30面接の雑談で、柔軟性と切り替え能力が試される就職試験などの面接で、試験官が本題と関係ない質問をすることがあります。「わが社を志望した理由は?」「自分がこの仕事に向いていると思う部分をPRしてください」「君はこの会社でどんな仕事をしたいの?」といった質問に交じって、「最近、何かおもしろい映画、見ましたか?」「女優さんだと誰が好き?」「週末はどんなことして過ごしているの?」など、思いもしない、喫茶店での茶飲み話的な質問が突然出てくることがあります。もちろん試験官は自分の興味本位で聞いているのではありません。想定外の話題にどれだけ話を返せるか。話題がパッと入れ替わったときに、臨機応変にギアチェンジして話ができるか。チェックしているのは、その人の柔軟性、切り替え能力、そして社会性なのです。事前に答えを準備してあることや、いかにも面接で聞かれそうな質問、自分の得意分野の話のときはキチンと話ができるのに、そこから少しでもズレて、ただの雑談のような質問をされると、急にしどろもどろになってしまう。これでは一緒に仕事をして営業に連れていってもむずかしいかな、となるわけです。逆に、試験官のほうが「へぇ、そうなの?」となるようなプラスαをつけて話を返せるような人なら、「こいつは使えるな」となるでしょう。このように、会話の柔軟性やとっさにギアチェンジできる人物なのかを見るために雑談的な質問をするというのは、面接の場ではよくあることです。どんな話題になっても臨機応変に対応できる柔軟さとは、いかに本題以外のムダ話(雑談)ができるかということ。就職試験の面接で雑談力をチェックしているのは、ビジネスの世界でも雑談のできる人が求められている何よりの証拠なのです。また、意外に思うかもしれませんが、雑談から透けて見えるのは、その人の育ちのよさ。もちろん、いわゆる育ちがよいというのは、家柄がよいということではなく、人間関係に恵まれて明るく育っているという意味です。こんな点も、面接官はしっかり見ています。
31ニュートラルな人は雑談がうまい3人集まると派閥ができるといわれます。学生時代、クラスの中に仲よしグループが複数存在していた記憶は誰にもあるでしょう。それ自体はそんなに悪いことではありません。人間の習性でもあります。ただ派閥やグループに固執しすぎると、どうしても人間関係が狭くなり、付き合いや考え方が偏るという問題はあります。ひとつ間違えると、組織全体の雰囲気がギクシャクしてくる。場合によってはグループ間の確執や派閥抗争に発展する可能性もあるでしょう。そういうときにその組織全体から求められるのは〝ニュートラルな存在〟。グループや派閥に属さずに、全員と同じスタンスで関われる人、つまりグループ化されていない人ということです。そうした〝ニュートラルな人〟たちに共通していえるのが、雑談がうまいということです。誰とでも雑談できる。どのグループとも話せる。部長や課長とも、同僚とも、後輩や女子社員とも、受付のお姉さんや取引先の社長、保険の外交員やヤクルトレディとも、分け隔てなく雑談ができる。そして、そういうニュートラルな人がいるだけで、場の空気がグンと開かれる。オープンになるのです。「あいつがいるだけで、なんだか空気がなごむんだよな」雰囲気のいい職場には、〝場の空気のなごみ〟を生む人が必ずいます。たとえば雑談の中に派閥間の陰口のような話題が出てきたら、それを上手に受け流して違う話題にスライドさせていく。特定の敵対関係を作らないように、上手に話をコントロールできる。誰とでもニュートラルに、ニュートラルな話ができる。ニュートラルなスタンスが支持されるのは、言うことが人によって変わらない公正さへの評価でもあります。つまり、立場や発言にブレがない。グループ化、派閥化されていないがゆえに、全体を俯瞰できる。周囲に流されずに物事を大局的に考えられる。「これはこれ」「それはそれ」「この問題とこの問題は別」という確固とした立場に立てるということです。そういう人は組織の中で憧れの存在というか、一目置かれていたりするもの。さわやかで後腐れなくて、いろいろなグループとサラッと付き合える。「あの人みたいにできたらいいな」と思われていたりするものです。マンガ『課長島耕作』がビジネスマンの高い支持を受けていたのも、主人公が貫く非派閥性に対する憧れがあったのかもしれません。組織の中でこうしたニュートラルなポジションを維持するために、雑談力が不可欠なのです。雑談そのものは、これといって意味のないムダ話です。しかしその雑談を誰とでも楽しくできる能力は、誰とでも適度な距離感をキープできる能力でもあります。雑談力とは、その人をニュートラルな存在たらしめる社会性あふれる知性なのです。
