はじめに
この本は、仕事のなかで何かを教えなければいけないという人のために書きました。もしかすると「私には特に何かを教えることはありません」と思っていませんか?いいえ、必ずあるはずです。
新人が入ってくれば、すぐに仕事の知識を教えなければなりません。部下や後輩には、計画の立案や仕事の段取りを教えていかなければなりません。
このように、仕事のなかで教える機会はたくさんあります。新人だった自分が成長できたのは、うまく教えてくれる先輩や上司がいたからです。今度はあなたが教える番です。
しかし、うまく教えるためには「教える技術」が必要です。
私たちは、学校や会社などさまざまな場面で、いろいろなことを教えられてきました。九九から文章の書き方まで、たくさんのことを教えてもらってきたのです。
しかし、不思議なことに、自分が誰かに教えるための方法である「教える技術」については、教えてもらえませんでした。
あなただけでなく、世の中の大部分の人は「教える技術」を学んでいません。
だから、私たちが誰かに何かを教えてもらうときに、その教え方がヘタなためにうまく学べないことが多いのです。そんなときでも、その責任はたいてい学ぶ側に押しつけられます。
たとえば「真剣にやっていないからだ」「学ぶ努力が足りないからだ」などと言われてしまうのです。果ては、教える側に「頑張れば、誰でもできるようになるはず!」とまで言われます。
頑張ればできるのであれば、教える人などいらないではないですか? できるようにならない本当の原因は、その人の教え方がヘタなだけだというのに!この本では、あなたに「教える技術」を身につけられるようにお教えします。
「教える技術」が身につくと、仕事が驚くほど楽しくなること、うけあいです。さあ、始めてみましょう。
教え方がうまい人とはどんな人なのか?
あなたは、人に教えるのが得意ですか?それとも、苦手ですか?おそらく、「自分は教え方がうまい!」と自信をもって言える人は、そうはいないでしょう。
では、教え方がうまい人とは、どんな人でしょうか?教え方がうまい人は、自分で気づくというよりも周りから高く評価されていることが多いようです。
たとえば、「鈴木さんって、新入社員を育てるのが上手だよね。叱っているところを見たことがないし、うまくやる気を出させているんだね。新入社員たちもイキイキしているよ」と社内でもっぱらの評判だったり、「今日の研修講師の尾藤さんの話、良かったよね。
いつもは眠気をこらえるので必死なのに、今日はおもしろくてつい聞き入っちゃったよ」と教えられる側の人たちからいい感想が聞こえてきたり、「田中先生に教えてもらうようになってから、みんな書道の腕が上がったよね。こんなに書道が楽しいものだったなんて、初めて味わう気分だよ」と趣味で通う教室の生徒たちの間から称賛する声があがったり……。
こんなふうに、教え方が上手になると、みんなの人気者になるので、好印象をもたれることが多くなります。
教えられる側は、教えられる前からいいイメージを持って迎えられるので、たいていのことは好意的かつ、スムーズに進み、結果、みんなのモチベーションをアップさせることができるのです。
この本を読んで、あなたもぜひ、その一人になってください!
まとめ
▼教え方が上手になると、好印象で迎えられる
教え方がヘタな人はこんな人
では、教え方がヘタな人ってどんな人でしょうか?教え方がヘタな人は、教え方が上手な人の真逆で、周りから不評を買ったり、悪印象をもたれたりしています。
たとえば、こんな感じです。
「中村係長って、俺たち新入社員に教えるときはいつも偉そうで、ちょっとでもミスすると不機嫌になるんだよな。まだ仕事をよく理解できていないのに、いきなり難しい案件を渡されてどうしたらいいんだよ。あぁ ~、会社に行くのが憂鬱だよ」ともっぱらの悪評だったり、「山田先輩って、私たちに一生懸命仕事を教えようとしてくれるのはわかるんだけど、結局、どうすればいいのかいまいちよくわからないんだよね」と後輩の間で不評だったり、「岸田課長って、最近イライラしてない? 昨日、仕事でわからないところがあったからミスしないように聞きにいったんだけど、『なんでそんなこともわからないんだ!!』って、すごい剣幕で怒られた。こんなんだったら、聞きにいかなきゃよかったよ」と、同僚同士でヒソヒソ話をしていたり……。
こんな調子ですから、教え方がヘタな人には誰もついていこうとしなくなるし、みんなのモチベーションも下がってしまうのです。
さぁ、あなたは周りからどんな評価を得ているでしょうか?気になった方は、同僚や友人、家族に「私の教え方って、どう思う?」と聞いてみてください。
それでだいたいの感じがわかります。
まとめ
▼教え方が上手かヘタかを知りたければ、周りに聞いてみよう
〝先生〟と名のつく人が教え方のプロとは限らない
さて、周りはあなたのことをどう評していましたか?「やっぱり、私って教え方がヘタなんだ……」と落ち込む必要はありません。
きっと、たいていの方が残念な返答をもらっているはずですから。
なぜ、うまく教えられないのかと言えば、教えるための方法である「教える技術」を教えてもらったことがないからです。
教える技術は自然に身につくものではありませんから、自分で意識をして訓練する必要があります。
では、教えることを商売にしている学校の先生や塾の先生など、〝先生〟と名のつく人たちは、教える技術を身につけているのでしょうか?いやいや、みなさんもよくご存じの通り、教え方が上手で人気のある先生もいれば、教え方がヘタで目も当てられない先生もいます。
先生という仕事をしていれば、生徒に教えるための「虎の巻」がありますから、教える内容についてはよく知っているはずです。それに従って教えていれば大きな差が出るはずはないのですが、実際は大きく評価が分かれます。
ここからわかることは、上手に教えるためには、教える内容に加えて「教える技術」を身につけないと、相手に効果的に伝えることができないということです。
私たちは、自分がすでに知っていることやできることなら、他人に教えることは簡単だと思いがちですが、実際はうまく教えられません。
知識や伝えたいことがあるのに、それをうまく教えられないなんて、とてももったいないことですよね。
だからこそ、教える技術をしっかり習得する必要があるのです。
まとめ ▼教える技術は、訓練しなければ身につかない
教える場面はいくらでもある!
