経営バランスが競争力を決定する
経営者にとっていちばん大事な仕事は、バランスを取ることです。
たとえば、月間十億円の売上があるとしましょう。
それだけの売上と、利益、人材、在庫などとがバランスを取れていないことには、経営はうまくいきません。
いくら月々十億円を売り上げても、利益がなくては人件費など経費を払えなくなるのは、小学生でもわかる理屈です。
ところが、現実のビジネスの中では、そういうことが往々にしておこなわれているので驚きます。
私の体験例を挙げると、現金卸を大々的にやっている仕入れ先があり、けっこう安かったために、わが社も取引をしていました。
てっきり現金で大量に買い取ることで仕入れ値をコストダウンしているのだろうと思っていたところ、ある日突然、その会社が潰れ、仕入れ値を切って卸していたという実情が明らかになったのです。
資金繰りが苦しくて禁じ手に走ったのでしょうが、売上と利益のバランスを崩せば、遅かれ早かれ倒産する運命にあったと思います。
売上と社員の人数・能力との関係も、バランスが大事です。
たとえば、十億円より百億円を売るには、それだけ能力の高い人が必要になりますが、会社は一度に大きくなりません。
売上が十億円から五十億円、百億円と順番に大きくなるに伴って、人も育ってこなくてはいけないのです。
役員会の席で、入社二十年目の営業担当が「私が入ったときよりも、売値が安くなりましたね。入社当時は五十円だった商品が、いまは四十七円で売っています。利益があるんでしょうか」というのを聞いて、私はハッとしました。
彼の言葉で、「自分たちが知らないうちに商品を安く売っている。会社が大きくなると、安くしないと商品は売れないんだな」と気づかされたのです。
売上十億円のときよりも安くしないと、五十億円の売上は達成できない。売上を百億円にするには、五十億円のときよりもさらに安くしないと達成できない。
ということは、売上の拡大に伴って、商品を安く仕入れる必要があるということになります。私は、その営業担当にいわれるまでまったく気づきませんでした。
商品をたくさん売るには値段を安くしないといけない。そのためには、経費を削減したり、生産性を上げないといけない。安く仕入れられる商品も買わないといけない。
「なるほど、商売とは難しいものだ」と改めて感じ入ったのですが、同時に、大きくなるにつれて人が育っていることを実感できました。
在庫も、たとえば流通センターで、最も多く出荷しているところが百億円、最低のところが五十億円で、適正が八十億円としましょう。
同じように電気、クーラーを使い、人数もかけているとして、最低の五十億円しか売り上げられない会社は人的効率が悪いといえます。
製造業では、一台の機械で適正が八億円として、 A社は十億円製造できるが、 B社は五億円、 C社は三億円しか製造できないとしたら、 A社以外は利益が取れません。
明らかにバランスに欠けています。
なかでも、経営者が最も重視しなければならないバランスは、社員が楽しく仕事をしているかどうかです。
人間の集団ですから、全員が満足することはありえませんが、不満のある人が多くなれば、不満のない人まで不満勢力のほうへ取り込まれます。
会社がさまざまな環境を整えて、楽しんで仕事をする社員の割合が、競合他社五%で、自社一〇%になれば、自社は勝てますが、逆の場合は勝てません。
つまり、このバランスが取れていればいるほど、競争に勝てる会社になるわけです。経営バランスは常に狂います。売上が上がったが、利益が伴っていない。売上も利益も上がったが、原料が上がって利益を圧迫してきた。
そういう狂いが生じたときに、バランスを取るのが経営者です。
時代環境の変化、社員の退職、原材料の乱高下、取引先の倒産などの予期せぬ事態が発生して、年中バランスが狂うために、次から次へと手を打ってそれを正常に戻さないといけません。
その経営バランスが競争力をつけるわけで、バランスの取れているところほどよい会社です。適正なバランスで経営をしていたら、会社はおのずとよくなっていきます。
それでも儲からなかったら、人より早く会社に出てきて仕事をすればよいのです。
朝早くに会社へ行って仕事をすると、いろいろな気づきがあります。ここはこうしないといけない。あそこは早く直さないといけない。
直すだけでなく、一年先はこうなり、五年先はこうで、十年先にはこうなるから、いまここをこうしなければならないというように、崩れかけているバランスを調整するだけでなく、将来に向けてのバランス計画も立てられます。
二十四時間寝る間もなく働いて、それでも儲からないというのなら話はわかります。しかし、たいていの会社はそうではありません。経営者が朝ゆっくり寝ていて、「儲かりません」と嘆いているところがほとんどです。
