【PART3】FUNCTIONALSTRATEGY 強い会社は、戦略を確実に「具現化」させる《機能戦略》
戦略を動かすための「機能戦略」機能戦略には3つのステップがあるステップ⑪マーケティング戦略顧客のニーズをどう満たすのかマーケティングは「顧客への価値を創造するプロセス」
マーケティング戦略の総論マーケティング戦略の各論マーケティングの応用ステップ⑫バリュー・チェーン価値を創出するシステムをどう構築するか必要不可欠な3つのプロセスステップ⑬組織・制度戦略を機能させるためのインフラをどう整えるかマッキンゼーの「7つのS」COLUMN4テクノロジー・ライフサイクル
FUNCTIONALSTRATEGY戦略を動かすための「機能戦略」≫機能戦略には3つのステップがある2章では、事業の範囲の設定とそこにおける競合他社に対する競争戦略について整理しました。本章では、事業戦略を具現化するための施策について述べます。まず、特定事業における対象顧客に対して提供する価値の開発や、その提供方法をテーマとするマーケティングを中心に解説します。次にマーケティングが研究・開発、生産・製造、営業・販売、物流・ロジスティックスといった諸機能(バリュー・チェーン)とどのように関係しているかを明らかにし、最後に、各種戦略を支えるインフラストラクチャーとしての組織・制度に関してポイントを述べます。第3章の構成です。ステップ⑪:マーケティング戦略を立案するステップ⑫:バリュー・チェーンとマーケティングを同期化させるステップ⑬:組織・制度を整備する
顧客のニーズをどう満たすのか≫マーケティングは「顧客への価値を創造するプロセス」ロバート・J・ドラン(1997)は、マーケティングについて次のようにコメントしています。Marketingistheprocessviawhichafirmcreatesvalueforitschosencustomers.Valueiscreatedbymeetingcustomerneeds.マーケティングとは、選んだ顧客に対して、価値を創造するプロセスであり、価値は顧客のニーズを充足させることによって創造される。R.J.Dolan(1997)“NoteofMarketingStrategy”,HarvardBusinessSchoolBackgroundNote598061,Octozuer1997すなわちマーケティング戦略とは、上記の通り、顧客のニーズを満たす価値を創造するためのプランと考えられます。本書では、マーケティング戦略を、「顧客の満たされないニーズを見つけ、定義し、それに対してユニークなソリューションを提供することにより顧客価値を創造する一連の施策」と定義し、マーケティング戦略策定に関して、総論、各論、応用に分けてコメントします。≫マーケティング戦略の総論マーケティング戦略を策定するプロセスは、STPと4Psの2つの過程に分解することができます。ひとつは、市場を同質のグループに細分化し(セグメンテーション)、その中で積極的に働きかけるターゲット顧客を選定すると同時にその顧客の仮説的ニーズを定義し(ターゲティング)、提供するソリューションとしての価値を顧客の心の中に位置づける(ポジショニング)活動であり、これがマーケティングの総論です。これにより、どのような市場のどのようなニーズにどのような価値を提供するかという基本コンセプトを明確にすることができます。
もうひとつは、上記のコンセプトを実現するための活動です。ソリューションを具体化すべく、製品・サービス(product)を開発・設計し、価格(price)を設定し、販路/流通(place)を設計・管理し、販売促進(promotion)を企画・実施するという一連の活動です。この4つのPの要素から構成されるマーケティング・ミックスを構築するためのプロセスは、「価値を具現化し(製品)、表示し(価格)、伝達しながら(販促)、配達する(販路)過程」と考えることができます。4Psとはシンプルに表現すると、ポジショニングで定めた価値を実現するための、マーケティング戦略の各論としてのプロセスです。実は事業戦略を策定する際に、現状分析で、Customers(顧客・市場)、Competitors(競合・業界)、Company(自社資源)、Context(マクロ環境)が検討されており、すでに以下のことが、ある程度、仮説レベルで明確になっています。Customers(顧客・市場):どのような顧客の、どのようなニーズを充足するのか?Competitors(競合・業界):このニーズを充足させる際に競合と認識される企業は?Company(自社資源):このニーズを充足させる際の、自社ならではの能力とは?
