はじめに
「寝付きが悪く、なかなか眠れない」「夜中に目が覚めてしまう」「よく寝たはずなのに、翌朝スッキリしない」「ちゃんと寝ても、日中眠たくなる」「そもそも、睡眠時間が確保できない」働き盛りのビジネスパーソンが訴える、睡眠に関する悩みの典型例です。
このように、多くの人がうまく眠れないことで慢性的な疲れを溜ため込んでおり、本来の能力やパフォーマンスを十分に発揮できていない現状があります。
そんな人たちに、「最高の体調」を提供するのが本書の目的です。
私自身もそうですが、現代のビジネスパーソンは多忙すぎます。
いくら働き方改革が推進されても仕事量そのものは変わらないし、むしろ同僚が産休や介護休暇をとるタイミングが重なったり、何らかの事情で欠員が出ても補充されないなどもあり、かえって仕事量が増えている人もいるでしょう。
また、会社を離れても食事づくりなどの家事、人によってはそれに加えて育児など、個人的に取り組まなければならない課題が山積みなのが実情です。それに、もちろん自分のための時間だって欲しいですよね。それはよくわかります。
問題は、多くのビジネスパーソンが「だから、仕方ない」と諦め、よりよい体のコンディション、より高いパフォーマンスを手にするチャンスを放棄していることです。そのチャンスについて、カギを握っているのは、間違いなく「睡眠」です。
私は毎朝、皆さんと同じように混み合った電車に揺られ、自宅から会社まで通勤しています。
そこでは、朝から「どんよりモード」のビジネスパーソンをたくさん目にします。彼らを目にした私には、一瞬で「この人、眠り方を間違っている」とわかります。さらには、間違いを正そうという意識が薄そうだということも。
今や日本の成人の5人に1人は不眠症状を抱えています。
さまざまな睡眠の不調を訴える声もあちこちで耳にしますが、本気で改善に取り組んでいる人はごく少数と言わざるを得ません。
おそらく、「やってみたけれど効果がなかった」「そもそも、どうしていいかわからない」というのが本音でしょう。そして向き合いたくない事実ではありますが、35歳ごろから睡眠の質は急激に下がります。
何の工夫もしないままでは、いつも「何となく不調」でも、当然なのです。
そうした事実を無視して「仕事が忙しいから睡眠についてはどうしても後回しになってしまう」などと言っていたら、疲れを溜めるのは当たり前ですし、ましてやいいパフォーマンスが期待できるはずがありません。
本書は、睡眠について真正面から取り組み、あなたのパフォーマンスを根底からアップすることを目的としています。
限られた時間の中で、いかに高いパフォーマンスを発揮して過ごすかということは、ビジネスの結果はもちろん、私たちの人生の質そのものを左右する大問題です。
ではなぜ、医学者でも科学者でもない私に、そのためのアドバイスができるのか。それを説明するために、ここで自己紹介をさせてください。
私は、昭和西川という老舗寝具メーカーの創業家に生まれました。ルーツを辿ると約450年前の室町時代にまで遡ります。
ただし、次女であったために最初から後継者としては目されず、将来は結婚して実家を離れることを前提に育てられました。
実際に、大学卒業後は出版社の雑誌編集者として、寝具メーカーの娘とは思えぬような、睡眠不足極まりない生活を送っていました。10年ほどそんな日々を送った後、私は昭和西川の一社員になりました。
長く勤めてくれていた社員が辞めてしまい、その穴を埋める必要が出てきたのです。数年後、企画部門に異動になり、会社のメインブランドのリブランディング(ブランド再構築)を担当することになりました。
私は、編集者としての経験がその仕事に活かせるはずだと踏んでいました。ところが、広告宣伝費をかけすぎて、創業以来最悪の収支をはじき出すという大失敗をやらかしてしまったのです。
会長である父は大激怒。私は企画部門から、まったく門外漢の管理部門に異動になりました。管理部門が非常に重要な業務を担っていることは理解していましたが、私には経験のない不得手な分野です。
活躍などしようもなく、「干された」も同然でした。父は、自分の娘だからと手心を加えてくれるような甘い経営者ではありませんでした。
もともと、創業家の娘がいきなり入ってきて、一般社員からすると扱いにくい部分があったはずです。そこにもってきてこの人事で、私は完全に浮いた存在になりました。
誰も話しかけてこず、毎日一人で大量の出入金伝票のチェックを行うだけの日々。しかも、その仕事たるや「初心者マーク」もいいところのふがいないものです。
誰からも必要とされない透明の存在にでもなったかのような無用感と孤独感に苛まれ、私は、それまで好きだったお酒、甘いお菓子やコーヒーを毎日大量に摂取するようになりました。
それは3年間にも及び、体を壊し手術もしました。
そしていつもどこかに不調を抱え、精神的にも追い詰められていた私が、唯一、夢中になって取り組めたのが睡眠に関する実践的研究でした。
寝具メーカーの社員として必要とされるレベルの知識は当時から持っていましたので、それを片っ端から検証していったのです。
たとえば、医学者や科学者が論文に寄せているような内容や出版されている本の内容について、それまでは「専門家が研究した結果なのだから正しいのだろう」という捉え方をしていたのですが、私はこれを機に自らの体で試していきました。
そこには、自分の不調を治したいという思いもありました。と同時に、私は、なんとか元気になって仕事でリベンジしたいと考えていたのです。
