1枚の付せんで上司の心をつかむ
朝、ちょっと私が席を外している間に、院長室(私の部屋)のデスクにコーヒーが置かれ、付せんに書いたメモが添えられていることがあります。
「院長、コーヒーをお淹れしました。今日も1日よろしくお願いいたします」これは、ただ、コーヒーが置かれているよりもうれしいし、ホッとします。
付せんメモは、顔を合わさないときにできる、簡単だけど記憶に残るコミュニケーションツールです。
上司よりも先に帰るときに、「今日はお先に失礼させていただきます。○○さんもお気をつけてお帰りください」「風邪が流行っていますので、お気をつけてお帰りください」というちょっと相手を思いやるコメントをつけた付せんを上司のデスクに貼っておくと、心のやりとりができます。
何も言わないで黙って帰る社員がほとんどなので、1枚の付せんメモで、がらっと自分の印象を変えることができます。
上司の心をつかむもうひとつの気づかいは、上司に出したお茶の一杯目がなくなりそうなタイミングで、「新しいのをお淹れしましょうか」と声をかけることです。
企業や県議会で、お茶出しを廃止する動きがあります。新型コロナウイルスの影響もあるようです。しかし、上司や来客者にお茶を出すことが習慣になっている会社もあるでしょう。もし、お茶出しが習慣なら、ぜひ、やってみてください。その際は、つぎ足すのではなく、新しいお茶に取り替えるのがポイントです。
確認作業では上司に時間を取らせない
仕事で上司に確認をお願いすることは、日常茶飯事です。会議の資料や企画書、会社宛てに届いた贈答品のお礼状など、上司に確認を取り、OKをもらってから提出するのはビジネスパーソンなら多くの人が経験していることです。
上司に確認してもらうときに、必ず気をつけたいことがあります。
それは、「自分としては100%このまま出せる」「全力を尽くした」という段階までやった上で「見ていただけないでしょうか」と見せることです。
もし、不十分な状態で提出した場合、それをチェックする上司は二度手間、三度手間をかけなければなりません。
「あれ?入れるように伝えた内容が、一部抜けているね」「この数字、一桁間違っているんじゃないかな?」「この企画書のレイアウトでは、ぎっしりしすぎて見づらいね」部下の仕事をチェックするのは、上司の仕事です。
そして、上司の仕事を少しでも軽くするのは、部下の仕事です。上司の仕事を軽くできる部下は、「デキる部下」としてどんどん引き上げてもらえます。
「どうすれば、上司をラクさせられるか」を考える私が経営する歯科医院では、いらっしゃった患者さんに問診票を書いていただきます。
先日、問診票のフォーマットを新しくしました。作成するのは受付部門です。受付部門がつくったものを、私が確認し、OKを出したものが、正式に医院で使われることになります。
作成段階で、「見てほしい」と私のところにフォーマットが上がってきました。それは手書きで書かれたものでした。実際はそれをWordで作成して仕上げるとのことでした。内容はよくできていました。個人情報はもちろん、治療の希望など含め、過不足なく患者さんにお聞きしたいことが網羅されていました。
しかし、手書きの下書きでは、文字の書体や大きさまでわかりません。レイアウトもわからないし、文字の間隔もゆとりがあって見やすいかどうか判断がつきません。完成形の確認をしないまま、医院で使うわけにはいきません。
つまり、レイアウトを組んだ状態で、あらためて私が確認する必要があります。スタッフは、入れる要素だけを確認したかったのかもしれません。
Wordでつくってから確認に出して、要素が「多かった」「足りなかった」となると、修正が大変だと思ったのかもしれません。その気持ちはわからないでもありません。
しかし、気づかいの視点で考えると、完成形を提出することが相手の手間を省く気づかいになります。クオリティの高い仕事は、成長への近道クオリティの高いものを上司に見せると自分にもメリットがあります。
それは、クオリティの高いアドバイスをもらえる確率が高まることです。
「この部下は、ここまではできている。もっと一段階上のアドバイスをしても、成し遂げられるだろう」と判断されれば、どんどん上質なアドバイスがもらえますから、自分の成長のスピードも速くなります。
もちろん、仕事によっては進捗状況の報告が必要なケースもあるでしょう。「途中段階で見せてほしい」という上司もいるかもしれません。心配であれば、あらかじめ上司と相談して、どの段階で見せればいいか、聞いておくといいと思います。
一般的には「自分としては100%このまま出せる」という段階で見せることが、上司への最低限の気づかいです。上司に確認が必要な資料を提出する際、事前に確認すべきポイントは次の3点です。
