「人徳」のある人間になる
私たちは、あの人は「人徳」がある、と周囲の人から言われるような人間に成長できれば本望である。
この章では、「人格」成長の「第ニステップ」として「徳」を考えることにする。
「徳」とは、自らの命の在り方のみならず他者のかけがえのない「命」を大切にし、尊び、響き合い協力して共同体の価値を共に作る、そうした生き方の源となるものだ。
私たち人間は、弱さと賢明さの両方を有しているが、欲望に惹かれるのは人間の弱さであり、虚栄心、利己心の欲望を抑え、人として正しくありたいと思うことができるのは、「ノーブル」(高貴)を意識、「徳」を有するからである。
人の役に立つことを考え、自らを律する自己規制ができることが「徳の本質」なのである。欲望は、人間の本能であるが、「徳」は、実践、経験を通じて学ぶ必要がある。
(アダム・スミス著『人間の本質』小川仁志訳)
また、現代の社会においては、周囲の人に対し、あまりにも無関心となり、相手の状況を考え、想像力を働かせ、理解する共感力が希薄になっているのかもしれない。
だからこそ「徳」を積むことが必要だ。
「徳」は、人間力の内面的な側面である人格の深さ、品格の高さ、器の大きさおよび行動の結果に基づく信頼の蓄積をつくる基盤である。
相手のことを慮り、人の有する「徳性」が、利己的な欲望を自己規制することにつながる。
つまり、人が人間に、人の徳が人徳に、人の望みが人望になり、これらが自他に響き働きかけ、響き合うものなのである。
リーダーは進むべき方向性を示し、目標を設定し、その目標の達成に向けて的確に判断し、成果を出すことが求められるが、人徳のある人は、次のことに力点をおいた行動をとるものだ。そのために、組織を活性化させることができる。
- 他者に対する思いやりの心や寛容さ、人としての義務である正義、倫理観の「徳性行動」を心掛ける。
- 他者の「命」をかけがえのない大切なものとして捉え、相手の考えを理解し、人のために行動し、自らの幸せのみならず、その人の幸せを一緒になって喜ぶ。
- 自らの行動を振り返り検証し、足りないものは何かに気づき学び続ける。
私たちが、人として生きていく上で大切にしている考え、行動の一つとして、心に持っているものが、こうした「徳」の実践だ。
福沢諭吉は、「学問のすすめ」において、なぜ「徳」が必要なのかを示している。国民の「徳」の水準によって、法律も厳しくなったり、寛容になったりする必要があると言う。
人間は、自分で思っているよりも案外悪いことをし、案外愚かなことをするものらしい。また、自分で目指しているよりも案外成功しないものでもある。
だからこそ、自らの有様を明らかにして、「能力」と「徳」と「仕事」の棚卸しを定期的にする必要があるのだ。
私たちは、仕事の先にある人としての生き方、人としての在り方を自らの課題として、捉え直す必要がある。
「徳」は、人として本来持つべき本質
「人間力」を高めるためには、「能力」と「徳」の二つが必要になる。
儒学者呂新吾は人間の品格として、人には、本質的要素と知性、技能とがあり、本質的要素である「徳、徳性」がなければ人間ではないと言い切っている。
しかし、現在のような知識社会においては、無形の価値である「徳」よりも、経済活動にすぐに役立つ知識、スキルやある物事を洞察し、予測し、問題を解決する有形の「形式知」を重視する傾向にある。
私たちは「徳」をもっと重視すべきだ。なぜならば、「徳」のあるなしが、その人の人間としての信頼性を大きく左右するからだ。人として本来持つべき本質こそが「徳」だ。
知識・技能は、時代の変化と共にすぐに変化するものに過ぎない。「徳」を積むことは、人として生きる目的でもある。
論語において孔子は、「子曰く、われ未だ徳を好むこと色を好むが如くする者を見ざるなり」と人間の弱さを語っている。
私たちは、身を持ち心を持って生きている。自ら身に得て有する価値あるもの、それが人の「徳」である。自らを律し、相手の役に立ち、喜ばれることを実践し、「徳」を積む。
すなわち「徳」とは、自他や社会に働きかけるとともに、他から働きかけられるものなのだ。「徳」は、図4「徳」とは何かに示す通り、周囲の人の役に立つことを行うことで、自他に行き来するものだ。
