるようになるだろう。

あるいは他の人がそのテーマにふさわしい誰かをタグづけしてくれるかもしれない。

心理学者で作家のアダム・グラントは、ツイッターで自分をメンションする記事に頻繁に「いいね」をしたり、リツイートしたりする。

コメントや提案を返してくることもある。

あるイベントで学んだことを共有したり、ハッシュタグを使ったりするのもいい。

同じイベントに出ていた人が反応し、会おうという話になるかもしれない。

オンラインコミュニティなら効果はさらに大きい。

たとえばサンドボックスのフェイスブックに誰かが「水中ロボットのためのアイデアを探している」と書き込んだときには、わずか10分で数人が「私のかつての指導教授は水中ロボットを研究していたから、紹介できるよ」「ぼくの友人が同じようなロボットを開発している」などと反応した。

メンバーが共通の興味で結ばれ、共通のアイデンティティやビジョン、互いへの基本的な信頼感を持っているようなまとまりのあるコミュニティのほうが、メンバーが基本的に1対1でつながっている緩やかなネットワークより、このようなやりとりは活発に行われるだろう。

これは豊かな世界だけでなく、極端に貧しい環境でも同じだ。

南アフリカのRラボの創設者マーロン・パーカーは、ラボのアカデミーを訪れる人の多くはフェイスブックページやツイッターもフォローするようになるという。

しばらく会っていなかった知り合いがネットでRラボの歩みを知り、「情報を得た途端に『よし、やるぞ!』となる。

すぐに活動に加わってくれる人もいる」。

Rラボの活動を紹介しているサイトには、世界中から多くの人がふらりと訪れる。

それはたちまち大きな効果を生み、マーロンらは思いがけないところからもたらされたアイデアをもとに、プロダクトやプラットフォームを生み出してきた。

たとえばあるコミュニティで若者たちが1日中携帯電話を使うようになったところ、他の住民も興味を持ち、ソーシャルメディアの価値に気づいた。

住民の好奇心とニーズから生まれたのが、比較的年配の女性にソーシャルメディアの使い方を教える「ママのプログラム」だ。

私たちの研究では、テクノロジーを問題の解決策ではなく多くの人に興味を持ってもらうためのシンプルな手段ととらえ、ハイテクよりむしろローテクを活用することの重要性が明らかになっている★18。

オーバー・エンベッドネスに注意するただニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トーマス・フリードマンが指摘したように、「アラブの春」や「ウォール街を占拠せよ」のような抗議運動からは、テクノロジーのある欠点が浮かびあがる。

テクノロジーによってコミュニケーションは増えるかもしれないが、それは必ずしもコラボレーション(協力)の増加にはつながらないことだ。

ソーシャルメディア上で活動しただけで、実際の活動をした気になっている人も多い★19。

これは自分のすべきことは何かという目的意識の重要性を改めて示している。

それ以上に衝撃的なのは、ネットワークに十分な多様性がないと、セレンディピティが起こらなくなってしまうことだ。

「オーバー・エンベデッドネス(過剰な埋没)」、すなわち共通のモノの考え方にどっぷりつかってしまうと、予想外の事態に遭遇することは少なくなる。

同質的でまとまりのあるネットワークほど、その傾向は強い。

ウォールストリート・ジャーナル紙が民主党支持者と共和党支持者のフェイスブック・フィードを比較した結果は衝撃的だった。

どちらも自己言及(自分の属する政党についてのみ言及すること)に終始し、それによって思想信条はいよいよ強まり、誰もが自分の正しさが確認され、受け入れられた気持ちになった。

その結果、自分の思考モデルや思想に疑問を抱くことがなくなる★20。

私たちがケニアの部族に対して行った自己言及に関する研究でも、同じような結果が出ている。

知恵を絞って共通のアイデンティティ(スポーツのような共通の関心事など)を見つけ、部族間の境界を橋渡ししないかぎり、部族を超えた人と人のつながりは生まれない★21。

ロンドンのリージェンツ大学総長のマイケル・ヘイスティングスはこれを「他者の流儀を理解する」と表現する。

調査対象となった少数民族は、多数派の行動様式や関心事を学んだことで、人口の4%のマイノリティから96%のマジョリティの仲間入りを果たした。

組織も同じで、とりわけ組織のサイロ化や情報の非対称性についてはこうした発想が有効だ。

ナイジェリアの大手金融機関の1つ、ダイヤモンド銀行(現在はアクセス銀行の傘下にある)の例を見てみよう。

元CEOのウゾマ・ドジエら経営陣は、デジタルツールの「Yammer(ヤマー)」を導入した。

いわゆる「オープンドア・ポリシー」をデジタルの世界で実践するためのソーシャルツールだ。

当初の目的は会社の方針へのフィードバックを募ることだった。

ヤマーを使っても組織内の協力は改善しないケースが多いなか、ダイヤモンド銀行ではうまくいった。

なぜか。

それは社員がチャット機能を使って、会社の方針から夜に観る映画の話まで、何でも気軽に話せるようにしたからだ。

ウゾマによると、社内の使用率が90%に達したのは、社員が会社にフィードバックを与えたいと思ったためではなく(もちろんフィードバックもしてくれたが)、同じような趣味、信念、イデオロギーを持つ人たちと非公式なグループをつくりたかっ

たからだ。

まじめなものから気軽なものまで、さまざまなグループが立ち上がり、次第に社内の立場も宗教も勤務地もバラバラなメンバーが集まるようになった。

今ではラゴスで働くCEOが、映画好きという共通点のおかげでナイジェリア北東部の新入社員ともつながっている。

こうして組織全体に強い絆が生まれ、予想外の出会いが頻繁に生まれるようになった。

とはいえ、どれだけセレンディピティ・トリガーがあっても、点と点をつなごうという意思がなければ何の意味もない。

トリガーをきっかけに、点と点をつなげる何かが「つながった」という感覚を味わったことがあるだろうか。

セレンディピティは「そうか!」という鳥肌の立つような気づきの瞬間であることが多い。

まったく関係がないと思っていたこと同士が魔法のようにつながる。

あるいは自分では気づいていなかった可能性を意外な人が発見し、点と点をつないでくれる。

本能的に点と点をつなぐ人もいる。

「ハイフン」という芸名で活動する新進ラッパーのアダッシュ・ガウタムがあるときインスタグラムに動画をアップしたところ、ロンドンのソーホーラジオの司会者から「いいね!」がついた。