出合った全ての「快眠法」を試し、さらには「快眠できない」とされていることにもあえて挑戦してみました。すると、効果があることとないことがわかり、まさに玉石混交の「玉」を拾えるようになりました。
そして、石を捨てて玉をくり返しているうちに、私の体調はすっかり上向き、精神的にも驚くほど強くなっていったのです。
それだけでなく、小さなことにはこだわらなくなり、あれほど中毒状態にあったお酒、お菓子、コーヒーともすっぱり縁が切れました。
このことは、私に睡眠のプロとしての自信を与えてくれ、本当に効果の高かったことだけをお客様に発信したいと思うようになりました。
また、まるで生まれ変わったかのような私のパフォーマンスは、誰の目から見ても劇的に向上したらしく、再び会社の主力商品のリブランディングも含めた大きな仕事を任されるようになりました。そして今は、代表取締役副社長という責任ある立場にいます。
私は医学者でも科学者でもありませんが、睡眠で「元気になりたい」「不調を治したい」という睡眠の求道者としては日本一だと自負しています。それだけ、トライもエラーもしてきたからです。
自分で自分の不調を治した専門家として、睡眠に悩む人たちの気持ちや状況をよりリアルに想像し、最適な解決策としての「玉」だけを提案できるのは、あの苦しい3年間があったからだと確信しています。
本書で私は、ふだんは「睡眠講師」として招かれたセミナーなどで伝えているノウハウの全てを公開します。
柱は大きく二つあります。
一つは、これまであまりにも不足してきた睡眠時間を取り返すこと。いわゆる睡眠負債を返済していくことです。これがまず喫緊の課題です。
もう一つは、睡眠の質を上げること。「うまく眠れない」状態を脱し、自分の睡眠を自分でハンドリングできるようになってもらうことです。
そのためには、体内時計を整え、セロトニン(睡眠ホルモンであるメラトニンのもと)という脳内物質の分泌を増やす必要があります。
そのために、私が試した中で一番簡単、かつ効果的な方法をお伝えしますが、それを習慣にしていけるかどうかはあなた次第。
もし、あなたが日々の疲労感や不調を根本から解決し、これまでで一番のパフォーマンスを実現したいと本気で望んでいるなら大丈夫です。
次に進んでください。
毎日の積み重ねは絶対に裏切りません。
本書で「何をやればいいか」がわかったら、あとはポイントカードにスタンプを押していくように、快眠のための生活習慣を溜めていくのみです。
どうか、面白がって続けてください。必ず、あなたは「快眠体質」に変われます。そして気が付いたら、驚くほど体調がよくなり、「パフォーマンスの高いあなた」に変貌していることでしょう。
1どこでも眠れる人こそ、実は危険!「睡眠負債」の怖い現実
「睡眠負債」という言葉は、2017年の新語・流行語大賞にもノミネートされ、多くの人の知るところとなりました。
しかし、当時こそ自分事として捉えていたものの、今ではすっかり「過去のニュース」にしてしまっている人が多いようです。そして、相変わらず負債を増やし続けています。
とくに日本人は、先進国の中でも睡眠負債を溜め込んでいる傾向にあり、多くの専門家が強い危機感を抱いています。
実際、OECD加盟国のうち、日本人の睡眠時間はワースト1位(OECD「GenderDataPortal2019」調べ)。
この事実からも、睡眠負債によって、日本経済を支えているビジネスパーソンのパフォーマンスが、著しく低下しているであろうことは容易に想像がつきます。
睡眠と日中のコンディションは表裏一体です。
そのためビジネスのパフォーマンスをアップさせるには、「よく働く」よりも「よく眠る」を選ぶことが、効率的かつ知的な判断なのです。
図1-1にあるのは、アメリカ国立睡眠財団が公表している、脳の機能や健康に被害のない年齢別の睡眠時間です。これは世界中の国際医学論文を、解析してまとめたものです。読者世代の26~64歳の睡眠時間は7~9時間がベスト。6時間未満でも10時間超でも脳や健康に悪い影響を与えることがわかっています。
日本の睡眠学者の間でも、成人が健康に過ごすためには「7時間程度の睡眠は必須」というのが共通認識になっています。
ところが、厚生労働省の2018年の「国民健康・栄養調査」によれば、平均睡眠時間が「6時間未満」という成人が約4割、うち40~50代は約5割にも上っています。それどころか、40~50代の約1割の人は「5時間未満」という生活を送っています。なんと日本人の40%近くが、アメリカ国立睡眠財団が公表している限界範囲以下の睡眠時間しかとれていないのです。
これが、1日や2日のことならさほど気にすることもありません。私自身、突発的なトラブルがあったときなど、その処理に追われ「4時間しか眠れなかった」というようなことはあります。
しかし、私はその「マズさ」を知っているので、翌日から1週間以内に、不足した分の睡眠を取り戻すよう調整しています。問題は、睡眠不足を甘く見て、どんどん負債を蓄積させているケースです。
たとえば最低7時間は眠るべきところを5時間でよしとしていれば、1日に2時間ずつ睡眠負債は溜まっていきます。そんな生活を1年間続ければ約480時間。
それを5年、10年と重ねてしまっているのが現代のビジネスパーソンなのです。しかも恐ろしいことに、睡眠負債を重症化させている人ほど、思考が麻痺していてそれに気付きません。
「俺、どこでも眠れるんだ」と豪語する人など、その典型です。本人は「どこでも眠れる効率のいい体」と思っているかもしれませんが、本当は「どこでも眠れてしまうほど心身は限界に達していて、いつ病気になってもおかしくない体」と言えます。