「徳」は自身のものだが、他から与えられ、他の人へと働くものである。「人間力」の基盤として重要な「徳」が、なぜ現代の社会において希薄になってしまったのだろうか。
「徳」は、人として意識すれば誰もが実践できるからこそ、奥が深く難しいのかもしれない。また、周囲の人に対し関心を持ち、共感する。
すなわち、相手の立場に立って慮るために想像力を働かせ、関心を持ち、状況を理解しようとする「愛」が足りない結果だとも言えよう。
「徳」という言葉そのものは、本来何を意味するのかを考えてみることにする。
白川静によれば、象形文字である「徳」、その傍(つくり)は、「直」と「心」であり、その意味は、素直でまつすぐな心だ。
外には「人」に得、内には己に得るなりと意味される。

徳に行為を意味する「イ」偏(へん)を付したのは、「外に行動する意」を示すものとして加えられたといわれる(黒住真編著『思想の身体徳の巻』より)。
「徳」とは正しく(正直)、また、心に得るもので、人が内の己から外へと行動を伴うものと考えられていたのだ。
すなわち、人として内面に備えるべき人格、卓越した力ということになる。
「論語」の中に「徳」は、十六回記載されているが、徳の中でも最も重要なのは、「仁」であり、誠の徳である忠と信を第一にし、正義により、徳を高める。
また、仕事を先にし、利益は後回しにする、徳のある人には、きつと良いことがあると述べている。
しかしながら、「徳」とは何かという明確な定義は書かれていない。
孔子とその弟子たちは「徳」の共通認識をそもそも有していたということだろうか。
「徳とは、人が得てもって己のものとしている人倫的な本性あるいは、「力」の優秀性である」(和辻哲郎著『倫理学』より)というわけだ。
「徳」は、自ら得て有するものであれ、他にあるものであれ、自他に働きかけ響きあうものである。
徳は、経験し、学び続け、他者とのかかわりを通じて行動することにより積むことができるのである。徳ある人を見たら、その人に並ぶことを目指せ。徳なき人を見たら、わが身を振り返り、自省せよ。(孔子)
「徳」は、人として人間力を高める内面的成長の重要な要素の人格、品格、器の基盤であり、信頼行動の価値を高める基本となるものである。
「徳」そのものは現代でも、「人徳のある人」「道徳を守る」「徳を積む」「不徳のいたすところ」「悪徳業者」など多くの言葉によって日常的に使われている。
マネジメントにおいても、もちろん「徳」は重要な要素であるが、「徳」を実践しようとするものは、ややもすると組織において孤独であると思われがちだが、そんなことはない。
「徳は、孤ならず必ず隣あり」という言葉がある通り、徳を有する人は、孤立することはない、必ず周りに協力してくれる人が現れるものである。
マネジメントが、信念を持って新しい事業に挑戦し、現在の事業のやり方を変革する場合は、確かに周囲がすぐに理解してくれるとは限らないが、時が経てば、必ず賛同する人が現れるという意味である。
「徳」は、自らの「命」の在り方の一つの姿勢である。自己を超えて他者の命に貢献する。他の「命」を自分と違ったかけがえのないものとして大切にしていくところに、力点がある。
また「徳」は、人として自らに足りないものは何かを心掛け、努力し続けることにより、心に得るものでもある。
「徳」を有する人とそうでない人との違いは、もっぱら心にある。すなわち、徳を治めようとする「直心」、すなわち、人の役に立つように、真心を持って、日々実践を重ねる姿勢を有するかどうかである。
「徳」は、人としての生き方に基づき常に心掛け、実践を積み重ね、鍛えないと、心が変わり消えてしまうものかもしれない。
また、「徳」は、ある、なしではなく、人として無意識に、自然体に有するものであり、「徳」そのものを意識、自覚、内省することにより、明徳として感覚で、そして感情で明らかにして行くことが求められる。
また、その人が、「人徳」を有する人物かどうかは、相手が感じるものだ。
そうした「徳」とは何かをマネジメントの方々と話し合うと、自ら得て有する価値(図4「徳」とは何か156頁)を表した意見が出てくる。