【上司に提出する際に事前に確認すべき3つのポイント】
- 言われた要素がすべて入っている
- 自分なりのよりよくするための工夫がある
- 誤字脱字がない
①言われた要素がすべて入っている
上司に言われた要素がすべて書類に入っているか、漏れがないかを確認します。
②自分なりのよりよくするための工夫がある
言われたことだけをやるのではなく、そこに自分なりの工夫を加えます。期待した以上の書類ができていれば、あなたの評価が高まります。
③誤字脱字がない
社会人である以上、書類に誤字脱字がないように気をつけましょう。わからない文字は必ず辞書で引くようにします。これらをクリアにした上で提出できれば、上司の仕事がラクになり、かわいがられる部下になれるはずです。
「問題解決」は上司の仕事であり、部下を大切に思う気持ちの体現
私が経営する歯科医院では、誰でも働きながら成長できるように、教育プログラムを整備して力量の標準化を図っています。
あるとき、私の医院で働き始めたばかりの歯科衛生士Aさんに「CT撮影の教育プログラムは受けた?」と聞くと、「まだやっていません」という返事が返ってきました。
歯科衛生士の教育を担当しているBドクターに、「彼女の教育プログラムはどうなっているのかな」と確認すると、「途中だったみたいで、先輩の歯科衛生士が継続して教育することになっています」という報告でした。
決めていた教育プログラムがきちんと実施されていなかったのです。こうした問題が起きたときは、Bドクターのような報告は決していいとは言えません。
問題が起きたときは、次の2ステップで対応するようにします。
- 本質的な問題点を明確にして解決策を考え、同じ問題が再発しないようにする
- 目の前で起きている問題を手当てする(この場合は、Aさんのプログラムの再開)
本来であれば、「連絡が不十分で、Aさんの教育プログラムが止まっていました。今後は、いつからいつまでプログラムが実施され、どう評価されるかを明確に伝えるようにします。Aさんのプログラムは、○日に再開して、○日までには終わるようにします」と報告すべきです。
問題が起きた真の原因をまずは考えることが大切なのです。水道管の水漏れが起きたときに、ひびの入ったところを接着剤で手当てする。一時的には水漏れを防げるでしょう。
もしかしたら、原因は水道管全体の老朽化かもしれませんし、どこかにゴミが詰まっていて、ある場所だけ水圧が高くなって、水漏れが起きている可能性もあります。
根本的な解決をしなければ、また水漏れは起きるでしょうし、放置すれば、水道管が破裂するなど、さらに大きな被害になる可能性もあります。
問題が起きたときには、必ず、真の原因は何か(=問題の本質)を見極める必要があります。問題が社員に関わることであれば、なおさらです。
自分だけ教育プログラムを受けていなかったり、途中でストップしたりしていれば、本人は悲しみますし、何よりも成長の機会を逃します。
同じような人を出さないことが、上司としての気づかいであり、快適に滞りなく水が循環するように注意するのが、上司の役割でもあります。
部下が必ず成長する教え方と関係性の築き方
部下を育てるには、結果を出させ、成長させることが重要になってきます。そのためにはハードな課題を出し、取り組ませることが重要だと考えがちです。
スポーツの世界でいえば、激しいトレーニング、苦しいトレーニングを積めば、結果が出るし、成功につながると考えてしまうのです。
しかし、部下を育てようと思うなら、第一段階として、相手が「トレーニングそのものを前向きに受け入れよう」という気持ちになることが大切です。
いったん受け入れる気持ちになり、頑張り始めると、助走がついて成長が加速します。トレーニングを受け入れようという気持ちになるまでは、根気強く寄り添います。
第一段階では、相手が少し努力すれば、達成できる課題を与えてあげる。
1回でできないときは、「なぜ、できないんだ」と言う代わりに、指導する側が、「どうすれば、2回目ができるようになるか」を考えて、本人に寄り添った助言をします。
2回目ができなければ、「どうすれば、3回目ができるようになるか」を考えて、本人に寄り添った助言をする。
できるようになるまでは、粘り強く続けていきます。「そんなことをしていては、なかなか前に進まない」と考える人もいます。
ですが、実際は、少しずつ積み上げていったほうが、遠回りに見えて近道です。