「めちゃくちゃ寝付きがいい」のが自慢の人も要注意です。本来、「眠いな」と感じてベッドに入っても、健康な成人では、そこから寝付くまでに10~20分くらいかかるのが普通です。
あっという間に寝付いてしまうということは、それだけ体が睡眠を欲していて、半ば「気絶状態」で眠りに落ちているのです。
もう一つ気になるのが、「短時間睡眠で頑張っている自分」を誇らしく思っている場合です。
彼らは、「目的のためには、睡眠時間を削るのも仕方ない」と考えているのでしょうが、それは大間違いであることを最初にお伝えしておきたいと思います。睡眠時間を削ればパフォーマンスは確実に落ち、さらに健康を害するリスクも格段にアップします。ちなみに、睡眠不足時には判断力も低下します。
「睡眠時間を削るのも仕方がない」という思考回路に陥るのも、判断力が低下することによって、リスクをリスクと察知できなくなっているからでしょう。
2慢性的な睡眠不足で脳が「ほろ酔い」状態になる
徹夜仕事をすると、疲れているはずなのに、かえってハイテンションになることがありませんか?しかし、ずっと眠らずにハイテンションでい続けるなどということは不可能で、脳には十分な睡眠による休息が不可欠です。
この休息がないと、脳の働きは必ず悪くなっていきます。しかも、徹夜のような形ではなく、毎日少しずつ睡眠負債を溜めていくほうが心身へのダメージが大きいのです。
たとえば、1日8時間の睡眠が必要な人が毎日6時間しか眠れなかった場合。「それでも6時間眠っているので大丈夫では?」と思いがちですが、その1日2時間の睡眠負債が14日間継続して溜まるだけで、24時間ずっと眠らずにいるのと同じ脳の状態になると実験でわかっています。
また、脳が弱度酩酊状態と同様の働きになることも実験でわかっています。つまり、ほろ酔いの「ぼんやり」した脳になっているわけです。睡眠が不足すると、脳の中でも重要な「前頭葉(大脳の前側、耳の前からおでこのあたり)」に大きな影響が出ます。
前頭葉は、ビジネスのパフォーマンスを高く保つために必須の次のような働きをします。
- ・やる気を出す
- ・脳内の記憶を引き出す
- ・論理的に考える
- ・クリエイティブな発想をする
- ・感情をコントロールする
- ・適切な判断をする
- ・注意力を維持する
これらは全て、「賢い人」、「信頼される人」でいるために欠かせない要素です。それを考えたら、「仕事が忙しいから、多少は睡眠時間を犠牲にしてもしょうがない」という判断は、とても愚かなことだとわかるでしょう。
もちろん、悪影響が出るのはビジネスの場だけではありません。生活面でのありとあらゆる活動を決定づけているのも、人間関係を構築しているのもあなたの「脳」です。
睡眠不足で前頭葉の働きが鈍れば、ふだんから節約に励んでいる人がなぜかネットサーフィンの末、大して必要ではない物を買ってしまったり、人を見抜く目が甘くなって騙されたり、イライラしてパートナーといらぬケンカをしてしまったり……と、プライベートでもトホホなことが次々と起こります。
この「トホホ」、人と比較してのものではありません。本来のあなたであればするはずのないミスをしてしまうということです。「自分らしくない自分」が登場して、変な失敗をしてしまう。
そしてその処理に追われ、ますます睡眠は不足し、前頭葉の働きが鈍ってまた別の失敗をし、ますます「自分らしくない(ダメな)自分」になっていく……。
こんな情けない人生を自らつくり出して、それが「本当の自分」だと勘違いしてしまうケースが多いのです。
2014年のカリフォルニア大学の研究では、睡眠時間が6時間以下の人は、7時間を超える人よりも風邪ウイルスの感染率が4倍以上高いという結果が報告されています。皆さんも経験があると思いますが、睡眠不足だと、風邪をひきやすくなるのです。
前述のように、睡眠不足だと前頭葉の働きが鈍り、「自分らしくない自分」になってしまいます。そんなところに風邪までひいて、負のスパイラルに拍車をかける……なんて救いがないですよね。
このように、人生のあらゆる局面において「よく眠る人が本来の自分を生きることができる」のは間違いないのですが、日本のビジネスパーソンの多くが、みすみす「スペックダウンした自分」でいる道を選んでいます。もっとロジカルに考え、睡眠の改善に取り組みましょう。
3睡眠不足はあなたを太らせる
2005年に、アメリカのコロンビア大学が発表した研究結果は非常に興味深いものでした。
32~59歳(まさに働き盛りの読者世代ですね)の男女8000人を対象に調査を行ったところ、平均7~9時間の睡眠時間をとっている人に比べ、睡眠時間が5時間の人は50%、4時間以下の人は73%も肥満率が高かったというのです。
短い睡眠で動き回っていればかえって瘦せそうな気がしますが、どうしてなのでしょうか。
それを理解してもらうために、アメリカのスタンフォード大学で2004年に行われた、睡眠時間と食欲の関係についての研究結果を紹介しましょう。
この調査では、8時間眠った人に比べ、5時間しか眠らなかった人は、食欲を喚起する「グレリン」というホルモンの分泌量が約15%多く、逆に、食欲を抑えるホルモン「レプチン」は約15%少ないことが明らかになりました(図1-2参照)。
これは、「睡眠時間が短くなった=起きている時間が長くなった」ことを察知した脳が、長時間の活動に対応できるエネルギーを確保する方向に働くことによります。
しかも、その増した食欲は、主に「糖質」に向かいます。脳は、手っ取り早くエネルギーに代わる糖質を求めるからです。
