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第3章思考力を深める本の読み方

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第3章思考力を深める本の読み方

読書で思考力を磨く

『星の王子さま』の「狐」は誰か?

思考を深める際にまず大切なのは、自分に引きつけて考えることです。

文章を読んで「そういう意味か、なるほど」と言って終わらせるのではなく、「これは自分の場合の何にあたるだろう?」「自分だったらどうだろう?」と考えるのです。

たとえばサン゠テグジュペリの『星の王子さま』をただ読んでストーリーを理解しただけでは思考は深まらないかもしれません。

しかし、王子さまが自分の星に残してきたバラとは自分にとって何だろう、狐とはどんな存在だろうと考えてみると、深まりはじめます。

王子さまの小さな星には一輪だけバラが咲いていました。一生懸命世話をしていましたが、バラの気まぐれな態度と言葉に振り回され、逃げるように星を出て旅をする王子さま。

「王様の星」や「実業家の星」など一風変わったいくつかの星を経て地球にたどりつきます。

そして何千本ものバラを見て、自分が特別だと思っていた一輪のバラは実はありふれた普通の花だったことを知り悲しみます。そこへ狐が来たので、気晴らしに遊ぼうと誘いましたが、狐は「仲良くなっていないから遊ばない」と言います。

狐の言う「仲良くなる」とは、絆を深め、他のものとは違う存在になること。王子さまは狐との対話を通じて、あのバラは世界に一つしかないバラだとわかるのです。

狐との別れのときになって、狐は「あんたのバラをかけがえのないものにしたものは、費やした時間だ」と言い、「大切なものは目に見えない」という秘密を教えてくれました。作者のサン゠テグジュペリが作品に込めたメッセージを読み取ろうとするのが「読解」です。

たとえば、大人は権力や名誉やお金などに気をとられ、本当に大切な「絆をつくること」を忘れてしまっている。絆のように目に見えない価値に気づくことで、人生を豊かにすることができるのだ──。

そんなメッセージを伝えているのではないか、というように考えるのです。さらに読解だけでなく、もう一歩自分に引きつけて考えてみましょう。

「自分にとっての狐は昔、心に残る言葉を言ってくれた〇〇くんかなぁ。ちょっと面倒くさいところがあって邪険にしてしまったけれど、気乗りしなくても何か約束をして時間をかけることで絆をつくれたのかもしれない」などと考えていきます。

そうすることによって、物語の筋を理解しただけでは到達できない「深み」が見えてくるのです。本を読んでいてはっとする部分があったら、きっと自分の経験と何かつながりがあるはずです。

それを放置して読み進めてしまえば、どこではっとしたか、なぜはっとしたのか忘れてしまうもの。だからメモしておくことをおすすめします。

直接書き込むのでも、メモ帳でも何でもいいと思います。そのメモを手掛かりに、あとからまた思考を深めていくことができます。

感情をのせて読むどんなジャンルの本にせよ、情報として読むだけでは思考はなかなか深まりません。思考が深まりやすいのは、感情が動いているときです。

思考力のある人は、感情をよく動かしています。頭と心、両方必要なのです。だから、思考力を深めるには「感情をのせて読む」ことが重要です。

発酵学者の小泉武夫さんは「発酵」というものを研究し、深めています。「発酵」を愛してやまない。「発酵」に心を動かされ続けているのです。

発酵食品はすべて気になるし、発酵のもととなっている微生物を大切に思っている。そんな小泉さんの本を読むと、「発酵ってすごい!すごすぎる」と叫びたくなります。

私は小泉さんの本が好きで、「小泉武夫月間」のようにして月に10冊ほど読んだときがありました。すると、食べるたびに発酵食品について語らずにはいられないし、微生物の働きに感謝せずにはいられませんでした。

『ファーブル昆虫記』は誰でも子どもの頃(少なくとも一部は)読んだことのある本だと思います。読みながら「すごい、すごすぎるよ、フンコロガシ!」「昆虫すごいよ!」と興奮したのではないでしょうか。

ファーブルの驚きや感動をなぞるように、心を動かしながら読んでいたはずです。同じように、著者の心と一緒になって「すごい!」と感動しながら読めばいいのです。心が動き出せば、思考も一緒に深まっていきます。

