1「チーム」を超えて「仲間関係」をつくろう
「ひとりの段取り」と「チームの段取り」
自分ひとりで仕事を進めるための段取りであれば、わりとシンプルです。しかし、ほとんどのプロジェクトは、もうひとつの要素が必要となります。すなわち「チームでの段取り」です。
今は働き方が多様化し、社内外でチームをつくるという動きも増えています。そこで、CHAPTER5では「チームの段取り」について述べていきます。
ひとりでもがくのではなく、人を巻き込んで大きく仕事を動かしていく。これも新しい時代の段取りの大事な要素です。
わが社のプロデューサーでありぼくの妻である水野由紀子は、会社にもぼく個人にもなくてはならない存在ですが、段取りにかけても相当なスゴ腕です。
帰りのタクシーに乗ったと同時に、支払いのためのスマホと家の鍵を握っているのはあたりまえ。ぼくよりも彼女のほうが段取りについて多くを書けるかもしれないと思うほどです。
彼女の前職はテレビ局員で、毎日が「時間内に膨大なやるべきことをこなす修業」みたいな状態だったから、自然と身についたのかもしれません。
結婚する前、彼女が仲よさそうに電話をしている相手が駐車場のおじさんだと知って、驚いたことがあります。
聞けば、タレント事務所の人が「駐車場内のいいところに停めさせてほしい」と言ってくるそうです。
出演者に時間どおりに気分よくスタジオに入ってもらうのがスタッフの仕事であれば、ちょっぴりわがままなリクエストにも対応するために、いつでも駐車場のおじさんにお願いできる関係があるほうがいい。
妻は新人のころから、駐車場のおじさんにお菓子や飲み物を差し入れたりして、親しくなっていたのです。最近、この話を思い出して、まさに仕事のための段取りだなあと感じました。
「この番組のための段取り」とか「このタレントさんのための手配」ではなく、駐車場の融通をきかせるというのは、どんな番組でも必要です。
つまり、ひとつの関係性をつくったことで、仕事が効率化するのです。こうして駐車場のおじさんも「自分のチームの一員」とすることで、仕事をパワーアップさせていたのではないかと感じます。
酒を酌み交わして「仲間」になる
プロジェクトには社内外のさまざまな職種の人が参画します。当然それぞれの立場があって、価値観もみんな違います。よって、チームで動いていくときにはすれ違いやトラブルはつきものです。
ぼくらはこれまでいろいろなプロジェクトを経験してきましたが、そういったすれ違いやトラブルはほぼ起きません。
それは早い段階で「生身のコミュニケーション」をとっているからです。
クリエイティブディレクターというのは、下請け業でもあり、「先生」と呼ばれることもある、ちょっと変わった立場です。
クライアントの担当者は、ぼくのような立ち位置の人間に慣れていますが、実際の工事をしてくれる現場の人たちは、やりにくそうにしていることも多々あります。
2004年、山形県の「湯野浜温泉亀や」の内装を手がけたときもそうでした。地元の工務店の大工さんたちから見たら、14年前のぼくは東京から来た若造です。
「クリエイティブディレクター?なんだこいつ。大丈夫か」内心ではそう思いながら、「先生」ととりあえず呼んでいるようなぎこちない関係。ぼくの提案に対しても、「何言ってんだ、そんなものできない」「東京の先生の言うことは、難しくてわかんねえや」などと、にべもなく断られることがしばしばでした。
とうとう工事が止まってしまったとき、ぼくは酒屋で調達した一升瓶を2本抱えて、大工さんたちが休憩する仮設のプレハブに行きました。
「お疲れさまです!飲みませんか」腹を割って話して、生身のコミュニケーションをとり、仲間になる。
そこからはじめなければだめだと考えての苦肉の策でしたが、とことん飲んだ翌日から、仕事はうまくいきはじめたのです。
馬場康夫さんの『「エンタメ」の夜明け』によれば、ディズニーランドをつくる際の最後の難関は、浦安の漁師さんたちに納得して土地を譲っていただくこと。
そこで呼ばれたのが、当時三井物産でいちばん肝臓が強い人だった、と書いてありましたが、プロジェクトを進行していくうえで、そういう泥臭い要素はゼロではないと思います。
