はじめに
ファクトフルネスの時代に必要なただひとつの思考法「思考習慣」があなたを変える
本書を手に取っていただき、ありがとうございます。
さっそくですが、これまでにもあなたはビジネス系のセミナーに足を運んだり、勉強のためにと書籍を買い求めたりしたことがあるのではないでしょうか。
実際、いまも多くの書籍やセミナーなどで仕事の効率化や能力を高めるための方法が語られています。
さて、そんなあなたに質問です。
「それらのおかげで実際に仕事の成果が上がりましたか?」私はこれまで数多くのビジネス書を書き下ろし、年間で数十件にもなる企業研修やビジネススクールの講義に登壇してきました。
「もっと仕事の能力を高めたい」「もっと仕事で成果を出せるようになりたい」といった願いがあるからこそ、彼らは貴重な時間を使って書籍を読み、セミナーに足を運んでくださいます。
そんなビジネスパーソンが学ぶ現場の最前線にいる私がこんなことを言うのは不適切かもしれません。
がしかし、それでもこう言わざるを得ません。「それだけで成果が上がることはあり得ない」なぜか。それは、巷に溢れているメソッドや方法論が、本質的な問題解決につながっていないからです。
例えば思考力というテーマがあったとします。書籍やセミナーで「考え方」を学ぶことはできます。しかし、「考える力」は身につきません。
そのあとに正しい行動を習慣にした人だけが、「考える力」を手に入れることができる。本質とは思考習慣ということになります。
「数字で考える」ですべてを手に入れる
私はあなたに「数字で考える」ことを習慣にしていただきたいと思っています。
数字で考えるメリットについては本書の第1章で詳しくお伝えしますが、いま思いつくだけでもこれだけのものがあります。
- いまあなたの目の前にある問題を解決できる可能性が高まる
- いわゆる論理的思考力が飛躍的に高まる
- プレゼンテーションに説得力や信頼感が生まれる
- 上司や部下、あるいはお客様など、相手を動かす力が手に入る
- 思い込みで間違った判断をする可能性が激減する
- 仕事の生産性やスピードが飛躍的に上がる
これらをまとめて仕事の「質」と表現するのであれば、本書でお伝えする「数字で考える」を思考習慣にすることで、きっとあなたの仕事の質が劇的に高まるでしょう。
なぜそう言い切れるのか。私はこれまで延べ1万人以上のビジネスパーソンを教育研修の現場で見てきました。成果を出す人、つまり仕事の質が高い人は何ができるのか。
それを突き詰めていったとき、その答えがはっきりわかったのです。次の3行がそのすべてです。
- 仕事の質=「考える」の質
- 「考える」の質が高い=「考える」が数字を用いて行われている
- 「考える」が数字を用いて行われている=「数字で考える」
を習慣にしてきた彼らに共通するのは、みな「数字で考える力」が身についていること。それはすなわち、本書でお伝えすることを「知っている」のではなく「習慣」にしてきた人です。
ただただ、徹底的に数字で考える習慣を持つこと。
これだけでビジネスパーソンとしての力はワンランクどころか、圧倒的なレベルに到達することができるようになるでしょう。
ファクトフルネス時代にこそ必要な数字を操る力
仕事の成果を出すためだけではなく、これからの時代は、より数字で考える力が必要とされるようになってきています。
なぜなら「ファクトフルネス」というデータで世界を正しく読む時代になったからです。誰もが簡単にデータや情報を手に入れることができるようになりました。
この時代に必要な力とは、データを調べ、ファクトをチェックする力、思い込みで予測しない力などと言われます。
確かにその通りです。しかし、多くの人がこの「確かにその通りです」で終わってしまうように思うのです。もったいない。あなたはそうではなく、そこから一歩前に進んでみませんか。
数字ベースで考える思考習慣を持つのです。
普段から数字で考えることができていない人は、どんなに数値化された情報や事実としてのデータがあっても読むことも、使いこなすこともできません。
それができなければ、正しく現状を理解できず、思い込みの中で仕事をし続けることになってしまいます。
これもすべて数字で考える習慣を持っていれば解決できること。そう断言します。徹底的に数字で考える。これこそがファクトフルネスの時代に必要なただひとつの思考法なのです。
本書では、数字が苦手と感じている人から、数字をもっと使いこなしたい人、物事を数字で考えるようになりたい人、すべての人が学び、実践できるように書いています。
数字が苦手と感じている人であっても四則演算(+-×÷)ができれば、誰にでもできるものです。
この本が、あなたの仕事や人生の一助となれば、著者としてこれほど嬉しいことはありません。
深沢真太郎
なぜ、数字で考える必要があるのか?