さて、ふつうの人ならこのトリガーにどう反応するだろう。

おそらくワクワクして、それで終わりだろう。

そしてセレンディピティは未遂に終わる。

ではアダッシュはどうしたのか。

早速ラジオ司会者にダイレクトメッセージを送り、「ぜひ、この曲についてお話ししたい」と伝えたのだ。

司会者からはぜひ会おう、という返事が来た。

そこでアダッシュは、演奏させてもらえないかと尋ねてみた。

曲について話すより、聴いてもらうほうがいいのではないか、と。

「だったらラジオでライブをやらないか」と司会者は聞いてきた。

日付も決まり、アダッシュはドキドキしながらその日を待った。

だが本番の直前、司会者から連絡が来た。

BBCラジオに移籍し、そこのトップDJのピンチヒッターを務めることになった。

ソーホーラジオの代わりに、こっちで演奏してもらえないか、と。

もちろんアダッシュは引き受けた。

作品を多くの人に知ってもらうこのうえない機会だった。

アダッシュはトリガーに気づき、活用した。

それが可能だったのは自ら粘り強く点と点をつないでいったからだ。

ここからはセレンディピティ・トリガーに真価を発揮させる要因が浮かび上がる。

バイソシエーションだ。

予想外のちょっとした情報に気づき、つないでいくことは、セレンディピティ・プロセスの重要なステップだ。

このステップでは、「おや、これはいったいどういうことだ?」と何かに気づき、その意味するところに思いを巡らす必要がある★22。

想像もしなかった機会を手に入れる1989年のある日、アラバマ州の理容師フィル・マクロリーが仕事を終えて店の床を掃いていると、テレビでアラスカでのエクソン社タンカーの原油流出事故のニュースが流れた。

原油がラッコの体毛に絡みつき、ボランティアはそれを洗い落とすのに苦労している、というのだ。

ラッコの体毛が流出した油をがっちりとらえている様子を見たフィルは、今まさに自分が掃いている人毛が石油吸着材として使えるのではないかと思いついた。

そこで集めた毛をナイロンタイツに入れて、どれだけ油を吸収するか試してみた★23。

こうして流出した原油の回収に人毛を使うというアイデアが生まれ、人毛を使った吸着材が製品化されるようになった。

フィルが点と点をつないだからだ。

このように本能的に点と点をつなぐ人もいる。

フリーダー・ストロホイヤーはハイデルベルクの有名なコーヒーショップのオーナーだ(私にとっては高校時代に雇ってくれた最初の上司でもある)。

フリーダーは誰かと話すときはいつも、相手の話を聞きながら、それが自分や周囲の人のしていることとどうつながるかを考えていると話してくれた。

銀行員から倒産しそうな会社があると聞くと、そこを買収しそうな人は誰かと考える。

隣人から引っ越しを考えていると聞くと、最近自宅を売りに出していると言っていた人はいないかと考える。

そしてもちろん、誰かと話すときには自分が何に興味を持っているかを伝える。

するとたいてい(フリーダーはそれを偶然だと思っているが)、相手も何らかの情報を持っていて、話がつながるという。

漠然と機会を探しているようだが、ときとしてセレンディピティに結びつくこともある。

こうしてフリーダーは大勢の仲間と出会い、そこからたくさんのプロジェクトが生まれた。

純粋に誰かと会話するのが楽しいというのもあるが、常に点と点をつないでいることが自らの成功の一因だと考えている。

この能力はさまざまな場面で威力を発揮する。

たとえばヒューストン出身のピート・マンガー(仮名)のケースだ。

ピートは労働者階級の家庭に育ち、自分のような人間は地元の工場で働くしかない、とずっと言われ続けてきた。

父親からは「オレたちのような人間は大学なんていかない。

そんな能力は持ち合わせていないんだ」と言われた。

だがピートはある夕食の席で大学の講師と出会った。

講師はいくつかの大学の名を挙げ、「試しに応募してみればいいじゃないか」と背中を押してくれた。

そうすべきだと感じたピートはその言葉に従った。

簡単な道のりではなく、本当に努力した。

そして最終的には家族で初めて大学を卒業した。

成功につながった要因はいくつもあるが、最も重要なのは運命を自らコントロールしようと決め、ふだんなら見逃してしまったサインをとらえたことだとピートは考えている。

世界トップ10に数えられる大学を最近卒業し、今や世界有数の名門校の出身者となった。

どうすれば状況に対して受け身にならず、自らコントロールできるのか。

マインドセットを変えれば、それまで想像もしなかった機会がにわかに手の届くものになる。

フィル、ピート、あるいはナサニエル(第1章で紹介したTEDxボルケーノの立役者)に共通して言えるのは、彼らが目にしたトリガーは他の人の目にも入っていたということだ。

エクソンの原油流出事故をテレビで見たのはフィルだけではなく、火山の噴火で足止めを食ったのはナサニエルだけではなかった。

違ったのは、彼らの反応だ。

点と点をつなぎ、自分と周囲の人々のためにセレンディピティを引き起こしたのだ。

「蓄積した知識」「初心者の心」はどちらも有効参考になる知識があれば、点と点を結びつけやすくなる。

予想外の出来事の重要性を理解できるのは、たいてい全体的な流れが明らかになった後、そしてエウレカ・モメントが訪れるのは知識を蓄えるための準備期間の後と相場が決まっている★24。

たとえばすでに紹介したジェニーバにはもともと映画制作の経験があった。

エマから「自分のことを知ってもらいたい」と言われたときに点と点をつなぐことができたのはそのためだ。

個別の事例のなかに普遍性を見つけられるのは、たいてい十分な知識を持った観察者だ★25。

私たちはそれぞれの人生のエキスパートであり、自分で意識しているか無意識かは別として、予想外の出来事に遭遇したときに頭に浮かんでくる知識はそれなりにある(ただしその出来事に対して胸を躍らせ、意欲が高まっていればという条件つきだが★26)。

知識があっても、使う機会が現れるまで、どう使えばいいかわからないこともある。

スティーブ・ジョブズには大学で学んだカリグラフィーの知識がいつ何の役に立つのか、見当もつかなかった。

それがようやくわかったのは、マックのためにたくさんの書体をデザインしていたときだ。

同じことが法律についても言える。

ドラマ『スーツ』を観ていると、主人公のハーヴィー・スペクターやルイス・リットが危機に直面したとき、何気ない会話やたまたま目にした資料のなかから、まさにセレンディピティのようにアイデアを思いつく場面がよく出てくる。

