第 2章「損益」を正しく捉えて割引をしていますか?
1 「全品 10%オフ」が妥当かをどう判断する? 2 中学生でもわかるように説明してください 3 妥当性を判断するためのデッドラインの考え方 4 リアリティある数字で判断しよう 5 デッドラインを超える可能性を数値化する 6 「ネガティブシナリオ」を想定しているか智香からのワンポイントアドバイス ❸
1 「全品 10%オフ」が妥当かをどう判断する?お客様をとられないために ある日の早朝。
オフィスのデスクで一人考え込む木村の姿がありました。
その姿は、まさしくあのロダンが制作したブロンズ像「考える人」のようです。
「おはようございま ~す ♪ あれ、先輩どうしたんですか? 難しい顔して」 「ああ、奈々ちゃんか。
実は次なる一手を考えようと思っていてね」 「表参道店プロジェクトの件ですね。
確かに FLAPのオープンが近づいていますからねぇ。
スタッフの業務改善だけではちょっと心許ないですよね」 「そうそう、 FLAPにウチのお客様をとられないよう、何かグッとくるようなキャンペーンをやりたいよなぁ……」 これまでの木村であれば、朝は眠そうな顔をして最後に出社してくることが常でしたが、どうやらリーダーの自覚がだいぶ出てきたようです。
「おはようございます……ふぁ ~」 「おお、近藤。
ちょっと意見を聞かせてくれないか」 「ふぁい」 「……やっぱりいい。
あとにする」 まだ半分寝ていると思われる近藤の様子を察して、木村は質問をやめます。
するとその時、智香がオフィスに入ってくるのが見えました。
また面倒な展開になると嫌だな、と心の中では思いつつ、一方で木村は智香の意見をぜひ聞いてみたい衝動に駆られていました。
「ちょっといいか」 「はい、何でしょうか?」 木村は、 FLAPがオープンした直後の顧客離れを防ぐための施策に何かアイデアがないかを智香に尋ねました。
その場にいた全員が淡い期待をしながら答えを待っていると、智香の口からは意外な言葉が発せられました。
「申し訳ありませんが、ないです」 「へ?」 「私はファッションの販売に関しては言わば素人です。
現場でのご経験が豊富な先輩のほうが、お客様の心を掴むアイデアは出てくるのではないでしょうか」 「ったく……オマエの言うことってさ、いつも正論過ぎるんだよな。
逆に俺にプレッシャーをかけてきやがった」 木村をはじめ、奈々や近藤にも笑みがこぼれます。
和やかな空気の中、木村は一呼吸置いて智香に自分の考えをぶつけてみることにしました。
ブランドスイッチさせない施策 「FLAPオープンの4月にぶつける形で 1か月間、全品 10%オフキャンペーンとかどうかなと思っているんだが」 「ぜ、全品ですか!? しかも 1か月間!?」 「けっこう思い切った仕掛けですね。
いままでやったことはないですよ!?」 「ああ、だが FLAPがオープンすれば、どうしても WIXY表参道店のお客様もそっちに足を運ぶことになるだろう。
さすがにそれは避けることはできない。
ならば、お買い得感で最終的にはウチを選んでもらう。
あわよくば FLAP目当てで表参道にきた新規客もいただいちゃおうという作戦だ」 「なるほど ~。
いざ勝負のタイミングで FLAPの商品を買わせないってことですね!」 「ということは、このタイミングでは多少利益が減ったとしても、戦略上それは目をつぶって、ということですか?」 複数の牛丼屋チェーンが期間限定で並盛り〇円キャンペーンなどをほぼ同時期に実施することがありますが、これも〝離れそうなお客様〟にブランドスイッチさせないための施策とも言えます。
木村の狙いはまさにこれでした。
「で、オマエはどう思う?」 「施策の狙いは理解できますし、決して的外れではないと思います」 「あれ? 〝全然ダメですね〟じゃないの?」 拍子抜けした様子の木村に対し、智香は表情を変えることなく答えます。
「私のこと、何でも否定するようなキャラだと思っていませんか?」 「ああ、実際何でも否定するじゃね ~か」 「それは先輩が明らかに間違ったことばかりしているからです」 「お、おい……」 思わず奈々がクスリと笑ってしまいます。
その姿を横目に、智香は言葉を続けます。
「BEP(ビーイーピー)を把握してから判断すればよいかと」
2 中学生でもわかるように説明してください BEP(ビーイーピー)って何? 初めて聞くその単語に、木村をはじめメンバーは戸惑います。
「ん? び ーい ーぴ ー??」 「何かの略ですか?」 「そうです。
Break Even Point(ブレーク・イーブン・ポイント)の略です」 「あれ? そのフレーズは聞いたことがありますね……」 その時、メンバーの会話に部長の福島が加わってきました。
いつの間にかオフィスにいて、メンバーの会話を聞いていたようです。