青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた同大学陸上競技部監督の原晋さんも、箱根駅伝優勝というミッションをクリアできた理由として、「その子の能力の行き過ぎたもの(目標)は、妄想に過ぎないので、その子の能力の半歩先を見据えて、そこを成果として、当たり前のベースとしていく」。
そして、「それを連続していくことだ」と語っています。
自信がつけば積極性が芽生える私の歯科医院でも、できるようになったら「次」、それができるようになったら「次」という指導をしています。
たとえば、「電話取次ぎ」の業務があります。最初は、どう出ればいいかわからないので、細かく教えます。まずは、「具体的に、誰がどのような用事で院長に電話をかけてきたのか、聞く」というところまで教えています。
しかし、これだけでも、いざ本番になるとうっかり忘れることがあります。「院長、外からお電話です」と言って、私に取り次がれることもしばしば。
そんなとき私は、もう一度、「誰がどのような用事で私(院長)に電話なのか、聞いてください」と言って返します。これが、できるようになったら、次のステップです。
「院長が出るべき電話(患者さんや知人からの電話など)」と「出なくていい電話(セールスの電話など)」があるから、「出なくていい電話」がかかってきたら、「院長は、今はそのような電話はお断りしています、と伝えて」と教えます。
部下を育てるには根気が必要です。「電話取次ぎの業務なんて、最初にひととおり教えれば、すぐにできるようになる」と考える人もいるかもしれません。
最初からすぐできれば、誰も苦労はしません。できないことをひとつひとつ丁寧に教えていく。
それから、ことあるごとに「この間、あるお店に電話したら、こんな言葉づかいで、こんな対応だった。ものすごく感動したよ」と経験談を話します。
すると、だんだんできるようになっていきます。自信がついてくれば、積極的に業務に取り組むようにもなります。
こちらが何も言わなくても、自分で「どういう電話の接客対応がいちばんいいのか」考えるようになってきます。
私の歯科医院でも電話対応の女性が、「院長、いい電話対応をするには、どんな本を読んだらいいですか」と聞いてくるようになりました。
自分から「もっといい電話対応がしたい」という気持ちが芽生えれば、成長がもっと早くなります。電話対応に限らず、ほかの業務も積極的に取り組んでくれます。
部下とはオープンマインドで話せる環境をつくる
上司と部下は、オープンマインドで、会話しやすい雰囲気をつくっておくことが大切です。
オープンマインドとは、「わだかまりなく、自分の気持ちを伝え、他者も受け入れること」です。上司は、部下が失敗したり、仕事をなかなか覚えたりしないときにも、決して怒らないことです。
今、やってもらっている仕事について何か聞かれたとき、「前にも教えただろう!」「なんで、何度言ってもできないんだ」と言う代わりに、「こうするんだよ」と何度でも教えるようにします。
オープンマインドでコミュニケーションをしていれば、部下は、「完璧にできていなくても、上司に話しかけていいんだ。相談してもいいんだ」と思います。
すると、問題を抱えたときにも、相談をしてくれるようになりますから、本当の問題が見えやすくなります。もし、話しづらい上司だったらどうでしょうか。問題を抱えてても、隠したり、取り繕ったりします。
すると、小さかったはずの問題が、大きくなり、取り返しがつかない場合もあります。焦らずに部下を育てることで絆が深まる人を成長させるときの気づかいでは、焦らないことが大切です。
柴村恵美子さんという女性がいます。
実業家の斎藤一人さんの一番弟子で、全国高額納税者番付で、一人さんが1位になったときに、ご自身も全国86位の快挙を果たしています。大成功を収めている人です。
私と同じ、十勝出身というご縁から、何度もお会いさせていただきました。いつも天国言葉(人生をポジティブにする前向きな言葉)を使われていて、会うたびにエネルギーをいただきます。
一人さんは、この恵美子さんに「本を書きなさい」と何回も言ったそうです。でもなかなか書かない。
そのときに、「10回言って書かなければ、20回言えばいい。100回言って書かなければ、101回言えばいい」と考えて、言い続けたそうです。
恵美子さんは、今では何冊も本を出されています。
一人さんも、自分の弟子を育てる過程では、焦らずに、できるまで言い続けることを大切にしたのです。すると、師弟の絆は深くなります。会社の上司と部下も同じではないでしょうか。
部下からの相談は、「黙って聞く」か「大丈夫、と伝える」かの2択
ある人に、深刻な相談をされたことがあります。そのとき、私は黙って相手の話を聞きました。
全部聞き終えた上で、「大丈夫。心配ないと思う」と伝えました。