Context(マクロ環境):このニーズを充足させる際のマクロ環境上の促進・制約要因は?マーケティング戦略を立案する際も、この分析結果を活用しない手はありません。繰り返しになりますが、マーケティングをプロセスで表現するとSTP+4Psになります。まず、市場全体を同じような選好を示すグループに分け(=segmentation)、その中で積極的に働きかけるターゲット顧客を選定すると同時にその顧客のニーズを定義します(=targeting)。その際は、セグメントごとの市場としての魅力度(セグメント規模やセグメント成長性)と自社の適合度(セグメントごとの購買決定要因と自社の製品・サービスとの適合度やセグメント内自社シェア)の2つの基準で、ターゲットとするセグメントを判断します。最後に、当該標的市場に対して提供する価値の理想的なポジショニングを明確にし(positioning)、それを具体化したマーケティング・ミックス(4Ps)を構築していきます。上記のSTP+4Psを展開する際には、すでに行った現状分析に加え、必要に応じてさらに新たな調査や分析を加えながら実施することをお勧めいたします。標的市場として選定した顧客市場のニーズは本当に存在するのか?そのニーズはどの程度強いのか?購買決定要因の順位は?顧客市場の規模はどの程度か?こうした疑問に答えられるように、何らかの手段を講じておく必要があります。フォーカス・グループ・インタビュー18、調査票を用いるサーベイ19などの調査によって、戦略仮説を検証しておくこと、少なくともターゲットとして設定したお客様の生の声(VOC20)を聞いて、仮説がある程度正しいということを確認しておくことが必要不可欠です。
18フォーカス・グループ・インタビュー:小規模のフォーカス・グループで仮説の探索や検証を行うリサーチ手法。リサーチの目的を設定したうえで、探索・検証したい仮説を設定し、5名〜10名程度で構成されるグループでインタビューを行う。参加者同士の意見交換などの相乗効果が生まれる。19サーベイ:質問票(いわゆるアンケート)を用いて調査結果をパーセンテージや平均などで数値化する調査手法。主として仮説を検証する際に用いられる。結論が大小で判断でき、統計的な分析ができる。対象者をグループに分けることで、グループ間の差異の把握が可能になる。20VOC:VoiceofCustomers、顧客の声。ここでは、ターゲット・セグメントに対するニーズ仮説を検証するための顧客満足度調査を簡単にご紹介します。プロセスは以下の通りです。1.調査概要の決定:調査目的、対象、標本サイズ、調査方法等の明確化↓2.仮説の設定:プレリサーチの実施と調査仮説の設定↓3.調査票の設計:質問項目の質問文への落とし込み、および評価尺度の決定(5段階、7段階等)↓4.標本抽出:調査の対象となるセグメントの決定と標本抽出2121標本抽出:最近は従来主流であった郵送法などよりも、調査会社を通して登録している集団の中から属性でスクリーニングして、回答してもらうようなウェブ調査が一般的になっている。↓5.調査の実施:トライアルにより、問題のないことを確認したうえで実査↓6.調査票の集計・解析:結果をエクセルにダウンロードしたうえで、データを調整し、解析
まず、調査票を設計する際には、必ず総合満足度、再購買意図(また買いたいか?)、推奨意図(他者へおすすめしたいか?)のような目的変数的要素に関する項目を入れておくことがポイントです。次に、これに対する説明変数的な要素を、品質(quality)、コスト(cost)、納期(delivery)、開発(development)、サービス(service)とか、あるいは4P(製品、価格、販路、販促)などに分解して、“モレなくダブりなく”質問項目を用意します。顧客満足度調査の分析イメージです。フレームワークで大分類した項目を細かくして質問項目を設定します。各項目に関する重要度と満足度を基に、基本的なスタンスを決めるわけですが、重要度が高く、かつ満足度の低いところを重点的に改善しないといけません。その一方で、重要度が低く満足度が高いところはオーバー・スペックなので余分なところを削り、重要度が高く満足度も高いところは維持しつつ、重要度が低く満足度も低いところは無視していくというスタンスです。
それでは、近年日本でもすっかり定着しましたが、LCC(LowCostCarrier)の先駆的存在、米国のサウスウエスト航空を例にしてSTP+4Psを簡単に整理してみましょう。
22ポイント・トゥ・ポイント:出発地から目的地に行くまでに、ハブ(中継)空港を経由させるというハブ・アンド・スポーク方式に対する反対語。大都市のハブ空港を使わず、小都市の空港に直接に乗り入れる方式。≫マーケティング戦略の各論マーケティング戦略の各論は、すでに述べたように4Psの設計です。各要素についてポイントを中心にコメントします。製品(product)製品については、「顧客が価値を消費できる状態になったもの」と定義することができます。例えばマイクロソフト社の製品の価値とは何でしょうか。単純に表現すると「各種業務の効率化」となり、これを支えるために実際の製品として「基本OS+基本アプリケーション」があります。こうした製品は一般的にネイキッド・ソリューション23と呼ばれています。これが一般的に考えられる物理的な製品ですが、マーケティングでは、これを製品とは呼びません。なぜなら、本当に各種業務を効率化するためには、コスト削減や業務遂行の改善に資するオプションやサービスが必要だからです。マーケティングにおいては、こうしたオプションや企業向けのICTスキルを向上させるための各種サービスも含めて製品と考えます。23ネイキッド・ソリューション:何もオプションを装備しない基本機能の状態。剝き出しの状態の機械を描写したことが起源。では、今度はスターバックスについて考えてみましょう。スターバックスの提供している価値は何でしょうか。一言で言うと「サードプレイス(第三の場所)」です。自宅でもオフィスでもなく、安らぎを享受できる第三の場所という意味です。これを実現するための物理的な製品として、おいしいプレミアムなコーヒー、センスの良い落ち着いた感じの店舗インテリアなどがあります。でもこれだけでは、価値である安らぎは完璧なものにはなりません。これに、洗練された選曲のBGMオンエア、イケメンのバリスタによるコーヒー手渡し、フレンドリーなコミュニケーション、禁煙サービス等が統合されて初めてスターバックスの「サードプレイス」が消費できる状態になるわけです。このように価値を実現するために必要不可欠なサービスを含めて製品と考えると、コモディティ化24によって顧客からコストダウンの要請が厳しい業界でも、何らかの打ち手が見えてくるかもしれません。
