イシュー分析とは何か
生産性を劇的に高めるためにもっとも重要なのは、第1章で述べた「本当に意味のある問題=イシューを見極めること」だ。
だが、これまで述べてきたとおり、これだけでは「バリューのある仕事」は生まれない。
イシューを見極めたあとは「解の質」を十分に高めなければならない。
解の質を高め、生産性を大きく向上させる作業が、「ストーリーライン」づくりとそれに基づく「絵コンテ」づくりだ。
この2つをあわせて「イシュー分析(またはイシューアナリシス)」と言う。
これは、イシューの構造を明らかにし、そのなかに潜むサブイシューを洗い出すとともに、それに沿った分析のイメージづくりを行う過程だ。
これによって最終的に何を生み出すのか、何を伝えることがカギとなるのか、そのためにはどの分析がカギとなるのか、つまりは活動の全体像が明確になる。
ストーリーラインと絵コンテは、検討が進むにつれてどんどん書き換えていく。
最初は、イシュー検討の範囲と内容を明確にするために使い、次の段階では進捗の管理やボトルネックの見極めに生きてくる。
最終段階ではプレゼンテーションや論文の仕上げに使い、全体のサマリーそのものになる。
検討プロジェクトがはじまったら、できるだけ早い段階でこれらの一次バージョンをつくる。
3、4カ月のプロジェクトであれば、最初の週の最後、遅くとも2週目のはじめには、「1週間目の答え(ワン・ウィーク・アンサー)」と呼ばれる第1次ストーリーラインをつくるというのが理想だ。
本章ではストーリーラインづくりとその進め方のコツについて紹介し、第3章では絵コンテづくりのコツを紹介する(図1)。
イシュー起点でストーリーを組み立てる
イシュー分析の第1ステップであるストーリーラインづくりについては、まず具体例を見てほしい。
かつて、僕は自分のブログで「日本の大学の財源問題」について書いたことがある。
内容は「現在、国内の大学が行っている統廃合やコスト削減は財源問題の解決策となるか」というものだ。
僕がはじめに仮説的に書いたのは、次のようなストーリーラインだ。
1日本の大学は主要大学であっても、根本的に資金が足りていない2日本の主要大学と海外のトップ大学との違いは、(一般に言われるような)学費や事業収入によるものではなく、巨額の投資収入・国からの助成等の構造的な収入構成による3投資・助成いずれにおいても、海外トップ大学は日本の大学とはまったく異なるレベルの資金規模とそれを取り込むしくみをもっており、それは簡単に追いつけるものではない4以上を踏まえると、現在日本の大学が行う業務改善や統廃合といった方法では、世界のトップ大学に伍す大学運営が実現できるとは考えにくい5海外のトップ大学並みの経済基盤をつくろうとすれば、大学の自主財源確保と国からの助成のケタ違いの増額を目標として設定し、そこに向けたロードマップを描くべき実際には、ここからさらに検証できる細かい要素まで落とし込んだが、ストーリーラインというもののおおよそのイメージはつかんでいただけるだろう。
こうした場合によく見るアプローチは、次のようなものだ。
1イシュー(この場合は大学の財源問題)に関するデータを集めまくり2データが出尽くした段階でその意味合いを考え3それを並べて、ストーリーを組む
このように個別の分析を進めて、検証結果を追加し、場合によっては「本当に全部のデータを集めたのか」という不安にかられ、データを取り直したりする。
だが、本書で紹介しているやり方はこれとはまったく逆だ。
劇的に生産性を高めるには「このイシューとそれに対する仮説が正しいとすると、どんな論理と分析によって検証できるか」と最終的な姿から前倒しで考える。
ストーリーラインづくりのなかにも2つの作業がある。
ひとつは「イシューを分解すること」、もうひとつが「分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てること」だ。
まずは「イシューの分解」について説明していこう。
イシューを分解する意味のある分解とは