さっそくですが、想像してみてください。あなたはある営業マンのセールストークを聞いています。例えば保険。あるいは投資商品。
さて、あなたがそのセールスマンから最も聞きたいことは何でしょうか。あなたがもっとも知りたい情報は何でしょうか。おそらく、「メリットはなんなのか?」でしょう。
値段よりも、ほかの商品との差別化要素でもなく、それを手にすることで自分の人生にどんなメリットがあるのか。
それを知りたいと思うのが、素直な気持ちでしょう。人はメリットがわからないものを購入できません。同じように、メリットがわからないことを「やれ」と言われてもまずやれません。
よく自己啓発書などには「メリットやデメリットなど考えず、まずは目前にある与えられたことを一生懸命やりましょう」といった類の正論が書かれています。
その通りだとは思います。
しかし、残念ながら人はそのようにできていません。とりわけビジネスパーソンは、何かを判断する際、常に「メリットは何か?」を考えています。
- 新しいシステムを導入するメリットは何か。
- 中途採用で1名採用するメリットは何か。
- 数字に強くなる研修を導入するメリットは何か。
基本原則として、人はメリットがあるから行動するのです。
前置きが長くなりました。申し上げたいことは、まずは一緒に「数字で考える」ことのメリットを確認しましょうということです。
すでに、あなたがなんとなく思い描く答えはあるかもしれません。
それでも、あらためて私たちビジネスパーソンがなぜ数字で考える必要があるのかを言語化しましょう。結論から言えば、あなたにはメリットが3つあります。ひとつずつ説明していきます。
「数字で考える」がもたらす3つのもの
問題解決能力が高まる
まずひとつめ。一言で言えば、問題解決できるということです。
例えば、あなたの会社が次のような問題を抱えていたとします。
- A売り上げを1億円達成するために広告宣伝費はいくら必要か。
- B来年の新卒採用者数は何名が妥当か。
- Cどうすれば新規事業の売り上げが伸びるか。
もしあなたが企業にお勤めなら、このような解決しなければならない問題が山積みのはずです。これらの問題を解決できるかどうかは、あなたの成果や評価に直結します。この問題解決するという行為は、大きく2つに分解できます。
- ①問題を作る
- ②解決する
という具合に。
つまり、問題解決とは次のようにできているのです。
問題解決する(100%)=問題を作る(50%)+解決する(50%)
ここで2つに分解するのには理由があります。
問題解決する仕事のうち、実際はこの「解決する」仕事は全体の50%に過ぎません。残り50%の「問題を作る」仕事があるからです。
問題を作れない人は永遠に問題解決できない
私はこれをとても重要なことだと考えています。なぜなら、問題の半分は、「問題になっていない問題」だからです。
例えば、先述したA、B、Cの問題。
どれも数字で考える必要がありそうな問題ですが、この中で、ひとつだけ種類の異なるものがありますよね。
それはC「どうすれば新規事業の売り上げが伸びるか」です。なぜなら、AとBは数値を求めることがはっきりしている問題ですが、Cは違います。
答えは具体的な数値ではなく、「どうすればいいか?」という明確な答えのない問題です。
ビジネスで必要になる問題解決は、Cのパターンが圧倒的に多いはずです。
このような「具体的な答えを出す問題として未完成なもの」を前にしたとき、私たちがすべきことは「解決する問題をもっと具体化」することです。
例えばCのテーマであれば、売り上げが伸びない原因が「客数」にあるのか「価格設定」にあるのかなどを具体化し、把握しなければなりません。
仮に客数が少ないことが原因となれば、どうやって、どれくらい増やすのかを定めて、客数を増やす方法を実行することが求められます。
このように数字で考えるという行為は、曖昧な状態から具体的な問題を作り、そして解決することに役立ちます。ここについては第2章で深掘りしていきます。
説得力のあるプレゼンテーションができる
続いて2つ目のメリット。一言で言えば、説得力という〝香り〟を身にまとえることです。
私は仕事柄、多くの企業やビジネススクールなどで研修を行っています。
彼らに「なぜこの研修に参加したのか?」と尋ねると、たいていの方がこのように答えます。
「自分の主張に説得力がない。だから提案が通らない。ここに大きな課題を感じているので、学びに来ました」私もかつて同じように悩んだものです。