その人は、「コーチとして多くの方にアドバイスをしていらっしゃるのに、ただ静かに私の話に耳を傾けてくださってありがとうございました」と言ってくれました。
実は、私はこのように話を黙って聞くことが少なくありません。特に部下からの相談は、黙って聞くことが多いです。
人から話を聞いたときに、「私はこう思うよ」と意見を述べたり、「こうしたらどうかな」とアドバイスするのは、相手に対する気づかいであり、やさしさです。
ただ、意見を言わないことが気づかいややさしさになることもあります。人は、多くの場合、誰かに相談するとき、意見を求めているのではありません。
自分の気持ちや意見を、まずは「受け止めてもらいたい」と思い、次に「肯定してもらいたい」と考えます。だから、よく話を聞いた上で、「○○さんだったら、大丈夫。私はそう思うよ」と言うだけで、だいたい相手は納得します。
根拠はいらない。言わなくていいのです。
特に私の歯科医院で働く若い方を見ていると、「もっとやれよ」というのは逆効果だと感じます。相手を苦しめてしまいます。
若い人に対しては、現状を受け入れてあげることが大切です。アドバイスする場合は、直接ではなく、距離を取ります。
たとえば、朝礼などのときに、みんながいる前で、その人へのアドバイスとしてではなく、全体へのアドバイスとして次のように伝えます。
「私はこういうマインドで仕事をしている。壁にぶち当たったときは、こうやって乗り越えてきました」失敗をして落ち込んでいるときに、面と向かって言うと、相手は重く感じ、身構えてしまいます。
「井上先生と私は違います」という思いが生まれたり、直接言葉になって跳ね返ったりしてくることもあります。こちらの話が届きづらいのです。
部下にアドバイスをするときの気づかいのポイントは、相手の立場になって考えてみることです。
また、「直接アドバイスがほしい」と思っている人に対しては、「この人が受け入れられるアドバイスは何か」「どんなシチュエーションなら受け入れられるか」この2つを考えた上で、アドバイスをすると、相手の心に届くようになります。
たとえば、仕事やレスポンスが常に早いけれど、ときどき粗さが出るスタッフには、相手の「仕事が早いこと」でどれだけ助かっているかを伝えた上で、「もっといろんなことを任せたいから、最後の仕上げではスピードを気にせずに確認をしてほしい。
そしたら、君は今の倍以上に仕事ができる人になるよ」と伝えると、今の状態を否定せずに将来へつながる話ができるので、相手は受け入れやすく、改善のイメージも湧きやすくなります。
自分が言いたいことを言うのではなく、どんな助言だったら、相手は受け入れられるのか、相手目線を大切にしましょう。
部下の「仕事の歩幅」に無理はないか確認する
職場に新しい若い人が入ってくると、面倒見のいい先輩として、あるいは経営者として「この人を引き立ててあげよう」「活躍する場をつくってあげよう」と思うことがあります。
そこで、ついつい、いろんな人を紹介したり、チャンスをつかめそうな仕事を次々とふったりします。最初は、若い人も、新しい世界を見られるのでうれしいし、頑張ります。
けれど、人によっては能力や努力が追いついていかないこともあります。すると、大きな失敗をすることもあり、萎縮してパフォーマンスを発揮しきれなくなることもあります。活躍したいけど実力が伴わない。
大きな仕事をやっていきたいけど、力不足で成し遂げられない。すると、理想とのギャップで心がちぐはぐになってきてしまいます。私はそういう人に気づいたときは、「無理しなくてもいいよ」と声をかけるようにしています。
そして、「自分の経験から、Aという仕事をやり遂げたことで、壁をひとつ乗り越えることができた。そして、今の自分になれた。だから、あなたにもやってもらえたらと思ったんだよ。あなたの役に立ちたかったからね」と添えます。
このような言葉をかけて、相手の行き詰まった心を解放してあげるのです。そう言われた部下の大半は、しばらく時間を置くと、自分から「やっぱり、私、頑張ります」と言ってくれます。大事なポイントは、部下を追い詰めないことです。
「もっと、ちゃんとしてよ」「なんでできないんだよ」と責めないことです。仕事のペースがつかめるまでは上司が量を調整する人によって、仕事を進めることができる歩幅(=どれくらいずつ進められるか)は異なります。
仕事のできるベテランであれば、大股でどんどん仕事をこなしていけます。ですが、まだ右も左もわからない新人は自分の歩幅さえわかりません。
本当は、50センチずつしか進めないのに、無理に大股で歩こうとすると転んでしまいます。相手の状況を見てそれを受け入れてあげる。