睡眠不足だとつい、ラーメンや丼もの、ポテトチップスなどのスナック類にクッキー、チョコレートやアイスクリームなどの甘いものに手が伸びたりしませんか?つまり、睡眠不足でいれば、それだけで体は「太ろう」とする仕組みになっているのです。
さらには、基礎代謝の問題も無視できません。基礎代謝とは、私たちが生命維持をしているだけで消費されるカロリーのことです。
基礎代謝は年齢とともに落ちていきますから、同じように食べて同じように生活していれば、若いころはスマートだった人も太っていきます。
この基礎代謝は、睡眠不足によってさらに低下します。
第2章で詳しく述べますが、人は眠るべき時間帯にしっかり眠っていれば、「成長ホルモン」が分泌されます。そして、成長ホルモンが分泌されている間に、全身の細胞の新陳代謝が最大になります。つまり、基礎代謝も上がります。
成長ホルモンは、中性脂肪を分解する役割も担っています。そして、中性脂肪の分解が進めば、肥満の解消につながります。加えて、成長ホルモンは筋肉の修復も行います。
筋肉が太くなれば基礎代謝が上がり、消費カロリーが増えるので、太りにくくなります。
逆に言えば、ちゃんと成長ホルモンが分泌されるような睡眠をとらずにいれば、肥満への道にまっしぐらとなるわけです。
ちなみに、スタンフォード大学が2004年に発表した論文では、「7時間42分の睡眠が一番、太りにくい」と結論付けられています。
ここまでピンポイントに指摘する根拠はわかりかねますが、ハーバード公衆衛生大学院が「7~8時間寝ている人に比べて、それ以下の人はより肥満になるリスクが高い」というデータが多数あると公表しているなど、アメリカでは「ダイエットしたいなら、まずは睡眠の改善から」というのが、専門家たちの主流な意見となっています。
4短時間睡眠で肌はくすみ、姿勢も悪くなる
私は仕事柄、その人を一目見ただけで「どんな睡眠をとっているか」がだいたいわかります。とくに、ダメな人については瞬時にわかります。まず、よく眠れていない人は肌がくすんで汚い。白目の部分も、クリア感に乏しく「どんより」しています。
これは、交感神経が優位になりすぎて血管がきゅっと締まり、血液が十分に流れないことが原因です。本来であれば、夜は副交感神経が優位になり、リラックスして深い眠りに入れるように私たちの体はプログラミングされています。
そして、血管は拡張し、血行がよくなって毛細血管の隅々まで血液が行き渡り、栄養を補給すると同時に老廃物を引き取ってくれます。
また、前項で述べたように、睡眠中に分泌される成長ホルモンによって新陳代謝が促進され、体中の細胞が再生されていきます。
ところが、睡眠に障害があれば、眠っている間も血管が収縮して血行が悪い状態が続きますし、成長ホルモンもあまり分泌されません。
そのため、新陳代謝も悪くなり、「ハリ」も「ツヤ」も失われた肌になって当たり前なのです。もちろん、その影響は肌にとどまりません。
体中の細胞の代謝が悪くなれば、それだけで内臓も筋肉も骨も老化していきます。表面に出ている肌がくすんでいる人は、体の内部の老化も進んでいると思って間違いないでしょう。
また、副交感神経の働きが悪くなって血管が収縮していれば、血圧も上がります。さらには、血糖値も高くなることがわかっています。
読者の中には、会社の健康診断で血圧や血糖値の異常を指摘された人もいることでしょう。ただ、血圧や血糖値が多少高くても何の自覚症状も出ませんから、たいてい放置されます。しかし、それによって動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や脳卒中の大きな原因となります。
働き盛りであればなおさら、高血圧や高血糖を放置していてはいけない。つまりは、睡眠を疎かにしてはいけないのです。
睡眠中には免疫細胞の修復も行われますが、眠りの質が悪ければ、免疫細胞の力も弱まります。すなわち、風邪にもかかりやすくなり、また治りにくくなります。免疫力が弱まれば、がん発症のリスクも高まります。
さらに、睡眠障害はアルツハイマー病の罹患率も増やすことがわかってきました。脳を使うことで、アミロイドβという老廃物ができます。これは、「脳のゴミ」と呼ばれているタンパク質です。
本来は寝るとアミロイドβが脳から洗い流されるのですが、眠っている途中で目が覚めたり、深い睡眠がとれなかったり、睡眠時間が不足したりするとクリーニングが十分行われず、アミロイドβが蓄積されてアルツハイマーに罹患してしまうと考えられています。
今、「未病」という言葉は多くの人が知るところとなりました。本格的な病気になる前の段階で、その芽を摘んでおくことの重要性はあなたも十分に理解しているでしょう。未病を大病にしないために、いい睡眠は不可欠。睡眠を甘く見ると、あらゆる病気にかかりやすくなるということです。
実際にそれを証明する数字があります。
アメリカで30~69歳の男女約5000人を対象に行われた調査では、7~8時間の睡眠をとっている人に比べ、6時間以下の人の9年後の死亡リスクが、男性では1・8倍、女性では1・6倍という高さを示したのです。
働き盛りのビジネスパーソンは、どうしても「今が大事」と近視眼的に無理をしがちです。かつての私もそうでした。ですが、大事な仕事を成し遂げてくれるのは、健康な心身に他なりません。今が大事であるならなおさら、今の睡眠に鈍感ではマズいのです。