すでに実感されていることだと想像しますが、ビジネスでは数字が入るだけで伝わり方が劇的に変わります。次の2つを見比べてみてください。
A「広告宣伝費は1000万円が必要です。費用対効果を上げられるよう頑張ります」
B「当社の広告宣伝費1円あたり売上高は3年前から7円、8円、9円。少しずつですが最適化され、効率よく売り上げを得られるようになってきました。今年は10円を目標にマーケティングを行います。売り上げ予算は1億円ですので、今年の広告宣伝費は1000万円が必要になると考えます」
後者のほうが仕事を進められる人であることは、言うまでもないでしょう。
ビジネスの世界は、説得の連続です。説得できるのは、熱意でも話し方でもなく、事実にもとづいた覆しようのないロジックです。
それを可能にするのが、数字で考え、数字で説明するということ。
ビジネスでは、説得力は強力な武器であり、あなたの成果や評価に直結します。私はこの説得力というものは〝香り〟と同じだと思っています。
例えば「いい香りのする男性はモテる」という考え方があるとします。
多くの女性が頷きます。
しかし、よく考えるとその男性が〝いい香り〟をまとったときとそうでないときで、容姿や性格などはまったく同じです。にもかかわらず、〝香り〟でこうも評価が変わる。
「説得力あるプレゼンテーション」と「説得力のないプレゼンテーション」の違いは何か。
堅い表現をすれば、「数字を使っているプレゼンテーション」と「数字を使っていないプレゼンテーション」です。
しかし私はこの違いを、「〝いい香り〟がする男性」と「無臭(?)のとても似た男性」の違いだと理解しています。
うまくいく・うまくいかない。
その違いなんて、現実はこんな細部のことだったりします。ぜひあなたも〝香り〟を身にまとえるようになりましょう。
ファクトベースの信頼感が持てる
最後に3つ目のメリット。一言で言えば、信頼されるということです。
なぜ数字で考えることができるビジネスパーソンは信頼されるのか。
なんとなく「たしかに、そうかもね」で終わりそうですが、私はここをしっかり解説したいと思っています。さっそくですが、あなたはこちらの本をご存じでしょうか。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP社)。
2019年に日本でも発売され、ビジネス書としてベストセラーになっています。これからの時代を生きるビジネスパーソンにはぜひ読んでもらいたい一冊です。
この本で書かれていることを一言で要約すると、「我々のいる世界は今後、事実(数字)をベースにして考えたり話したりすることが常識になる(しなければならない)」ということです。
調べればなんでも情報が手に入る時代。あらゆるデータを簡単に取得できるようになりました。つまり、思い込みや主観で物事を論じる人の「ウソ」はすぐにバレてしまいます。
例えば私が、メディアや研修の現場などで、あまり詳しく調べることなく、「日本では少年犯罪が増えている」と発言したとしましょう。
確かに卑劣な犯罪も多く見聞きするため、その場では「ふーん、まあそうかもね」と納得してしまうかもしれない。
ところが調べてみると事実(数字)は違っている、なんてことが多々あります。実際のデータでは、少年犯罪は増えているどころか減っています。
このように、事実(数字)ベースで語らないと、簡単に「ウソつき」認定されることになります。そして、調べてもいないことを発言する人として、その後の発言の信用は一気に失われてしまうでしょう。
少し違った角度からも話をしてみましょう。私はプロスポーツ選手や指導者の研修にも登壇します。
いろいろな話を伺いますが、いまはプロスポーツの世界でもデータを駆使して戦略を練る時代とのこと。
あるバレーボールの試合で、監督がタブレットを片手に持ってデータを見ながら指示をしている姿がありました。あなたもテレビ中継などで見たことがあるかもしれません。
あるいはサッカー中継などを見ていても、簡単に両チームのボール保有率や選手の移動距離などをデータで持つことができることに驚かされます。
事実(数字)ベースで話さず、「お前は走りが足りない!」なんて選手に怒鳴るコーチは、おそらくいなくなるのだろうと想像します。
まとめると、「時代」に乗り遅れたビジネスパーソンは信頼されないということ。ではその時代とは何か。事実(数字)をベースにして物事を論じることが常識になる世界のことです。
