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第3章分断を生み出す「7つの罠」とは?

目次

私たちは「分断」によってチャンスを失い続けている

絆徳経営では、顧客・社員・社会の三方に「よいこと」をして絆を結び、その絆を拠り所として「理念」と「経済合理性」の両方を高めていきます。絆がなければ理念をかなえることも、高収益をあげ続けることもできません。

だから私たちは日々「相手にとってよいこと」とは何かを考え、絆づくりに励むわけですが、よいことをしているのになかなか絆が強まらなかったり、せっかく絆を築いても、すぐダメになってしまうケースも散見されます。

相手によいことをしても絆が強まらないなら、それは十中八九「罠」にハマっていることが原因でしょう。

私たちのまわりには絆を分断する数々の罠がひそんでいて、多くの人が無意識にそれを踏み抜き、知らず識らずのうちに絆を損ねているのです。

「絆の分断がそんなに悪いことなのか?」そう思う方もまだいるかもしれません。しかし、絆の分断は、あらゆるコストの増大につながります。

ここでは大きく損失を受けてしまう三つのコストについて紹介しましょう。

1顧客獲得コスト

まず、お客さまとの絆が分断されると、リピートや紹介がなくなってしまうため、営業はつねに新規開拓に追われることになり「顧客獲得コスト」が増大します。新規開拓は、営業活動のなかで最もコストがかかる活動です。

営業マンの人件費はもちろん、広告費もかかり続けます。今の時代、広告を一度見ただけですぐに買ってくれる人は少数派です。

特に高額商品の場合は、何度か広告を見たのち、その会社のイベントに行ったり、デモを見たり、SNSや店舗の様子を見に行ったりと、いくつものプロセスを経てようやく購入に至るパターンが多いため、多大なる時間とお金がかかります。

こうした顧客獲得コストは、顧客との強い絆があれば不要になるコストといえます。

2人事コスト

社員との絆が分断されると、苦心して採用・育成してきた社員が辞めてしまうため「人事コスト」が増大します。

会社が人材を採用するには、求人広告料や、会社説明会の会場代、人材会社への紹介料、採用担当者の人件費など膨大なコストがかかっています。

ある調査によると、社員一人当たりの採用コストは平均九十~百万円にものぼるといいますし、もっと費用をかけている会社もあることでしょう。

そこまでして採用した人材がすぐに辞めてしまったら、採用にかけた金や労力がすべて水の泡になってしまいます。

採用したての新人が辞めてしまうのも残念ですが、ガッツリ売上をあげていたコアメンバーに抜けられてしまうのはさらに痛手です。

お客さまのほとんどを持っていたスーパー営業マンに辞められてしまい、売上は激減、経営が大打撃を受けたという話はどんな業界でも聞かれます。

社員との絆の分断は、挙げればきりがないほどの損失をもたらすのです。

3信頼コスト

社会との絆が分断されると「信頼コスト」が増大します。現代は、貨幣の価値よりも信頼の価値のほうが高いと言われる時代です。

その会社の商品、サービス、社員の待遇、働きやすさなど、ありとあらゆる部分に点数がつけられて、ネット上で公開されるからです。

ここで高評価を得て世間の信頼を勝ち取るためには、あらゆる方面で気の抜けない努力が必要になります。

ところがコツコツ築き上げた信頼も崩れるのは一瞬で、社会との絆が途切れた瞬間に信頼も地に落ちて株価が下落します。

粉飾決済や法令違反、産地偽装、個人情報の漏洩といったさまざまな不祥事で株価が急落し、トップが辞任に追い込まれるといったニュースは枚挙にいとまがありません。

上場企業ならずとも、社会との絆は大事です。

たとえば「この会社は反社会的、反市場的だ」とみなされれば、顧客はもちろん取引先ともお付き合いを続けていくのは難しくなります。

また、社会を構成する人々のなかには潜在顧客や従業員も含まれるため、社会との絆が分断されて社会的信頼がなくなると、顧客や社員との絆にも悪影響を及ぼします。

ピラミッド型の会社は、三方との絆が分断された状態になっています。

そうなると新規開拓、採用・育成、信頼獲得など、ありとあらゆる場面でコストがかかって収益を圧迫するため、経済合理性が高まるはずはないし、理念を正しく追求する余裕も持てません。