点と点を結びつけることができるのは、新たな情報を既存の知識(法律の知識のこともあれば、敵に関する知識もある)と結びつける能力が備わっているからだ。

2人の使う知識の多くは特定の目的のために習得したものではなく、必要なときに使える汎用的なものだ。

個人と同じように、組織も集団としての記憶を蓄える。

過去の「実験」や取り組みから得た知識はセレンディピティにおいてきわめて重要な役割を果たす。

こうした視点に立てば、失敗や無駄のとらえ方は一変する。

どちらもうまくいくこと、いかないことに関する重要な情報源だ★27。

自らに備わった知識や能力を理解し、オープンマインドと組み合わせれば、予想外の出来事が起きたときに点と点をつなげる能力は大幅に高まる。

オープンマ

インドを保つことはとても重要だ。

サンフランシスコの大手ソフトウエア会社、セールスフォース創業者のマーク・ベニオフは、禅僧、鈴木俊隆の「初心」の教えを大切にしている。

「初心者の心には多くの可能性があるが、専門家の心にはわずかしかない」。

ベニオフは自分の「強み」は何か具体的な目標を掲げるのではなく、あらゆる可能性に対してオープンでいたことだ、と振り返る★28。

スティーブン・デスーザとダイアナ・レナーは共著『わからないということ(NotKnowing未邦訳)』で、初心者の心でいることの大切さ、そして何かを学ぶには自分のコンフォート・ゾーン(安心できる場所)から踏み出す必要があることを説いている。

第4章で紹介した起業家のカラ・トーマスは、セレンディピティはたいてい「わからない状態」で起こるという★29。

要するに、蓄えた知識も初心者の心も、使うタイミングを間違えなければ、そして自らを抑えるブレーキにならなければ、どちらもセレンディピティを起こすのに有効なのだ。

芸術に学ぶ、点と点をつなぐ3つの戦略赤ん坊の本当の母親は自分だと主張する2人の女性の諍いを持ち込まれたソロモン王は、赤ん坊を半分に切れと命じた。

女性たちの反応を見て判断の材料にしようと思ったからだ。

すると女性のうち1人が、どうか切るのはやめてくれ、赤ん坊は相手に譲るからと懇願した。

それを聞いてソロモンは、赤ん坊を救うためには手放すことも厭わないこの女性が本当の母親だと判断した。

このような思いもよらない方向から問題を解決しようとする独創的なアプローチを、エドワード・デ・ボーノは「水平思考」と呼んだ★30。

順を追って問題を解決する垂直思考と対を成す考え方だ。

ソロモン王の対応は、どうすれば広い視野で解決策を探せるのか、またどうすれば新しいアイデアを生み出す能力を鍛えられるかを示している。

何か適当なモノを選び、それをあなたの関心分野と結びつけてみよう。

デ・ボーノは「鼻」という言葉をコピー機(関心分野)と結びつけるという例を挙げている。

そこからコピー用紙がなくなるたびにラベンダーの香りが漂うというアイデアが生まれる★31。

それがクリエイティブな話し合いのきっかけになる。

トリガーを生み出し、点と点をつなげる方法については、芸術から多くを学ぶことができる。

芸術家は偶然の出来事や逸脱から着想を得ることが多い。

予想外こそが芸術の源とも言える★32。

20世紀を代表する抽象画家であるジャクソン・ポロックが「私は偶然を認めない」と語った話は有名だ。

それはどういう意味だろうか。

批評家からはでたらめにキャンバスに絵の具をぶちまけているだけと見られることもあったが、ポロック自身は一見ランダムに見える動きのなかにも、一定の方法論と意図があると考えていた。

偶然を否定するというのは、事前に絵画のイメージができあがっていたということではない。

ポロックにとって偶然とは、意図的なものであると同時に自然発生的なものだった。

あるいは演劇、ジャズの即興演奏、あるいはコメディを考えてみよう。

いずれにおいてもアーティストは予想外の自然発生的な展開に対してオープンだ。

自ら引き起こすこともあれば、観衆や共演者からもたらされることもある。

うまくいけば無意味で統制の利かないカオスではなく、クリエイティブな緊張感が生まれ、それは往々にしてセレンディピティにつながる。

エミー賞にノミネートされた脚本家で大学講師のブラッド・ジョリは、芸術家とは「セレンディピティ・ハンター」だと指摘する。

「オンデマンド(必要なとき)」にセレンディピティを生み出す方法を考えている。

実際のところ芸術家のノウハウは一般人が思うほどミステリアスではなく、かなり実用的なものが多い。

心理的な習慣を打破し、状況に順応し、即興を生み出すためのテクニックだ。

1970年代半ば、ミュージシャンでプロデューサーのブライアン・イーノは、アーティストで画家のペーター・シュミットとともに『オブリーク・ストラテジーズ(斜め上からのアイデア戦略)』と題したカードを制作した。

それぞれのカードには、創作活動の行き詰まりを打破し、アイデアを生み出し、思考を促すための文言が書かれている。

「問題をできるだけ明確な言葉で表現せよ」といった実用的なものもあれば、「自分の身体に聞いてみよ」といった謎めいたものもある。

ブラッド・ジョリはこれを「切り離し戦略」と呼ぶ。

「切り離す」というのは連続性をいったん断ち切り、再構成する行為であり、それによって聴衆は直感的なパターン認識を通じてまったく新しい、おもしろい連想ができるようになる。