できない状況であれば、「無理しなくていいよ」と声をかける。それでも、本人がやってみたいのであれば、「Babysteps(ベビーステップス)」方式で応援します。「Babysteps」とは、英語で「(赤ちゃんの歩みのように)少しずつでいいよ」と励ます言葉です。
必要なのは、小さくていいから最初の一歩を踏み出し、少しずつでいいから歩みを重ね、前に進めさせてあげることです。そして、歩幅を崩さないように伴走し、ペースをつくってあげます。
課題を投げかけ、「どれくらいの分量ならできるのか」様子を見ながら、こちらが調整してあげます。
相手が自分の歩幅を理解するまで、これを繰り返します。それが部下を育てるということであり、部下の成長をサポートする気づかいでもあります。
大切な人に会うときは当たり前のマナーを守る
私がよく知っている医大の教授は、医局(研究室)の出入り口に大きな鏡を設置していました。
「マナーを守っていつもきちんとすることが、医師としても大切な心得である」という教えで、医局医に対して、「身なりを整えてから入りなさい」と言っていました。
目上の人に会うときは、きちんとシャツを着て、ネクタイを締めて、ジャケットを着用するのが、マナーであり、気づかいです。
会うときにきちんとした服装をするのは、相手に対して敬意を示すことにつながります。「あなたに会うために、きちんとした服装をしてきました」という意味があるのです。
私の場合は、目上の人に会うときには、アイロンのかかったスーツに、クリーニングしたシャツを着ます。場合によってはネクタイも締めます。
昼間ではなく、夜の会食で目上の人に会うのであれば、シャツの替えを会社に持っていったほうがいいと思います。1日着たシャツはどうしてもシワが寄ったり、汗のにおいがしたりすることもあります。
女性の場合は、あまり派手な格好は避けたほうがいいと思います。通勤着であれば、ワンピースにカーディガンでも悪くはありません。
しかし、目上の人に会うのであれば、スーツを着るか、ジャケットを羽織るようにします。ビジネスですから、「かわいらしさ」よりも「きちんとした」「落ち着いた」印象を与えられるものがいいでしょう。
メイクもさらっとナチュラルにして、さわやかな印象を与えられるようにしましょう。言葉に出さなくても、相手は「きちんとした服装をしてきてくれた」とわかるので、相手に好印象を残すこともできます。
もし、一緒に会食をするのであれば、相手が手をつける前に自分は手をつけないこと。
「どうぞ、お召し上がりください」と言われたらはじめて箸をつける。「スーツを着ていく」「相手より先に箸をつけない」といったことは、ビジネスマナーとしては、当たり前のことです。
当たり前のことを愚直にやることが、目上の方への最低限の気づかいです。そのほかにも、名刺交換の仕方やお辞儀の仕方など、基本的なビジネスマナーについては、何冊も本が出ています。
ひととおり目を通して、身につけておきましょう。
私は若い頃、小笠原流礼法(小笠原家に伝わる礼儀作法)やプロトコール・マナー(国際儀礼、世界標準公式マナー)について、本やDVDで徹底的に学びました。
箸の持ち方や置き方、器の持ち方など、和食も洋食も対応できるように勉強しておいたほうがいいでしょう。勉強すると、手の動かし方がきれいになります。
コーヒーを飲みながら出版社の方から取材を受けていたとき、編集者から、「井上先生はコーヒーカップを持つ手がきれいですね。プライベートでもそうされているのですか」と質問を受けました。
正直、質問されてはじめて気づいたことでした。
マナーを勉強したおかげで相手にいい印象を与えられたと、うれしい気持ちになった経験です。
面会時間に最高のパフォーマンスが出せる準備目上の方と会うときに、ワンランク上の気づかいをしたいのであれば、自分自身を最高の状態にして面会の場に挑むようにします。
もし、13時に大切な人に会うのであれば、私は、13時にベストパフォーマンスが出せるように、朝から自分の管理を徹底します。
朝はピラティスをします。体幹を鍛え、姿勢を整えるためです。洋服は前の日から準備をして、着ていく服とは別に持っていって1時間前に着替えます。
着替えたては、洋服が身体になじまないからです。1時間ほど着ていると、ほどよく動きやすくなり、パリッと感も残っています。靴はもちろんピカピカに磨いたものです。
食事は、直前には食べ過ぎないように注意します。お腹が出てしまって、見た目に影響するからです。食べ過ぎると眠くなる恐れもあります。
栄養バランスのいい軽い食事をしたり、少し糖質を取ったりして、脳が活性化する状態にしておきます。もちろん、話の内容もきちんと前日までに整理しておきます。