多くの場合、イシューは大きな問いなので、いきなり答えを出すことは難しい。そのため、おおもとのイシューを「答えを出せるサイズ」にまで分解していく。分解したイシューを「サブイシュー」という。
サブイシューを出すことで、部分ごとの仮説が明確になり、最終的に伝えたいメッセージが明確になっていく。
イシューを分解するときには「ダブりもモレもなく」砕くこと、そして「本質的に意味のある固まりで」砕くことが大切だ。
たとえば、「卵の成分ごとの健康への影響」をイシューとした場合、サブイシューでは白身・黄身などの成分に分けた検討が必要になるだろう。
だが、ここでよくあるのが、ゆで卵をスライスするように同じようなサブイシューばかりを設定してしまうことだ。
確かにダブりもモレもないが、これでは何と何を比較し、何に答えを出そうとしているのかがわからない(図2)。
「そんなバカげたことがあるわけがない」と思われるかもしれないが、現実では、これに近い例をたくさん目にする。
「ダブりもモレもなく」という概念は「MECE」(こちらで詳説)という言葉で説明されることも多いが、こうしたものを学びはじめた当初は、本当に切り分けるべき構造に目配りができないことも多い。
「ある商品の売上をてこ入れしたい」という課題について検討しているとしよう。
「売上」を分解しようとすると、「個数×単価」「市場×シェア」「ユーザー数×ユーザーあたりの売上」「首都圏売上+関西売上+他地域売上」など、無数の切り分け方ができる。
どれも「ダブりもモレもなく」になってはいるが、それぞれの検討が同じ答えにたどり着くことは決してない。つまり、入口にあたる「切り分け方」を誤ると、その分析自体が行き止まりになってしまう可能性が高いのだ。したがって「本質的な固まりで」切り分けることはとても重要なポイントになる。
「事業コンセプト」の分解
イシューの分解について、例を挙げて考えていこう。
「新規事業コンセプトの有望なアイデアを検討する」というプロジェクトの場合、「事業コンセプト」自体が非常に大きな概念なので、このまま仮説を出してイシューを磨こうとしてもあいまいな仮説しか立てられない。
「事業コンセプトとは何か」と言うと、さまざまな考え方があると思うが、ひとつの考え方として次のようなものがあるだろう。
1狙うべき市場ニーズ2事業モデル事業コンセプトをこの2つの要素の掛け算と考えると、相互に制約は受けるものの、それぞれを独立したものとして扱うことができる。
具体的な仮説がない段階では、「市場ニーズ」のイシューは「どのような市場の固まり・ニーズを狙うのか」、「事業モデル」のイシューは「どのような事業のしくみで価値提供を行い、事業を継続的に成り立たせるか」となる(図3)。
この段階でもまだイシューの固まりが大きいので、答えを出すためにもう一段砕いていく。
「市場ニーズ」の場合は、
●どのようなセグメントに分かれ、どのような動きがあるか……ニーズ視点でのセグメンテーション・セグメントごとの規模と成長度
●時代的に留意すべきことはあるか……不連続的な変化の有無と内容、ユーザーのスイッチトレンドの有無と内容、国内外先端事例からの気づき
●具体的にどの市場ニーズを狙うべきか……取り得るオプション、競争視点からの評価・自社の強み、取り組みやすさからの評価
という3つのサブイシューにまで落とし込めば仮説が立てやすくなり、具体的な検討につなげることができる。
「事業モデル」も同じように分解していく(図3)。
イシューを分解する「型」これまでの話を聞いて、「イシューを分解するのは大変そうだ」と思われただろうか?幸いなことに、多くの典型的な問題の場合にはイシューを分解する「型」があり、それを使ってしのぐことができる。
先ほど紹介した「事業コンセプトの分解」も典型的な型のひとつだが、ビジネスの世界で使い勝手がよいのが、事業単位の戦略立案時に使う「WHERE・WHAT・HOW」と呼ばれる型だ。
内容はいたってシンプルで、
●WHERE…どのような領域を狙うべきか
●WHAT……具体的にどのような勝ちパターンを築くべきか