あなたが誰かに何かを教える場面は、日常のなかにたくさんあります。
営業から違う部署へ異動となれば、新しい担当者に引き継ぐために、取引先とのやりとりや、気をつける点などを教えなければならないでしょう。
まったく営業経験のない人に教えるとなれば、取引先に失礼がないように一から丁寧に教えなければなりません。
あるときは、新入社員にパソコンソフトを使って、データの入力方法や資料、企画書作りなどを教えることもあるかもしれません。
エクセルでグラフを作ったり、パワーポイントでプレゼンテーション資料を作れるようになるには時間がかかりますが、それを辛抱強く見守りながら教えることはできるでしょうか?また、新人のアルバイトさんにレジの打ち方を教えることもあるかもしれません。
自分はレジ打ちをマスターしているからといって、傲慢な態度で教えたらすぐに嫌われてしまうでしょう。いい人間関係を築きながら教えるには、ひと工夫する必要があります。
他にも、機械など触ったことのないおばあちゃんに携帯の使い方を教えることもあるかもしれません。複雑な携帯の機能をなかなか理解できないおばあちゃんに教えるには、ちょっとしたコツが必要です。
こうして考えてみると、私たちは日常生活のなかで、教えるという場面を多々経験し、教えるという行動にけっこう長い時間をかけているものなのです。
それにもかかわらず、今自分が〝誰かに教えている〟ということを意識しないまま、やみくもに教えている人のほうが多いのではないでしょうか?教える技術があれば、的確に理解しやすく教えることができるので、教えられた人もあなたに感謝するでしょう。
教える技術は、時間を効率的に活用できるようになるだけでなく、教える側と教えられる側の良好な人間関係を築く上でも有効なのです。
まとめ ▼教える技術は、良好な人間関係を築く
誰でも教え方のプロになれる!
では、教える技術とは、何でしょうか? それを明かしていくのがこの本です。
繰り返しますが、誰かに何かを教える場面は日常生活や仕事のなかにたくさんあるにもかかわらず、「教え方」は学校では習いませんでした。
国語、数学、物理、化学、地理、歴史、英語、心理学、国際政治学、経済学……さまざまな科目があるのに、どこを探しても「教え方学」という科目はなかったのです。
私たちが生きていく上で、仕事をしていく上で、必ず必要となる内容であるにもかかわらず、教わることがなかったので、いざ他の人に教える場面になると、うまく教えられずに困ってしまうのです。
でも、安心してください! 教え方の技術を学べば、誰でも教え方のプロになれます。じつは、私が今、大学で教えているのが、うまく教えるための技術と科学を扱う「インストラクショナルデザイン」という学問です。
この学問を学び、教える技術を習得した学生たちは、みな自信をもって社会に羽ばたいていきます。
私たちは必ず年をとって老いていきますから、どんなことも、自分よりも年下の人や経験のない人たちに教え、継承していかなければ社会は回っていきません。
仕事であれば後輩や弟子を育て上げ、自分のやってきたことを引き継いでもらう、子育てであれば、子どもに社会のルールを教えて自立できるようになってもらう……。
すべての人が「教える技術」を学べば、この社会はもっともっと良くなることでしょう。
次の章からは、教える技術について具体的な方法をお話ししていきます。
ぜひ、ひとつひとつ〝教える〟ということがどういうことなのかを知り、上手に教える技術を学んで、社会で活かしてみてください。
毎日が充実し、楽しくなることでしょう。
まとめ ▼教える技術は、社会を明るくする
仕事も人間関係も軽快に変わる
教える技術を学ぶと良好な人間関係を築くことができると言いましたが、それは無駄なエネルギーを使わなくて済むようになるからです。
冒頭のマンガに登場する小林係長は、典型的な体育会系の上司です。
体育会系なので、部下を厳しく指導すれば結果が出せると思っていますが、人間とは自分を受け入れてもらってはじめて相手に心を開く生き物です。
ですから、上から押し付けられる指導では、心を開いて素直に聞き入れてもらうことができません。
教える技術は、相手を尊重する手法なので、こちらの言うことを相手に聞き入れてもらいやすくなります。
また、教える側と教えられる側との間に信頼関係が結ばれるのでヘンな緊張がなくなり、とても楽な関係性を保つことができるようになります。
教える技術を学ぶと、あらゆることがスムーズに進むようになるでしょう。エネルギーのムダづかいがなくなるので、あなた自身、もっとやりたいことに力を注げるようになるはずです。
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