最大限の準備をすることで、「自分のために準備をしてくれた」ということが言葉にしなくても相手に伝わります。すると、面会で得たい結果も手にすることができるのです。
初対面を「次」につなげる印象のつくり方
もし、「えらい人」に自分を印象づけたいと思うのであれば、はじめての面談のときにかんたんなお土産を渡すといいと思います。こんな場面でお菓子の土産を渡す場合は、次の点に気をつけます。
- 荷物にならないもの
- 手や洋服が汚れないもの
忙しいビジネスパーソンは荷物が多くなるのを嫌います。カバンにさっと入る大きさのものがいいでしょう。それから、仕事の合い間に手を汚さずに食べられる個包装のものを選びます。
たとえば、個包装のミニどら焼きを買っていく。
「先週旅行先でおいしそうなどら焼きを見つけたんです。一口サイズで食べやすそうだったので、5個入りで少ないですが、○○社長はお忙しい方なので、お疲れのときにぜひ召し上がっていただけたらと思いまして」と言って渡されると、さりげないけれど、印象に残ります。
自分のことを何日も前から思っていてくれていたと思うとうれしいものです。贈り物の選び方についてはこちらで詳しく書きましたので参考にしてみてください。
はじめて会ったときの過度な自己PRは逆効果何の件で「えらい人」に会うかにもよりますが、そのときの基本は、できるだけ相手に話をしてもらうことです。
できるだけ聞き役に徹する。話を聞いてもらうと人は気持ちがいいものです。やってはいけないのは、自己PRのための資料や自分の作品をたくさん持っていって自分の話ばかりをすることです。
はじめて会うときに大切なのは、その場であなたのいい印象を残すこと。その場が勝負です。それまでにやってきた過去の実績を知ってもらうことではありません。
ましてや、あなたの作品を持ち帰ってもらうのは、相手の荷物になりかねません。持って帰ってもらいたいのは、あなたの実績ではなく、好印象です。
面談している「今」が大事です。そして、「次」につなげることです。どんなに実績のある人でも、会ったときに好意を抱けなければ、次も会いたいとは思いません。
もし、実績を伝えたいのであれば、会社に戻ってから、メールなどで面談のお礼を送る際に、「かんたんな自己紹介文をお送りさせていただきます。
お時間があるときにお目通しいただけると幸いです」と添えて、短めの自己紹介文を添付すればいいでしょう。面談のお礼の書き方は次の項目でお伝えします。
面談のお礼は必ずその日のうちに送る
気づかいのポイントのひとつはレスポンスを早くすることです。会った人には、その日のうちにお礼をするのが基本です。
お礼のメールを書くのが難しいという人がいます。しかし、難しく考える必要はありません。
経営者や取引先の役職の方に訪問のお礼をメールするときのポイントは、次の5点を入れて、心を込めて書くことです。
お礼の書き方については、第1章『もらった相手を感動させるお礼状』でも触れましたが、ここではより具体的に実際にお礼を書く視点に絞ってお伝えします。
①面談のお礼②相手の会社をほめる言葉(具体的に)③相手をほめる言葉(具体的に)④自分の感想⑤再び、お礼
【お礼のメール文の例】
本日、貴社にお伺いさせていただいた○○です。
お時間を取っていただきありがとうございました。
受付の方からはじまり、みなさん感じがよくて、感動いたしました。
また、私のような若輩者にお時間を取っていただき、●●社長のように成功されている方は、器の大きさが違うと感じ入りました。
今日お会いさせていただいて、本当にうれしかったです。
重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
負担にならないように、あまり長く書かないことも相手への配慮です。
私は勉強のために、歯科のセミナーに参加する前には、必ず、講師である教授にご挨拶に行きます。
「今日、先生のセミナーを受講させていただきます。
よろしくお願いします」そして、終了後はお礼を伝えに行きます。
「今日は素晴らしい講演をありがとうございました。特に先生の○○のお話が勉強になりました。私も明日から取り入れていきたいと思います。次回の講演も楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします」
直接、伝えられないときは、メールをお送りしました。
ある日教授から、「井上くんはスゴい」とほめていただき、「なんのことだろう」と思っていたら、挨拶とお礼の習慣をほめていただいていました。
なぜなら、ほかの受講生たちは、ご挨拶をしたり、お礼を言いに行ったりしないからだそうです。それによって、特別扱いされたかどうかはわかりませんが、講師の方々には、かわいがっていただいたと感じています。