五常の徳の実践
人間に求められる徳目として、「仁」「義」「礼」「智」「信」の五常の徳があるが、これらは自らがもともと内に持つている本性の善であり、それを自覚し、磨くものである。
聖徳太子は、日本で初めて制定された「冠位十二階」において、徳を冠位の最高位に位置づけ、五常の徳とは異なり、「仁・礼・信・義・智」とされた。
聖徳太子は、一四〇〇年前に日本の文化ならではの徳の在り方を考えて制定され、現代の社会を見通され最も重視されたのは、「仁」であり、「礼」であり、「智」は最も下位であつた。
孔子もまた、人間が持つべき「徳」のうち、最も必要な要素として「仁」を挙げている。
「仁」は、相手に対する優しさや思いやりで人に接し対応する、そして相手の立場に立って物事を慮ることができるということを意味する。
「仁」¨人に対する、優しさ。思いやりの心とともに厳しさ、大局的な決断を行うこととのバランスが必要である
「礼」¨社会生活の基本姿勢、さわやかさ。清潔感とともに、人として豊かな心を養い、相手を敬う必要がある
「信」¨「言必ず信」、信頼関係構築の反面、慎重な発言・約束したことへの実行が求められる
「義」¨行動の規範、人としての正しい道の軸足と自らの軸足のスタイルを確立すればするほど、柔軟性が求められる
「智」¨本質を見極める、洞察力・教養と「智」を内に秘める謙虚さが求められる一.
「仁」とは・・・・相手の立場に立って物事を考え、行動する。
・心から尽くす(忠)相手を親身に思いやる(恕)。
・相手の立場になつて考えることを恕とする。
・仁は心の徳であり、人の「道」である。
自らが「仁」を求めることにより、実現される。相手の立場に立つて考える。そのためにも、心の余裕と共に人に対する「愛」が求められる。
「仁」は、人が二人並んでいる状態を示している。
「仁」の芳の二画は天。地を表し、二画を斜合すれば「人」となる。人字の二画間にあるのはすなわち天地人である。
「徳」の中でも一番大切なのは「仁」であり、徳の基本でもある。
マネジメント行動は、人に対する思いやりの心と厳しさの両面が必要である。
二.「礼」とは・・・・礼にはずれたことを見ず、聞かず、言わず、そしてしないことである。
。
人間の共同性。
社会性の規範である。
・洗練された作法の「優美さ」により無駄な動きを省くものである。
また、立ち居振る舞いに優美さを与える。
・徳は礼の本なりと、上位の本となっている。
他を思いやる心が「型」として外に現れるものである。
。
「仁」を形にして表したものが「礼」である。
「己れに克ちて礼に復るを仁と為す」人間として踏み行う道であり、「濃」すなわち心の豊かさを示している。
単なる儀礼。
作法だけではなく、人間としての在るべき姿、内面的なものを含んでいる。
故に、礼の実践が人の「品格」をつくる。
「礼を知らざれば以て立つこと無きなり」である。マネジメント行動は、立ち居振る舞い、相手を敬う。
三.「信」とは・・・・その人の言葉が信用でき、信頼の根拠となる。
・人を信ずることであり、信頼されることである。
相手に対し、「誠実」に対応する。
「信」は生きていく上での力である。
発する言葉に信(信頼)がなければ、人は信用しない。
「信」とは、人と言葉の組み合わされた会意文字(かいいもじ)であり、人間の言葉を信じ、信頼できることであり、「誠実」を重んじることだ。
「人にして信無くんば、其の可なることを知らざるなり」「誠」という漢字は「言」すなわち言葉と「成」すなわち成し遂げることを意味する。
マネジメント行動は、言必ず信、言行一致、信頼関係をつくる。
四.「義」とは・・・・目先の「利」に惑わされない。
人としての正しい「道」を貫く。
・高い志と責任感に基づき行動する。
自己犠牲の精神を有し、判断行動の軸足がぶれない。
まさに、「人は強くなければ生きていられない。
優しくなれなかったら生きている資格はな
い」ということだ。
「義」は、人としての生き方としての「哲学」「軸足」でもある。「義」は人の路であり「勇気」は「義」がベースであると言える。
マネジメント行動は、判断行動の軸足および覚悟である。
五.「智」とは・・・・素直な心で、謙虚に相手の意見を聞く。
