数学女子智香が教えるこうやって数字を使えば、仕事はもっとうまくいきます。
目次
はじめに
登場人物紹介
序章このプロジェクトは、キミに預ける
1 なぜ俺がプロジェクトリーダー? 2 プロジェクトの重要性を数字で捉える 3 「%」の落とし穴に気をつけろ 4 耳触りのよい言葉で誤魔化さない 5 絶対に負けられない戦いが始まる智香からのワンポイントアドバイス ❶
第 1章業務効率化に数字を使っていますか?
1 「効率化」をかけ声だけで終わらせないために 2 「効率」を計算で求めよう 3 「仕事算」を仕事で使っていますか? 4 指示は目標とデッドラインを数字で伝える 5 粗利額が高くなる接客方法 6 自分の仕事の質は自分自身で高める智香からのワンポイントアドバイス ❷
1 なぜ俺がプロジェクトリーダー?ブライトストーン社の〝エース〟 「これでまた俺のファンが増えちゃうなぁ」 その男は、朝から上機嫌でした。
ここは中堅アパレル企業「株式会社ブライトストーン」のオフィス。
彼の名は木村斗真。
ブライトストーン社の営業部に所属し、この会社がプロデュースするレディースブランド「 WIXY」の営業、マーケティング、ショップ運営まで幅広く担当しています。
およそ 3年前にブライトストーン社に転職してきた 29歳。
この業界での経験が豊富で、ファッションビジネスに関する知識の多さとそのセンスは、社内の誰もが認める、言わば〝エース〟です。
「せんぱ ~い、何だかゴキゲンですね ♪ どうしたんですか?」 木村に声をかけてきた後輩の女性、島田奈々は木村より 4歳年下の営業部員。
かつて読者モデル経験もあり、美人でオシャレにもかなり気をつかう、社内のマドンナ的存在です。
「奈々ちゃ ~ん、よくぞ聞いてくれた。
ほら、これ!」 「あ、『 JFC』の取材記事ですね! ちょっと見せてくださいよ ~」 「ああ、読んでくれたまえ。
なんと見開き 2ページ。
いや ~マジでイケてる」 奈々は今月号のファッション業界誌『 JFC( Japan Fashion Column)』を手に取り、声に出して読み始めています。
「えっと……〝話題のレディースブランド『 WIXY』は、営業部リーダー・木村斗真氏の活躍で愛用者急増! 『ぼくは三度の飯よりファッションが好きです!』と笑顔で語る木村氏〟ですって。
先輩、カッコいいじゃないですか ~☆」 「だろ ~? でもこの写真、ちょっと前髪が長すぎたかもなぁ」 「誰もそんなトコ見ていないですよ」というセリフを奈々がギリギリのところで飲み込んだことに、木村はまったく気付きません。
そんなのどかな朝のオフィス内で、遠くから木村を呼ぶ大きな声が聞こえてきました。
「お ~い木村! ちょっといいか」 「はい! 何でしょうか?」 クイクイと手招きをしたその人物は社長の佐野賢太郎。
ファッション業界での経歴も長く、ブライトストーン社を急成長させてきた敏腕経営者。
風貌はいかにも「スマートな 40代」といった印象です。
社長が指名したプロジェクトリーダー 2人で社長室に入るとすぐに佐野はくるりと振り返って、木村に語りかけます。
雑談から入るパターンが多い佐野ですが、今日は鋭い眼差しで木村を見つめています。
「さっそくだが木村、キミに大切な話がある」 「はい、何でしょうか?」 「ここ半年、いくつかの店舗で業績が急降下していることは認識しているな」 「はい。
原因もはっきりしています」 木村の言う「原因」とは、半年前に「 WIXY」と競合になる新ブランド、「 FLAP」がライバル企業からデビューしたことです。
20代後半の OLをターゲットとし、典型的な〝キレイめ〟ながらも女性らしい遊び心を随所に取り入れたファッションの提案は、明らかに「 WIXY」とのガチンコ勝負を挑んできていると言えます。
「ふむ。
しかも私はある情報をキャッチした。
確かな情報だ」 「え? どんな情報ですか?」 「ウチの表参道店の目の前に、 FLAPが出店するらしい」 「……!」 全国に 10店舗ある「 WIXY」ショップの中で、表参道店は売上高シェアがおよそ 25%と最も大きな旗艦店です。
しかし、この表参道店も昨今は数字が伸びず、停滞していました。
そこにきて、「 FLAP」の出店。
佐野は強い危機感を持たずにはいられません。
「結論から言おう。
社内に表参道店の再生プロジェクトを立ち上げる。
そして、そのプロジェクトリーダーにキミを指名する」 「え!? そんな重要なプロジェクト、仕切りは部長とかがやるのでは?」 「いや。
キミの成長はこの会社には不可欠なんだ。
これまでキミは上司が守ってくれるから自由にやれた。
でも、そろそろステージを変えていかないといけない。
このような重要なミッションはこれからはキミがやるべきだ」
普段はのらりくらり話す佐野の珍しく真っ直ぐな言葉を聞いて、木村は背筋が少しだけピンと伸びるような緊張を感じました。
「わかりました! FLAPなんかに負けるわけにはいかないッスよね」 「そういうことだ。
よろしく頼むよ。
……ああ、大事なことを伝え忘れていた」 それまで厳しい表情だった佐野の顔が急にニヤニヤし始めます。
「はい、何でしょうか?」 「リーダーはあくまでキミだが、サポート役を〝彼女〟に頼んでおいたから」 木村の顔が途端に曇ります。
〝嫌な予感〟という言葉が顔に描いてあるかのようです。
「〝彼女〟って、まさかアイツのことですか?」 「はは。
まあ一人しかおらんだろう。
名コンビだと私は思っているが?」 「笑いごとじゃないですよ! あんな正反対のタイプとはやりにくくて仕方ありません。
できれば俺にすべてお任せいただくというわけには……」 その時、社長室の扉をノックする音が聞こえました。
「ああ、〝彼女〟にもくるように言っていたんだ。
どうぞ ~」 木村は社長室に呼ばれたその女性が誰かすぐに悟り、小さくため息をつきます。
無表情のまま木村の隣に並んだその女性は、木村と視線を合わせることなく右手で小さくメガネの位置をスッと直すのでした。
2 プロジェクトの重要性を数字で捉える期待のエース vs数学女子 「社長、お呼びでしょうか」 年齢は木村よりひとつ年下になる〝彼女〟の名は柴崎智香。
大手コンサルティング会社で 5年ほど中小企業支援に従事し、ヘッドハンティングによって 1年前にブライトストーンに入社しました。
佐野社長が智香をヘッドハンティングした理由は明確でした。
智香の持つビジネスで必要な数字力と論理的思考力が、「経験と直感だけ」で仕事をしているいまのブライトストーン社にどうしても必要だったからです。
「ああ、忙しいところ悪いね。
例の表参道店プロジェクトの件だ」 「はい」 「……(出たよ、数学オンナ)」 智香はいわゆる理系女子。
しかも卒業したのは理学部数学科です。
誰も言葉にはしないけれど確かに存在する「女のクセに数学科?」という空気の中で、彼女は極めて優秀な学生でした。
チャラチャラ遊んでばかりの奴らには絶対負けたくないという強い気持ちが、彼女を学業に駆り立てたのです。
そんな智香のキャラクターを一言で表現するなら「負けず嫌い」。
相手が男性であろうと年上であろうと物怖じせず主張し、論破していくその強烈な個性と頭脳は社内からも一目置かれて(恐れられて?)いました。
「いま木村にはすべて話したよ。
あとは 2人でしっかりやってくれ」 「はい」 「……わかりました」 2人は社長室をあとにし、デスクに戻ります。
