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ステップ② 戦略的目標 人生設計の一部として事業を考える

事業は人生の目標ではなく、それを達成するための手段にすぎない。そして人生の貴重な時間を犠牲にするものではなく、人生をより豊かにするチャンスでもある。

これまでの章を読んで、あなたは人生の日標をはっきりともつことができただろうか?人生の目標がはっきりと決まれば、次にようやく事業について考える作業が始まる。

そこで最初に、人生の目標を達成するために、事業がどんな役割を果たすのかを考えなければならない。それが事業の戦略的目標である。

戦略的目標は、通常の事業計画とは異なる。なぜなら、戦略的目標には人生設計という視点が含まれているからである。

事業は人生設計の一部にすぎないのである。また戦略的目標は、一緒に仕事をする人たち―‐銀行員、投資家、仕事仲間―‐に対して、事業のあらましを伝えるパンフレツトの役割も果たす。

だから、わかりやすくするためにも、ある程度簡潔なものでなければならないっ事業の戦略的日標とは、人生や事業における基準を集めたものであり、またゴールまでの達成度を測るための基準にもなる。

それでは、戦略的日標にどのような基準が必要なのか詳しく見てなよう。

目次

第一の基準お金

事業の戦略的目標の最初の基準は、お金、つまり売り上げである。

あなたはどれくらいの目標を置いているだろうか?

  • 年商二十万ドルの会社だろうか?
  • 百万ドルの会社だろうか?
  • それとも五千万ドルの会社だろうか?

この答えがわからないのなら、事業を始めることが人生の目標の実現に役立つのかさえはっきりとしない。

しかも売り上げだけでは不十分だ。

売上総利益、経常利益、税引後利益についても、目標の設定が必要である。

将来の売り上げをどうやって今から予測するのか?と思うかもしれないが、さほど悩む必要はない。将来の予測などそもそも不可能なのだから、議論のきっかけとして、どんな基準でもないよりはマシだという程度に割り切ればよいのである。

それにお金に関する基準を設けることは、事業のためだけでなく、人生設計にとつても必要なことなのである。

戦略的目標をつくる際には、まず「人生の日標を達成するためには、何をすればよいだろうか?」と考えるが、お金はその次に重要な問題となる。

「自分が望むような生き方をするには、どれくらいのお金が必要だろうか?」この場合のお金とは、収入ではなく資産を指す。

言い換えれば、仕事からの収入に頼らずに生きるためには、どれくらいのお金が必要だろうか?ということである。

私は、起業することの最終的な目的は、「会社を売却する」ことだと考えている。会社を立ち上げ、成功させ、売却することで十分な報酬を得るのである。

どれくらいの価格で売却したいだろうか?いつ売却したいだろうか?これらの質問への答えがお金に関する基準となる。

これが決まれば次のステップとして、あなたの考える事業が十分なお金を生み出せるのか?を検討することになる。

第二の基準取り組む価値はあるのか?

あなたが考えている事業には、取り組むだけの価値があるのだろうか?つまり、事業を成功させれば、第一の基準である十分なお金を稼ぐことができるのだろうか?

・もし、その答えがイエスならば、その事業には取り組むだけの価値がある。

しかし、十分なお金を稼ぐことができないと思えるのなら、その事業がどれほど面白いものであっても、あきらめざるを得ない。人生の目標を達成するためには、他にお金を稼ぐことのできる事業を探さなければならないのである。

取り組む価値があるかどうかを見極めるためにも、次の質問に答えてみてほしい。

「あなたが考えている事業は、多くの消費者が感じている不満を解決できるものだろうか?」

あなたはこの答えを探す中で、「どのような事業を目指すべきか?」「顧客とは誰か?」という二つの重要な問題に気づくことになる。

どのような事業を目指すべきか?

誰かに、どんな仕事をしていますか?と聞けば、たいていの場合は「コンピューターの仕事をしている」とか「システムキッチンを売っている」という答えが返ってくる。

取り扱う商品を答える人がほとんどで、商品がもたらす「価値」について答える人はいない.いったい「価値」とは何だろうか?商品とは、顧客が店を出るときに、実際に手にもっているものである。

価値とは、顧客が店を出るときに、感じるものである。顧客が何かを感じるとすれば、商品に対してではなく、お店や事業全体に対してである。事業を成功させるためには、この違いを理解しなければならない。