「損益分岐点だね、柴崎さん」 「はい」 「おお、その言葉なら聞いたことはあるぞ! 損益分岐点」 「では先輩、損益分岐点とは何でしょうか?」 「ん? そりゃ……アレだよ。
損益の……分かれ道……だ」 「そのままじゃないですか」 奈々が必死に笑いをこらえています。
損益分岐点は財務会計などで登場する専門用語ですが、決してお金の管理をするような会計の仕事だけに使うものではありません。
マーケティングや営業をはじめ、事業計画や製品開発など、さまざまな仕事において必要となる数字を使った考え方なのです。
「表参道店の損益分岐点というテーマであれば、その議論に必要な数字は私が持っている。
柴崎さん、いい機会だからみんなに説明してもらえないか」 「わかりました」 「やったぁ ~! 実はその言葉の意味、よくわかっていなかったんです ♪」 「ボクも意味合いは理解できていますが、どう使うのかは正直よくわかっていません。
ぜひ教えてもらいたいです」 「あ ~あ、また今日も始まるわけか」専門用語なしで BEPを理解しよう 会議室に移動したメンバーは智香を除き席につきます。
朝の貴重な時間、 1分たりとも無駄にはできません。
智香はすぐにペンを手に取り、説明を始めます。
「では始めます。
まずは、〝理屈〟から理解しましょう」 「リクツ?」 「はい。
単に専門用語を覚えたり、損益分岐点の求め方を公式のように暗記しても、現場では自在に使えるようにはなりません。
だから専門用語は極力排除して、理屈を理解してもらうことにします。
みなさんがこれからビジネスで実際に使えるようになるために」 「おお、確かに専門用語がないのは俺としては助かるな」 智香はホワイトボードに表と数字を素早く書きます。
智香自身がコンサルティング会社に勤めていた頃に先輩に叩き込まれた説明手法なので、もう身体が覚えている感覚です。
その表には売上高が 1000の時の費用と利益、同じく売上高が 900の時の費用と利益が整理されています。
売上高が 1000の時の利益は費用を引いた残りの 100( 1, 000 − 200 − 700)となります。
「当然、ビジネスには費用が発生します。
この費用というのは、大きく2つに分けることができます」 「それが売上に応じて増減する費用と売上に関係なくかかる費用ですね」 「そうです。
たとえば先輩の好きな〝おでん〟を屋台で営業するとします」 「おお、〝おでん〟ならイメージしやすいぞ」 「先輩がオーダーしたおでんの具材の原材料、つまり大根や卵の購入にかかる費用が〝売上に応じて増減する費用〟です。
たくさん売れれば増えますよね」 「ということは、たとえば出店費用は〝売上に関係なくかかる費用〟か?」 「その通りです。
売上があってもなくても必ずかかる費用です。
ではみなさんに問題です。
このホワイトボードのような商売をするとしたら、ちょうど利益がゼロになってしまう売上はいったいいくらでしょうか?」
智香が出した驚くべき条件 「ん? ちょうど利益ゼロ……?」 「それから大切なことをひとつ条件として加えます」 「……?」 「なぜその答えになるのかを、中学生でもわかるように説明してください」 「はぁ? 中学生? 何でだよ?」 「理由はいずれわかります(ニコッ)」 面倒くさいことを……と思いつつ、観念した木村は自分のノートを 1ページ破り、渋々考え始めます。
すると間もなく、近藤が手を挙げました。
「柴崎さん、おそらくこういうことかと」 「おっ!? 早いなオマエ!」 「あ ~、やっぱりワタシこういうの苦手だなぁ……」 「では近藤さん、みなさんに説明していただけますか?」 近藤は自分でペンを走らせたメモを片手に、ホワイトボードで説明を始めます。
先ほどまで眠そうだった近藤がどう説明するのか、興味津々な木村と奈々。
遠くからその様子をうかがう福島と智香。
会議室はまるで大学の「ゼミ」のようです。
一次方程式で説明がつく 「え ~と、まず知りたい売上高を Xと置きます」 「あぁ ~! 数学イヤ ~!!」 「わかる! 確かに Xという言葉だけでアレルギー起こすよな(笑)」 「ボクも決して好きではありません。
でもこのケースではたぶん簡単です」 そうなのです。
実際のところ、この問題はとてもシンプルな構造をしており、智香の言うように中学生でも十分理解できるものなのです。
裏を返せば、義務教育を終えている大人なら、これはきちんと中学生に説明できなければならないのです。
「えっと、売上に応じて増減する費用は売上高の 2割にあたるようですので 1/ 5 Xとなります」 「そうか。
そして売上に関係なくかかる費用は 700のままか」 「はい、そして利益はゼロです。
いま求めたいのは利益がちょうどゼロの時の売上なので」 「あ! もしかしてこれで式をつくるとか?」 「そうです。
方程式をつくって解いてみます。
柴崎さん、中学生だったら一次方程式って勉強していますよね?」 智香が微笑みながら頷きます。
「えっと、だから答えは 875。