・学ぶことを楽しみ、自らを高める。
「学び」て「思う」(自ら考え、心に問う)。
・理性のある判断力・洞察力・実行力に基づき、状況を読み、判断する。
知は「知識」を表しており、「智」とは、知恵である。
すなわち矢で的を射るように問題の本質を的確にとらえる力だ。
マネジメント行動は、本質を見極める洞察力と「智」を内に秘める謙虚さが求められる。
「一日一善」により徳を積む
「徳」を積むとは、どのような行動により実践することができるのかを考えてみよう。
大事なことは、無理をせずに自分に合った「徳」の積み方により、練習を積み重ねるように日々実践することだ。
基本は以下のようなものだ。
・相手のことを慮る、想像力、感受性を磨き、相手の状況を理解し、対応する。。
「一日一善」の考えに基づき、一日に一つは良いことを行い、日々積み重ねることを心掛ける。
相手の状況に基づき、辛抱、我慢をするように自らの感情をコントロールする。
自らが充実した生き方を行うことにより、幸せを感じ、心に余裕を持って人に接することができる。
・結果として、自らの心と向き合い、心を鍛え、人格を成長させることにつなげる。
・自らが生かされていることに感謝し、楽しみながら徳を積む。
すなわち、勇気を持って実践する。
「徳」を得ることを望むなら、日々善をしなければならない。
一善をすると一悪が去る日々善をなせば、日々悪は去る」(内村鑑三著『代表的日本人』より)大手製薬会社の元代表取締役の水谷賢一氏は、営業部門全体で、「一日一善」の行動を心掛けておられた。
たとえば病院の駐車場で落ちているごみを拾う、医院の待合室の読み物、スリッパを整理整頓するなど。
そうした行為、一日に一つの善いことを報告することを部員に課した。そうした意識、行動の積み重ねが行動そのものの「質」を高め、自然と顧客に役に立つことは何かを考える習慣が身に着く。
そうした、何気ない「陰徳」(良い行い)を推奨されておられた。
最近、私が心掛けているのは、日の不自由な方に「階段やエスカレーターはこちら側ですよ」と恥ずかしがらずに積極的に声掛けを行うことだ。
自らのできる範囲で徳を積むことにより、相手の嬉しそうな笑顔で心がすがすがしい気分になり、いい一日を過ごすことができる。
自らの幸せと共に、他の人にも共感を持ち、その人の幸せも考えるようになる。
また、徳を積むことを意識することにより、人として卑しいことをしない、相手を不愉快にさせないように自らの感情や行動を律することにもなる。
「徳」は、人としての自らの生き方に基づき心掛け、律しないと、心が変わり、消えてしまうものかもしれない。
また、人として自然体で「徳」を積み、身に得ることは、人間として人格を陶冶することにつながると思う。「徳」は、日々の実践「行動」の積み重ねにより、修めることができる。
そして、自らに足りないことに「気づく」ことが、「徳」そのものであり、「人間力」をつくることになる。
当時、伊藤忠商事の社長であった、丹羽宇一郎氏(元中華人民共和国特命全権大使)は、三名の次期社長候補の中から、小林栄三氏(現伊藤忠商事会長)を社長に選任し、バトンタッチするにあたり、社員へのメッセージをホームページに発信している。
「小林栄三氏は、「五常の徳」に加え、人に対する「温かさ」がある。また、人の良い所を見ると共に、組織の絆である「信頼」を重視される。」
小林氏は事業として、CTCを東証一部に上場され、企業価値を高められたが、「五常の徳」に「温かさ」を付加されると、組織は強い力を発揮し、事業を成長させることができる。
「徳」のある人の特徴
- 誠実さ、公平さ、他人への思いやりを有し、私心で行動しない。
- 人として信頼できる信望のある人柄である。
- 一日一善を心掛け、日々徳を積み重ね、自らの個性、価値を高める。
- 人に対する共感、思いやりの心を有する。
- 「私利私欲」がなく「悪を恥じ憎む」徳性を有する。
- 人に譲る、譲り合う。
- 物事の道理、筋を尊び、「良し悪し」を見極める。
- 良い行いをする能力、人格を有する。
- 自らに足りないものは何かを振り返り、努力し続ける。
