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第4章エグゼクティブリーダーの「伝える力」

「吾日に吾が身を三省す。人の為に謀りて忠ならざるか、 朋友と交わりて信ならざるか、習わざるを伝えしかと」──『論語』

目次

思いを言葉に乗せる

この章からは、エグゼクティブリーダーとなるための具体的な方法を解説していきます。

伝える時に意識すべき三つのこと

相手に「こうしてほしい」と思って言ったことが正しく伝わっていない。十分に話をして、理解したと言っていたのに、何も理解していない。

このようなケースに腹を立て、相手の理解力のなさを責めてしまいたくなることもあります。

しかし、少し伝え方を工夫するだけで、簡単に相手の理解を促し、円滑なコミュニケーションを築くことができるものです。

この章では、私が実践してきた「伝えるためのひと工夫」を紹介したいと思います。チームでの仕事が成功するカギは、「伝える力」に大きくよります。

人間関係を円滑に運ぶためのコミュニケーションだけではなく、「仕事内容を正しく理解してもらう」「ビジョンを共有する」「部下のモチベーションアップ」など。

エグゼクティブリーダーには、正しく仕事を指揮し、会社の理念やビジョンを皆で共有し、ゴールに向かって意欲をもって取り組んでもらうための、リーダーに必要な「伝える力」が求められます。

リーダーに必要な、といってもプレゼンテーションがうまくて、話題も豊富で、カリスマ的な魅力に溢れた話術を身につけろということではありません。

もちろんそれに越したことはないですが……。スティーブ・ジョブズのようなプレゼン術は、誰にでも簡単に身につけられるわけではありません。

次の三点を、まずは意識することです。

  • 話をするための準備は周到に
  • 思いを正しく伝えるために、わかりやすい言葉を選ぶ
  • 相手の立場になって内容を考える

話をするための準備は周到に

私は仕事柄、壇上に立って多くの人前で話をさせていただく機会があります。しかし、実をいうと私は人前で話すのがあまり得意ではありません。

ですからいつも、事前に原稿を用意しておきます。あらかじめ話す内容を考え、原稿として手元に準備しているだけで心が落ち着くからです。

また、話す前に事前に情報を収集し、状況をシミュレーションしておくことも大切です。

どのくらいの人数が来るのか、何を期待して集まる人か、壇上には演台があり、原稿を置く場所があるのか、当日の状況を事前に確認しておきます。

このように、私が事前に準備を周到に行えるようになったのには、ある一つの失敗があるからです。

アトラスの社長時代、ゲーム機の新作発表会に、ソフト会社を代表してメインスピーカーとして招かれました。

スピーチの内容は事前に原稿を用意していたので、原稿を演台に広げて置き、言葉に詰まった時にはそれを読めば良いと安易に考えていました。

しかし、名前を呼ばれ、いざステージの上に立ってみると、そこには原稿を置く場所などどこにも見当たりません。

舞台に上がると何十人もの記者から一斉に焚かれたフラッシュの眩しい光で、頭の中は文字通り真っ白。何を話したか今でも思い出せないほどの最悪なスピーチとなってしまいました。

それ以来、人前で話す時は、常に事前に原稿を用意して、プレゼン環境の情報を収集し、聴衆者についても事前にチェックするようになりました。

今では、スピーチをしている最中に、原稿を見ることは、ほとんどなくなりました。人前で話すことは、数をこなせば必ず慣れます。慣れるまでは事前準備と情報収集。

慣れてきたら、次はどのようにスピーチを行えば、心から耳を傾けて聴いてくれるようになるのかを考える。

最初からいきなり、うまいスピーチをしようなどと気負わず、一つひとつステップアップする気持ちで取り組むことです。

思いを正しく伝えるために、わかりやすい言葉を選ぶ

言葉選びの重要性を感じたのも、アトラス時代でした。初めて社長になった時の、社員へ向けての社長就任演説。

当時のアトラスはプリクラブームが過ぎて不良資産を多く抱えて、三期連続の赤字で会社は厳しい状況でした。

士気も下降気味な今こそ、社員の人たちにビジョンを伝え、今までとは違うアトラスに生まれ変わるのだという意識と意欲をもってもらいたいと、張り切って演説に臨んだのです。