これが、利益がちょうどゼロになる売上高ってことになります」 「近藤さん、ありがとうございます。
文句なしの解答ですね」 「な、なるほど……確かにそうなっているな」
近藤の解答が本当に正しいかどうか、木村は 875 × 1/ 5 + 700を電卓で計算してみます。
確かに結果は 875、つまり利益がちょうどゼロになる売上高は 875です。
なぜ「中学生でもわかるように」なのか 「柴崎センセイ ♪ でも、どうして〝中学生でもわかるように〟だったんですか?」 「いい質問ですね。
それは先ほども説明しましたが、専門用語や公式で覚えてしまうことを避けるためです。
なぜそういう計算をするのかを自分自身で説明できてはじめて 100%理解したことになりますし、もしイレギュラーな局面があったとしても自分で応用できるようになります」 「なるほど。
専門用語と公式だけの薄っぺらい理解では〝中学生〟に納得してもらうことはできないってわけだね」 インターネットや書籍などの情報では、「損益分岐点売上 =固定費 ÷限界利益率」といった専門用語を使った公式が多く紹介されています。
これを覚えてしまうことで一定の理解は得られるかもしれませんが、なぜこの割り算をすると利益がゼロになる売上が求められるのかを理屈からきちんとわかる必要がある、と智香は言っているのです。
「で、結論はこれが損益分岐点売上、オマエの言う BEPってやつなのか」 「その通りです」 「ふ ~ん、まあここまでは納得したよ。
でもさ、これがいったいどう割引キャンペーンと絡んでくるんだ? オマエの好きな数学の授業をただ単に受けさせられた気分で、どうにも今回のプロジェクトには使える気がしないんだが……」 木村の言い方はさておき、その指摘は的確でした。
いくら立派で美しい〝理屈〟があったとしても、実際の現場で使えなければビジネスパーソンにとっては「机上の空論」止まりです。
「そうですね、ではその先の話をしましょう。
ここからは損益分岐点を〝デッドライン〟という言葉で表現することにします。
これを下回ったらアウト、という意味で」 智香はチラリと福島のほうに目を向けました。
3 妥当性を判断するためのデッドラインの考え方デッドラインはどこか? 「では、さっそくですが先輩にいまから3つ質問をさせていただきます」 「ハッ! どうかひとつ、お手柔らかにお願い申し上げます」 なぜか敬礼しながらそう切り返す木村のユーモアに、智香は思わず笑ってしまいそうになりました。
「仮に全品 10%オフキャンペーンを 1か月間実施したとします。
当社にとって最も規模の大きい表参道店でのこの値下げは、かなりのインパクトと想像します」 「ああ、まあそうだな」 「まずひとつ目の質問です。
キャンペーンをしなかった場合の売上目標はいくらでしょうか?」 「ん? そりゃ当初の年間計画通り、 1000万円だよ」 「では2つ目です。
だとするならば、もしキャンペーンをした場合の売上目標はいくらでしょうか?」 「まだ決めていない。
まあやることになったら決めないとな」 「なるほど。
では最後の質問です。
もしキャンペーンを実施したにもかかわらず想定通り数字が伸びなかったとして、売上のデッドラインはいくらでしょうか?」 「デ、デッドライン?」 第 1章において、リーダーは目標とデッドラインを数字で捉えてメンバーに指示をする必要があると智香は説明していました。
ここでもまた、目標とデッドラインを数字で捉える必要があると、智香は言いたいようです。
絶対に〝赤字〟は出してはならない 「みんなには知っておいてもらいたいことだが、表参道店はオープン以来、一度も月間の収支で赤字を出したことがない店舗だ。
WIXYの旗艦店でもあるこのショップが赤字になることは、会社として絶対に避けなければならない。
ちなみにこれは社長命令でもある」 「部長、ということは柴崎が言っている〝デッドライン〟ってのが……?」 「そうだ。
損失を出さないギリギリの売上ってことだ」 木村をはじめ、メンバーも議論の本質が見えてきたようです。
割引をするのは簡単なことです。
しかし、その結果として収益はどう変わるのか? 仮に売上が不幸にも下がってしまったとして、どこまでなら下がっても損失は出ないのか? それを把握しておくことは重要ですし、そもそも本来は最初にそこまで把握してから割引の妥当性を判断し実行するべきなのです。
「そっか ~。
割引キャンペーンしたとしても、売上や利益がアップするとは限らないですもんね ~」 「そうです。
割引するという行為は、見方を変えれば売上が下降する機会を自ら意図的につくり出しているとも言えます。
だから、〝下降する〟ことも想定しなければならないのです」 「だから柴崎さんは先ほど BEP、いえ〝デッドライン〟を把握してから判断すればよいと言ったんですね」 「フン、わかったよ。