24コモディティ化:競合する製品同士の差別化特性が失われ、価格だけを理由に選択されるようになること。最後に産業財(BtoB)の会社について考えましょう。例えば、ガス・タービンを製造販売しているような企業の製品とは何でしょうか。まず、提供している顧客価値から考えます。シンプルに考えると、エネルギーの創出、略して「創エネ」ということでしょうか。エネルギーを地域に提供するためには、ブツとしてのガス・タービンを作るだけでは、不十分です。顧客であるエネルギー会社は、ガス・タービンを購入する前には、技術的な検討を重ね、各種会議を取り仕切り、資金調達に奔走し、社内稟議や審査のための膨大な書作を作成しながらプロジェクトを進めていきます。購入後には、タービンの設置、MRO25に関する作業が必要不可欠になります。こうした顧客企業内での負荷を軽減するサービスを提供できたらどうでしょうか。マーケティングではこのようなサービスも含めて製品と考えます。このようなサービスがあって初めてガス・タービンという物理的な製品が「創エネ」という価値を発揮できるわけです。繰り返しになりますが、製品とは顧客が「価値を消費できる状態になったもの」なのです。
25MRO:Maintenance(整備)、Repair(補修)、Overhaul(分解修理)。価格(price)提供物の価値表示機能としての価格についてコメントします。価格設定に関しては、比較的頻繁に参照されるアプローチが3つあります。ひとつは、自社のコストに基づくアプローチ、次が、顧客の需要を参照するアプローチ、そして最後が競合他社の価格をベースにするアプローチです。この中で、特に日本の企業に伝統的に採用されてきたアプローチが、自社のコストに基づく価格設定です。これは、手続き的には最も簡単なのですが、競争優位性を構築するという点からは、最も困難なアプローチと言えます。コスト・リーダーシップを志向する新興国企業の存在が大きくなっている昨今、グローバルな価格競争に勝つことは極めて難しいです。したがって実際は、顧客の需要をベースに競合他社の価格戦略も加味しながら目標販売価格と目標利益幅を決めて、許容される自社の原価水準を算出し、その価格帯で製品を作れるようなバリュー・チェーンを構築するというアプローチが有効と考えます。そもそも論ですが、お客様は価格が高いから買わない、低いから買うというものではありません。高いモノであっても、必要なものであれば積極的に購入しようと思うはずです。逆にどんなに安いモノであっても、その価値が見出されなければ購入の検討すらされません。購買を決定づける要因は、一言で言えば顧客価値なのです。とはいえ、価値は知覚されなければ意味がないので、正確には知覚価値が購買のベースになっていると言えます。価格設定に関するシンプルなロジックを整理しておきましょう。顧客にとってのネット(純)価値とは、知覚された顧客価値と購入価格の差分です。これを、考慮集合26の中にある他社と自社について求め、展開すると図47の真ん中のチャートになります。他社の提供物と自社の提供物の価値の差分を競合他社の価格に加えた額、これが、顧客として「払っても良い、喜んで払う」と思われる価格の最大値です。この水準をWTP(WillingnesstoPay)と呼びます。この水準より、少し下回るところに自社の提供物の価格を設定するということが価格設定の基本です。
26考慮集合:消費者は限られた資源と能力しか持ち合わせていないため、すべての代替案を検討するわけではなく、限られた数の製品のみを真剣に検討する。考慮集合とは、真剣な購買検討の対象となる製品の集合体を意味する。
また、新製品に関する価格戦略についてですが、上澄み吸収価格(skimmingprice)戦略と市場浸透価格(marketpenetrationprice)戦略の2つがあります。
上澄み吸収価格戦略は、高価格を設定し、早い段階で利益を刈り取る戦略ですが、製品の競争力が比較的長く続き、需要曲線が長期にわたり安定的な場合には最適の戦略です。一方、競争の脅威が大きく切迫した状態で、量の拡大に応じて相当にコストが低下する余地があるという条件が揃っているような場合は、低価格を設定し、大きな市場シェアを獲得したあとに規模の経済性や経験曲線効果を利用してコスト競争力での優位性を築き、やがては大きな利益を呼び込むという市場浸透価格戦略が適しています。市場浸透価格戦略の実行可能性は、将来的に市場が大きく成長する可能性が高ければ高いほど高くなると考えられます。価格の最後に、競合他社からの価格値下げの脅威に対する対応方法について整理しておきます。基本はあくまでも、勝てない競争には参加せず、自分に競争上の強みがある領域のみで戦い、明らかに不利な戦いは避けるというものです。仮に競合他社の値下げに自社が対抗して価格の引き下げを行った場合、競合他社が価格差を回復させる意欲と体力があるかどうかを考えます。競合他社にそれらがないのであれば価格競争に打って出ましょう。しかし、さらに競合が反撃してくる可能性が高く、それに対する防衛策のコストが、シェアを失うことによって生じるマイナスよりも高くついてしまうような場合は、要注意です。