そこで、私がどのように改革していこうと考えているのかを伝えるために出てきたのは、ビジネススクールで学んだ知識や専門用語でした。

「これからはキャッシュフロー経営を重視し、資金の流動性を担保する、株主を意識した企業価値経営に取り組む……」。

これまで学んだことや経験を活かし、この会社を立て直すんだという意気込みを演説内容に込めてスピーチしたつもりでした。

しかし、目の前で聴いている一〇〇名ほどの社員からは、何の反応もありませんでした。

私のメッセージは、何も届いていなかったのです。完全な失敗でした。私はハッとしました。キャッシュフローだ、株主価値だと話をしたところで、社員一人ひとりの心には何も届かない。

もちろん、それらは社長として意識しなければならないことですが、そんなことでは人は動かないのです。普段プリクラやゲームソフトを開発している社員の皆さんにはそぐわない内容でした。完全な独りよがりの演説でした。

それよりも、その時私に求められていたのは、どんな気持ちで社長に就任したか、そのうえで、これからどのように改革しようとしているのか、会社としての新しいビジョンは何かという思いを語ること。

難しいビジネス用語より、自分の思いを言葉に乗せて伝えることが必要だったと思います。

それからいつも、自分が話を聞く立場だったら、何を聞きたいのか、どんな言葉遣いだったら相手に伝わるのかを意識するようになりました。

トップはいかにメッセージを発信するか

相手の立場になって内容を考える

その失敗もあり、ザ・ボディショップでの社長就任演説の前は入念に準備を行いました。

創業者であるアニータ・ロディックの著書『 BODY AND SOUL ボディショップの挑戦』(杉田敏訳、ジャパンタイムズ社)を何度も読み返し、会社の理念と歴史を自分なりに理解しました。

さらに、店舗訪問も繰り返し、社員ともじっくりと話をしました。顔を向き合わせて話をすることで、数字からは見えない問題にも気づくことができたのです。

一時期は一〇〇億円にも迫る勢いだった売り上げ高は、当時は六七億円まで落ちていました。

社内の雰囲気にも、どことなく重たいムードが漂い、人間関係にも支障が出ているように見えました。

ザ・ボディショップでの就任演説の内容を考える時、店舗訪問で会い、話をしたスタッフ一人ひとりの顔を思い浮かべました。

どのような話をしたら、彼女たちが明るく、楽しく、誇りをもって仕事をしようと意欲を取り戻してくれるのかを一所懸命考えました。

そこで、社長就任演説の時にお話ししたのが、「七つのお願い」です。

  1. 一緒に働ける縁を大切にしましょう
  2. ともに人間成長しましょう
  3. 社長が交代しても具体的な行動を起こさなければ何も変わらない。
  4. 「一人ひとりが変革に参加する」気持ちで、会社を良くしていきましょう
  5. 社長ではなくお店を見て仕事をしましょう。
  6. お店重視・小売の原点に戻って仕事を振り返りましょう
  7. 自分の大切な友人を自宅に招く気持ちで接客しましょう 創業の原点に戻り、バリューズを大切に。
  8. 常にフィードバックシステムを仕事に取り込みましょう( PDCAサイクル)
  9. ブランドはお約束。ザ・ボディショップが目指すブランドにすべての仕事が有機的につながるよう、細部にこだわりましょう

文章も洗練されていないし、ビジネススクールで学ぶような専門的な言葉は、何一つ使われていません。

聞けば誰もがわかる内容です。私が心から思った気持ちを素直に話しました。

しかし、皆この言葉を待ち望んでいました。ザ・ボディショップが好きで、アニータの理念に憧れて集まってきた人がほとんどです。

しっかりとビジョンを共有し、何が大切なのかを共に再確認することができれば、絶対に会社は元気になると願ってスピーチをしました。話をしている最中、何人かが泣いていました。

ザ・ボディショップにかける思いを、「それでいいんだよ。みんなで一緒に頑張ろう」、そう背中を押された気持ちになってくれたからだと思います。

実際に、この「七つのお願い」以降、いろいろな改革を断行し、お店の皆さんも活き活きと仕事をしてくれるようになりました。

お店のスタッフの明るい笑顔は、売り上げアップにもつながりました。従業員満足度もわずか一年で調査会社が驚くぐらいに改善されました。心を込めて一人ひとりがわかりやすい言葉を選ぶ。それが人の心に響き、原動力となるのです。