私たちには本能的にパターンを見つけようとする傾向があり、それはセレンディピティの源泉となることが多い★33。

具体的にはどうすればいいのか。

場所、時間、視点を変えてみる、あるいは象徴的連続性を断ち切るのだ★34。

芸術から学べる戦略が3つあり、それは一見芸術とは縁の薄そうな交渉戦略としても有効だ。

①リミックス、②リブート、③ディコンストラクションだ。

いずれも思い込みを問い直し、点と点をつなげるのに役立つ。

①リミックス★35私たちには自分の立場や意見を持ち、それを守ろうとする傾向がある。

一定の立場をとり、貫こうとする。

また相手の立場とは通常、ゼロサムの関係にあると考える。

つまりこちらの得るものが増えれば相手の取り分は減るし、その逆もまた然りだ。

たとえば交渉では、たいてい自分の立場と相手の立場を敵対的なものと考える。

私が教えている交渉の授業では、まず「これから君たちには仕事のオファーについて交渉してもらう」と説明する。

学生を2人ずつペアにして、1対1の面接に臨んでもらうのだ。

1人が求職者、もう1人が面接官の役になる。

両方に同じ「一般情報」を与える。

そこには給与、賞与、勤務地など合意すべき事項がリストアップされている。

それからそれぞれに異なる「極秘情報」を与える。

どのような交渉成果を得れば何ポイントもらえるなど、交渉の優先事項が書いてある(たとえば「給与9万ドルを獲得すればXポイント」「勤務地がサンフランシスコに決まればYポイント」といった具合に)。

相手が同じ(あるいは異なる)成果に対して何ポイントもらえるかはわからない。

たいてい学生たちは交渉すべき項目それぞれについて、自分と相手の利害は対立していると思い込む。

求職者役の学生は、面接官は給与を抑えようとすると考え、面接官側は求職者はできるだけ高い給与を獲得しようとすると考える。

それが事実だとすれば(たいていは事実なのだが)「配分的」交渉になる。

求職者にとっては給与が高いほどポイントが高くなり、面接官の得るポイントは少なくなる。

結果はゼロサムだ。

しかし勤務地についても学生たちは相手が最高ポイントを得られるのは自分とは別の場所だと思い込む。

どちらも同じ、あるいは近くの勤務地に対して最高ポイントを与えられるという事実に気づく学生は驚くほど少ない。

このような「統合的」、つまりウィン・ウィンな交渉はお互いに効果的に情報を交換できたとき初めて成功する。

この演習からは多くの教訓が学べるが、一番重要なのは、私たちは常に物事をゼロサムで考えようとする傾向があるということだ。

しかし交渉のような場面でも、統合的でウィン・ウィンな結果を導き出せるケースは多い。

その場合、重要なのは両方が得をできる方法を探すことだ。

お互いの立場ではなく、根底にある利害に意識を集中することで、それが可能になる。

相手の本当のニーズや優先事項について、できるだけ多くの情報を得ようとすることが大切だ。

授業を進めるなかで、学生たちは次第に利害に基づく交渉スタイルを身につけていく。

もとの(より小さな)パイのなかで自分の取り分をできるだけ大きくしようとするのではなく、ウィン・ウィンの解決策を生み出すことによってパイそのものを大きくしていく方法を学ぶのだ。

利害に基づく交渉の成否は、相手の情報や利害を理解できるかどうかにかかっている★36。

それは探究的プロセスであり、立場を固定的なものととらえず、新たな情報に応じて変化する流動的かつ柔軟なものと考える。

予想外の解決策が浮かび上がるまで、情報のやりとりは続く。

この「流動性」はさまざまな分野に当てはまる概念だ。

たとえば個人とその世界観の成長についても言える。

カール・マルクスの若い頃の著作を年を重ねてからのものと比べると大きな違いがある★37。

同じように若い頃は極端な政治思想を持っていても、年を重ねるなかで中道、主流派寄りになっていく人は多い。

こうしたことが芸術、さらにはセレンディピティとどのようなかかわりがあるのか。

芸術家は自らの手足を縛るようなイデオロギーからなるべく自由でいようとする。

世界を新たな視点で眺め、流動性を大切にし、硬直的で体系化された枠組みを否定する。

常に複数のアイデアを融合させ、組み替え直すことで、新たな

気づきが生まれる。

ロシアの映画監督セルゲイ・エイゼンシュテインは2つの独立した映画を組み合わせ、編集すると「第3の意味」が生まれると語った★38。

芸術的コラージュも同じで、大切なのはサブリミナル(意識下)の連想が働くようなバラバラな要素を融合することだ。

つまりリミックスの威力は、個々の要素ではなく、それらの関係性、意外性のある新たなつながりから生まれる。

インデックスカードにシーンの概要を書き、並べ方を変えてさまざまなストーリーを検討する脚本家の手法は大いに参考になる★39。

1つのストーリーでも語り方は何通りもあるということだ★40。

リミックスのような切り離し戦略は、現状を破壊して考え直す機会、そして予想外の気づきや新たな関係性を見つける機会を生む。

さまざまな構成要素をシャッフルし、組み合わせ方を変えてみることで、セレンディピティにつながる連想が生まれる★41。

定性的研究をしていて、興味深い反直感的成果が見つかるのはたいていこのようなときだ。

これはビジネスの世界にも当てはまる。

たとえば自動車メーカー、ホンダのケースだ。

1960年代、ホンダはアメリカの消費者は大型のバイクを好むことから、大型バイクを売り出す計画を立てていた。

しかし現地の社員が日本で当時よく使われていたもう少し小型のバイクで通勤していたところ、自分もこんなバイクが欲しいと頻繁に声をかけられた。

ホンダはこうした街の声に耳を傾け、小型バイク「スーパーカブ」を発売し、アメリカ市場を席捲した。

新たな情報に基づいて点と点をつないだのだ。

他の人々が気づいていないことに気づき、それをすばらしい成功に昇華させた★42。

経営学の研究ではこのような戦略的機会はさまざまなリミックスを通じて偶然立ち現れることが明らかになっている。

とはいえ多様な視点を組み合わせるだけでは不十分だ。

偶然の巡り合わせが成功に結びつくか否かのカギを握るのは、そこに基本的な信頼感と積極的に情報交換しようとする意欲があるかだ。

たとえば共通の興味を持つ人が集まり、キュレーション(メンバーの選定や運営)がしっかりとしているコミュニティでは、メンバーから「すごい偶然だね!」という言葉がよく飛び出す。