税金をきちんと払う会社は繁栄する
経営者は、国のインフラを使って事業をしています。物を運ぶのに道路や橋を使い、水道も使います。安心して商売ができるのも、治安を守ってくれる警察があるおかげですし、火事のときには消防にお世話になります。
いまは民営化されていますが、電信電話、鉄道ももともとは国がつくったものです。保険や年金などの福利厚生も、国の保障なしにはありえません。それらの財源はどこから来ているかといえば、国民の税金です。
国民がこれまで額に汗して働いて納めた税金で、国や自治体が道路を整備し、橋をかけ、水道を敷き、イザというときのための備えをしてきたからこそ、世の経営者はなに不自由なく商売に打ち込めるのです。
このように、国民の税金や共有財産を使って商売しているにもかかわらず、世の中には、何とか税金を減らそうとして、脱税や節税に知恵を絞る経営者が跡を絶ちません。
それは、自分さえ儲かればよいというエゴイスティックな考えです。
知り合いの経営者と東京までの新幹線に乗り合わせたときのことです。その人はいかにして税金を減らして自分の懐を肥やすかについて、その方法を得々と語っていました。
子会社を三つも四つもこしらえ、本体の利益をそこに付け回して税金の支払いを抑え、自分たち親族は子会社から給料を取る。
私は「よほどこの人は税金を払うのがイヤなのだなあ」と思いながら聞き流していたのですが、その会社は間もなくダメになりました。
税金を払うのが嫌いだという経営者の会社は、たいがい経営がうまくいきません。儲かれば、社員に分けるとともに、税金として国に納める。
国のお金が豊かになれば、道路も福祉も、もっとよくなります。それこそ、国のインフラを使ってお金儲けをさせてもらっていることへの恩返しといえるでしょう。
その恩を忘れて、私利私欲に走るから、会社が潰れる運命になるのです。私は、節税なるものをする必要はないと考えています。
節約すべきは税金ではなくて経費で、節約に徹して利益を出し、その利益のうち、三分の一を社員に還元し、三分の一を内部留保に回し、そして、残る三分の一を税金として納める。
たくさん儲けて国にお金を納めて、国や地方のインフラの整備が進み、進み、恵まれない人たちを支えることになれば、それこそ経営者としての誇りであり、喜びでしょう。
また、社員を雇い入れる以上、利益を出して全員の生活の向上や教育の充実を図っていくことが、日本の国力を高め、日本をよくしていくことになります。
日本では現在、黒字の会社は三割そこそこで、六割 ~七割の会社が赤字です。
これらの多くの赤字会社は、国や地方自治体のインフラを使って金儲けをしながら、法人税を一円も払っていないとはどういう了見でしょう。
一刻も早く利益の出る体質に転換して税金を払っていくことが、国に対する何よりの社会貢献です。
どこよりも早い決済でトクをする
お菓子業界では、二十日または月末で請求を締めたあと、六十日の支払手形で決済するところが大半です。
対して、わが社は締め後十日、十五日、二十日の三回で、毎月五日、十日、十五日、二十日、二十五日、月末の五回、五日ごとに分けて現金で決済します。手形はいっさい切りません。
請求書が月末締めで届いたなら、いちばん早い決済で翌月十日にはお金を振り込むわけで、先方が業界の慣例どおり「六十日で契約しましたから、それでけっこうです」といってきても、「わが社の規則ですから」とその決済原則を変えません。
お菓子は出荷してから、平均で一週間、長くても十日で売れます。そのうえ、お菓子の小売りは日銭商売です。
日々入金される現金を五日単位でプールして、その中から支払いに回せば、五日刻みの決済が可能になるわけです。
なぜそれほど早い決済に踏み切ったのかというと、後発の小さな会社だったため、メーカーなどの仕入れ先から信用を得るためには、どこよりも早く決済しようと考えたからです。
締め後十日の決済であれば、六十日手形に比べて五十日も早く入金されます。メーカーなどの仕入れ先はそれだけ資金繰りが楽になるため、大歓迎されたのはいうまでもありません。
わが社としても、早く支払えば、割り戻し(リベート)が早くもらえます。たとえば、「(メーカー、仕入れ先への)支払いが一カ月以内の場合、一%を割り戻す」という契約になっていれば、月々に一千万円の支払いがある場合、その一%の十万円が月内に戻ってくることになります。
ということは、一千万円支払うが、実質は九百九十万円でよいわけです。こうやって計算していくと、その翌月は九百八十万円、さらに翌々月には九百七十万円、十カ月したら九百万円ですむ勘定になり、百カ月後には一千万円が〇円になります。
もちろん、実際の支払いが〇円になるわけではありませんが、月々十万円のリベートを貯めておけば、一千万円の支払いがタダ同然になるのです。