で、どうやって〝デッドライン〟を把握するんだ?」 「その答えが、先ほどの中学生でもわかる一次方程式の話です」 智香は表情を変えずに、淡々と説明を続けます。
中学生でもわかるデッドライン 「先ほどの中学生の話で登場した2つの費用を思い出してみましょう。
売上に応じて増減する費用と売上に関係なくかかる費用、でしたね」 一同が頷きます。
そして智香は福島に視線を移し、それに気付いた福島も「そろそろ出番か」と言わんばかりに姿勢を少し直して智香の言葉を待ちます。
「現状の表参道店のこの2つの費用、月額でいくらくらいかかっているかは福島部長ならきっとご存じではないかと思いますが、いかがでしょう」 「月によって多少のバラツキはあるが、まず売上に応じて増減する費用は、売上高の 30%。
続いて、売上に関係なくかかる費用は、家賃が 120万円、光熱費が……」 福島が口頭で伝える概算の数字をメンバーはメモにとっていきます。
「ちなみに広告宣伝費。
たとえばファッション誌への広告出稿などは、決して表参道店の PRだけが目的ではないけれど、他店舗と規模を比べて相対的に按分すればこのくらいかけていることになるんだ」 「確かに広告宣伝はかなり表参道店に比重を置いています。
ファッション誌、表参道界隈のタウン情報誌、駅のポスター、ダイレクトメールの印刷……、こうして改めて数字を見ると、わかっていたこととは言え、やっぱりお金を使っていますね……」 「こうして見ると人件費ってけっこうかかっているんですね。
人数も多いし、経験豊富な人材を採用していることもあるのでしょうか」 「わっ! 家賃ってこんな高いんだ。
まあ場所が場所だけに、仕方ないのかなぁ」 智香は営業部員の会話を聞きながら、そのコスト意識の低さに内心驚いていました。
確かに営業やマーケティングなどの仕事は攻守で言えば「攻め」の仕事。
何が売れたのか、売上はいくらか、といったわかりやすい結果には興味があるものの、どんなコストがいくらかかっているのかには、なかなか意識が回らないものです。
「みなさん、いい機会ですからこのタイミングでコストの規模感も掴んでおきましょう。
おそらくショップスタッフさんはここまでの数字には関心がないと思います。
私たちがしっかり把握して、ディレクションしなければなりません」 「そうだな。
むしろこういう数字を知ろうとしていなかったことをマズイと思わないといけないのかもしれない」 「まあその責任の大半は私にあるがな。
あははは ~」 福島の乾いた笑いによって会議室は微妙な空気に包まれます。
それを察した智香がホワイトボードに向かって表と数字を書き始めました。
「ここからが大切です。
もしキャンペーンをしなかったとしたら、当初の目標は売上高 1000万円でした」 「そうだ。
この場合の売上に応じて増減する費用は売上高の 30%だから 1000万円 × 3/ 10 = 300万円だな」 「そうです。
そして売上に関係なくかかる費用は、先ほど部長がおっしゃっていただいた数字をそのまま使い、 630万円」 「ということは、利益は引き算をして( 10, 000, 000 − 3, 000, 000 − 6, 300, 000 =)…… 70万円?」 「そ、そんなに少ないの……?」 そうなのです。
表参道店は WIXYの店舗の中で最も規模が大きく、売上額自体もナンバー 1です。
にもかかわらず、稼ぎ出す利益が非常に少ないのです。
「……これはさすがにマズイ。
いままで単に売上の前年比やアイテム別のセールス・ランキングばかり気にしていたが、そんなことを気にしている場合じゃないぞ……」 「そうですね。
では、続いて先ほどの中学生問題と同じように、表参道店の利益がちょうどゼロになる売上高はいくらかを把握することにしましょう。
じゃあ今度は先輩」 「ん? えっと……確か近藤がさっきやったのは、売上を Xと置くんだよな?」 「その通りです」 「おお! 900万円って数字が出てきたぞ(次の図参照)。
ということはつまり……」 「もしキャンペーンをしなければ 900万円がちょうどデッドラインってことですね ♪」 「そういうことです。
万が一、 900万円を下回ったら、損失が出るということをこの数字は教えてくれています」
「ちなみに広告宣伝費。
たとえばファッション誌への広告出稿などは、決して表参道店の PRだけが目的ではないけれど、他店舗と規模を比べて相対的に按分すればこのくらいかけていることになるんだ」 「確かに広告宣伝はかなり表参道店に比重を置いています。
ファッション誌、表参道界隈のタウン情報誌、駅のポスター、ダイレクトメールの印刷……、こうして改めて数字を見ると、わかっていたこととは言え、やっぱりお金を使っていますね……」 「こうして見ると人件費ってけっこうかかっているんですね。
人数も多いし、経験豊富な人材を採用していることもあるのでしょうか」 「わっ! 家賃ってこんな高いんだ。