ときどき、「理念も掲げ、経済合理性のことも考えながら経営しているけどうまくいかない」という人がいます。

頑張っているのにうまくいかないと悩んでいる人の多くはまず、自分たちが「分断を生み出す7つの罠」に陥っていることに気づいていないため、ずっと抜け出せずにいるのです。

そんな状態に陥っている会社がまず行うべきは、絆を分断する「罠」に気づき、それを除去することです。

そうしないと、いくら三方に「よいこと」をしたところで絆が長続きすることはありません。といっても、さほど難しいことではありません。

なぜなら罠というのは見えないから脅威なのであって、どこにあるかが分かっていれば、いくらでも手の打ちようはあるからです。

絆づくりが種まきなら、罠の撤去はその土台を整える土づくりのようなもの──。絆がすくすく育つよう、まずは土壌をふかふかに整えてあげましょう。

「7つの罠」から抜け出す意識のリフレーミング法とは?

罠を避ける第一歩は、罠の存在に気づくことです。

私たちが無意識に行っている行動や思考のうち、どういった部分が絆の分断につながっているのか、それに気づきさえすれば、あとはリフレーミング、つまり意味づけを変えてあげるだけで、その罠を回避できるようになります。

ここでは代表的な「7つの罠」について具体的に説明していきます。

罠1「愛情」より「心の傷」を選ぶ

人間は本来、愛によって生まれ、愛によって育まれる存在ですが、その一方では、自分を大事にしたい、守りたいという自己保存本能も強く持っています。そのこと自体は悪いことではありません。

心身の痛みは死につながる可能性もあるため、他者の攻撃から自分を守ろうとするのは生物として自然なことです。

ただし、自分が受けた「心の傷」にばかりこだわっていると、大切な絆を失ってしまうことがあります。

たとえば夫婦げんかの末に相手から暴言を吐かれたとします。

相手も売り言葉に買い言葉で、本気で言ったわけではないのでしょうが、言われた側は「なんでそんなことを言われなきゃいけないんだ!」と憤り、心に小さな傷が生まれます。

このとき心の傷よりも愛情を大事にできる人なら、傷はやがてふさがり、相手との絆も修復されて、幸福な日常へ戻っていくことができるでしょう。

ところが、日頃から自分の意識のなかに、愛情よりも心の傷を選んでしまう人だとそうはいきません。

相手からもらった愛情ではなく痛みだけを思い出し、ネガティブなYouTubeの動画を何度も何度も再生するかのように、頭のなかで相手の暴言をエンドレスに反芻する。

そのたびに許せない気持ちがわき上がり、心の傷はふさがるどころかどんどん肥大して、愛も絆も失っていくのです。

こうしたことは、夫婦や親子間のみならず仕事上でもよく起こります。

上司から叱責されたり、取引先から理不尽な対応をされたりするたびに、人は心に小さな傷を負います。社会人として生きていく以上、この手の負傷を完全に避けて通ることは不可能に近いでしょう。大事なのは、傷をつくらないことではなく、できた傷と正しく向き合うことです。

罠にはまって絆を失いたくなければ、小さな傷をほじくり返して化膿させるのではなく、与えられた愛情や恩恵に対して「感謝」の意識を向けていく習慣を身につけましょう。

罠2「感謝」より「不足」を選ぶ

普段はあまり意識することはないでしょうが、私たち日本人は相当に恵まれた環境で生きています。戦争はなく、蛇口をひねればきれいな水が出て、教育や医療の質も高い。

米紙の「USニューズ&ワールド・レポート」による「ベストカントリーランキング」で日本は世界第2位(二〇二一年)となっています。

現代日本で生きられるというだけで、私たちはすでに相当なものを与えてもらっているのです。

ところが日本人の大多数は、この環境を当たり前のものだと思っています。今あるものが当たり前になってしまうと、人間はすぐに不足感をおぼえるようになります。

現状に感謝するどころか、もっと欲しい、もっと欲しいと際限なく欲しがるようになり、そこまで求めたものでも手に入れた瞬間それが「当たり前」になって、新たな不足を感じるようになります。

この不足感を健全な自己成長のために使えるのであれば、何ら問題はありません。

たとえばベストカントリーランキングの達成度にしても、2位という現状に満足することなく、さらなる高みを目指すのはすばらしいことだと思います。

ところが多くの場合、不足感は不満感へと変質していきます。不足しているのは自分以外の誰かのせいだと考え、感謝から遠ざかっていきます。

「部下が無能なせいで自分の評価が低くなっている」「上司の理解がないからボーナスが低い」などと考える人は、明らかに感謝よりも不足を選んでいます。当然ながら、そうした思考回路は絆の分断を引き起こします。