そうしたコミュニティで起こるセレンディピティの量と質は、完全にランダムなものでもない。

共通の価値観、多様なアイデア、共通の経験や習慣に基づく選別プロセスを通じて、セレンディピティが起こりやすい状態が生まれているのだ。

②リブートリブートとは思い切った再スタートにほかならない★43。

新たなアイデアやプロジェクトや文学は、過去の作品に依拠しつつ、思い切った変革あるいは「方向転換」をすることがある。

たとえば漫画がそうだ。

ブラッド・ジョリは、ストーリーの賞味期限は短いと指摘する。

しばらく経つと、筋書きのパターンが枯渇したように思えてくる。

すると新たなパターンが登場して古いものを上書きする。

読者は元の物語に戻るが、それまでより内容はバージョンアップしている。

身に覚えがある、という人もいるかもしれない。

私の友人にも、中年の危機を経て新しい自分に生まれ変わった人は何人もいる(たいていはリブートというよりリミックスというほうが実態に近いのだが)。

そして私自身、自動車事故の後、リブートを経験した。

リブートとは秩序やストーリー展開そのものが変わってしまうことだ。

リメイクが1つの作品をつくり直すことであるのに対し、リブートはそれまでの作品すべてをつくり直すことだ。

リミックスが原材料の配合を変えることであるのに対し、リブートは土台からつくり直すことだ。

リブートとは新たに土台となるコンセプトを生み出し、ストーリーを最初から書き直すことだ。

トランプのデッキをシャッフルするのではなく、新しいデッキをつくり直すことだ。

古いモデルと形は似ていても、書かれている内容は大幅に変わっている。

リブートはしばらく停滞期が続いた後に起こることが多い。

たとえば知的に行き詰まっていて、新しいひらめきを必要としている状態だ★44。

リブートには手元の材料をよく理解すること、そして従来のパターンを打破することの両方が必要だ。

それによって新しい(そしてたいていは予想外の)気づきが得られる。

人生や組織のリブートも同じだ。

ときには抜本的改革が避けられないこともある。

アヤフアスカ(幻覚作用のある植物)を使ったリトリートやキリマンジャロ登山など、極端な状況に身を置くことでリブートを試みる人も多い。

LSEやNYUでは、学生を危険地域で活動する組織に送り込む。

学生は長期間にわたり地元の人とともに暮らし、活動する。

それをきっかけに、社会に出たらまずは退屈な職場で10年は修業しなければならないといった常識に疑問を抱き、すぐに本当に意味があると感じられるプロジェクトにかかわるという選択肢もあることに気づく。

現地にいくことが非現実的あるいは不可能ならば、バーチャル・リアリティのヘッドセットを使ってこうした地域の実態を多少なりともイメージし、経験することもできる。

③ディコンストラクションディコンストラクションとは、あるものの構造を打ち壊し、そこに潜んでいるものを発見することだ。

想定どおりの結果や最終目的の達成ではなく、あてのない試行錯誤や挑戦を通じて文芸作品などの脱構築を目指す。

その結果、興味をそそる意外な結果が生まれることが多い★45。

たとえばスクラッチボードというシュールレアリズムの画法では、絵筆を上下ひっくり返し、持ち手の部分ですでにキャンバスに描いた塗膜を剝がしていく。

あるいはグレゴリー・マグワイアの著書『ウィキッド』は、『オズの魔法使い』をディコンストラクションした作品で、オズでは脇役かつ悪役だった西の魔女の人生を描き直している★46。

これは前提や偏見に疑問を抱き、文化において常識とされることを拒絶し、これまで顧みられてこなかった人々の意見に耳を傾ける行為だ。

古代ローマには農神祭と呼ばれる祝祭があった。

8日間にわたる祭の間は、社会の規範がひっくり返る。

主従関係は逆転し、男性は女装を、女性は男装をする。

毎年この儀式の間は一時的に社会的差異が見直され、カタルシスがもたらされた★47。

視野を広げれば、カウンターカルチャーも文化的規範を逆転させる役割を果たしてきた。

それはたいてい自然発生的で予想不可能なイノベーションであり、そうした環境ではセレンディピティが起こりやすい★48。

ウォーレン・バフェットのビジネスパートナーであったチャーリー・マンガーは、2007年に南カリフォルニア大学の卒業式で行った有名なスピーチで、「逆転の発想」の大切さを説いた。

問題を順を追って考えていくだけでなく、後戻りしながら考える習慣を身につけるべきだ、と。

問題は逆方向に考えていったほうが、解決しやすいことが多い、とマンガーは説く。

たとえば「ソマリアを助けたい」と思った場合、「どうすればソマリアを助けられるか」という問題の立て方をするのではなく、「ソマリアを最も蝕んでいる問題は何か。

どうすればそれを避けられるか」と考える。

論理的に同じことではないかと思うかもしれないが、そうではない。

代数と同じで、反転させることで初めて解ける問題もある。

マンガーの逆転の発想のもう1つの例を挙げよう。

「私が一番知りたいのは、自分がどこで死ぬかだ。

わかったら、絶対そこには行かないから★49」。

データマイニング・バカにならず「現実的な哲学者」を目指すリミックス、リブート、ディコンストラクションが重要なのは、既存の想定が正しいことを確認するためにひたすら情報を集める「データマイニング・バカ」になるのを避けるためだ。

私たちが目指すべきは「現実的な哲学者」だ。

疑問を抱き、想定をうのみにせず、視点を変えることを厭わず、行間を読む。

多くの分野において、前提を疑うことは有意義な人生を送るためのカギを握る。

マレー・S・デイビスの論文「That’sinteresting!(それはおもしろいね!)」は、過去数十年にわたって博士号を目指す学生たちを勇気づけてきた。

そこでマレーは、世界に有意義な貢献をする方法はたくさんあることを示している。

最も重要なものの1つが、読者が共有している前提を否定してみせること、あるいはそれが当てはまらない状況を具体的に示すことだ★50。

これは芸術家がよく使う手法だが、世界で最も成功しているリーダーたちにも同じ傾向がある。

リーダーズ・オン・パーパスの研究で、世界で最も高い成果を挙げているCEO31人をインタビューしたところ、その多くは世界の現状に常に疑問を投げかけていた。

想定に疑問を抱き、覆すことを厭わない。

それによってセレンディピティが起こるためのオポチュニティ・スペースを生み出しているのだ。

絶対的な基準を探し求めるより、今自分が置かれた状況で何が重要なのかを考えるほうがいい。

意味というのは定まったものではない。

異なる視点の衝突が起きたとき、お互いの関係性のなかで意味が明らかになることもある。

だからこそそんな衝突が起きたとき、セレンディピティを生み出すことができるのだ★51。

相反する考えを受け入れるのは、セレンディピティを生み出す効果的な方法だ。

弁証法的思考を実践する人は多い。

テーゼ(命題)とアンチテーゼ(反対命題)

