第7章難しい本の読み方
あえて本物を選ぼう
本だけでなく映画、漫画、絵画、音楽などそれぞれに名作と言われるものがあります。一流のものにはとてつもないパワーがあります。
ヴィヴァルディの「四季」はクラシックファンならずとも聴いたことがある曲だと思います。春夏秋冬の4つの楽曲からなるこの「四季」が世に出たのは1725年。
18世紀末から19世紀末まで100年ほどは忘れられていたのですが、1949年に楽譜が再発見され出版されます。日本では、イタリアの室内楽団「イ・ムジチ合奏団」が演奏したことで人気に火がつきました。
そしてクラシックで最も人気のある曲の一つとなったのです。「春」が有名ですが、テレビ東京の全仏オープンでは「夏」が使われています。
スピード感がありドラマチックなヴァイオリンの旋律を聴くと、あの赤土の激しい戦いが脳裏に蘇ってきます。
あらためて聴いてみると、現代にも常に通用するようなその作曲のレベルに驚嘆せずにはいられません。ああ、音楽でこんな深みが表現できるのか。季節をこんなふうに表現できるのか。
私は作曲家ではなく、演奏家ですらないけれども、良さだけはわかります。この世に生まれて、この時代に生まれて、ヴィヴァルディに出合えて良かったと思うわけです。
モーツァルトやバッハにしても、これら偉大な作曲家の作品に触れることができて良かったと思う人はたくさんいることでしょう。
一流の作品は大きな感動を与えてくれます。そして、この偉大な作曲家の他の作品も全部聴いてみたいと思ったとき、作品の多さにもまた圧倒されます。
ヴィヴァルディは500曲を超える協奏曲のほか、オペラやソナタ、室内楽曲など多岐にわたって作曲をしており、主要作品集だけでCDが40枚あったりします。
モーツァルトの全集はCD170枚組です。全部聴くには相当な時間や集中力が要ります。文学の場合も、偉大な作家の全集はさまざま出ています。それらを全部読もうとしたら大変です。
「うわぁ、こんなに読めるだろうか」と立ち尽くすような感じになると思うのです。
丸善などの大型書店に行ったとき、「こんなに読むべき本がある!」とワクワクするか、はたまた「自分にはとても読み切れない」と恐怖のようなものを感じるか。
後者だったら、梶井基次郎の『檸檬』のように檸檬爆弾でも置いてしまいたくなるかもしれません。
この世を過ごすうえで、深くてすごいものに出合うだけでも、もう時間がないと気づきます。薄っぺらい、浅いものに付き合っていられないわけです。
できるだけ一流のものに触れたいというとき、「古典」ならほぼ間違いありません。単に古いものということではなく、時代を超えて多くの人に愛されてきたもの。
歴史の中で評価され、現在もその価値を失わないもの。時の流れの試練に耐えて残ってきたものには、それだけのパワーがあるのです。
本を読むのに才能はいらない
一流の本を書くには才能が必要になるでしょうが、本を読むのには才能は必要ありません。すでにお話ししたように、本来誰もが知的好奇心を持っています。子どもはみんな本が好きです。
それが成長とともに本から離れてしまっているだけで、ポテンシャルは持っています。一度読書の習慣がつけば、どんどんラクに本が読めるようになります。そして思考も知識も人格も深めていくことができるのです。
百人一首に「あひ見てののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり(あなたと逢瀬を遂げたあとの、いまのこの切ない気持ちに比べれば、昔は物思いなどしていないのと同じだったのだなあ」(権中納言敦忠)という歌がありますが、これになぞらえれば、「本を読みはじめたいまとなってみれば、昔はものを思わざりけり」という気分です。
ついでに言うと、お金もあまり必要ありません。昔は本1冊手に入れるのにも大変だった時代がありました。
『福翁自伝』には、福沢諭吉が高価でとても買えないオランダ語の本を人から借りて、夜も寝ないで書き写したというエピソードがあります。
博物学者の南方熊楠は、蔵書の多い人の家を訪ねては本を読んで記憶し、帰ってから書き写したそうです。今はそんなことをしなくても、安く簡単に手に入ります。本を読むのにほとんどお金がいらない時代になったと言っても過言ではありません。
私はiPadProで電子書籍を読むことも多いのですが、「キンドルアンリミテッド」というサービスを使えば月額1000円程度で10万冊以上(和書)に及ぶ対象本が読み放題です。
