MENU

第6章エグゼクティブリーダーになるために

「to be good」を目指す

「未来は自分の夢の素晴らしさを信じる人のものである」──F・ルーズベルト

目次

企業のミッションと個人のミッション エグゼクティブリーダーとして

本章では、私の考えるリーダー論について言及したいと思います。

エグゼクティブリーダーとは、一体どのようなリーダーでしょうか? 私の経営バイブルである、ジム・コリンズの『ビジョナリーカンパニー 飛躍の法則』の中にヒントが隠されています。

その中で「第五水準」のリーダーについて、次のように解説しています。

第五水準の指導者は、自尊心の対象を自分自身にではなく、偉大な企業を作るという大きな目標に向けている。我や欲がないのではない。それどころか、信じがたいほど大きな野心をもっているのだが、その野心はなによりも組織に向けられていて、自分自身には向けられていない」(『ビジョナリーカンパニー 飛躍の法則』 p 33より抜粋)

第五水準の指導者は成功を収めたときは窓の外を見て、成功をもたらした要因を見つけ出す(具体的な人物や出来事が見つからない場合には、幸運をもちだす)。結果が悪かったときは鏡を見て、自分に責任があると考える(運が悪かったからだとは考えない)。」(同右 p 56より抜粋)

たとえば、第五水準のリーダーシップを備えた大統領の一人として、アブラハム・リンカーンの名を挙げています。謙虚だけど意思が強く、控えめだけど大胆。その矛盾するような二面性をバランス良くもっているのが、第五水準のリーダーなのです。

偉大なリーダーとは、自己顕示欲や自分自身の欲からの行動や発言ではなく、「会社」を良くするためにはどのようにしたらいいのか、部下が活き活きと仕事をするためには、何をしたら良いのか、という発想が行動のベースとなっています。

部下に仕事を任せる時には、その人の仕事ぶりや性格を考えて、事細かに指示するのではなく、「あなたに任せるから。期待しているよ」と伝えるのです。

そうすれば、部下もやる気が起こり、自ら考えて仕事を進めるようになります。

しかし、任せたからといって何もしないわけではありません。任せる際には、背景や方針、目的といった方向性をしっかりと伝えないといけません。

さらに、「いつも見ているから」と伝えれば、部下も安心してのびのびと仕事に打ち込むことができます。これは今注目されている「エンパワメント」そのものです。

エグゼクティブリーダーにカリスマ性は必要条件ではない

私も若いころから読んでいた中国古典や東洋思想に書かれている理想のリーダー像を目指していました。それがこの「第五水準」のリーダーと同じリーダー像だったのです。私は本当に目から鱗が落ちる思いでした。

何百年も前からいわれている東洋的リーダー像と、現代の何百社という会社の調査から描かれた「ビジョナリー・カンパニー」を築き上げるリーダー像がまったく同じだったのです。

リーダーに求められることは、次のリーダーを育てること

人を治める前に自分自身を修める

エグゼクティブリーダー育成の必要性は、私自身が社長をしていて常々考え続けていた課題でした。なぜなら、会社や組織において良い社長、良いリーダーがいなければ、企業は繁栄しないからです。

社長の最大の仕事は、リーダーおよび後継者育成だと思います。人を育てるということは本当に難しい。

経営者として、素晴らしい結果を残している社長は、後継者育成もうまいかというと、そうとは限りません。

「引退したい、引退したい」と言いながら、いつまで経っても引退できない有名な経営者が数多くいます。結局、人を育てることができないために、会社を任せられる人がいないからです。

自分が優秀過ぎて自分以外の人が劣って見えてしまうから、いつまでも社長を引退できないという矛盾が起こるのです。

出処進退で一番難しいのは「退」だといわれるゆえんです。

そして周りの人にまだまだと言われたとしても「退」については、真剣に考え自分で決断するしかありません。

いつまでも老害をふりまいている経営者はとても醜いものです。人を育てようとする時、人を治めようと考えてはいけません。そうではなく、まずは自分を修める努力をする。人を育てる前に自分が育たなければいけないのです。