を検討すると、ジンテーゼ(統合命題)を見つけやすくなる(まさにヘーゲルの言うとおりだ)。

それは現実というものが、そもそも白黒はっきりしていないからだ。

ニュアンスこそが人生の本質である。

ユーモアのセンスとセレンディピティ点と点をつなぐ能力を高める方法は、他にもたくさんある。

クリエイティブな人はよく類推的思考をする。

ある分野の情報を他の分野の問題を解決するのに使うのだ★52。

類推的思考を訓練する方法として、さまざまな類似性のパターンを学び、オポチュニティ・スペースを広く設定する、というものがある。

そうすれば特定の問題が与えられたとき、解決策を見つけられる確率は高まる★53。

異なるモノの間に類似性を見出そうとすれば、解決の糸口が見つかるかもしれない。

もう1つが、刺激的アイデアを使って新たなアイデアを生み出すという方法だ。

極端な考え、あるいは希望的観測を語るのは、大胆なアイデアを生み出し、そこに共通して見られる新たなパターンを探すのに有効な手だ★54。

とりわけ遊び心は、セレンディピティやイノベーションを誘発するのに有効であることが示されている。

娯楽には新たな発見に役立つものが多い。

そこにルールを破り、試行錯誤するという要素が含まれているためだ。

それは既知の世界を離れ、未知の世界へと足を踏み出すきっかけとなることもある。

魔法が起こるのは、そんな場所だ。

自然のなかでのリトリートを通じて、参加者が心のなかの若々しい自分を再発見できるようにするコミュニティもある。

肩の力を抜き、いろいろなものから自由になることでさまざまな壁を取り除く。

アルバート・アインシュタインは遊びが生産的思考に欠かせないことにいち早く気づいていた。

子供がレゴブロックで遊ぶように、アインシュタインは常にさまざまなアイデア、イメージ、思考を組み合わせていた。

頭のなかだけでなく、ときには目に見える形でそんな作業に取り組んでいた。

このような「組み合わせ遊び」ができるのは、2つのものの共通点や、さまざまな出来事の興味深いつながりを発見する能力の表れだ。

スティーブ・ジョブズは特にこの能力が優れていた。

クリエイティビティとは単にさまざまなモノを結びつける作業にすぎない、と語ったのは有名な話だ。

クリエイティブな人は「なぜそんなすごいことができたのか」と聞かれると少し罪悪感を覚える。

というのも、実際には何かしたというより、「気づいた」だけだからだ。

しばらく考えたら、それがあるべき姿だと思えてきたのだ。

こうした考え方は人類史を通じて脈々と受け継がれてきた。

古代ローマ時代の哲学者、政治家であったセネカは、ルネッサンス時代の思想家や芸術家に多大な影響を与えた人物だが、アイデアを集め、ふるいにかけ、組み合わせて新たなアイデアを生み出すことの大切さを説いていた。