他の市場に悪影響が出ないのであれば、競合他社の短期的な価格競争には乗らず、長期的な利益の最大化に目を向けるべきです。販路/チャネル(place)マーケティング戦略における販路/チャネルには、設計と管理という2つの重要なテーマがあります。ひとつはマーケティング目的を実現するための最適な販路/チャネルの設計です。しかし、これは決して簡単ではありません。販路/チャネルの選択肢は無数に存在しますし、ターゲットとするセグメントが多い場合は、複数の販路/チャネルを同時に利用する必要があるからです。また環境が絶えず変化している以上、チャネル構造も定期的な見直しが必要です。顧客のニーズの変化、eコマースの急成長など、斬新な販路/チャネル戦略の必要性を示唆する要因は少なくありません。もうひとつが、目標が実現されるように設計された販路/チャネルを管理しなければならないということです。チャネル活動を効果的に運営するためには、チャネル・パートナーの選定、求めるパフォーマンスの達成に向けた動機づけ、メンバー間のコンフリクト(衝突)の調整、パフォーマンスの評価手法の開発などが必要になります。まず、販路/チャネルの設計についてのプロセスを紹介します。①対象とする顧客セグメントを選択して定義する↓②対象セグメントごとのチャネルのニーズを把握する↓③現時点でのセグメント顧客に対するニーズ充足能力を評価する↓④競合のチャネル政策に関して調査し、改善の参考にする↓⑤直接販売、間接販売の組み合わせを基にチャネル構造を設計する↓⑥チャネルを評価し、必要に応じてチャネル構造を修正する販路/チャネルを設計するということは、シンプルに表現すると次のような構造チャートを作ることを意味します。第一に、直接販売にするのか、間接販売にするのか、その組み合わせか、または、eコマースを加えるのか、第二に、階層をメーカー→卸→小売という3段階にするのか、卸、小売を省略するのか、または、卸を2段階にするのか、最後に、各段階にどのようなタイプの業者を採用するのか、その数はどうするのか等を考えていくわけです。チャネル構想を考える際に基本となるのが、リーチ(対象となる標的顧客の数および顧客の物理的な分散)とリッチネス(顧客からのニーズの吸い上げおよび顧客に対する提案内容の両面に求められるコミュニケーションの複雑性)です。リーチが極端に広く、その半面リッチネスが極めて低い場合は、eコマースを選択し、リーチが狭く、リッチネスが高い場合は直接販売で、その中間的な条件の場合は、間接販売という選択です。次にチャネルの管理について言及しておきたいと思います。せっかく戦略的に理想的なチャネル構造ができたとしても、チャネル・メンバーに対する動機づけが行われなければ、販路/チャネルは十分に機能することができません。チャネル関係は、パートナーシップであるという認識を持つことがポイントです。製造企業と流通業者はパートナーとして活動するのであり、製造企業が流通業者に専門知識や各種サポートを提供することができれば、それがチャネル全体の有効性を高めることになります。い
くつかの実証研究でも、表彰制度、製品研修、目標の共有、建設的なフィードバック、共同作業による年次計画の策定と達成度に関する定期的評価、メンバー間の情報共有を目的としたディーラー会議などがパートナーシップ構築のための有効な手段として指摘されています。ディーラー会議に関しても使い方次第では非常に大きな成果につながります。実際私がお付き合いさせていただいている会社のケースですが、チャネル・メンバーから提言された内容を製造企業が整理して、実際に実行されるプログラムを選択し、それを報告書にして会議に参加したメンバーに配付しています。実際に提案の大半が実行されており、これによって流通業者のモチベーションも高く保たれています。最後に、スティーブン・ウィーラーおよびエバン・ハーシュの“ChannelChampions”(邦訳『チャネル競争戦略』)のコメントを紹介しておきます。チャネルは顧客と企業が交わる接点であり、製品やサービスを購入したり、使用したりする場所や方法に関するすべてが関係する。チャネルは、企業がその顧客に到達するルートであり、顧客との継続的関係にほかならない(中略)チャネルについて考えるときは、戦略全体について考える必要がある。効果的なチャネル管理は、一企業にとどまらず、その業界全体を再構築する可能性を秘めている。
販売促進は、広告(advertisement)、広報(publicrelations)、人的販売(personalselling)、販売促進(salespromotion)、ダイレクト・マーケティング(directmarketing)の5つに分類することができます。お気づきのように販売促進には、上記5つを含めた広義の意味と下記に説明する狭義の意味の2種類があります。広告とは、非人格的媒体(例えば、テレビや新聞、雑誌など)によって自社の製品やサービス、あるいは自社そのものについて行う有料の情報伝達活動です。一般的には、広報とは、パブリック・リレーションズとも呼ばれますが、非人格的媒体を使って、売り手以外の第三者による当該企業のイメージや個々の製品に関する情報伝達です。自社製品の記事を書いてもらうようなことがよく行われています。人的販売とは、文字通り、人という人格的媒体を使って行うメッセージ伝達であり、プレゼンテーション、質問への返答、注文獲得などを行います。販売促進(狭義)は、広告、広報、人的販売以外のプロモーションを意味します。狭義の販売促進の実質的な意味合いは、上記の3つのカテゴリーには入らない、その他のすべてというカテゴリーです。製品やサービスの試用、購入を促進するためのさまざまな短期的インセンティブを総称したもので、サンプル、懸賞、試飲会、イベント、展示会等が含まれます。最後に、近年注目を集めているダイレクト・マーケティングがあります。