部下に責任転嫁する上司についていこうとは思わないし、会社に文句ばかり言っている社員を重用したいと思う経営者はいないからです。

だから何かしらの不足感をおぼえたときは、不満を口にする前に、自分が置かれている環境をもう一度見つめ直してみてください。

今の会社で働けていること、今の家族がいること、今の日本で生きられること。それらどれ一つとっても当たり前ではないと自覚すれば、おのずと感謝の気持ちもわいてくるはずです。

ポイントは、感謝は「する」ものではなく「伝える」ものだということです。心のなかで感謝するだけでなく、口に出して「ありがとう」と伝えましょう。

そうすれば、相手との絆はさらに強くなります。

経営者として、リーダーとして、少なくとも毎日十回の「ありがとう」を口にしていなければ、部下から見たあなたの魅力は下がっている、といっても過言ではありません。

感謝をしている、だけではなく、実際に「感謝を言葉にして伝える」ことを意識してみてください。

罠3「幸福」より「正義」を選ぶ

幸福より正義を選ぶ──。字面だけ見れば、それの何が悪いのかといぶかしく思われる方もいるかもしれません。

しかし人間は本来、幸福になるために生きているのに、正しさだけにこだわっていると、その本質を見失ってしまうことがあるのです。

たとえば、会社で日報の提出が義務づけられているのに、たびたび提出を忘れる部下がいたとします。

日報を出さないことは、たしかにルール違反ではあるものの、それくらいのことでいちいち立腹し、おたがいが不幸になるほどに相手を責め立ててはいけません。

それで部下が嫌になって辞めてしまえば、会社は日報が出されないよりもはるかに大きな痛手をこうむります。ものごとにはすべからく大小があります。

会社員にとっては、日報を出すことよりも、頑張って成果を上げることのほうがずっと大事です。その本質を忘れて自分の正義をふりかざす行為は、間違いなく絆の分断につながります。

家庭内でも同じことがいえます。夫がごみを出すと約束していたのに、出さずに会社に行ってしまった──。たしかに悪いのは夫ですが、それをネチネチ責めて幸福や絆を失うのはばかげています。

犯罪につながるような不正行為は断固として糾弾すべきですが、すべてにおいて正義やルールを最優先する必要はありません。

自分の正義を振りかざす前に、それが幸福よりも価値あるものなのかどうか、自問自答してみてください。たったこれだけのことで、日本中のあちこちで今日も大事な絆が失われています。

SNSでのイデオロギーの対立や分断は、まさにこの「幸福よりも正義」という価値観から生まれている社会現象ともいえます。

罠4「信じる」より「疑い」を選ぶ

他人を信じず疑ってばかりいては、絆など築けるはずがありません。実は、この罠にはまる人には共通点があります。それは「自分を信じることができていない」ということです。

これは恋愛で考えると分かりやすいでしょう。

たとえば、自分に自信がない人は、つねに相手にだまされるのではないか、相手が浮気しているのではないか、などと疑ってしまいます。

相手にしてみれば、そんな疑い深い人とは長く一緒にいたいと思えないので、恋愛関係はすぐに破綻します。

信じるよりも疑いを選ぶ人は、その繰り返しばかりで、いつまでたっても本当の絆をつくることができません。

心理学的に、人間は誰しも、自分は愛されていないのではないか、必要とされていないのではないかという二種類の大きな恐れをもっています。その恐れは、相手が自分に不利益なことをするのではないかという疑いに通じます。

しかし自分を信じられる人なら「自分は大丈夫だ」という確固たる安心感があるので、恐れに振りまわされないでいられる。

仮に誰かに不利益なことをされたとしても、それはそれで仕方がないとすぐに割り切って、自分はそれを解決して前に進めばいいとポジティブに乗り越えられるのです。

自分を信じることができるようになるためには、まずは、自分と小さな約束をして、それを守ることです。

一般的に、人は、他人との約束を守れば、信頼や信用を得られることを知っていますが、自分との約束を守ると「自信」が得られるということを知らない方が多いものです。

自分を信じるために、小さなことでも簡単なことでも、自分の決めたことを守ることから始めてみてはいかがでしょうか。

罠5「理解」より「批判」を選ぶ

理解より批判を選ぶというのは、能力の高い方が陥りがちな罠といえます。たとえば、ある部下のパフォーマンスが最近ガクッと落ちているとします。

疲れたような、やる気がないような表情で、普段ならメールを送ればすぐ返信があるのに、一日以上待ってもレスポンスがない。それでいて反省しているそぶりもない──。

そんな部下に対して、上司はどんな言葉をかければいいのでしょうか。上司は上司で、そのまた上司から目標を課されているので、やる気が感じられない部下には厳しくあたってしまいがちです。