「先輩、改めてよろしくお願いします」 「ああ……」 「先輩、そんなに私と組むのが嫌ですか?」 「いや、べっつに ~」 誰が見ても明らかに嫌がっているとわかる木村の態度にも、この 1年で智香はすっかり慣れていました。
木村も心の底ではまったく正反対のキャラクターである智香の能力をリスペクトしてはいるのですが、いかんせん不器用な性格が災いし素直になれません。
2人のこのようなやりとりは、このオフィス内ではもはや日常会話のようなものです。
「そうですか。
ところで先輩は今回の表参道店プロジェクトがなぜ重要なのか、どうご理解されていますか?」 「そりゃ表参道店の売上ダウンはインパクトが大きいからだろ?」 「先輩、いまの発言には数字が入っていません」 「出た! またそれかよ……」数字に強くなるための習慣「数会話」 この「数字が入っていません」は智香の口癖であり、「数会話」とネーミングして入社以来ずっと、木村をはじめ社員にしつこく習慣付けています。
佐野社長から「数字に強い組織に変えてほしい」とリクエストされていた智香にとって、これは極めて重要な仕事なのです。
「はい、数字を入れて伝えてください。
その〝インパクト〟っていうのは、どのくらいなのですか?」 「あ? 表参道店はウチの売上高シェア約 25%だぞ。
だから……その……インパクトが大きいじゃないか」 「答えになっていません」 「……!(カチン)」 「私の解釈です」 「ああ。
ぜひ聞かせてくれ」 「FLAPがデビューしたのが半年前。
それ以降に売上がダウンしている WIXYの店舗はいずれも近くに FLAPが出店しています。
つまり、近くに FLAPが出店するとウチのブランドは数字が落ちるという仮説が成り立ちます」 「まあそうだな」 「たとえば横浜店の月間売上高は、季節要因を排除して、半年前と比べてざっくり 30%ダウン、つまり激減です。
ということは、表参道店もいまから半年後には 30%ダウンする可能性があります。
これはつまり半年後は全社の月間売上の 7・ 5%が消えることになるので決して無視できないと言えます」 「ん? ちょっと待った。
どこから 7・ 5%が出てきたんだ?」 智香はサッとメモ用紙を取り出し、正方形を描きながら説明を始めます。
2 プロジェクトの重要性を数字で捉える期待のエース vs数学女子 「社長、お呼びでしょうか」 年齢は木村よりひとつ年下になる〝彼女〟の名は柴崎智香。
大手コンサルティング会社で 5年ほど中小企業支援に従事し、ヘッドハンティングによって 1年前にブライトストーンに入社しました。
佐野社長が智香をヘッドハンティングした理由は明確でした。
智香の持つビジネスで必要な数字力と論理的思考力が、「経験と直感だけ」で仕事をしているいまのブライトストーン社にどうしても必要だったからです。
「ああ、忙しいところ悪いね。
例の表参道店プロジェクトの件だ」 「はい」 「……(出たよ、数学オンナ)」 智香はいわゆる理系女子。
しかも卒業したのは理学部数学科です。
誰も言葉にはしないけれど確かに存在する「女のクセに数学科?」という空気の中で、彼女は極めて優秀な学生でした。
チャラチャラ遊んでばかりの奴らには絶対負けたくないという強い気持ちが、彼女を学業に駆り立てたのです。
そんな智香のキャラクターを一言で表現するなら「負けず嫌い」。
相手が男性であろうと年上であろうと物怖じせず主張し、論破していくその強烈な個性と頭脳は社内からも一目置かれて(恐れられて?)いました。
「いま木村にはすべて話したよ。
あとは 2人でしっかりやってくれ」 「はい」 「……わかりました」 2人は社長室をあとにし、デスクに戻ります。
「先輩、改めてよろしくお願いします」 「ああ……」 「先輩、そんなに私と組むのが嫌ですか?」 「いや、べっつに ~」 誰が見ても明らかに嫌がっているとわかる木村の態度にも、この 1年で智香はすっかり慣れていました。
木村も心の底ではまったく正反対のキャラクターである智香の能力をリスペクトしてはいるのですが、いかんせん不器用な性格が災いし素直になれません。
2人のこのようなやりとりは、このオフィス内ではもはや日常会話のようなものです。
「そうですか。
ところで先輩は今回の表参道店プロジェクトがなぜ重要なのか、どうご理解されていますか?」 「そりゃ表参道店の売上ダウンはインパクトが大きいからだろ?」 「先輩、いまの発言には数字が入っていません」 「出た! またそれかよ……」数字に強くなるための習慣「数会話」 この「数字が入っていません」は智香の口癖であり、「数会話」とネーミングして入社以来ずっと、木村をはじめ社員にしつこく習慣付けています。
佐野社長から「数字に強い組織に変えてほしい」とリクエストされていた智香にとって、これは極めて重要な仕事なのです。
「はい、数字を入れて伝えてください。
その〝インパクト〟っていうのは、どのくらいなのですか?」 「あ? 表参道店はウチの売上高シェア約 25%だぞ。
だから……その……インパクトが大きいじゃないか」 「答えになっていません」 「……!(カチン)」 「私の解釈です」 「ああ。
ぜひ聞かせてくれ」 「FLAPがデビューしたのが半年前。
それ以降に売上がダウンしている WIXYの店舗はいずれも近くに FLAPが出店しています。
つまり、近くに FLAPが出店するとウチのブランドは数字が落ちるという仮説が成り立ちます」 「まあそうだな」 「たとえば横浜店の月間売上高は、季節要因を排除して、半年前と比べてざっくり 30%ダウン、つまり激減です。
ということは、表参道店もいまから半年後には 30%ダウンする可能性があります。
これはつまり半年後は全社の月間売上の 7・ 5%が消えることになるので決して無視できないと言えます」 「ん? ちょっと待った。
どこから 7・ 5%が出てきたんだ?」 智香はサッとメモ用紙を取り出し、正方形を描きながら説明を始めます。
すぐに数字を持ち出すための思考回路 「WIXY全店舗の売上高を 1 × 1、つまり面積 1の正方形と考えます」 「??」 「表参道店は全体の 25%を占めるので、その売上高は 1 × 0・ 25 = 0・ 25」 「……」 「さらにその中の 30%が減少するわけですから 0・ 25の 30%、つまり 0・ 25 × 0・ 3 = 0・ 075が減少分の売上高ということになります。
全体の面積が 1ですから、減少率は 7・ 5%とすぐにわかりますよね」
「……なるほど(悔しいがわかりやすい)。
でも何でオマエはいつもそういう〝面積 1と置く〟みたいな発想がすぐに出てくるんだ?」 「はい。
いまのケースではインパクトが大きいのか小さいのかがサッと把握できればよかったので、 WIXY全店舗の売上高を持ち出して、桁の大きい数字でわずらわしい計算をする必要なんてありません。
だから扱いやすい 1という数字に置き換えて考えました。
正方形を持ち出したのは、こういう話が苦手な先輩でもイメージしやすいと思ったので」 「う……悔しいが納得。
しかし、やっぱり超文系の俺にはない脳ミソだな」 この言葉に、智香が敏感に反応しました。
ビジネスマンはよくも悪くも自分自身を「文系」「理系」とカテゴライズします。
しかし、それが許されるのは学生までの話。
