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3 幼年期― 職人の時代

人が成長するように、事業も成長することが当然と思われている。そして、成長には変化を伴う。しかし残念なことに、成長を続ける事業はごくわずかである。

それどころか、ほとんどの事業はオーナーの気まぐれで経営されているために、あるべき方向からは外れているようにさえ見える。

あなたの中の職人が会社を経営するときには、成長や変化を求めようとはしない。

日うるさい上司のいないところで、好きなように働ければそれで満足なのだ。

こんな職人が事業を経営しようとしても、行く末はわかりきっているのではないだろうか?その理由を話す前に、事業が成長する様子を幼年期、青年期、成熟期の三段階に分けてみよう。

三つの段階があることを知り、各段階での経営者の心理を理解することは、あなたの事業を成功させるのにプラスになるはずである。

目次

すべての仕事をこなす職人的経営者

あなたは独立し、会社に勤めていたころの上司はいなくなった。ついに職人としての自由を勝ち取った―自分のやりたいことが誰にも邪魔されずにできる。将来はバラ色に見え、その可能性に胸が躍る気持ちだ。

まるで夏休みに入ったときの子供のように、手に入れた自由に胸をふくらませている。独立した当初は、何も考える必要はない。職人として仕事をこなすことにかけては、あなたはベテランだ。

だから、事業を立ち上げてまもない幼年期の間は、あなたは喜んで働こうとする。

「目の前に仕事がある、それで十分じゃないか―」こうやって、一日に十時間、十二時間、十四時間、そして一日も休むことなく一週間働くようになる。

他のことをしているときにも、事業のことが頭から離れなくなり、仕事を中心に生活が回りはじめる。必要となれば、お金や労力を惜しみなく注ぎ込んでしまう。こうやって、あなたは仕事に消耗しはじめることになる。

あなたの仕事は商品をつくるだけではない。仕入れ、販売、発送の仕事もこなさなければならない。これだけの仕事をミスもせずにこなしているあなたは、たくさんのボールを空中で自在に操る大道芸人のような才能を発揮しているのである。

事業の幼年期を見分けるのは簡単である。なぜなら、オーナー=事業なのだから。

もし幼年期の事業からオーナーがいなくなれば、何も残らず、事業そのものが消滅してしまう―幼年期には、あなたが事業そのものなのだ。

店の名前に、あなたの名前はついていないだろうか?ジョーの床屋、トミーの印刷ショップ、メアリーの食料品店。

こうすればお客さんにも、あなたがこの店のオーナーだということがすぐにわかる。運がよければすぐにでも、あなたの努力や苦労は報われることになる。

「頑張ったおかげで、お客さんも店のことを覚えてくれるようになった。何度も来てくれるし、友達にまでうちの商品を紹介してくれる。その友達はまた別の友達に紹介してくれる。みんなが私の店のフアンになってくれた―」顧客の言うことを信じるなら、彼らの店はこれまでにない商品やサービスを提供してくれる。

ジョーはこれまでに行った中で最高の床屋だ。トミーは最高に腕のよい印刷職人だ。メアリーは最高においしいコンビーフのサンドイッチをつくってくれる。顧客はあなたの店が大好きで、その列が途切れることはない。あなたは自分の事業が成功していることにとても満足している。

限界を超えはじめる仕事量

ところが、ある日を境に変化が起こりはじめる。初めのうちは小さなものかもしれないが、その問題はだんだんと明らかになってくる。ついに仕事量があなたの限界を超えるようになったのだ。

いくら頑張っても仕事量に追いつかなくなってきた。

でも、顧客はこれまでと同じように、最高の仕事をしてくれるものだと期待している。

あなたはもう限界だ―天才的な大道芸人のように、鮮やかなボールさばきを見せていたあなたも、いよいよボールを落としはじめる。

顧客が増えすぎたために、どれだけ頑張ってもすべてのボールを受け止めることはできなくなってしまったのである。これは避けられないことだつた。

こうなってしまうと、顧客のために働こうという気持ちは薄れてくる。以前はすぐに配達していたのに、今では遅れるようになつた。そして不良品も交じるようになった。何もかもが最初のようにはうまくいかなくなる。