「不徳のいたすところです」を簡単に言ってはいけない
何か問題が起こった時に、経営者、政治家、高校野球の監督までもが、私の「不徳のいたすところです」「世間をおさわがせいたしました」と謝罪の言葉を述べる場面は枚挙にいとまがない。
すなわち、自らの失敗や不都合のために問題を引き起こしたときに、そのことは自らが至らないせいだと遺憾の意を表し「徳」が備わつていないことを告げる、あるいは、人としての「道」に背く場合に、自らの「徳」の足りないことを世間に伝えるというわけだ。
これは、本当に「徳」が足りないと自覚した上での言動なのであろうか?「徳とは何か」を理解し、自らの人格・品格・行動が十分でなかったと認識しているのか、甚だ疑問な点が多い。
不徳のいたすところとは、「九徳」が欠けていたということである。
本来、「不徳のいたすところ」となった時には、ではどのような方法で「徳」を修養し磨こうとするのか。そこが大切だ。
九徳を振り返り、徳を切磋琢磨修養しようとする生き方そのものが徳ある行動なのである。
人の上に立つ者は、まず我が身に徳を積んでから他人にも「徳」を求め、我が身の不徳をなくしてから、はじめて他人の不徳を非難することも許されるものだ。
ここで九徳とは、相反する言葉が対になっている、すなわち相矛盾する要素をバランスよく兼ね備えた人物が「徳」のある人である。
徳を育てる「九徳」
「貞観政要」という書に、人として身に着けるべき心構えとして、九つの徳が記されている。
九徳は、各々相矛盾する性質であるが、パラドックスの言葉を逆から考えることにより、その意味することがより明瞭になる。
マネジメントとして九徳を両立させることができる人間になる。
- 「寛にして栗(りつ)」ゆったりと寛大だが締りがある(大きい、寛大、厳しい)
- 「柔にして立」柔和だが自立し、事が処理できる(柔らか、しなやか、成し遂げる)
- 「怒(げん)にして恭」素直で真面目だが、礼儀正しくつっけんどんでない(誠実、敬う)
- 「乱にして敬」事を収める能力があるが、敬い慎み深い(整える、尊敬する)
- 「擾にして毅(き)」おとなしいが、意志が強く決断力がある(素直、決断する)
- 「直にして温」正直、素直だが、心が温かい(公正、温かい)
- 「簡にして廉(れん)」細かいことを気にせず、任せる(諌言、人格が高潔)
- 「剛にして塞(そく)」剛健だが、内容も充実している(強い、満足させる)
- 「彊(きょう)にして義」豪勇で堂々としているが、義がある(強く、正しい行い)
四端説に見る「徳」への道
孟子は、人間に良心という善性が備わっているという考えをベースに、左記の四端説を説き、人として自分に備わった四端を育むようにすることを説いた。
- 「あわれみの心」(側隠)こそ「仁」の端である←人に対する温情。同情・思いやり。
- 「悪を恥じ憎む心」(差悪)こそ「義」の端である←不善を恥じ憎む、私利私欲がない
- 「譲りあう心」(謙譲)こそ「礼」の端である←人に譲ることにより、自らの心も豊かになる
- 「善し悪しを見分ける心」(分別)こそ「智」の端である←物事の道理、筋を持つ
- 「人に忍びざる心」は、「徳」への出発点として修養し育てるものだ
おわりに
経営には、利益よりも大切な目的があります。
先哲である石門心学の石田梅岩は、勤勉と社会的な倹約の考えから「先も立ち、我も立つことを思うなり」「富の主は、天下の人々である」と述べています。
商人は、勤しむべきことを先とし得ることを後にする。
正直は、倹約の「本」であると説き、その後の大丸の店是である「先義後利」すなわち、義を先にして利を後にする者は栄えるや、近江商人の三方よし「売り手よし、買い手よし、世間よし」の考えにつながっていきました。
利益を第一に考えるのではなく、お客様への貢献の結果が利益であることを肝に銘じる考えです。こうした考え方の正しさは、今も変わりません。
実際、現在においても、顧客価値を育むことで中長期的に利益を上げて成功しているケースは多いものです。
逆に短期的な利益を追い求めすぎて、経営として無理をしてしまった結果、判断、行動を間違えて追い詰められてしまった企業も少なくありません。