●HOW………具体的な取り組みをどのように実現していくべきか
という3つにイシューを分解して整理する。
なお、ここで言う事業戦略の定義は、
●市場を含む事業環境の構造的な理解に基づき
●自社の強みを生かした継続性のある勝ちパターンを明確にし
●一貫したビジネスの取り組みとしてまとめたもの
となり、このように明確に定義できるものは、それを基本としてイシューを分解することができる。
そのまま答えにならなくとも、何らかのヒントになることが多いだろう。
僕の科学における専門である脳神経科学の場合には、領域内の分類である、
●生理学的(機能)
●解剖学的(形態)
●分子細胞生物学的(しくみ)
という3つでイシューをざっくりと分解することが多い。
「ある病気の原因」を考える場合であれば、
●このような神経の働きの異常が起き(機能)
●このような神経系の変化をもたらし(形態)
●それにはこの遺伝子の変化が引き金になっている(しくみ)
といった感じだ。
多くの検討テーマでこのような分解するための型が存在するが、何より強力なのは「自分の視点を加えた型」をつくることだ。
新しいテーマに取り組むたびに、似たような過去の事例を集めて眺め、共通項をベースにして自分の気になる視点を加え、自分らしい型をつくっていきたい。
型がないときには「逆算」する
新規性の高い課題の場合、イシューを分解するための型がほとんどないこともある。
ビジネス分野の場合、こういう課題の解決のために専門のコンサルティング会社があったりするわけだが、常にこういう人たちに頼めるわけではない。
科学の研究の場合は、これに相当する存在自体がないだろう。
だが、このような場合もやりようはある。
たとえば、現在ではほとんど存在しないに等しい「電子商品券」という商品を開発しなければならない、という状況を想像してみよう。
ここでの電子商品券の定義とは「ネット上に価値が存在し、使える場所が限られている。また、人に贈答することが前提となる」というもので、いわゆる「電子マネー」とは異なるものだ。
まだ現実にはない商品なので、商品を構成する要素、つまりは枠組み自体がはっきりしない。
こうした場合には、第1章でも出てきた「最後にほしいもの」から考えてみる。
商品開発が課題であるこのケースでは、「最後にほしいもの」は「核となる商品コンセプト」だろう。
つまりは、1いつ・誰が・どのような場面で使うものなのか/なぜこれが既存の支払い手段より役立つことがあるのかというものだ。
これがはっきりしていないと話がはじまらない。
コンセプトの次に必要となるのは、2どのようなフィーとコストが発生し、どう役割分担するのか/どう採算を合わせるのか
という「エコノミクスの枠組み」だろう。
たとえば、クレジットカードの場合であれば「カード発行会社」「利用店舗増とメンテナンスをする会社」「電子的情報処理を行う会社」という3社が役割と費用を分担しながら業務を行っている。
電子商品券の場合には、価値を発行する機能を誰が担うのか、という見極めも必要だ。
機能を洗い出した上で、それぞれの機能をどの会社が担うのかを決める。
さらに、そうした枠組みだけではビジネスはできない。
3この枠組みに基づき、どのようにシステムを構築し、どのように運用するかという「ITシステム」の検討も不可欠だ。
1~3があれば、根本的な商品の「しくみ」はできるだろうが、これだけではまだビジネスにはならない。
しくみに加えて、4この電子商品券をどんな名前にして(ネーミング)、既存ブランドとどう関係づけるのか(ブランディング)/ロゴや基本デザインはどうするのか(デザインシステム構築)/全体をどのようにプロモートしていくのか(プロモーション)といった広範なマーケティング関連の課題が存在する。
さらに、これでも肝心なところが抜けている。
5使用店舗と発行場所の確定と拡大の目標を設計し、推進する「戦略的提携」6導入店へのオペレーションと本部のメンテナンス・サポート機能を整備する「店舗支援業務の設計」も必要だ。
