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第5章エグゼクティブリーダーの「人を見極める力」

「人を選ぶとき、家族を大切にしている人は間違いない。仁者に敵なし。私は人を使うときには、知恵の多い人より人情に厚い人を選んで採用している」──渋沢栄一

目次

コーチングにより、社内コミュニケーションが活発化

「相手を知る」ことからビジネスは始まる

ビジネスを進めるうえで一番大切なのは「人」との関係です。社内の人、社外の人、上司、部下。一番大切であり、一番難しい。

私は、スタートアップしたてのベンチャー企業から、軌道に乗り始めた中堅企業、上場企業など、多くの企業を見て感じるのは、エグゼクティブの悩みの半分以上は、人間関係だということです。

信頼できる仲間同士が集まり、一つのビジョンを共有できているベンチャー企業は、勢いがありますし、傍から見ても応援したくなるような熱意とエネルギーを感じます。

難局を乗り越える力、新しいことに積極的に取り組む意欲にも溢れていて、その情熱の結果が業績に結びつこうとしています。

多くのベンチャー企業の場合、ある段階を過ぎるとマネジメントチームに不協和音が生まれてくることがあります。

それぞれが方向性の異なるビジョンをもち、お互いに日々不満を感じながら仕事をしていては、結果が伴う仕事はできません。

エグゼクティブ・コーチングでは、そのような人と人との関係を仲介する役割を担うこともあります。あるネットベンチャー企業の社長と、社内の人間関係がいかに仕事に影響しているかという話をした時のことです。

そのI社長から、社員たちをコーチングしてほしいと頼まれ、全員と面談を行うことになりました。全員といっても、社員六人ほどの小さな会社です。

一人ずつ面談をすると、その中の一人、Aさんが、話しているうちに心を開いてくれて、社長も知らなかったようなことをいろいろ話してくれました。自分の生い立ちや幼いころのトラウマ、自己の内面に関わるような話を打ち明けてくれたのです。

私は、Aさん自身が、将来どのようなことをやりたいのか、夢やビジョンについてもじっくりと聞きました。コーチングの結果は、ある程度内容を選んで、社長にフィードバックしました。

コーチングを受けたAさんが抱えているトラウマや、将来の夢について伝えたのです。相手の本音を知ることができると、接し方や気持ちも自ずと変わっていきます。

フィードバックを受けた社長も、Aさんに対する接し方や、仕事の任せ方に変化が生まれました。

Aさんが進みたい方向性を知ることができた社長は、それまでの仕事のスタイルを改め、Aさんに仕事を任せ、サポートしながら進めていくように関係を変えていくことができたのです。

それから数カ月。Aさんは見違えるように仕事に取り組むようになり、みるみる成長していきました。一年ほど経った現在では、I社長から強い信頼を受け、会社を引っ張る存在になっています。

コーチングを受けたことが、殻を破るきっかけとなった一つの成功事例です。

社内に信頼できる部下を五人作れ

このベンチャー企業のように、人と人との信頼関係は仕事に大きく影響します。

実際に、私がCEOを務めていた会社でも、この「社内の人間関係」、そして「人事」はことのほか慎重に取り組みました。

ある程度以上の規模の会社の社長となると、社長一人では到底、全社員の業務を細かく把握することはできません。

ですから、社長には信頼できる五人の執行役員がいて、さらにその五人にはそれぞれ信頼できる部下が五人いて、またさらにその五人に……と、信頼の「ネットワーク」を作っていくしかないのです。

しかし、どうしたら部下と良好な信頼関係を築くことができるのか、また、信頼できる部下をもてるのかということに頭を抱えているリーダーも多いようです。

では、仕事における「信頼」とは何でしょうか?私はやはり、自分のためではなく会社の大きな目標に向かって、一緒に頑張っていこうと思えるかどうか。

そして、どんな小さな約束も守ってくれて安心して、一緒に仕事ができるかどうかだと思います。もし、万が一何かうまくいかないことが起こっても、あの人ならきっとサポートしてくれる。