事実、数字でビジネスを捉えることができる優秀な経営者や数字に強いとされる会計士の先生がみんな「理系」ではないはずです。
「先輩、まだ〝文系〟なんて言い訳しているのですか?」 「(あ、しまった)ったく、うるさいな ~もう。
オマエの言いたいことはわかっているよ」 「そうですか。
であればいいんですけど」 「ったくもう……」 文句を言いたげな木村ですが、以前からずっと感じていたある疑問を思い出し、このタイミングで智香に投げかけてみることにしました。
ストレスなく「%」の計算をしたい! 「そうだ、ついでに聞きたいことがある」 「はい、何でしょうか?」 「さっきのオマエみたいに、 25%の 30%、みたいな計算を電卓を使わずサクッとできる方法ってあるのか? 俺は電卓ナシでは正直計算する気にならん」 確かにサッと計算することが苦手なビジネスパーソンは多いようです。
正確な計算が必要な時は電卓を使えばいいですが、だいたいどのくらいかを素早く概算できればそれで十分な場面も意外と多いものです。
「もしかしたら、小数の掛け算をしようとするからではないでしょうか?」 「??」 「たとえば先ほどの『 0・ 25 × 0・ 3』。
確かに繰り上がりとか小数点の位置とか、数字が苦手な方は少々ストレスを感じるかもしれませんね」 「そうなんだ。
特に小数点の位置とか、考えるのも面倒になる」 「簡単です。
割合は分数で考えればいいんです」 「ん? どういうことだ?」 「25%は『 1/ 4』、 30%は『 3/ 10』です。
だから( 1/ 4) ×( 3/ 10)で、これは( 3/ 4) ×( 1/ 10)です」 「確かにそうだな」 「先輩、 3/ 4って何%ですか?」 「おお、それならわかるぞ。
75%だ」 「それを 10で割るわけですから、 7・ 5%だとわかりますよね」 「な、なるほど」 小数の計算というのは慣れない人にとってはわずらわしいもの。
なるべく分数で考えることがストレスを軽減するコツです。
さらに智香は先ほど正方形を描いたメモの裏を使って、何かを書き込んでいきます。
「先輩、これ(次の図)を見てください。
覚えておくと便利ですよ」
「……まあ確かにそうかも。
でも何でこの3つを覚えておくと便利なんだ?」 「はい。
たとえば 3280の 12%がだいたいどのくらいかを知りたければ、 3280 ÷ 8をすれば終わりです」 「……ん? いったい 8はどこから出てきたんだ?」 「12・ 5%は 25%の半分ですよね。
25%を求める時には 4で割ると答えが出ました。
ということは、 25%の半分である 12・ 5%を求める時には当然 8で割ればいいですよね」 「なるほど、そう考えるのか!」 「これと同じように考えれば、たとえば 630の 17%がだいたいどのくらいかを素早く知りたければ……?」 「えっと ~……そうか、 6で割ればだいたいの数字は計算できる! 33%を求める時は 3で割ればいいから、 33%のだいたい半分である 17%を求める時には 6で割る!」 「そういうことです」
このように割合の計算を「小数の掛け算」と認識するのではなく、「分数の掛け算」、さらに言うなら「整数の割り算」と認識しておくと、だいたいどのくらいかを素早く把握できるようになります。
いまの 2人のようにちょっとした会話をする時に正確な数字を必死になって暗算するのはちょっとカッコ悪いというもの。
素早く概算できるスキルがあれば、それだけで「デキる人」に見えますね。
3 「%」の落とし穴に気をつけろ智香から出題されたクイズ 2人の会話が「%」だったためか、智香はここでひとつ大切なことを木村に伝えることにしました。
「%」は馴染み深いものであると同時に、多くのビジネスパーソンをミスリードさせてしまうクセ者でもあるからです。
「先輩、私からも〝ついでに〟よろしいでしょうか?」 「あ? もう数字の話はいいよ」 「いえ、せっかく『%』の話が出てきたので、ひとつクイズを」 「クイズ!?」 〝クイズ〟という言葉に、どうやら木村は話を聞く気になったようです。
そのクイズの内容とは、このようなものでした。
〈智香が出したクイズ〉 ある企業の日本人従業員のうち男性は 90%、日本人以外の従業員のうち 20%が男性。
では、この企業の全従業員のうち男性の割合は何%くらいでしょうか?
「そりゃ…… 50%とか 60%くらいだろ? ちょうど真ん中あたり」 「残念。
やはり先輩は割合という数字の本当の意味がわかっていませんね」 「(カチン!)……何だろう、この屈辱感」 どうやらまんまと智香のつくった落とし穴にハマってしまったようです。
木村の数字の見方はいったいどこがいけなかったのでしょう。
「たとえばこんなケースだとしたらどうでしょうか」 「ん?」智香が紙に書いて説明した〝ケース〟はこのようなものでした。
日本人従業員はわずか 10名、外国人従業員はなんと 1万名。
性別の内訳が表の通りだとすると……。
「確かに日本人社員の男性の割合は 90%、外国人は 20%だ。
しかし……」 「全社員 10010人の中で男性は 2009人だからその割合は、およそ 20・ 1%。
先輩の先ほどの回答とはまったく違いますね」 「確かに……う ~、悔しい……」 「でも、多くのビジネスパーソンが直観的に先輩と同じような答えをしてしまいます」 このように、割合は分母が把握できなければそれ単体ではほとんど意味を持たない数字であり、 ○%という数字の先入観だけで何かを判断することはとても危険なのです。
「だから普段から必ず、その ○%は〝何の ○%〟なのか、つまり分母は何かを把握するようにクセをつけておいたほうがいいですね」 「うむ……なるほど」 どうやら木村も納得できたようです。
2人の会話は、ここから表参道店プロジェクトの進め方に展開していきます。
4 耳触りのよい言葉で誤魔化さない「気合」で乗り切れる? 「ところで先輩、この表参道店プロジェクトを進めるにしても既存メンバーは、いまの仕事で精一杯です。
どうするつもりですか?」 「フンッ! 心配するな。
気合で何とか乗り切る!」 「乗り切れませんよ」 「はぁ!?」 木村が一気に不機嫌モードに変わります。
しかし、智香のことです。
何かしら明確な論理があるからこそ、木村の主張を否定しているのでしょう。
「先輩、いい加減その〝気合〟とか〝熱意〟とかだけで仕事を進めようとするのをやめたほうがいいですよ」 「フンッ! オマエのようなガチガチの理系アタマには一生わからないだろうけどな、結局のところ仕事は気合で乗り切らないといけないもんだし、自分たちを信じてコツコツ努力していれば必ず結果は出るものなんだよ!」 「……」 木村の主張は正論に聞こえます。
誰もが共感できる内容でしょう。
しかし、本当にそれは正しい考え方なのでしょうか。
智香は意外なものにたとえて、木村に大切なことを伝えようと試みます。
こういう時こそ、「数字の論理」 「たとえば水が 100 ㎖入るビーカーがあったとします。
いまこのビーカーには水はきっちり満水。
言わばこれはいまの私たちの状態です。
これに新たに水を加える。
この新しい水が表参道店プロジェクトの仕事です。
どうなりますか?」 「あ? ビーカーに水? 何の話だ?」 「いいから答えてみてください。
どうなりますか?」 「……溢れる」 「その通りです。
現実はキャパシティというものがあります。
ヒト、モノ、カネは有限なんです。