思考の浅い・深いは「読書感想文」でわかる

思考力を使わずにただ本を読んだだけの場合、感想を聞かれてもコメントできません。要約はできるけれども、作者の伝えたかったことや自分に引きつけて考えたことが何も言えないわけです。思考力があるかどうかは、読書感想文でわかってしまいます。

あらすじだけで終わっている読書感想文が最低レベルとして、その次のレベルは「何々に気をつけようと思いました」というような反省で終わるタイプのものです。これも、ほとんど何も考えていません。

夏目漱石の『こころ』を読んで、「友達を裏切るのは良くないと思いました」なんていう感想だったとしたら、それは全然思考力を働かせていないだろうという話になります。

ぼんやりと普通に読んでいるだけでは、自分の思考が浅いのか深いのかすらわからないかもしれません。いま何メートル掘ったのかわからないと、さらに掘ろうというモチベーションも湧かないでしょう。

一方、深く掘っているぞ、という感覚がある人は掘り続けます。ですから読みながらメモする。メモをするという作業が、思考の深堀りを続ける助けになります。

「その通り!」「面白い」といった一言でもいいし、自分の体験とつながる部分はそのキーワードを書くのでもいいでしょう。感情が動いたら、その感情をあらわす顔文字のようなマークを付けておくのもいいと思います。面白くて笑ったらニコニコマーク、驚いた箇所はビックリした顔のマーク。

読みながら得た自分の感触、インスピレーションをつなぎとめておくのです。

思考を深める「対話」「レビュー」の活用法

思考は「動かす」ことが必要です。動かすためには刺激がなければならない。自分ひとりの頭の中で考えを深めるのは難しいことです。

多くの小中学校で、「いまから15分でこれこれの問題について考えてください」というように「考える時間」をつくったりしますが、たいていは最初の1分しか考えていません。

あとは全然違うことを考えています。思考が行き詰まってしまう。そこで「対話」が必要になるのです。ある考えに対して、ちょっと違う考えをぶつけられれば、次の考えに進むことができます。

矛盾をどうにかしようと思考を働かせられるのです。対話によって思考を深めるやり方を好み、流れをつくったのはソクラテスとプラトンです。対話は、単純なおしゃべりとは違います。思い込みを崩して、新たな気づきを得られるようなものです。

ソクラテスと言えば「無知の知」が有名です。ソクラテスは対話によって「知ったつもりでいたけれど、自分はわかっていなかった」と気づくことが重要だと考えていました。

わかったつもりにならなければ、さらに探求し続けることができます。深めていくことができるのです。思考を深めるには、対話をするのが一番。

だからおすすめしたいのは本を読んだら人に話すことです。話しはじめれば何か言わなければと思考が動き出します。

相手から質問をされたり、違った理解の仕方を提示されればさらに考えが深まります。実際やってみるとわかりますが、記憶があいまいだとうまく伝えることができません。

相手から質問されて答えられなければ、理解が足りていないのです。私自身は中学生の頃から、本を読むたびに友達に話していました。

友達も同じ本を読んでいれば感想を言い合うし、どちらかだけ読んでいる場合でも、片方が伝えてもう片方が質問をする。読んでいる途中の段階でもとにかく話す。それが普通になっていました。

その友達とは大学、大学院までも一緒だったので、本を読んでは対話するというのを10年以上繰り返していたことになります。これはとてもいい思考の訓練になっていました。

『罪と罰』のように長くて途中で挫折してしまいそうな本も、途中の段階で人に語ると「マイ・ブック」の感覚になってきます。自分の本だ、という気がしてくるのです。

気分が盛り上がってきて読み続けられるし、思考も深まります。語る相手がいない場合には、レビューを読んでみてください。いまの時代、検索すればネット上に感想がたくさん見つかります。

自分と同じ感想を持った人のレビューを読めば「そうそうその通り」と思って考えの確認ができますし、「それは気づかなかった」「なるほどそういう見方もあるのか」と新たな観点に気づかされることもあるでしょう。