本音の話し合いは「一対一」が基本

エグゼクティブリーダーとして、社内の現状を正しく知るためには、やはり社員とのコミュニケーションが欠かせません。

そして、相手の本音を聞くためには、やはり一対一の面談が基本です。

面接などでインタビューを二、三人のグループで行うことがありますが、やはりどうしても隣の人が気になってしまい、本音を話しにくくなります。

時間的な制約がある時など、どうしてもグループでまとめてインタビュー、という発想となってしまうことがあります。

しかし私はどの会社でも社長就任前に時間を作り、できるだけ多くの社員と一対一で面談をしました。複数の人と同時面談を行うほうが、断然ラクです。

一対一では、五〇人に会えば五〇回の同じ自己紹介をしなければなりません。

しかし、どんなに手間で時間がかかっても一対一を基本にしていたのは、相手に心を開いて話をしてもらいたいと思っていたからです。

一対一だと、「ここだけの話」もしやすいですし、会社の問題点や個人的な悩みも言いやすい。何人もの社員の話を聞いていると、やはり重なる問題が見えてくるのです。その問題を一つの仮説として、次に会う社員には、その仮説を投げかけてみる。

「いろいろな人に話を聞いていてこう感じたのだけれど、あなたはどう思いますか?」と聞いてみるのです。

すると必ず意見が返ってきます。その「仮説 →検証 →新たな仮説」のサイクルを続けていくと、仮説の精度と解決方法が見えてきます。

皆が発している言葉一つひとつに耳を傾け、その中から本質的な問題を見つけ出すことが、エグゼクティブの大切な役割です。

真の問題点を把握すれば、自ずと解決策も浮かんでくるものです。

本をプレゼント

また、ちょっとしたことですが、「この人を育ててみよう」と思う人には本をプレゼントしていました。

本は、いつも思い立った時に買うようにしています。後で買おうと思ってもついつい忘れてしまうことが多いからです。そのせいか、買った本を家に持って帰ると、同じ本があることがよくあります。

でも、私が二冊、三冊と買っている本は、私が読みたいと思って買った本なので、やはり良い本なのです。

そういった本を、「これ、間違って二冊買ってしまったので、ちょっと読んでみたらどうですか?」と言ってプレゼントしました。そのほうが、受け取るほうも受け取りやすいだろうと思います。

ザ・ボディショップでも、スターバックスでも、期待している人材には、このようなこともしていました。

今、トップとしてどんなことに関心があるのかを伝えるメッセージともなります。

マネジメントレター

できるだけ多くの社員やパートナーに会おうと努力はしていましたが、その時間を確保するというのは、現実的にはなかなか難しいものです。

当時ザ・ボディショップは全国に一七五店舗。スターバックスは、すでに九〇〇店舗。今日では、一〇〇〇店舗を超えました。

全国にこれだけ店舗数のあるお店を、実際に一店一店回ることはできません。

そこで私は、スターバックスのパートナー全員に、会社の状況、私の考え、会社の方向性を伝えるために、マネジメントレターを書いていました。

このマネジメントレターは、アトラスで社長になった時代から八年間続けていました。

もし私自身がお店のスタッフだったら、「離れ小島」にポツンといるような気持ちではないか、きっと会社のいろいろな情報が欲しいと思うはずだと感じたのです。

社長は何を考えているのか、自分たちはどこに立っているのか、自分たちはどの方向に向かっているのか。

小売業の一番大切な場所は店舗です。そこで頑張ってくれているスタッフたちにも会社の様子を伝えて、情報共有しようと考えました。

ザ・ボディショップの時は週に一回、スターバックスの時は月に一回、そこに臨時発行などもプラスして合わせて月二回ほど。

ザ・ボディショップでは、毎週月曜日の朝礼でお話しする内容を日曜日の夜に書き、それを同日中に各店舗にマネジメントレターとして配信していました。

原稿として、だいたい三〇〇〇字、スターバックスの時は、だいたい一八〇〇字ほどでした。

内容は、会社の現状やその取り組み、時には日々の小さなできごと、会社のミッションにふれることもありました。

原稿を書く際に、自分がお店のスタッフだったらどんな内容の話を聞きたいかを真っ先に考え、次に社長としてどのようなメッセージをみんなに伝えるべきかを考えていました。

ザ・ボディショップではアニータの創業の理念を振り返った話を綴ってみたり、スターバックスでは、「一杯のコーヒーを通じて人々に活力を与える」というミッションの素晴らしさを改めて投げかけてみたり。