では、仮に表参道店プロジェクトの仕事量を 20 ㎖の水だとしましょう。
どうすればビーカーに水が収まると思いますか?」 「……」 「その水を入れないか、あるいはいま入っている水を 20 ㎖抜く。
どう考えても二者択一です」 「……」
「つまり、既存の仕事をスリム化しなければ物理的に表参道店プロジェクトは進まないということです。
どんなに耳触りのよい言葉を使っても、有限である以上、収まらないものは収まりません。
これは極めて単純な数字の論理です」 「既存の仕事量をもっとスリム化させる……」 「そうです。
減らせるものは減らす。
あるいは捨てられるものは捨てるんです」 「……」 「いま先輩が思っていることを当ててみましょうか?」 「あ?」 「実際の仕事はそんな机上の算数のようにはいかない」 「……!(バレてる!)」 「多くの方がそう言います。
しかし、どう考えても溢れるビーカーに水を注ぎ続けることは、新規だけではなく既存の仕事にも影響を及ぼします。
仕事を単にこなすだけならまだしも、本当に成果を出したいなら、感情論に逃げず数字の論理で考えなければいけません。
感情論に逃げることは、こんな当たり前の事実から目を背けることと同じなんです」 「……」 「だから、既存のメンバーの仕事量をスリムに、先ほどの数字で表現するならば 100から 80にしないといけないということです。
それを意識して進められたほうがよいと思いますよ」 「もういい、わかったよ。
既存の仕事をできるだけ効率化すればいいんだろ!」 「ええ、そういうことになりますね」 今日も木村は、智香との会話からたくさんの学びを得たようです。
正反対の性格ゆえに衝突も多い 2人。
しかし、木村は苛立つことも多い一方で、実は最近になってあることに気付いていました。
1年前にやってきた智香との会話が、ほんの少しだけ楽しくなってきている自分に。
5 絶対に負けられない戦いが始まる大沢和也との再会 その日の午後、智香と木村は WIXY表参道店のすぐそばにあるブライトストーン社のオフィスに戻るため、表参道を歩いていました。
3月も第 2週。
表参道を歩く人のファッションも、だいぶ春らしくなってきました。
「あれ? 木村じゃないか?」 突然、 30歳前後と思われる長身の男性が木村に声をかけてきました。
「……お、おう、大沢」 智香は、木村のこの反応を見て〝大沢〟が木村と面識がある人物だとすぐに理解できました。
しかし、それよりも気になったのは〝大沢〟の視線でした。
明らかに木村の隣にいる智香の服装を確認しているのです。
グレーのパンツスーツに黒のパンプスというカタイ雰囲気の智香は、基本的にはオシャレとは無縁。
たまに WIXYの製品を仕事として着ることはあるけれども、流行に敏感でオシャレなタイプとは決して言えません。
「どうも、大沢和也です(ニコッ)」 ニッコリ笑っているけれども目が笑っていない大沢の表情に好感を持てず、智香は無言で会釈をしました。
智香を品定めするかのように上から下へと動く視線。
かつて木村と初めて会った時に彼がした目の動きとまったく同じだと気付いた智香は、すぐにこの〝大沢〟がファッション業界で仕事をしている人物だと確信しました。
「木村、元気だったか ~? 久しぶりだな!」 「……ああ、まあな」 「一緒に仕事をしていた頃が懐かしいな。
俺もオマエも大学を卒業後すぐにファッション業界に飛び込んで、同期として 5年も働いたもんな。
お互いショップスタッフとして個人成績を競い合ったりもしてさ」 「……ああ、まあな」 木村と大沢は以前、同じブランドのショップスタッフとして活躍していました。
ところが、ある時を境に同期の木村と大沢はよきライバルではなく、衝突し合う犬猿の仲になってしまいました。
そして、いまでも木村は大沢を認めることができないでいるのです。
「そういえば、すごい活躍らしいじゃないか。
今月の『 JFC』見たぞ」 「……ああ、まあな」 「WIXY、急成長したもんな! で、ここ最近はどうなのよ?」 「……ああ、まだまだ伸びると思うね」 木村は表情を変えることなく淡々と答えます。
勝負する相手は目の前にいた 「そうだ、木村にひとついいお知らせが」 「ん? 何だ?」 「来月、いま話題の FLAPが WIXY表参道店のすぐ目の前にオープンするのは知っているか?」 「ああ、知っているよ。
でも、なぜオマエがそれを知っているんだ?」 「そりゃ知っているさ。
だってそこの店長、俺だもん(ニヤッ)」 木村と智香の表情が一気に変わりました。
2人がこれから仕切る表参道店プロジェクトの成功を阻もうとする相手が、いままさに目の前にいるのです。
そんな表情を楽しむかのように大沢はニヤリと笑い、「じゃあ」と踵を返して去ろうとします。
その瞬間、意外にも智香が大沢に声をかけました。
「あの、申し遅れました。
私、柴崎智香と申します。
ひとつ質問してもよろしいでしょうか」 「へ? ああ、どうぞ」 「これって言わば〝勝負〟ですよね。
最後に勝負を決めるのは何だと思いますか?」 いきなり直球(しかも剛速球)を投げ込む智香に、木村と大沢が目を丸くしました。
「はは、面白い質問ですね。
そりゃ簡単ですよ。
ブランドの知名度です。
商品なんてどのブランドでも同じ。
女性は何だかんだ言って結局は有名なもの、話題になっているものが好きなんですよ」 「……」 「木村、じゃあな。
これからが楽しみだな」 大沢は再びニヤリと笑い、去っていきました。
大沢の背中をしばらくじっと見つめながら、木村は素朴な疑問を智香にぶつけます。
「おい、どうして大沢にあんな質問したんだ?」 「理由は2つです。
ひとつは敵のリーダーがどんな価値観なのかを知ることができる、これ以上ないチャンスだったから」 「フンッ。
まったくオマエらしいよ。
それで、もうひとつは?」 「あの人、先輩と同じようにファッションを仕事にしているけど、先輩とは似ているようで何かが違う気がしたもので」 「あ? 何だそれ? で、その答えはわかったのか?」 「……ええ、何となくですけど」 木村はその先を聞こうとはせず、智香へ一方的にこう告げてオフィスに向かって歩き始めます。
「オマエと組むのは正直テンション下がる。
けれど、わけあってこの勝負は絶対に負けられない。
チカラを貸してくれ」 その歩くスピードが先ほどよりも少し速いことに気付いた智香は、少し駆け足で木村のあとを追いかけました。
1 「効率化」をかけ声だけで終わらせないために表参道店プロジェクト始動 翌日の午前 10時。
営業部の全メンバーが集まる部内会議で、木村から「表参道店プロジェクト」についての詳細が説明されました。
「……ということで、俺がプロジェクトリーダー、柴崎が一応サポート役という形でこのプロジェクトを進めることになった。
みんなにもいろいろと仕事を頼むことになると思うけど……っておい近藤! 聞いているか?」 「ふあ ~……」 「こ、近藤さん……」 木村はカバのように大きな口を開けてあくびをした後輩を睨みつけます。
眠そうなこの男の名は近藤琢磨。
営業部所属で奈々よりもひとつ年上ですが、どちらかというと大人しく頼りないタイプ。
奈々と同じく木村のアシスタント的な仕事を日々こなしています。
「オマエさ、もうちょっとテンション上げられないもんかね」 「はあ……でもボク、朝はとても弱くて……お話はちゃんと聞いています」 「ったく、しっかりしてくれよ。
