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【PART2】BUSINESSSTRATEGY 強い会社は、各事業が「シェア」を順調に広げていく《事業戦略》

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【PART2】BUSINESSSTRATEGY 強い会社は、各事業が「シェア」を順調に広げていく《事業戦略》

事業の範囲を定義して、とるべきポジションを明確にする「企業戦略」と「事業戦略」の位置関係をつかむ

「戦う」か「戦わない」かを選ぶステップ⑥事業ビジョン「達成したい、ありたい姿」はどのようなものか「ミッション」と「ビジョン」「ビジョン」には2種類あるステップ⑦現状分析その事業の「現状」と「将来」はどうか事業戦略立案のための4C分析顧客・市場分析(customers)競合・業界分析(competitors)自社資源分析(company)マクロ環境分析(context)ステップ⑧事業目標その事業で、計画期間内に何を達成するのか5つのポイントを押さえる「対環境相互作用性」と「環境予測可能性」ステップ⑨事業範囲勝負する「土俵」の範囲をどう定めるか「製品」と「市場」をどう考えるかが重要ステップ⑩競争戦略目標を達成するために、どのように戦うかポーター・モデル、コトラー・モデルの「本当の使い方」競争地位別の4つの基本戦略類型COLUMN3問題解決のための仮説設定プロセス

BUSINESSSTRATEGY事業の範囲を定義して、とるべきポジションを明確にする≫「企業戦略」と「事業戦略」の位置関係をつかむこれからいよいよ、最も「戦略らしい戦略」である事業戦略について考えていきます。1章では、企業を主体に、それに含まれる複数の事業間における経営資源の配分についてPPMを用いて検討しましたが、事業戦略では、PPMの円で表現された特定の事業ユニットが主役になります。本書では以下の特徴を有している単位を「事業」として考えます。・製品と市場から構成されている・独自の戦略と責任者を擁している・特有の競合他社と顧客が存在している・利益センターとして、利益を追求している・一定の資源を裁量下に置いている経営トップから、事業にヒト・モノ・カネの資源が配分された時点で、主役が経営陣から、各事業の責任者に移ることになります。PPMを使って表現しますと、事業の責任者は、配分された経営資源を活用することによって、どうしたらその事業の円の面積を大きくしながら(つまり、売上を拡大しながら)、左にシフト(つまりシェアアップ)させることができるかを考えます。そのためには、現在の状態を基に、将来の目標を設定して、その目標達成の方策を考えることになります。つまり、現状分析をして、達成可能な事業目標を設定して、その目標を達成していくための手段を考えることになるわけです。ここで言う手段とは、どのような顧客市場にどのような製品・サービスを提供するのかという、いわゆる事業の範囲を定義し、そこにおける競争上のポジションを明確にするということです。

事業の範囲を定義するということは、特定の顧客市場を選択することを通して、対象とするお客様がすでにお付き合いしている、あるいはこれから取引をすることになるかもしれない競合他社を選択することを意味します。そのため、事業戦略では、選択した事業の中で自社の競争上のポジションを明確にすることが大きなテーマになります。競合他社と自社を比較して勝てそうであれば直接競争し、勝ち目がないようであれば競争を回避する方策を選択することになります。企業戦略では事業の選択と資源の集中に力点が置かれましたが、事業戦略では、選択された事業の範囲を定義して、そこでの競争上のポジションを明確にすることがメインテーマです。2章では、事業戦略(狭義)をテーマに、以下の戦略番号⑥~⑩について説明を加えていきます。ステップ⑥:事業ビジョンを設定するステップ⑦:現状分析を行うステップ⑧:事業目標を設定するステップ⑨:事業範囲を定義するステップ⑩:競争戦略を立案する