決して「お酒」が必要だという話ではありません。
自分をさらけだした、人間臭い、生身のコミュニケーションがなければ生まれない信頼関係もある、ということです。
気心の知れない人間に対して、「目的に向かって、一緒に仕事をやりとげよう」と真剣に思ってくれる人はいません。
まずは「人と人」としてしっかりコミュニケーションをとることで、結果的にお互いのモチベーションが高まり、目的を確認し、同じ方向を向くことができる。
このプロセスなくして、チームの段取りは成立しません。だからこそ、仕事の立ち上げ時に飲み会や食事会をする際に、ぼくは仕事の話をしないことにしています。
相鉄のプロジェクトでも、車両のプロ、塗装のプロ、線路のプロ、いろいろな人たちと飲みに行きましたし、朝までカラオケもしましたが、単に盛り上がって楽しんだだけでした。
段取りとは、仕事の効率化を求めるもので、ルーティン化や何よりも時間を優先するといったテクニカルな作業です。しかし、テクニックだけで人間関係を抜きにしたらうまく機能しません。
チームでやっていくのであれば、これだけは忘れてはならないと思っています。
チーム内の「上下関係」を排除する
チームで仕事をするときに何よりも重要なのは、「仕事の目的」を優先すること。「この仕事で何をやるか」が大切です。
これはあたりまえのことに思えるかもしれませんが、案外難しいものです。
社内のチームであれば、役職や年齢などの「上下関係」、部署と部署の「利害関係」が、仕事の目的よりも優先されてしまうことがあるでしょう。社外の人とチームを組む場合は「発注側と受注側」という上下関係が生じてしまうのです。
ぼくもいってみれば、「その会社のプロジェクトの下請け」です。
ところが実際のところ、クリエイティブディレクターは「先生」などと呼ばれ、「お願いします」と言われる立場におかれがちで、これもある種の上下関係に思えて、居心地が悪くなります。
居心地が悪いばかりか、「発注側と受注側」という関係性をもち込んでしまうと、仕事の目的を果たせなくなります。
仮にクライアントが、「うちの会社の認知度を上げるために、イメージキャラクターをつくってほしい。そうだな、くまモンみたいなかんじで、うさぎピョンというのを頼みますよ」と言ってきたとします。
そこに発注側と受注側という関係性をもち込んでしまうと、「はい、うさぎピョン、よろこんで!さっそくデザイン案をつくってプレゼンをします」という段取りになってしまいます。
何も考えず、いきなり「お願いされたことを、いつまでにやる」というスケジューリングに集中してしまうのです。
しかしキャラクターで会社の認知度がベストのかたちで上がる結果となるかといえば、違うでしょう。
逆にぼくが「先生だぞ俺は。俺のセンスに従え」と独りよがりな押し付けをしたら、「デザインはおもしろいけれど、誰にも受け入れられない」という奇妙なものをつくってしまう可能性もあります。
いずれもチームとして機能していない、最悪のケースです。極端な例を出しましたが、どんな会社のどんな小さなチームでも、似たようなことが行なわれている気がします。
チームでいちばんえらい人が「これをやろう」と言ったからといって、いきなり段取りに入ってはいけない。
チームの関係性に気をつかって、「反対したら気まずくなるかもしれない」と、目的を歪めてはいけない。
同じ会社であろうとなかろうと、役職が上だろうと下だろうと、業種が同じであろうとなかろうと、「チームの仕事の目的」を共有しなければなりません。チームだと役割分担といったことも必要になるので、つい、段取りを優先しがちです。
しかし、目的の共有ができていない段取りは、間違った場所にたどりつくルートマップにしかなりません。
2チーム全体で同じ方向を向くために
「チームで仕事を進める」とは「約束を果たすこと」である
チームで仕事をしていくときは、たくさんの「約束」が生じます。
「これを、いつまでに、やってほしい」というリクエストをメンバーひとりひとりが交わし、それを果たしていって初めてチームが機能します。
仕事とは、もっといえばすべてのものごととは、何か約束をして、そこに向かって歩いていくことだとぼくは思います。
