情けをかけることは、我が身のためにもなるもの
情けは「人」のためならずという諺がある。皆さんもよくご存じのことだろう。この意味であるが、相手に対する同情は返って悪い結果を招くと理解されている人が多い。
しかし、この諺の本来の意味は、「相手が困っているときに助けることにより、廻りまわつて自分のためになる」というものだ。「共感」の重要性をむしろ指摘しているわけだ。
「人」のために動くことで、傍を楽にすることができる。これが「働く」という意味だ。
利他的な行動は決して見返りを期待して行うべきものではないが、そうした思いやりの気持ちが、廻りまわって結果として自分に戻ってくることになるという教えである。
仕事もそうであるべきなのだ。「人間力」のある人は、相手の気持ちを考え、利己心を抑え「共感」を持って行動する。
相手の状況に「共感」できるためには、他者起点で「想像力」を働かせ、状況を推測する必要がある。
そして、「情けは人のためならず」という考えを、「情け(利他行動)は、「社会」のためなり」と言い換えることにより、社会全体の利益、都合を意識し、行動することにもなる。
日本人はかねて相手の立場を思いやる「共感」を何よりも大切にしてきた。組織においては、「協調性」「全体最適」の視点から、一体感を持って、組織を運営することを軸としてきた。
また、労力が必要な困ったときは、住民総出で助け合い、お互いが助け合う「結い」という社会の相互扶助の組織があった。
沖縄では、「ゆいま―る」と呼ばれる結いの習慣が、今でも残っている。結い(ゆい)は助け合い。ま―るは、順番という意味である。
那覇の空港から市内に走っている「ゆいレール」は、「結い」を語源としている。他人の状況を我が事のように共感することにより、自他同じく利することになる。
「共感」に基づいた利他行動は、ややもすると、利己的な考えになりがちな私たちの行動を抑制することにもつながる。
人間は、社会的な存在であるのだから、自己が救われるということは、他人を生かすという働きにつながるのだ。
人と人はつながつており、「一つ如しだ」という考えである。そう、「自他一如」の心が利他行動を可能にする。これは、自己の利と他人の利が合致する自他融合の考えである。
人に対する思いやり、温かい共感の心情により、心豊かに楽しく生きることができる。
特に日本の社会には、「世間様」「世間体」という見えざる社会の目があり、人間行動を自己規律するこころの縛りが働いてきた。
そうした意識が、社会の中で私たちが、人間らしく生き、行動すべきことを意識することにつながってきた。
また、相手が困っている時に、相手の立場に立って「共感」することにより、この人は、人格的にも素晴らしい利他的な人だと周囲から認められる。
その結果、利他的に行動する人は、周りの人からも利他的な行動を受けやすくなるものなのだ。組織においても、利己的な集団と比べて「利他的」な集団は強いことは明白だろう。
図3利他行動に示す通り、家族に対する利

他行動は、人間の本能だと考えられるが、他人、しかも極論すれば面識のない赤の他人に対しても、互いを助け合うという行為は、人間だからこそできる行動だ。
相手に対する「共感」を超え、窮状にある人の困難を取り除こうとする「慈悲」の心は、人間のみが有する純粋な心情なのだ。
また、他人のために自発的に役立つことは、自分にとつてこの上ない喜びとなり、心を満足させることにもつながる。
そのような行動は、金銭とか物では味わえない、心の底からの喜び・充実感を持たせてくれる。
「人は自分が満たされて、喜びを感じると次には必ず他人のために何かをしようと気持ちが変わってくる」(佐藤初女著『おむすびの祈り』より)自分が他人から恩を受けた人に対する感謝の合は、その人の志の深浅であって、恩恵の大小にはかかわらない。
人間の本質は、社会性にあり、人と関わるからこそ、『人間力』を成長させることができる。すなわち、人は人によって磨かれ、成長するものなのだ。
さらに言えば、利他の心は廻りまわって自分の評価となり、間接的にお返しとなつて返ってくるものだと言った。
人間は、他の人から親切を受けると、いつか必ずこの人に恩返しをしたいという気持ちが芽生えるものだ。
それが高じて、恩送りというが、この人から受けた恩を、機会のあった他の人に返そうと思うようになる。
そうすることで、人としての優しさ、思いやりの社会的な循環サイクルが生まれる。
ビジネスの側面に話を戻すとすれば、他人を助けるためには、当然のこととして、自分自身がその人の役に立つことができる能力や手段などを持っていることが前提となる。その上での行動であり、また人材育成だ。
しかも人材育成は、相手の成長に無償のエネルギーと時間を費やす行為であり、非常に利他的な行動なのである。
利他的に行動するということの意味
利他行動は、人間としての「徳」の実践行動の一つであると考えることができる。利他的に行動する人は、人間としての「人格」が備わっており、下記の特徴を有している。
3「利他的」に行動する人の特徴
- 「情けは人のためならず」を実践する。
- 相手の立場に立って物事を考え、行動する。
- 「私心」にとらわれずに物事を見る。
- 一歩高い視点から人とのつながりを大切にする。
- お互いに心を結び合って、譲り合い、助け合い生きる。
- 周りの人からの助け、支えで生きていることを感謝する。
- 「信念」に基づく生き方により、「器」が大きい。
- 責任感、倫理観が強い。
- 人として、思いやりと温かいこころを有する。
- 相手の立場で共感するために、「想像力」を働かせ、状況を推測する。
4「利他」の視点
社会において共存し、利点を分かち合うために、「善の巡環」と称し、他人の利益を図らずして、自らの繁栄はないとの考えに基づく事業活動を展開されている企業もある。
・自己中心的な考えになりがちな利己的な行動を「共感」の視点から抑制する。
他人の利益を図らずして、自らの繁栄はない。
たとえば顧客基点に立つことが、「先も立ち、我も立つと思うこころかな」(石田梅岩)の実践につながる。
お互いが他人と協力して生きるためには、人の持つ「利他的な本能」を引き出し、他の人の利益、幸福(ヨ①〓‐げのF∞)に役立てる社会をつくることが肝要。
相手が困っているときに、相手の立場に立つて「共感」することにより、この人は利他的な人だと周囲からも認められる。
その結果、利他的に行動する人は、周りからも利他的な行動を受けやすくなる。
人の素晴らしいところを発見するとともに、自分自身の心の中に人間力を高め成長するために、何が足りないのか気づき、日々新たに人としての魅力づくりをすることが大切である。
人間は、そもそも自分自身が周りの人からの助けや支えで、人として生きていけることを意識し、相手の思いやりの心、優しさに対する感謝の心を持ち続けなくてはいけない。
そこから生まれる、相手を親身に思いやる温情、共感や思いやりの「哀れみの心」こそ、徳の重要な要素の一つである「仁」の始まりであり、人としての生きる姿でもある。
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