あなたはここまでに、たくさんのテクニックを学んできました。
こうしたテクニックを使い込んで自分のものになってくると「テクニックはもういらない」と思える時期が必ずやってくるはずです。
つまり、意識してテクニックを使わなくても、抵抗感を克服し、必要な仕事に集中し、効率よく働けると思えるようになるのです。
そこまで来れば、テクニックを超えて、ごく自然に時間を有効活用できる達人の域も間近。
17章は、そんな達人の境地を目指すために「自分をコントロールする能力」について考えます。
抵抗感を利用して人生を充実させる
日常生活をコントロールできるかどうかは「抵抗感をどう利用するか」にかかっていると言っても過言ではありません。
抵抗感は、けっしてネガティブなものではなく、抵抗感を積極的に取り込めば、エキサイティングで充実した人生が送れます。
逆に、抵抗感に対して、消極的な対応をするのが習慣になってしまうと「仕事に追われるストレスだらけの人生」もしくは「毎日何も達成せずに過ぎていくむなしい人生」を受け入れざるを得ません。
本来人間は、抵抗感が少ない行動を選択する傾向があるもの。
選択肢が「食うか、飢えるか」なら「食う(働く)」方が「飢える(死ぬ)」より抵抗感の少ない選択肢として選ばれるのは当然でしょう。
長年人類は、そうやって行動を選択してきました。
しかし、現代のようにモノにあふれた時代では、このような生死に結びつけた選択をする必要はありません。
つまり、抵抗感の少ない道を選択する方が、必ずしもより望ましいとは限らないのです。
ここではまず、抵抗感と恐怖感を分けて考えることから始めましょう。
抵抗感とは、チャレンジ精神や努力が必要な仕事に対して抱く気持ちです。
他方、恐怖感とは、危険な状況に対して抱く気持ちです。
道路の反対車線を走ったり、焼けた石を素手でつかむことに抵抗があるのは、結果が想定できるからです。
つまり、私たちはどんな場合に抵抗すべきかを知っています。
そして、抵抗すべきケースで恐怖を感じることで、適切な行動を取ることができます。
抵抗感とは「行動をうながすサイン」
問題になるのは、抵抗を感じることが必要な行動をしない原因になる(あるいは、不要な行動をしてしまう)場合です。
本書で「抵抗感」として問題にしているのは、この「しなければならない」と思っていることに抵抗を感じることです。
心の底では「この仕事をしなければだめだ」と感じている。
しかし、だからこそ抵抗感も生まれてしまうということです。
「もっと練習をしなければだめだ」「子どもに接する時間を減らしてはだめだ」「論文作成を進めなければだめだ」「クライアントをフォローしなければだめだ」「安全に対する行動が必要だ」頭ではそう考えてはいても、抵抗感があると行動が遅れます。
その結果は、練習不足による心臓麻痺、子どもとの関係断絶、博士号取得の失敗、クライアントの喪失、事故の発生……ということになります。
どれも「他人が望むからやるべきだ」と考えた結果ではありません。
〝したいからする〟つまり「健康でいたい」「子どもと仲よくしたい」「博士号を取りたい」「事業で成功したい」「安全な職場を作りたい」という自分自身の考えが元になっています。
問題はすぐに行動できるかどうかです。
何かを「したい」と思っても、その思いは、必要な行動への抵抗感を抑えてくれるわけではないのです。
しかし、抵抗感を「仕事から逃げるため」ではなく「行動をうながすサイン」だと考えられたら、悲惨な結末は避けられる可能性が高いはず。
「抵抗感は行動をうながすサイン」─これが、この章の鍵となる考え方です。
白状すると、今、私が一番強く抵抗を感じているのは、この本を書くことです。
本を書いたことのある人なら、執筆のつらさはよくおわかりでしょう。
しかし、私はこの抵抗感を「必要な行動をうながすサイン」と考えて、誘惑を振り払い、毎日、何とか執筆を続けています。
言葉があふれ出るような日もあれば、文章を書くのが拷問に思える日もあります。
しかし、どんな気持ちでいようと、とにかく座って書くことが大切だと思いつつ書き続けています。
抵抗が一番大きい仕事からする
人間には「嫌な仕事」「本当の仕事」を避ける口実として「忙しいだけの仕事」に手をつける傾向があります。
しかし、最初から「抵抗のある仕事」に取りかかってしまえば、「忙しいだけの仕事」は不要。
つまり「忙しいだけの仕事」は自然に消滅してしまうのです。
抵抗感を「行動をうながすサイン」にすることについて、さらに考えてみましょう。
抵抗を感じる仕事から逃げれば、抵抗感はさらに大きくなります。
ですから、「忙しいだけの仕事」に手をつければ、嫌な仕事から逃げたいという気持ちに拍車をかける悪循環に陥ってしまいます。
本来、「抵抗感をなくす方法」は、次の2つしかありません。
方法1抵抗を感じる仕事をやってしまう方法2そんな仕事は「しない」と決断するここで考えたいのは2つ目です。
「しない」原因を分析すると、たいていは「ただ何となく」「しない方がよいと思った」といった場合が多いのです。
例えば、他人から「この仕事をしろ」と命令され、圧力をかけられて「何を言っているんだ」「そんな仕事は願い下げだ」と反射的に抵抗感が生まれたような場合がそうです。
ここで練習をしてください。
〝達人への道〟へと向かう第一歩です。
まず「抵抗している対象を見つけ出す能力」、次にその対象に取りかかることで「抵抗を減らす能力」。
この2つを向上させるための練習です。
これは初歩的なテクニック。
最終目的はテクニックを使わなくても自然に抵抗感を減らせるようになることです。
どんな場合でも「抵抗感に対する最高の対策は行動」であることを肝に銘じておいてください。
抵抗感を利用する達人への第一歩として以下の4点を意識して練習してみましょう。
練習1「衝動で行動する時」と「決断して行動する時」を分けて認識する練習2抵抗をガイド役にして行動する感覚を知る
練習3日常で、自分が抵抗を感じていることを今以上に意識する練習4日常で「何に抵抗を感じるか」に焦点を当てるどの練習も「もう必要ない」と思えるまで、日常の中で続けるのがベストです。
自分自身をコントロールできる能力は時々刻々変化するので、この練習を一からくり返すことになっても落胆することはありません。
どんな時に衝動に駆られて行動するか?