数字で考えるということは、数学や算数ができることではなく、数字ベースで考えるために、しっかりとファクト(事実)を捉え、そこから考えることを指します。
ファクトの数字から考えられる人は、自然と信頼感が上がっていくのです。そしてそれは間違いなく、あなたの成果や評価に直結します。
3つのメリットに共通すること
ビジネスパーソンがなぜ数字で考える必要があるのか。その答えとして、3つのメリットがあることをお伝えしました。あらためて整理します。
- 問題解決能力が高まる
- 説得力のあるプレゼンテーションができる
- ファクトベースの信頼感が持てる
実はこの3つの解説文章の中に、ある共通する文章があったことにお気づきでしょうか。ページを戻って読み直していただくのは申し訳ないので、答えを示します。
- 「あなたの成果や評価に直結する」問題解決できること。
- 説得力を身にまとうこと。
- ビジネスパーソンとして信頼されること。
これらはすべて、あなたの成果や評価に直結することです。
これが「ビジネスパーソンがなぜ数字で考える必要があるのか」という冒頭の問いに対する私の答えであり、あなたに本書をこの先も読み進めていただくメリットなのです。
「数字で考える」を定義する
数字とは、「コトバ」である
数字で考えることのファーストステップ。それは「定義する」ことです。
なぜこのようなことをするか。
それは、「数字で考える」を身につけるためには、「数字で考えるとは何か」をはっきりと定めないといけないからです。
例えばあなたが「お金」に関する情報を求めてセミナーに参加したとします。どうも講師の話がしっくりこない。それはおそらく、あなたと講師の「お金」に対する定義が違うからです。
定義とは「ある概念・内容・言葉の意味をはっきりと定めること。それを述べたもの」と説明できます。
少しエクササイズをしてみましょう。
Q「会議」を定義してください
唯一の正解があるわけではありません。あなたなりに、自由にこの言葉を具体的にはっきり言葉で定めてみてください。私もやってみます。
「会議」→意思決定や情報共有を目的に必要な人間が集い、限られた時間の中で目的を達成するためのコミュニケーションをする活動「会議」をしっかり定義できていない企業はおそらくたくさんあることでしょう。
だから無駄な会議がなくならないのかもしれません。
同じように、「数字で考える」を身につけるためには、「数字で考える」を定義しなければなりません。
おそらく多くの人は、普段こんなこと考えたこともないでしょう。しかし、普段は考えないことを深く考えることで、物事の本質に迫ることができるようになります。では本題。まずは次の問いに、あなたはどう答えますか。
Q「数字」を定義してください
某企業の営業マンは「毎月追いかけるものである」と答えました。ある経理部員は「整えるものである」と答えました。1桁レベルの誤差もチェックする仕事だからでしょうか。
またある経営者は「体調を教えてくれるものである」と答えました。会社の状況、いわば体調を教えてくれるという価値観なのでしょうか。
面白いですよね。いろんな答えがあるものであり、絶対の正解はありません。
ただ、すべてのビジネスパーソンに共通する答えのひとつとして、私はこう定義したいと思っています。
「数字とは、コトバである」
この定義がしっくりくる方もいれば、ピンとこない方もいるでしょう。少し解説が必要だと思います。例えばあなたがコンビニエンスストアで買い物をするとします。
購入するものをレジに持っていくと店員がバーコードをスキャンし、袋詰めして、あなたに手渡します。店員があなたに「1,100円になります」と告げ、あなたはその金額を支払い、店をあとにする。
当たり前のこのプロセスの中に、たった一度ではありますが、人と人とのコミュニケーションが存在します。数字がコミュニケーションの道具として使われた瞬間です。
あるいは、あなたが会社の忘年会の幹事を任されたとしましょう。利用する候補の店を見つけ、直接出向いて店側と細かい相談をします。「人数は何名?」「ご予算は?」「時間は?」……と、店側はあなたに尋ねます。
当然です。必ず把握しなければならない極めて重要な情報だからです。これもまた、数字をコミュニケーションの道具として使っている典型的な例でしょう。
このように、私たちが普段どういう場面で数字を使っているかを考えてみると、数字とはコミュニケーションの道具として定義するのが自然ではないでしょうか。つまり、「数字とは、コトバ」なのです。