そして能力が高い人ほど、「できて当たり前」なので人に厳しくなりがちです。

しかしながら、様子がおかしい部下に対して「お前どうした、やる気あるのか!」と批判から入るようでは、上司の役割を果たしているとはいえません。

上司がまずやるべきことは、相手を理解しようと努めることです。もしかしたら、部下は親の介護に追われているのかもしれません。

認知症の親から罵詈雑言を浴びせられながらも、必死で世話をしているのかもしれません。部下の人生の背景が分かれば、かける言葉も変わってくるはずです。

部下のパフォーマンスだけを見て批判するということは、部下を都合のいい道具や機械として扱っているのと同じことです。道具ではなく一人の人間として向き合えば、いきなり批判から入ることにはならないはずです。

「最近キツそうだけど何かあった?体調悪くない?」そのひと言が出た瞬間、相手の人生に対する理解や愛情が生まれ、絆もぐっと深まるでしょう。

プライベートでも同じことがいえます。彼氏がデートの約束に遅れてきたからといって、顔を見るやいなやけんか腰で詰め寄ったら、間違いなく絆はほころびます。

彼が遅刻をしてきたのは、もしかしたら彼女への愛情のためだったかもしれません。彼は仕事が忙しいけれど、その日はどうしても彼女にプレゼントを渡したくて、退社後わざわざお店に寄ってきた。

ところが店からの道が混んでいて、やむなく遅刻してしまった。そんな事情があったのに、彼女から問答無用で文句を言われたら、せっかくの愛情もまたたく間に冷めてしまいます。

罠6「与える」より「受け取る」を選ぶ

詳しくは次章で述べますが、お客さまとの絆をつくる第一ステップは、ひたすら相手にとって「よいこと」をすることです。相手が求めるものを与えて、与えて、与えまくれば、確実に絆は生まれます。

それは対お客さまだけではなく、すべての人間関係にあてはまるコミュニケーションの大原則です。ところが世の中には、与える側になるのは損だと感じる人が少なくありません。

そういう人は、「与える」よりも「受け取る」ほうばかりを選ぼうとします。

会社員なら、自社のために働いて会社の利益を上げることは考えずに、給料を受け取ることばかり考える。自分の勤務態度は棚に上げて、待遇やボーナスへの不平不満ばかり言う。

そんな言動を続けていたら、会社との絆はどんどん弱くなっていきます。家庭内でもやっぱりそうで、夫が子育てに全然参加しない。私だってゆっくり休みたいのに、子どもの面倒を見るのは自分ばかり。

そんなふうに自分が「受け取る」ことばかり考えていると、夫と一緒にいるのが嫌になって、強く結ばれていたはずの絆も途切れてしまいます。

罠7「全体」より「部分」を選ぶ

会社では、しばしば部門間で利害が対立することがあります。

たとえばお客さまに記入してもらう書類の形式ひとつとっても、営業部は、記入が面倒だとお客さまに嫌がられるから、なるべく記入欄が少ない書類にしたい。

一方の管理部としては、他の書類と共通のフォーマットのほうが管理しやすいので、そちらを採用してほしい。

そんなふうに現場と事務方で意見が対立すると、会社全体としての絆が失われてギスギスした雰囲気になっていきます。

けれども冷静になって考えてみれば、営業部も管理部も同じ会社の仲間です。視点を大きくして俯瞰的にとらえれば、絆が分断されることはありません。

たとえば青森県と秋田県がけんかしたとして、何の意味があるでしょうか。東京都と神奈川県がいがみあっても、いいことなど一つもありません。青森も秋田も東京も神奈川も日本の一部です。

どこか一部分だけがよくなったとしても、それ以外の部分が取り残されて分断が生まれたら、日本全体にとってはマイナスです。

部分は部分で大事ではありますが、全体としての会社や国をよくしたいなら、どちらにも目を向けねばなりません。部分だけではなく全体も選べる人が多くなればなるほど、組織全体の絆は強くなっていきます。