ステップ⑥事業ビジョンBUSINESSSTRATEGY「達成したい、ありたい姿」はどのようなものか≫「ミッション」と「ビジョン」事業戦略の場合も企業戦略と同じで、価値観の確認からスタートすると良いと思います。「“思い”なくして戦略なし、戦略なくして営業なし、営業なくして受注なし、受注なくして仕事なし、仕事なくして人生なし!」とは私が個人的に尊敬する、ある大手企業の営業部門のトップの方の言葉です。企業における“思い”を表した言葉に、ミッションやビジョンがあります。ミッションとは日本語で理念とか使命と訳されますが、社会に対してどのような価値を提供していくのかという社会的役割と考えられます。言うなれば、企業として進むべき方向性を指し示しています。ミッションの重要性については、ここで改めて言うまでもありません。産業育成というミッションを見失った銀行が踏み出してしまった誤った道と、そのことによって世界経済が被った負のインパクトがすべてを語っていると思います。企業戦略では、ミッションという進むべき方向性をふまえながら、魅力的な事業領域を選択し、そこに優先的に資源を集中させていくことが大きなテーマでした。一方、事業戦略では、ビジョンすなわち「達成したい、ありたい姿」を具体的に示したものが戦略策定の指針になります。事業戦略では、なぜ「達成したい、ありたい姿」なのでしょうか?それは、方向性であるミッションを意識しつつも、事業の置かれた環境をふまえて、具体的に「達成したい、ありたい姿」を共有することで、事業を担当する人々のエネルギーを結集することができると考えられるからなのです。これまで日本の多くの製造業は、国際競争に勝つというビジョンを掲げ、事業にかかわる一人ひとりのエネルギーを結集して戦ってきました。そうした企業が今日の厳しい環境の中でも生き残って成長を続けています。その一方で、グローバル競争に勝つという意識の欠落した産業は、いまや競争力を失っています。≫「ビジョン」には2種類あるビジョンのタイプとしては、以下のようなものがあります。・ドリーム・ドリブン(夢牽引型):再生エネルギー業界で世界一になる、世界最速のコンピューターを作る、火星に行く、難病疾患から患者さんを救う、など・ナンバー・ドリブン(数値牽引型):シェア3割アップを達成する、利益2けた成長を実現する、3年以内に年収をダブルにする、などこの2つのビジョンを組み合わせるケースもあります。基本的には、夢で牽引するタイプのビジョンを採用しつつ、実行に際しては、そのビジョンを数値に分解して実行部隊に伝えるような場合です。ステップ⑦現状分析BUSINESSSTRATEGYその事業の「現状」と「将来」はどうか〔*〕≫事業戦略立案のための4C分析事業戦略立案に際して求められる現状分析は、大きな枠組みとしては、企業戦略で求められている分析の項目と同じです。顧客・市場(customers)、競合・業界(competitors)、自社資源(company)、そしてマクロ環境(context)の4つのC分析を基本としています。しかし、事業戦略では、選択した事業の中で自社の競争上のポジションを明確にすることが求められるわけで、分析のレベルという点では、より詳細なものが求められます。事業戦略策定のための分析体系図は次の図の通りです。

顧客・市場分析については、まず、①買い手である顧客の集合体としての市場全体で捉えることから始めて、②同じような選好を示すグループである、いわゆるセグメントの分析を行い、③主要セグメントにおける個々の顧客ニーズを探索するという手順をお勧めしたいと思います。市場全体というマクロの視点からスタートして、個々の顧客というミクロの視点まで分析を深めていくアプローチです。まず、市場全体については、市場規模(顕在・潜在)、市場成長性、市場収益性、チャネル構造等について統計データなどの二次資料を基に検討します。次に、市場全体を同じような選好を示すグループに分け、セグメントごとの市場としての魅力度(セグメント規模やセグメント成長性)と自社の優位性(セグメントごとの購買決定要因と自社の製品・サービスとの適合度やセグメント内自社シェア)で判断します。市場全体をセグメントに分ける作業をセグメンテーション(市場細分化)と言いますが、消費財市場(BtoC)と産業財市場(BtoB)の間で市場細分化の基準として参照すべき要素が異なります。違いがわかるように以下にリストアップしておきます。消費財市場に関する分類基準(例)■人口統計変数:年齢、所得、性別、職業、階層■購買行動変数:目的、購買頻度、購買経験、態度■地理的変数:国、地域、都心、郊外、地方■心理的変数:ライフスタイル、関心事、性格産業財市場に関する分類基準(例)■購買企業/組織に関する変数:業種、業態、産業、業界、企業規模(大手、中小、零細)、戦略的ポジション(リーダー企業、フォロワー企業ほか)、対象市場(ハイエンド、ローエンド)■購買状況変数:購買状況(新規購買、再購買、修正再購買)、購買経験・知識(製品に対する精通レベル)、購買関与度(製品に対する必要度合い、重要度)■購買行動変数:購買頻度/購入量(大口、中口、小口)、購買センター(規模、構成)、購買基準(技術力、コスト、サービスほか)、購買/調達スタイル(集中化/一元化、分散化)