まあ場所が場所だけに、仕方ないのかなぁ」 智香は営業部員の会話を聞きながら、そのコスト意識の低さに内心驚いていました。
確かに営業やマーケティングなどの仕事は攻守で言えば「攻め」の仕事。
何が売れたのか、売上はいくらか、といったわかりやすい結果には興味があるものの、どんなコストがいくらかかっているのかには、なかなか意識が回らないものです。
「みなさん、いい機会ですからこのタイミングでコストの規模感も掴んでおきましょう。
おそらくショップスタッフさんはここまでの数字には関心がないと思います。
私たちがしっかり把握して、ディレクションしなければなりません」 「そうだな。
むしろこういう数字を知ろうとしていなかったことをマズイと思わないといけないのかもしれない」 「まあその責任の大半は私にあるがな。
あははは ~」 福島の乾いた笑いによって会議室は微妙な空気に包まれます。
それを察した智香がホワイトボードに向かって表と数字を書き始めました。
「ここからが大切です。
もしキャンペーンをしなかったとしたら、当初の目標は売上高 1000万円でした」 「そうだ。
この場合の売上に応じて増減する費用は売上高の 30%だから 1000万円 × 3/ 10 = 300万円だな」 「そうです。
そして売上に関係なくかかる費用は、先ほど部長がおっしゃっていただいた数字をそのまま使い、 630万円」 「ということは、利益は引き算をして( 10, 000, 000 − 3, 000, 000 − 6, 300, 000 =)…… 70万円?」 「そ、そんなに少ないの……?」 そうなのです。
表参道店は WIXYの店舗の中で最も規模が大きく、売上額自体もナンバー 1です。
にもかかわらず、稼ぎ出す利益が非常に少ないのです。
「……これはさすがにマズイ。
いままで単に売上の前年比やアイテム別のセールス・ランキングばかり気にしていたが、そんなことを気にしている場合じゃないぞ……」 「そうですね。
では、続いて先ほどの中学生問題と同じように、表参道店の利益がちょうどゼロになる売上高はいくらかを把握することにしましょう。
じゃあ今度は先輩」 「ん? えっと……確か近藤がさっきやったのは、売上を Xと置くんだよな?」 「その通りです」 「おお! 900万円って数字が出てきたぞ(次の図参照)。
ということはつまり……」 「もしキャンペーンをしなければ 900万円がちょうどデッドラインってことですね ♪」 「そういうことです。
万が一、 900万円を下回ったら、損失が出るということをこの数字は教えてくれています」
「なるほど、そう使うのか。
確かにさっきの中学生問題と同じだ」 「すいません、柴崎さんに質問です。
じゃあ 10%オフキャンペーンをやったとして、月間の売上が当初の目標の 1000万円のちょうど 10%ダウン、つまり 900万円で着地したとしたら、どうなるんでしょう?」 「近藤さん、いい視点ですね。
これは私がホワイトボードでお見せします」 智香がサッと数字を書き込んでいきます。
この場合、 10%割引するだけだから、費用の合計は変わらずに 930万円です。
ですから売上が 900万円の時は、そもそも 30万円の損失が出てしまいます。
「1/ 3 Xというのは……?」 「売上に応じて増減する費用 300万円が、売上 900万円の 1/ 3、つまりおよそ 33%になっているからだな」 「あっ、ワタシわかりました ~♪ 今度は『 2/ 3 X = 6, 300, 000』を計算すればいいってことですね ~」 「そうか! つまり 10%オフキャンペーンをするなら、 945万円がデッドラインってことだ!」 「そういうことになります。
どうですか? 実際キャンペーンをしたとして、いまの表参道店は売上高 945万円を死守できそうですか?」 「う ~む…… FLAPが出店することを考えると、微妙な数字だよな ~」
4 リアリティある数字で判断しよう微妙な数字をピンとくる数字に ここまで数字で深掘りしてみたのですから、「微妙な数字」のまま判断するのは少々もったいないというもの。
できることなら、もう少し彼らにとってリアリティある数字に置き換えて判断できればなおよしです。
「先輩、キャンペーン実施をしなかった場合は、もともと4月の計画として購入件数はどのくらいを予定していたのでしょうか」 「ん? 平均客単価の 3万 3000円で目標値の 1000万円を割って……ざっと 300件かな」 「ということは 1日あたり何件ですか?」 「ん? 300件をざっくり 30日で割って…… 1日あたり 10件。
まあ確かに実際そんなもんだ」 「ひとつご提案です。
デッドラインの売上額よりも 1日あたりの客数のほうが先輩にとってピンときやすくリアリティある数字なのであれば、その数字で考えてみてはどうでしょうか?」 「どういうことだ?」 「キャンペーンを実施した際に、デッドラインを死守するためには 1日あたり何人の購入者が必要なのかを掴むということです」 「なるほど ~! それはいいアプローチだな!」 木村は電卓の Cボタンを押し、自分自身で考えながらゆっくり数字のボタンを叩いていきます。