経営者には、ノブレス・オブリージュとしての責務と覚悟が求められます。
「経営者としての衿持」、すなわち自らの信念に基づき、守るべきことを正直、誠実に経営の精神として日々実践することです。
そのためには、ひとえに人間力の発揮が必要です。
マネジメントとは、「人」を通じて事を成すことであり、役職の肩書、地位に頼るのではなく、「人間力」により組織。人に影響を与え成果を出すことです。
組織や共同体においては、「能力」と「人格」の両方を兼ね備えた人物をリーダーとして認めるのが本質です。
そのためにも、リーダーは、人間的な魅力、すなわち人望を有することが要件の一つなのです。そして厳しく、難しい局面であればあるほど、組織、人に影響力を与え動かす原動力は、マネジメントの有する「人間力」そのものです。
そのためには、組織のビジョン、マネジメントの思いを周囲の人と共有する言葉の重みが必要になります。
すなわち、マネジメントとして何を成し遂げたいのか、なぜそのように考えるのか、使命感を本気で考え、伝えることにより、周囲の人々の心に響き、彼らが自律的に動くことになるのです。
「人間力」を高めるには「天行健なり君子は、もつて自ら彊めて、息まず」の教えのごとく、マネジメントは、使命感、責任感を持って組織の運営がスムースに運ぶように、自らが最善を尽くし、熱意を持って一所懸命に取り組むことです。
それが故に、「人間力」の基本構成要素である「人格」「品格」「器」を主体的に日々研鑽し、積むことにより、本物の人間になることを目指すべきなのです。
なお、「人格」を高めるためには、どのような人物になりたいのか、どのような生き方をしたいのか、どう在りたいのか、将来の自分の「なりたい人物像」の目標に向かって、自分の人生を自分でつくることが必要です。
そのためには、このような人になりたいと思う人をモデルとし、その人の生き方から学ぶことも重要でしょう。自らの生き方の指針となるような「座右の銘」を創ることも一案です。
また、「知識」を学び、実践する中で知恵に変え、経験値を高めることが必要です。
人的ネットワークづくりに努力し、知的資産として教養をつくるために、人望のある人の考えから教えを乞うことも有益でしょう。
マネジメントには、その場にふさわしい「品格、作法」が求められます。「人」として卑しくない品格、人相、清潔感と共に言葉遣いを心掛ける。すなわち「人品骨柄卑しからず」が品格には求められるのです。
また、人間としての「器」を大きくするためには、組織全体を見通し、構想力を鍛えるために、できる限り「視点を高め」、常に「中長期」に物事を考える習慣により、スケールを大きくすることが肝要です。
マネジメントの重要な役割は、先見性を持つて事業の状況を的確に判断し、意思決定により成果を出すことだからです。
マネジメントとして、人間力の発揮が求められるのはどのような事業の局面なのかを、八〇〇名を超えるマネジメントの方々との十年間にわたった討議の内容から、人間力発揮の「七つの事例」としてまとめさせていただきました。
個々の局面において、マネジメントとして「人間力」をどのように発揮すべきなのかのヒントとして、具体的な実践行動の参考になれば幸いです。
「人間力」は、人として信頼されてこそ初めて得られるもの、つまり、信頼を得られたものが持つパワーです。
人、組織に影響を与え組織を動かす大きな原動力となるのが、経営としての人の有する「人間力」です。また、部下が上司に期待するのは、人間として信頼できる人物です。
そして、マネジメントの人間力そのものが会社の品格、社格にもつながるのです。
また、巻末の「人間力」を高めるチェックリストに基づき、人間としてさらに成長するために心掛けるべき点を絞り込んでください。マネジメントは、「人望」が得られるように努力し、求める必要があります。
なぜならば、人望は、その人の有する「人柄」に期待され、この人に重要な仕事を任せても大文夫と周囲から頼られる頼もしい人物であるという証だからです。
「人として、信無くんばその可なるを知らず」(論語)です。信こそが人間を人間たらしめる。人が人を信頼することが、価値の源泉を形成することになるのです。