これはもう、タダみたいなもの。ちょっとでも気になったらとりあえず読んでみよう、と読みはじめることができます。すると、ふだん買わないような本も、知らない作家もどんどん広げていける。
惜しげなくぱっぱっと読んでいけるので、速読が苦手な人もすばやく読めるのではないでしょうか。漫画を含め、私は1日10冊くらいこなすときもあります。
キンドルに限らず、最近はこういった「読み放題サービス」も増えています。紙の本でも中古で安く手に入れる方法はありますし、昔ながらの図書館を活用することもできます。
たとえ「買ったものの読まなかった」という本が増えても、ホモ・サピエンスとしての誇りを傷つけていないということで、それはかまわないことにしましょう。買ったものの履かなかった靴、買ったものの使わなかったダイエット器具よりましです。
集中力を鍛えるには、まずレベルの高い本から
読書は集中力の訓練になります。まとまった量の文字を読んで、内容を理解するには集中力が必要です。集中力がなくなってくると、字面を追っても内容が全然頭に入ってこないですよね。
読書慣れしていない人は、集中力を持続させるのが難しく、「面倒くさい」と感じる。だから、あまり一生懸命読みこまなくてもいいような軽い本を求めます。
古典の名著をあらすじで理解する本のように、かみくだいて簡単にしたものが売れるのです。そのままの状態だと固くて咀嚼力が必要だけれど、最初からやわらかくしてあれば読める、というわけです。
当然ながら、やわらかいものばかり食べていればアゴの力はつきません。誰かにかみくだいてもらわなければいけなくなってしまいます。それでは一流のものを本当に味わうことは難しいでしょう。
逆に言うと、一度頑張ってアゴの力をつけてしまえば、あとは楽に読めるようになります。
ですから、最初にむしろレベルの高い本を勢いにまかせて読んでしまうことをおすすめします。最初は理解できない箇所もあり、先に進むのが苦痛で逃げ出したくなるかもしれません。それでもとにかく最後まで読み切ってしまう。
わからない言葉を調べたり、キーワードや登場人物の相関図を書き出して整理する必要がある場合もあるかもしれません。
そうして少し努力しつつ、最後まで読み通すことができれば自信がつきます。自信がつくと、次も読めます。さらに次もと、どんどん読めるようになります。
「あの本に比べれば簡単だ」「すぐに読めそうだ」と感じるでしょう。逃げ出さずに本と向き合い、読み続けることで集中力が鍛えられれば、他の趣味にも勉強にも仕事にも良い効果があります。
「やりたいことはあるのに、なかなかできない」という場合、集中力がかかわっていることが多いもの。一つひとつ集中して取り組むことができれば、短時間で目標を達成することができ、その結果余暇も増えます。
時間が増えて、やりたいことがもっとできるのです。
私が大学で教えるほかに、テレビでの仕事、書籍の執筆をしながら、毎日大量に本を読み、漫画を読んでテレビを見て映画を見ているというと、「どこにそんな時間が?」と驚かれるのですが、これも読書で培った集中力の賜物と言えるでしょう。
クライマックスは登場人物になりきる
最初に本格的な本を読んで自信をつけることをおすすめしますが、「そうは言っても……」と尻込みする人はいると思います。「世界文学をあらすじで読む」といった本で何とかならないだろうか。
一応、教養らしいものは身につくのでは?と思うかもしれません。確かにこういった本は短時間で、とりあえずどんな話なのかわかりますから便利ですね。
ただ、文学のすごさはあらすじにあるわけではありません。あらすじは、「知らないよりは知っているほうがいい」という程度のもの。
難解な本をぶっつけ本番で読むよりは、最初にあらすじを理解しておくと読みやすくはなります。そういう意味では活用できますが、あらすじだけでは体験としての読書にはならないのです。
そこで私がおすすめしたいのは、「クライマックスだけでも音読する」ことです。あらすじを知ったうえで、重要なシーンを声に出して読むのです。そうすると、かなり読書体験に近づきます。
大学生や小学生に、名場面の数ページ分でも音読してもらうと「音読してみてはじめてすごさがわかった」と言います。
多少言葉が難しくても、そこに込められた本質に触れる体験となります。一流の文学というものは、原文にとんでもない力があります。翻訳でも、あらすじとは違うパワーがあります。音読をすると、言葉がすごい迫力で身に迫ってきます。字面ではなく、身体全体でワールドを味わう感覚です。