32組織での評価も人望も、つまるところムダ話ができる人かどうか実は私には、学生の頃、友だちが少なく暗かった時代がありました。どうやら周囲から見て〝絡みにくい人間〟だったようです。すごく人見知りだったのに加えて、若気の至りで「オレはみんなとは違うんだ」みたいな空気を出そうとしていたのかもしれません。ところがそんな〝絡みにくい人間〟にも、気にせずに平然と絡んでくるヤツがいました。何かと話しかけてくる。それも無理しているわけではなく、本当にサラリと雑談を振ってくる男子です。最初は困惑していたのですが、次第にその男子に絡まれるのに慣れてきます。そして次第に、その男子を仲介にすることで、他の人とも付き合えるようになりました。本当に助かりました。彼がいてくれたおかげで、学生時代の人間関係、つまり友だち同士で構成されるコミュニティからこぼれ落ちずに済んだといってもいいでしょう。その彼とは、いまだに友だち付き合いが続いています。誰にでも同じように絡むことができた彼は、やはり学生時代から、そして今も、周囲から一目置かれる存在です。組織の中で一目置かれている、それは言葉を換えれば「人望がある」ということ。前述したニュートラルなスタンスがもたらすのは、周囲からの「人望」だと私は思っています。誰とでも上手に話ができて、全員と適度な距離感が保てる。だから偏りがなく公平で、客観的な判断ができる。そんな人からは、人間としての「器の大きさ」も感じられます。逆に、話術自体は巧みでも、話す相手を選ぶ人、苦手な人とは話せない人というのは、どこか器が小さい感じがしてしまいます。雑談力によって、組織での評価も人望も大きく変わってくるのです。「人望」という観点から見れば、ネタや話題のおもしろさよりも、相手を選ばずに誰とでも話ができることのほうが評価されるのです。どこの職場でも、みんなが苦手としている人とも何気なく話せる人、変に神経を使わずに誰とでも自然に話のできる人がいるでしょう。そういう人は、おしなべて人望があります。おべんちゃらを言うわけではなく、八方美人な感じでもなく、フェアな感じでみんなとつながっている。上司とも同僚とも、取引先とも良好な関係が築けるので味方も多く、出世も早い。また、そういう人は上司になっても、部下に好かれ、部下がついてきます。つまり雑談上手な人は、人間関係における間口が広いということ。ビジネスにおいて〝ニュートラル雑談力〟は最強の武器なのです。
33企画会議は飲み会のように、飲み会は企画会議のように私はNHKの『にほんごであそぼ』という子ども向け番組に関わっています。その番組の企画会議が、それはもうハイテンションなんです。私や佐藤卓さん、ひびのこづえさん、そこにNHKのスタッフを交えて「今度はどんな企画をやるか」「どんな特集を組もうか」を議論するのですが、もう出てくるアイデアはハチャメチャなものばかり。傍から聞いているとバカバカしいことばかりしゃべっているように見えます。たとえば、「子どもと一緒に見ている若いお母さん層をターゲットにして、『さわやかイケメンの名文リレー』なんてどうかな」このようなアイデアが出ると、「たとえば、イケメンがカメラに向かって百人一首の恋の歌をささやくなんてどう?これを毎朝リレー形式でやる。若いお母さんたち、朝からホッと癒されるって」などとすごい勢いで盛り上がっていきます。「料理しているイケメンが、包丁をトントンやりながら恋の歌をささやくとか?」「『リーリー』と言ってる野球のランナーが、その調子で名文をつぶやくとか?」「イケメン僧侶が木魚をたたきながら恋の歌を詠むとか?」もう、会議に出ているみんなが乗っかり合って、話がどんどん膨らんでいく。『にほんごであそぼ』に限らず、人気のあるテレビ番組の企画会議はどこもそうだと思います。最終的には不採用になるのがほとんどなのですが(笑)、そんなバカバカしい話をまじめにすると、頭がものすごく柔らかくなります。そして、口もなめらかになってくる。その会議に出ている人たちの仲間意識が強くなって、場に活気が出てくるのです。企画会議というか、ほぼ飲み会。飲み会感覚で企画会議をやっているのです。