具体的には、LinkedIn、Facebook、YouTube、Web、電子メールなどを使って、特定の顧客や見込み客との直接的なコミュニケーションを行い、直に反応を求めることもできます。こうしてみると、販売促進(広義)とは、かなりあやふやな分類原理で類型化されています。とはいえ、この分類のあいまいさが、型にとらわれない自由な発想を生むこともあり、こういうアバウトなところがマーケティングの良いところでもあるわけです。さて、広義の販売促進の類型について触れましたが、どのように使い分けをすべきなのでしょうか。ここで少し、消費者行動論の理論を用いて考えてみましょう。個人の顧客の購買行動をプロセスとしてモデル化したものです。ステージ1問題・ニーズの認識自分の現状と望んだ状態との間にギャップが存在することを知覚し、何らかの問題があり、それを解決したいと認識する。あるいは満たされていないということを感じている。ステージ2情報検索問題を解決し、意思決定するための情報収集をする。ステージ3購買代替案評価情報検索ステージで得られた情報を基に購買の代替案を形成し、ある基準を用いてそれらを評価し、購買行動を起こす前に購入商品(カテゴリー)やブランドを検討・選択する。ステージ4選択・購買購買をするため店頭に行くなどして、実際の購買行動を実行する。ステージ5購買後評価購買後に実際に商品を使用して、満足、不満足の評価を下す。または、選択代替案について再評価を行う。この購買プロセスの過程で顧客の心理状態が変化するのです。まず、情報を探索することによって、製品やサービスについてまったく知らない状態から知っている状態になり、つまり認知して、さらに正確にその製品やサービスを理解して、好き(あるいは、嫌い)という態度を形成し、購入しようという意図を形成して購買に至ります。この心理的な変化を先ほどの意思決定プロセスと統合すると、次のチャートになります。
では、実際に図51のような状態の場合はどのような対応をしたら良いと思いますか。どのようなプロモーションを展開したら良いか、具体的に検討していただきましょう。
ケースAはシンプルですね。認知度が低いので、広く知ってもらうのに適した活動としての広告を展開したら良いと思います。ケースBはどうでしょうか。これはやや複雑です。認知度も高いですし、製品やサービスに関する理解もきちんとなされています。そのうえで嫌いと判断されてしまっているわけです。このケースでは、潔く製品コンセプトを一から見直すか、いっそのことターゲットを変えてみることをお勧めします。ケースCはどうでしょうか。態度までは、まあまあなのですが、購入したいという確信が得られていないわけです。良いなと思っていても買う気にまでは至っていないのです。ここは、肩をぽーんと押して差し上げる活動としての販売促進が良いのではないかと考えます。例えば、大きな設備を販売する場合は、デモンストレーションを工場見学とセットで実施するとか、小さな装置ならトライアルでとりあえず使ってもらうとか、消費財なら試供品の提供とかいっそのこと価格インセンティブで期間限定特別ディスカウントとか、低利のファイナンスを
つけるとかなどです。要は製品に対する好感度、すなわち態度(attitude)が大事なのです。“いいね”と言ってもらえれば、プロモーションの活用いかんで何とかなるわけです。では、態度(“好き嫌い”とか“いいね”のレベル)というのはどのようにして形成されるのでしょうか。それを説明する理論が、多属性態度モデル(multiattributeattitudemodel)と呼ばれるものです。多属性態度モデルの計算式27は、下記の通りです。27多属性態度モデルの計算式態度=(属性b1を持っているという信念×属性b1の重要度)+(属性b2を持っているという信念×属性b2の重要度)+…+(属性bnを持っているという信念×属性bnの重要度)態度(Attitude)=要は、対象となっている製品とかサービスが複数あって、比較検討しようとしている属性がn個あるとします。候補としている対象物に、自分が求めている属性が備わっているとしたら+3、備わっていないならば-3とします。属性が備わっているかが信念“b”で表現されています。そしてそもそも、それぞれの属性をどのように評価するか、つまり各属性を持っていることが良いことなのか+3、悪いことなのか-3、言うなれば重要度ですが、これをeで表現しています。各属性の信念と重要度の積和が態度を決定づけるという式です。信念:b=belief→属性を持っていると判断するかどうかbi→対象物がi番目の属性を持っているという信念(持っていそう+3、持っていなさそう-3)評価:e=evaluation→各属性の評価、重要度(重要+3、重要でない-3)ei→そのi番目の属性に関する評価的側面、信念(属性)iの重要度態度:a=attitude→製品の各属性に関する信念(具備レベル)と評価(重要度)の積和
販売促進(プロモーション)戦略の立案のステップについてコメントしておきます。次の6つのMで考えます。1.プロモーションの目的確認(Mission)2.標的市場の設定(Market)3.プロモーションの予算決定(Money)