「これを/いつまでに/やりとげる」という約束を果たすためのベストな道をつくることが、段取りといってもいいでしょう。
つまり段取りというのは、ものごとと人との間にあるわけではなく、「人と人の間」に存在しているのです。これを大前提として、押さえておきましょう。
先に述べたとおり、締め切りを確認せず、なんとなく仕事を進めるクセがある人は案外多いようです。
もう一度、「これは締め切りではなく、チームを組んでいる人たちとの、人と人との約束だ」と意識するといいでしょう。ぼくの会社のスタッフにも、締め切りをあいまいにしてしまう人がいました。
クライアントさんに、「何月何日の何時までに、ラフデザインをご提案します」と伝える、ただこれだけのことができないのです。
いきなり、「できました」と提案したり、相手から催促されて「えっ、まだできていません」と慌てたりしていたのです。
そんな彼らもプライベートではちゃんと約束を守っているのですから、意識をスイッチすればすぐに改善されます。
「友だちとご飯を食べに行こうと話していた数日後、『俺は今、渋谷の焼肉屋にいるんだけど、なんでおまえ来ないの?』なんて、いきなりLINEが来たらどうする?『え、どういうこと?約束してないよね』ってなるじゃない。
締め切りを決めないって、今仕事においてそういうことをやろうとしているんだよ」ぼくはこんなふうに話すのですが、みんなすぐにわかってくれます。締め切りに限らず、チームでは繰り返し、約束ごとの確認を行ないましょう。
「仕事ではなく、人と人との約束だ」という意識で進めることが大切です。
「共有」で仕事の精度を上げていく
チームで仕事をしているのに、なぜか仕事を抱え込んでしまう人がいます。
たとえば、「できているの?」と聞いてもはっきり答えなかったり、「大変だったら手伝おうか?」と聞いても、「大丈夫です」とひとりでがんばったりします。
ぼくが思うに、仕事を抱え込む理由は2つあります。
ひとつは、自信があるから。もうひとつは否定されたくないから。
自信をもっている人は、「これが絶対に正しい」と信じているので、相談する必要がないと思っています。迷わず、相談せず、かといって自分で検証もせず、サクサク段取りをして独りよがりに突き進んでいきます。
否定されたくない人は、たぶん自信がないのだと思います。
自分の仕事を途中で誰かに見せて、「これ、間違ってるよ」などと指摘されると、自分という存在が否定されたようで傷ついてしまうし、弱みを見せたくないという思いもあるのでしょう。
いずれのタイプも、取り返しがつかない時点でミスが発覚し、チーム全体に迷惑をかける危険をはらんでいます。
ぼくはスタッフにいつも、「あんまり自信をもたないで。自信がないほうが、いい仕事ができるよ」と話しています。
自信があってもなくても仕事を抱え込む原因となりますが、過信している人は、仕事のスピードも速いので、間違った方向にいっていた場合は被害が大きくなるためです。
ちまたでは「自分を信じろ」とか「根拠のない自信が大事だ」などと言われていますが、絶対的に正しい人は誰もいないというのがぼくの考えです。
「みんな間違うこともある」くらいの気構えで、オープンに仕事をしていく。お互いに自信という鎧で自分を防御していないほうが、チームとして協力できます。
仕事はスタートするときにも実行するときにも、できるだけたくさんの人を巻き込んでいくことが大切です。そのためには、ちっぽけなプライドや自信は、いらないどころか邪魔だと思うのです。
3本音のコミュニケーションがチームを円滑にする
段取りでも「忖度」しない
「空気を読まない」「本音で語る」というのは、段取りにおいてすごく大切です。
「うーん、それおかしいな」「言ってる意味がよくわからないな」と思ったら、きちんとその場で聞く。すると間違いややり直しはなくなります。できないと思ったら「できない」と言うことも大切です。
ぼくは1社目の会社を8ヶ月で退社しました。2社目は業界では有名なドラフトという会社でした。そこで最初に任された仕事が、56ページのパンフレットのデザインでした。