あ、部長から何か補足はありますか?」 「いや。
とにかくみんなしっかり頼むな。
何よりも大切なのは『 FLAPには負けない!』という我われの熱意だ。
それぞれ既存の仕事で忙しいとは思うが、気合と根性で何とか乗り切っていこう!」 声の主は福島貴志。
木村の上司であり、ブライトストーン社の営業部長です。
生活雑貨などの営業職を 18年間務めたのち、ブライトストーン社にやってきて 7年目。
昔ながらの「気合と根性」を大切にするタイプで、「最後は自分の直感を信じろ!」が口癖です。
ファッションに精通していないこともあり、これまでずっと木村の能力を高く買い、信頼してきました。
「そこでまずは表参道店に関するこれまでの数字をまとめ、今後の施策を検討したいと思う」 「そうですね ~。
でもどんなデータを集めたらいいですか?」 「まずは改めて過去の表参道店の売上高を月別推移で把握したい。
また、我われはファッション誌への広告出稿にかなり費用を投下しているので、その出稿金額も数字でほしいな。
旗艦店である表参道店の売上高が広告出稿としっかりリンクできているのかを把握したいんだ」 「なるほど ~、わかりました ♪ あとは何かありますか?」 「それと、これまで表参道店のお客様に送付したメールマガジンの配信数も集計しておいてほしい。
これって奈々ちゃんと近藤の 2人でやってきた仕事だよな。
これも理由はさっきと同じ」 「は ~い、了解です ♪ 何か先輩、リーダーっぽくてイイ感じですね ☆」 「ボクもそう思っていました。
半年前の先輩とはまるで別人……」 睨みつける木村の目線に気付き、近藤は口を真一文字に閉じました。
確かに近藤の言う通り、半年前までの木村ならほしいデータをこんなにサッと指示するなんてあり得ないことでした。
智香に鍛えられた成果ということかもしれません。
リーダーとして最悪の指示 「よ ~し、じゃあさっそく今日からでも取りかかってくれ。
ところで木村、この仕事は島田にやってもらうのか?」 「そうですね……奈々ちゃんだったらこの仕事、どのくらいで終わりそう?」 「えっと ~、だいたい 3時間くらいはかかります……たぶん」 「3時間かぁ……じゃあ、近藤だったらどのくらいの時間で終わりそう?」 「そうですね…… 2時間くらいでしょうか」 「……そうか。
じゃあこうしよう! この仕事はいまから急ぎで着手してほしい仕事だから、 2人で一緒にやってくれないか。
そのほうが効率的だし、どうだ?」 「ワタシは大丈夫です。
そこそこ忙しいですけど……」 「ボクも大丈夫です」 「よ ~し決まりだ! いまから 2人で一緒にデータを収集し、できるだけ早く終わらせてメールで送ってくれ。
時間短縮! まさに業務効率化だな!」 奈々と近藤は「はい」という言葉と同時に頷きます。
何事もスタートが肝心、スピーディに進められそうだと満足していた木村でしたが、それまでずっと黙っていた智香の発した言葉が木村の満足感を瞬時にゼロに変えてしまいました。
「ダメですね」 会議室にいるメンバー全員が一斉に智香に視線を送ります。
「ん? いま、何て言った?」 「全然ダメですね。
先輩のいまの指示は、リーダーとして最悪です」 「はぁ?(カチン)何がいけないんだよ」
「数字が入っていません」 「で、出た。
またそれか」 一見、木村の指示「できるだけ早く終わらせてくれ」は適正な指示のようにも思えます。
実際、できるだけ早く終わらせてほしい仕事です。
しかし、智香は一刀両断しました。
「では逆に、島田さんと近藤さんにうかがいます。
いまからお 2人で共同作業をしたとしたら、この仕事は何時間何分で終わる予定ですか?」 「え、何時間何分? ……そんなことまったく考えていませんでした。
近藤さんは?」 「ボクもです。
何となくですけど、 1時間半くらいですかね……」 「では先輩はどうですか? どのくらいで終えてくれるイメージでしたか?」 「そうだな……まあ 2人で集中してやれば 1時間くらいでできちゃうかなと」 「ほら、 3人の認識がバラバラじゃないですか」 確かに指示に具体的な数字が入っていないと今回のように「なるべく早く」の理解が人によって異なる可能性もあり、場合によってはかえって仕事が効率的ではなくなるケースもありそうです。
「なるほど。
柴崎さんが言いたいことは私にもよくわかる。
しかし、このようなケースでは、木村はどのように数字を入れて伝えたらよかったんだろう? 適当に根拠もなく〝 30分でやれ〟ではさすがにちょっと乱暴だよな」 「部長のおっしゃる通りです。
もちろん根拠のある数字で指示をしなければなりません」 「フンッ! 根拠なんてどうやってつくるんだよ。
ざっくり俺の主観で決めるしかないじゃないか」 「いいえ、そんなことはありません」 「……?」 智香はスッと立ち上がり、会議室にあるホワイトボードに向かいます。
「あ、今日も始まりますね ♪」 「そうですね」 「柴崎さんの特別講義、だな」 「フンッ」 智香はくるりと振り返り、木村のほうを見ました。
2 「効率」を計算で求めようそもそも「割り算」とは? 「先輩は、〝割り算〟ってビジネスシーンでは何のために使うか知っていますか?」 「へ? 割り算? そりゃえっと……何のためって言われると……」 そうなのです。
こんな〝そもそも〟なことほど、普段から誰も考えないものです。
智香はホワイトボードで簡単に整理し(次の図参照)、説明を続けます。
「私たちが当たり前のように使う、足す、引く、掛ける、割る、つまり〝四則演算〟には、ちゃんと役割があります」 「柴崎さん、ボクは〝掛け算〟がピンとこないんですけど、どういうことでしょうか?」 「はい。
たとえば 2が4つある時の合計値を知りたければ、原理原則は 2 + 2 + 2 + 2 = 8という足し算を使うことです。
でも、もっと素早く答えを得る方法がありますよね」 「2 × 4 = 8、ってことですか!」 「そうです(ニコッ)。
複数の量をまとめるという意味では、足し算も掛け算も役割は同じです。
でも、ほとんどのケースで掛け算のほうが素早く把握できますよね」 「柴崎センセ ~イ ♪ じゃあ、なぜ割り算は〝ある量の質を評価するため〟なんですか?」 その質問を聞き終える前に、智香はホワイトボードの空白部分を使って素早く板書し始めます。
まるでどんな質問が飛んでくるかが事前にわかっているかのようです。
「そうですね。
たとえば同じ売上高 1000の店舗 Aと店舗 Bがあったとして、売場面積が店舗 Aのほうが広いとします。
仮に Aが 50、 Bが 20としましょうか。
島田さんだったらどちらの店舗の質が高いと評価しますか?」 「えっと ~これだけの数字で判断するなら、店舗 Bです」 「それはなぜでしょう?」 「えっと ~それは……売場面積あたりの売上高で比較したら店舗 Bのほうが高いからです!」 「その売場面積あたりの売上高という数字は、どんな四則演算で計算できるのでしょうか?」 「そっか ~! 『売上高 ÷売場面積』。
つまり〝割り算〟ってことですね ♪」 奈々のその答えを聞き終えてから、智香はホワイトボードに 20と 50という2つの数字を書き込みました。
ビジネスパーソンは普段から何気なく「〇〇あたり」という数字を割り算で算出していますが、それはある量の質を評価するという目的を達成するためなのです。
すると、これまで黙って聞いていた木村が口を開きました。