実際、まず会議室で盛り上がり、そのあと居酒屋に移動してからさらに白熱するわけです。真剣に結果を求められると途端に息苦しいものになってしまいますが、〝どうでもいいアイデア出したもの勝ち〟の企画会議ほど楽しいものはありません。何かひとつ共通の課題や目標を決めて、そこに向かって、てんでバラバラな意見やアイデア、エピソードを出していく。出てきたアイデアにお互い乗っかり合って、話を転がしていく。みんなで同じ時間、同じ話題を共有した感覚になって、すごく後味がいい。企画会議は飲み会のように、飲み会は企画会議のように。ビジネスマンにとって、仕事中にもオフタイムにも共通する、場を盛り上げるコツです。
34「私語禁止」より「ながら雑談」麻雀や将棋など、手を動かしながらの雑談は、思いのほか話が弾みます。ところが、とくにビジネスの現場では、雑談などしていたら仕事がはかどらないとする風潮があるようです。さすがに最近では、「就業時間中は私語厳禁」などというナンセンスな職場は少なくなったかもしれません。しかし上司から、「しゃべってないで仕事をしろ」「口を動かす前に、手を動かせ」などといったお小言を聞かされた経験のある人は多いはず。しかし雑談もできないような職場というのは、私から言わせれば、考えものです。会社というのは仕事をする場ですが、それ以前に生活空間でもあります。会社員の人は、日常のほとんどの時間を会社で過ごすわけですから、そこの居心地が悪いのでは非常に精神衛生上よろしくありません。仕事をしながらでも雑談ができる。そのくらいの余裕があるほうが仕事そのものもはかどるのです。もちろん雑談をしながらでははかどらない内容の仕事もあるでしょう。雑談などできないような緊張感を持って臨まねばならない業務もあります。しかし、雑談しながら、つまり口を動かしながらのほうがはるかに効率のいい仕事もたくさんあるのです。その筆頭が単純作業。機械的、事務的な単純作業は絶好の雑談チャンスです。たとえば会議に備えてプリントアウトし終わった資料をファイリングしているとき。手がおこなっている作業自体はものすごく単純で、少し慣れれば無意識のうちにできるようになるでしょう。そういう作業はただ黙々とやるよりも、何かしら雑談をしながらやるほうが効率はいい。ひとり黙ってやるよりも、話をしながら、適度に弛緩した状態でやったほうが、作業に飽きがこないのです。また逆のこともいえます。つまり、何かしら手を動かしているほうが、話もうまくいくということ。意識の半分を作業に回して、残りの半分で雑談をする。作業と雑談で脳を半分ずつ使うぐらいのときが、気負うこともなく構えすぎず、リラックスできるのです。それに作業をしながらでは結論を求めるような議論をしようなどという気にもならないでしょう。脳の半分は作業に使っているわけですから、そんな余裕もありません。話が途切れたら、作業に没頭すればいいわけです。「何か話さなきゃ」と構えなくていい。考えすぎなくていいというのも「ながら雑談」のメリットです。作業をしているのだから、視線は手元に向いているのが当たり前。ですから顔を見合わせて話す必要もありません。手のやり場、目のやり場の両方に逃げ道がある。シャイで相手の顔や目を見ると緊張して雑談できないという人にもってこいの雑談シチュエーションといえるでしょう。昔は職場でもよく『私語禁止』などといわれていました。仕事中に職場で雑談などとんでもないと。しかし、仕事内容によっては「ながら」が許される、というかむしろ「ながら」を推奨してもいいのです。私たちも大学で試験の採点をしながら先生同士でよく雑談に耽っています。こういう地味な仕事は、雑談でもしながらでないと、息が詰まってしまうのです。ただ、話が盛り上がって、他の先生方から「静かにしてください。集中できないでしょ」と叱られることもしばしばですが。何かの作業をしながら、手元から目線を外さずに、時々パラパラッと雑談する。この「ながら雑談」は、時間が経つのが早く感じますし、第一、楽しくできる。仕事を選んで上手にやると、仕事効率的にも気分的にもプラスに作用することが多い。だからこそ、雑談が苦手な人ほど、コピーやファイリングや資料整理など、単純作業は率先して引き受けてみるといい。そして、同じように単純作業をしている相手と雑談を交わしてみることをおすすめします。