そんな存在がいれば、上司も部下も、力一杯頑張ることができます。それが、「信頼」ということではないでしょうか。

私にも今でも心に残っているエピソードがあります。

日産自動車時代の上司に言われた言葉です。一年間の工場での生産課実習を終え、本社に戻ってきた入社二年目の時のことです。

系列の部品メーカーの生産性向上活動や、TQC(全社的品質管理)の活動のお手伝いをすることになりました。入社二年目の若造が取引会社の経営者に対して、それなりのことを言わなければなりません。仕事もまだまだ覚えたて。

何から手をつけ、何をしたら良いのかも、よくわからない状態。やる気はあっても、現場で仕事を行ってきた製造のプロの方々に向かって、どんなことを言って良いものか、逡巡していた時のことでした。

「お前が失敗しても、日産はつぶれない。思い切ってやってみろ」尊敬していた上司のFさんからでした。

迷いが一気に吹き飛んでいくような気分でした。確かに、たとえ自分が失敗をしたとしても、会社がつぶれてしまうようなことにはならない。

失敗を恐れずに、自分らしく積極的に取り組もう。自然と、不安や迷いがすーっと消えていきました。そして、Fさんは自分のことを応援してくれている。背中を押して、サポートしてくれている。

そう思うと、消えていった不安と入れ替わるように、勇気が湧いてきたのです。Fさんは私の心に火をつけてくれたのでした。もう一つは、社長時代に部下から言われたひと言です。

一緒に出張に行った時のこと。移動の車中で、私は同行した事業部長に、「実はこんなことで悩んでいる」と打ち明けました。

そんな弱音に対して部下であった彼は、「私は、岩田さんについていきますよ」と励ましてくれたのです。

こんなちょっとしたやり取りで、人と人の距離はぐんと縮まるものです。社内に、弱音を吐くことができる部下がいる。

「ついていきますよ」という言葉は、私を上司として信頼してくれている。この言葉は、弱気になっていた私を勇気づけてくれました。

人との信頼関係を築くためには、自分の弱い部分も人に見せることができる勇気をもつことです。

人事によって会社のカルチャーは築かれる

経営で一番大切なメッセージは「人事」

上司、部下との信頼関係を築くことは大切ですが、いつも自分の思い通りにうまくいくとは限りません。私自身もいつも腐心していました。

こちらが心をオープンに接していても、そっぽを向かれてしまうこともあります。

しかし、人間関係を築くことにばかりに神経を注いでしまい、ビジネスが滞ってしまうようになっては、本末転倒です。

私が社長をしていた経験から感じたのは、経営の根幹に関わる最重要課題は、ファイナンスでも、マーケティングでも、営業でもなく、「人事」だということでした。

つまり採用、評価、昇進など人をどのようにマネジメントするかが経営の根幹だと思います。エグゼクティブ(社長)として一番重要なことは、しっかりとした人事権をもつこと。

それを有効に活用すること。

実績をあげ優秀でかつ会社の理念やミッションを体現した人を抜擢し、評価し、活躍の場を与えることが社員に対しての究極のメッセージとなることを実感したのです。

ある外資系企業のM社長の相談にのったことがあります。M社長はヘッドハンティングをされ社長として入社しました。元からいた執行役員たちと初めから距離感を感じていたそうです。

その距離感とは、執行役員たちは社長である自分をサポートしてくれると口では言っているが、自分がサポートされている感覚がない。実際のところ、後ろから弾が飛んでくる感覚が拭えないと言うのです。

たとえばとても小さなことですが、自分が読んでとても良かった本をその執行役員たちに薦めたところ、「人に薦められた本は読まない」「ビジネス書は読まない」などと拒否されたそうです。