さまざまな人から、「どうしたら人を育てられますか?」と質問されますが、そうではなく、まずは自分の人間性をもっと高める。

謙虚な気持ちをもち続け、威張るとか、偉ぶるということではなくて、人間としてより高みを目指す。

そういうリーダーに、部下は自然と引っ張られていくものなのです。そのうえで人物をよく観察し任せてみる。そして自分がその人のコーチャーとなる。

良いリーダーとは、部下から「ついていきたい」と思われる人です。よく、子供は親の背中を見て育つといいますが、部下も同じです。ですから、リーダーとしての背中を見せることです。

私が今までに出会ってきた素敵なリーダーたちは、ミッションが明確であり、「世のため会社のため、また部下のために頑張りたい」と一心に思っている「思い」が伝わってきます。

この思いが、人を感化して、この人についていきたい、一緒に頑張りたいと部下たちに思わせるのです。

部下にチャンスを与える

後継者として人を育てる時、その人の資質を見極めることは重要です。能力の高い人を育てるのか、能力はそこそこだが人間性がとても良い人を育てるのか。

スポーツなどでも、もって生まれた能力のある人と、一所懸命練習してもなかなかうまくならないという人はいます。このような時、どういう人を育てていくべきなのでしょうか。

これには明確な答えはないと思います。人にはそれぞれ個性があるので、その個性を会社の中で活かすことができるかどうかにもよります。

ですから社長は、後継者を育てる時は早い段階で一人に決め込まず、可能性のある人にはチャンスを与えることが大切です。

大学時代、野球部だった私は膝の手術をした後ずっと補欠でした。ピッチャーとして試合で投げられなかったのです。

補欠は、「一試合でも、一球でもいいから投げたい」「守備固めでもいいからグラウンドに立ちたい」という気持ちで約二時間の試合をずっと応援しているわけです。

ある公式試合で、二〇対〇のコールドで勝った試合がありました。その時にグラウンドに立ったのは九人だけ。補欠は一人も出させてもらえませんでした。

この時は本当に部活動に対するモチベーションが下がってしまいました。二〇対〇で勝っている試合に補欠を一人も出さないというのはおかしいと今でも思っています。

やはり、試合が決まったそういう場面では、できるだけ控え選手に実践経験をさせてモチベーションをアップさせる。

その時の監督は現役時代はうまい選手だったと聞きます。だから補欠の気持ちがわからなかったのだろうと思います。試合会場だった日生球場は、当時のプロ野球チームの本拠地でした。

野球青年たちの憧れでもあるようなグラウンドで、一打席でも、代走でもいいから、あのグラウンドに立つことができれば、控え選手のモチベーションがあがり、競争が生まれ、結果的にチーム力アップにつながったでしょう。

その前に監督だった人は、野球に関してはまったくの素人だった剣道部出身でした。野球のことを知らないことは自覚されていたので、外部から有名な野球経験者を臨時コーチに招くなどいろいろと努力をされていました。

野球に関しては素人だった監督ですが、人を育てることには能力のある人でした。私は、一年生の時に、一度代打に指名されて試合に出て、ヒットを打ったことがありました。

その時監督は、私の目の色を見て指名を決めたと後で言われました。野球未経験監督でしたが、人の心がわかる人でした。

私は控えでも一所懸命頑張っていれば、必ず監督が見ていて、チャンスを与えてくれるという気持ちになりました。

要するに、経営者も同じです。どうしても大事な局面では、補欠を出すことはできません。しかし、そうではない場面で、補欠を出してあげられるかどうかです。

たとえば、自分の知り合いが社長をやっているような会社に、「ちょっと、あそこに営業に行ってみなさい。失敗しても良いから」と言って部下を送り出してみる。

仮に部下が失敗をしても、後で自分がフォローできるような場面では、部下を試してみるのです。

会社の明暗を分けるような一発勝負のプレゼンテーションのような場面では、やはりエースを投入すべきですが、それはその部下たち自身もわかっています。

だからこそ、フォローできる場面では、さまざまな経験をさせて、場慣れさせていくことによって、数年後には“ここぞ”という時に使える人を育てることができます。

子会社の経営を、思い切って有望な若手に任せてみることなども大切なことです。

エグゼクティブリーダーのやるべき仕事は、実績を上げることと部下を育てることの両方です。どちらか一方だけではいけません。

そもそも、経営とは矛盾することを両立させることです。短期と長期、社会的貢献と利益……。それらのバランスを取ることが経営です。どちらか一方だけを頑張れば良いのであれば、経営者はいりません。