著者や登場人物になりきって読んでみると、黙読ではいまいちつかめなかった心情や行間の意味もわかることがあります。また、偉大な著者の肉声が、自分の体を通して聞こえてくるような感じがします。
聞こえてくるのは自分の声ですが、言葉に尋常でないエネルギーが込められているので、あたかも著者が目の前にいて語りかけてくるかのようです。より深く味わうには、大げさに演劇的に音読することです。
演技がうまくなくてもいいので、著者や登場人物になりきる。その気になることが大切です。真似ることが学びの基本。真似て読むことで深い学びも得られます。
本・ドラマ・映画・コミックをグルグル回す
『源氏物語』は、一部であれば誰もが読んだことがあるでしょう。間違いなく日本の最高の文学の一つであり、国語の教科書には必ず載っています。
しかし全編を読み通すのは、なかなか大変なものです。その源氏物語を漫画化し、累計売上が1700万部を超えているというのが、大和和紀さんの『あさきゆめみし』です。
源氏物語そのものを読んだことがある人は少ないかもしれませんが、『あさきゆめみし』はそれだけ多くの人に読まれ、愛されているのです。これは素晴らしいことです。
作品のクオリティも高く、源氏物語の良さを十分に感じとることができます。漫画であっても、良いものなら読んで得るものは非常に大きいのです。
『源氏物語』に限らず、名作だけれどもとっつきにくい作品の多くは漫画化されています。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』も漫画で読むことができます。
文字で読む体験とは違ったものになりますが、とっかかりとしてはとてもいいでしょう。漫画でその世界に親しんでいれば、スムーズに入っていくことができます。
好きな場面だけでも、文章を音読してみようという気になるかもしれません。私は漫画も大好きでたくさん読みます。本か漫画か、ということではありません。orではなく、andです。本も漫画も読めばいい。
読書量が多い人は漫画も大量に読んでいる傾向にあります。本を読める人は集中力が続くので、漫画も大量に読むことができるのです。
本が一つのワールドをつくっているのと同じように、漫画も映画やドラマもそれぞれのワールドがあります。すべて違った特質を持っています。ですから、それをすべて楽しめばよいと思います。
私は小説が映画化されれば観に行きますし、映画で観たものの原作を読むこともします。漫画が原作でドラマ化されるケースも多いですね。
私はどちらも見て「なるほど、この漫画がこうやってドラマになるのだな」「この難しいシーンをこうやって撮るのだな」などと感慨を覚えています。本、漫画、ドラマ、映画にそれぞれ入り込みつつ、グルグル回して深めていくのです。
古屋兎丸さんによる『帝一の國』(集英社)という非常に面白い漫画があります。
「総理大臣になって自分の国をつくる」という野望を持った主人公の赤場帝一が、超名門高校の生徒会長選挙に命をかけるという学園コメディーです。
この漫画が持つ独特な世界観を壊すことなく映画化(2017年4月公開監督:永井聡)されたものを見て、「うまく映画化したものだなぁ」と感心しました。
兎丸さんは太宰治の『人間失格』を漫画にもしています。主人公の葉蔵の心の動きが精緻に描かれており、素晴らしい作品です。
この漫画を読んで、あらためて小説を読むといっそうわかる、という相乗効果があるかもしれません。
ちなみに兎丸さんにはお会いしてお話を伺ったことがあるのですが、1日中立って漫画を描かれているそうで驚きました。
10時間以上立ったままの姿勢であの緻密な作品を生み出しているのです。「普通の人間ではないな」という感想を持ちました。
本もそうですが、漫画は漫画家さんが一人でワールドをつくってしまうすごさがあります。長時間かけて孤独にペンを動かし、ワールドをつくり出している。その孤独感を、漫画を読む自分が共有できるような、そんな良さが感じられます。
「わからない」ところがあっていい
よくわからない物事をわかりやすく解説してくれている情報系の本は、「そういうことだったのか!」というすっきり感を与えてくれます。
テーマを絞って内容をコンパクトにまとめてくれている新書などは、「すっきりする読書」にとてもいいですね。