こうして仮想的にシミュレーションをしてみると、この電子商品券のケースでは少なくとも6つの検討事項の固まりがあり、それぞれに答えを出すべきイシューがあることがわかる。
このようにして「最後に何がほしいのか」から考え、そこから必要となる要素を何度も仮想的にシミュレーションをすることが、ダブりもモレもないイシューの分解の基本となる。
イシューを分解する効用
イシューを分解し、課題の広がりを整理することには、次の2つの効用がある。
- 1課題の全体像が見えやすくなる
- 2サブイシューのうち、取り組む優先順位の高いものが見えやすくなる
先ほどの電子商品券の例をもう一度見てみよう。
課題の全体像については、イシューを砕いた結果、検討すべきことの広がりが見えてくる。何をどこまで検討すべきかが明確になり、それ以外のことについては心を痛める必要がないことがわかる。
また、優先順位については、「核となるコンセプト」づくりが最初に整理されるべき課題で、次に「エコノミクスの枠組み」があり、ほかの課題はそれができたあとに取り組めばよい、ということがわかる。
こうすることで、検討のフェーズをどのように設計するか、どのように人を割り振るべきかをイメージすることができる(図4)。
検討のフェーズが違うものが混ざっているときはそれを切り分け、現状でもっとも意味のあるイシューを明確にする。
分解してそれぞれに仮説を立てる
第1章で「仮説を立てること」の重要性について触れたが、仮説はイシューを分解したあとでも非常に大切だ。イシューを分解して見えてきたサブイシューについてもスタンスをとって仮説を立てる。見立て(仮説のベースとなる考え)があればそれに超したことはないが、なくても強引にスタンスをとる。あいまいさを排し、メッセージをすっきりさせるほど、必要な分析のイメージが明確になるからだ。
全体のイシューを見極めるときと同様に「フタを開けてみないとわからない」とは決して言わない。
第1章で説明したのでここでは補足に留めるが、事業戦略を検討する場合によく出るサブイシューとして「この先市場がどうなるか」というものがある。
これについても、「どういう視点でそのサブイシューが問題だと思っているのか」は実際に仮説を立ててみないとわからない。
●技術革新の影響を問題視している
●新規参入者が競争環境を揺さぶると考えている
●規模的な展望が一般に言われているものとは違
うと想定しているといったそれぞれのケースで、まったく異なる分析と検討が必要になるだろう。
MECEとフレームワーク
ここまで、「イシューを砕く型」について説明してきたが、問題を検討する場面ごとに重要な役割を果たす「MECE」と「フレームワーク」という2つの概念について説明しておきたい。
「イシュー見極めの情報収集」の場面や「イシューを分解する」場面で登場した「ダブりもモレもなく」という考え方のことをMECEという(図5)。もともと僕のいたコンサルティング会社の社内用語というべき言葉だったが、出身者たちの書籍などでだいぶ広まったので、ご存知の方も多いだろう。
そして、この考えを生かした汎用性の高い「考え方の枠組み」のことをフレームワークと呼んでいる。
フレームワークは、イシュー見極めの場面では網羅的な情報収集に役立ち、イシュー分解の場面では汎用性をもった「イシューを砕く型」として使うことができる。
たとえば、商品開発など、「事業」を主語とした検討であれば、「3C(顧客・競合・自社(*))」と言われるフレームワークからはじめるとうまくいくことが多い。
例を挙げてみよう。
●顧客…新しい市場セグメントから見えてくるこのニーズの固まりは大きく、現在の主力商品ではカバーできていないために潜在的な不満は大きい
●競合…このニーズの固まりは、競合の注力領域から見ると当面は実質無競争になりそうだ
●自社…この領域は自社事業とのシナジーも大きく、商品のつくり込みにおいて強みが生かせる
というかたちでイシューを分解し、ストーリーを組んでいく。