それに、厳しいようですが、睡眠不足の人は自分で思っているほど周りから評価されていません。前述したように肌が汚いと清潔感が出にくいですし、「抗重力筋」という筋肉の働きが弱くなるため、まぶた、口の周り、頰など顔の筋肉はたるみ、姿勢も悪くなりやすく、老けてハキのない印象を与えます。要するに、ヨレヨレなのです。
あなたが男性であろうと女性であろうと、また何歳であろうとも、睡眠をしっかりとっていなければ、「健康そう」にも「仕事ができそう」にも見えません。
睡眠不足は「この人に任せよう」という気を起こさせにくい見た目をつくってしまうのです。
5「週末に寝溜め」が、時差ボケを引き起こす
さて、睡眠負債は想像以上にあなたの人生に悪影響を与えているということは理解してもらえたとして、その負債を返済するためにはどうすればいいのでしょう。
ここで、多くの人がこう思うはずです。
「平日はどうしたって寝不足になるんだから、土日にもっと寝るようにしないとね」この考えは実は間違っていて、土日に寝溜めをやっている限り、あなたは睡眠の悩みを解決できません。
本来持っているパフォーマンスもほとんど発揮できないでしょう。試しに、ふだんから土日に寝溜めをしている人に質問しますが、それで翌週を爽やかにスタートできていますか。
おそらく、「月曜日はだるくてなかなかやる気が出ない。水曜日か木曜日くらいになってようやく本調子になってくる」と感じているのではありませんか?そして、その理由として「楽しい週末が終わってしまって憂鬱だから、月曜日はエンジンがかからないんだ」と、勝手にサザエさん症候群に自分を当てはめているのではないでしょうか。
あるいは「寝溜めしたのに体調がよくならないのはなぜだろう?」と、不思議に思っているかもしれませんね。
月曜日からすぐに調子が出ないのは、「平日は睡眠不足を我慢して土日にそれを補う」という行動によって、自らつくり出した「時差」にあなたが振り回されているためです。海外旅行に行くと、時差が生じますね。
そのために、滞在地は夜なのに眠れなかったり、昼間にぼーっとしたりといった時差ボケ(ジェットラグ)に悩まされます。
それと同じで、土日に寝溜めすることで、日本国内の同じ場所にいるにもかかわらず、体が時差ボケを起こしてしまうわけです。これを「社会的ジェットラグ」と呼びます(図1-3参照)。
社会的ジェットラグは、脳の働きを鈍くして、仕事のパフォーマンスを低下させるだけではありません。BMI値や体脂肪率を増やして肥満になりやすくすることや、生活習慣病、うつ病の罹患率を高めることも、睡眠医療関係者の間では定説になっています。
あなたがどのくらいの社会的ジェットラグを起こしているかについて、簡単に計測できる方法があります。
「眠りに落ちた時刻」と「朝起きた時刻」の中間時刻を「睡眠中央時刻」と呼びますが、平日と休日におけるこの睡眠中央時刻の差こそが社会的ジェットラグに当たります(図1-3参照)。
たとえば、あなたが平日は24時に眠りに落ちて朝6時に目覚めたとすると、その睡眠中央時刻は3時ということになります。一方、金曜日は夜更かしして深夜3時に眠り、土曜日のお昼12時に起きたなら、その睡眠中央時刻は7時半です。つまり、それだけで4時間半もの時差を自分でつくり出していることになります。
こうしたジェットラグを日常の中で引き起こさないためには、毎日、同じ時刻に寝て同じ時刻に起きることが一番ですが、仕事をしていたら実際には不可能ですよね。だとしたらせめて、毎朝同じ時刻に起きることを目指しましょう。
それも難しい場合は、2時間までの朝寝坊であれば大きな問題は起きないと考えられています。すなわち、ふだん朝6時に起きている人が土日に寝坊する場合、8時までならOKということです。
実際に睡眠負債を返済するためには、休日に少し長めに眠ることは有効です(詳しくはこちら)。その場合はいつもより早く寝て、朝寝坊も2時間までに抑えるのが理想的。
そうすることで、睡眠負債の返済と社会的ジェットラグの縮小の両方が一度にかないます。
6睡眠の質を上げる第一歩は「体内時計を整えること」
おそらく、多くの人は「体内時計」という言葉を聞いたことがあるでしょう。もちろん、あなたにも立派な体内時計が備わっています。
それを、どのくらい大切にしていますか?もしかしたら、「何となく理解しているけれど、あまり深く考えたことがない」くらいの感覚かもしれません。
残念なことに、現代人の大半が、自分の体内時計を粗末に扱っています。体内時計は、人類が誕生したときからその生命維持メカニズムに組み込まれている、とても重要な機能です。しかし、睡眠に悩んでいる人は漏れなく、この体内時計を狂わせています。
体内時計を整えることは、睡眠の質を上げるための一丁目一番地だと考えてください。もともと体内時計は狂いやすいもの。実際に人間の体内時計は1日24時間ぴったりではなく、「24時間と少し」に設定されています。
それを、朝起きて太陽の光を浴びることで、私たちは自分の体内時計を地球の24時間に合わせるようになっています。その仕組みは、太古の昔から変わりません。
しかしながら、現代人は朝の日差しを大切に暮らしていません。室内の照明が明るいので、室内にいるだけで何となく十分に日差しを浴びたような気になってしまうのでしょう。
ちなみに室内照明は明るくても500ルクス(明るさの単位)で、体内時計の調整に必要な朝の光は2500ルクス程度と言われています。
太陽光であれば曇りの日や雨の日でも1万ルクス程度の明るさはあります。体内時計はメインの親時計の他に、体中に子時計を持っています。