難易度はさまざまですが、基本的に論旨ははっきりしていますし、「なるほどなるほど」と頷きながら読み進められます。速読が向いているのはこういったタイプの本です。
また、謎解きを主とした推理小説は、複雑な謎が解かれたときに「そういうことだったのか!」とすっきりし、面白く感じます。このすっきり感は読書の楽しみの一つです。
一方、もやもやする読書というのもあります。いろいろな意味にとることができて、解釈が人によって違うような本もありますよね。あるいは、いまの自分にとって難解な部分、理解しがたい部分があってもやもやするような本です。
たとえばニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』を読むと、よくわからない部分もあると思います。それは、いまの自分にはまだわからないということで、まったくワケがわからないというのとは違うでしょう。
わかる部分から推し量るに、これはきっと深いことなのだろうと感じるはずです。まだまだ深さに先があるということです。
しばらくたって読み返すと、かつてはわからなかった部分が理解できたり納得できたりする。いい作品には、そういう深みがあります。
読むたびに発見があるものです。よくわからないけれど心にひっかかり続けていて、あるときふと「そういう意味だったのか」と気づくこともあります。
もやもや感も読書の楽しみです。わからない部分があってかまわないのです。
古典で楽しむ「名言ピックアップ読み」
To be, or not to be : that is the question.(生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ)これは『ハムレット』の中に出てくる有名な言葉です。
ハムレットを知らない人も、この言葉は聞いたことがあるでしょう。古典的名著には必ず有名な言葉があります。
その言葉を見つけながら読もうとする「ピックアップ読み」なら、古典も怖るるに足りず。断片的ではありますが、その断片に古典の精神が宿っています。
「全部読まなくては」という強迫観念で古典から遠ざかってしまうよりも、力まずに古典に親しみ、その精神に触れることが大切です。
「あ、ここに書いてある。なるほど、こういう流れで出てきたのだな」。見つけたらその言葉をぐるぐる囲ったりして、存在感を増しておく。自分の持っている本に、あの有名な言葉が書かれているという認識が強まって、「読んだ感」が出ます。名言を引用するときも、堂々とできるでしょう。
『論語』にはたくさん有名な言葉がありますが、たとえば「子曰く、学びて思わざれば則ち罔し。思いて学ばざれば即ち殆し」「過ぎたるは猶及ばざるが如し」「義を見てせざるは勇無きなり」など。
そうやって3つでも名言を見つけることができればよしとする。全部を読まなくても、その名言が自分のものとなります。生かすことができるのです。
そもそもどんな名言があるのかわからない場合は、まず解説書をざっと読んでおきましょう。
「ピックアップ読み」は、洋書を読みたいときにも役立ちます。日本語に訳されている本をまず1章分でいいのでざっと読んで、面白いと思った箇所に線を引いておきます。
赤、青、緑のように3色くらいあったほうが見つけやすいのでいいでしょう。そして、その線を引いた箇所を洋書の中に探します。該当する文を見つけたら、同じ色で線を引きます。
全然見つけられない場合は、その言語はまだ本を読む域に達していないのかもしれません。多少わかるようなら、「ああ、これがあの言葉だ!」と見つけられるはずです。それを1章ごとに繰り返します。
するともう、線を引っ張ってある洋書が手元にあることになる。「読んだ感」があるし、かっこいいですね。どんどん洋書売り場に行って、かっこつけてください。
「この本を読んだ自分、かっこいい」と思うのも、読書の習慣化に大事なことです。洋書や古典、新書を待ち合わせの時間にでもさっと開いて読む。
ピックアップしたところを読み直すのでもいい。あるいはカフェでゆったりと読書。そんな人ってかっこいい、本はモテの必須アイテム。出版文化の明るい未来を願う者としては、そうなってくれたらいいと思う次第です。
「どっぷり読書」と「批判的読書」
読書は、本の書き手や登場人物のワールドが自分の中に根づくことで、人生を豊かにしていくことができるものです。読書でワールドを増やしていけるのです。