35「また行きたい」と思わせるのは、料理よりも雑談のうまい店もっとも雑談力の問われるであろう仕事のひとつが、サービス業、接客業です。たとえばどこかのレストランで食事をするとします。そこには接客係がいるでしょう。まあ、あんまり忙しいときに声をかけるのは気が引けるので、混雑のピークの時間帯に行くのは避けたいもの。では、接客係の人たちと話ができる時間に行ったお店であれば。やはり雑談が上手な店に、また行きたいと思うでしょう。私も家族も大好きなレストランがあって、何かというとその店に出かけます。もちろん料理もおいしいのですが、それに以上に、その店のフロア係、ウエイターさんが、すごく気さくで雑談がうまい。たとえばワインを注文すると、その説明の合間に、「実は今、ソムリエの資格を取ろうと思って、試験勉強中なんです」「へぇ、ソムリエの資格って、どうやって取るの?」「検定という資格があって、その試験ではあんな問題やこんな問題があって」といった、ライトな雑談を楽しめるのです。また子どもが一緒だと「昔、僕も公文をやっていたんですよ」などと、子どもにもしっかり話題を選んで話を振ってくれる。もちろん料理がメインですから、雑談を交わすのも時間にして数分くらいのものなのですが、その人と言葉を交わすことで、すごくリラックスできて料理も一段とおいしく感じるのです。料理はもちろんですが、半分はその人と雑談をするのが目当てでその店に通っているといってもいいかもしれません。これがたとえば、注文を取るときに「どれがおすすめ?」と聞かれて、「ウチは、どれもおすすめです!」と返されては、会話にもなりません。料理に自信があるとか、とくにおすすめメニューを決めていないという理由はあるのかもしれませんが、それは関係ありません。同様に、「あちらのボードに書いてあります」というのも、会話が広がらない。たしかに書いてあるのを見ればいいのですが、お客さんが聞きたいのは、そういうことではないのです。最近、お客さんから注文が集中している料理とか、こだわりの食材を使っている料理とか、そういうおすすめを、お店の人が直接、会話で伝えることが大事なのです。「実は私の趣味が釣りで、今朝、釣ってきた活きのいいのがあるんですよ」「ウチの一番人気はですかね。お客さんはみんなこれを注文しますよ」などと、ひと言でも返してくれたら、「このへんで釣りをするなら、どこまで行くの?」「この季節は、何が釣れるんですか?」「それは楽しみだな、じゃあ一番人気に合うお酒は何がいいですかね?」などと話が広がるのです。また、「若い人だったら、なんかいいですよ」「年輩の方には、これがウケてますね」雑談上手な人は、こういうことがスッと出てくる。するとそこでお客さんとの間に何かしらの会話、やりとりが成立するんですね。そしてそれができる人ほど、違うお客さんが来ると、そのお客さんを見てきちんと話題を変えることができるものなのです。今さら言うまでもないことなのですが、事かように、飲食店に限らずお客さん相手の商売は、商品以上にお客さんとのやりとりが重要なポイントになります。気を使わずに話ができる。専門的な情報を持っている上に、気心が知れていて心地よい雑談ができる。人は、そういう人間関係ができている店に足が向くものなのです。それが、客にとっての「また行きたい店」なのです。
36社長の仕事は雑談と決断そもそも、経営者の仕事とは何でしょうか。私は雑談と決断だと思っています。ビジネス上のコミュニケーションにおいて重要なのは、意思決定力と雑談力。この2つだけが社長の仕事といっても過言ではないでしょう。決断はわかるけれど、雑談も?そう思うかもしれません。しかしながら、新しいニーズを探る、アイデアを掘り起こす、トップ営業を仕掛ける。時には社内を回って、社員を叱咤激励し現場の情報を収集する。すべての行為に関わってくるのが雑談力なのです。取引先への根回しをすべく、相手が来社した際に社長がふらりと現れ二、三の雑談をする。そして「というわけで、じゃああとはさん、よろしく!」などと言って手短にあいさつをして場を立ち去る。こんな何気ない光景を目にした人もいると思います。そしてこの何気ない雑談が、大きなビジネスをスタートさせるテープカットのような儀式だったりすることも。雑談力はビジネスを動かす突破口になりうるのです。