顧客・市場分析の最後の単位が、前記のセグメント分析で明らかになった魅力的なセグメントでの主要顧客です。顧客の満たされていないニーズ(英語ではこれをunmetneedsと言います)を明らかにします。一年に最低一回という頻度を定めて、定期的に顧客満足度調査をサーベイという形で実施する企業もあれば、営業担当と技術担当がペアになって主要顧客を訪問して、購買センター15を構成するキー・パーソンを把握したうえで、その担当者の満たされないニーズを直接吸い上げるようなフィールド調査を実践している会社もあります。15購買センター:法人顧客の場合、購入に際して購買担当、技術担当等の複数のスタッフが関与することが一般的。間接的、直接的に意思決定に影響を及ぼす人々の集合体を購買センターと呼ぶ。英語ではBuyingCenterもしくはDMU=DecisionMakingUnitと表現される。顧客・市場分析の3つのステップを整理すると、以下のようなイメージになります。≫競合・業界分析(competitors)競合分析についても、まず①売り手の集合体としての業界(英語ではこれをindustryと言います)の構造分析から入ることをお勧めします。その次に、②業界の中でどのような戦略グループが形成されているかを明らかにし、最終的には、③戦略グループを同じくする競合他社、もしくは、注意を払っておくべき個別のライバル会社の将来動向を推測するという順番です。まず、業界構造については、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威、そして既存業者間の競合関係という5つの要素で整理します。

買い手としては法人、機関、個人、家庭等が考えられますが、買い手の交渉力は、買い手に選択肢が多いか、売り手を替えることのスイッチング・コストが高いかどうかで決まります。同じような製品・サービスを提供している売り手が多いと、当然ながら買い手の交渉力は強くなります。その極端なケースが、価格でしか差別化ができなくなってしまったコモディティ製品を提供している場合です。売り手とは、自社の製品やサービスを完成させるために必要な部品や原材料を提供してくれるサプライヤーを意味します。サプライヤーの数がもともと少ない場合、あるいはサプライヤーの業界が寡占化を進めているような場合は、サプライヤーである売り手の交渉力は強くなります。また、買い手側にとって、サプライヤーを替えるコスト、いわゆるスイッチング・コストが高いとサプライヤーである売り手の交渉力は強くなります。以前、監査業界のコンサルティングを実施した際、顧客満足度がかなり低いにもかかわらず、ほぼ100%リピート受注になることに驚きましたが、これなども、顧客にとって監査法人をスイッチするコストが高いケースと言えましょう。替えることによってそのつど会社のトップシークレットを話さなくてはならないためです。新規参入の脅威とは、参入障壁がどの程度高いかということの裏返しです。許認可制度で守られている業界や参入のための初期投資が高い業界の場合は、新規参入の脅威は低いと考えられます。一方、規制緩和があった場合は、参入障壁が低くなるため、今までの高い利益率が急激に低下することにもなりかねません。代替品が多ければ多いほど、業界の収益性は低下します。代替品とは、競合する製品そのものではないのですが、現在提供している製品そのものの存在意義をなくしてしまうような製品です。例えば、フィットネス・ジムのサービスに対するWiiFitや、自動車のワイヤーハーネスに対する無線などです。最後に、既存業者間の競合関係を整理します。PLC上の成長期においては、競合が参入してきても、市場自体が拡大していますので、それほど業界の収益性には影響がないと考えられます。成熟期になり、しかも市場下位の企業がシェアを奪取する意図を持ち、差別化でチャレンジしてくる場合は、リーダー企業もそれに対して差別化で対応することを迫られるなど、収益を圧迫する要素が多くなります。以上が業界構造分析ですが、この業界構造分析は、英語で5forcesmodelと言います。どの程度儲けやすい業界かを判断するには、うってつけの分析と言えます。

次の戦略グループ分析に移りましょう。業界内の競合他社の中でどこまでが本当に直接競争関係になるのかを、境界線を引いて分類します。競合他社を分類する際に用いられる境界線の例が、利益率とシェアです。シェアが高いということは、売上高が大きく、規模の経済で競争している企業ですし、利益率が高いということは何らかの差別化戦略を展開している企業と想定されます。自社がどちらのタイプかで、競合として意識すべき企業が明確になります。