56ページというのはけっこうなページ数で、たった8ヶ月しか経験のない新卒の子ができる量ではありません。
それでもコピーライターとのやりとりから印刷会社さんとのやりとりまでをほぼひとりで任されたのです。毎日徹夜しても終わりませんでした。そこである先輩にこう言われたのです。
「できないんだったら、できないって言えよ」と。このときの経験が、ぼくの中では大きいのです。「できないと言え」と言われたときに「ほんとそうだよな」と思いました。
なぜもっと早い段階で「できない」と言わなかったのだろう……。おそらくそれは「自分をよく見せたい」という思いによるものでしょう。
つまり、仕事のことを考えていなかった。「自分の見え方」を優先してしまっていたのです。もうひとつは「できないような仕事を上司が振ってくることはない」という思い込みです。
今上司という立場になってわかりますが、たくさんいる部下について「各自が今どのくらい仕事を抱えていて、どのくらいの量を渡して、どれくらいの処理速度でできるか」を完璧に把握している上司はほとんどいないでしょう。
よって、部下やスタッフはできないときには「できない」と言う必要があるのです。
「いつまでにやるか」を把握しているか
急ぎの案件で「これやっておいてね」と部下やスタッフに言ったのに、1日放置された挙げ句、「すいません。ちょっと今日忙しくて……」とあとから言われる。
そんな経験はないでしょうか?ぼくが新人の頃は、何かを頼まれたら「いつまでにやればいいですか?」と聞き返していました。
もしくは「いついつまでならできます」という言い方をしていました。
たとえば「本屋で資料買ってきて!」「あ、撮影用の牛乳買ってきて!」「鉄道の写真撮ってきて!」と言われたとき、ぼくはこう答えます。
「同時にはできません。牛乳はいつ必要ですか?鉄道の写真は明日なら撮りに行けます」と。
仕事を頼むほうも、頼まれるほうも、この「いつまでに」を見落としがちなのです。追加の仕事が入ったら、すぐに手をつけるかどうかを考えます。すぐやるべきか、あとでもいいかを判断する。その時間がとても大切です。その判断ができないのであれば、聞きます。
すぐに終わるような仕事であっても、今やらなくてもいいような仕事ならあとに回します。新しい仕事を頼まれると、すぐにやろうとする人がいます。
「ちょっと本を買ってきてくれる?」と言われたときに「はい!」と言ってすぐ動く。
一見いいように思えますが、すぐに対応していると今やっている仕事は後回しになるので段取りが崩れていきます。
すぐにできるような仕事であっても「いつまでにやればいいですか?」と聞く。そこで「今すぐ」と言われればやればいい。
もしくは自分が今動けないのなら、「では○○くんに頼んでいいですか」と答えてもいいでしょう。考える前にすぐ動こうとするクセは直したほうがいいかもしれません。
4段取りをスムーズにするリーダーのひと工夫
「所要時間」を添えて指示を出す
ぼくは仕事を振るときに「これ○分でできるから」と絶対に所要時間を添えて指示を出します。これは「○分でやれるレベルでいいよ」という意味でもあります。
たとえば「10分で」と言ったら「かんたんでいいから調べる」「ざっくりつくる」ということだし、「5時間くらいかかるからね」と言ったら、きちんとやるということです。
その時間内に終わらない場合は、やり方がおかしいか、求めていない精度で異常に細かくやってしまっているのです。
たとえば、「カレーライスをつくって」というオーダーがあったとしても「10分でつくるレトルトカレー」なのか「2日ほど煮込む手間のかかるカレーライス」なのかわかりません。
だからこそ、指示をされる側は「どれくらいでやりますか?」と聞くべきだし、指示を出す側は「○分でやって」と言うべきなのです。
時間に限らず、「数字で考える」というのは習慣になっています。ふだんからものごとを考えるときに、市場の規模感や売上はいくらくらいになるのかなど、数字や金額で考えるのです。
デザインはビジュアルに数字が絡みます。ここが○ミリでここは○センチなど、数字がかならず入ってくる。そう考えると「デザイン的な思考」であらゆるものを見ているのかもしれません。