誰でも一度は衝動買いをしたことがあるもの。
〝衝動買い〟と言うくらいですから、これは理屈に合わない行動です。
ですから、自分の行動を正当化しようと、後からこんなことを言ったりします。
「どっちみち、必要なものだったけどね」この言葉で、少なくとも衝動買いをした時には、思慮のない行動をしたことを認めているわけです。
こうした失敗は〝たまたま〟ではありません。
人は、無意識のうちに衝動的な反応をしていることが多いのですが、日常、それには気づいていません。
自分がどの程度、衝動的な反応をしているのかは、自分で確かめることができるのです。
衝動的な行動を自覚するために「行動にラベルをつける」練習をしてみましょう。
EXERCISE行動にラベルをつける
これから説明する方法で、まずは5分から10分くらい取り組んでみてください。
まず「意識して決めた仕事をする練習」から始めます。
仕事は何でもかまいません。
取り組むことを決めたら、開始直前に、自分の意思を自分に対して宣言します。
一番よいのは「私は今から○○に取りかかります」と声に出してみることです。
「私は今からメールの返事を出します」「私は今からオフィスを整理します」「私は今から夜の授業の準備をします」このように、どんな仕事も必ず宣言をしてから始めてください。
その仕事をしている間「衝動に対する心の動き」を観察してください。
いろいろな形で衝動が現れてくるはずです。
言葉にしてみると、次のようになるでしょう。
「コーヒーを飲んでもいいかしら」「電話をするのを忘れた」「植木に水をやらなきゃいけない」こうした衝動が起きると、仕事を中断してコーヒーを入れたり、Aさんに電話したり、植木に水をやったりすることになります。
この程度のことに「意思決定」の出番は必要ありません。
意識して選択されたのではなく、単に衝動に反応した結果だからです。
ここで「ラべリング」という手法を登場させます。
何らかの衝動を感じたら、「コーヒーが飲みたい」「電話がしたい」と衝動の内容を口に出して〝ラベルを貼る〟ことではっきり認識してください。
ラベルを貼ることで、衝動がはっきり意識されると、その衝動が消しやすくなります。
一番衝動に弱くなる時間は休憩直後。
休憩明けにメールの処理をするなら、衝動に流される前に「私はメールに返事を出します」とまず宣言して仕事に戻りましょう。
この練習は、長時間続けなくても結構です。
期限を設け、短時間の練習から始めてください。
慣れてきたら少しずつ時間を延ばすとよいでしょう。
30分続けてできるようになれば、仕事が順調に進んでいるはずです。
達人の境地に近づく「はじめの一歩」はここからです。
CHAPTER17まとめ
●抵抗感を「その仕事はしない方がいい」というサインと考えず、むしろ「行動をうながすサイン」だと受け止める。
●抵抗感を感じる仕事から逃げていると、抵抗感はさらに大きくなる。
●衝動に流されて、不要な行動をしがちである。
何らかの衝動を感じたら、口に出してラベリングすることで、明確に意識できるようになる。
意識できれば、自分自身のコントロールも容易になる。
おわりに
本書を読み終えての効果はいかがでしょうか?創造力を豊かにし、整理を行き届かせ、さらに効率よく仕事を進めるという本書の目的はどの程度達成されたでしょうか?本書を読み終えるに当たって、次のテストをやってみましょう。
創造力を10点満点で採点すると()点整理のレベルを10点満点で採点すると()点2つをかけ合わせて、効率のパーセンテージを計算すると()%もしかすると、さらにスコアを上げる余地があるかもしれません。
次のチェック・リストで課題が残っていないか検証してみましょう。
□毎日、その日の仕事のWILLDOリストを作成している。
□WILLDOリストは、毎日確実に終わらせることを目標にしている。
□リストにない仕事をする時には、必ずリストに書き加えている。
□仕事が3日続けて完了できない時は、以下の3点から仕事の仕方を見直している。
(1)仕事の効率はよいか(2)仕事を抱えすぎていないか(3)充分な時間を確保しているか□メールは基本的に翌日処理している。
□書類は基本的に翌日処理している。
□電話メッセージは基本的に翌日処理している。
□タスクは基本的に翌日処理している。
□タスク・ダイアリーを作っている。
□仕事はタスク・ダイアリーの翌日(または、それ以降)に記入している。
□毎日、一番初めに取りかかるのはファースト・タスクだ。
チェックがつかなかった項目があったら、本書の該当のページに戻って読み直し、あなたの仕事のシステムを見直してください。