そのバランスを取るには、会社の業績であったり、部下のやる気や目の色であったり、日々のさまざまなことを見て、考えながら判断するのです。

実績を残しながら、人を育てるのです。

会社や部署の状況を見ながら、部下に試すチャンスを与える。上司の仕事は、そのバランスを取ることともいえるでしょう。

リーダーには徳が必要である

ノブレス・オブリージュ

最近、テレビのドキュメンタリーやビジネス特集の番組などで、「ノブレス・オブリージュ」という言葉を聞く機会が増えました。

ノブレス・オブリージュは、「位高ければ、徳高きを要す」、あるいは「地位の高い人の義務」などと翻訳されます。

地位の高い人は、それに相応しい徳(人間性)の高さや、自己犠牲の精神をもたなければいけないということです。

私は、やはり徳のある人がトップに立ち、頭の切れる参謀を使わなければいけないと思います。かつての日本の優秀な組織の形は、まさに徳のあるリーダーの下に、優秀な参謀がいるというスタイルが多かったと思います。

日本でも「ノブレス・オブリージュ」という概念を、教育に導入すべきだと思います。私は高校生の時に、公立の進学校に通っていました。

「勉強ができる人が偉い」という感覚が浸透し、勉強の成績さえ良ければなんでも許されるような雰囲気でした。

一部の教師の中には、修学旅行、体育祭、文化祭などの学校行事など中止して、勉強しろと主張していた人もいました。

そもそも入学式の時に PTA会長が大学受験のことばかり言っていたことに、子供心に違和感を感じていました。

当時野球ばかりしていて成績が悪かった私を馬鹿にするような友達も多くいました。

そういった教育が、「数字さえ上げればいい」というエリートサラリーマンや「税金は自分の出世のためにある」と考える官僚。

「バレなければ、ねじ曲げてでも数字を作ればいい」というような士業(弁護士、会計士)の人たちを育ててしまっているのではないかと憂慮しています。

もちろん、頭や成績が良いということは、本当に素晴らしいことです。しかし、それは人間の能力の中の、ある一部にしか過ぎません。

それがすべてだという評価・仕組みが、小ずるい官僚やエリートたちを作ってしまったのではないかと思います。

西郷隆盛は、「功があった人には、禄を与えよ。徳がある人に地位を与えよ」という意味のことを言っています。

まさしく、その通り。数字を上げた人には、もちろん金銭的に報いてあげるべきです。しかし、その人に地位を与えるかというのは、切り離して考えなければいけないのです。

日本の教育の中にもっと「修身」や「道徳」を強化するカリキュラムを増やすべきだと思います。何よりもそれを教える先生の評価もちゃんとしなければなりません。「人事がすべて」です。

小さな約束を守る

よくセミナーなどで、「どのようにしたら、社員との信頼感を高めることができますか?」と聞かれることがあります。これは難しい質問です。

まずは自分自身の徳を高める努力をする。自分を修める努力をする。そして小さな約束を守ることです。大きな約束というのは、自然と守らされます。

たとえば、ザ・ボディショップやスターバックスでお店回りをしていると、必ずお店の方から質問や要望を受けました。

その場で答えられることにはもちろん答えますが、その場で答えられないことも多いものです。そのような時、持ち帰った質問や要望には、必ず担当者から返事をしてもらうようにしていました。

要望を叶えるということではなく、できるかできないか、その返事だけでも必ず行う。できない場合には、必ずその理由を添える。仕事には優先順位があり、当然全員の要望を聞くことはできません。

しかし、できない場合でも必ず、できない理由を添えて答える。これが、社員の皆さんとの信頼関係を築くことにつながると信じていました。

「 to be good」を目指す

ケインズが遺した言葉に、 It is much more important how to be good rather than how to do good. (“いかに善をなすか”というよりもむしろ“いかに善であるか”ということのほうが大事である)というものがあります。