執行役員たちは、社長としての自分を見て仕事をしていない。それは、実質的な人事権をアメリカ本国や日本の創業者がもち、社長にはその権限がなかったからです。

要するに、人事権をしっかりともつということが、会社を経営するということの根っこの部分なのです。

社長がしっかりとした人事権を確立できていなかったことが、マネジメントチームを束ねることができなかった一番の理由だと思います。

エグゼクティブとして、マネジメントチームの人たちとどのように接していくのかということが、一つの大きな課題なのです。同じように、私もマネジメントチームとの関係に悩んだことがあります。

私がザ・ボディショップのCEOに就任して半年後、従業員アンケートをとると、「経営陣の一枚岩感がない」との意見が複数聞かれました。

日本のザ・ボディショップを運営しているのは、イオングループが一〇〇パーセント出資しているイオンフォレスト。

私以外の役員は、イオン出身の役員たちばかりでした。皆いい人たちで、私の足を引っ張る感じもまったくない。

しかし、イオンのDNAが非常に強かったため、私がAというプランを打ち出しても、いつの間にかBというプランに方向が転換されている。

Aで行くぞ、と意気込んで号令をかけても、最前線に降りていく言葉は、いつの間にかBにすり替わっていたのです。

その状況が変化するきっかけとなったのは、実績を出し、親会社イオンのトップである岡田元也社長が認めてくれたことでした。

イオンフォレストの躍進ぶりを見て、岡田社長が「ザ・ボディショップはよくやっている」と評価してくれたのです。

それから私がやりたいことがスムーズに実行され、改革が進み出したのです。特に人事面では時間をかけて、思うような体制に変えていくことができました。

とても有り難かったのは、以前の体制でナンバーツーだった役員が、今までとは違った方向性を感じ取って、自らイオンのグループ会社に行くことを志願してくださったことです。

実質、会社を動かしていた人でもあり、私は今でもとても感謝しています。最終的な人事権を誰がもっているのか。

その人事権こそが、経営の根幹であり、責任をもった経営をするためにはしっかり人事権を確立しなければなりません。

「誰を評価しているか」は見られている

それでは、なぜ「人事」が社員への一番のメッセージとなるのか、より具体的に解説していきましょう。

会社のミッションは、社長が繰り返し言い続け、現場まで浸透させることが大切だとお話ししました。

それ以上に社員へのメッセージとなるのは、「誰を評価するか」という点です。

「お客さまを第一に考えましょう。大切にしましょう」という理念を掲げた会社の中でも、お客さまを強引に半ば騙すようにして成果を出してくる社員も時にはいます。

理念に反したやり方で、数字を上げた時に、どのように評価するかです。定量的な数字は、誰が見てもわかりやすいため、多くの人は数字だけで人を判断してしまいがちです。

なぜなら、評価基準が「数字」であると、説明責任がいりません。「彼を昇格させるのは、数字を上げたから」とだけ言えば良いからです。

一〇件の契約を取ってきた人よりも、二〇件の契約を取ってきた人のほうを高く評価する。数字だけ見て判断することは簡単です。

しかし、その契約の内容も判断しなければ、正しく評価することはできません。たとえばその二〇件の契約が、お客さまを強引に半ば騙すような形で得たものだったらどうでしょう。

その内容を調べず、お客さまを騙して数字を上げた人を評価し、出世させてしまえば、「汚いことをしていても、数字を上げれば偉くなれる」というメッセージを社員に発信することとなります。

いくら社長が、「お客さまを大切にしましょう」と言ったところで、その理念は社員に浸透していきません。人は、誰が評価されるのか、出世するのか、誰を採用するのかということをよく見ています。

社長が、言葉を尽くして会社のビジョンを伝えたとしても、結局、社員が受け取る最大のメッセージは人事です。

皆が納得するような人材を正当に評価することができれば、多くの社員はその「ロールモデル」を目指して頑張ることができます。

しかし、上司へのゴマすりなどの社内営業だけがうまいとか、会社の理念を守っていないのに業績だけを上げる人を評価してしまったら、社員たちは「結局、上は人を正しく評価できていない」と思うだけでなく、まじめにやっている社員ほど不平や不満が生まれてきます。