信頼の基本は、話し合いを通じて、お互いの思い、考えを相互に理解することでしょう。
マネジメントは、社内外の人から、人間力を有する人物かどうかを見られ、試され、評価されているのです。
だからこそ、人として何が足りないのかを謙虚に反省し、人間力の幅を広げる努力を惜しまないでほしいのです。
拙著が、マネジメントの方々の「生きる力」に自信を与えることになれば幸いです。
「人間力」を高めるチェックリストの活用
将来このような人間になりたいと思う「人物像」を目指し、実現するためには、何を伸ばすべきかを「人間力を高めるチェックリスト」を参考にして明確にする。
人間力の自己評価として、内面的側面の人格、品格、器の項目の「強み」および他者との信頼関係に基づく行動の結果としての信頼、人望、利他の「強み」を選択する。
最後に自らを律する徳性行動の「強み」を明確にする。
また、他者評価の視点から、このチェックリストに基づき人間力を高める上で「改善すべき点」をご教示頂けるようにする。
自らが人間力を高める上で足りない点に気づくようにする。
「人間力」(人格、品格、器)を高めるチェックリスト
「人間力」のある人の特徴□「人生意気に感ず功名誰かまた論ぜん・・・」(唐詩選魏徴)ことを成し遂げようと生き方に信念を持っている□責務に対する高潔な気概である「ノブレス・オブリージュ」を有する□精神的支柱であるバックボーン、軸足に基づき、判断、行動する□自らの価値観と異なることも受け入れ、清濁併せ呑む□社会、人の役に立つことをする□「私心」にとらわれず、人として卑しい行動を慎む□「素直な心」で謙虚に学び続ける□物事を大局的に考える□人として「誠実」であり、信頼できる□相手に対し、思いやりの心で気配りができる「人格」の優れた人の特徴□自らの生き方により、組織、人に大きな影響力を与える□人格が立派な人物として、周囲の人から尊敬される
□社会、人のために役に立つことを一所懸命に努力する□正直、「誠実」であり、人として信頼、尊敬される□物事の本質を見極める「洞察力」を有する□物事を公正に判断し、行動する□強い意志と「覚悟」を有し、判断、行動の「軸足」がぶれない国人として成長するために、素直なこころで学び続ける□厳しさと優しさの両面を有する□良き友と付き合い、良い意味でお互いが刺激を受ける「品格」を有する人の特徴□風格・気品を備えており、品格がある□自らを律し、気持ちの赴くままに振る舞うことは慎む□言葉遣いが丁寧で品性があり、言葉にその人の品格が表れるロマナー、立ち居振る舞いの動作が美しい□教養があり、何事に対しても「知的好奇心」を有する□相手の立場・歴史・文化・慣習、価値観などを理解し尊重する□相手を包み込む優しさと周囲へのさりげない気遣いができる□周りに与える印象も考え、身だしなみを整え、清潔である□″ありがとう″と感謝の気持ちを言葉にして伝える□相手を慮り、自らの気持ちが前に出ないようにする
「器」の大きい人の特徴□人として思慮深く「深み」のある「できた人」である□堂々としていて何事にも動じない「胆力」を有する□相手を許し、受け止める懐が深い□周囲の役割期待を担うことができる「器」を有している□異なる価値観や考えを受け入れる「包容力」を有している□中長期の視点で物事を考える器が大きい□常に俯瞳して物事の本質を見極めて行動する□相手の立場を慮り、困っている人の役に立つ□細かいことを気にせず、高い視点から考え、助言する□我慢強く、忍耐心があり、自らの感情をコントロールする
「人間力」(人望、信頼、利他)を高めるチェックリスト