そもそも効率とは? 「フン、何だか理屈っぽい話だがまあいい。
それで、この話がさっきの〝一緒にやってくれ〟の指示とどう関係してくるんだ?」 「はい、これから本題に入ります。
さっそくですが先輩に質問です」 「あのな、俺に質問するんじゃなくて、俺の質問に答えてくれないかね」 「効率って何ですか?」 智香の予想外の質問に木村は戸惑いを隠せません。
「効率」とは何か。
普段から当然のように使っているものほど、その本質的な意味を問われると困ってしまうのは、これに限ったことではありません。
「何ですかって……言葉で表現しようとすると難しいな」 「でも、先輩は先ほど〝まさに業務効率化だな〟ってご自身でおっしゃっていましたよ?」 「……(ったく、相変わらず性格悪いなコイツは)」 「では、数字でも結構です。
効率ってどう計算するものですか?」 「うっ……考えたこともなかったな。
わからん」 「ははは、確かに私も考えたことなかったな。
ぜひ教えてくれないか、柴崎さん」 「わかりました」 ニコニコしながら福島が先を促します。
マネジメント経験豊富なだけあって、智香と木村のコミュニケーションをうまく橋渡ししてくれています。
智香はホワイトボードにひとつの計算式を書きました(次の図参照)。
「効率とはこのような簡単な割り算で計算するものです。
先ほどの例で言えば、目標とする量 =売上高、それに割く資源 =売場面積」 「あっ! 〝割く〟って言葉……」 「島田さん、よく気が付きましたね。
だから割り算しているんですね」 「確かに。
でも、まだ話は終わりじゃないよな?」 「はい、そこで先ほどの業務効率化の件について考えてみます」 「効率」という言葉は普段から当たり前のように使いますが、確かに言われてみれば智香が示したように説明できるものです。
智香の話は、いよいよここから本題に入っていきます。
3 「仕事算」を仕事で使っていますか?「仕事算」って何だっけ? 「先輩は、〝仕事算〟ってご存じですか?」 「シゴトザン? ツルカメザンの仲間か?」 「……まあそんなところです。
勉強しませんでしたか?」 「さあ、そういう類の授業はだいたいマンガ読んでいるか、寝てたからな」 「就活の能力検査でも出てくる考え方だね。
確か算数の知識で十分理解できる内容だったような……」 「その通りです。
まず最初に、先輩が 2人に指示した表参道店の情報収集という仕事の量を何か数字で表現しましょう」 「数字で表現? それって難しくないか?」 「いえ、簡単に考えればいいんです。
実際の仕事内容がどうかはさておき、先輩が最も扱いやすい数字に置き換えるんです」 「ん? じゃあたとえば…… 1とか?」 「いいですね。
では 1としましょう。
近藤さんの場合、その 1という仕事を 2時間で完了できるということでした。
ということは近藤さんの〝効率〟って数字で表現すると……?」 「さっきの公式で考えると、 1 ÷ 2 = 1/ 2または 0・ 5ってことですか?」 近藤の効率 = 1(仕事で目標とする量) ÷ 2(それに割く時間) = 1/ 2 「その通りです! と考えるならば、島田さんの効率は?」 「えっと ~、ワタシの場合は 3時間で全部完了できるって答えたので、 1/ 3ってことになるんですか?」 「はい、おっしゃる通りです。
ということは、先輩が指示した〝 2人で共同作業〟の場合の効率はいくらになるのでしょう?」
智香を除く 4人がしばらく黙って考え込んでいます。
ここが「効率」を考える上で最も重要なポイントになるため、智香は彼らの理解をじっと待つことにしました。
「そうか! シンプルに考えればいいんだな。
近藤の効率は 1/ 2、島田の効率は 1/ 3だから、 1/ 2 + 1/ 3 = 5/ 6が共同作業における 1時間の効率だ」 「……!」 「そうなんです。
2人でやれば 1時間でこの仕事の 5/ 6が消化されているということになります。
かなり完了に近い状態にあると考えられますね」 「なるほど ~。
ということは、完了するのにかかる時間は……ん? どう考えたらいいんだ?」これが「仕事算」の考え方 智香はここまでの流れをひとつの表にまとめることにしました。
「改めて整理して考えてみましょう。
近藤さんの効率は 1/ 2、一方の島田さんも同様に考えて 1/ 3。
だから、 2人の共同作業の場合は 5/ 6」 「ああ、そこまではわかった」 「この表はこう解釈することもできますよね」 智香はホワイトボードに5つの計算式を書きました(次の図参照)。
「おっ?」 「あ ~! わかった ~♪」 「そうか、『かかる時間』と『 1時間あたりの効率』は逆数の関係になっているんですね」 「逆数って、つまり 3と 1/ 3とか、 2と 1/ 2の関係のことですよね ♪」 「いや ~そういえば昔やったよ、こういうの。
結論は 6/ 5時間かければ共同作業は終えることができるということだね」 「6/ 5時間ってことは……えっと、 1時間……何分だ?」 「えっと ~、分数ってやっぱり苦手」 「1/ 5時間が何分かがわかればいいですよね。
1時間が 60分だから 5で割って 12分」 「ということは 1時間 12分?」 「そういうことです。
このような考え方を〝仕事算〟と呼んでいます」
4 指示は目標とデッドラインを数字で伝えるあくまで数学の話だろ? ビジネスにおいては仕事の量を数字で明確に表現できないケースが圧倒的に多いものです。
しかし、そんな時でも全仕事量を数値化し(今回は 1と置いた)、割り算するだけで効率を把握することができるのです。
ところが、木村にはまだ納得できないことがひとつだけありました。
当然、その疑問が飛んでくることは智香も予測できていましたが。
「ま、仕事算の理屈はわかったよ。
でもさ、これってあくまで数学の話だろ? 仕事算で計算したら 1時間 12分だから、『ピッタリこの時間で終わらせろ!』なんて指示、逆にリアリティがないぜ?」 「いい視点ですね。
私もその通りだと思います」 「じゃあこんな数学、ビジネスでは使えないということにならないか?」 「いいえ、それは違います」 「あ??」 「学生時代の数学とビジネスでの数字の活用はまったく別物ですから、このような数学的な考え方をそのまま使うのではなく、うまく応用すればいいのではないでしょうか」 「……?」仕事算を応用した「指示」 「応用すればいい」という智香の言葉の真意が、まだ木村には読み取ることができていません。
その様子を察した智香が言葉を続けます。
「先輩、何かを指示する際に必要な数字って、どんなものがあると思いますか?」 「ん? そりゃ目標とかだろ。
『 1時間後までに』、みたいな」 「はい、その通りです。
でも実はもうひとつ数字がプラスされていると、その指示はさらに〝効く〟内容になるんですけどね」 「もうひとつの数字?」 「はい、たとえば私がある会議の資料作成を依頼されたとすると、知りたい情報は2つあります。
ひとつは、できればいつまでにほしいのか。
つまり目標ですね。
そしてもうひとつは、最悪の場合、いつが期限なのか。
つまりデッドラインです」 「……うむ、確かに」 「であるならば、今回のケースではこう指示をしたほうがよかったのではないでしょうか」 智香は目線を奈々と近藤の 2人に向け、突然指示をし始めました。
「近藤さん、島田さん。