会社に対する「信頼」の崩壊です。「やっぱり!」という人事をするのか、「なんで!」という人事をするのか。その評価自体が会社が社員に何を期待しているかを伝える、とても強いメッセージとなります。

人には見えない側面がある

ある外資系のメーカーのエピソードです。

それまで人事として仕事をしていたBさんは、社員への待遇も良く、職場環境も良い自分の会社が好きでした。

そして何より、人々の毎日の生活を支え、豊かにしていくことを大きな理念として掲げていた同社のミッションに強く共感して選んだ会社でした。

何の不満もなく、日々やりがいを感じて仕事をしていましたが、突然の人事異動で営業部へと異動となり、そこで彼女は会社の負の部分(実情)を知るのです。

慣れない営業活動で、なかなか成果の出せない彼女。

そんな彼女に対して上司は、「ウチの商品をしっかり売ってこないんだったら、お前の家族を路頭に迷わせてやるぞと上司に言われたと言って仕事を取ってこい!」と怒鳴りつけたのです。

会社の理念とはかけ離れた、数字が第一の営業活動。社内の実情を目の当たりにし、彼女は悩んだ挙げ句、退職してしまいました。

このようなケースでの問題点は、結局のところ社長の姿勢に行き着きます。社長が数字ありきの現状を許してしまっている。

もしくは、そのようなカルチャーとなっている現状に気がついていないということです。

よく見られるのは、社長は志やミッションを高くかかげているのに、それとは正反対の別のカルチャーが会社の中で生まれているというケースです。

たとえば私が社長としてある部下を見ている時、「この人はしっかりと会社のミッションを考えてくれているし、いい意味でイエスマン。仕事がとてもしやすい」と思う部下がいたとします。

でもこの部下は、その部下たちから見た時に、ものすごく高圧的な上司であることがあります。上に対してイエスマンの人は、下に対しても同じようにイエスマンを求める傾向があるからです。

その結果、上司に対して上手にゴマをする人を選んでしまうと、社長にゴマをするような人が偉くなるのだというメッセージを社員が読み取り、みんなが上にゴマをするようになってしまいます。

カリスマ型のワンマン社長がいる会社に起こりがちなことです。

先ほどの外資系メーカーのケースのように、会社側は、やはり数字や売り上げなど結果を出していると、それだけで人を評価してしまうことがあります。

ですから、上司から見えないところで、部下を脅かし、無理やり売り上げを作らせて会社に利益をもたらすような、そんなやり方の人を評価して、昇進させてしまうことがあります。

たちが悪いのは、結果を出している以上、なかなか部下や周りからは文句を言いにくい。そこがさらに人事を難しくしているのです。

しかし、最終的な社員へのメッセージは「人事」にあります。その人事をどうするかによって、会社のカルチャーが築きあげられていくのです。

経営の根幹は「人事」

社長の最大の仕事とは

「人事」を最終的な形まで突き詰めていくと、それは社長の最大の仕事である“後継者を選ぶこと”に行き着きます。

私が社長になる以前に、「後継者を選ぶことが、社長の一番の仕事だ」とよく聞きました。その時はいまいちピンと来ませんでした。今、経営者になって考えてみると、後継者選びの大切さを実感します。

自分が社長を退く時に、会社の理念をしっかり守っていってくれる人を選ぶ。それが社長の最大の仕事です。

たとえば、実績を上げていても、会社の理念や価値観をもっていないような人を社長にしてしまったら、その理念は失われていってしまうでしょう。

それは、長く愛される会社として永続しないことを意味しています。

タマネギではありませんが、経営について、一枚一枚、戦略だ、マーケティングだ、ファイナンスだ、と多肉の部分(鱗葉)をいていき、最後の芯として残るのが「人事」です。

ですから、人事は慎重に進めなくてはなりません。その究極の人事が社長の後継者選びです。事業に関する戦略は、迷った時にはやってみたらいい。失敗したら、そこから学べばいい。しかし、人事の失敗は、取り返しがつかない場合が多いのです。