一方で、他者が自分の中に入り込む怖さもあります。自分よりはるかに思考力がある人の考えを読み、その人が深く入り込んできたら……。自分がなくなってしまうくらい影響を受けるかもしれません。読み方を間違えれば危険でもあるのです。
いま名著として読み継がれている本も、歴史の中では禁書として出版を禁止されていたことがあるという例は数多くあります。
秦の始皇帝などは儒教が国を治めるのに邪魔だということで、書物は焼き払い、批判的な儒学者を生き埋めにしてしまいました。「焚書坑儒」というものです。
それだけ本には恐るべきパワーがあるのです。本を1冊読むのにはある程度時間がかかります。その時間をかけて、自分の頭の中に著者が語り続けるわけです。
本のワールドに没入しているときは、自分と著者とが区別できないような状態になります。言葉を使っているというのもポイントで、著者の思考をなぞることができてしまう。
それだけ深いレベルで影響を受けやすいのです。そう考えると、場合によっては「批判的に読む」ことも必要でしょう。
ただ注意したいのは、何でも批判的に、ナナメに読めば思考力が深まるわけではないということです。著者の思考、世界観をいったんはそのまま受け入れるほうが得るものは大きいはずです。
「どっぷり読書」も、それはそれでいいものです。その世界にどっぷりはまることで、思考が深まる面もあります。
そのうえで批判的に読む。ちょっと離れたところから見るような感じです。この視点は、さまざまな本を読んでいるうちに自然と身につくものでもあります。
一人の作家に入れ込んで、その作家のものばかり読んでいると、どうしても視点が偏りがちになります。その作家しか受けつけない、というのではやはり思考も深まりません。
違うタイプの作家のものを読んだり、違うジャンルの本を読んでいると、同時にいくつかの視点を持てるようになります。バランスがとれるようになるのです。
そうしたバランスのとれた視点が身についていると、どっぷりひたりながらも批判的に読む、ということができるようになります。私は若い人にもよく愛読書を聞くことあります。
「ヒトラーの『我が闘争』です」という答えだったときは、「うーん、そうですか……」と言葉に詰まってしまいました。確かに名著の一つではありますが、たくさんある中であえてそれを選ぶというのは、偏りを感じずにいられません。
難しくても挑戦したい不朽の名著10
『謹訳源氏物語』紫式部/著林望/現代語訳祥伝社日本文学の最高峰。
原文は手ごわいので、まずは読みやすい現代語訳で物語を楽しみ、それから原文を味わうのがおすすめ。
この本は国文学者で作家の林望さんが正確にかつセンスよく現代語訳したものです。
これなら全巻読破できるはずですが、それでも挫折しそうという人は「若菜」(第6巻)から読んでみてください。
「若菜」は近代小説に近く、登場人物たちの心理が絶妙に描写されています。
源氏は40歳ほど。
これまで華やかだった、千年に一度のモテ男源氏に因果応報、苦悩の大劇場です。
大塚ひかりさんの、ちくま文庫版も大変楽しく読みやすい訳です。
『論語物語』下村湖人/著講談社学術文庫小説家である下村湖人が、『論語』の章句を使って、孔子と弟子たちの物語として構成した本。
『論語』そのままでは孔子という人をリアルに想像するのはひょっとしたら難しいかもしれません。
でも、ストーリーとして読むと孔子の人格がはっきり浮かび上がってきます。
弟子たちのキャラクターもよくわかり、面白い。
あわせて読んでもらいたいのが中島敦の短編小説『弟子』。
孔子の弟子となった子路の人生と、単純で遠慮のない子路に困らせられながらも愛した孔子との関係が情感豊かに描かれています。
『論語と算盤』渋沢栄一/著角川ソフィア文庫渋沢栄一は国立銀行ほか500以上の企業の設立に関わり、「日本資本主義の父」と呼ばれた大実業家です。
その渋沢栄一が座右の書としていたのが『論語』。
「私は論語で一生を貫いてみせる」と、経済とかけ離れていると一般には思われていた『論語』を商業・実業に生かし、『論語』の言葉を信念として活用しました。
古典を自分に引きつけて考え、人生に生かした見事な例です。
日本の実業家として大成功をおさめた渋沢栄一のバックボーンを知ることができるのも有益。
『マンガ老荘三〇〇〇年の知恵』蔡志忠/作画和田武司/訳野末陳平/監修講談社+α文庫人間の実社会での生き方を説いている孔子の教えとは対照的に、「無為自然」を説いた老荘思想もおさえておきたい。
この本は『老子』『荘子』を現代語訳し、漫画で紹介したもの。
世界で翻訳されています。