「 to do good(いかに善をなすか)」よりも、「 to be good(いかに善であるか)」が大切である。

初めてこの言葉に出合って何年も経っていましたが、私はこの言葉の意味がずっと腑に落ちませんでした。

しかし、最近『論語』の中にあった一節を読んでこういうことなのかと考えるようになりました。

孔子が自分の人生を振り返った『論語』「為政篇」の有名な文章の最後に、「七十にして心の欲するところにしたがいて矩を踰えず」という一節があります。

孔子が七十にして初めて到達した「自分の心の思うままに行動しても、人の道から外れない」という境地。

まさに人間の究極的な理想の姿です。この一節を思い出し、これこそがケインズのいう「 to be good」だと思いました。

「to be good」とは、自分自身の存在そのものが善であり、意識せず自然と善行を行えることです。それに対して、「 to do good」とは、単に善い行いをすること。

しかし、それは心からの自然な善行ではなく、その行動による損得に起因していることもあります。たとえば、満員電車の中でお年寄りに席を譲る時。周りにいる人に良い格好をしたいがために譲るというのは、「 to do good」です。

どんな動機であれ、この行動の結果によってお年寄りは席に座ることができたことは、 goodです。しかし、周りに人がいてもいなくても、自然と立ち上がって席を譲ることができれば、「 to be good」だと思うのです。

リーダーとなるべき人が目指すべき境地は、この「 to be good」だと思います。人の上に立つ人間ほど、人徳者でなければいけません。

この言葉は非常に深い言葉であり、私自身も頭で理解しても、全くそのレベルには至っていません。

最初は「 to do good」からでもスタートし、徐々に自分を修めて「 to be good」を目指すべく自分を成長させていくことです。

イギリスの経済学者・ケインズが言っている“人としてのあるべき姿”について、中国の古典である『論語』でも書かれているというのは非常に面白いことです。

そして、洋の東西を問わず、人間としての目指すべき本質的なものは同じであると改めて実感します。

エグゼクティブリーダーとして、ぜひ、どのように人を治めようかと考える前に、自分が「 to be good」になっているか、振り返ってみてください。

リーダーシップ教育の第一人者のジョン・ C・マクスウェルは、「リーダーシップとは影響力だ」と言っています。

経営者自身の人格やリーダーシップが組織に良い影響を与えるように自分を修めなくてはなりません。そのお手伝いをするのがエグゼクティブ・コーチングなのです。

おわりに

今までに出会った経営者たち

アニータ・ロディックとハワード・シュルツ。

世界有数のブランド企業の創始者でありカリスマ経営者であるこの二人と仕事をすることができたのは、私の経営者人生の中で、とても貴重な経験でした。

友達と呼べるほど仲が良くなったアニータからは、確固たる理念が、働く人々にやりがいや仕事に対する信念を与え、活力を生み出すということを教えられました。

人権問題や環境問題への彼女の取り組みは、時代の三十年先を行っていた気がします。

社長就任の挨拶でアニータの理念を念頭に作った「七つのお願い」の話をした時、社員の皆さんの顔がキラキラと輝き出し、涙する人までいました。

ザ・ボディショップでは、今でもアニータの理念に共感した多くのスタッフたちが、誇りをもって仕事をしています。

またハワードからは、「リーダーは、強くなくてはならないこと」を学びました。

大きな決断を下す時、満場一致で誰もがハッピーで、不満をもっていないのであれば、問題はありません。しかし、時にはその決断によって傷つけられる、不快を感じるという人が出てきます。

時として、リーダーとして責任をもって決断しなければいけません。リーダーは、恨みに任ずる覚悟をもって、決断を下すのです。

その精神は、やはりハワードの仕事のスタイルから学んだといえます。

また、本当に素晴らしい日本人経営者たちにも出会いました。尊敬している経営者の一人は、現在あるコカ・コーラグループのボトラーの会長を務めていらっしゃる Sさんです。