特に外資系企業と違って日本の場合は、よほどのことがない限り、降格もクビにもできません。ですから、人事に関しては、採用も昇格も、迷ったら“保留”すべきです。不安点がクリアになるまでは、人を採ってはいけないし、昇格をさせてもいけないのです。

最近の一部の大企業の風潮として、外から社長を招き入れる、しかも外国人である例が散見されますが、私はとても疑問に思います。

日産のゴーンさんの成功例は、救済する企業のルノーからの派遣で、かつゴーンさんは大量に人を連れてくることができた特殊な例だと思います(つまり完全に人事権を掌握できた)。

人をどのように評価するのか

人が人を正しく評価することは、私は不可能だと思っています。常に限界があるという謙虚な前提に立ちながら、できるだけ多面的に見ることです。

多面的にとは、自分一人だけの評価ではなく、上、横、下からのいわゆる三六〇度からの評価が必要です。三六〇度の視点から見てみると、意外な角度から、意外な事実が見えてくることがあります。

社長の視点からは、上司の意見に従順で、よく働き、腰も低い、いいなと思うような人は、実は自分の部下に対しても同じような態度を求めます。

上司の前での態度とは打って変わって、部下には偉そうにしているという人を、私はたくさん見てきました。

自分が上司に対してしていることを部下に求めます。

また逆に、上から見ていると、なんだか仕事を頼みにくい人だなと思っていた部下が、さらにその部下たちからは熱い信頼を得ていたりと、自分一人の視点からでは見えないことがたくさんあるのです。

ですから、できるだけ多くの人から評価情報を集めることが必要です。

エグゼクティブ・コーチングを行っていたいくつかの企業から、私に採用面接の面接官の一人になってほしいと依頼されました。

これは、とても良い方法だと思います。

会社の社風や理念を理解していて、外部という立場の経験豊富なコーチャーは、より客観的に人を評価することができます。第三者の評価として、コーチングを活用している例です。

外資系企業の三六〇度評価制度

外資系企業の多くは、「三六〇度評価制度」を導入しています。

CEOの評価についても、役員たちが行い、役員たちの評価は、上司であるCEO、横にいる同僚の役員、そして彼らの部下たちというように、三六〇度全方位で行います。

評価はオープンなシステムで、評価する側は匿名。匿名のため、普段は言えないような本音が書かれていることも多い。それぞれの立場の人が書き込む評価を読んでいると、普段見えないことがいろいろと見えてきます。

採用や面接も同じですが、人を評価する時にはできるだけ多くの人に行ってもらうべきだと思います。

そして、その人とできるだけ長い時間面談し、労力を惜しまないことがとても重要です。

リファレンス(人材照会)

日本では、まだあまり一般的ではありませんが、外資系のヘッドハンティング会社などは、人を採用する時には、その人物についてのリファレンス(照会)を取るのが当たり前になっています。

一緒に仕事をしたことがある人、またその上司から、本人の評判を直接聞きます。私も何度かリファレンスを頼まれた経験があります。

ヘッドハンターから、以前ある外資系会社時代に同僚だった人について、電話で問い合わせを受けたことがあります。元同僚は、とてもいい人ですが、少し仕事の進め方に問題がある人でした。

しかし、友達でもありましたので、かなり甘い評価を伝えたのです。すると、「おかしいな、他の同僚は、すごく批判的だった」と。

私はそこで、外資系の人は、いくら同僚であろうと、ネガティブなこともしっかりと伝えるのだということを知りました。

事実を伝えないと、最終的には自分の評価にも関わってくるからです。私がスターバックスに入社する際にも、リファレンスは行われました。

ヘッドハンティング会社の人から、過去に一緒に仕事をした同僚や上司の名前を四人分求められました。

コカ・コーラとジェミニ、アトラス、そしてザ・ボディショップ時代の上司の名前を挙げると、彼らに連絡をして、「岩田さんは、どんな人でしたか?」と、人物調査を行っていました。海外の一流企業ではこのように必ずリファレンスを取ってから採用します。