4.メッセージ作成(Message)5.媒体選択(Media)6.プロモーションの有効性確認(Measurement)具体的に広告の場合で考えると下記のようになります。①広告の目的確認、②ターゲット・オーディエンスの明確化、③広告予算決定(経験則法、目的-タスク法28、閾値を越す必要性)、④メッセージ作成(ターゲット・ユーザーの求める価値、購買センター構成員のニーズの明確化)、⑤媒体選択(垂直型・水平型29、到達コスト、頻度)、⑥広告の有効性評価(達成度の確認)。28タスク法:広告が遂行すべきタスクを評価し、各タスクにかかわるコストを分析して、総コストを合計して最終的な予算とする広告費予算の手法。29垂直型・水平型:垂直型とは、特定の業界内で現場監督から社長までが読むような業界紙。水平型とは、業界を問わず、タスクや技術または機能で特色を出しているような専門誌。≫マーケティングの応用〔*〕マーケティング戦略の総論、各論と見てきたわけですが、この辺で特に留意しておきたい脱コモディティ化というテーマについてコメントしたいと思います。お仕事で長年お付き合いさせていただいているクライアントの企業の方から、特に最近、製品のコモディティ化による利益率の低下傾向について相談をいただきました。そもそもコモディティ化はなぜ生じるのでしょうか。「コモディティ化」とは、供給される製品・サービスの差別化が困難になり、顧客から見ても、本質的な部分で違いを見出しにくくなっているという状況と考えられますが(元来「コモディティ」とは産品とか原料という意味です)、例えばその企業では画像処理システムの画素数を500万画素から1000万画素にして差別化したつもりでも、顧客はその違いを十分認知できず、上がった分のコストを価格に反映することができなかったということです。むしろ、効用の改善のために行った製品アップデートが、一部の顧客からは、オーバー・エンジニアリングと感じられてしまうことすらあるわけです。それでは、差別化が非常に困難な現代において、企業はどのようなマーケティング戦略を練っていけば良いのでしょうか。図53は、どうしたらコモディティ化を避けることができるのかということを考えるためのたたき台です。
図中のY軸は提供する価値そのものを表現する軸で、機能中心の価値(処理速度、容量、薄さ、軽さ、コンパクトさ、耐久性等)と、感性的な価値(デザイン、使用感というような五感に対する刺激や、安心感、あたたかみ、わくわく感というような製品の持つ世界観も含む)のどちらを出していくのかという要素です。X軸は、その価値の提供方法を表現しています。ハード中心か、それともソフトも加えての展開なのかということです。まず左下ですが、機能的な価値をハード中心で展開するケースで、例えばPCのブランドと言うとデルが典型的です。この領域では、新製品を作ってもリバース・エンジニアリング30によってすぐ模倣されます。したがって低コストで製品を提供できる仕組みが必要です。
30リバース・エンジニアリング:工業製品やソフトウエア製品を分解して、その内部構造、動作原理、製造方法などを調査すること。デルの古典的なビジネスモデルを見てみましょう。受注生産と直接販売を組み合わせたビジネスモデルで、顧客からのオーダーを受け、その要望に合わせて外部サプライヤーから部品を調達して、カスタマイズした製品を、生産、流通、小売業者を介さずに直接販売しています。直販のため流通マージンを省略できます。加えて受注生産方式のため、在庫の回転率は高く、しかも半導体部品は日々値段が下落し、速いサイクルでより高機能の部品が市場に投入されるため、部品の価格低下を即販売価格に反映できます。顧客は陳腐化していない最新スペックのPCを低コストで購入できるということになります。この象限でテーマとなるのは脱コモディティ化というよりも、コモディティ化した市場でどのように競争優位を維持拡大するのかということです。脱コモディティ化の方向のひとつが、象限の上へ向かう感性的な価値を出していく方向です。デザイン、使用感というような五感に対する刺激、安心感、あたたかみ、わくわく感というような世界観も含めて価値を出していくということです。ICT関連で考えると、パナソニックのタフブックとかタフパッド・シリーズです。まさに名前の示す通り、建設関係者、警察、特殊部隊をターゲットに、いかなるハード環境においてもタフに機能を発揮するという安心感を提供しています。この象限ではハードとしての製品をブランド化することがポイントと考えます。次の脱コモディティ化の方向性が、象限の右へ向かうハードに各種サービスやソフトを加えて展開するケースです。少し古いお話ですが、富士通が主体となって展開したパソコン通信サービスのNIFTYSERVEなどは、ハードとしてのPCに、通信というサービスを組み合わせた古典的なケースと考えられます。NECが以前展開していたインターネット・サービス・プロバイダーであるBIGLOBEが提供していた価値も、PCというハードとプロバイダーによる各種サービスの統合と考えられます。最近の事例では、小売業界に対して、監視カメラとAIを組み合わせて、レイアウト、商品配置も含めて顧客インターフェースをどのように改善したら良いかをコンサルティングしながら、システム・ソリューションを販売していくような展開などが考えられます。最後の方向性が右上の象限です。提供する価値が機能中心から感性的価値の提供にシフトすると同時に、その価値提供の方法もハード中心から、各種サービスを加えたものに複合化させるという価値転換を伴う内容です。この象限は、ヨーゼフ・シュンペーターの言う新結合にほかなりません。ICTの世界では、すでにクラシックなモデルになりつつあるかもしれませんが、アップルが典型的なケースとして考えられます。アップル社のビジネスモデルの構成要素は、スタイリッシュな携帯端末、通信システム、ミュージック・映画・ビデオの配信サービスであるiTunes、書籍管理ソフトのiBook、あらゆる生活シーンをわくわくさせる多種多様のアプリケーション、進化し続けるマックOS、何かあった際にハイタッチ感で対応してくれるアップルストアなどの各種要素の統合モデルです。携帯端末や音楽プレーヤーとしての機能に加え、洗練されたデザイン、音楽・映像配信サービスといういろいろな要素を“新結合”したモデルと考えることができます。アップル社の顧客価値は、決して固定したものではなく、iPhoneというハードを購入したあとでアップル社と相互作用しながら、顧客がおのおの自分のライフスタイルに合ったソリューションを経験し、価値を創造していくところに特徴があります。自動車業界でも考えてみましょう。