個人の「価値観」と「世界観」が分断を生む

ここまで紹介してきた「7つの罠」は、いずれも人間が持つ「価値観」と「世界観」によって生まれます。価値観というのは、その人の経験値から育まれる「ものごとの選択基準」です。

たとえば、仕事は早いほうがいいか、正確なほうがいいか──。

それまでの人生経験から「仕事は早いほうがいい」という価値観を持つに至った人は、あるていど正確性が落ちたとしても、早く仕事を終わらせる道を選択します。

かたや「仕事は正確なほうがいい」という価値観にたどり着いた人は、いくら仕事が早くても正確でなければ意味がないと考えます。

世界観とは、自分が生きる世界をどう見ているのか、いわば世界をとりまく「ものごとの在り方の解釈」です。

自分でゼロから築いていくというよりは、すでに世の中に存在するさまざまな世界観──たとえば「男とはこういうもの」「社会はこうあるべき」といった一般化・汎用化された世界観のなかから共感できるものを選んで自分のものにしていきます。

この価値観と世界観に必要以上にとらわれないことが肝心です。価値観や世界観は、何かをきっかけとしてガラリと変わることもあります。

それまで穏やかだった人が、昇進して上司になったとたんに偉ぶるようになるのは、彼のなかに「上司は部下よりも偉いもの」という世界観が入り込むからかもしれません。

転職、結婚、人事異動などで仕事や生活が変わるタイミングは、新たな世界観を獲得するタイミングでもあります。

このとき「部下というのは上司が厳しく監視しないとサボるもの」という世界観を持ってしまうと、その人は徐々に「信じるより疑いを選ぶ」ようになって、絆の分断を招いてしまうのです。

罠を知り、罠の「対比」を意識することこそ、最良の罠対策

とはいえ価値観・世界観は誰もが大事にしているものであり、簡単に捨てたり変えたりすることはできません。それよりも、自分なりの価値観や世界観を持ちながら「罠」を避ける方法を考えたほうが現実的といえるでしょう。

本章冒頭でも述べたように、罠というのはその存在さえ分かれば避けることは容易です。道の先に落とし穴があることを知らなければ落ちてしまいますが、知っているなら迂回すればいいだけのことです。

本書のケースでいえば、7つの罠として紹介した「〇〇より××を選ぶ」の対比を意識し、間違ったほうを選ばないようにする。

それが最も重要で、最も効果的な罠対策になるのです。

「自分は今〝愛情より心の傷〟を選んではいないだろうか?」「この提案は〝全体より部分〟を選んでいることにならないか?」そんなふうに自問自答し、自分がどちらの状態にあるかを意識していれば、罠に落ちることはありません。

単純なことではありますが、この確認作業を習慣化させるには少々時間がかかるかもしれません。

アメリカを代表する自己啓発書作家アンソニー・ロビンズ氏が「愛には努力が必要」と指摘しているように、よい状態を維持するには何らかの努力をする必要があるのです。

同様に、7つの対比のうち「よいほう」を選択し続けるにも努力が必要です。

なぜなら人は誰しも自分なりの価値観・世界観を持っているので、無自覚に生きていると、価値観が異なる人を排除したり、独善的な世界観で相手を批判するようになっていきます。

あるいは、上司になったばかりのころは部下を信用できていたのに、他の上司と付き合ううちに「部下には仕事を任せられない」という価値観が入り込んできて、部下を疑うようになったりもします。

例を挙げればきりがありませんが、人は無自覚に生きていると「悪いほう」を選択する可能性があるのです。だからこそ日頃から7つの対比を意識し、つねによい選択に寄せていく努力が必要になるのです。

共感するメンバーの比率を増やしていきなさい

価値観や世界観の違いは時に分断を生みますが、だからといって、自分とは違う考えの持ち主を排除すれば、別の分断を招いてしまいます。

いくら社長でも「気が合わないから辞めてもらう」なんていう排他的なことをしていたら、会社を持続させることはできません。

多様性の確保はSDGsを推進するうえでも重要な課題です。持続可能な経営を行うためには、むしろさまざまな価値観・世界観を持つ社員を受け入れていく必要があるのです。

では、どうすれば価値観や世界観が異なる人と絆を築けるのでしょうか。両者の溝を埋めるのは「共感」以外にありません。

たとえ考え方が違う相手でも、どこかに共感できる部分があれば対立は回避できます。だから社内に共感できるメンバーが増えれば増えるほど、社内の絆は深まりやすくなります。