もちろん、適切なフレームワークがない場合もあるが、イシューを支えるサブイシューを片っ端から洗い出し、同じくらいのレベル感で束ねることでフレームワークと同じように使えるようになる。
サブイシューを洗い出す際には「何がわかればこの意思決定ができるか」という視点で見る。
モノづくりにおける「設計・調達・製造・出荷前テスト」のように順に起こるものであれば、時系列に沿って要素を洗い出す、というのもやり方のひとつだ。
いずれにせよ、「ダブりもモレもない=MECE」の考え方を使い、特にこのイシューを分解してロジックを組む段階では「モレなく」の考え方を大切にする。
科学にもビジネスにも、ある程度確立したフレームワークがいくつもあるが、ストーリーラインづくりに使えるものはそれほど多くはない。必要に応じて学び、使い分けていけばよい。
また世の中によく知られているフレームワークだからといって、必ずしも自分の取り扱うテーマに役立つとは限らない。
危険なのは、フレームワークにこだわるあまり、目の前のイシューを無理やりそのフレームにはめ込んで本質的なポイントを見失ってしまう、あるいは自分なりの洞察や視点を生かせなくなってしまうことだ。
冒頭にも書いた「カナヅチをもっていればすべてのものがクギに見える」という状況になってしまっては本末転倒であり、このような状態になるくらいならフレームワークなど知らないほうがよい。
マッキンゼーの大先輩である大前研一が生み出した前述の「3C」であれ、前に紹介したハーバードビジネススクール教授のマイケル・ポーターが生み出した「ファイブ・フォース」であれ、どんなに有名なフレームワークであっても万能なわけではないことは、いつも頭のどこかに置いておきたい。
*3C:Customer,Competitor,Companyを表す
ストーリーラインを組み立てる
イシューを分解し、そのサブイシューに個々の仮説が見えれば、自分が最終的に何を言わんとするのかが明確になる。
ここまでくればあと一歩だ。
イシュー分析の次のステップは、分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てることだ。
分解したイシューの構造と、それぞれに対する仮説的な立場を踏まえ、最終的に言いたいことをしっかり伝えるために、どのような順番でサブイシューを並べるのかを考える。
典型的なストーリーの流れは次のようなものだ。
1必要な問題意識・前提となる知識の共有
2カギとなるイシュー、サブイシューの明確化
3それぞれのサブイシューについての検討結果
4それらを総合した意味合いの整理
一連のプレゼンテーション、あるいは論文に必要な要素を整理して、流れをもった箇条書きの文章として統合していく。
ストーリーラインが必要となる理由は2つある。
第1に、単に分解されたイシューとサブイシューについての仮説だけでは論文やプレゼンにはならない。
たとえば、イシューの分解の際に紹介した「事業コンセプト」の例の場合、事業の狙うべき市場ニーズはこれ、それを取り込むための事業モデルはこれ、という結論だけ述べても相手を説得させるだけのストーリーにならないことは明らかだ。
第2に、ストーリーの流れによって、以後に必要となる分析の表現方法が変わってくることが多いためだ。人に何かを理解してもらおうとすれば、必ずストーリーが必要になる。それが研究であれば論文の流れであり、ビジネスであればプレゼンの流れだ。
まだ分析も検証も完了していない時点で、「仮説がすべて正しいとすれば」という前提でストーリーをつくる。
どういう順番、どういう流れで人に話をすれば納得してもらえるのか。さらには感動・共感してもらえるのか。それを、分解したイシューに基づいてきっちりと組み立てていく。
事業コンセプトのストーリー
ストーリーラインの組み立てについて、具体的に考えてみよう。
こちらで挙げた「事業コンセプト」の例であれば、次のようなストーリーが必要になるだろう。
▼1問題の構造
●解くべき問題は「狙うべき市場ニーズ」「事業モデル」という2つの掛け算
●現在はどちらもあいまいで、個別の見直しが必要