「笑い」で場を和ませる
ビジネスの場で、私はいつも「笑い」を意識しています。「笑い」によって、人間関係が円滑になったり、心が和み、本音が聞けたりすることが多いからです。
歯科医院に治療に来られた患者さんには、できるだけ笑って和んでもらえるように声かけをします。
たとえば、高齢の女性に入れ歯をつくるときは、「おばあちゃん、美人になるようにつくっておくね」「白い歯になると、さわやかになって、すごく若返るよ」「30歳は若返るようにつくっておくよ。あっ、30歳はちょっと無理か」などの声をかけます。
治療をするときに、このように笑いを取り入れて、和んだ雰囲気にして、心を緩めてもらうことが大切です。
歯科医を前にすると緊張して、なかなか「どんな治療がしたいのか」言いづらくなります。
笑いのある和んだ雰囲気になると、心が緩み、打ち解けて、心に秘めていたことを話しやすくなります。どんな治療がしたいか、本心が聞けるのです。
歯の治療では、型を取ることがあります。虫歯などの治療で、穴が開いたところに、やわらかい素材を入れて、時間を置いて固め、かぶせものなどの型を取る工程です。
このときに「型が取れました。これで今日の治療は終わりです」と言うと普通です。
そこで私は、取った型を手にして、患者さんに対して、「きれいに型が取れた。これはいいものができるよ!」と伝えます。患者さんは「本当ですか?」と、とてもよろこんでくれます。
相手がよろこんでくれそうなひとことを添えるだけです。
「どうしたら患者さんはよろこんでくれるのだろうか」、いつも考えていると、そのひとことが出てくるようになります。この話をよく泊まるホテルのスタッフに話したことがあります。
そのスタッフは、ある日私がコーヒーを頼んだときに早速、「井上先生に、おいしいコーヒーを持ってきてください」と、私に聞こえるように、ほかのスタッフに指示していました。
コーヒー豆や淹れ方は、いつもと同じだと思います。ですが、「おいしい」とひとことつけてもらっただけで、うれしかったですし、自然と笑顔になりました。コーヒーもいつも以上においしく感じられました。
ほんのひとことを添えるだけで、相手の心をぱっと明るくできるんです。自分が登壇する講演会でも「笑い」は欠かせません。
昼食後など特に、壇上に立つと、聴衆が寝ていたり、眠そうに聴いているのがわかります。そういうとき、「お昼のあとだからみんな眠いと思うけれど、頑張りましょう」と言うこともできます。
しかしそれでは、寝ていた人は罪悪感を覚えかねません。
そこで私は、「眠たくなるよね。私もみんなを見ていたら、一瞬、目をつぶりそうになったよ。いびきまで出そうになって、はっとして眠気が覚めたけど。みんなは大丈夫?起きている?」と壇上からユーモアを交えて呼びかけます。
すると、場が「笑い」で包まれます。その笑い声でぱっと目を覚ます人もいます。ユーモアを交えて語ることで、誰も罪の意識をもたず、和やかな場をつくることができます。
講演だけでなく、編集者との打ち合わせや、大事な方との会食でも「笑い」を取ることはいつも意識しています。「笑い」によって、場が和むと、人間関係がとてもよくなります。ぜひ、「笑い」を意識してみてください。
上司の家に招かれたら、家族に気をくばる
社会人になると、プライベートで会社の人の家に招かれることもあるでしょう。
先輩や上司の家に行くときの気づかいのポイントは次の6つです。
①脱いだ靴を揃える②手伝う③ほめる④手土産を持っていく⑤飲みすぎない⑥帰宅後お礼のメールを出す
①脱いだ靴を揃える人の家に上がったら靴を揃えるのはマナーです。「靴を揃える」ことを常にルーティン化していると心も揃うと言われています。日頃から習慣にするといいでしょう。
②手伝う人の家に招かれたら、「何かお手伝いできることありませんか」「お片付けを手伝わせてください」と申し出てみてください。断られても構わないので、その誠意を伝えることに意味があります。
③ほめる人の家に行ったときは、「ほめる」ことを忘れないようにします。家具などの物はもちろん、お子さんやパートナーがいたら、「元気なお子さんですね」「素敵なご主人(奥さま)ですね」とほめます。ほめられるとうれしいので、ほめられたことは記憶に残ります。
④手土産を持っていくこれまでにも書いてきたようにストーリー性のある手土産をもっていきます。お子さんがいる家庭であれば、子ども用のちょっとしたお菓子も用意するといいでしょう。
⑤飲みすぎない人の家の場合、ついくつろぎ、飲みすぎてしまうこともあります。引き止められたとしても、「明日がありますので」と早めに辞するようにすると、スマートです。