共感メンバーを増やす第一歩は、身近にいる人がどんな人で、何を求めているかを知ることです。それは決して難しいことではなく、相手に興味をもって接していれば自然と分かってくるものです。

「社員が何を考えているか全然分からない」という経営者は、おそらく普段からコミュニケーションを相当おざなりにしているのではないでしょうか。

朝、オフィスに行っても誰とも目を合わせず、自席にドカッと座っていきなり作業を始めるようでは、理解も共感も生まれるはずがありません。社員を理解したいなら、まずは毎朝、顔を見て挨拶することから始めましょう。

何日か続けていれば「今日は元気がなさそうだ」「今朝は張り切っているな」など、相手のことがどんどん分かるようになってきます。

アンソニー・ロビンズ氏によると、人間の行動は、その人の頭の中にあるプライマリークエスチョン(中心的な質問)によって影響を受けると言います。

プライマリークエスチョンが「今期は予算を達成できるだろうか?」になっている人は、つねに予算達成を優先するため、周囲の人間には意識が向きにくくなります。

自分がそのタイプだと思うなら、ぜひともプライマリークエスチョンに「人」を入れるよう意識してください。

「部下はどんな人で、何を求めているのだろう?」そんな問いがつねに頭の中心にあれば、自然と部下たちに目がいって、理解や共感も育まれるはずです。

自分のため、絆のために「秘密の窓」を開けていけ

多様な人と一緒に働いていくためには、相手のことを知るのと同じくらい、自分を相手に知ってもらうことも大切です。

それも、相手に知らせたいことだけではなく、できるだけ知られたくないことや、秘密にしておきたいこともオープンに自己開示していく。

「今までこんなこと言っちゃダメだと思って言わなかったけど、本当はこう思っているんだ」という自己開示ができるようになればなるほど共感が生まれ、罠にはまらなくなっていくからです。

おまけに、積極的な自己開示は新たなアイディアの創出にもつながります。話は少々脱線しますが「ジョハリの窓」という心理学用語をご存じでしょうか。

アメリカの心理学者によって考案された有名な自己分析モデルで、「自分から見た自分」と「他人から見た自分」を切り分けて分析し、コミュニケーションの円滑化に役立てるものです。

「ジョハリの窓」では、人の性質や特徴を、自分も他人も知っている「開放の窓」、自分は気づいていないが他人は知っている「盲点の窓」、自分は知っているが他人は気づいていない「秘密の窓」、誰からもまだ知られていない「未知の窓」の四つに分類します。

これら四つの窓のなかでも特に重要なのが「未知の窓」で、この場所にはすばらしい宝物が隠されていると、私はよく表現します。

たとえば「今期の売上を三倍にする方法」があるかないかといえば、絶対にあるでしょう。ただし、その方法は自分も知らないし、他人も知らない「未知の窓」のなかにあるから知覚できないというわけです。

未知の窓を自力でこじ開けることは不可能ですが、盲点の窓と秘密の窓を小さくして、開放の窓を大きくすると、未知の窓の存在に気づくことができます。盲点の窓を小さくするためには、そこに何があるのかを他人から教えてもらう必要があります。

すると、他人だけが知っていた情報は、他人も自分も知っている情報になるので、そのぶん盲点の窓が小さくなります。ただし、相手が自分について何も知らなければこの方法は使えません。

つまり、他人の力を借りずに自力で作用できるのは秘密の窓だけ、ということになります。

だから、お宝が眠っている「未知の窓」に到達したいなら、まずは自己開示をして秘密の窓をどんどん開けて、解放の窓を大きくするしかない。

「実は私、こう思っていたんですよ」「そうだったんですか」というやり取りを重ねることで、少しずつ秘密を減らして、未知の窓のなかに隠された宝物に近づいていくのです。

部下の意識を変えたければ、自分の「身体、焦点、言葉」を変えなさい

絆を分断する罠に陥らないためには、本人が罠の存在に気づき、罠を避けるよう努力するのが一番です。

ただし、手本となるべき上司や経営者が「愛情より心の傷」「感謝より不足」を選んでいるようでは、社員も右へならえとばかりに悪い方へ流されてしまいます。

社員の意識を変えたいならば、まずはトップ自身が変わらねばなりません。

「最近、部下の意識がネガティブに傾いているな」「上司と部下の絆がぐらついているな」そんなふうに感じたときは、アンソニー・ロビンズ氏が言うところの「トライアッド」をぜひ試してみてください。