レブロンの創業者であるチャールズ・レヴソンは、かつて自分の会社のことを次のように語った。

「レプロンの工場では化粧品をつくっているが、店舗で売っているものは希望である」レプロンでは、化粧品という商品を通して、希望という価値を提供しているのである。

また、一九八〇年代のシャネルのテレビCMは、まどろみを誘うような音楽とともに、完璧な美男美女のカップルの映像から始められた。

映像はすぐに切り替わり、高層ビルを映し出す。二つの映像が何度も切り替えられる間も、音楽は続けられる。高層ビルのガラスの壁に飛行機の黒い影が映り、真っ直ぐに上っていく。女性が男性に近づく。音楽は続けられる。男性は誘うような甘い声でささやく。

「聞いてもいいかな?」女性は日を開じて、頭を後ろにそらし、わずかに口を開く。しかし、私たちには彼女の声は聞こえない。突然にメッセージが表れる。

「フアンタジーを分かちあおう。シャネル」香水という言葉など、一度も出てこない。

このCMで売ろうとしたのは、香水という商品ではなく、ファンタジーという価値だったのである。

あなたの店や事業が提供する「価値」とは何だろうか?

  • 顧客が店を出るときに、どんな感情をもっているだろうか?
  • 喜びだろうか?
  • 安心感だろうか?
  • 愛情だろうか?
  • 顧客があなたの店で買うものとは、本当のところ何だろうか?

商品も価値観も多様化した現代では、顧客の感情を理解することは困難になった。

しかし、顧客の年齢や職業などの属性、心理分析を行うことで、顧客の琴線に触れる「価値」を提供するのがあなたの仕事なのである。

顧客とは誰か?

どんな業種でも、年齢、性別、家族、学歴、職業などの切り回から、顧客の属性データを分析することができる。

業種により特徴は異なるが、分析を進めることで、特定のグループがあなたの上得意客になっていることがわかる。

そのうえで上得意客がなぜ商品を買つてくれるのか?という顧客心理を分析することになる。

「この事業に取り組む価値があるのか?」と考えるときには、顧客の属性データを分析することで、どれくらいの潜在的な市場が見込まれるのかを知り、顧客心理を分析することで、どのような顧客ニーズが存在するのかを探ることになる。

基準はいくつ必要か?

戦略的目標を完成させるために、「いくつの基準が必要なのか?」という決まりはない。ただし、次のような質問への答えは準備しておかなければならない。

。事業の試作モデルが完成するのはいつか?

・営業エリアは市町村単位?

県単位?

全国規模?

・それとも世界規模?

・顧客は個人?

・法人?それとも両方?

・衛生管理、雇用、服装、研修等についてどんな基準を設定するのか?

このような基準が、事業の将来像を決定するのである。優良企業では、適切な基準が設定されているからこそ、すばらしい業績を残しているのである。

月曜日はサラの店「オール・アバウト・パイ」の定休日だったので、近くのレストランで昼食をとりながら話し合うことにした。

前に会ったときと比べて、サラの目には輝きが増し、若返ったように見えた。このレストランを所有するのは私の友人だった。

彼が店を始めたころに、私が助言していたために、この店では気兼ねなくテーブルを占領して、好きなだけ長居することができたのである。

また、成功したスモールビジネスの実例を見せるには最適な場所でもあった。サラは椅子に腰掛けて、すぐさま切り出した。

私は彼女にコーヒーを流れた。

「生まれて初めて、私は自分が欲しているものを理解できるようになったと思うの。大切なことを教えてくれて、とても感謝しているわ」「先週、あなたが帰ってからすぐに、決して仕事に消耗する生活には戻らないことを決意したの。雑務に追われる生活の代償の大きさがわかったのよ。それを理解した瞬間、まるで雑務から永久に解放されたような感覚さえ覚えたわ」

「この日を境に事業に対する考え方がすっかり変わったの。私の一部―‐あなたが職人と呼ぶ部分―‐が仕事をしている間、その部分は、私から切り離された状態にあった。でも、先週、私の一部が仕事をしている間、私から切り離されることはなかったの。

私には起業家の人格が備わっていないかもしれないと言ったけど、今では私にも備わっていることがわかったわ。起業家の人格は私の内側にずっとあったのよ。それは、私が『私の精神』と呼んできたものなの」

「『私の精神』とは、私のおばさんが名づけたものよ。おばさんは『サラ、あなたの精神を豊かにしなさい。あなたの精神が活力を生み出す泉となるのよ』とよく言っていたわ。

子供のころを思い出せば、私の精神のせいで、いつも問題を起こしていたわ。教室でも周りのことをそつちのけで、空想にふけっていたのは、私の精神のせいだった」

「先生と両親はそのことに怒っていたけど、おばさんは見守ってくれていたわ。『あなたの精神に対しては寛大でありなさい、サラ』おばさんはよく言ったものだわ。『あなたの精神は自由でなければならないの、でも同時にあなたは注意を忘れない必要がある。注意しすぎても、注意しなさすぎても、あなたの精神は荒れ馬のように暴れ出してしまう。