最後は、自社と同じ戦略グループに入っている企業はもちろんのこと、将来的に競合しそうな他社に関する将来動向を推測します。競合分析に関しては、現在のポジショニングを把握すると同時に、既存および潜在的な競合の戦略的意図に注意を払いながら将来の行動を予測することが欠かせません。具体的には、競合他社の事業ビジョンや目標と現在の業績を比較し、事業として満足できる水準か、仮に水準以下であれば、その企業の現在の戦略の延長線上で達成できるのか、そうでないとしたら、新たな戦略をその企業の経営資源・能力で打ち出し実施していくことが可能かどうか等を検討します。競合他社の戦略予測としては、ターゲット市場、製品・サービス(product)、価格(price)、販路(place)、販促(promotion)、営業(personalselling)等を検討していただきたいと思います。『四季報』からデータを引用してきただけで、競合分析はいっちょ上がりなどと考えていたら、大きなリスクを背負い込むことになりかねません。なお、競合分析については、顧客、供給業者、調査会社等のありとあらゆるデータソースを活用することです。競合他社のウェブサイト、IR資料、学会発表資料、有価証券報告書等のさまざまなデータを統合したうえで、業界のプロとしてのセンスで、ライバル企業の戦略方向を感じ取ってください。次に、競合・業界分析のイメージを示しておきます。

≫自社資源分析(company)自社資源分析に関しては、まず業績のレビューから始めることで問題点の明確化やその改善のための仮説が立てやすくなります。ラフな仮説を立てたうえで、バリュー・チェーン16分析やコア・コンピタンス17分析などによって仮説をさらに精緻化し、可能な範囲で仮説を検証していきます。16バリュー・チェーン:顧客価値を創造するために必要な機能、例えば、原料調達、製造加工、物流販売などを連鎖的に結びつけた一連の活動。実際には、企画、研究開発、原料調達、購買物流、製造・エンジニアリング、マーケティング、販売、出荷物流、サービス、人事管理などのさまざまな機能から構成される。17コア・コンピタンス:独自のスキルや技術の複合体で、範囲の経済が効くもの。

業績のレビューとしては、売上高(製品力)、粗利益(付加価値力)、営業利益(営業力)、営業キャッシュ・フロー、原価率、粗利益率、営業利益率、売上高/人、粗利益/人、営業利益/人、顧客集中度、売上高/顧客、品質レベル、新製品売上比率(新製品売上/全製品売上)、CS(顧客満足)などの指標を、少なくとも3年(理想的には5年)程度さかのぼり、時系列で折れ線グラフを作って分析することをお勧めします。特に折れ線グラフが従来と異なる動きをしているところが要チェックです。さらに理想的には前述の指標を事業全体で見るだけではなく、顧客セグメント別、製品別、地域別、チャネル別、プロセス別などのいくつかのユニットで集計して、同じように時系列で比較していただくと、どのあたりに真の問題点があるのかがかなり絞り込めると思います。自社分析とは、言うまでもなく自社の強み・弱みを明らかにすることですが、自社だけのデータでは相対的な比較ができませんので、可能な限り競合関係にある他社のデータも収集し、自社のデータとパラレルで比較できるように加工しておきます。まとめますと、業績のレビューは自社ユニット間比較、時系列比較、競合他社比較の3つの視点で行うのが理想的です。多面的に捉えることで実態が明確になり、問題を見つけやすくなるのです。業績を多面的に捉えることができたら、次のステップに進みます。自社の強みと弱みが、どのような原因で生じているかということをバリュー・チェーン分析と関連づけて明らかにしていきます。バリュー・チェーンとは、インプットからアウトプットまでの変換プロセスを時系列的に整理したものであり、研究開発、マーケティング、製造・エンジニアリング、販売等の主活動を把握したうえで、その主活動の業績の向上を促進させる要因を列挙します。この要因をパフォーマンス・ドライバーと言いますが、これらを自社のみならず、競合他社に関してもある程度評価できるだけの材料を集めてみてください。自社と他社のバリュー・チェーンに関する強み・弱みを説明変数(独立変数、原因/要因)的に捉え、業績の善し悪しを目的変数(従属変数、結果)的に捉えて、両者間の因果関係を意識しながら考察することで、業績低迷の真の理由を把握し、改善していくための仮説を導きやすくなります。バリュー・チェーンに関しては、パフォーマンス・ドライバーを中心に、メリハリを効かせて強み・弱みを判断してください。ここでメリハリを効かせて判断する基となるのが、業界における成功の鍵(KeySuccessFactors)と自社の基本的な方向性です。例えば自社の理念が、付加価値創造とかイノベーションであればバリュー・チェーンの中でも研究開発にスポットが当てられるべきです。また、コスト・リーダーシップがキーであるならば、購買や製造が注目すべきポイントになります。