ジョーの散髪の腕前はガタ落ちだ。

「私は後ろを短くしてくれと言ったんだ。横じゃない―」「俺の名前はフレツドじやない。それは俺の兄貴だ。俺は角刈りになんかしたことはないぞ―」

トミーの印刷にも、ミスが日立つようになってきた。タイプミス、インクのしみ、配色ミス。

「名刺を頼んだんじゃない。カタログのカバーを頼んだんだ―」「ピンク?・私は茶色って言ったのよ―」世界でいちばんおいしいはずだったメアリーのコンビーフサンドは、薄っぺらなハムに見えるようになった。

こんな状況になれば、あなたならどうするだろうか?きっと、限界まで働こうとするだろう。

今までの労働時間が十二時間なら、今度は十四時間だ。十四時間なら次は十六時間。十六時間も頑張っていたのなら、最後は二十時間だ。

でも、その間もあなたはボールを落とし続けているのである。

突然、ジョー、トミー、メアリーは、店の看板に自分の名前が大きく書かれていることを後悔し、雲隠れしたいと思いはじめる。

忙しい一週間を終えた土曜の夜遅くに、あなたは今週やり残した仕事と来週するべき仕事について考えにふけっている。そしてたくさんの仕事を仕上げることが不可能であることに気づく。

どうやったってできっこない―こうして、あなたはL司から逃げるために起業したのに、今度は事業そのものが上司として、あなたを管理しているという皮肉な状況に陥ってしまう。

上司から逃げることはできない!経営者が、今までのやり方では事業が続けられないと気づいたときに、幼年期は終わりを迎える。

生き残るためには、変化しなければならない。この変化に直面したとき、ほとんどの事業は倒産に追い込まれることになる。

そして、生き残った者だけが青年期を迎えるのである。私の話を聞いて、サラはまた落ち込んでしまったようだ。私はこれまでに多くの経営者と接する中で、こんな表情を何度となく見てきた。

大きな壁にぶつかったときに、手も足も出ないような感覚に陥ってしまうのは、職人タイプの経営者によく見られることだ。

けれども私には、サラは最後まで頑張り通すだろうという直感があった。

「私にはよくわからないわ。どうして職人だとだめなの?・以前の私は仕事が大好きだった。雑用に追われることさえなければ、今でも仕事が大好きなはずなのよ―」「もちろんそうだろうね。そこがポイントだよ。職人タイプであること自体は、何も悪くはない。でも自分で事業を始めてしまったことが、間違いの始まりだったんだ。職人から経営者になった人は、物事を見るときに、高い視点から全体を見下ろそうとはせずに、低い視点から見上げようとしてしまう。

戦略的な視点というよりは、戦術的な視点をもっているといえばいいのかな?・やるべき仕事がわかっていて、その方法もわかっているから、すぐに仕事にとりかかろうとしてしまうんだ。

職人から見れば、事業はたくさんの仕事が組み合わされたものにすぎないから、一つずつ解決していこうとしてしまうんだろうね。でも、現実はそう単純じゃないんだよ」

「職人タイプの人は、他の人が経営する会社で働くべきであって、決して自分で会社を立ち上げるべきじゃない。

なぜなら、きみも電話をとったり、パイを焼いたり、窓や床を掃除したり、とても忙しくしているけど、いちばん大切な戦略的な仕事、そして起業家的な仕事を置き去りにしていないかい?そういう仕事こそが、きみの事業の将来を切り開いてくれるものなのに」

私はこうも付け加えた。

「いや、何も職人としての能力を発揮することが悪いと言っているんではないんだよ。それは楽しい仕事だと思う。でも、職人の人格が、他の人格を否定しようとするから問題になってしまう。一日じゅう働いて職人のオ能しか発揮されないときや、起業家とマネジャーの役割から逃げようとしたときに会社がおかしくなってしまうんだよ」

「たとえきみが、職人としてすばらしい素質をもっていたとしても、それだけでは成功することはできないんだ。

雑用に追われるばかりで、ストレスがたまって、仕事そのものが面白くなくなってしまう。どれだけひどい気分になるかわかるだろう?・きみが職人という立場で経営するかぎりは、何度やっても同じ結果になってしまうだろうよ」