日本人にとってはなじみやすい思想ですが、原文はやはりハイレベルなので最初に読むのにおすすめです。
「大器晩成」「無用の用」などよく知る言葉も実は老荘の言葉。
「道(タオ)」など難しい概念もありますが、必死になって読むのでなく肩の力を抜いて味わいつつ読んでください。
『口語訳古事記[完全版]』三浦佑之/訳・注釈文藝春秋8世紀初頭に書かれた、日本最古の歴史書(異説もありますが)であり文学『古事記』。
『日本書紀』と同じく天武天皇の命で編纂され、天皇家の支配の正当性を示す目的がありました。
ところが、『日本書紀』と違って天皇家を称揚しているわけではなく、むしろ疑いを持ってしまいそうな部分もあり、そこがまた魅力です。
大国主命を中心とする出雲系の神々は、天照大神をはじめとする天孫系とは本来対立関係にありますが、大国主命の出番は多く、面白い。
この本は読みやすい現代語訳に加えて、丁寧な注釈があります。
『旧約聖書を知っていますか』阿刀田高/著新潮文庫聖書は西洋文化を理解するのに欠かせません。
新約聖書はキリスト教の聖典。
旧約聖書はユダヤ教の聖典(キリスト教の聖典でもあります)。
世界を創造した全能の神ヤハウェとイスラエルの民との契約と交流の物語です。
天地創造、エデンの園、カインとアベル、ノアの箱舟などなじみのある話から、ヨブ記、レビ記、イザヤ書といった少々読みにくい部分も面白いエッセイにして読ませてくれるのがこの本です。
シリーズに『ギリシア神話を知っていますか』『新約聖書を知っていますか』『コーランを知っていますか』などもあるので併せてぜひ。
『弓と禅』オイゲン・ヘリゲル/著魚住孝至/訳・解説角川ソフィア文庫ドイツ人哲学者ヘリゲルが、日本で師について弓道を学び、禅の奥義を感得するまでを整理して著した本。
精神集中と身体の鍛錬によって、いかに無心の境地に至ることができるのか。
自らの体験のプロセスを丁寧に説明しています。
世界で長く読まれ続けている日本論の名著です。
弓道の師、阿波研造の言葉が深いのもさることながら、ヘリゲル自身の認識力もすごい。
できる限りシンプルに伝えようとしており、すぐに読めます。
『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー/著原卓也/訳新潮文庫最高峰の総合小説。
読みやすくはないけれど、最高に面白くて深いこの傑作を読破するのは最もコストパフォーマンスがいい。
カラマーゾフ家の父親を殺したのは誰か?というサスペンスから、生とは何か、欲望とどう向き合うのか、神はいるのか、良心とは何かといった哲学的な問い
の森へいざなわれます。
気質も立場も価値観も異なり、それぞれ「過剰さ」を持った登場人物たちが対話しまくるバトルロイヤル。
名場面は数知れません。
体験としての読書とはこういうことか、と身に染みてわかること請け合いです。
『新版徒然草現代語訳付き』兼好法師/著小川剛生/訳注角川ソフィア文庫兼好の本質を捉える洞察力はすごい。
一つひとつのエピソードが示唆的であるうえに、情緒とユーモアにあふれています。
短文が243段あるだけなので、全段を読み通したいところ。
中学校あたりで全段読むカリキュラムを組めばいいのに。
現代語訳で確認しながら、気に入ったところは原文を声に出して読んでください。
人生の大切なことは、あらかた『徒然草』に書いてあります。
日本の古文の中で、最も現代にそのまま使える古典だと思います。
『自由への大いなる歩み』M・L・キング/著雪山慶正/訳岩波新書アメリカ公民権運動の指導者であり、「Ihaveadream.」という演説が有名なキング牧師による本。
1955年アメリカのモンゴメリーで、黒人たちの大規模なバスのボイコット運動がありました。
きっかけは、バスの白人優先席に座った黒人女性が、白人に席を譲ることを拒否し逮捕・拘留されたこと。
ボイコット運動の指導者となったキング牧師が、その体験と非暴力的抵抗への哲学を生き生きと物語っています。
キング牧師の肉声が届くようで、当時の状況が身に染みてわかる名著です。
参考文献
- 『最強の人生指南書佐藤一斎「言志四録」を読む』齋藤孝/著祥伝社新書
- 『なぜ美人ばかりが得をするのか』ナンシー・エトコフ/著木村博江/訳草思社
- 『宮本武蔵』吉川英治/著講談社『折り返し点』宮崎駿/著岩波書店『西欧近代科学』村上陽一郎/著新曜社
- 『魔女』ミシュレ/著篠田浩一郎/訳岩波文庫