▼2狙うべき市場ニーズ
●ニーズの広がり
●時代のトレンド、不連続的な変化が起きている(トレンド・競争環境)
●自社の強みが生きるセグメントは……(以上を踏まえた狙いどころ)
▼3事業モデル
●この分野で取り得る事業モデルは5つ(取り得るモデルの広がり)
●収益の上げやすさ、自分たちの強みの生かしやすさから見ると、取るべきはモデルAもしくはB(適性度の高いモデル)
●モデルA・Bでそれぞれのカギとなる成立条件は……
▼4事業コンセプトの方向性
●狙うべき市場ニーズと狙うべき事業モデルを掛け合わせると、有望な事業コンセプトは次の4つ(有望なコンセプト)
●それぞれのコンセプトの具体的なイメージは……
脚本・ネームづくりと似ている
ストーリーラインづくりは映画やアニメーションの脚本づくり、あるいは漫画のネーム作成(筋書きとラフなイメージをまとめること)に近いプロセスだ。
脚本家も漫画家も新しいものを生み出す過程では七転八倒すると言うが、圧倒的な生産性を目指す私たちもここで知恵を絞り抜く。
ディズニー/ピクサーのアニメ映画に『インクレディブル』というものがある。
そのメイキング映像にある制作チームの言葉が印象的だ。
「脚本を書き上げないと、前に進めない」「面白い場面を思いつくことがある。
でも、その場面だけが面白くても意味がない。
前後の流れが重要なんだ」「作品にとっていちばん大切なのは、(アニメであっても)やはりストーリーなんだ。
動きを細部まで把握して、ストーリーを段階的に区分する。
それから映像づくりに取りかかる」──マーク・アンドリュース(ストーリー監修)「脚本を書くのは本当につらい。
はじめは何もない。
だが一度ストーリーが生まれると、あとは勝手に膨らんでいくんだ」「場面の中心になる事柄を強調して、ほかは省略するんだ。
リアルに書けばいい、という単純な話ではない」──ブラッド・バード(脚本/監督)(筆者編)どうだろう?実に似た話ではないだろうか。
ストーリーラインの役割
できる限り前倒しでストーリーラインをつくると言うと「決め打ちですか、ここでたいしたアイデアが浮かばなければ終わりということですね」と言う人がいる。
だがこれは大きな誤解だ。
ストーリーラインは検討が進み、サブイシューに答えが出るたびに、あるいは新しい気づき・洞察が得られるたびに、書き換えて磨いていくものだ。
問題を検討するすべての過程に伴走する最大の友人、それがストーリーラインなのだ。
それぞれのフェーズにおけるストーリーラインの役割をもう一度まとめてみよう。
▼立ち上げ段階
この段階においては、何が見極めどころ(カギとなるサブイシュー)であり、一体何を検証するためにどのような活動をするのか、という目的意識を揃えるためにストーリーラインが活躍する。
ストーリーラインこそが検討の範囲を明確にする。
これが早期にできるとチームの活動のブレがなくなり、活動の分担もしやすくなる。
▼分析・検討段階実際に分析を進める段階に入ると、ストーリーラインの重要性はさらに増す。
ストーリーラインを見ることで、イシューに対する仮説の検証がどこまでできているのかが明確になる。
ストーリーラインは分析結果や新しい事実が生まれるたびに肉付けし、刷新する。
また、チームミーティングの際にも使えるツールとなる。
▼まとめの段階この段階まで来ると、ストーリーラインは最終的なプレゼン資料、論文を取りまとめる最大の推進装置になる。
そして、これがビジネスのプレゼンであればサマリー、論文であれば最初の要約のベースになる。
この段階では、言葉の明晰さと論理の流れが決定的に重要になるが、その磨き込みのためにもストーリーラインは不可欠だ。
「決め打ち」的な考えとは、ほど遠いことを理解していただけるだろう。
ストーリーラインは生きものであり、分析もデータ収集もすべてはこれにしたがう「しもべ」に過ぎない。
ここで明確な言葉にできない考えは、結局のところ人に伝えることができない。