「数字が苦手」と「数字で考えることが苦手」はまったく違う
多くのビジネスパーソンが「私は数字が苦手で……」と言います。もしかすると、あなたもそのひとりかもしれません。しかし、先ほどのように定義することで、その「苦手」の正体がわかってきます。
結論から言えば、数字が苦手なビジネスパーソンなどひとりもいません。なぜなら、もしあなたが「数字が苦手」だとすると、「コトバが苦手」ということになるからです。
「コトバが苦手」とは、いったいどういうことでしょうか。先ほどの事例で登場した「1,100円」というコトバを聞いて、あなたは不快になるでしょうか。
忘年会の幹事になったとして、店側とコミュニケーションをする際に「なんか苦手だな」などと思うでしょうか。
そんなことは思わないはずです。では本当は何が苦手なのか。
- ×「数字が苦手」
- ◯「数字で考えることが苦手」
これが私の整理です。
本当は、数字が苦手なのではなく、数字で考えることに慣れていないだけなのです。「数字が苦手」は、使うコトバが好きになれない、ということを意味します。
ポジティブな言葉はなんとなく苦手、下品な言葉はなんとなく使いたくない、という感覚と同じです。
先ほどお伝えしたように、数字というコトバがなんとなく苦手、という人はほとんどいないというのが私の考えです。
一方、「数字で考えることが苦手」は文字通り「考えることが苦手」だということ。課題は「数字」そのものではなく、「考える」にあること。
つまり具体的な考え方さえ知れば、この問題は解決するということになります。もしあなたが「数字が苦手」と思っているなら、必ずここを理解してください。あなたはすでに数字と仲良くしています。使うコトバが嫌なのではなく、そのコトバで考えることに慣れていないだけなのです。
「四則演算」(+-×÷)ができれば誰でもできる
このような話をすると、「そうおっしゃいますけど、でも計算とか絶望的に苦手なんですけど……」といった〝反論〟をいただくことがあります。
確かに計算力には、個人差があると思います。
ここで、ある研修の休憩時間にご質問いただいた山口さん(仮名)という女性と私の対話をご紹介します。
少々長くなりますが、最後まで流し読みしてみてください。
山口「そうおっしゃいますけど、でも計算とか絶望的に苦手なんですけど」深沢「絶望的ですか(笑)」山口「笑いごとじゃないですよ。本当に自分でパッと計算ができなくて……」深沢「山口さん、数字とは……なんでしたっけ?」山口「コトバです」深沢「では、計算とはなんだと思いますか?」山口「え??」深沢「数字とはコトバである。ではそれを使ってする計算とはなんでしょうね」山口「……?」
深沢「私の答えは、文章です。複数のコトバを組み合わせて紡ぐもの」山口「文章、ですか?」深沢「例えば利益ってどうやって計算しますか?」山口「売り上げから費用を引く、とかですか?」深沢「はい。
いま山口さんは〝売り上げから費用を引くと利益になる〟という文章を作ったのです」山口「??」深沢「山口さんは、足し算・引き算・掛け算・割り算はできますか?」山口「え、ええまあ」深沢「じゃあ大丈夫です。ビジネスに必要な計算は全部できます」山口「??」
もちろんこのあと、私はホワイトボードを使って山口さんに解説を続けました。
この「文章を作る」という感覚、あなたには伝わったでしょうか。さっそく本書でも続きを解説します。
まず、「売り上げ−費用=利益」という当たり前の計算。これもビジネスで使う文章のひとつです。この利益とは、「売り上げと費用を組み合わせてできるもの」です。
そして3つとも数字。つまりコトバです。3つのコトバを関連づける行為が「計算」とは言えないでしょうか。
もっとシンプルな例を挙げるなら、「本体価格+税額=総額」という計算。
これもまた、3つのコトバを関連づけたものであり、日常生活で使われる文章と言えます。似た例をもうひとつ挙げます。
ある企業のひとりあたり生産性(円/人)=その企業が生み出す総付加価値(円)÷(人)これもまた3つとも数字。
つまりコトバです。コトバを関連づける行為が計算とは、つまりこういうことです。
何を申し上げたいかというと、ビジネスで使う計算は、必ずコトバを関連づけた文章になっているということ。小学校時代に算数のドリルでたくさん計算問題を解いた方も多いことでしょう。そこでする計算はおそらく次のようなものだったはずです。
問題:次の計算をしなさい 50÷4×2+42÷7=?