最後は、コア・コンピタンスを明確にすることで、それによって新しい用途や市場の開発がより適切に行われるようになります。コア・コンピタンスの3つの要件とは、以下の通りです。・多様な市場へのアクセスが可能になるもの・最終製品の効用に重要な貢献をするもの・模倣可能性が低いもの

≫マクロ環境分析(context)マクロ環境分析には、政治(politics)、経済(economy)、文化・社会(society/culture)、技術(technology)、環境(environment/ecology)、法律(law/regulations)が含まれますが、これを一般的には英語の頭文字をとって、略してPESTEL、社会の根底に流れる大事な要素として、context(文脈)と呼ばれているということは1章で解説させていただきました。

上に、より詳細なチェックリストを紹介しました。マクロ環境分析の構成要素の相互関係ですが、開発された技術をうまく産業レベルで活用することにより、顧客市場に新たな価値創造がもたらされます。時として、副作用的なマイナス面が出てしまう場合がありますが、その際は、政治、法律で制御、調整を加えます。最後はその技術がライフスタイルとして、社会や文化として定着していくというイメージです。

こうした4CをSWOT分析に落とし込んだうえで、S×O、W×O、S×T、W×Tで整理し、戦略オプションを抽出していくSWOTクロス分析なども、プロジェクトの現場でよく用いられます。

現状分析のまとめとして2点、留意点としてコメントさせていただきます。

まずは、現状分析と情報収集とは異なるということです。何でもかんでも情報を集めれば良いというものではなく、何らかの仮説を持ったうえで、情報を収集していただきたいと思います。戦略仮説を持って、その正当性を検証するためには、この情報が必要というアプローチです。仮説をベースに事業戦略を立案するという点については、コラム〔*〕をご参照ください。もうひとつが、イゴール・アンゾフという経営学者のコメントにもありますが、経営とは部分的に無知の状態における意思決定であるということです。限られた情報の中で意思決定する勇気を持っていただきたいと思います。最近とみに日本企業の意思決定が遅くなっていると言われています。機会の窓は永遠に開いていることはありません。タイミングが大切です。どうしても詰められないところがあるはずですが、そのようなときは、とりあえず、Startsmall(小さく始める)、でも、Thinkbig(大きなビジョンで)。あとは、可能性が見えてきたら、Scaleupfast(垂直立ち上げ)で、必要に応じて柔軟に修正していくというスタンスが必要です。S×Oは基本策、W×Oは改善策、S×Tは開発策、W×Tは撤退策とお考えください。まずは、SとOを掛け合わせて骨太の基本策をしっかりと提言していただきたいと思います。ステップ⑧事業目標BUSINESSSTRATEGYその事業で、計画期間内に何を達成するのか≫5つのポイントを押さえる事業戦略の場合も、目標の設定については企業戦略と同じ考えです。SWOT分析により、市場の規模と成長性、競合他社に対する自社の相対的優位性がある程度明確になっているわけで、以下の算式で自社の売上ポテンシャルが推定できるはずです。市場規模×市場成長率×シェア売上ポテンシャルを押さえたうえで、計画期間内において、現実的に達成可能で、かつ、具体的なレベルでの売上目標を設定します。「目標設定はSMARTに!」〔*〕とよく言われますが、その意味をもう一度確認しておきましょう。・Specific(明確な、具体的な)・Measurable(数字で測定可能な)・Achievable(達成可能な範囲で)・Resultoriented(結果志向で)・Timebound(時間を区切って)日本語的に表現すると、目標は、明確に数字を用いて達成可能な範囲で、かつ結果志向で時間を限定して設定しましょうという意味です。目標設定に関しては、もうひとつ、アメリカのシリコンバレーでよく耳にするフレーズをご紹介しましょう。BHAGs(big,hairy,audaciousgoals)というものです。これも、直訳すると以下のようになります。目標(goals)は、・Big(大きく)・Hairy(やばいくらいの)・Audacious(大胆不敵なレベルで!)いずれも目標のレベルに関する形容詞ですが、ここまで言葉を重ねることで、チャレンジングな方向に向かうエネルギーを結集しようという考えです。考え方はSMARTとは多少異なりますが、ご参考までに。≫「対環境相互作用性」と「環境予測可能性」〔*〕の企業戦略に関する目標設定のところでも述べさせていただきましたが、将来を予測することが容易で、対環境相互作用性が高い場合には、目標は、経営を実践していくためのガイドラインであり、守るべきものであり、統制のベースになるものとしての役割が期待されます。その一方で、環境予測可能性が低く、対環境相互作用性も低いような場合は、目標は試行錯誤しながら仮説を検証していくためのひとつの指標です。つまり、目標を守ることよりも、環境の変化に柔軟に対応することを最優先に考え、状況に応じて当初のアイデアを修正し、より良い戦略にしていくためのたたき台としての役割が期待されます。各事業が置かれた環境を意識して、事業戦略策定そのものの意味を考えることが大切です。ステップ⑨事業範囲BUSINESSSTRATEGY勝負する「土俵」の範囲を