漠然としたアイデアしか浮かばない人は、主語と動詞を明確にし、一体自分は何を言おうとしているのかを箇条書きで明確にする「イシューと仮説出し」を日々行うことをお薦めする。
これを整理することがストーリーラインにつながり、自分とチームの活動の指標となる。
ストーリーラインの2つの型
「これをベースにストーリーラインをつくってくれ」と言われても「?」となる人が多いと思う。
ただ、イシューを分解する作業と同様に、ここでも洗練された「型」があるので安心してほしい。
問題解決は現場で練習を積まなければできるようにはならないが、そのコツやポイントは知っておくに越したことはない。
そういった意味では自転車に乗る練習などとよく似ている。
論理的に検証するストーリーをつくるとき、そこには2つの型がある。
ひとつが「WHYの並び立て」、もうひとつが「空・雨・傘」と呼ばれるものだ。
このどちらかの型をストーリーの背骨とすることで、ストーリーラインは比較的簡単にできる。
▼「WHY」の並び立て「WHYの並び立て」はシンプルな方法だ。
最終的に言いたいメッセージについて、理由や具体的なやり方を「並列的に立てる」ことでメッセージをサポートする。
場合によっては手法を並び立てることもある。
たとえば、「案件Aに投資すべきだ」と言いたい場合、少なくとも以下の3つの視点が必要になり、それぞれの「WHY」を並べ立てる。
1「なぜ、案件Aに魅力があるのか」……市場あるいは技術視点での展望・成長性、経済的な想定リターン、相場から見たお買い得度、不連続的な経営リスクの有無とレベル感など2「なぜ、案件Aを手がけるべきなのか」……関連事業におけるその案件のもたらす価値、スキル・アセット・スケール、あるいはその他の競合優位性、参入障壁の生み出しやすさなど3「なぜ、案件Aを手がけることができるのか」……投資規模、投資後のハンドリングの現実性など「第1に、第2に、第3に、というタイプの説明」と言えば理解しやすいかもしれない。
ここでも「あの論点はどうなっているんだ」と意思決定者や評価者から攻撃されることを防ぐために、重要な要素を「ダブりもモレもなく」選ぶようにする。
▼空・雨・傘もうひとつのストーリーラインづくりの基本形は「空・雨・傘」と呼ばれるものだ。
多くの人にとってはこちらのほうが馴染みやすいのではないかと思う。
●「空」……◯◯が問題だ(課題の確認)●「雨」……この問題を解くには、ここを見極めなければならない(課題の深掘り)●「傘」……そうだとすると、こうしよう(結論)というようにストーリーを組んで、最終的に言いたいこと(ふつうは「傘」の結論)を支える、というかたちだ。
僕らがふつうの日常会話で使っているのはほとんどこのロジックだ。
ちなみに先ほどの「事業コンセプト」検討の例もこのかたちになっている。
今日出かけるときに「傘をもって出るべきかどうか」というのは、私たちの日常において日々起こるイシューだが、これに答えを出そうとすると、●空……「西の空がよく晴れているな」●雨……「今の空の様子では、当面雨は降ることはなさそうだ」●傘……「だとすると、今日傘をもっていく必要はない」というような流れで判断するだろう。
それをまとめたものだ。
この「空・雨・傘」で議論
する場合、多くは、「雨」の部分で見えてきた課題の深掘りがどこまでできるかが勝負どころとなる。
「WHYの並び立て」であれ「空・雨・傘」であれ、最終的に伝えようとしていることを、いくつかのサブ的なメッセージによって支える構造をしているため、ビジュアルで表現すると図8のようにピラミッドのかたちになる。
この「ピラミッド構造(ピラミッドストラクチャー)」は、「WHYの並び立て」や「空・雨・傘」のようにロジック構造を生かし、結論とそれを支える要点を短い時間でクライアントに伝えるためのコミュニケーションスキルを名づけたものだ。
逆に言えばそれだけのものなので、このように話を構造化して伝えることができているならば、気にするほどのものではない。
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