37雑談力はビジネスのセーフティネットになるビジネスにおいて雑談がもたらすプラスの作用として注目すべきは、セーフティネットとしての効果です。個人宅を訪問することが多い郵便配達や宅配便の仕事を例にとってみましょう。たとえばわが家では小さな犬を飼っていて、人が訪ねてくるのを玄関先で待ち構えています。しかし配達などの仕事で訪れた人は、ほとんどの場合、その犬を無視してしまいます。無視しないまでも、相手にしない。ところがその中で、年配の郵便配達のおじさんだけは、犬の名前まで覚えてくれて、配達に来ると必ず「今日も元気だねぇ」などとあやして、犬と会話をしてくれます。だから犬もそのおじさんにはよく懐いています。『将を射んと欲すればまず馬を射よ』ということわざがありますが、この場合は『まず犬を射よ』とでもいいましょうか。やはり動物を飼っている人は、動物を大事にしてくれる人に対して、より好感を持つもの。それが人情でしょう。その郵便配達のおじさんは、〝ただ郵便物を運んでくる人〟ではなく、〝感じのいい犬好きのおじさん〟になる。その時点で、ほかの宅配便業者などとは一線を画した特別な存在になります。すると、そのおじさんが、仕事上で何かの拍子にミスをしても許されてしまう。雑談で打ちとけた関係ができているために、少々の失敗は気にしないという状況になるのです。午前中指定の配達物が、「雨で遅れてしまって」と、昼過ぎにずれ込んだとしても、「この天気じゃあ、仕方ないよね」になる。しかし、その関係ができていないと、相手のミスをミスとして端的に指摘するしかない。「午前中指定って頼んでおいたじゃないか!」「この程度の雨が理由になるか!」とクレームにつながってしまいがちです。良好な人間関係を築ける雑談力が、仕事相手との間で非常に効果的なクッションの役割を果たしている。雑談は、その人の仕事上のミスをもカバーしてくれるのです。ここでは、来るたびに、ひと言ふた言、犬の話題で雑談をしていく郵便配達のおじさんの例を取り上げましたが、キッカケは何でも構いません。たとえば、わが家の玄関にはある絵が飾ってありますが、ウチに来た人(配達関係の人)で、その絵に言及してくれた人は、今まででほとんどいません。奮発して、そこそこいい絵を飾ってあるのですが、悲しいかな誰も反応してくれないのです。唯一反応したのは画商だけ(笑)。ちょっと寂しいというか、肩透かしを食らった気分です。そんなときに、「これ、なんていう絵ですか?」「いい絵ですね、誰の作品ですか?」というひと言があるとうれしい。それを待っているところがあるのです。この際、「いくらしたんですか?」でも構いません。相手の生活圏内に入っていく仕事で、犬にせよ、絵にせよ、花にせよ、その圏内で相手が重要だと思っているものにまったく言及できないようでは、とても仕事ができるとはいえません。仕事で個人宅を訪れるようなときには、玄関先に花が飾ってあれば、その花に少しだけでも言及してみる。絵が飾ってあれば、その絵に言及してみるという姿勢は非常に大事なことなのです。パッと目に入る範囲内で何か話のキッカケを見つける。「これはなんですか」と相手に聞くだけでもいい。その雑談力が一気に相手との距離を縮めるのです。その雑談ひとつで、相手のミスにも寛大になれるような良好な人間関係が出来上がります。勿体をつけて言えば、雑談で築いた人間関係が、ビジネスでミスが発生したときのセーフティネットになる、というわけです。また近年は、セキュリティという意味合いから、日常生活において〝匿名的な関わり合い〟には、ことさら注意が必要になってきています。たとえば宅配便などでもエリア担当者をキッチリ決めてあり、「この地域担当のです」と明記されたネームプレートをつけて業務をおこなう業者が増えています。それゆえ配達に来るのは、いつも同じ人ということになる。「ああ、宅配便のあの人だ」と。そこには顔も名前もわかっているという安心感があります。そこに加えて雑談を交わせるような雰囲気ができれば、安心感はより高まります。配達と受け取りという一瞬の事務的なつながりであっても、雑談ができるだけで、そこに一歩進んだ〝顔見知り〟としての人間関係が出来上がります。そんなときにまったく知らない人が来ると、受け取る側には緊張感が生まれ、用心するようになるもの。雑談力は、ビジネスに限らず、何かと物騒な現代社会において「どこの誰ともわからない」という匿名性への不安に対する非常に効果的なセーフティネットになるのです。
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