どう定めるか≫「製品」と「市場」をどう考えるかが重要事業の範囲は、市場(実際の顧客と潜在顧客)、ニーズ、製品、ブランド、技術、ソリューション等で定義されることが多いのですが、どのように定義するかということが、事業の成長可能性を大きく左右することになります。それだけではなく、このあとで検討される競争戦略やマーケティング・マネジメントにも大きく影響するという点で、事業範囲の設定は大変重要なテーマです。事業の範囲が狭すぎれば潜在的なチャンスが制限され、逆に広すぎればマス・マーケティングで十分ということになり、戦略的思考がほとんど意味のないものに思われてしまいます。一般的に事業の範囲は、製品と市場で定義されることが多いのですが、X軸に顧客・市場、Y軸に製品・ソリューションで整理します。これを製品・市場マトリックス(英語では、productmarketgrowthmatrixと言います)と呼びます。製品については、顧客が求める結果をベースに定義すべきという指摘があります。例えば、車という製品ではなく、パーソナル・モビリティとして、また、PCではなく地球規模のネットワーク能力、ガスではなく総合的なエネルギー・ソリューションというような具合に定義すべきという考えです。例えばIBMは、自社を“Solutionsforasmallplanet”(スモール・プラネットのためのソリューション)と定義することによって、提供する製品をICTという技術から、ビジネスや産業上のソリューションに変えてきました。この製品の定義によって生まれたサービスやコンサルティングという品揃えが、同社の高い収益率の源泉になっていると考えられます。コピー機を販売する企業にとっても、製品を印刷機とするか、印刷サービスとするか、ドキュメント・ソリューションとするか、情報ソリューションとするかによって、事業の収益構造が大きく異なってくるのです。

また市場の定義についても、一事業部で、大企業、中堅企業、中小企業、個人というような不特定多数の顧客の集合体をカバーしているケースもありますし(図361)、特に産業財(BtoB)のメーカーに多く見られますが、特定の顧客数社としか取引しないというケースもあります。その場合の市場は個別企業と考えられ、X軸は企業の固有名詞になります(図362)。また事業によっては取引先が一社のみというケースも少なくありません。そのような場合は、その企業を事業部に分けて、さらにその事業部に製品を提供しているサプライヤーも含めて市場と認識し、事業機会を探索することも有益です(図363)。最後に確認のための質問です。事業の範囲は、対象とする市場(marketstobesatisfied)とその市場に対して提供する製品(solutionstobeoffered)の2軸で定義されますが、ここで製品と市場とは実際にどのように考えるべきでしょうか。3択問題です。

製品とは、①ブツである②スペックである③ソリューションである市場とは、①製品の販売数である②対象地域である③顧客の集合体であるもう、おわかりですよね!