デッドラインとなる売上 9, 450, 000 平均購入単価(全品 10%オフ) 33, 000 × 0. 9 = 29, 700 必要となる購入件数 9, 450, 000 ÷ 29, 700 ≒ 318 1日あたり必要な購入件数 318 ÷ 30 = 10. 6 ≒ 11 「1日あたり 11件。
ということはつまり……」 「11 − 10 = 1。
1日あたり 1件ずつ購入件数を増やせるのなら、このキャンペーンはアリということでしょうか」 「そういうことになります。
絶対に損失は出さないという前提のもとに考えるなら、今回の 10%オフキャンペーンは 1か月間、 1日あたり 1件ずつ購入件数を増やせる施策なのかどうかという問題に換えることができます。
こちらのほうが判断するにあたってイメージしやすいのではないでしょうか」 「確かに……悔しいが中学生問題、ビジネスで使えるな」
苦いお茶を飲んだ時のような表情の木村ですが、心の中では今回のキャンペーンの議論がとてもシンプルな問題に換わったことに驚きと嬉しさを感じていました。
そう、これが仕事で数字を使うということであり、数字の威力なのです。
ついに決断の時 「これは私の私見でもあるが……」 「部長、何ですか?」 「我われが先日のミーティングで決めたように、表参道店のスタッフには業務効率化を意識させることになった。
そしてまだ FLAPのオープンまで日数はある。
短期間ではあるがこの間でスタッフの接客への意識やパフォーマンスが向上すると仮定すれば……」 「1日あたり 1件の購入件数増加は十分可能、ですね」 この福島と木村の意見には他のメンバーも納得の表情をしています。
どうやら結論は出たようです。
「先輩、どうします?」 「よ ~し、決まりだ! かなり大胆な仕掛けになるけれども勝負をかける! 4月 1日から 30日まで 1か月間の長期キャンペーンだ!」 「わかりました。
1日あたり 1件の購入件数増加がマストであることは、ショップスタッフにもアナウンスが必要ですね」 「ああ。
部長、よろしいでしょうか?」 福島は無言で首を縦に振ります。
自分の発案が見事に通り、木村は少しばかり興奮状態です。
「よ ~し、何だか気合が入ってきたぞ!」 「先輩、何だかカッコいいです! ファイト ♪」 「おお! ありがとう! 何か奈々ちゃんにそう言われると不思議とやる気が出ちゃうんだよね ~(デレデレ)」 締まりのない顔をした木村を横目に、近藤が奈々に尋ねます。
「あの……ずっと前から島田さんに聞こうと思っていたんですけど……学生時代に部活は何をしていましたか?」 「急にどうしたんですか? えっと ~、ワタシはずっとサッカー部のマネージャーでした。
運動より応援が得意 ♪」 「……やっぱり」 営業部メンバーの明るい笑い声が会議室の外まで聞こえてきます。
その様子を外でこっそり聞いていた社長の佐野が、クスリと笑いながら立ち去っていきました。
5 デッドラインを超える可能性を数値化する智香なりの気づかい その日の夜 8時。
木村はオフィスでパソコンに向かって黙々と仕事をしていました。
すでにオフィスにはほとんど人はいません。
このところ毎晩遅くまで残って仕事をしている木村ですが、重要なプロジェクトのリーダーゆえ多少は仕方のないことかもしれません。
すると、木村の目の前にスッと横からコーヒーカップが差し出されました。
「シワ寄っていますよ」 「あ? シワ?」 「ええ、このところ先輩の眉間には、ずっとシワが寄っています」 「フン」 「少しは休むことも必要ですよ」 木村は手を止め、ようやく智香の顔に視線を送ります。
少し考えたあとに、差し出されたコーヒーカップを受け取りました。
「明日は休みだから、今夜中にやれる仕事はやってしまわないと。
何せ既存の仕事もある中での表参道店プロジェクトだからな」 「そうですね。
ところで先輩は休日ってどんなことをしているんですか?」 「休日? オマエがそんなこと聞くなんて珍しいな。
ついに俺のプライベートにまで興味を持つようになったか?」 「別に興味はありません。
やっぱりいいです。
忘れてください」 「わかったわかった! ホント冗談が通じないんだよな……(苦笑)」 「少し気分転換を」という智香の気づかいであることがわかっている木村は、雑談に付き合うことにしました。
正反対な性格であるがゆえに、普段はケンカ口調になることもしばしばなので、たまにはこんな会話をすることも 2人にとっては必要かもしれません。
「休日はやっぱり買い物が多いかな。
ファッションに限らず〝店〟ってものを見たり感じたりすることが好きだな。
あとは居酒屋」 「居酒屋、ですか?」 「ああ、いわゆるシャレたレストランとか苦手でさ。