後世にアインシュタインが「組み合わせ遊び」と呼んだものと同じである。

セネカは『道徳書簡集』のなかで、ハチの例を出してこう説明している。

ハチは忙しく飛び回り、蜂蜜をつくるため花の蜜を集めてくる。

それから巣のなかの個室で集めてきたものを選り分ける。

すると発酵が進み、さまざまな物質が統合されて蜂蜜ができる。

セネカはこれがさまざまな文献をふるいにかけ、異なる情報源を1つに統合する作業に似ている、と考えた。

そして統合した情報をしっかりと消化しなければ、記憶に残るだけで、合理的思考を磨くことにはつながらないと警告した★55。

新しいゲーム、難しいパズル、あるいは新たな舞台を楽しんでいるときには、新たなバイソシエーションが生まれやすい。

そして楽しい経験をしているときにはユーモアのセンスを発揮してみよう。

セレンディピティをたくさん経験する人は、たいていすばらしいユーモアのセンスを持っている。

アレクサンダー・テラインのケースを紹介しよう。

パリに到着した時点では、アレクサンダーは友人のウエディングディナーに出席することになるとは夢にも思わなかった。

招待もされていなかったのだから、当然だ。

その日はスケジュールが詰まっていたので到着が遅れ、空いていたのは花嫁の妹、リワ・ハーフォウシュの隣の席だけだった。

リワとは何年も前にオンラインでつながっていたが、実際に会ったことはなかった。

そこで着席するときに、リワとその両親にこんなジョークを飛ばした。

「この瞬間をもう10年も待ちわびていたんですよ!」。

リワにとって、今や夫となったアレクサンダーとのこの偶然の出会いは、宝物のような思い出となっている*。

*リワ自身も他者とつながる手段としてユーモアを大切にしている。

ユーモアを使うと世界観を共有し、互いへの信頼感を深められると考えている。

ユーモアはセレンディピティ・トリガーの種をまき、点と点をつなぐインセンティブとなる。

しかもユーモアのセンスはいくつになっても磨くことができる。

まとめセレンディピティは単一の出来事ではなく、プロセスだ。

プロセスを支えるのはトリガーを生み出し、発見し、点と点をつなぐ能力で、そうした努力によって偶然が幸運へと変わる。

会話のなかに釣り餌をちりばめる、セレンディピティ爆弾を仕かけるなど、トリガーの種をまく方法はたくさんある。

そして誰かと話をするたびに、そこで聞いたことを一見何の関連もなさそうな他の分野で学んだことと常に結びつけようと努力することで、点と点がつながっていく。

それによって自分のセレンディピティ・フィールドが強化されていく。

ただ、こうした知識があっても、実践しなければ始まらない。

ここでもう1つ、セレンディピティ筋を鍛えるためのエクササイズに取り組んでみよう。

【セレンディピティ・ワークアウト種まきを実践してみる】1次の会話で使えそうな「釣り餌」をたくさん考えてみよう。

特に「仕事は何をしているんですか」と聞かれたときの答えがいい。

それを3~5個まとめた(簡潔な)答えをつくろう。

そうすれば相手はそのなかから自分と一番関係のあるものを選ぶことができる。

後は会話を楽しむだけだ。

2自分の関心分野を1枚の紙に書き出してみよう。

そこに興味深い釣り餌を盛り込み、自分自身の体験と結びつける。

不遇な環境で育ったにもかかわらず予想外の成功を収めたのだとしたら、その物語を語ろう。

高校で留年した経験が本当の自分を発見するのに役立ったのなら、その話を語ろう。

自分という素材をさまざまな舞台に差し出してみよう。

出身高校や大学、あるいは自宅近くの大学や学校と連絡をとり、卒業生あるいは学生向けのイベントで講演する、と申し出てみるのもいい。

「ある卒業生が自分の道を見つけた方法」というテーマはどうか。

ハフポストのようなプラットフォームで、そんなテーマでブログを投稿してもいい。

3セレンディピティ爆弾を仕かけよう。

あなたが一番尊敬している人で、インメイルやリンクトインといったプラットフォームで連絡のとれる人、あるいはメールアドレスのわかる人を探してみよう。

その人に、これまでどんな影響を受けてきたか、自分のキャリアとこんなふうにかかわってほしい、という思いを率直に伝えよう。

これは数の勝負なので、できるかぎり具体的なメッセージを作成するよう努めつつ、なるべくたくさんの人に送ろう。

少なくとも5人以上だ。

4大勢の前で話をするときには、予想外の事態への備えをしておこう。

たとえば講演中に、誰かのスマホが鳴ってしまう。

プロジェクターが故障する。

用意していたジョークがまったく受けなかった。

そんなケースを想定して、返しのジョークを用意しておこう。

予想外の事態でも落ち着いている様子を示せば、聴衆を味方につけることができる。

5あなたの住んでいる街に大学や公共施設(図書館など)があるならば、月1回は公開イベントに参加してみよう。

講演後の質疑応答に備えて気の利いた質問を考えておこう。

そうすれば講演者に覚えてもらいやすくなり、イベント終了後に会話が弾みやすくなる。

相手の連絡先を聞いて、すぐにフォロ

ーアップのメッセージを送ろう。

6初めて誰かと会ったら、その人の人生にどんな貢献ができるか、紹介できる人はいないか考えてみる。

月1回は新しい人を誰かに紹介しよう。

2人にどんな共通点があるかを考え、紹介するときにそれに触れつつ、限定的になりすぎないようにしよう。

7ネットワーキングを目的とするイベントを主催する際には、参加者に①今一番興味を持っていること、②抱えている一番大きな課題、③お気に入りのセレンディピティ・エピソードを共有してもらおう。

会話の相手が話しているときには、積極的傾聴を心がける。

最近聞いた話で、相手の興味を持っていることや課題と関連するものはないか、と。

★1Pirnotetal.,2013.★2McNallyetal.,2011.もう1つの事例として、データマイニングによって予想外の結びつきから新たなおもしろい情報が生まれるようにして、情報検索の偶然性を高めるシステムを開発したコンピュータサイエンティストのケースがある(Beale,2007;Liang,2012)。

★3これに関する興味深い動画がある。

www.youtube.com/watch?v=U88jj6PSD7w.★4インターネットも同様だ。

検索結果や「おススメのページ」はすべてセレンディピティのプロンプトになり得る。

今では新たなおもしろい情報への予想外のリンクを埋め込み、偶然性を高めることに注力している産業(および膨大な研究論文)が存在する(Beale,2007;Liang,2012)。

★5www.politico.com/magazine/story/2018/01/20/henrykissingernetworking216482.★6その気になれば、誰でも自然とセレンディピティ・トリガーを生み出せるようになる。

極端な例が起業家のカーラ・トーマスだ。

友人の提案した冒険プランに基づいて、3カ月にわたって東南アジアで1人旅をすることにした。

恐怖はあったが、未知の可能性にオープンになることで、魔法のような経験が起こる余地を生み出した。

そして日々のセレンディピティを大切にするビジネスアイデアも、そこから生まれた。

本書でもすでに紹介したクーユン・ルアンはドイツでの学生時代、毎週金曜日に適当な電車に飛び乗り、行き着いた場所で見知らぬ人々と交流した。

クーユンの冒険は、小説家リー・チャイルドの作品に登場する、アメリカ中をバスで旅しながら予想外の事件を解決していくジャック・リーチャーを彷彿とさせる。

★7Akninetal.,2013;Dunnetal.,2008.★8Dew,2009;McCayPeetandToms,2010;NapierandVuong,2013.★9BuschandMudida,2018;Granovetter,1973.★10Burt,2004;Yaqub,2018.とはいえ、すべての文化に当てはまるわけではない。

中国の集団主義社会で証券会社が(同じような方法では)うまくいかない理由を考察した優れた研究がある。

XiaoandTsui,2007.★11とはいえ人を紹介することには責任も伴う(好むと好まざるとにかかわらず、紹介した相手と関連づけられる)。

そして多忙なときには直接相手の連絡先を教えたくなるが、まず紹介しようとしている相手の許可を取ることが重要だ。

★12ここには作業環境と作業の種類も含まれる(McCayPeetandToms,2010)。

★13Catmull,2008;Lehrer,2011.★14同上。

★15幸運な出会いを生み出す適切な環境を意識したソーシャルダイニング「Wok+Wine」の例もある。

創業者のピーター・マンデノがまずニューヨークに開店し、その後11カ国に広げた。

参加者はお互いにバツが悪くなるほど近くに立ち、手で食事をし、共通のテーブルからパンをちぎって食べる。

イベントはヘアサロンや空き家など、一風変わった場所で開かれる。

参加者の移動を促すレイアウトにして、新しい人との出会いを促している。

インペリアル・カレッジ・ロンドンで人と人との結びつきを促すデザインで博士号を取得したピーターにとって、さまざまな状況での実験は「セレンディピティを最適化」するための試みだ。

★16https://blog.websummit.com/engineeringserendipitystorywebsummitsgrowth/.およびhttps://blog.websummit.com/whyyoushouldntattendwebsummit/.★17BuschandBarkema,2017;BuschandLup,2013.★18BuschandBarkema,2017.★19www.nytimes.com/2012/06/10/opinion/sunday/friedmanfacebookmeetsbrickandmortarpolitics.html★20http://graphics.wsj.com/bluefeedredfeed/.★21BuschandMudida,2018.★22Brown,2005;MertonandBarber,2004;PinaeCunhaetal.,2010.★23http://news.bbc.co.uk/1/hi/magazine/8674539.stm.この物語を教えてくれたパオロ・リグットに感謝する。