サラは、これまでとは違う方法について考えはじめたようだった。

「でも、他の人に仕事を任せてもうまくいくなんて、想像できないわ。だって、これまでは、いつも私がいなければいけなかったもの。私がいなければ、お客さんはどこか別の店に行ってしまうわ。この問題を解決することなんてできっこないと思うのよ」

「じゃあ、考えてみよう。お店の経営が、きみのオ能や人柄、そしてやる気に依存しているのなら、きみがいなくなれば、お客さんもどこか他の店に行ってしまう。そうだろう?これはきみの能力や時間を、商品として切り売りしているだけなんだ。このままでは、きみの能力や時間の限界以上に事業を広げることはできない。本当なら、きみがいなくても、お客さんが満足するような仕組みをつくらなければならないんだよ」

「もしきみがお店にいられないときはどうするんだい?・長い体暇をとりたいときや、家でゆっくりしたいときもあるだろう?。お客さんが望むような仕事は、きみにしかできないんだから、お客さんはいつも店にいてほしいと思うだろうさ。このままだと、一息つきたいと思っても、お客さんに満足してもらうためには、ずつと店にいるしか方法がなくなってしまうよ。もし病気になつてしまつたらどうするんだい?」

「こう考えたらどうだろう?・きみが現場で働かなければならないのなら、それは事業を経営しているとは言わないんだ。それは仕事を抱え込んでしまっているだけじゃないのかな?このままだといつかはおかしくなってしまうよ」

「もう一つ付け加えるなら、そうやつて仕事を抱え込むことが起業の目的じやないと思うんだ。起業の目的は、仕事から解放されて、他の人たちのために仕事をつくりだしてあげることなんだよ。別の言い方をすれば、個人の限界を超えようとすることかもしれない。そうすることで、これまで満たされていなかった市場のニーズを満たす何かをつくりだすことができる。起業をすれば、刺激にあふれた新しい生活を送ることができるはずなんだよ」サラは尋ねた。

「まぜ返すつもりはないんだけど、もし私が自分で事業を立ち上げても、職人のような仕事をしたければどうなるの?もしそれ以外のことはやりたくないとしたら?」

私は思いきって、きっぱりと答えることにした。

「それなら起業なんかすぐにやめてしまうことだね。それも、できるだけ早くね。なぜなら、会社やお店を経営するかぎりは、経理やマーケティングの仕事をこなすことは不可欠なんだ。このほかにも、リーダーシップを発揮したり、組織の問題を考えることも必要になってくる。それに、本気で成功したいのなら、キャッシュフローみたいな難しい概念も勉強しなきゃならないんだよ」

サラの表情が曇っていくのを知りながら、私は続けた。

「とても荒っぽい言い方かもしれないけど、本当のことなので許してほしい。結局のところ、きみが事業を立ち上げた目的が、これまでと同じ仕事をしながら、もっとお金を稼いで自由時間を増やしたい、ということなら、それは単にわがままで欲張りなだけじゃないのかな?。そんな気持ちで起業しても、うまくいくはずがないよ」

サラはまだ納得していない様子だった。私は一息ついてから続けた。

今のままだと、これ以上前に進むことはできないんだ。起業家とマネジャーという役割を果たす準備ができていないからといつて、職人の役割だけを頑張っても、先には進めないものなんだよ

「起業して成功するということは、普通の会社で働くことよりずっと難しいことだと思う。なぜなら、職人としての腕前が必要なだけじゃなくて、起業家としての能力をもっと伸ばさないといけないし、マネジャーとして管理をする能力も高めないといけない。この能力が一つでも足りなければ、せっかくの事業も失敗してしまうからね」

「だから、きみが望んでも望まなくても、三つの人格を成長させるための方法を学ばないといけないんだ。ためしに、職人の立場を離れて、起業家とマネジャーの能力を引き出すような場面をつくってごらん。そうすれば、事業を成長させるという仕事は、きみが考えているよりも面白いものになると思うよ」

「もっと教えて。その方法を知りたいわ」と言うサラに対して、私は次のように答えた。

「そうしよう。だいぶ僕の言いたいことがわかつてきてくれたようだね。でもまずは、次の青年期を見てみよう」

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