アメリカでは、大統領が変わると、そのキャビネットが丸ごと入れ替わるといわれています。それはアメリカ企業も同じで、社長が変わるとマネジメントメンバーごと入れ替わることは、珍しいことではありません。

そのシステム自体には、派閥を生み出してしまうという弊害もありますが、その弊害よりも、すでに一緒に働いた実績があり、同じ考え方や価値観を共有している人でチームを作るほうが、素早くチームが立ち上がりメリットも大きいからです。

リファレンスを取らなかったがために、経歴詐称などの事件につながってしまったケースもあります。ある大企業で実際にあった話を聞き、本当に驚きました。

神戸の名門灘高校から東京大学にストレートで入学。大学三年生の時にMIT(マサチューセッツ工科大学)に留学し、その後MBAも取得し、マッキンゼー・ニューヨークで最年少パートナーとなった経歴だったのですが、それはすべてだったのです。

そのが発覚するきっかけとなったのは、マッキンゼー出身の社員の、「その人の名前を、マッキンゼー時代に聞いたことがない」というひと言からでした。

その企業は、コンサルタントやヘッドハンターに何億円ものお金を湯水のように使うことで有名な企業でした。

当然役員も面接をしたけれど、そのをまったく見破れなかった。人が人を見る目などその程度なのです。

過去の同僚や上司にリファレンスを取っていたら、すぐにわかるようなことでした。最近は、経歴詐称が問題となるケースが多いようです。

それはやはり、日本の会社の体制にも問題があると思います。リファレンスを取らず、提出されたキャリア情報を鵜呑みにしてしまっているからです。

その体制は反省されつつありますが、まだまだです。人を評価し、採用するには、労力と手間を惜しんではいけません。相当な準備も必要です。日本の場合は、安易に履歴書や面接だけで採用しているケースが割に多いのです。

長い期間で人を評価する

採用方法に問題があるように、日本的経営にも賛否両論があります。しかし、年功序列の人事方式はある意味とてもフェアな方法だと思います。

日本の企業は、長い期間をかけて人を評価します。入社してから最初の約十年は、大きく差をつけることはしません。

仕事ができる人は、「どうして、自分を評価してくれないのか?」と不満に思うこともあります。

しかし、業績というのは、たまたまタイミングの良い時に、良い商品の担当になり数字が上がったり、それまで努力してきた人たちの結果が自分が携わっている時にちょうど実を結んだり、自分の能力以外の要素が絡み合って、結果に結びつくこともあります。

しかし、その「ラッキー」がそれほど長い間重なることはありません。たとえば十年というスパンでその人物を評価していくと、本人の本当の実力が見えてきます。

私も若いころに、上司と折り合いが悪く最低の評価をつけられたこともありました。数年後にある斜め上の上司のおかげで三階級特進の異例の評価を受けて、リカバリーすることができました。