最初に出会った時、 Sさんはコカ・コーラボトラーの常務、私はコカ・コーラビバレッジの執行役員でした。初対面の時からとても腰が低く、誰に対しても丁寧で低姿勢。

しかし、大学時代は私立大学の応援団長も務めていたので、内面は非常に激しい闘志をもち合わせていらっしゃるのだと思います。

そのボトラーは、地方の一ボトラーからスタートし、近隣のボトラーなどを次々買収。国盗りゲームのように、領地を広げていき、日本のコカ・コーラグループ内で大勢力となるまでに成長しました。

ある時、 Sさんに「岩田君、飲みに行こうか」と誘われました。Sさんがボトラーの社長に就任した後のことだったと思います。連れていってもらったお店は、居酒屋チェーンの「天狗」。

その時は、 Sさんが自腹でごちそうしてくれました。そのボトラーは、売り上げを何千億円と上げているほどの企業です。

その企業の社長ほどの人ならば、仕事に関わりのある人と、会社の経費で一流の銀座の料亭に行っても誰も咎めることなどしません。

もちろん、公的な立場で会う時には、博多の屋台や居酒屋ではなく、ちゃんとした料亭に連れていってくれました。Sさんは、会社の経費で落とす会食と、個人的に居酒屋で飲むことをちゃんと分けていました。

居酒屋で飲むことは、 Sさん個人と岩田個人との私的な付き合い。だから気軽に飲めるお店を選び、自腹でごちそうしてくれたのです。

高級料亭よりも居酒屋で飲むお酒のほうが、よっぽど美味しかった。人と向き合い、個人との付き合いを大切にする人でしたので、社内外にもファンが大勢いました。

常務から社長となり、さらには会長へ。会社も一ボトラーから、大勢力のボトラーへ大きくしたのです。それはまさに Sさんのリーダーシップの成果だと思います。今まで誰にも打ち明けたことのない逸話があります。

私がそのボトラーへ出張に行っていた時でした。私は Sさんのリーダーシップ、そして人間性に本当に参っていました。それと同時に、外資系企業に嫌気を感じていました。

たまたま Sさんと二人でハイヤーに乗った時、思い切って「 Sさん、私を雇ってくれませんか」と尋ねてみました。

ところが、横で聞いているはずの Sさんのほうを見たら、「ゴーッ」と大きないびきをかいて寝ていたのです。その姿を見て、改めて、やはりすごい人だなと思いました。

このいびきは、イエスともノーとも言えないという答えだったのでしょう。イエスとは言えない立場ですし、ノーと言うのも私にとって失礼だと考えたのだと思います。

また、ザ・ボディショップの親会社としてご指導を受けた流通大手の A社 CEOの Oさんです。これは噂ですが、 Oさんは一年に三百六十三日働くそうです。

休日は二日だけ。しかし、その二日の休みも目出し帽を被り、サングラスをしてお店回りをしていると噂されています。その姿からは、鬼気迫るものを感じます。

創業家である O家、そして A社のために尽くす姿勢は、雇われ社長では容易にマネすることはできません。また公私のけじめも厳しく律しておられました。

昼休みに自社グループのコンビニに、秘書に頼まず自分でおにぎりを買いに行かれていると聞きました。

ザ・ボディショップの社外取締役をしていただいていたので、取締役会の後に新商品などを渡そうとすると「自分で買うから」と決して受け取ろうとされませんでした。

こんな大企業の社長さんでも、ここまで深く会社にコミットして自分を律するのだということを学びました。

それから、私が初めて社長となった A社の H創業者からは、経営の原点を教えてもらいました。その方からは、よく会長室に呼ばれて「お前は経営について何もわかっていない。もっと野に下れ」「結局、自分のお金じゃないと思ってやっているんだろう」ということを常々言われていました。