親時計は、脳の「視交叉上核」という両耳をつないだ中間あたりにあります。この親時計は、朝起きて太陽の光を網膜で感じることで整います。
一方、子時計は、胃腸や肝臓、肺など全ての内臓器官、血管、筋肉、肌、髪の毛など体のあらゆる細胞の中にあります。
それらの莫大な数の子時計が、親時計に素直に従って規則正しく動いてくれれば心身ともに最高の状態を保てますが、なかなかそうはいきません。
子時計まできちんと合わせていくには、朝の日差しだけでは不十分で、朝起きて日差しを浴びてから1時間以内に朝食を摂る必要があります。
よく、オーケストラにたとえられるのですが、それぞれの子時計は、演奏前のチューニングのように、自分のペースで音を立てているような状態です。そこに、朝食を摂ることで親時計の演奏にピタッと揃っていきます。指揮者はもちろんあなた。
自分のオーケストラがきれいに揃って素晴らしい曲を奏でるのか、それとも相変わらず好き勝手な音だけを鳴らしているのか。全ては、あなた次第なのです。
7最後は「よく寝る」人が勝利する
長い年月の間に狂ってしまった体内時計を整えるのは、一朝一夕にはできません。だからこそ、「ちゃんと意識して整えた人」と「投げ出した人」の間には大差が生まれます。
しかし、一部のビジネスパーソンからは「そんなことに手間をかけていたら、現代社会の競争を勝ち抜けない」という反論も返ってきます。
昼夜問わず、あらゆる情報を誰よりも早くキャッチし、それに対応していくのが「できるビジネスマン」というわけです。
たしかに、1995年にウィンドウズ95が発売され、その後瞬く間にインターネットが普及、進化してビジネス環境は激変しました。今では、世界中どこにいても、スマホ一つでたいていのことがスピーディに解決できます。
こうした状況にあって、次々と開発される便利なツールを最大限に活用し、少しでも効率的に働きたいと、あなたも望んでいることでしょう。そう望むのは、ごもっともです。
しかし、それはあなたの気持ちであって、脳や肉体はまったく付いて行けていないという事実に気付いてください。
諸説ありますが、私たちの祖先であるホモサピエンスが誕生したのは、約20~30万年も前のことだと言われています。
一方、エジソンが白熱電球を発明してからまだ150年もたっておらず、ましてやインターネットが普及したのはここ20~30年。
朝も夜も明るい環境で24時間インターネットが使いたい放題というのは、長い人類の歴史からしたらごくごく最近の話です。
ホモサピエンスが誕生した時点で人類のメカニズムは決定づけられ、ほとんど変化はしていません。
私たちの祖先は、現代社会に存在するツールは何も持たないままに、日の出とともに起き、日の入りとともに眠る生活をしていました。そのような生活を通して、体内の細胞全てが最高の状態で働くように私たちはできているのです。
そうした「自分の体の現実」に目を向けず、やみくもに現代社会のシステムに適応しようと努力するのは進化人類学の観点からも非合理的であり、知的なビジネスパーソンの態度とは言えません。
もっとも、私は現代の便利な暮らしを否定するつもりはありません。
ただ、人間よりも賢いAIが活躍するような時代には、自分の心身のケアについて、よほど意識的に主導権を握らなければダメなのです。
本書で何度か触れますが、スマホ依存はその典型です。眠れないからといって、夜更かししてウェブニュースをチェックしたり、ショッピングサイトでダラダラ買い物していたりしていないでしょうか。
ウェブサイトは興味を持たせる巧妙な作りをしていますから、あなたは「ちょっとだけ」のつもりでも、何時間もスマホを見続けていたということは少なくないはずです。
それによって睡眠時間が短くなるだけでなく睡眠の質も下げているのですが、スマホに自分の睡眠の主導権を渡してしまっているという、危機感すら抱けない人も多いでしょう。
これを機に、最強の自分とはどういうものかについても考えてみましょう。武器はたくさん持っているほうがいいでしょう。
それも、機能性に優れた最新のものであるほど役立ちます。ただその前に、「それを扱う自分の状態はどうか」が大事。
あるいは、武器がない素手の状態でもなんとか戦えるかどうかも非常に大事です。くり返しますが、現代のように複雑化した社会であればあるほど、「よく眠る人が勝利する」のです。
835歳を過ぎると、睡眠の質が低下する
睡眠負債を溜め込んでいるからといって、土日に長時間の寝溜だめをすると社会的ジェットラグを引き起こして逆効果だということは前述しました。
では、具体的にどうやって睡眠負債を返済していけばいいか。それについては、この後の第2章で説明します。ただ、その通りに睡眠時間を確保してもらうだけでは不十分なのです。
とくに、あなたが35歳を超えているとしたら……。
図1-5を見てください。
どうも「いやーな」感じがしますね。このグラフは、「メラトニン」というホルモンの分泌量を年齢別に示したものです。35歳ごろには、メラトニンがピーク時の約4分の1にまで減っています。
メラトニンは、脳と体を休めるためのホルモンで「睡眠ホルモン」とも呼ばれ、たくさん分泌されると深くて質のよい眠りが得られます。
しかし、年齢を重ねるとメラトニンが不足し、それだけで「眠りにくくなる」という現実があります。
さらには、図1-6にもあるように、35歳ごろを起点に深い睡眠(深いノンレム睡眠)が減り、逆に中途覚醒する時間が増えていきます。
私ははじめてこのグラフを見たときに「その通り!」と膝をたたきました。私自身、35歳を境に、急に睡眠の質が落ちたという実感があったからです。