レビューの中には「いやいや、それはない」「ちょっと浅い感想じゃないかな」と反論したくなるものもあるかもしれません。反論するということは、思考が動いているのです。

私はレビューを大量に読むのですが、専門書などですごく深く読み込んでいる人のレビューを見つけることがあります。

批評や解説を読んでいるかのようです。ネット上の文章は玉石混交といいますが、玉のような価値ある文章もあるわけです。

石のような文章も、「それはないんじゃない」と反論できますから、一人で読んでいるよりは思考を深めることができるはずです。

読んだ本のポップを書いてみよう読書感想文を書くというと、ちょっと重たい感じでなかなか筆が進まない人は多いと思います。では、人におすすめする短い文章を考えるというのはどうでしょう。

最近小学校では本のポップを書くという授業が行なわれることがあります。まだその本を読んだことのない人が、「読んでみたいな」と思うようなおすすめ文を書くのです。

感想文というよりは、キャッチコピーのような感じです。いまの若い人はキャッチコピーのような短いフレーズをつくるのが上手で、考えるのも楽しいようです。

長い文章を書くのは負担に感じるけれど、短い文章をつくるのはSNSのおかげか慣れているのですね。ただし、短い文章で本の魅力を伝えるというのは本来難しいことでもあります。

「面白かったです、ぜひ読んでみてください」と言っても当然魅力は伝わりません。その本固有の魅力を文章にしなければならないのです。

そうすると、これは誰におすすめしたい本なのか、それはなぜか、これを読むとどう変わるのか、自分にとってはどんな価値があったのかなどを考えることになります。

「夢や目標に向かって頑張っている人に読んでほしい本です。置き去りにしている大切なものはありませんか?」「絆とは単純な『支え合い』ではなく、費やす時間や責任を伴うものだと教えてくれました。

目に見えないものの価値をあらためて考えさせてくれる本」1冊の本でも、おすすめ文をたくさん書いてみましょう。

「これぞ」というものを最初からひねり出そうとするのではなく、イマイチでもたくさん出してあとから絞るほうがラクにできます。

何かしら書けばそれに刺激を受けて別の文が思い浮かびますし、思考を深めていくことができます。私は本の帯文を頼まれることがありますが、案を20個くらい出します。

とりあえず10個書き出すと止まらなくなって20個になってしまうのです。思考が回転しはじめると、さまざまなアイデアが出てくるものです。おすすめ文を考えたら、ツイッターなどSNSに投稿するのもいいでしょう。

そこでまた対話が生まれるかもしれません。好きな文章を3つ選ぶ自分にとってどんな価値があったのか、何が魅力なのかを考える際に最も簡単なのは、本の中から「好きな文章を選ぶ」ことです。

私はよく「好きな文章を3つ選べ」という話をしています。好きな文章を3つ選ぶことを決めておいて、読み進める。そうすると、なんとなくのっぺりとした感じで読むのではなく、浮き上がって見えるような文章を探すことになります。

見つかったら赤や青の線で囲ってしまうと、さらに浮き上がります。これが思考を深める助けになります。

小学生を集めて塾をやっていたときも、ゲーテやシェイクスピアなどのテキストでこれをやってもらいました。難しい部分もありますが、小学生なりに読んで好きな文章を3つ選びます。

それを発表してもらうとともに選んだ理由も話してもらうと、盛り上がります。二人一組になってお互いに話したりすると、止まらなくなるのです。

このときすでに思考はかなり深まっています。だから、立派にコメントが言えてしまう。「セレクト&コメント」です。選ぶだけだから簡単です。

そのわりに、思考が深まるのです。ニーチェにもツッコミを少し距離を保ちつつ、思考力を働かせて読むには、「ツッコミを入れる」のがおすすめです。

お笑い芸人のように「そんなわけないだろ」とか「よしなさい!」とか言って笑いながら読むのです。

ニーチェの最後の著作『この人を見よ』を読みながら、「なぜわたしはこんなに賢明なのか」「よしなさい!」「なぜわたしはこんなによい本を書くのか」「よしなさい!」「本を読むこと──それをわたしは悪徳と呼ぶ!」「言いすぎだろ」などとツッコミを入れる。