スタッフにアドバイスするときも「がんばろう」というようなぼんやりした言い方はしません。
「○年後にこうなっていられるようにしよう」「新人賞を○歳でとりたいじゃん」「おまえだったらあと○年でできるようになるよ。
そのためにはこれをやったほうがいいよ」という言い方をします。ビジュアルで想像させながら、具体的な数字で示す。すると人は明確に進み方がわかり、動けるようになるのです。
「相談」で仕事の効率を上げていくグッドデザインカンパニーは、効率的に動くためにいろんな策を講じています。
その方策のひとつが、「相談」を増やすことです。
かつてはひとりひとりのスタッフの自主性に任せて、「考えてごらん」と言ってしばらくそのままにしていました。
それでスタッフがサボるということはなかったし、みんながんばっていたのですが、間違った方向に進んでいたり、段取りがおかしかったりしてもそのまま放置していたので、やり直しがたくさん生じていました。
そこでもうちょっと短いスパンで「どんな感じ?見せてごらん」と、相談の時間を仕事のルーティンとして段取りに組み込んだのです。
「ここに迷っていて」とか「締め切り、確認していませんでした」ということがスタッフからの相談によってわかり、その場でアドバイスできるので、仕事の効率は上がっていきました。
相談と言っても、あまりに上司がコントロールしてしまうと本人のやる気がなくなってしまいます。目標をしっかりと共有したうえで、ポイントごとに確認していくというやり方がいいと思っています。
ぼくは経営者であり上司の立場ですが、部下の側からも、どんどん相談をしたほうが仕事の効率は上がると思っています。
そうすれば「やるべきこと」や「所要時間」「締め切り」などの検証ができますし、予測の精度も上がっていきます。
ぼくが若くて駆け出しの頃、「絶対これがいいのに」という案を出しても、かならず「やり直してくれ」というクライアントを担当したことがありました。
その頃からかなり準備をしていましたし、段取りを組んでいましたから、毎回やり直しになると無駄が多いのです。
何より、ベストだと考えた案が、納得できる根拠もなく毎回やり直しになるのは困りました。そこでぼくがとった作戦は、まめに相談や報告をすること。
準備として何か知識をインプットしたら、「こんなことがわかりました」と伝え、何か想像して「こうだな」と仮説ができたら「間違っていますかね?」と相談する。
そうやってやるべきことを把握する作業も予測する作業も、クライアントと一緒にやるのです。こうなると、クライアントは完全にぼくの側に巻き込まれています。
そこで出てきた案であれば、「自分ごと」ですから、根拠もなく否定したりできなくなります。「水野くんじゃなくて、私が考えたようなものじゃない?」と言われるくらいでちょうどいいと思っていました。
この要領で、上司ばかりでなく、クライアントを巻き込んでいくと、仕事はやりやすくなります。企画やデザイン案だけではなく、段取りそのものも巻き込みながらつくっていくということです。
「このプロジェクトでやるべきことは、AからHまでだと思いますが、Jくらいまでカバーしておいたほうがいいでしょうか?ご意見を伺えますか」こんなふうに相談して、「やるべきこと」の把握を上司やクライアントと一緒に行なう。
「課長、この仕事はだいたい1週間かかると思うのですが、この見通しだと甘いでしょうか?」「このミーティングの資料は3日前に仕上げて部長の決裁を仰ぐつもりですが、それで間に合いますか?」所要時間を把握したり、時間ボックスにやるべきことを入れていったり、仕事の方向性がそれで正しいかを検証したりする作業も、上司やクライアントと一緒にやる。
仕事の段取りでいちばん大切なのが、最終的に決裁権のある人と、ものごとを共有することですから、相談を活用すると仕事がうまくいく確率は飛躍的に高まります。
チームにおいて、あなたがプレイヤーの立場であれば抱え込まずに、どんどん相談すること。上司の立場であれば、「任せる上司が好かれる」などという思い込みは捨てて、積極的に介入していくこと。