そのため35歳を過ぎると、睡眠時間を確保すると同時に、メラトニンを多く分泌できるような工夫も必要になります。メラトニンは、明るい光で分泌が抑制されます。
具体的には、朝起きて日差しを浴びると分泌はストップ。そして、その後14~16時間して分泌が開始されます。たとえば、6時に起きた人がすぐに朝の日差しを浴びていれば、そこでメラトニン分泌はストップ。
スッキリ目が覚め、夜の20~22時にはメラトニン分泌が開始されて眠くなるという自然のシステムが働くのです。
そして年齢を重ねるほど体内時計がずれやすくなるので、朝起きたらなおさら太陽の光を浴びる、朝食を食べるなど、体内時計をしっかり機能させる工夫が必要になるわけです。
さらに、メラトニンを増やす方法があって、それがセロトニン(脳内物質の一種)を増やすこと。日中にセロトニンを分泌させておくと、夕方になってメラトニンに姿を変えてくれます。
セロトニンは、精神を安定させ幸福感を与えてくれる働きがあるので、日中は楽しく上機嫌でいられ、夜はぐっすり。ダブルで嬉しい効果があるのです。
あなたが35歳を過ぎているなら、もともとのメラトニン分泌が激減しているということを自覚して、体内時計を整える努力と、セロトニンを増やす工夫をしてください。
セロトニンについては次項で詳しく述べましょう。
9「疲れ知らずの体」と「セロトニン」との深い関わり
パフォーマンスの高い日々を送りたいと考えたときに大事なのは、やる気よりも「平常心」。一時だけぐわーっと頑張って、その後はぐったりというのではダメージも大きく、よい結果にはつながりません。
いわゆる「火事場のバカ力」は、本当に突発的な問題が生じたときに出すべきもの。ふだんはできるだけ安定した状態で課題に向き合えるようにしておくのが正解です。
そういう意味でも、あなたに必要な睡眠を毎日コンスタントに確保することが重要なのです。
また、睡眠は心身のバランスを保つさまざまな脳内物質(本書ではわかりやすくするため以後全て「ホルモン」と表現します)の分泌に深く関わっています。
中でも重要なのが、前項で触れた「セロトニン」(図1-7参照)。
「ぐっすり睡眠=疲れ知らずの体=最高のパフォーマンス」の図式を手にするためには、自分がどのくらいセロトニンを分泌しているか、興味を持ちましょう。何しろセロトニンは、「睡眠ホルモン」であるメラトニンに変化することで、メラトニンを増やしてくれます。
さらにセロトニンは、他のホルモンの分泌バランスも整えてくれます。そのホルモンとは、ドーパミンとノルアドレナリンです。
この二つのホルモンは、私たちの行動を決定づけていると言っても過言ではありません。ドーパミンは「意欲のホルモン」とも呼ばれ、性欲や食欲など生存本能を司っています。
素敵な異性を口説きセックスしたいと思うのも、おいしいものを食べたいと思うのも、ドーパミンが分泌されるから。
もし、不足すればそうした欲求が減少し、「嬉しい」「楽しい」といった感情が得られにくく、無気力になります。かといって過剰に分泌されれば、本能的な欲求が抑えられなくなり、暴走的な行動をとりがちになります。
その結果、ギャンブル、セックス、買い物、薬物、アルコールなどに強い刺激を求め、依存症に陥る人も出てきます。
一方、ノルアドレナリンは「危機管理ホルモン」。何か自分に危険が迫ったときに、そのストレスによって脳が刺激を受けて、取るべき道を判断します。
卑近な例で言うと、変な人にからまれたときに、私たちは一瞬にして相手に文句を言うかその場を立ち去るかについて答えを出しますね。これもノルアドレナリンの働きによるもの。
つまり、闘うか逃げるか(「闘争か逃走か」と表現されることもあります)を判断するホルモンが、ノルアドレナリンなのです。
また、熱いやかんに触りそうになって「いけない」とすぐに手を引っ込めるのも、嫌いな上司がそばに来ると心拍数や血圧が上がるのも、ノルアドレナリンが危険を教えてくれているからです。だから、ノルアドレナリンが欠乏するということは、種としての生き残り能力が弱まるということ。
逆に、過剰に分泌されれば、絶えずイライラや不安を抱えた状態になります。
すぐに激高したり、感情を爆発させたり、パニック障害や過呼吸のような不安障害に陥るのは、ノルアドレナリンの働きが活発になりすぎているからです。
では、どうして、ドーパミンやノルアドレナリンが過剰になるかといったら、セロトニンの分泌が足りないからです。
セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンが暴走しないように制御する役割も担っていて、嬉しいことがあっても舞い上がらず、普通ならムッと怒ってしまうようなことがあっても落ち着いた対応を可能にしてくれます。また、嫌なことを引きずらず、嫉妬や落ち込みといったマイナス感情からも解放してくれます(図1-8参照)。
このように、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンは生きていく上で非常に重要な働きをするのですが、現代人の多くがそのライフスタイルからセロトニン不足に陥っており、結果的にドーパミンもノルアドレナリンも過剰傾向で、言ってみればずっと興奮した不安定な状態にあるのです。
セロトニンが不足すれば、メラトニンも不足するから上手に眠れない。また、ドーパミンやノルアドレナリンが過剰になって神経が落ち着かないから眠れない。この二つのマイナス要因によって現代人の多くが睡眠に問題を抱えることにもなります。