さあ、これで大丈夫。
あなたの成功を心からお祈りしています。
マーク・フォースター
訳者あとがき─考える時間の大切さ米国の経営学の教材に「プライベート・ジェット(個人用ジェット機)運用会社の経営論(AviationManagement)」があります。
それを読んでいると「プライベート・ジェット機のセールス」についての解説に、こんなフレーズが出てきます。
「プライベート・ジェットの顧客は、基本的に便利さなどは求めていない。
欲しいのはプライベートな時間であり、ものごとを考える時間である」私は、長年ホンダ(本田技研工業)で自動車やオートバイ関連の仕事をしてきました。
「クルマがあると便利になりますよ」とか「オートバイで配達して、仕事の効率を上げましょう」といったセールストークが身についていました。
しかし、個人でジェット機を買う人は「便利さ」「効率の向上」にはあまり魅力は感じないというのです。
教材によれば、その理由は「移動が効率的になって時間があけば、そこに新しい仕事が入るから」。
プライベート・ジェットでさらに新しい仕事が増えて忙しくなるイメージを与えては、セールスにはつながらないというのです。
ですから、売る側が使うべきフレーズは「移動が楽になり、仕事の効率が上がります」ではなく「一人の時間(=考える時間)が持てるようになります」だというわけです。
この話を「優れたタイム・マネジメント」に置き換えると、面白いことがわかります。
つまりタイム・マネジメントを改善して仕事の効率が上がったとしても、空いた時間に新しい仕事が押し寄せてくるだけなら、せっかくの努力も水の泡だということです。
そんな事態を避けるには、優れた手法を得た結果が「一人の時間(考える時間)」でなければなりません。
それこそが、本書が言う「本当の仕事」をする時間であり「仕事に向き合う時間」です。
ここで本文を振り返ってみましょう。
「本当の仕事」とは、目標に近づくためのものです。
そのためには、あなたの能力すべてを使わなければなりません。
つらい困難にぶつかることもあるし、限界にチャレンジする必要もあります。
ときには「もう嫌だ」と思うこともあるでしょう。
「本当の仕事」には、綿密な計画と入念な思考の時間が必要です。
(中略)「忙しいだけの仕事」は「本当の仕事」をしない口実に過ぎません。
(6章)仕事に〝向き合う〟というのは、仕事について考えることです。
仕事の目的・意味を考える、構想を練る、目標を設定する、新しい企画を考える、計画を立案する、といったことが含まれます。
(16章)現代は「情報化の時代」と言われます。
「情報化=進化」というのが一般的な理解かもしれませんが、どんなものにも功罪はつきものでしょう。
もしそうなら、情報化の「罪」とは何でしょうか?私は、その最たるものが「人間を考えない存在にしていること」ではないかと思っています。
情報化によってオフィスに入り込んできた機材は、オフィス・ワーカーからどんどん考えるチャンスを奪っている気がしてなりません。
1日、パソコンに向かって働く中で「本当の仕事」についてしっかり考える時間はあるでしょうか。
(あくまで私の経験から申しあげますが)パソコンを介してする仕事の多くは「忙しいだけの仕事」です。
もちろん、パソコンを前にじっくり考えることもできますが、本書が指摘するように、パソコンがもたらす新たな情報に翻弄されがちになるのは大きな課題です。
〝衝動の脳〟にひきずられるままに、こうした状況への抵抗が忘れられてしまうと、オフィスは「忙しいだけの仕事」であふれることになり、腰を据えて「本当の仕事」をする場所ではなくなってしまいます。
本書を通じて、優れた仕事のシステムを手に入れるということは、プライベート・ジェットを手にするようなものではないでしょうか。
その結果として(冒頭の教材に言う「移動が楽になり、仕事の効率が上がる」という結果は当然のこととして)、ぜひ「一人の時間が持てるようになる」すなわち「考える」ことができる毎日を手に入れてください。
そのためにこそ本書を最大限活用していただくのが、本書を紹介した訳者としての願いです。
「本当の仕事」にも「仕事に向き合う」にも「考える」ことが必須です。
事業やあなた自身を「目指すところに近づける」のは、まずは「考える」ことだからです。
あなたが手にしたプライベート・ジェット、いや、仕事のシステムが「考える」ことの大切さへの気づきになることを心から願って、訳者あとがきとさせていただきます。
青木高夫
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