居酒屋でビールに焼き鳥が最高! もちろん、おでんも必須だな」 「私のイメージ通りです。
で、どなたと行くんですか?」 「え!? そりゃまあ……その……アレだよ」 「アレ……ですか?」 「そ ~だよ、アレだよ」 「どれですか?」 「だ ~か ~らぁ ~」 2人の表情がほぼ同時に緩みます。
「逆に質問するぞ。
オマエはいったいどんな休日の過ごし方をしているんだ? 近藤や奈々ちゃんも〝謎ですね〟って言ってたぞ」 「私はカフェで読書していることが多いですね」 「俺のイメージ通りだな……(苦笑)。
そういえば、いままで聞いたことなかったけど……」 「……?」 「まさかとは思うけれどその……彼氏とかいるの?」 「(カチン)〝まさかとは思うけれど〟ってどういうことですか?」 「あ……」 再び 2人の表情に笑みが浮かびます。
どうやら智香のプライベートは秘密のようです。
そんな和やかな空気の中、木村はふとあることを思い出しました。
すぐに真顔に戻って智香にこんな質問を投げかけます。
再び、「目標」と「デッドライン」 「そうだ、ひとつ聞きたいことがある」 「はい、何でしょうか?」 「今朝のミーティングの中で俺に3つ質問をしたよな。
そのうちの 2番目、〝もしキャンペーンをした場合の売上目標はいくらでしょうか?〟の答えがまだないなと思ってさ」 「そうです。
よく覚えていましたね」 「もしかして、別の日にでもこの話をするつもりだった?」 「まあそうですね。
でもせっかく話題に出ましたから、いまここで話しましょうか」 突然イレギュラーな割引キャンペーンを実施することになったショップのスタッフにしてみれば、売上 945万円というデッドラインも重要な情報ではありますが、4月の 1か月間でいくら売ればいいのかという目標値も当然ほしいはずです。
その数字がまだ弾き出せていないのです。
「ひとつ質問してもよろしいでしょうか?」 「まあダメって言ってもするんだろ? 手短に頼むぜ」 「はい、ではさっそく。
先輩はデッドライン値と目標値が近い計画と離れている計画、どちらのほうが損失が出る危険性が高い計画だと思いますか?」 「ん? そりゃ近いほうがヤバイ計画じゃねえか?」 「それはなぜでしょうか?」 「だって、仮に結果が目標値に対してショートしたとしても、デッドラインが離れていれば最悪の結果(損失)は免れる可能性が高いからな」 「その通りです。
ではその危険性を数字で表現するとしたら、どうすればよいでしょう?」 「数字で表現? また難しいことを言うなオマエは……」 木村のその言葉を聞いた智香は、すぐにデスクにあった裏紙を 2人のデスクの間に置き、ペンを持って説明を始めます。
「専門用語を使うと一気に難しく感じるので、先輩にとって馴染み深い言葉で説明したいと思います。
そうですね……〝ヤバイ指数〟とでもしましょう」 「ヤ、ヤバイ指数??」 「……はい。
とりあえず説明を続けます」 自ら妙なネーミングをしてしまった智香自身、何だかちょっぴり恥ずかしそうです。
逆に木村はその〝ヤバイ指数〟がいったい何なのか、一気に興味が湧いてきました。
〝ヤバイ指数〟はこう見る 「ヤバイ指数は、『デッドラインの売上 ÷目標売上』で求められます」 「え? 単純に割り算するだけ?」
「ええ、でもこれだけで損失が出る危険性を表現できます。
たとえばキャンペーンなしの当初の計画の場合を、仮に計画 Aとしましょう。
目標 1000万円に対してデッドラインは 900万円でした。
つまりヤバイ指数は?」 「900万円を 1000万円で割るから…… 90%ってことか?」 「そうです。
簡単ですよね。
ちなみにキャンペーンを実施した場合、今朝の議論の通りデッドラインは 945万円ですから仮に目標売上が 900万円だとすると?」 「えっと、 105%。
あれ、 100%を超えちゃったけどいいのか?」 「いいんです。
これを計画 Bとしておきましょう。
100%を超えるということは、目標売上がそもそもデッドラインを下回っているということを教えてくれています。
つまり目標通りに売っても損失が出てしまいます」 「そっか、朝の議論で近藤が言っていたケースだな。
確か 30万円の損失が出るって話だった」 智香は続けて 3パターンほど数字を書き加えていきます。
木村は目でそれを追いかけながら、自分自身で理解しようと試みます。
「この計画 Cは当然、ヤバイ指数 100%です。
計画 Dなら 94・ 5%。
この 94・ 5%という数字を先輩はどう解釈しますか?」 「あ? 解釈って言われてもなぁ……極めて損失が出やすい計画、とか?」 「そうですね。
あとは目標売上高が同じ 1000万円の計画 Aと比較した時、実はこの計画 Dのほうが損失を出す危険度は高いと捉えることができます」 「おお ~そう見るのか。
