あなたの事業は、あなたの人生ではない
この章で私の伝えたい最大のメッセージが「あなたの事業は、あなたの人生ではない」ということである。
このことさえ理解してくれれば、あなたの事業も人生もガラリと変わることになる。本来なら、あなたの事業と人生は、全く別物なのである。
事業とは、それ自身が目的とルールをもっている独立した生き物のようなものであって、決してあなたの一部ではない。
そして生き物である以上は、生命力の強さ―‐顧客を見つけ出し、顧客との関係を維持する能力の強さ―によつて、寿命が決まるのである。
あなたの人生の目的は、事業という生き物に奉仕することではない。反対に、事業という生き物は、あなたの人生に奉仕するはずである。
つまり、自分のためにお金を生み出してくれたり、人生の日標のために役立ってくれたりするような事業をつくらなければならない。
それをつくるうえで、事業の試作モデルという考え方が役に立ってくるのである。次のように考えてほしい。
あなたが今行っている事業―またはこれから始めようとする事業―こそが、あなたの試作モデルとなる。
そして、マクドナルドが全世界に展開しているように、それと全く同じものを全国五千力所で展開してみたらどうだろうか?言い換えれば、フランチャイズビジネスの真似をしてほしいのである(私は真似をするようにと言っているだけである。
フランチャイズを始めるべきだとは言つていない。もちろん、それを始めたいのであれば、始めてもらつても構わないが)。
事業の試作モデルに必要な六つのルール
五千力所で展開するために、事業の試作モデルでは、次のようなルールを守らなければならない。
- 顧客、従業員、取引先、金融機関に対して、いつも期待以上の価値を提供する。
- 必要最低限の能力でもうまく経営できる。
- 秩序だてて組織が運営される。
- 従業員の仕事内容はすべてマニュアルに記載されている。
- 顧客に対して安定した商品・サービスが提供される。
- 建物や設備、制服についてのルールが定められている。
それでは、それぞれのルールについて見てみよう。
1顧客、従業員、取引先、金融機関に対して、いつも期待以上の価値を提供する
そもそも価値とは何だろうか?・価値とは個人によって違うものではないだろうか?
・また、顧客、従業員、取引先、金融機関に対して、期待以上の価値を与えるにはどうしたらよいのだろうか?起業家はこの疑間に答えなければならない。
なぜなら、周囲に対して価値を提供することが、あなたの事業の存在理由なのだ―ある事業が成功を収めているなら、それは提供するべき価値とは何なのかをきっちりと理解しているからである。
- 価値とは、店のドアを出るときに顧客がつぶやく言葉かもしれない。
- 価値とは、顧客のもとに突然届けられるプレゼントかもしれない。
- 価値とは、仕事を覚えた新入社員に対しての褒め言葉かもしれない。
- 価値とは、適切な価格設定かもしれない。
- 価値とは、説明を聞きたがっている顧客に、熱心に説明しようとする店員の姿勢かもしれない。
- 価値とは、取引先の銀行員の誠実な態度に対する簡単な感謝の言葉かもしれない。
- 価値とは、事業にとつても、そしてあなたが事業から満足感を得るためにも、必要不可欠なものである。
2必要最低限の能力でもうまく経営できる
そう、私は必要最低限の能力と書いた。なぜなら、高い能力をもった人しか働けないのなら、五千力所で同じような事業を展開しようとしても不可能だからである。
数少ない能力の高い人を雇おうとしても、人件費がかさみ、商品やサービスの値上げにつながってしまう。必要最低限という言葉の意味は、割り当てられた仕事をこなすのに必要な最低限のレベルということである。
だから、法律事務所を経営しているのなら、弁護士を雇わなければならない。病院を経営しているのなら、医師を雇わなければならない。しかし彼らは必ずしも、優秀な弁護士や医師である必要はない。
平凡な弁護士や医師が、最高の結果を出すような仕組みをつくればよいのである。
そこで、経営者は次の質問に答えなければならない。
どうすれば個人の能力に頼らなくても、顧客の期待を満たすことができるだろうか?これは言い換えれば、どうすれば人ではなくシステムに依存した事業をつくることができるのか?・ということである。
専門家依存型ではなくシステム依存型の事業である。専門家を雇うことなく、どうすればシステムの中にその能力や経験を組み込むことができるのだろうか?私は人が重要ではないと言うつもりはない。
それどころか、システムに生命を吹き込むのは人である。
システムの重要性を理解している人たち―‐あなたの従業員はみんなそうでなければならない―は、システムを改良することで、事業全体を改革するのである。
よくいわれることだが、偉大な事業とは、非凡な人々によってつくられたものではない。平凡な人が非凡な結果を出すからこそ、偉大なのである。
しかし、平凡な人が非几な結果を出すためには、本当に必要な能力と、実際の従業員の能力との間のギャップを埋めなければならない。その役割を果たすのがシステムなのである。