その他、会社の業績や新商品の情報、お客さまからのお褒めの言葉、アメリカ本国から来日するマネジメントの人たちの情報を取り上げました。

一番の人気は、「今週のひと言コーナー」でした。私が読んだ本の中から気に入った言葉を書き出し、仕事に絡めたコメントを添えていました。

マネジメントレターは、店舗のパソコンでも読めましたが、たいていはプリントアウトして、バックルームの壁に貼られていました。

お店に行くと、「社長、読みました!」「スタッフのみんなと話し合いました」などと言ってくれました。時には、みんなで読んで涙しましたという声もありました。

マネジメントレターを本当に楽しみにしてくれていることを実感しました。私が社長に就任する半年前、リーマンショックが起こり、その影響を受けたスターバックスは、私が社長となった後も売り上げが下がり続ける状態が続きました。

社内外からのプレッシャーを感じました。それでも私は目先のことではなく、スターバックスのミッションの素晴らしさを伝え続けました。

マネジメントレターへの反響は大きく、多くのパートナーから、「自分たちが大事にしていたことに立ち戻れました」という声をたくさんいただきました。

マネジメントレターは、私にとって重要なコミュニケーションツールとなっていました。最近、ある大手商社の子会社の社長と「社長からの手紙」についてのお話をしました。

「私も二〇〇回以上出している!」とおっしゃいました。拝見したところ非常に格調高い文体で日本経済や世界情勢などが書かれていました。しかし社員の人たちが果たして本当に知りたがっている内容なのか疑問に思いました。

マネジメントレターには、「いいこと」から書く

内容を考える際にとても意識していたことがあります。それは、必ず「いいこと」から書くということです。

社長は理想が高いので、ともすると会社の問題点ばかりが目につき、苦言ばかりになってしまうことがあります。

だからこそ、意識をして、いいことやみんなが元気になることを伝えるようにしていました。またスターバックスでは、会議の冒頭にレコグニションをしていました。レコグニションとは、認めたり、賞賛すること。

「新店舗で、タンブラーが二〇〇個も売れました」「 A店で、こんな売り上げを達成しました」など、みんなが聞いて嬉しい話題を共有するのです。

人は、認められたり褒められたりすると、さらに意欲が増すものです。「いいこと」を日々探しながら、認めるクセをつけることをお薦めします。

会議の時、良い話を聞いて明るい気持ちになって意思決定をすれば、そうでない時に比べ、四〇パーセントもの正答率が上がるという記事を読んだことがあります。自分の言葉が、周りの人々の良い活力となるように心がけることが大切です。

マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド

現場を直接歩き回り、管理をするという実務重視型の経営手法として解説される「マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド( MBWA)」。

私は、社長室で一人煮詰まってしまった時など、よく実行していました。現場視察だ、などと気負わずに何気なく社内を歩いてみるのです。歩いていたら、声も掛かるし、歓待してくれる部署もある。

「どう、元気?」などと会話を始めると、こちらも楽しくなります。また、社内で打合せやミーティングをしていたら、突然入って話を聞いてみる。

「あっ、社長」とみんなびっくりして会議を中断してしまうのですが、「気にせず続けて続けて。私はこちらの端のほうで聞いているから」ということも時々していました。

そうすると、ちょうど良いので、社長の意見も聞いてみたいと振られることもあります。普段自分が考えていることをみんなに知らせることのできるとても良い機会になりました。

また、店舗訪問も時間の許すかぎり、できるだけ行いました。スターバックスでは、アルバイトが中心のパートナー全員に、充実した研修トレーニングを行っています。

お店に顔を出すと、若い人たちが、ちょうどトレーニングを受けていることがよくありました。

トレーニング後に、「社長、ひと言しゃべってくださいよ」と言ってくれることもあるので、五分、十分ほど、「今はこんなことを考えているんですよ」と話すことも何度かありました。