先ほどの情報収集は、お 2人の共同作業でお願いします。
数字上は、 1時間 12分で終わる計算になるので、 1時間を目標にお願いします。
もし 1時間半もかかるようなら理論上おかしいですよね。
お 2人の仕事の仕方が悪いと判断します。
では、よろしくお願いします」 奈々と近藤は目をパチクリ、木村と福島はポカーンと口が開いたままです。
「近藤さん、島田さん、何か異論は?」 「いえ、ありません(厳しいな ~)」 「いえ、ありません(厳しいな ~)」 「……(ポカーン)」 仕事算で捉えた 1時間 12分はあくまでも理論値です。
ですが一方では根拠を持った数字でもあります。
ならば、その根拠をうまく使って目標とデッドラインを数字で伝えられれば、相手は NOと言いにくいのです。
「き、厳しいようにも感じますが、反論できませんね(苦笑)。
これって逆に言うと、どう考えてもできない仕事量を頼まれた時は、こういう考え方を使って『できない』と根拠を持って伝えられるようにもなりますよね」 「あ、確かに!」 「お 2人の言う通りです。
指示する側にとっても、指示される側にとっても、仕事算は有効な考え方と言えますね。
ではプロジェクトリーダー、このような指示内容でよろしいでしょうか? 仕事算なのですから、仕事をしている人がいざ使える局面で使えないなんて、マズいですよね(ニコッ)」 「おおお、おう(厳しいな ~)」 引きつる木村の表情を見て、福島が思わず苦笑いしています。
マネジメント経験は豊富な福島ですが、こんな智香の仕事ぶりに最初は福島自身も戸惑いを感じていました。
しかし、徐々に彼女の個性をどう使えばこのチームがうまく機能するかを考えるようになり、現在ではいままさに繰り広げられたこんなコミュニケーションが、おそらくチームとして理想的なのだろうという結論に至っていました。
「よ ~し、じゃあ次の議題にいこうか」
5 粗利額が高くなる接客方法ショップスタッフの効率 「よし、次の議題は表参道店のスタッフについてだ」 「木村、何かスタッフの仕事ぶりで気になることでもあるのか?」 「はい、彼らは他のどの店舗のスタッフよりも忙しそうにしています。
とても一生懸命接客をしてくれているからです。
でも、結果的に表参道店が稼ぎ出している粗利益はあまり高くないんです」 「それはつまりどういう問題があると?」 「他の店舗よりも取り扱うアイテム数や来客数が多い分、〝効率〟の悪い仕事をしているのでは……」 〝効率〟という言葉にその場にいた全員がピクッと反応します。
「あ ~あ、言っちゃった」という奈々の表情を見て、木村も自分が地雷(?)を踏んだことに気付きました。
「ということは、その〝効率〟も数字でアプローチしなければなりませんね」 「あ、いや、それはだな……」 「こういうケースでの〝効率〟っていったい何でしょうか?」 観念した木村は、智香の問いに答えていくことにしました。
売るためにかかる接客時間 「ショップスタッフにとって効率の悪いアイテムというのはズバリ、売るのに時間がかかる割には粗利が低いアイテムのことだな」 「丈直しとかが必要なアイテムはどうしても長くなりますよね ~」 「あの……こうしてみたらどうでしょうか。
アイテム分類ごとに、ざっくりした粗利額と売るために要する接客時間を数字で出して、効率を計算してみるというのは」 「近藤さん、それは名案です(ニコッ)」 珍しい智香の笑顔とお褒めの言葉に、近藤は照れながら頭をポリポリかきます。
メンバーはさっそく意見を出し合い、必要な数字を整理することにしました。
アウター、トップスなどアイテムを分類し、それぞれ 1点あたりの平均粗利額と売るために必要な接客時間を概算で出します。
白熱する議論は商品知識やショップスタッフ経験も豊富な木村が主導し、智香はただ黙って聞いているだけでした。
「よし、ざっとこんなもんだろう」 「そうですね ~、けっこうリアルな数字だと思います」 「なるほど、パンツはシルエットやフィット感など気になるポイントがたくさんありますし、丈直しなどが発生する場合もあるから接客時間が長い。
確かに靴も長いでしょうね。
でも、小物ってこんなに長いんですか?」 「ああ、アイテムにもよるけれど、たとえばバッグとか革小物だと意外と長いな。
色違いでスゲ ~悩むんだよね。
何度も持ち替えて鏡の前で見比べる、みたいな。
まあ気持ちはわかるけど(苦笑)」 「なるほど」 「さっそく効率を計算してみましょうよ」アイテム分類ごとの「効率」 近藤は全アイテムについて効率を計算し、表に書き込みました。
「ふむ。
これでどのアイテムの効率がいいか悪いかがざっくりわかったわけだな」 「……」 「……」 「……」 「んで、どうすりゃいいんだ??」 確かに木村の疑問はもっともです。
アイテムごとの効率が数字で捉えられたとして、「だから接客するスタッフは具体的にどうすればいいのか」がわからなければただの数字遊び。
数字を使うことの価値がまったくありません。
「このような数字をショップスタッフが掴んでおけば、パフォーマンスに変化が起こるのではないでしょうか」 「たとえばどんな?」 「〝すべてのお客様に同じ接客をしない〟ということです」 「……?」 「たとえば、バッグや革小物を見ているお客様にはこちらから積極的にはアプローチしない。
1分あたりの効率はトップスのほうが 4倍ですから、そちらを探されているお客様を優先して声をかける。
しかも、接客時間の目安は 10分程度と認識してお客様と会話する」 「そうか! 『効率のよさ =優先順位』、『接客時間 =仕事におけるタイムマネジメント』、になるということか?」 「その通りです」 このような数字をショップスタッフが掴んでおけば、たとえばパンツを探しているお客様に接客している時は、そのまま単品購入だけで終わってしまうと質が悪い仕事( 1分あたり 165円の効率)という評価になり、小物を 25分かけて接客し、粗利額 3000円の商品を 1点購入してもらっただけの仕事の質( 1分あたり 120円の効率)とそれほど変わらないということになるのです。
「確かに表参道店のスタッフって、とっても真面目なんです。
どんなお客様にも声をかけて、一生懸命接客しているんですよね ~。
でも結果として、アウターや靴とかを探しているお客様にしっかりスタッフがつけていない場面、何度か見ました」 「なるほど。
どうやら表参道店の改善点が見えてきたようだな」 「すぐにいまの話をスタッフに共有し、意識して動いてもらいましょう」 「ええ、でもいくらこちらから〝意識して〟と指示してもなかなかすぐには変わらないものです。
仕組みをつくらないと」 智香の言う通りです。
あくまで現場のスタッフはお客様と対話しながら商品を売ることが使命です。
お客様あってのことですから、なかなか机上の算数のような理屈を仕事に反映できないのが現実です。
しかし、そんな中でもスタッフが数字を意識し、自ら仕事をコントロールし、あとからチェックできる方法、計画( Plan)・実行( Do)・確認( Check)・行動( Action)、つまり PDCAサイクルを回せる仕組みができないものでしょうか。
現場に「効率」を浸透させるために 「あ? 何だよ、その仕組みって?」 「簡単です。
接客が終わったら〝記録〟するんです」 「……?」 「もしかして、スタッフが接客した結果をすべて記録するということですか?」 「そうです。