預金金利が年率一%として、一千万円が倍になるには単純計算で百年かかります。低金利時代のいまは、さらに気の遠くなるような年月が必要です。毎月の割り戻しが一%あれば、年換算で一二%。
一千万円が倍になるには百カ月、十分の一の約九年しかかかりません。複利で計算すればもっと期間は短く、四、五年くらいで倍になるでしょう。
ウソのような数字のマジックで、銀行にお金を預けておくよりははるかに有利なため、入ってきたお金は月五回の決済日にせっせと支払うことにしたのです。
ある運送業者が、「取引先が締め後六十日でしか支払ってくれない」とこぼしていました。その間、ガソリン代、高速代などのほか、ドライバーの人件費がかかります。
運送業は人件費が半分以上を占めており、二十日に締めて、二十五日か月末には給料を支払わないといけません。
締め後六十日でもらっていたのでは、少なくとも一カ月の経費を立て替えないといけないわけで、資金繰りが大変です。
その運送業者に「吉寿屋さんは早くてありがたいです」と喜んでもらいましたが、私は、すべての支払いを締め後十日でできないか検討しています。
「十日では請求書を精査する間がない」と経理担当が難色を示していますが、請求書通りに支払って、間違っていたら翌月に精算するなど工夫すれば、できないはずはありません。
現に人件費は締め後十日以内に払っています。支払うまでの期間をそこまで短くしても、わが社は決して早いといえません。あるお得意先に、商品を納入するとその場で現金で支払ってくれる店があり、そこには負けます。
ちなみに、そのお得意先はいつもお客様でいっぱいの大繁盛店です。納品したら即キャッシュで支払ってくれるため、わが社のような卸売業者は、商品を買ってもらおうと思って大事にします。
売れ筋商品が集まりやすく、店にも活気が出て、それだけお客様を惹きつけるのです。わが社ももっともっと頑張らなければと思います。
払うのも、もらうのも現金
お得意先からの支払いは、原則、納品後最大で五十日以内です。契約のときに「支払い期限が早すぎる」と渋る先は、こちらから取引をお断りします。
返品の多いところと支払いの遅いところとは、絶対に取引をしません。もちろん、手形はなしで、現金で支払ってもらいます。
日々納品して、日々現金で入金があるからこそ、月に五回の決済が可能なのです。五十日以内の現金支払いにするのは、小売店のためにもなります。
お菓子という商品は、一週間以内に売れてしまいます。にもかかわらず、支払いをひと月後にすれば、二十三日間も現金を店にプールしておくことになります。
しかも、日々溜まっていくわけですから、悪くすると、そのお金を支払いに回すよりも、ほかに使ってしまうという気が起きないともかぎりません。
コンビニの本部では、チェーン店が一定の売上を上げたら、万札の入った金庫を引き上げるそうです。店長やオーナーが本部に納めるお金を自分のお金と勘違いしないためで、早く回収したほうが結局は店のためになるのです。
また、万一お得意先が倒産しても、二十日以内であれば被害が少なくてすみます。知り合いの業者に、卸し先の店が潰れて、四千万円ほどの負債をかぶったところがありました。
事情を聞くと、社内規定では締め後三十日の支払いだった条件を特別に六十日支払いにしていたそうです。
そのため、被害額が大きくなったわけで、「なぜ規定通りにしなかったのか」と経営者に尋ねたら、「たくさん買ってくれるので、変更の書類にハンコを押した」という話でした。
簡単に変えてしまうのでは、社内規定がないのと変わりません。一度こうと決めたら、たとえ親から頼まれても断固として断る強い意志がないといけないのです。
例外を一つでも認めると、「この店も仕方がない」「こちらもやむをえない」と例外が増えていき、倒産に引っかかってしまう結果になります。
いくら売上の多いお得意先でも規定を貫き、「もっと支払い日を延ばせ」と要求してくる相手とは、こちらから取引を断る勇気が必要です。
わが社では、それでも売上が下がったことはなく、今日までやってこられました。商売が成功するかどうかは、大きい会社であれ、小さい会社であれ、よいお得意先をどれだけ持つかです。
よいお得意先をたくさん持つほど業績はよく、さらに、そのお得意先が大きければ大きいほど、会社も大きくなります。悪いお得意先は、いつ、どうなるかわかりません。
そのリスクを避けるためには、一度決めた規定は断固として守り通すことです。わが社は「決済」も早いですが、「決裁」の早さもヨソに負けません。
部下が私のところに口頭や書類で決裁を求めにきたときに、「こうしないといけない」と思ったら、すぐに行動に移します。