社長の話を直接聞く機会のほとんどないお店のパートナーは、それだけで喜んでくれるのです。時間ができれば社内や現場を歩き回り、顔を合わせるだけで必然的に会話が生まれます。社員に話をするきっかけとなるだけでなく、そこから大切な情報を得ることもありました。

現在エグゼクティブ・コーチングを行っている会社の社長にも、マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンドを薦めたことがあります。

ある社長と経営課題や人事についての話をしたあとに、彼がぽつんと漏らしたことがありました。社内の女性たちと、どのようにコミュニケーションを取ったら良いのかわからない、ということでした。

ハンサムで格好のいい好青年ですが、それほど女性の扱いが得意ではないのでしょう。私は、まずは挨拶とお土産ですよとアドバイスしました。

あとは、セクハラにならない範囲で、相手に関心を持つこと。そして、社内をふらふらと歩きながらいろいろな人と何気ない会話をすることを薦めたのです。

たぶん、今も続けているでしょう。マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンドの実践は、大切なコミュニケーションの機会になりますし、みんなからも元気をもらえる最高の方法です。

伝えたければ、まず聞きなさい

部下に「経営者意識」をもたせる

業績を高めるためには、社員一人ひとりに「経営者意識」をもってもらうことが大切です。「経営者意識」の対極にあるのが「サラリーマン根性」。

サラリーマンは何をしていても給料日に給料が振り込まれている。結局はすべてが他人事だし、会社で使うお金は自分のお金ではないから、平気で無駄遣いをする。

「どうせ人のお金」「クビにさえならなければいいや」、そんな意識のことです。

しかし、自分が借金して設立した会社で、リスクを取って事業を行っていると考えると、一つひとつの仕事により真剣みが増し、無駄なお金は一円たりとも使いたくないと思うものです。

経営者意識をもってもらうことはとても重要ですが、ではどのようにもってもらうのかというと、これは難しい。

「経営者意識をもて」と言葉で伝えるだけでは、その実感をもってもらうことは無理でしょう。社長と副社長でさえ、天と地ほど差があるといわれている所以です。

経営者と同じような気持ちになってもらうには、責任と権限をセットで与えなければなりません。

スターバックスの時も、一〇〇〇人近くいる店長さんたちに、いかに経営者意識をもってもらうかというのは、とても重要なポイントでした。

たとえば小さなことですが、店舗作りに店長さんの声をできるだけ反映するようにしました。新しく出店する店舗は、だいたい約一年前から計画がスタートします。

その間に、できるだけ早く店長さんを決定し、内装やレイアウトなど、新店舗に対する意見をたくさん聞くようにお願いしていました。

そうすることで、「私が作ったお店」という意識を店長さんに少しでももってもらいたいと思いました。

店長さんも、「カウンターはここに」「コンセントはここにつけて」という意見を言うことにより、「私のお店」という参画意識が芽生えます。

相手の意欲を引き出すためには、こちらが一方的に伝えるだけではいけません。部下である相手の意見を引き出し、まずは聞くこと。そして、その意見が採用されなくても、必然的に当事者意識、経営者意識へと結びつくはずです。

エグゼクティブの大きな仕事は、仕事に対する意義づけ

社員や部下に、「仕事の意義」を示す役割はエグゼクティブの大切な務めです。「何のために仕事をしているのか?」。

自分たちの事業がどのような社会的意義があるのか、つまり「会社のミッション」について従業員に伝えることが、とても大切なことです。

その企業や、その仕事は、世の中にどのように役に立っているのか。たとえば、タクシーの運転手さん。二十時間連続勤務で、腰を痛める人も多い過酷な仕事です。

MKタクシーのような会社は別として、お客さま目線に立った素晴らしいサービスを、私はあまり受けたことがありません。

お客さまが乗っても挨拶も交わさないまま、ブスッとしたまま目的地まで連れていく。そんな運転手さんが多いように感じます。でも、見方を変えれば、タクシー運転手の仕事とは、本質的には人を助けることです。

急いでいる、雨が降ってきた、荷物が重い、お年寄りの方、ケガをしている方……。そういう人助けの意識で街を走れば、運転手も「どこかに困った人がいないかな」と見回るレスキュー部隊になった気持ちになるわけです。