上司であろうと部下であろうと、完璧でない者どうしが力を合わせて、限りなく完璧に近い仕事をやりとげる。これが正しい段取りなのです。
「この案を通したい」というのはエゴである最後にひとつ。
このように「相談しながら進める」と、自分の行きたい方向に進めなくなるんじゃないか、と心配する人もいます。
ほんとうはAの方向性がいいと思っていても「AじゃなくてBでお願いします」とクライアントに言われたとしましょう。
ぼくはそこでどうするでしょうか?決して、相手に言われたとおりにやるということはありません。
まず、なぜ「BではなくAがいいのか」という明確な理由を見つけて論理的に説明します。
この「自分が思っていることを、ぜんぶ伝える」というプロセスをめんどうくさがってはいけません。
なぜそう思ったのかをきちんと考える。そのためには言語化する訓練を日頃から積んでおくといいでしょう。うちの会社では「なんとなくいいと思いました」と言うことを禁止しています。すべて言語化してもらう。
「なんとなくカッコいい」ではなく「都会の洗練された感じがカッコよく、今回のプロジェクトの方向性にも合っていていい」など、なるべく説明をするようにしています。
このようにていねいに説明するのは、ぼくがどうしても「A」を通したいと思っているからではありません。「通したい」というのは単なるエゴです。ぼくには「通したい案」というものはないのです。
「自分がいいと思うもの」というよりも「どっちが正解なのか」しか考えません。「自分」よりも「仕事」が上にあるからです。どっちのほうがこのプロジェクトにとってプラスなのか。そこを最優先します。
よって、ぼくが意見を曲げるときは「そっちのほうがうまくいく」と思ったときです。「売れない」「うまくいかない」と思っているのに曲げることはありません。
おわりに
あなたの仕事が、人びとを幸せにする本書では、質の高い仕事を早く進めるための「段取り」についてお話ししてきました。
そのなかでも、段取りにおいて何がいちばん大切か?そう聞かれたらぼくは「想像することだ」と答えるでしょう。
A案とB案、どちらにするか?そのときにぼくはありったけの想像力を働かせます。
「ここでAを選んだら10年後はこうなる」「Bを選んだらみんなはこう反応するはずだ」「そもそもAでもBでもないのかもしれない……」できる限りの想像力を駆使して、未来を思い描くのです。
くまモンを考えたときも「こんなキャラクターが熊本をPRしてくれたら楽しいだろうな」という想像をしました。
頭の中では、くまモンが軽やかに踊っていて、子どもたちをよろこばせている絵がありありと浮かんでいました。
相鉄の車体の色を考えるときも、どういう色が「エレガント」で、かつ「安全、安心」なのかを考えました。
まさに頭の中で電車を走らせ、沿線の人がハッピーになっているところを思い描いたのです。
また、将来的に渋谷駅に乗り入れるのだから、電車の色は他の鉄道と似ていないほうがいいなということも考えました。
さまざまな時間帯、季節を考え、あらゆるシチュエーションを脳内でシミュレーションしながら、一歩一歩仕事を進めてきました。
どんなプロジェクトであっても、想像するときにつねに考えているのは「どうやったら世の中が少しでもよくなるか」ということです。
目の前の仕事がどう世の中をよくしていくのか?仕事は、たったひとりのちょっとした思いや工夫でガラリと風景が変わります。
そして今、そういうことがかんたんに起きやすい時代になってきているとも思うのです。
ぼくは、今の時代は商いの作法が「江戸時代にタイムスリップしている」ように感じています。
これまでは企業があって、消費者がいて、そのあいだに広告代理店やテレビなどのマスメディアがあることで、間接的にマーケットを盛り上げていました。
しかしインターネット、特にSNSの台頭によって、「お客さん」と「企業」が直接コミュニケーションをはじめた。
さらには「お客さん」と「つくり手」が直接対話をはじめたのです。「これ、おいしいよ!買っていかない?」「よさそうね。2つちょうだい」「これ、安いよ!」「うーん、そうね。考えとくわ」その光景はまさに、江戸時代における「商人と客」のやりとりそのものです。