人が人を評価する限界と上司との相性など本人の実力以外の要素もあり、とても難しいことだと思います。

社長を経験して、改めて人事の大切さ、難しさについて考えてみると、日本的な人事方式もとてもフェアで合理的なやり方なのだという気がしています。

最近は、能力主義の傾向が高まり、もっと個々人の能力や結果を見て、できる人材には短期間に相応のポジションを早く与えるべきだという風潮があります。

ただ、その考え方には、その人物の「真の実力」を判断できるという前提があるのです。

会社の規模にもよりますが、十~十二、十三年で課長となり、そのあたりから徐々に差が出始めるというのは、ある意味フェアで合理的な方法であると思います。

外資系企業の限界

そういう点では日本的な人事方式と比べて外資系企業は、時におかしな人事もありました。なぜ、この人がこのポジションにいるのかと疑問に思うことも多かったのです。

よくありがちなのは、英語が話せるだけで、良いポジションにいるというケースでした。

部下から見ると、上層部は何も見ていないのではないかと疑いたくなるような人事が行われているケースは、社内でもよくあるのではないでしょうか。

これは、私がある外資系に勤めていた時代にあったエピソードです。「なぜこの人が役員に?」と思うことが何度もありました。私はある事業部の部長として入社しました。

それまでの経験を活かした分析や、戦略立案を行い、会社に貢献しようと意欲に燃えていました。秘書も、私が前の会社から連れてきたアシスタント。

今までも本当に素晴らしいプレゼンテーション用の資料を作成してくれていた彼女が、この会社でも同じように、見やすく、わかりやすい資料を作成してくれていました。

ある時、私の直属上司ではない他の事業部の日本人役員が、私の秘書に向かって、「資料の色を減らせ!」と言ってきたのです。

要するに、せっかく工夫して見やすい資料を作成したのに、わざわざクオリティを下げろと言ってきた。私は信じられませんでした。

その人は、英語が得意なことに加え、外国人幹部に対してはイエスマンなのですが、下に対しては平気で理不尽なことを押しつける。

部下の手柄を横取りしたり、外国人幹部の言う矛盾することを平気で受け入れてしまう。日本企業であれば、課長にもなれないような人だったのではないかと思います。

人事評価における説明責任

日本的な人事、外資系の人事、どちらにも善し悪しがあります。日本の場合は、年功序列で、長い時間をかけて評価するために、同期とはそれほど差がつきません。だから逆に、本人への人事評価についての説明責任の部分が疎かになるという点があります。

外資系の企業の場合は、人を評価したらその本人と面談を行い、評価の理由を説明します。その評価内容に対して、本人のサインをもらうのが通例です。上司が抜き打ちのような形で人を評価できないようにする仕組みです。

日産自動車時代に留学中、一年下の日産留学生と一緒に昇格試験を受けることがわかった時、とてもショックを受けました。

実質、同期たちから私は一年以上も遅れを取っていたことに気がついたのです。

会社から留学に行かせてもらえるということは、ある程度会社から期待されているのだと思っていました。

先に述べたとおり、当時、日本の大企業では、入社から十年はほとんど差がつきませんでした。

昇進に一年もの差がつくというのは、長期療養で一年間休職をしていた、もしくは何か問題を起こしたなど、よほどのことです。

私がさらにショックを受けたのは、その事実を、一切知らされていなかったことでした。

人を評価することは大切ですが、評価以上に大切なのは、きちんと面談を行い、「あなたの良い面はこういうところ、あなたの良くない面はこういうところ。だから、今回はこのような評価がついています」と、フィードバックを行うことです。

そのため上司は評価をする権限を与えられていますが、それに伴って説明責任も問われるのです。

人物鑑定法

ご参考までに私が師事している、安岡正篤先生が挙げた「六験」という人物鑑定法についてご紹介します。

  1. 1.之を喜ばしめて其の守を験す:人間は嬉しいことがあった時に、きちんとした節度があるかどうかをみる。
  2. 2.之を楽しましめて以て其の僻を験す:人は楽しんでいる時に、性癖、本質が出る。酒を飲んで酔っぱらった時などがその例で、その人の深層にある本音をみる。
  3. 3.之を怒らしめて以て其の節を験す:怒った時に、自分の感情をコントロールできるかどうかをみる。
  4. 4.之を懼れしめて以て其の特(独)を験す:人は恐れると誰かに頼りたくなる。強権的なワンマン上司の下についた時に取り巻きになったり、ゴマすりになったりする。そういう時に人間としての独立性を保持できるかをみる。
  5. 5.之を哀しましめて以て其の人を験す:悲しい場面の時に、その人のすべてが出る。どのように反応し、行動するかをみる。その人の情をはかることができる。自分の悲しさだけでなく、他者の悲しさなども理解できるかどうかをみる。
  6. 6.之を苦しましめて以て其の志を験す:苦しい状況に陥った時に、どれだけの粘り強さ、意志の強さを発揮できるかをみる。よく苦しみに耐えて自分の志を曲げず追求していけるかをみる。

ぜひ、こういった視点から人を評価してみてください。

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