その時は、自分なりに社長として一所懸命頑張っているつもりだったため、その言葉の本当の意味をちゃんと理解していなかったと思います。

でもある時言われたひと言が、いまも心に突き刺さっています。A社がある程度会社らしくなってきた時のことです。

マンションの一室から始まった会社ですが、社員も増え、業績も伸びてきたので、初めてきちんとしたビルを借りたそうです。

そして「オレは、 5階の社長室の窓の下を見て、ここから飛び降りて死ねるかどうかを真っ先に考えた」と。会社を、命を張って守っていくという創業者の覚悟を感じました。

実際に、私がザ・ボディショップやスターバックスで社長を務めていた時には、気がつけば私もこの H創業者と同じことをよく言っていました。「自分のお金だと思って、考えてほしい」と。この本が、手に取ってくださった方の自信へとつながりますように。

先を見通すことが困難な今の時代において、本書がほんの少しでも、皆さまのお役に立つことができたら、これほど嬉しいことはありません。

最後に私の締め切りについての我がままを根気強く聞いていただいたPHP研究所の木南勇二さん、編集にご協力をいただいた石田さやかさんに心からお礼を申し上げます。

ありがとうございました! 二〇一四年三月岩田松雄

参考文献『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』マーシャル・ゴールドスミス/マーク・ライター著、斎藤聖美訳、日本経済新聞出版社『ビジョナリー・カンパニー:時代を超える生存の原則』ジェームズ・ C・コリンズ/ジェリー・ I・ポラス著、山岡洋一訳、日経BP社『ビジョナリー・カンパニー :飛躍の法則』ジム・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP社『ハリネズミと狐 「戦争と平和」の歴史哲学』アザイア・バーリン著、河合秀和訳、岩波文庫 『BODY AND SOUL ボディショップの挑戦』アニータ・ロディック著、杉田敏訳、ジャパンタイムズ社『経営者の条件』 P・ F・ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社『エグゼクティブ・コーチング:経営幹部の潜在』キャサリン・フィッツジェラルド/ジェニファー・ガーヴェイ・バーガー編、日本能率協会コンサルティング訳、日本能率協会マネジメントセンター『エグゼクティブコーチング上・下』マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース/コンスタンティン・コロトフ/エリザベス・フローレント・トレーシー編著、橋本美博監訳、飯田恒夫訳、清川幸美訳、ファーストプレス 『[新版]組織行動のマネジメント』スティーブン・ P・ロビンス著、 木晴夫訳、ダイヤモンド社『エグゼクティブ・コーチング入門:会社を変えるリーダーになる』鈴木義幸著、日本実業出版社 『「人の上に立つ」ために本当に大切なこと』ジョン・ C・マクスウェル著、弓場隆訳、ダイヤモンド社コーチ・エィ H P

岩田松雄(いわた・まつお)元スターバックスコーヒージャパン代表取締役最高経営責任者。

リーダーシップコンサルティング代表。

1982年に日産自動車入社。

製造現場、飛び込みセールスから財務に至るまで幅広く経験し、社内留学先の UCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。

帰国後は、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ ビバレッジサービス常務執行役員を経て、 2000年 アトラスの代表取締役に就任。

3期連続赤字企業を見事に再生させる。

2009年スターバックスコーヒージャパン の CEOに就任。

2011年リーダーシップコンサルティングインクを設立。

主な著書に『「ついていきたい」と思われるリーダーになる 51の考え方』(サンマーク出版)、『スターバックス CEOだった私が社員に贈り続けた 31の言葉』『スターバックス CEOだった私が伝えたいこれからの経営に必要な 41のこと』(中経出版)、『ミッション』(アスコム)、『スターバックスのライバルは、リッツ・カールトンである。

』(角川書店)などがある。

ホームページ: http:// leadership. jpn. com/ブログ: http:// leadershipjpn. blog. fc 2. com/フェイスブック: https:// ja-jp. facebook. com/ matsuo. iwata/

「徳」がなければリーダーにはなれない「エグゼクティブ・コーチング」がなぜ必要か著 者:岩田松雄 Matsuo Iwataこの電子書籍は『「徳」がなければリーダーにはなれない』二〇一四年七月七日第一版第二刷発行を底本としています。

電子書籍版発行者:清水卓智発行所:株式会社PHP研究所東京都江東区豊洲五丁目六番五二号 〒 135-8137 http:// www. php. co. jp/ digital/製作日:二〇一五年七月二十八日本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例外を除き、禁じられています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次