ここでいうシステムとは、生産性を高めるために従業員が使う道具であり、それは競合相手と差別化するための道具でもある。
あなたの仕事は、このような道具をつくり、従業員に使い方を教えることである。従業員の仕事は、道具を使って仕事を進めながら、さらに改善する方法を見つけることである。
たいていのスモールビジネスの経営者は、能力の高い従業員がお気に入りである。なぜなら、そういう人には仕事を任せられるので、自分の仕事が楽になると思い込んでいるからである。
つまり、彼らは経営を委任しているのではなく、放棄しているのである。こんな会社の業績は、お気に入りの従業員の気分しだいで変わってしまう。
もし彼らの気分が乗っていれば仕事は進むが、そうでなければ仕事は進まない。従業員のやる気を起こすには、彼らのご機嫌をとるしか方法はない。
非凡な従業員に依存した事業では、長期的に安定した結果を出し続けることは不可能になる。非凡な事業のオーナーなら、こんな方法はとらないだろう。
彼らは非凡な従業員がいないことを前提にして、平凡な従業員がいつも非凡な結果を出せるようなシステムをつくろうとしている。
これは大会社でさえ悩んでいるような、とても難しい課題である。しかし、あなたはまず最初に、この課題を解決するようなシステムをつくらなければならない。これが事業を成功へと導く基礎になるのである。
3秩序だてて組織が運営される
このルールの前提となっているのは、多数の人は秩序を求めているということだ。アルビン・トフラーは、画期的な著書『第二の波』の中で、次のように書いている。
「現代社会を分析しようと試みる人々の多くは、そこに混沌を見出すだけである。そのために分析の試みが無意味なものだと感じたり、無力感にさいなまれるようになる」彼はこう続けている。
「人々は、人生に見通しを必要としている。見通しのきかない人生は、行き先の決まらない難破船のようなものである。見通しの不在は崩壊へとつながる。見通しは、私たちが必要としている相対的な基準を示してくれるものなのだ」
この「相対的な基準」こそが、組織に秩序を与えるために必要なものである。秩序ある組織では、経営者も従業員も何をするべきなのかを知っている。秩序ある組織では、顧客に対しては「私たちのサービスを信頼してください」と、従業員に対しては「会社の将来は明るいものですよ」と言うことができる。秩序ある組織では、全体がきっちりと整理されているのである。
4従業員の仕事内容はすべてマニュアルに記載されている
私は、従業員は相対的な基準を必要としていると書いた。
「この場合はこうしなさい」という文書は、その基準となるものであり、最も効率よく、最も効果の高い仕事の進め方が書かれている。
新人もベテランもこのマニュアルに従うことになる。ここでまたトフラーを引用しよう。
「……多くの人々にとつて仕事というものは、給与をもらうこと以上に、心理的な重要性を持つものである。時間と労力への対価を明確にすることで、仕事以外の生活も安定する」ここでは、「明確に」がキーワードになる。
個別の業務について、仕事の目的、作業の手順、その結果を評価する方法が明確に書かれていなければならない。
マニュアルとは、これが積み重ねられたものなのである。マニュアルなしには、事業の試作モデルを試作モデルと呼ぶことはできない。
5顧客に対して安定した商品・サービスが提供される
秩序ある事業では、いつも安定したサービスが提供されなければならない。私の最近の経験が、この重要さを理解するのによい例となるだろう。ある床屋に行ったときのことだ。
その店は初めてだったが、理容師は最高のカットをしてくれた。彼ははさみを使うのがうまく、バリカンなどを使わずにカツトしてくれた。また彼は、髪を切る前にシャンプーをしたほうが、カットしやすいことも説明してくれた。
おまけにカットの最中には、見習いの若者がコーヒーを持ってきてくれ、お代わりも頼めた。私はこの店のサービスがとても気に入ったので、次回も来る約束をして店を出た。しかし、次に行ったときにはすべてが違っていた。
カットのうちだいたい半分はバリカンを使っていた。そして「シャンプーをしましょうか?」と聞くことさえなかった。
見習いの若者はコーヒーを持ってきたが、私が飲み干してもお代わりまでは持ってきてくれなかった。
しかし、カットの仕上がりは満足できるものだった。数週間後、私は三回目の予約をした。今度はシャンプーをしてくれたのだが、それはカットした後だった。
今度はバリカンを使わなかったが、最初の二回とは違ってコーヒーは出してもらえなかつた。
最初は見習いの若者が休みなのかと思ったが、すぐに棚の整理に忙しそうにしている姿が目に入ってきた。
店を出た私は、もうあの店には行くまい、と決心をしていた。それはカットのせいではない。理容師はすばらしいカットをしてくれる。理容師が嫌いなわけでもない。彼は愛想もよくて、腕前も十分だ。しかし、もっと大切なことがあるのだ。
それは、毎回のサービスに一貫性がなかったということである。