大企業と違い、上の者がいちいち順番に書類にハンコを押す必要もないため、指示すべきことはすぐに指示し、手配すべきことはすぐに手配する。
現場(倉庫)へ行く必要があるなら、すぐに出かけていく。悠長にやっていたのでは命取りになりかねないからで、また、すぐにその場で決裁すれば忘れることもありません。
ものによっては、処理するのに時間のかかるものがあります。それでも決裁の一日の遅れ、一時間の遅れが大きな損失を生むだけに、即断即決が重要なのです。
あまりの仕事のスピードに、事務をしていた女性が「ついていけない」と辞めてしまいました。
以前は年商二千億円ほどの大手商社系販売会社で事務をしていたのですが、わが社ほどスピーディーではなかったそうです。その販売会社の業績が芳しくない理由がわかったような気がしました。
人に教えれば教えるほど湧き出てくる〝知恵の泉〟
私が、〝早起き経営学〟をテーマに本やビデオを出したり、講演をし、また、マスコミでわが社が紹介されたことで、いろいろな会社の経営者がわが社に見学に来られるようになりました。
もちろん快くお受けし、流通センターをご案内しながら、わが社の経営ノウハウについてすべてお話しするのですが、あまりに包み隠さずに教えるので、ある社長が感心したようにいわれました。
「会長みたいな方には初めてお会いしました。自分の知っているノウハウを秘密にせずに、何もかも教えてくださる。これまで、できるだけ隠そうとして生きてきた自分が恥ずかしい」と。
あまりの褒め言葉にすっかり恐縮したのですが、私がノウハウを一〇〇%公開するのは、どこの会社もよくなってもらいたいと願ってのことです。
たくさんの会社の業績がよくなって、税金をたくさん納め、たくさんの人を雇用し、社員の収入を上げてくれれば、国も国民もよくなります。
わが社だけが繁栄するよりは、私にはそのほうがずっとありがたいのです。また、自分の知っているよいところを隠していたら、それ以上の知恵は湧いてきません。人に全部教えることで、はじめて新しい知恵を生み出すことができるのです。
私は、これを〝井戸(泉)の原理〟と呼んでいます。私の子どものころは、まだ水道がそれほど普及していなくて、井戸で水を汲んでいました。井戸の中の水は、地下水が湧いているはずなのに溢れ出ることなく、常にある一定の量以上は増えません。
水は澱んだままですが、釣瓶で水を汲むと、その分量だけ新しい水が下から湧いて出て、水面はまた元のラインのところまで戻ります。
知恵も同様です。人に教えないで隠しておくと、頭の働きが悪くなって、新しい知恵は湧いてきません。
反対に、どんどん知恵を外へ出していけば、新たな知恵が次々と湧き出てきます。それどころか知恵は、いくら放出しても、決して枯れてしまうことはないのです。知恵は井戸の水と違って、むしろ加算されます。
現在は十の知恵を溜めているとして、そのうちの三つ教え、新たに三つの知恵が湧いたとしましょう。
元の十の知恵はなくならないため、「十 +三 =十三」の知恵が頭の中に蓄積されることになります。
次からは十三の知恵を教えられるわけで、そうやって知恵をどんどん増やしていくことができるのです。
松下幸之助さんも、自分がよいと思うことはいっさい隠したりせずに、広くオープンにされました。
〝経営の神様〟とうたわれるほど知恵の持ち主だったのも、自分の中に溜め込まなかったからではないかと思います。
【著者略歴】神吉武司(かみよし たけし) 1941(昭和 16)年、徳島県生まれ。
株式会社吉寿屋代表取締役会長。
1964(昭和 39)年に、大阪にて菓子卸業の店を創業。その後、小売にも進出し、「お菓子のデパートよしや」を展開。
2009年現在、関西を中心に、直営店 26店鋪、 FC店 70店鋪を運営する。業界ナンバーワンの利益率と在庫回転率を実現、他の業界からも注目される。
また、社員の励みとなるようなユニークな企画や報奨制度を次々と実施し、業界トップクラスの所得を目指す。
著書に『商いのこころ』(元就出版社)がある。
装幀 ◎印牧真和編集協力 ◎株式会社ワード
早起き力社員が幸せになり会社も伸びる最も簡単な方法著 者:神吉武司 Takeshi Kamiyoshiこの電子書籍は『早起き力』二〇〇九年三月三〇日第一版第一刷発行を底本としています。
電子書籍版発行者:清水卓智発行所:株式会社PHP研究所 東京都千代田区一番町二一番地 〒 102-8331 http:// www. php. co. jp/製作日:二〇一三年四月二十六日本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例外を除き、禁じられています。
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