あなたの精神は、荒れ馬のように扱わなければならないの。あなたのために役に立つてくれる面もあるけど、自分のためにしか動かない面もある。どちらの面が自分に役立つてくれるのかを勉強しなければならないのよ。

フェンスで囲ってしまえば、あなたの精神は死んでしまう。かといつて、自由に任せておけば、いつまでたっても理解することができない』」

「ようやくわかったの。私は、これまでずっと長い間、両親と教師に言われるがままに、私の精神の周りをフェンスで囲み続けてきてしまったの。

そして、起業してからの三年間も、自分で気づかない間に、私の精神、つまり、起業家の人格の周りをフェンスで囲み続けてきた。でも、今、荒れ馬は自由になったわ―私はおばさんと一緒にキッチンに戻っている。

そして昔、彼女と一緒にキッチンでしていたことが理解できるようになった。彼女がつくりあげようとしていたのは、パイではなく、私自身だったのよ。彼女が教えてくれたのは、私の精神であり、荒れ馬であり、創造力であった」

「あなたが起業家について話してくれたとき、一度に思い出したのよ。おばさん、キッチン、パイ、教室で空想にふけること、子供のころ隠れていた秘密の場所。そして、ずっと前に隠れることをやめてしまったこと。それをとてもさみしく思っていたこと」

「私は誤解していたけど、おばさんが本当に伝えたかったことは、パイの焼き方ではなかったのよ」「私の事業の話に戻さなきゃね」彼女は続けた。

「私が望んでいるのは事業を成長させることであり、他にやりたいことをするためにも事業から自由になることよ。とはいっても、他にやりたいことが何なのかは、今すぐはわからないけど」

「考えてみたらどうだい」私は言った。「できるだけのことはやってみるわ」彼女は笑顔を浮かべた。「あなたは、まるで私のおばさんみたいね。困ったときに助けてくれないところなんて、そっくりよ」

「でも、私はやってみるわ。私たちはどうすればよいのかしら」彼女はしばらく目を開じて、気持ちを集中させているようだった。

それから彼女は自分自身に語りかけるように穏やかに話しはじめた。

「私は子供のころに戻ったわ。自分だけの隠れる場所をもっていたころ、そして私の精神をまだもっていたころ。季節は夏。ベッドの上に寝そべり天丼を見上げながら、涼しいそよ風が開け放たれた窓から入ってくるのを感じている。何をする必要もない。どこにいる必要もない。これが、私の人生の中で最高の感覚なの。寝そべって、日を開けて、目を閉じて、草のにおいを感じて、夏の薫りに包まれて、満たされた気持ちにひたる」

「それから、夢を見はじめる。私は家の敷地を流れる小川に沿って、家から五百フィートほど離れた場所に向かって歩いている。

敷地の端にはオークの巨木が四本、まるで林のように立っている場所があって、おばさんと私はフオー。オークスと呼んでいた。子供のころの私には、まるで別の国に来たかのように感じられる場所だった」

「私は今、フオー。オークスにいる。そこは荒れ馬が私を待っている場所だつた。荒れ馬の真っ黒な毛並みは、日陰でも輝いていた。私は荒れ馬に近づいて、顔に触れる。荒れ馬は身震いし、私から離れようとする。しばらくの間、動きを止めて日を合わせた後、荒れ馬は走り去ってしまった。荒れ馬はくるりと向きを変えて疾走する。

たてがみとしっぽをなびかせて、小川を越え、■に向かい、姿は見えなくなってしまった。突如、私は心地よい夏の微風を感じる。ベッドの中で、私は自分を抱きじめている。そして何もすることのない美しい夏の朝に生きていることに感動する」

サラの頼からは涙が流れ落ちていた。大切なものを発見したときの涙である。彼女の顔には、すぐに輝くような微笑が戻っていた。彼女を見ていた私にも涙があふれてきた。私には、彼女の涙の意味が理解できた。昼食の間、私たちはほとんど会話を交わさないままだった。ウェイターが紅茶のポットをもってきた。サラが二人のカップに紅茶を注ぎ終えたとき、私は話しはじめた。

「事業について前向きに考えられるようになったんじゃないかい?・だとすれば、私に聞かせてもらえないかな?戦略的目標のことを聞いてみたいんだ」「わかったわ。いくつかのアイデアはあるの」彼女は恥ずかしそうに笑顔を浮かべた。