★24MertonandBarber,2004.★25Merton,1949.★26MertonandBarber,2004.★27Garudetal.,1997;HargadonandSutton,1997.★28www.businessinsider.com/salesforceceomarcbenioffbeginnersmind20189.★29「スーパー・エンカウンター(出会いがとびきり多い人たち)」(Erdelez,1999)は情報獲得プロセスの一環として、他の人よりも多くの予想外のデータや情報に出会う。

こうした知見をもとに科学哲学の文献(VanAndel,1994など)では、予想外の発見は疑問を抱く姿勢によって促進されることが示されている。

★30DeBono,1992.デ・ボーノは集団がより効果的に思考するための意思決定方法として「6色ハット思考法」を生み出した。

1つひとつの帽子が特定の思考法を象徴している。

以下も参照。

Birdi,2005.★31DeBono,2015.★32Gyori,2018.★33何事についても言えることだが、これを極端に推し進めると(「極端な分離」)パターンが見えなくなる。

聴衆がバラバラな情報に驚き、圧倒されてしまう状態だ。

アーティストはときには意図的にそのような効果を引き出そうとするが、時間が長くなると注意力が制約され、疲労感が高まる(Gyori,2018)。

★34分離の潜在的効用は期待を打ち砕くことで、セレンディピティに関連するものは4種類ある。

空間的分離は時間の連続性は維持しつつ、観衆の視点を新たな場所に移動させる。

映画の場合、別のアングルからシーンを撮影するのがそれに当たる。

職場では気分転換に場所を変えてみること(コーヒーショップ1から2に移動するなど)がこれに当たる。

時間的分離は時間の飛躍を伴う。

たとえば映画のワンショットから一部を削除して、飛躍が起こるようにするケースだ。

時空的分離は時間と空間の両方を変えることだ。

たとえば都市で夜に書かれた日記から始まった小説の設定が、田舎で朝に書かれた手紙に変化するといった具合に。

作者の分離は著者の視点の変化で、複数のアーティストが協力しながら詩や絵画を制作する(シュールレアリスムの「優美な屍骸」の実験など)。

そして最後がシンタックスの分離で、象徴的連続性の分断だ。

たとえば連続的な散文のページ

をバラバラにして、非連続的な形で再構成したウィリアム・S・バロウズの「カットアップ」小説がその例に当たる。

★35Gyori,2018;Lessig,2008;Navasetal.,2014.★36関心に基づく交渉の概要を説明する優れた資料は以下を参照。

Fisheretal.,2011.★37Gyori,2018に引用されたマルクスとエンゲルスの言葉。

以下などを参照。

MarxandEngels,1998.★38Eisenstein,1969.以下も参照。

Gyori,2018.★39Gyori,2018.★40同じことが学術界についても言える。

大規模な構造を新たな目で見直すと、予想外の連想やパターンが浮かび上がる。

たとえばグラウンデッド・セオリーや「ジョイアメソッド」などの定性的研究方法は、自然発生的にアイデアを生む仕組みだ。

私はRラボの研究に携わるとき、非常に幅広な研究課題を設定していた。

それをもとに自分(および従来の研究)の予想とは異なる意外な洞察を見つけ出し、理解しようと努めた。

それを他のコンテクストにも当てはまるような興味深いテーマが浮かび上がるまでシャッフルした(ブリコラージュに拡張性を持たせるためだ)。

セレンディピティの常として、重要なのは結果ではなくプロセスをコントロールし、シャーロック・ホームズのように予想外の要素に目を光らせることだ(BuschandBarkema,2019)。

また新たなテーゼを生み出す方法として、アブダクション(経験のなかの意外な観察結果を創造的に説明すること)も有効だ。

アブダクションは既存の概念を新たな洞察に統合するのに役立つ。

★41Gyori,2018;Lessig,2008;Navasetal.,2014.★42Mintzbergetal.,1996;Pascale,1996.このエピソードは数十年にわたって議論の対象となってきた。

これは自然発生的な出来事だと主張する人もいれば、計画されたものだという人もいるので、多少割り引いて見る必要がある。

★43Procter,2012.★44Gyori,2018.★45Derrida,1982;Gyori,2018.★46これもファンエディットの一例だ。

ファンエディットとは、ジャンルを超えるディコンストラクション(脱構築)のために再編集された予告編あるいは映画のシーンだ。

『40歳の童貞男』はコメディからサイコスリラーに刷新され、ホラー映画のTheShiningは心温まる映画『シャイニング』へと変わった。

同じように哲学者のジャック・デリダはプラトンの『パイドロス』を真剣に脱構築した(Gyori,2018)。

★47Gyori,2018.以下も参照。

Delantyetal.,2013.★48これは抑圧された人々を解き放ち、機会を生み出すこともある。

疎外されていた人々がヒーローになり、革命家がスポットライトを浴びる。

歴史には「ポスト帝国主義」「ポスト・モダニズム」など、「ポスト〇〇(〇〇後)」という表現が山ほどある。

これが人類の進歩につながっている(Gyori,2018)。

★49https://fs.blog/2016/04/mungeroperatingsystem/★50Davis,1971.★51Gyori,2018.★52GentnerandMarkman,1997;GickandHolyoak,1980.以下も参照。

Stocketal.,2017.セレンディピティに関する研究がまだ比較的珍しいことから、本書では類推的思考も一部活用している。

類推的思考は特定の出来事やアーティファクト(人工物)を偶然観察するといった計画外の出来事によって引き起こされる。

連想思考あるいはアナロジーは、複雑なオポチュニティ・スペースに対処するためのプロセスだ。

ただしこのアプローチが使えるのは、ターゲットとなる分野がわかっているときだけだ(新たなセレンディピティについてはターゲット分野がわかっていないことも多い)。

★53GickandHolyoak,1980.この種の思考法は専門家に適している。

専門家は特定分野の知識をきちんと整理した形で保持していて、容易に引き出すことができるからだ(BédardandChi,1992;EricssonandStaszewski,1989)。

この結果、専門家は今置かれている状況と過去(あるいは未来)の経験のつながりを発見しやすくなる(Stocketal.,2017)。

「正常」を理解していなければ、異常を発見することはできない。

このため専門分野と特定の状況の共通点を見つける能力が高い専門家は、類推思考をする傾向がある。

専門家の知識はより抽象的かつ概念的で(素人が口にするような表面的知識ではない)、だからこそ共通点や欠落している情報に気づきやすい。

ただ第2章で見たように、それは「機能的固定化」につながるおそれもある。

★54DeBono,1992.★55Gummere,1989.

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