目標を達成するために、どのように戦うか≫ポーター・モデル、コトラー・モデルの「本当の使い方」事業の範囲が明確に定義されたところで、その自ら定義した領域(製品・市場)の中で、競争を意識した戦略を考えます。事業戦略はシンプルに表現すると、現状分析をして達成可能な事業目標を設定し、その目標を達成していくための手段を考えることであるとなりますが、事業を取り巻く環境は千差万別、目標を達成していくための手段についても、いくつものオプションの組み合わせが考えられます。事業ごとの個別の状況を理解したうえで特殊な解を導き出していく必要があります。しかし、すべてのケースにおいて、ゼロ・ベースで戦略オプションを組み立てていくと、莫大な時間とコストがかかります。そこで、基本方向を押さえたうえで、特殊な問題に対してはそれが生じている状況を詳細に検討して、特殊解を導き出していくというアプローチが考えられます。まずは、事業戦略に関する基本的な理論について、それが適用される条件も含めてしっかりと理解しておくことをお勧めします。事業戦略における競争戦略の類型としては、ポーター・モデルとコトラー・モデルが挙げられます。マイケル・ポーターのモデルは、競争の手段がコスト(提供するソリューションは同質的)か差別化(提供するソリューションは異質的)か、対象ターゲットが集中(競争に対する態度は競争回避)か広域(競争に対する態度は競争受容)かという2つの要素に基づいて、コスト・リーダーシップ、差別化、集中という3つの戦略類型に整理されます。フィリップ・コトラーのモデルでは、企業の競争地位によってリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーの4つの類型が示されています。ポーター・モデルもコトラー・モデルもそれぞれ4つのタイプが示されており、基本的な方向性が述べられています。

具体的にどのような状態において、どのような戦略を展開すべきなのでしょうか。まず、ポーターのコスト・リーダーシップについてですが、業界トップでシェアNo.1の企業に採用される可能性が高い戦略です。規模の経済によって、一ユニットに配分される固定費が下がると同時に、累積生産量が多くなるほど経験によって変動費も下がります。具体的には、経験による原材料の節約設計、生産工程の効率化、低コスト資材の導入などが期待されます。トップシェアを確保している企業だからこそ、コストを低くすることが可能になるわけです。トップ企業の基本路線は、低コストをベースとしながらも、価格を極端に下げることはせず、一定のマージンを確保しながらシェアの最大化を図るというものです。次に業界の2位以下の企業が採りうる競争戦略について考えましょう。基本的には上記のコスト・リーダーシップは採用しにくいため、それ以外の戦略になります。差別化戦略か集中戦略かということですが、差別化戦略とは、基本的には広い市場をターゲットにしながら、リーダーに対して製品・サービスで差別化する戦略です。つまり、リーダー企業と同じ広い市場を選びながらも、リーダーとは異なる効用を提供することによって顧客をひきつけて優位に立とうとする考え方です。それに対して、集中戦略とは、リーダーと正面から戦わず、リーダーとは異なる特殊な顧客市場に経営資源を集中する戦略です。市場全体をターゲットにする戦略では、ターゲット市場全体に同じように対応するため、充足されないニーズを持つニッチ市場が生じる可能性があります。その隙間を狙ったターゲティングによって、価値を生み出す戦略が集中戦略です。集中戦略はさらに、コスト・パフォーマンスで勝負をするコスト集中と差別化を追求する差別化集中の2つに分かれます。独自のコア・コンピタンスを活用して、大手が参入できないような独自の領域を構築することが可能であるならば、絞り込んだ市場で差別化を徹底することにより、より高いレベルでニーズに応える差別化集中戦略を推進します。そのような領域がない場合は、コストに反応する特定市場にフォーカスして廉価版を提供する、いわゆるコスト集中戦略を検討することになります。

題解決のための仮説設定プロセス〔*〕2章では事業戦略について述べてきましたが、事業を単位とする現状分析(4C分析)を始める前にぜひとも実施しておいていただきたい作業のひとつが、仮説の設定です。そのためには、これまでの事業の目標が未達に終わった原因探索と、その中で最も大きな影響力のある要因を戦略課題として設定して、これを解決するための手段を検討するというプロセスが必要です。具体的なステップは以下の通りです。1.問題点を設定する2.問題点の原因を探索する3.問題点に対する真の原因を究明する4.問題点に対する原因を戦略課題に変換する5.戦略課題に対する手段を検討する6.手段の中で効果の大きいものを選択するこうした仮説の設定プロセスで大切なことは、まず、市場や顧客を自分自身の目で確かめるということだと思います。販売の現場に出向く、店頭でお客様の声を聞く、さらに製品が実際に設置されている現場に行って、お客様がどのように使いこなしているのか、何に困っているのか、場合によってはメンテナンス担当の話も聞くということもしていただきたいと思います。

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