大衆車を作るというモデルは左下の「低コスト」の象限になります。それに対してフェラーリは、左上の「ブランド」のモデルです。Uberは「ソリューション」の右下の象限と考えられます。テスラは、ブランドとサービスの統合の「イノベーション」のモデルと考えられます。テスラはロードスター、モデルS、モデル3という高性能EVを提供していますが、端末としての車の学習機能を通して、顧客にはより安全で快適なモビリティ・サービスを提供していると考えます。EV用の充電池や太陽光パネルも販売しており、将来的にはこうした装置も含めて、より効率的なエネルギー・ソリューションを統合的に提供していくことも視野に入れています。ここでのポイントは単に各種要素を新結合させるだけでは、イノベーションは起こらないということです。アップルやテスラのモデルに見られるように、顧客との協働活動に基づく価値を共創するプロセスを通して、製品が顧客に受け入れられ、真のイノベーションが生まれます。従来は、製造業=モノ作り、サービス業=サービス提供という図式があったと思います。しかし、イノベーションは顧客に受け入れられて初めて世の中に革新が起きるわけで、喜ばれて、感謝されて、受け入れられるモノ作りということで、これからは、製造業こそサービス業であり、その中核のひとつがハードであるという考え方が必要になってくるのではないかと思います。ステップ⑫バリュー・チェーンFUNCTIONALSTRATEGY価値を創出するシステムをどう構築するか≫必要不可欠な3つのプロセスマーケティングの応用のところで、価値の創出の基本パターンとして4つの類型を紹介させていただきました。これは、あくまでも類型であり、事業ごとに独自の価値の出し方を考えていく必要があるわけですが、ここで顧客価値が決まったら、価値を実際に創出するためのバリュー・チェーンを構築し、提供価値に適合させつつ、継続的に強化していかなければなりません。顧客価値創造に必要不可欠な主要なバリュー・チェーンは以下の3つに集約されます。①オペレーション管理プロセス(生産・製造)②顧客関係性管理プロセス(営業・販売)③イノベーション管理プロセス(研究・開発)各プロセスの相対的な重要性は、どのような顧客戦略を採用するのかということによってかなり異なってくることは言うまでもありません。
例えば、イノベーション追求型の戦略を採用するならば、イノベーション管理プロセスに重点が置かれる一方で、低いトータル・コスト戦略を推進する場合は、オペレーション管理プロセスがポイントになります。しかし、いずれの場合も、各プロセスが有機的に結びついて初めて価値提案を支えることができるわけで、社内の複数のプロセスが統合され、連動することで、システムとしての優位性が高まり、模倣されにくくなります。その結果、システムとしての優位性やその継続性も高まることになります。なお、システムを有機的に機能させるためには、マーケティングと各機能との調整と同期化が必要不可欠です。ポイントをまとめておきます。
バリュー・チェーンについて近年考え方が大きく変化していることに触れておきたいと思います。変化の源は、言うまでもなくIoT、ビッグデータ、AI(人工知能)、AR(拡張現実)、Robotics(ロボット)などのデジタル技術の活用による変革(デジタル・トランスフォーメーション、略してDX)です。デジタルネィティブの会社にとっては、DXはごくごくあたりまえで、DXを前提として戦略が構築されていますが、インターネット技術が普及する前から活動している伝統的な企業に関しては、DXは、単なる技術のひとつくらいにしか捉えていないケースが少なくありません。デビッド・ロジャース(2016)は、デジタル技術によって以下の5つの領域で大きく変化が生まれていると指摘しています。第一は、顧客の領域です。顧客は、ネットワークの構成主体として考えられるようになり、売り手と買い手の間での双方向コミュニケーションが容易になっているため、製品やサービスを買ってくれる対象市場という認識から、価値共創のパートナーという見方へと変化しつつあります。第二に、競争に関する考え方です。従来は業界内のみの競争を考えておけば足りたのに対して、プラットフォームを活用すれば、戦略的に必要な資産をパートナーからの調達で賄うことが可能になるため、業界横断的な競争が以前より激しくなっています。第三はデータの活用です。現在は、SNSなどを通して個々の消費者から膨大なデータが生み出されていますし、クラウドによりデータ保存にもお金がかからず、また構造化されていないデータ活用も十分可能になっています。ありとあらゆるところで生み出されるビッグデータを活用することによって、より精微な顧客行動の分析が可能となり、そのビジネスにおける可能性は飛躍的に上がっています。
第四は、研究や開発、生産の現場で、仮説検証のための実験が、AIやRoboticsなどのDXによって短期間で、かつ低コストで実現することが可能になっています。第五は、顧客価値の創出に関する考え方です。製品のみで価値を生み出そうとするのではなく、顧客の業務を分析し、顧客の問題解決に資するすべての要素を組み合わせて提供することで価値を生み出すという考えが、より一般的なものとして普及してきています。DXとは、経営環境の変化を踏まえて、技術と戦略を統合し、事業の在り方を変化させることです。バリュー・チェーンの川上である研究・開発、設計・デザインから、川中である生産・製造、加工・組み立て、川下のマーケティング、販売・営業、アフターサービスというそれぞれの機能やプロセスが、デジタル化で大きく革新する可能性を秘めています。最後に、新たなバリュー・チェーンで、顧客のニーズに対して新たな価値を提供できるかどうか、その価値が従来の製品にとって代われるようなインパクトがあるかどうかを評価します。同時に、その価値を支える機能がバリュー・チェーンで補えるかどうかを確認しておきましょう。また、価値が高ければ高いほど、競合から模倣される可能性もあります。それを防ぐ仕組みがあるかどうかも、事前に検討しておきたいところです。