ということは、〝ヤバさ具合〟という意味合いでは、計画 Aと計画 Eは同じと考えることができるってことだな!」 「その通りです(ニコッ)」〝ヤバイ指数〟で計画の質を見極める 智香の命名した〝ヤバイ指数〟は目標売上を基準としたデッドラインの相対的な位置を表現する数字です。
つまり割り算で質を評価した数字になるので、このように異なる各ケースであっても同じ土俵で評価ができるのです。
たとえばテーマパーク事業とコンビニエンスストア事業を比較したければ、単純に利益額などで比較せずに割り算した利益率という指標で質を比較するのと同じです。
「ということは、本来は計画 Aだったわけだから、今回キャンペーンをするのであれば最低でも計画 Eの売上を目標にするべきということか?」 「そうですね。
キャンペーンを実施することで計画の質が下がらず、少なくとも同じ質をキープするという観点ではそういう解釈になります。
実際、計画 Eでの利益額を算出してみますと……」 「70万円」 「利益が 70万円。
この数字を以前どこかで見たことありませんか?」 「……そうだ! 計画 Aでの利益も 70万円だった」 「ご名答です。
だから Aと Eの計画の質は同じなのです。
つながりましたね」 「ほぉ ~。
いや、うまくできているなぁ ~」
こうして 2人は、 10%オフキャンペーンを行う以上は当初の利益計画と同じになるように売上 1050万円を目標値にするべきという結論を得ることになりました。
それでも利益はたった 70万円です。
ショップスタッフには「売上 1050万円は目標であると同時に、必達の数字だ」というメッセージとともに伝えられました。
IZAKAYA TALK 6 「ネガティブシナリオ」を想定しているか 翌日、木村は千春と夕方から待ち合わせ、いつもの居酒屋に入りました。
メニューを見ることもなく 2人はすぐにビールと焼き鳥の盛り合わせ、おでんとサラダを注文。
今日もいつもの居酒屋デートがスタートです。
「プハ ~。
あ〜ウマイ!」 「今日もいい飲みっぷりね。
最近遅くまで仕事しているみたいだけど大変なの?」 「まあね」 「私の職場でも、すっごい仕事が好きで尋常じゃないくらい忙しい人がいるんだけどさ、つい先日体調を崩しちゃって会社を休んでいるの」 「ふ ~ん。
そうなんだ」 「仕事ってチームでするものじゃない? 正直、休まれちゃうとキツいんだよね」 「そうか、千春のいるチームにとってその人が休むのは最悪のケースってわけだ」 そんな会話をしながら、木村は〝デッドライン〟の話を思い出していました。
仕事においてデッドラインを超えてしまうという状況は言わば最悪のケースです。
「こういうこと言うと語弊があるかもしれないけれど……」 「ん?」 「いわゆる〝デキない人〟ってネガティブシナリオを想定しない人な気がするの」 「ネガティブシナリオ?」 「そう、上手く言えないけれど……悪い方向に進むこと、最悪のケースになること、そういうことを想定せずに成功することしか頭にないまま突っ走るって感じ?」 千春の言葉を聞いて、木村は思わず箸を止めました。
まさに自分のことを言われているような気がしたのです。
このように、たまに千春は木村をドキッとさせるようなことを言うのです。
「まあ、仮に悪い方向に進んだとしても〝これ以上はダメだよ〟、ていうデッドラインを知っていると仕事で大怪我することはないよな」 「そうそう、仕事ではポジティブシンキングだけではダメなのかもしれないわね」 そう呟きながら、千春は次の飲み物を選ぼうとメニューを物色中です。
すると、意外な人物が横から声をかけてきました。
「あれ、木村じゃないか?」 「お、おう……」 「また会ったなぁ! いや奇遇だな」 なんと、つい先日も智香と一緒に表参道でバッタリ遭遇した大沢和也がたまたま店内にいたのです。
ぎこちなく千春を紹介する木村とは対照的に、大沢は間もなくオープンする FLAP表参道店、つまりライバル店舗の店長であることを楽しげに千春に説明してきました。
「……そうなんですか」 「そうなんですよ。
言わば俺と木村はこれから戦う者同士ってことなんです」 「……」 「おい木村、 WIXYはウチがオープンする来月に何か仕掛けをするのか?」 「そんなこと言えるわけないだろう……」 「そりゃそうだ(笑)。
まあでもウチは絶対負けないよ。
ウチも大々的に……ってこれ以上はさすがに言えないな。
あはは」 無表情の木村。
2人を交互に見つめる千春。
この場の重い空気を察した大沢は、「じゃあ」と挨拶して店の奥に消えていきました。
「……何となく勘なんだけど」 「ん?」 「あの彼と何かあるの?」 「いや、別に何も」 「ふ ~ん。
ついでにもうひとつ、何となく勘なんだけど」 「……?」 「あの彼、自分たちのブランドが負けるシナリオなんて、考えたことないかもね」
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