彼女が考えをまとめている間、私は過去を想っていた。彼女の笑顔は、経営者が事業への夢をふくらませるときのものだ。これまでにどれだけの笑顔を見てきただろうか。

実体以上に空想をふくらませたり、背伸びをしたりすることへの照れの気持ちもあるのだろう。子供のころ、彼らは同じような経験をしたのではないだろうか。

空想のアイデアを両親や教師に話したときに、現実的ではないと否定する彼らの反応に失望し、恥ずかしい気持ちを感じる。そして、三度と誰にも話さないことを決め込んだ孤独な子供へとなっていく。

こうして、両親や教師は無意識のうちに『精神』を奪ってしまうのである。しかし、私が想像した通り、サラは恥ずかしがる気持ちは忘れて、自分の描く事業の将来図を表現しようとしていた。

そして、彼女はとても明確な将来図を話しはじめた。

「七年後には、私のお店は四つに増えているの。一つは今のお店、それ以外に三カ所にお店を出すことに決めたわ」彼女は店を出す候補地として、隣接する三つの地域をあげた。

「名前は変える必要はないわ。『オール・アバウト・パイ』という言葉の通り、私がおばさんから学んだパイに関するすべてをお客さまと従業員に伝える場所にするつもり。

すべての人に『オール・アバウト・パイ』という名前がもっている深いメッセージに気づいてほしいと思ってるのよ」「一店舗当たりの年間売上高は四十五万ドルで、四店舗なら年商百八十万ドル。

純利益は正確にはわからないけれど、一五%ぐらいとして、全店で二十七万ドルぐらいは確保するべきよね。今のお店の純利益率が一一%だから、一五%ぐらいなら可能なはずよ」

「うまくいって七年以内に事業が売却できれば、株価収益率から考えて百万ドル以上の金額で売却できるはずなの。七年間で百万ドルの事業をつくること―‐これが私の夢」

サラはもう百万ドルが、自分の銀行日座に振り込まれたかのような笑顔で一言った。

「どうして百万ドルかといえば、今欲しいと思っているものを全部買っても買い切れないぐらいのお金だし、目標として考えるにはぴったりの数字に思えるからなの」「二番目のお店を開く前には、私がお店にいなくても、うまくお店が運営できるようにしなきゃならないこともわかってる。

そのために、最初にするべきなのは、私の仕事の進め方をきちんと文書にまとめること。

とはいっても、もうまとめはじめているのよ」「ねえ、私の事業が成功したときの姿についてもっと話してもいいかしら?」「私のおばさんはよく『今の人たちは、もっと思いやりの気持ちをもつべきだ』って口癖のように言っていたわ。

私もその通りだと思うの。だから、私のお店は『思いやり』を伝える場所にしたいの。

あなたの話によれば、私が思いやりのある人間なら、私のお店にも思いやりが表れるはずよね?・だとすれば、お店で売っている商品はパイだけど、お店を出るときにお客さんが感じるのは『思いやり』だって言えるようにしたい」「なかなかりっばな経営理念だね」私はあいづちを打った。

「それにお客さんにとつても、従業員にとっても、私のお店はお手本のような場所でなければならない。

そう考えれば、パイの材料に使う果物を育てる果樹園もつくらなきゃならないことに気づいたの」「おばさんは、『最高の果物を食べてもらおうと思えば、じっくりと手に取って、においをかいで、食べごろかどうかを確かめなさい』つて教えてくれたわ。

ここまでなら普通だけど、おばさんは『もっと、果物のことを知らなければ』といつて、庭に木までを植えてしまった。そうすれば、いろんなことがわかってきて、有機肥料にもこだわるようになっていた。おばさんはそんな人だったのよ」

「私のお店でも、おばさんのような『思いやり』を伝えようとするなら、自分のお店の果樹園がやっばり必要だと思うの。そうすれば、お店では旬の果物を使ったパイをつくることができる。

他の店が真似できないような完全な自家製だから、ちやんと差別化できるでしょ。それにお店の床は最高のオーク材で、オーブンも最高のものだしね」ここで私は口をはさんだ。

「おばさんも、ここを気に入つてくれるだろうね」サラは答えた。

「たぶんね。よく考えてみると、今言ったことは、これまでのお店でもやつてきたことだから、きっとうまくいくはずなのよ。

それに、もし迷っても、『おばさんだつたらどうするかしら?』つて考えればよいことに気づいたのよ」「これが、私の事業の戦略的目標なんだけど、いかがだったかしら?」私は笑いながら答えた。

「サラ、驚いて言葉も出ないよ」「じやあ、次は何をすればいいの?」サラは私たちのカツプに新しく紅茶を注ぎながら尋ねた。

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