トライアッドとは「身体、焦点、言葉」の三点を変えることで、心身をよい状態にもっていくことをいいます。

1身体を変える

身体を変えるとは、たとえば呼吸をゆっくりしたり、背筋を伸ばしたり、にこやかな表情を浮かべたりすることです。

たとえ心のなかがイライラしていても、ニコニコ笑顔を浮かべていれば、それだけで自然とイラつきがおさまって前向きな気持ちになっていきます。

2焦点を変える

焦点を変えるとは、さまざまな事象のどこに焦点を置くかという問題です。たとえば部下を見るとき、長所と短所のどちらに焦点を合わせるかによって、こちらのストレス状態や評価はがらりと変わってきます。

ポジティブな面に焦点を置くためには、その人に対するプライマリークエスチョンをポジティブなものにすればいい。

「あいつは何でできないのか?」という質問が一番にくると、できない理由にばかり目が向いてしまうので、「彼が得意なことって何だろう?」「彼は今日どんなことを頑張っただろう?」と考えるようにするのです。

3言葉を変える

言葉を変えるとは、悪口を言わず、嘘をつかず、自分の口から出る言葉をポジティブでよいものにしていくことです。

日頃から「ありがとう」という言葉を意識的に使っていれば、自然と感謝できるようになるでしょう。

この三点は、身体がよくなれば焦点や言葉もよくなり、焦点が悪いと身体や言葉も悪くなるというように、互いに影響を及ぼし合うため、どこか一点だけをよくするのではなく、トライアッドすべてをよくしていくことが大切です。

トライアッドは仏教の教えにも通じるものがあります。

私は以前、高野山の金剛峯寺で修行をさせていただいたことがあるのですが「仏教には何万巻もの教えがあるが、究極的には三文字に集約される。それは〝身口意〟だ」というお話をうかがいました。

身とは身体、口は言葉、意は意識──。

身体の使い方、口のきき方、意識の置き方に気をつけよという教えは、まさにトライアッドそのものといえます。

この話をお聞きしたのは、ちょうどロンドンで開催されたアンソニー・ロビンズ氏のセミナーに行った一週間後くらいのことだったので、その共時性に感動したのを覚えています。

さて、社長自身がトライアッド(もしくは身口意)を整えると、周囲の人々も変わってきます。相手の動きをまねる「マッチング」や、相手の振る舞いを鏡に映った人のようにする「ミラーリング」が行われるためです。

特に社長は、マッチングやミラーリングの対象になりやすいと言われています。

「社長と同じような姿をしていれば反発を招かないだろう」という判断が、無意識のうちに働くからです。

社長がいつも苦り切った顔をしている会社では、社員もみんなしかめっ面になっていきます。だから部下の意識を整えたいなら、まずは社長が率先してトライアッドを実践してください。

姿勢を正し、部下のできない部分ではなく美しい部分に目を向け、日頃からポジティブで丁寧な言葉を心がける。

そうすれば部下たちのトライアッドも自然とよくなって、愛情よりも心の傷を選ぶなどといった罠にハマらないようになっていきます。

こうした意識改革は、社内の環境や給与などの待遇を上げるよりも、はるかに絆を育む効果があります。

アメリカの臨床心理学者・ハーズバーグの二要因理論によると、給与や福利厚生などの「衛生要因」は、不足すると不満がたまるけれど、必要以上に改善しても満足感は上がらない。

それよりも、標準的な衛生要因を満たしたうえで、仕事のやりがいや人間関係といった「動機づけ要因」を高めるほうが、はるかにモチベーションや満足度が高まるといいます。

これは実際そのとおりだと、私も経営者として日々実感しています。

「社員に不満がたまっているようだからボーナスを出すか」というように衛生要因で解決しようとする社長は結構多いものですが、「動機づけ要因」にならないため、それだけでは満足度は上がらず社員との絆は築けません。

分断を回避し、社員との絆を強くするためには、社長自らトライアッドを改めつつ、「動機づけ要因」を高めていく。

そうやって社員に絆徳経営を啓蒙していく必要があるのです。

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