マキアヴェッリの『君主論』を読みながら、「加害行為は、一気にやってしまわなければならない」「そうそう、一気に!……ってひどいよ!」「これに引きかえ、恩恵は、よりよく人に味わってもらうために、小出しにしなくてはならない」「そうそう、ちょっとずつちょうだい……って、なんかずるいわ!」などとノリツッコミを入れる。

偉大な著者には極端な人も多いので、そうやってちょっと引いて笑いながら読むわけです。そうすれば、全部呑み込まれるのではなくて、自分は自分として考えながら読んでいることになります。

『ハムレット』にしても、ハムレットの悩みと自分を重ね合わせてしまうと笑えませんが、ちょっと引いて読むと「いやそれちょっと考えすぎだよ」とツッコミを入れられます。

オフィーリアに対していきなり「尼寺へ行け」って、「それはないでしょ、ハムレット!」。笑うのは感情が動いているということです。笑いながら読むと、その読書体験自体が面白く、心にも残ります。

思考の回転を速める「予測読み」

もう一つ思考を回転させるのにいい読み方は、先を予測しながら読むことです。次の文章はこう来るな、次の展開はこうなんじゃないか、などと考えるのです。これも頭を使います。

「ふむふむ、そうですかそうですか」と当たり前のように読んでいるだけでは、結局何も考えず、何も残りません。名著と言われているものは、だいたいその予想を裏切ってきます。想像の上をいくのです。

すると「はぁ~そう来たか。すごい」と感嘆して思考も深まりやすくなります。村上春樹さんの小説を読んでいても、やはりストーリーテリングがうまく、予想の上をいく感じがあります。