- 『ぼくらの七日間戦争』宗田理/著角川文庫
- 『五輪書』宮本武蔵/著渡辺一郎/校注岩波文庫
- 『風姿花伝』世阿弥/著野上豊一郎・西尾実/校訂岩波文庫
- 『新訳星の王子さま』アントワーヌ・ド・サン゠テグジュペリ/著倉橋由美子/訳宝島社
- 『発酵』小泉武夫/著中公新書
- 『この人を見よ』ニーチェ/著手塚富雄/訳岩波文庫
- 『方法序説』ルネ・デカルト/著山田弘明/訳ちくま学芸文庫
- 『論理哲学論考』ヴィトゲンシュタイン/著丘沢静也/訳光文社古典新訳文庫
- 『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ/著佐々木毅/全訳注講談社学術文庫
- 『饗宴』プラトン/著久保勉/訳岩波文庫
- 『歴史とは何か』E・H・カー/著清水幾太郎/訳岩波新書
- 『寝ながら学べる構造主義』内田樹/著文春新書
- 『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン/著村井章子/訳友野典男/解説早川書房
- 『理科読をはじめよう』滝川洋二/編岩波書店
- 『世界がわかる理系の名著』鎌田浩毅/著文春新書
- 『文系のための理系読書術』齋藤孝/著集英社文庫
- 『こども孫子の兵法』齋藤孝/監修日本図書センター
- 『21世紀の資本』トマ・ピケティ/著山形浩生・守岡桜・森本正史/訳みすず書房
- 『E=mc2』デイヴィッド・ボダニス/著伊藤文英・高橋知子・吉田三知世/訳早川書房
- 『ソロモンの指環』コンラート・ローレンツ/著日高敏隆/訳早川書房
- 『宇宙は何でできているのか』村山斉/著幻冬舎新書
- 『日本思想全史』清水正之/著ちくま新書
- 『常用字解[第二版]』白川静/著平凡社
- 『アイヌ文化の基礎知識』アイヌ民族博物館/監修児島恭子/増補・改訂版監修草風館
- 『欲望の民主主義』丸山俊一+NHK「欲望の民主主義」制作班著幻冬舎新書
- 『資本主義の終焉、その先の世界』榊原英資・水野和夫/著詩想社新書
- 『人類の未来』ノーム・チョムスキーほか吉成真由美/インタビュー・編NHK出版新書
- 『ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ/著柴田裕之/訳河出書房新社
- 『新訂福翁自伝』福沢諭吉/著富田正文/校訂岩波文庫
- 『山頭火俳句集』種田山頭火/著夏石番矢/編岩波文庫
- 『中原中也詩集』中原中也/著大岡昇平/編岩波文庫
- 『人間失格』太宰治/著新潮文庫
- 『走れメロス』太宰治/著新潮文庫
- 『オイディプス王』ソポクレス/著藤沢令夫/訳岩波文庫
- 『フロイト全集4』新宮一成/訳岩波書店
- 『マクベス』シェイクスピア/著福田恆存/訳新潮文庫
- 『こころ』夏目漱石/著新潮文庫
- 『ドン・キホーテ』セルバンテス/著牛島信明/訳岩波文庫
- 『銀の匙』中勘助/著岩波文庫
- 『別冊NHK100分de名著読書の学校齋藤孝特別授業「銀の匙」』齋藤孝/著NHK出版
- 『金閣寺』三島由紀夫/著新潮文庫
- 『東京オリンピック』講談社/編講談社文芸文庫
- 『詩のこころを読む』茨木のり子/著岩波ジュニア新書
- 『辞世の歌』松村雄二/著和歌文学会/監修笠間書院
- 『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル/著池田香代子/訳みすず書房
- 『ある明治人の記録会津人柴五郎の遺書』石光真人/編著中公新書
- 『謹訳源氏物語』紫式部/著林望/現代語訳祥伝社
- 『論語物語』下村湖人/著講談社学術文庫
- 『論語と算盤』渋沢栄一/著角川ソフィア文庫
- 『マンガ老荘三〇〇〇年の知恵』蔡志忠/作画和田武司/訳野末陳平/監修講談社+α文庫
- 『口語訳古事記[完全版]』三浦佑之/訳・注釈文藝春秋
- 『旧約聖書を知っていますか』阿刀田高/著新潮文庫
- 『新訳弓と禅』オイゲン・ヘリゲル/著魚住孝至/訳・解説角川ソフィア文庫
- 『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー/著原卓也/訳新潮文庫
- 『新版徒然草現代語訳付き』兼好法師/著小川剛生/訳注角川ソフィア文庫
- 『自由への大いなる歩み』M・L・キング/著雪山慶正/訳岩波新書
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