江戸時代のビジネスモデルが、インターネットによってさらにパワーアップしている状況が今という時代なのではないか。
ひとりひとりが商品をよりよくする努力をし、素敵な「のれん」を掲げて、みんなで法被を着て、呼び込みのかけ声を考える。
品ぞろえや陳列方法はどうするか?お店や企業のみんながそういった細部まできちんとデザインする。そんなことがとても重要な時代になってきているのです。
これからは「企業と人」ではなく「人と人」のコミュニケーションがとても重要になってきます。
どこかの社員が放ったひとことがイメージを損ねることもあれば、「神対応」などといってイメージアップにつながることもある。
いい仕事をすれば、その影響が広がりやすい時代なのです。ひとりの人間の力はちっぽけなのかもしれません。しかし、ひとりの力がまわりに影響を与えて、世界は動きはじめます。
「バタフライエフェクト」という言葉があります。
小さな蝶々が1匹羽ばたくだけで、連鎖的に、波状的に、世界が変わっていく。蝶ですら影響を与えるのだから、人間が何かをすれば大きく世界が変わっていく可能性があるのです。
すべてのはじまりはひとりひとりの「想像」の力です。ジョン・レノンは「イマジン」という名曲を遺しました。まさに仕事で大切なのは「イマジン」。想像することなのです。
今、目の前にある仕事を手を抜かずにやることで、どれだけの人がよろこぶだろうか?目の前の仕事にちょっとした工夫をすることで、どれだけの人を幸せにできるだろうか?想像する力こそが、いい仕事をつくり出していくはずです。
段取りの本を書いてみませんか、とWORDSの竹村俊助さんから打診を受けたとき、とても重要なテーマだけれど、まとめる自信がない、と一度は答えました。
でも終わってみれば、ぼく自身が、多くのことに気づかされました。
段取りとは、単に仕事を進めるための表面的なスキルではなく、自身の仕事への向き合い方まで変えてくれるものだということ。段取り次第で、仕事はますますおもしろくなるということ。
根気よくおつき合いくださった竹村さんに、お礼を申し上げます。
編集の青木由美子さん、ダイヤモンド社の和田史子さんにも、たくさんのお力添えをいただきました。
ほんとうにありがとうございました。そして、原稿の種となるアイデアを山のように出してくれた妻。生意気を言いはじめたくせに、本屋さんに立ち寄ればぼくの本が売れているか心配してくれる息子。
いつも楽しく仕事してくれるスタッフのみんなにも、あらためて、感謝を伝えたいと思います。この本を手に取ってくださった方の毎日が、少しでも、より楽しく、充実したものになるなら、こんなにうれしいことはありません。
[著者]水野学(みずの・まなぶ)gooddesigncompany代表。
クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント。
ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。
おもな仕事に、相鉄グループ「デザインブランドアッププロジェクト」、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」、イオンリテール「HÓMECÓORDY」、東京ミッドタウン、オイシックス・ラ・大地「Oisix」、興和「TENERITA」「FLANDERSLINEN」、黒木本店、NTTドコモ「iD」、農林水産省CI、宇多田ヒカル「SINGLECOLLECTIONVOL.2」、首都高速道路「東京スマートドライバー」など。
ブランド「THE」の企画運営も手がける。
TheOneShow金賞、D&AD銀賞、CLIOAwards銀賞、LondonInternationalAwards金賞ほか受賞多数。
著書に『「売る」から、「売れる」へ。
水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)、『センスは知識からはじまる』『アウトプットのスイッチ』『アイデアの接着剤』(すべて朝日新聞出版)などがある。
コメント