「人望」の厚い人の特徴□尊敬、信頼の気持ちを相手に抱かせる□人間的な魅力があり、人として近づきたい□人として、考えのスケールが大きい□高い「志」を持って、常に現状に満足せずに、より上を目指す□私心がなく、人の役に立つことをスピード感を持って実行する□「人徳」があり、思いやりを持って行動する□言行一致である□聴き上手で、相談しやすいので、その人に情報が集まりやすい□能力と判断力を有し、的確に物事を決断する□話す内容は、理路整然で無駄がない「信頼」される人物の特徴□自らの生き方と知性、能力を有し、信頼に足る人物である□私利私欲がなく、正直、誠実である□相手の期待に応え、最善を尽くし、結果を出す□「言必ず信」であり、人との約束を必ず守る□言動に裏表なく、相手のことを理解し、正直、親切である□謙虚な姿勢で、異なった考え、意見にも耳を傾ける□相手も立ち、自らも立つように考え、行動する□いざという時に覚悟を持つて、率先垂範し行動する国人として厳しさと優しさの両面を併せ有している□人として学び続け、日に新たに成長し、変化する「利他的」に行動する人の特徴□「情けは人の為ならず」を実践する□相手の立場に立って物事を考え、行動する□「私心」にとらわれずに物事を見る□人として、思いやりと温かいこころを有する□相手に共感し、「想像力」を働かせ、状況を判断する□一歩高い視点から人とのつながりを大切にする□お互いに心を結び合って、譲り合い、助け合い生きる□周りの人からの助け、支えで生きていることを感謝する□「信念」に基づく生き方により、「器」が大きい□責任感、倫理観が強い
「人間力」(志、学び続ける、徳)を高めるチェックリスト
「志」に生きる人の特徴□使命感と志を一体化させる□何があってもやり抜くという強い意志がある□新しい仕組み・人的ネットワークをつくる□探究心・向上心を有している□「志」を学び続けるマインドの支えにする□目標の実現達成に向けて、粘り強く諦めない□自らを厳しく律する□現状に満足しないで、疑間を持ち続ける□直感・感受性が高い「学び続ける人」の特徴□人として「問い」を持ち続ける□「向上心」により、自らの限界を超える□知的「好奇心」が旺盛である□自らの足りないことを謙虚に振り返る
□自らの考えにとらわれずに柔軟に対応する□「感受性」と「余裕」を持って対応する□多様な価値観・考えを受け入れる□人との「出会い」を大切にする□学ぶ心を養い、良い「習慣」をつくる□相手のことばに謙虚に耳を傾け、学ぶ「徳」のある人の特徴□誠実さ、公平さ、他人への思いやりを有し、私心で行動しない□人として信頼できる信望のある人柄である□一日一善を心掛け、日々徳を積み重ね、自らの個性、価値を高める□人に対する共感・思いやりの「哀れみの心」を有する□「私利私欲」がなく「悪を恥じ憎む」徳性を有する□人に譲る。
譲り合う□物事の道理・筋を尊び、「良し悪し」を見極める□良い行いをする能力・人格を有する□自らに足りないものは何かを振り返り、努力し続ける□人格・品性を研鑽し、自らを修める
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小林勝人訳注『孟子』(上下)岩波文庫、2009年。
子安宣邦『思想史家が読む論語学びの復権』岩波書店、2010年。
斎藤孝『最強の人生指南書―佐藤一斎「言志四録」を読む―』祥伝社、2010年。
佐藤初女『おむすびの祈り』集英社文庫、2011年。
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ダニエルレビンソン著、南博訳『ライフサイクルの心理学』(上・下)講談社学術文庫、1992年。
藤堂昌恒『覚悟力』PHP文庫、2015年。
深井智朗『プロテスタンティズムー宗教改革から現代政治まで―』中公新書、2017年。
福澤諭吉著、斎藤孝訳『学問のすすめ』ちくま新書、2010年。
福田和也『人間の器量』新潮新書、2009年。
枡野俊明『美しい人をつくる所作の基本』幻冬舎、2012年。
松原泰道『一期一会―禅のこころに学ぶ―』LD文庫、1986年。
邑井操『人望カー人を引き付ける力とは何か―』PHP文庫、1993年。
安岡正篤『呻吟語を読む』致知出版社、2010年。
山本七平『人間集団における「人望の研究」』祥伝社、1983年。
芳村思風『人間の格』致知出版社、2011年。
ロバート・K・グリーンリーフ著、野津智子訳『サーバントであれ』英治出版、2016年。
ローレンス・J・ピーター他著、渡辺伸也訳『ピーターの法則―創造的無能のすすめ―』ダイヤモンド社、2012年。
和辻哲郎『人間の学としての倫理学』岩波文庫、2007年。
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