これはコトバを関連づけたとは言えません。なぜなら、「50」が何を意味するのか、「4」が何なのか、さっぱりわからないからです。
このような計算問題が机上で解けたところで、ビジネスではなんの意味もありません。
しかし、先ほどご紹介した利益や生産性を算出する計算は、ビジネスにおいて極めて重要な意味を持ちます。
ビジネスパーソンがする計算とは、複数のコトバを関連づけて文章を作ることであり、実際の数字の計算は電卓や表計算ソフト、AIにやってもらえばいいのです。
子どもの頃に求められた計算力とは、まさに電卓や表計算ソフト、AIがする計算のことだったかもしれません。
しかし、私たちビジネスパーソンに求められる計算力は違います。シンプルにいえば、文章を作る能力なのです。
あとは四則演算(+-×÷)をするだけ。いいえ、指示をするだけ。数字にアレルギーのある(と思っている)方でも大丈夫。
「数字で考える」は誰でもできるのです。最後に少しだけエクササイズをご紹介します。
複数のコトバを使って文章を作る感覚を身につけておきましょう。
文章さえ作れば、ビジネスパーソンがする計算は99%完了しているということです。
◎エクササイズ
Q1
効率よく儲かっていることを説明する文章は?
Q2
1カ月の勤務時間を伝えるときに使う文章は?
Q3
売り上げを表現する文章は?
↓
A1(営業利益率)=(営業利益)÷(売り上げ)
A2(一カ月の勤務時間)=(始業~定時までの時間)×(勤務日数)+(総残業時間)
A3(売り上げ)=(いただくお金)−(お返しするお金)=(入金)−(返金)
数字で考える=定義×計算×論理思考
ところで、思い出していただきたいのは、ここでの主題は「〝数字で考える〟を定義すること」だということ。
そのために「数字」と「計算」を定義してきました。おそらく本書では、このあとに何度もこの「定義する」ことの必要性を語ることになるでしょう。
私は定義することのヘンタイです。本書を通じて、物事を定義することの重要性も併せてお伝えします。ですがその前に、まずは目前にある主題の結論を急ぎます。
「数字で考える」とは何か。その定義は次の通りです。
数字で考える=定義×計算×論理思考
「数字で考える」とは、定義し、計算し、そして論理思考を使うことである。3つの要素の掛け算で成立するものとしています。
掛け算ですから、どれかひとつがゼロなら(欠けたら)すべてゼロ。つまり4つのコトバを四則演算で関連づけたわけです。
最後の「論理思考」。よく耳にする単語ですが、あらためてここで言語化しておきます。
論理思考とは、筋道を立てて考えること。
例えば先ほどの「Q3:売り上げを表現する文章は?」の、私の解答をもう一度ご紹介します。
(売り上げ)=(いただくお金)−(お返しするお金)=(入金)−(返金)ではこの例では、論理思考とはどう使うものか。
例えばこの文章は使っているコトバが少々〝ざっくり〟していますよね。もう少し扱うコトバを〝具体的〟にすると、次のように表現することもできます。
(売り上げ)=(入金)−(返金)(売り上げ)=(客単価)×(来店数)×(成約率)-(返品単価)×(返品数)
もし売り上げが落ちてきているとすると、究極までシンプルにして考えると理由は(入金)が減っている。あるいは(返金)が増えている。あるいはその両方です。
四則演算することでそれがはっきりし、仮に(返金)が増えているとするならば、(返品単価)か(返品数)どちらが増加しているのかを把握します。
売り上げが減っている
↓
定義×計算(売り上げ)=(入金)-(返金)
↓
つまり(入金)が減っている。
あるいは(返金)が増えている
↓
そして実際は(返金)が増えていると判明
↓
定義×計算(返金)=(返品単価)×(返品数)
↓
つまり(返品単価)か(返品数)、あるいはいずれも増加している
↓
そして実際は(返品数)がこの半年で30%も増加していると判明
↓
つまり(返品数)の増加が大きな要因になっていると判明
この一連の流れが「数字で考える」の極めてシンプルなお手本です。
そして筋道を立てて考えるとは、(↓そして)や(↓つまり)で表現される部分のことを指します。
「数字で考える」とは、定義と計算と論理思考という3つの行為で成り立っており、どれかひとつでも欠けてはいけないことがご理解いただけるでしょうか。
以上で、本書は「数字で考える」を定義したことになります。
徹底的に数字で考える人になるために必要な2つのこと
間違える可能性をどれだけ下げられるか(ファクトベース思考)