最初にカットをしてもらつたときに、私の中でその店に対する期待が形成された。しかし、続く二回の経験で、その期待は裏切られてしまったのである。
私が何を期待していたのかうまく説明できないが、ともかく同じようなサービスを経験したかったのだ。理容師は絶えず――そして勝手に――私へのサービスを変えていた。
そして彼は、自分のサービスが、私の気持ちにどんな影響を与えるのかについて、考えている様子もなかった。
彼が店を経営しているのはお客のためではなく、自分のためだった。それが理由で、私は彼の店に通うことをやめてしまったのである。
私はプロの理容師ならはさみでカットするべきだと思っているし、コーヒーを俺れてもらうのが好きだ。
髪を切る前にシャンプーをしてほしいと思つていて、それがうまくヘアカツトを仕上げる秘訣だと信じている。
この床屋は、一度は私にとても心地よい経験を与えてくれたのに、それを取り上げてしまったのである。
お客がどんなニーズをもっていても、彼らには関係のないことなのである。大学時代の心理学の授業で似たような話を聞いたことがある。
それは、ある子供が同じ行動をとっているにもかかわらず、怒られたり褒められたりする例であった。こんな親をもった子供は悲惨である。
自分に何が期待されていて、どのように行動すればよいのかがわからなくなってしまう。同じように顧客も戸惑いを感じているのである。
子供なら、親とともに暮らすしか選択肢はない。しかし、顧客は他のどこにでも行くことができる。そして、実際にどこかの店に行ってしまう。
商品・サービスの質が高いことも大切だが、それ以上にいつも同じ商品・サービスを提供し続けることのほうがずっと重要なのだ。
6建物や設備、制服についてのルールが定められている
マーケティングの研究によれば、消費者は売り場で目に入ってくる商品の色や形に強い影響を受けることがわかっている。
どんな色や形に強く反応するかは消費者によってまちまちであるが、いずれにせよ、会社のロゴや店の内装の色は、あなたの事業の売り上げに
大きな影響を与えている。
色彩研究所の創設者であるルイス・チェスキンは、著書『なぜ人々は買うのか』の中で、色や形のもつ力について述べている。衣料品店における女性の購買行動の研究をしていたときのことである。
若い女性がブラウスを買いたいと思っていたとき、売り場には色違いのブラウスが何種類か並べられていた。彼女は青いブラウスを手に取り、鏡の前で体に合わせてなた。彼女は金髪なので青が似合うことを知っていた。次に、赤いブラウスにも手を伸ばした。
彼女はその色が好きだったが、ちょっと派手すぎるかなと思った。そのとき販売員は、今年は黄色が流行りですよとアドバイスをした。
一番似合う色を選ぶべきか、一番好きな色を選ぶべきか、今流行りの色を選ぶべきか、迷いに迷って結局灰色のブラウスを買うことにした。
数週間後、私は、灰色のブラウスが気に入っていないという報告を受けた。彼女はそのブラウスを二回しか着なかったとのことだった。実験に協力してくれた他の女性も、購入までにいろいろな迷いがあったという結果が得られた。
似合う色だから、流行色だから、好きな色だから、と理由はさまざまだが、自分の衝動や願望を満たすような色を選んでいた。
ブラウスを買うという行為一つをとつても、心理学的に複雑な問題を含んでいるのである。このブラウスの話と同じで、あなたの事業にとっても、よい色もあれば、悪い色もあるのだ。顧客の目に触れる部分の色はすべて、科学的に決定されなければならない。
このルールは、壁、床、天丼、自動車から、納品書、従業員の服装、ディスプレイ、看板に至るまで徹底されるべきものである。
また、色と同様に、形にもよいものと悪いものがあって、名刺、看板、ロゴ、商品陳列などで重要な役割を果たすことになる。
チェスキンが行ったテストでは、円形のロゴが入った商品は三角形のロゴよりもよく売れ、紋章のロゴの入った商品は円形のロゴよりもよく売れたという。
それほど重要とは思えないロゴの選び方一つをとっても、売り上げが増えたり減ったりする。
今までに気にしたことがなかつたかもしれないが、看板やロゴ、名刺の書体は、売り上げに大きな影響力をもっているのである。
だからこそ、事業の試作モデルをつくる段階では、慎重な検討が行われなければならない次に進む前に、今までのおさらいをしておこう。
他の人に任せてもうまくいくような事業をつくろう。どこでも誰でも、同じ結果が出せるような事業の試作モデルをつくるところから始めよう。事業とは、あなたとは別の独立した存在だ。
それはあなたの努力の成果であり、特定の顧客のニーズを満たす機会であり、あなたの人生をより豊かにする手段である。
事業とは、多くの部品から構成されたシステムであり、ライバルとは明確に差別化されたものであり、顧客の問題を解決するものである。
そして、次の質問を自分自身に問いかけてほしい。どうすれば他の人に任せても、事業が成長するだろうか?。どうすれば自分が現場にいなくても、従業員は働いてくれるだろうか?。どうすれば事業をシステム化できるだろうか?