セロトニンは睡眠を改善してくれるだけでなく、「幸せホルモン」と呼ばれるくらいに私たちを前向きな気分にしてくれます。
ビジネスで高いパフォーマンスを発揮したいときにも、プライベートで充実した日々を送りたいときにも、セロトニンがそれを可能にしてくれるのです。ちなみにセロトニンは、ストレスで減ってしまいます。
「はじめに」で触れた、謹慎期間中に起きた私の数々の不調は、まさに「セロトニン」不足から来る「ドーパミン」と「ノルアドレナリン」の暴走が要因の一つです。
セロトニンの分泌を促す具体的方法については主に第3章で述べますが、今の眠りに満足できていない皆さんも、まずは「自分はセロトニンが足りない」という危機感を持ってください。
COLUMN1睡眠はビジネスを成功に近付けるセーフティネット
私はいつも、その日の仕事の「出来」に自分で点数をつけています。そして、その点数と前夜の睡眠の状態を照らし合わせると、両者は見事に相関関係にあることがわかります。
睡眠に問題があれば、必ずビジネスでも何らかの不都合が起きているのです。睡眠と日中のコンディションは、コインの「表と裏」の関係にあります。
採点基準は「貢献度」に置いています。
とはいえ、報酬や地位のアップという会社からの評価が得られるような貢献を毎日することは不可能ですから、もっと小さな目標にブレークダウンして採点します。
このときに、あくまで会社から与えられた目標を基にブレークダウンするのが「できる人」への近道。そして、ブレークダウンした小さな目標に対して、その日の自分がどれだけ取り組めたかを採点していきます。
こうした日々の小さな積み重ねによって、確実に会社が求めていることが実現でき、結果的に報酬や地位もついてきます。
同僚や取引先など他人の意見や評価には、その人なりの思惑が含まれていることもあるので、あまり当てにしないほうがいいのです。ちなみに、点数区分は以下のようにしています。
A91~100点大変に素晴らしすぎる
B81~90点大変に素晴らしい
C71~80点合格基準
D61~70点うーん……
E60点以下不合格
めったにないですが、Aの91点以上をつけられたときは、ご褒美に靴かバッグを買ってOKとし、夕食にはシャンパンを開けてお祝いします。
Bの81点以上90点以下も上出来ですので、夕食に高価なお肉を食べたり、お風呂で贅沢な入浴剤を使用したりします。
最も重視しているのが、最低でもCを取れるかどうか。毎日そこを目指しています。
そのために、コンディションの悪い日は、第3章以降で詳述するセロトニンをつくる具体策をいつもより念入りに行うなどしています。
Eの60点以下は、私の中では論外です。貢献どころではなく、むしろ損害を与えているレベルです。間違いなく睡眠不足の劣悪コンディションが原因ですが、そもそもどうしてそうなったかについて徹底的に検証します。
問題は、Dの「60点は超えているけれど合格点には届かない」というケース。
何とも中途半端で、費やした時間を考えると、非常にパフォーマンスが悪いものになっています。こんなときの私に欠けているのは、やはり前日の睡眠の量です。ある大事な打ち合わせの前日、私は別の問題処理に追われて6時間しか眠れませんでした。
もともと私は、7時間は眠らないとダメなタイプ。この段階で、すでに1時間のマイナスがありました。本当は、ふだんの7時間プラス1時間の8時間は寝たいところでした。
というのも、その週はいろいろな課題が山積みで脳がフル回転状態だったため、余分に眠って脳を通常モードに戻しておきたかったからです。
さらに、勝負の日には余裕を持っておきたいので、もう1時間プラスしてもいいくらいです。
つまり、8~9時間確保したかった睡眠時間を6時間しかとれなかったため、私はその打ち合わせでいくつかのミスをしました。
たとえば、頭が働かずに、この日に必要のない資料まで持ってきてしまったり(必要な資料がないよりはマシですが)、相手とのやりとりの中で、質問に対するよりよい答えが頭の中にあったのにもかかわらず、うまく選択することができませんでした。言ってみれば、脳の検索エンジンが機能しなかったのです。
他にも、会話のキャッチボールをしながら、よりよい提案にブラッシュアップする力が鈍っているのも自覚できました。これらは全て、こちらで解説した「前頭葉の働き」が大幅に鈍ったことによるものです。
それでも、資料作りなどの準備はしっかり行っていたために、最低限伝えるべきことを伝えることはできましたし、結果的にその提案は通りましたので、相手もさほど不満を感じてはいなかったと思います(もし多少なりとも相手が不満を感じた場合、相手はふだんの私を知らないので「寝不足によりパフォーマンスが低かった」という発想はせず、「西川さんの能力はこの程度」と、「冴えない人」ラベルを貼るのでしょうね)。
いずれにせよ、私の中では合格点に届きません。「もっといいパフォーマンスがしたかった」という悔いが残りました。
皆さんも同様だと思いますが、相手があるビジネスでは、こちらのシナリオ通りには話は進みませんよね。
その場その場で「この話題において、相手は今どのような情報を必要としているか」を絶えず見極めながらの対応が求められます。
このときに、実質的な準備に加え、せめて前日に十分な睡眠がとれていれば、脳が素早く回転し、さまざまな変化にもついていけます。睡眠はビジネスを成功に近付ける「セーフティネット」のような働きをするのです。
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