⑥帰宅後お礼のメールを出す帰宅したあとに、メールでお礼をするのを忘れないようにします。メールにも相手の家をほめる言葉を忘れないようにします。
たとえば、「お二人のようなご家庭を見て、私も素敵な家庭を築きたいとあらためて思いました。今日、○○さんの家でしていただいたことを、10年後に自分の部下にやってあげたいと思いました。素敵な1日を過ごすことができました、ありがとうございます!」こうした気づかいで、会社でもかわいがってもらえる部下になれるでしょう。
「えらい人」は孤独だと知る
経営者は孤独です。経営責任を担って一生懸命に今期の数字や未来を考えて仕事をしています。
収益がプラスのときはあまり言われませんが、数字がマイナスになった途端、「経営者の責任だ」と騒がれてしまいます。
社員はそれを自分たちの問題というよりは、会社の問題と捉えます。
そのときに経営者は、「結局、自分は他人を使っているんだ」と、孤独を感じます。
数字がマイナスになったときこそ、経営者と同じ視点になって「どうすれば、来月、もっと売上を上げられるか」を考えてくれる社員がいると、経営者は、心底救われます。
業務担当の社員であっても、「今月はお客さんの動きが悪いですね。私も知り合いにうちの商品を紹介してみます」「うちの会社のよさをもっと伝えてみます」と言えば、経営者はよろこびます。
家族が困っていれば、何とかして家族を助けたいと思うものです。自分ごとだからです。
それと同じように、会社が困っていれば、自分ごととして捉え、「どうしたらよくなるか」を一緒に考えて提案をしてみてください。
「経営の素人が口を出すのはおこがましい」と思うかもしれませんが、経営者は社員の気持ちを感じられたら、さらにどこまでも頑張ることができるのです。
成果につながるモチベーションの絆経営者への気づかいとして欠かせないのは、会社のミッションを理解し、「会社のミッションに対して自分は仕事をしている」と意識することです。
社員全員がミッションに向かって仕事をすれば、「みんなで一緒に会社をよくしていこう」という気持ちになり、経営者とも心がつながります。この絆が会社の成果となります。経営者は、この瞬間、社員を家族のように感じ安心感を得ます。
結果を出すことも大事ですが、経営者の大きなよろこびのひとつは、社員と心をひとつにして、一緒に仕事をしている充実感を得ることなのです。会社の中でかなり成果をあげている一匹オオカミ的な人もいます。
もちろん、結果を出す人は大切ですが、仲間でいてくれる人のほうが、一緒にやっていてうれしいものです。不器用で、あまり仕事ができない。けれど、まじめにコツコツ仕事をやってくれる人は、信頼されます。会社は成果だけで考えるものではありません。人とのつながりが大切です。
心のある対応のできる人が重宝されます。心のある人はお客様に対しても心のある対応ができる。結果として、会社に貢献できるのです。
福利厚生の充実した会社を選んで、個人の生活も仕事も楽しみながら、生きていこうと考えるのもいいと思います。
しかし、福利厚生よりも、「会社のミッションを理解し、自分がそのために何ができるか」を考えて仕事をする。その中で、知識や能力を伸ばしていきながら、社会に役立ち、結果として収入を得る。
そこに目を向けられる人がよい仕事をしていると感じます。ミッションのことを考えると、一生懸命に仕事をやりたくなります。
ミッションがわからず、目先の仕事をこなしているだけでは、仕事はおもしろくはないのです。さて、あなたの会社のミッションは何ですか?
給料日には経営者や上司にお礼を言う
給料日に明細をみて、経営者や上司に、「今月もお給料をお支払いいただきありがとうございました」あるいはボーナス時に、「今期もボーナスをお支払いいただいて、ありがとうございました」「基本給を上げていただいてありがとうございました」こんなひとことを伝えてみてください。
経営者や上司はうれしいものですし、「こんなことを言ってくれる社員」「こう思ってくれる部下」はかわいいと感じるはずです。
ほとんどの人は、「自分たちの労働対価として給料をもらうのは当たり前」と捉えています。「給料が1000円少ない」「今月は減っている」ことに対しては、すぐに反応して、上司や経営者に言う。もちろん、言っていいのです。
でも、普段、もらったときにも「ありがとうございます」とひとこと伝えてみてください。経営者や上司との関係は確実に円滑になり、お給料は上がりやすくなると思います。
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