システム化された事業では、五千力所に店を出すとしても、一カ所日と同じことを繰り返すだけで、スムーズに出店できるはずである。。
どうすれば自分の時間を確保しながら、事業を経営できるだろうか?。
どうすればやらなければならない仕事に追われることなく、やりたい仕事に時間をあてることができるだろうか?この質問にすんなりと答えることができれば、あなたは事業のことで悩んだりはしていないだろう。
答えがわからないからこそ、悩みを抱えているのである。しかし、今やあなたは「知らない」ということを知るようになった。
私は、これらの質問に対する答えを、「事業発展プログラム」と名づけて、10章以降で紹介している。
このプログラムは、過去に何千ものスモールビジネスで実践し、成功を収めたという裏づけがある。
これを実践すれば、あなたの人生を変えることができるのである―サラは、一瞬考え込んだような様子で私を見て、それから言った。
「今聞いたことを、私なりの言葉で言わせてもらつていいかしら?」彼女は椅子に座って腕組みをしたまま話しはじめた。
「あなたの言っていることは、私と事業があまりにも一体化されてしまっているということよね。私に必要なのは、事業と私自身を分けて考えること。まずその方法で考えてみて、次に実践してみることが必要なのよね。これまでの私は、自分さえ頑張れば、事業もうまくいくと信じて働いてきたの」
「私がストレスから解放されて、本当の経営者の仕事に専念するためには、事業と自分自身を切り離して考えるべきなのね。これまでとは全然違う方法で、事業のことを考えなきゃならない。今まではおいしいパイをつくる方法ばかりを考えていたんだけど、これからは利益が上がるお店をつくる方法も考えなきゃね。これがお店や事業全体を商品として考えるってことなのね。でも、お店や事業を商品として考えた場合に、お客さんだけでなく、従業員にとっても魅力的なものにするにはどうすればいいのかしら?」
「こういう質問を考えるようになったんだから、今までとは全く違う方法で事業に取り組んでいる証拠よね!」サラはここで、最後の言葉をかみしめるかのように、一呼吸置いた。
「ねえ、正直いえば、ついさっきまで、お店や事業の仕組みなんて考えたことがなかったのよ。パイを焼いてさえいれば、他のことを考える必要なんてないと思っていたの。でも今は新しいチャンスに出会ったみたいで、わくわくしているわ」
「まるで、高校で初めて文学の授業を受けたときみたいにね。文学のレトケ先生は、登場人物がまるで日の前にいるかのような授業をしてくれた人だったわ。初めての宿題の『ハックルベリloフィンの冒険』には夢中になってしまった。
登場人物は、本の中で生きていて、豊かな感情や愛情をもっているし、困難や恐怖とも戦っている。まるで、ハックルベリー・フィンが目の前にいるような感覚よ。読書でそんな感覚になったのは初めてのことだったわ」
「でも、今の私は、そのときと同じような気持ちになっているの。新しい本の表紙を開く。中に何が書いてあるのかはわからないけど、経験したことがないような冒険が詰まっていることだけは確かなの。この瞬問から私の事業はガラリと変わるのね。そして、私も―」
サラは一息つくように、身をそらして椅子に背中を押し付けた。
「あなたの言う『事業の試作モデル』という考え方は、言い換えてみれば『商品として事業を考える』ということでしょ?・事業は私から切り離されていて、私がいなくても利益を生み出すようになっている。
だから、商品のように事業を売ることができるのよね?・商品として魅力的であるためには、いつもお客さんのニーズに応えていて、リピーターを増やさなければならないわ。
他の人がお店を経営しても確実に利益が出るところまで、『オール・アバウト・パイ』を企画。設計してつくりあげていく、これが私の仕事なのね」
「たしかにあなたの考えには、日からうろこが落ちるような気がするわ。これまででいちばんやりがいがあって、面白そうな考え方ね―もうお店はあるんだから、あとはそれを経営する方法を勉強すればいいのだと考えれば、私はラッキーなのかもね」私は言った。
「サラ、全くその通りだよ。じゃあ、いよいよ『事業発展プログラム』の話をしようか。これさえ頭に入れておけば、思っているよりもずっと楽にこれからの仕事を進められると思うよ」
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