何分お客様対応をし、何が売れたのか、接客が終わったらすべて記録するんです」 「ひゃ ~! 厳しい ~!!」 「でもルールをつくってしまえば、必ずショップスタッフさんは自分の接客が終わったあとに、自分で仕事を評価することになりますよね。
いまの接客の質はよかったのか、悪かったのか、悪かったのなら何が理由だったのか」 「な、なるほど……」 〇分〇秒、などと厳密に細かく数字を追いかける必要はまったくありません。
ざっと数字で評価できればよいのです。
これは接客の成果が複数アイテムにわたった場合でも、次のようにシンプルに考えて質を評価できるのです。
「たとえば、トップスとスカート 1点ずつのセットを 60分間の接客で購入いただいたとします。
効率はいくらでしょうか?」 「えっと、……こういうことかな」 得られた粗利益 4800円(トップス) + 5400円(スカート) = 10200円 接客にかかった時間 60分間 効率 10200円 ÷ 60分 = 170円/分 「そうですね。
ということは、つまりこの仕事の質は、効率が悪い例で先ほど登場した〝パンツ 1本の接客 40分間〟とほとんど同じということが言えます」 「そうか! セット販売で単価はアップできたけれど、仕事の質は悪かったと評価できるということか!」 「そういうことになりますね」 「さらに、どうお客様にアプローチしていればもっと短時間、たとえば 30分で終えることができたのだろうかといった反省もあとでできるわけだな」
目の前のお客様の販売単価(つまり得られる粗利益)を上げることが上質な仕事であるという考え方は、一見正しそうに思えます。
しかし、現実はそんな簡単なものではありません。
販売単価が高ければ高いほどお客様は悩むし、なかなかお財布を開かないものです。
だからこそ、数字を使った「効率」という観点を入れて自分の仕事を評価し、単純に粗利益だけを追いかけるのではなく、質も上げていくことがビジネスパーソンには必要になるのです。
さっそく木村から表参道店のスタッフに伝えられ、この内容が共有されました。
そして、各自で接客業務を数字で評価し質を上げる意識を持つことと、店長には各スタッフのパフォーマンスがどう変化していくかを報告するよう指示が、いいえ、〝プロジェクトリーダーらしい具体的な指示〟が出されたのです。
「効率化」は数字なしでは語れない その日の夜、オフィスに一人残っていた智香に部長の福島が声をかけました。
「柴崎さん、まだいたのか」 「ええ、もう少しで帰りますけど」 「ひとつ質問してもいいかい?」 「はい、どうぞ」 「今日の柴崎さんを見ていると、既存業務の効率化にとても熱を感じたんだが、実際のところどうだろう? 表参道店プロジェクトは社運をかけたプロジェクトだし、つい店頭での見せ方を劇的に変えてみたり、大規模なマーケティング策ばかり考えがちだろう。
まあ木村だったらそれしか考えないだろうが(笑)」 福島の指摘は的を射ていました。
新規プロジェクトと聞くと、ついつい「新しいことの創造」をイメージしがちです。
しかし、智香が最初に注目したのは既存のメンバーやショップスタッフの仕事の仕方、特に無駄を省き効率的に業務を進める意識付けでした。
「そうでしょうね。
でも表参道店プロジェクトが始まる以上、みなさんの負担は確実に増えます。
いまのままでは間違いなくパンクします。
つまり、これまでの仕事の仕方を一度否定しなければならないということです」 「なるほど。
そしてそこから具体的にどうするかを考えるには、数字のチカラも必要ってわけだね」 「はい。
〝効率化〟が、かけ声だけになってはいけませんから」 そんな智香に福島はサッとチョコレートを差し出します。
智香が好きなブランデー入りの高級チョコレート。
普段はほとんど見せない笑顔を一瞬見せた智香に、福島はくしゃくしゃのおじさんスマイルで応えました。
IZAKAYA TALK 6 自分の仕事の質は自分自身で高める ここはとある居酒屋。
2人はカウンターに座ってビールと焼き鳥盛り合わせを注文しました。
一人は木村。
そしてもう一人は〝いつもの女性〟です。
ビールが運ばれる前にさっそく木村がグチをこぼし始め、親身になって聞き役に回るその女性。
いつもの光景が今夜もそこにありました。
「でさぁ ~、今日も会議はアイツの講義みたいになっちゃったわけ。
あんな奴とコンビ組めと言われてもさ、うまくやっていくのがホント大変なわけよ」 「うん、うん、そっかぁ」 あいづちを打つその女性は縄田千春。
商社で事務の仕事をしている OLです。
木村との関係はというと……付き合って 3年目になる、ひとつ年上の恋人です。
木村とは違っておっとりした優しい性格の「お姉さんタイプ」な千春ですが、ときどき無意識に鋭い言葉を木村に投げかけたりして彼をハッとさせる、そんな女性です。
だからこそ、この 2人はよい関係が長く続いているのかもしれません。
「相変わらず強烈ね。
あなたとは正反対のタイプだもんね」 「ああ、いったいどこからああいう考え方が出てくるのかね〜。
やっぱり持って生まれた才能とかなのかな?」 「さっきの話を聞いていて思ったんだけど……」 「ああ」 「今日の数学女子の考え方って、一見難しそうに思えるんだけどタネを明かされると意外と簡単なことのように感じない?」 「……!」 実は木村もまったく同感でした。
千春は言葉を続けます。
「何かこう〝単に割り算しているだけ〟、みたいな」 「……」 「最初の仕事算の話もそうだし、ショップスタッフの業務効率化の話もそう」 「……まあそうだな」 確かに今日の智香がしたアプローチは、目標値をそれに割く資源で割り算するという、いたってシンプルなものなのです。
「何か私の職場にも彼女みたいな人がいると助かるな ~って思っちゃう」 「ええ!? 冗談だろ?」 「ううん。
だって私の上司って、いつも『効率的に仕事しろ!』って言うんだけど、じゃあ具体的にどうやり方を変えたらいいのか、どう考えたらいいのかはちっとも教えてくれないもん。
私が何を尋ねても、『そんなこと自分で考えろ!』ばっかりなんだよね……」 「はは……あるある」 「こんなこと言うのもあれだけど、上司は私の仕事の評価はするけれど、どう質を高めていけばいいのかは教えてくれないものなんだな ~って」 「よっ! 日本中の管理職を敵にまわす発言 ♪」 「もう、茶化さないでよ。
でも実際のところ、自分の仕事の仕方を変えられるのは自分自身だっていうのも事実でしょ? あ ~あ、頑張らないとなぁ」 木村はハッとしました。
スタッフに業務効率化の指示をしたものの、自分自身はどうなのだろうか。
表参道店プロジェクトのリーダーとして、人に要求する以上は自分自身も……。
社長の顔を一瞬思い浮かべた木村は、口いっぱいに焼き鳥を頬張りました。
「ところで、表参道店プロジェクトのリーダーなんてすごいじゃない! どう?うまくいきそう?」 「……ああ、このプロジェクトだけは絶対に成功させないといけないんだ。
絶対に」 「ふ ~ん。
何か思い入れでもあるの?」 「いや、別に。
何で?」 「ううん、別に」 木村の表情が急に強張ったことに千春は気付いていました。
ですが、それには気付かなかったフリをして、少しぬるくなったビールを一気に喉に流し込みました。
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