次に必要なことは何か。結論から言えば、「数字で考える」の全体像を理解することです。「数字で考える」とは2種類あります。
次の2つです。
- ファクト(事実)ベースで考える
- アサンプション(仮定)ベースで考える
まずは「ファクトベースで考える」です。
すでに「ファクトベースの信頼感」という言葉でお伝えしている概念ですが、これが「数字で考える」の50%を占めています。
まずは背景からご説明しましょう。
私は企業研修の現場で参加者に発言を求めることがありますが、そんなときに気づかされることがあります。
それは、いまビジネスパーソンは「間違ったことを言いたくない」という思いが強いということです。
何が正解なのかなんて誰にもわからない世界で生きている私たちにとって、正解を言おうとはそもそも思っていない。
でも、「それはちょっと違うんじゃないか?」と思われるようなことだけは言いたくない。恥をかきたくない。失敗したくない。そんな感情があるのではないかということです。
もちろん私にもそれはありますが、この数年はその傾向が顕著だと感じています。
仕事で成果を出そうとしたとき、そのアプローチには2種類あります。ひとつは成功の可能性を高めること。もうひとつは、失敗する可能性をできるだけ下げること。
例えば「プレゼンテーションの失敗事例」を徹底的に集めて分析した結果、紙1枚で説明することが最も失敗する可能性が低いという結論に達した場合などです。
個人的にはアプローチはどちらでもいいと思っています。
ただ、「間違える可能性をできるだけ下げる」という選択をするのであれば、当然ながら事実ベースで物事を考えなければなりません。
そして事実ベースということはつまり、手元にある数字をベースに考えるということです。
- 昨年の売り上げデータから、今年の販売計画を立てる
- 過去5年の数値から、人件費の増加がどれくらい経営を圧迫しているかを分析する
- 資料作りが遅い新人は、いったいどこに時間がかかっているのかを把握する
これらはすべて事実ベースで数字を使うことができます。事実ベースですから、その数字はまさしく事実。出す結論が間違っている可能性が低くなるわけです。
多くのビジネスパーソンがイメージする「数字で考える」とは、このファクトベースのことのはずです。しかし、これはあくまで50%にすぎません。
「正解のない問い」を数値化して考える(アサンプションベース思考)
では残りの50%はなんでしょうか。それは「アサンプションベースで考える」です。アサンプションとは想定、あるいは仮定のことを指します。
先ほどのファクトベースと違い、「事実」が手元にないときにこちらの考え方を使います。間違える可能性を下げるため、ファクトベースで仕事を進めたい。でもファクト(事実)がない、わからない。じゃあ「数字で考える」は残念ながら不可能、おしまい。という結論はあまりに寂しいですよね。
ファクト(事実)がないなら、仮定することで仕事を進めるしかありません。
もう少し具体的にお伝えします。
先ほどのファクトベースの例をひとつ挙げます。
・昨年の売り上げデータから、今年の販売計画を立てるでもこれは「昨年の売り上げデータ」というファクトがあるから成立することです。
もしこれが、今年からスタートする新規事業だとしたらどうなるでしょうか。
・今年の販売計画を立てるこうなります。
ここで「ファクトがないから、計画を立てるなんて無理です」と言う人はいないはずです。
もしそんな人がいたとしたら、その人には新規事業は任せないほうがいいでしょう。
多くの人は、次のように考えるはずです。
・さまざまなシナリオを想定しながら、今年の販売計画を立てる事実が手元になくても、仮定しながら数字で考え、正解のない問いに対して答えを出す。
これがアサンプションベースという、仮定して考える力のことです。
もちろんこのアサンプションベースは簡単ではありません。
どうすればできるようになるのか、本書の後半でたっぷりお伝えしていきます。
整理すると、「数字で考える」には2種類あります。
ファクトベースとアサンプションベース。
そして一連の流れを整理したものが次のフローです。
間違えたくない↓だからファクトベースが理想↓しかしファクト(事実)がない↓そこでアサンプションベースを選択↓すべての人間はアサンプション(仮定)ができる↓どんなときも、どんな人でも、「数字で考える」はできるファクト(数字)があれば数字で考えられます。
ファクトがなかったとしても、あなたには仮定し、そこから数字を作ることができます。
できない人はひとりもいません。
どんなときも、どんな人でも、「数字で考える」はできる。