もちろん、予想を裏切られることだけがいいわけではありません。村上春樹さんを相当読み込んでいる人は、だんだん先が予測できるようにもなるでしょう。

「やっぱり来た!」「デジャヴだ!」と嬉しくなります。設定が違っても、ある種のパターン、スタイルがわかっているので予測できるのです。

予想通りでも嬉しいし、予想を裏切られても嬉しい。著者をリスペクトしていると、そういう読み方ができます。

逆も真なりで、そういう読み方をしていると著者をリスペクトできるようになります。

子どもの頃紙芝居を見ていたときは、紙が1枚めくられるときに「さぁ次はなんだ」というドキドキ感があったと思います。

本もページをめくるという行為がありますから、それを利用するのもいいでしょう。

次を予想しながらページをめくる瞬間、ドキドキする。

それが本を読み進める力、思考を回転させる力にもなります。

思考力を高める名著10

『方法序説』ルネ・デカルト/著山田弘明/訳ちくま学芸文庫「われ思う、ゆえにわれあり」という有名な言葉が出てくるのがこの本。

私たちが理性を中心として生き、理性を武器に真理の探究を行なうための方法を述べたものです。

デカルトは真理に近づく思考方法をシンプルなものにしようと、4つの規則をつくりました。

「速断と偏見を避け、明証的に真と認めるもの以外は真として受け入れない」「小部分に分割する」「単純なものから複雑なものへ行く」「完全な枚挙と見直し」。

この4つの規則で考えることを習慣づけ、鍛錬していったのです。

ここに至るまでの精神の過程も正直に誠実に語られているのがいい。

読みやすく、魂のこもった本です。

『論理哲学論考』ヴィトゲンシュタイン/著丘沢静也/訳光文社古典新訳文庫命題という思想スタイルがかっこいい。

ヴィトゲンシュタインは、この本で「思考に境界線を引こうとしている」と言います。

境界線を引くことができるのは言語であり、境界線の外側にあるのはナンセンス。

私の言語の限界が私の世界の限界というわけです。

「語ることができないことについては、沈黙するしかない」。

通常の本のように章や節に分かれているのではなく、短い命題一つひとつに数字がふられているという変わった叙述方法なので、ぱっと見たときには面食らうかもしれません。

しかし、この書き方もヴィトゲンシュタインの思考プロセスに沿ったものです。

『五輪書』宮本武蔵/著渡辺一郎/校注岩波文庫剣豪・宮本武蔵が60歳のときに綴った、心技体の最高レベルの融合への道。

「万里一空」の境地に至るには、「鍛錬」と「工夫」と「吟味」あるのみ。

単に反復練習するのではなく、工夫と吟味で質を高めるのです。

兵法の奥義『五輪書』は、知るために読むものではなく、この書の内容を一つずつ稽古し、鍛錬するためのものです。

たとえば「拍子(タイミング)」について。

拍子に背くことが一番まずいので、拍子を鍛錬しなさいと言います。

「あたる拍子」「間の拍子」「背く拍子」。

拍子を概念化して捉え、習得すべき技として提示しています。

達人の認識力に感銘を受けます。

『風姿花伝』世阿弥/著野上豊一郎・西尾実/校訂岩波文庫能という芸で一族が厳しい世界を生き抜いていくための秘伝の書。

観阿弥・世阿弥親子は、将軍や貴族に気に入られることはもちろん、同時に一般にも喜ばれるものを目指していました。

質が高く、一般受けする芸です。

この課題は現代の仕事にも通じるので、自分に引きつけて考えやすい。

読みやすくはありませんが、「秘すれば花」「初心忘るべからず」など有名な言葉を見つけて自分のものにする気持ちで読むといいでしょう。

文化を背負った人間が情熱を傾けて書いている秘伝書ですから、莫大なエネルギー量が放出されています。

『この人を見よ』ニーチェ/著手塚富雄/訳岩波文庫ほかニーチェ最後の著作であり、自叙伝。

目次からしてすごい。

「なぜわたしはこんなに賢明なのか」「なぜわたしはこんなに利発なのか」「なぜわたしはこんなによい本を書くのか」「なぜわたしは一個の運命であるのか」。

これまでの思想と著作について、ニーチェ自身が解明しているのです。

極端に感じる表現も、あえて危険を冒しながら時代に対峙していた気概のあらわれでしょう。

ニーチェはこの1年後に精神的に破局してしまうのですが、そのスレスレの本気が伝わってきます。

言葉にとても力があります。

『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ/著佐々木毅/全訳注講談社学術文庫現代の経営者やリーダーでも愛読している人が多い『君主論』。

徳の高い理想の君主像を語るというより、現実に即して具体的に何をなすべきかアドバイスしたものです。

合理的で実際的なマキアヴェッリの考えは、現代の自分の状況に置き換えながら読むとヒント満載。

「加害行為は一気にやるべき。

一方、恩恵を与えるのは少しずつほどこすことで、ゆっくり味わえるようにしなければならない」といった助言などは、支配術のようでエグい感じがするかもしれませんが、「叱るときは一気にやって、ぐちゃぐちゃ引き延ばさない」と読めば使えるでしょう。

『饗宴』プラトン/著久保勉/訳岩波文庫ソクラテスの対話を書き残したプラトンの著作の中でも、とくに読みやすいのが『饗宴』です。

タイトルの饗宴とは、飲んだり食べたりしながら話に興じることで、いわば「飲み会」です。

しかも、ここでのテーマは恋愛。

弁舌巧みな参加者たちが愛の神エロスについて語るのです。

そのトリを務めるのがソクラテス。

ソクラテスは参加者たちに質問を投げかけ、論点を絞ります。

そのうえで、愛の本質に迫っていくのです。

知を愛することや無知の知といった根幹的な哲学についても触れることができますし、ソクラテスの人物像も伝わってきますから、最初に読むソクラテス本としておすすめです。

『歴史とは何か』E・H・カー/著清水幾太郎/訳岩波新書「歴史は、現在と過去との対話である」。

著者カーの歴史哲学の精神です。

歴史家は過去の事実を研究しますが、古い文献に書かれている事実の解釈には、どうしても「現在にとっての意味」が入り込みます。

歴史的事実といっても、事実そのものではありません。

カーの歴史哲学にはさらに「未来」まで入ってくるのがすごいところ。

現在は時間とともに未来に食い込み、それとともに過去も姿を変え、意味も変わっていきます。

完成はないのです。

高度な哲学ですが、ケンブリッジ大学で行なった講演録なので読みやすい。

『寝ながら学べる構造主義』内田樹/著文春新書20世紀の重要な現代思想の一つ、「構造主義」について徹底的にわかりやすく解説した入門書。

構造主義の代表的な思想家は、ソシュール、ジャック・ラカン、レヴィ゠ストロース、ミシェル・フーコーなどです。

構造主義の思想自体は複雑で難解ですが、この本は「そういうことか!」とどんどん読み進められます。

深さを保ちつつ、わかりやすい文章が、中高大学の入試問題によく登場するのも納得です。

この本に限らず、内田さんの本を読むと、自分の頭で考えて立ち向かっていく姿勢に刺激を受けます。

『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン/著村井章子/訳友野典男/解説ハヤカワ・ノンフィクション文庫心理学者でもあり、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンによる行動経済学の本。