ステップ⑬組織・制度FUNCTIONALSTRATEGY戦略を機能させるためのインフラをどう整えるか≫マッキンゼーの「7つのS」さて事業の範囲が定まり、競争戦略、マーケティング戦略、それを支える機能戦略が明確になった段階で、各種戦略を機能させるための社内インフラとしての組織・制度についても考えなくてはなりません。ここでは、マッキンゼーで採用されている組織を機能させるための「7つのS」について解説します。また、戦略を推進していくためには、状況に応じて組織を変革させていくことも必要になるかもしれませんので、組織変革のためのポイントについても最後にコメントします。マッキンゼーの「7つのS」とは、マッキンゼー・アンド・カンパニーが、トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンの考えに基づいて、組織が戦略を実行に移す際に互いに補完し影響し合う要素を7つにまとめたものです。7つの要素の頭文字をとって“7Sモデル”と呼ばれています。強い組織を作るためには、まず価値観を共有しておくことが望まれます。これがsharedvalueです。価値観を具体的に表現したものが戦略/strategyであり、戦略を推進するためには組織/structureとそれを動かす制度/systemが必要です。また、そうした戦略を実現して
くれる人/staffとその人たちの技術/skillsの維持向上もポイントです。そしてこうした6つの要素がシステムとして機能して生まれてくるのが企業風土、いわゆるstyleです。「7つのS」のそれぞれの要素には、始まりもまた上下関係も存在しません。優れた企業では、各要素がお互いを補い、強め合うことで、常にゴールに向かって前進しています。どのSが重要かということではなく、組織全体で最大の力を発揮できるかを考えることが重要です。7つのSSharedValue(共通の価値観)Strategy(戦略)Structure(組織構造)System(システム・制度)Staff(スタッフ)Skills(スキル)Style(企業風土)「7つのS」は、さらにハードの3Sとソフトの4Sに分かれます。ハードの3Sには、戦略(Strategy)、組織構造(Structure)、制度(System)が含まれます。戦略には、本書で繰り返しご説明しているような事業の範囲、競争戦略、マーケティング戦略、機能戦略などが含まれます。組織は、事業部制、機能別組織といったような組織の基本構造のことです。システム・制度は、意思決定、責任権限、情報伝達、人事制度、会議体、コンプライアンス関連など、組織を動かす仕組みのことを意味します。また、ハードの3Sは、比較的変更することが容易なものと考えられます。ソフトの4Sには、共通の価値観(SharedValue)、経営スタイル(Style)、スキル(Skills)、人材(Staff)が含まれます。共通の価値観とは、従業員によって認識、共有されている価値観であり、組織のミッションと考えても良いと思います。経営スタイルとは、会社の社風や組織文化、またそれらを受けてどのような経営戦略を採用していくかのことです。スキルとは組織に備わっている独自のスキルや技術の複合体としてのコア・コンピタンスのことです。人材とは組織で働くスタッフ一人ひとりの集合です。ソフトの4Sは、企業の性格や技術にあたりますから、すぐに変えることは難しいと考えられます。ですから、組織変革をマネジメントする際には、場当たり的なアプローチではなく、変革の目的と7Sの現状をふまえて、しっかりした考えのもとに取り組む必要があるのです。上記の7Sの要素のうち、どれを欠いても組織の戦略実行は効率的に行われないというのが、7Sモデルの示唆するところです。最後に組織変革を推進する際のポイントについて、大事な点を次に列挙しておきます。<組織変革のポイント>①危機感の共有、醸成(現状分析をスタッフも含めて自ら実施する)②部内での連帯感の構築(ビジョンの共創、全員参加の決起大会を実施する)③部をブランド化(社内外での認知度アップ、イメージ向上、社内でサポーターを増やす活動を強化)④変革プランの作成(抵抗勢力への対応、関係者への巻き込みも含めて)⑤リスクと柔軟性(予期せぬ出来事に対する柔軟な対応、創発的アプローチ)⑥短期的な成果の実現(比較的初期の段階で小さな成功を仕組む)⑦進捗の測定と評価(実行計画の追跡と数字上の成果だけではない多面的な評価をする)⑧みんなで祝杯、セレブレーション(事業部内外でのコミュニケーションを促進するための祝賀式)
<COLUMN4>テクノロジー・ライフサイクル「マーケティングの応用」〔*〕のところでもコメントさせていただきましたが、イノベーションとはテクノロジーを過激に進化させるという売り手側の理論ではなく、むしろ顧客に受け入れられて生じるものと考えるならば、新技術の対象顧客や市場がどのような状況なのかということを考えて、今まで検討してきたような施策を改めて検討することがポイントになります。ムーアの理論によりますと、テクノロジー・ライフサイクルにおける最初のステージを構成する初期市場では、顧客の知識力がそもそもかなり高く、情報処理能力も高いので、最先端の技術でも比較的スムーズに普及すると考えます。しかし、そのような顧客は数として多くありません。売上はその後頭打ちになり、次の顧客である前期大衆顧客や後期大衆顧客にまで、技術が普及せず終わってしまう可能性が高いのです。これがキャズム(溝)と呼ばれるステージです。キャズムにはまらない方法、または、それを乗り越えて、さらに持続的に技術を普及させていくための留意点を整理しておきます。
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