私がお伝えしたいことは次の2行に集約されます。
数字で考えることができない人はいないし、ビジネスシーンに存在するすべての物事や出来事を数字で考えることは可能である。
ヒト・モノ・カネを「動かす力」を手に入れる
ファクトベースとアサンプションベースを組み合わせ、「数字で考える」の手法を身につける。
それが本書のゴールです。
でもそれは仮のゴールであり、本当のゴールは別にあります。
あなたにひとつ問いがあります。
Q「数字で考える」の真のゴールはなんでしょうか「数字で考える」ができるようになることがあなたの目標ではないはずです。
それができることで、「実現したい何か」があるはずです。
ビジネスパーソンがなぜ数字で考える必要があるのか。
その答えとして3つのメリットがあることをすでにお伝えしています。
・問題解決能力が高まる・説得力あるプレゼンテーションができるようになる・ファクトベースの信頼感が身につくでもこの3つは単なる表面的なメリットにすぎません。
この3つを手に入れること自体がゴールではありません。
では何が真のゴールか。
それは、「ヒト・モノ・カネを動かすことができる」というのが私の答えです。
・問題解決→売り上げが増える、人数が増える、時間が短縮できる……など・説得力→「なるほど」と納得し動いてくれる・信頼感→指示をすんなり受け入れて動いてくれる数字で考えることは、このようにヒト・モノ・カネを動かすことに直結します。
私は「数字で考える」の真のゴールを次のように定義しています。
あなたが動かしたいものを動かすこと。
ビジネスとはシンプルに言えばヒト・モノ・カネを動かすこと。
つまり、「仕事ができるビジネスパーソン」とは、ヒト・モノ・カネを動かすことができる人です。
これが世の中で言われ続けている、「仕事ができる人は、数字で考える」の正体なのです。
「数字で考える」のすべて
ここまで「数字で考える」の本質をできるだけ噛み砕き、平易な言葉と事例でお伝えしてきました。
そろそろ第1章のまとめに入ります。
いわば「数字で考える」のすべてと言ってもいいでしょう。
数字のような量で表現できるものを一般的には「定量的なもの」と呼びます。
一方、そうでないものを一般的に「定性的なもの」と呼びます。
例えばあなたの身長が175cmであることは定量的な情報であり、あなたがイケメン・美女であることは定性的な情報ということになります。
ご紹介したファクトベースの場合、すでに事実が数字として手元にあります。
ですから「数字で考える」の成果物も当然ながら数字で表現できるものになるでしょう。
つまり、この場合は定量的な情報から定量的な情報を作ることになります。
これを便宜上、「定量→定量」と表記します。
ではアサンプションベースはどうでしょうか。
手元に数字がない、つまり定性的な情報しかない状態です。
そこから仮定することをベースにし、成果物となる数字を作っていくことになります。
つまり定性的な情報から定量的な情報。
「定性→定量」となります。
成果物として数字があれば、それを使って自分(あるいは相手)を納得させることができます。
納得したその人物は、ヒト・モノ・カネを動かすことができます。
ヒト・モノ・カネが動けば、何かしらの結果が出ます。
その結果を表す新たな数字が(今度は確実に事実として)手に入ります。
そしてその定量的な情報をまたファクトベースで考えることで、その結果の原因が数字で特定できます。
それを使って自分(あるいは相手)を再び納得させることができ、納得したその人物はまたヒト・モノ・カネを動かします。
そしてその結果を表す新たな数字が(今度も確実に事実として)再び手に入ります。
どこかで聞いたような話でしょう。
お気づきかと思いますが、このフローはまるでサイクルのように同じ行為を繰り返していく構造になっています。
私が言うまでもなくこれは仕事の基本。
そしてビジネスパーソンが数字を使うことの本質です。
おそらくあなたにとって真新しい話ではないはず。
ビジネスの世界で言われ続けている基本の話。
でもそれと本書でお伝えする「数字で考える」がいかに密接に関係しているのかが伝わっていれば幸いです。
ここから先は、「数字で考える」の具体的な方法論をお伝えしていきます。
ファクトベース(定量→定量)の仕事術については第2章と第3章で、アサンプションベース(定性→定量)の仕事術については第4章でたっぷりお伝えしていきます。
皆さんが最も知りたいであろう「HOW」の話に入りましょう。
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