私たちがいかに些細なことに引っ張られて誤った判断をしてしまうか、徹底的に解明しています。

前提となるのは、直感や感情のように自動的に発動する速い思考モードと、意識的に努力して発動させる遅い思考モードの二つがあるということ。

そして、どちらの思考モードも間違うことがあります。

カーネマンは研究結果をたどりながら、読者に質問を投げかけます。

あなたはこれをどう判断しますか?ボリュームがあるので挫折しそうという人は、下巻にある「プロスペクト理論」だけでも。

知識を持つほど世界が広がる理由自分の持つ知識の中で、たとえば自然科学系の知識が足りないと思えば、そういった本を積極的に読むといいでしょう。

知識と認識はセットです。

知識なしで頭だけ鍛えようと思っても難しい。

知識が増えると認識力も高まるという関係にあります。

自然科学系の本は、文系の人はなかなか手が伸びない分野かもしれません。

理系の人は、文系の内容にあまり抵抗はないようですが、文系の人は理系の内容に苦手意識を持つ人が多いようです。

しかし、文系の強みは「本が読める」ということ。

理系の内容だって言葉で構成されている本には違いありません。

数式が出てきたらとばしても、全体を読んで捉えることはできるはずです。

文系の人は、「本が読めるのだからすべての分野をカバーできる」と考えればいいのです。

宇宙、生命、物理など自然科学の知識を手に入れると、一気に世界が広がります。

ミクロの世界もマクロの世界も、驚きと感動でいっぱいです。

人生観さえ変わるかもしれません。

いまは理科系の内容を理解するための優れた解説書がたくさん出ています。

ニュートンの物理学を理解するのに、必ずしも『プリンキピア』を読む必要はないのです。

文科系の書物は古典の威力がすごいのですが、理科系の書物は時代とともに発展を続けています。

子ども向けの科学読み物にも面白い本はたくさんあります。

いま全国の小中学校で行なわれているのが、「理科読活動」。

科学に親しみ、積極的に理科を学ぶ意欲を育てるため、理科系の本をすすめる活動です。

『理科読をはじめよう』(滝川洋二/編岩波書店)には、学校の図書室や地域での「理科読」事例とともにおすすめの科学本が紹介されています。

子どもにおすすめの本ですから、あまり難しい本はありません。

でも、十分その奥深さが伝わってきます。

たとえば『空気の発見』(三宅泰雄/著角川ソフィア文庫)。

酸素や二酸化炭素など気体の発見物語です。

空はなぜ青いのか、空気中にアンモニアが含まれるのはなぜかといった身近な疑問を平易な文章で解き明かしてくれます。

『ライト兄弟はなぜ飛べたのか──紙飛行機で知る成功のひみつ』(土佐幸子著/さえら書房)は、実際に紙飛行機で実験をしながら、空気より重たいものが空を飛ぶ原理を学ぶ本です。

ライト兄弟の工夫と成功の過程を追体験しつつ、科学への姿勢を感じ取ることができるのがいいですね。

本格的な名著に導いてくれるガイドがほしい場合は、京都大学の鎌田浩毅教授の『世界がわかる理系の名著』(文春新書)がおすすめです。

ガリレオ『星界の報告』からユクスキュル『生物から見た世界』、プリニウス『博物誌』、ワトソン『二重らせん』などの名著が、どんな状況で書かれ、世界にどんなインパクトを与えたのかをわかりやすく紹介しています。

なお、私も『文系のための理系読書術』(集英社文庫)という本を出しています。

楽しんで読みながら科学的知識も身につくような小説、漫画から、世紀の大発見を追ったドキュメンタリー、古典的名著まで幅広く50冊ほど紹介しています。

こういったガイドを頼りに、自然科学の世界を広げていってはいかがでしょうか。

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