お客さまが乗ってきた瞬間には、「何かお困りですか?」「急いでいるのですか?」「道がわからないのですか?」という気持ちになって接することができるはずです。

仕事の意義を明確にもっていると、仕事に対するモチベーションが大きく違ってきます。その「社会的意義」を社員たちに伝える役割は、社長、エグゼクティブの大きな役目です。

できるエグゼクティブは言葉を大切にする

私はある小売業の社長さんが、自分のお店の人たちのことを「あいつら」と言っているのを聞いたことがありました。

店長会などで、お店の人たちの前で話す時は、当然「皆さん、お店が一番大切です! 頑張ってくださいね」と言っているのにです。しかし、人はとても敏感です。

実際に「あいつら」という言葉を聞いていなくとも、そのような意識で見られていることを感じるものです。

そういう人には、誰もついていこうとは思いません。当たり前のことです。エグゼクティブは、お店の人、一緒に仕事をしているパートナーたちに対しての言葉遣いについて細心の注意を払うべきです。

その社長の会社では、お店の人を「あいつら」と呼ぶ意識が、社長の周りで仕事をする人たちの意識にもきっと伝染していたと思います。私はできるだけ「現場」という言葉を使わないようにしていました。

私自身、この言葉を最前線の人たちに対して、上から目線の意識で使っている気持ちはまったくないのですが、「お店の皆さん」と言うように気をつけていました。

ちょっとした言葉にも「言霊」が宿るといわれるほど、言葉には意識が宿るものだからです。

日産自動車の新任管理職研修に講師として呼ばれた時のことです。

私は、日産自動車でビジネスマンとしての基礎を教えていただいたので、まさしく恩返しできるチャンスだと思い、張り切って出かけました。

神奈川県厚木市の研究所まで出かけ、三〇人くらいの部長さんを対象にお話ししました。

プレゼン終了後の質疑応答の時間、新任の部長さんたちからなかなか質問の手が挙がらなかったのですが、ある若い人事の女の人がスッと手を挙げました。

「ゴーン社長も日産自動車の素晴らしいミッションを語っていますが、私たち末端にはなかなか伝わってきません。どうしたらいいでしょうか?」というものでした。

これはよくある質問で、質問内容が悪いわけではありません。

しかし私は、壇上から思わず彼女を叱りました。話を聞くと、彼女は以前、スターバックスでアルバイトをしていたというのです。

「あなたは、日産でもスターバックスでも二重の意味で私の後輩なので、あえて厳しいことを言うけれども、今後二度と『末端』という言葉を使ってはいけない。人を扱う人事だったらなおさら、もっと言葉に気を遣わなければならない」という話をしたのです。

彼女は、そんなに悪気があってその言葉を使ったわけではなかったのだと思います。

彼女には、お店で車を売っているセールスパーソン、工場で車を作っている人たち一人ひとりのお陰で日産自動車は成り立っているのだと感じてほしかったのです。

スターバックスでは、社員からアルバイトまで、すべてのスタッフをパートナーと呼び合っています。ディズニーでは、お客さまをゲスト、従業員をキャストと呼ぶなど、とても言葉に気を遣っています。

ブランドになるような良い会社は、必ず言葉を大切に使っています。ちょっとした言葉によって、人の意欲は大きく変化します。

気持ち良く仕事をしてもらうためにも、細かなところまで気を遣うということがとても大事だと思うのです。

言葉以外でも、エグゼクティブはメッセージを発信している

社長になってはじめてわかったことがありました。社長はいつも社員から見られているということです。

社員は、日々の社長の様子や態度から、いつもメッセージメッセージを読み取ろうとしているということです。

アトラスで社長をしていた時、社員たちが、「トイレで見かけた岩田さんが、元気のない様子だった」という話をしていたのです。

その結果、「あの悩んでいる姿は、会社の業績が思わしくないからじゃないか」「会社が危ないのではないか」という噂が立ってしまいました。

たまたま考えごとをしながらトイレで用を足していただけなのにです。

私はその噂話を耳にし、リーダーは常に、元気で明るい人を演じる覚悟をもっていなければいけないと考えさせられました。いついかなる時も、会社にいる時は元気な「社長」を演じなければならないのです。

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