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第5章「声力」を活かす

第5章「声力」を活かす

声力で自分を表現しよう「声力開発トレーニング」は身体で覚える発声トレーニングです。腹式呼吸や声の出し方など、単純なものではありますが、すぐに身につくわけではありません。「継続は力」です。毎日、5分でも10分でもいいので、根気よく続けてください。正しい発声が無意識にできるようになったとき、あなたは「声力」を手に入れたといえるでしょう。自然ないい声で発声できる「声力」を、あなたの仕事に、日常のコミュニケーションにおおいに役立ててください。「人前で話すのが苦手」「聞き取りにくいと言われる」など、声や話し方に自信が持てない人は、どうしても消極的になりがちです。けっして能力がないわけでも、話す内容が悪いわけでもないのに、きちんと結果が出せないのではマイナスになってしまいます。私の知人にも、故郷のなまりをからかわれたことがきっかけで、対人恐怖症になった男性がいました。けれども彼は「話し方教室」で学び、明るい笑顔で話すように心がけたことから、仕事に自信を取り戻して社長にまでのぼりつめたのです。彼が最初にしたことは、大きな声ではっきりとした発音であいさつするという簡単なことだったのですが、これはのどの奥を大きく開けて発音する「声力開発トレーニング」と同様の効果があったのです。「声力」はあなたが自分自身を表現し、コミュニケーションを円滑にするために必ず力になってくれるでしょう。

声力は伝達力――アナウンサーSさんの話話し方のプロであるアナウンサーは、日頃からさまざまな訓練をしています。民間放送局のベテランアナウンサー・Sさんは、新人アナウンサーのトレーナーもしているそうです。「アナウンサーの訓練は、立ち方、腹式呼吸法、発声訓練、発音訓練が基本です。まずこれをマスターしたうえで、原稿の読み方、敬語の使い方、アクセント、数詞の読み方などのトレーニングをしていきます」Sさんの説明を聞いて驚きました。基本訓練の大きな項目は、私の「声力開発トレーニング」とまったく同じです。ただし、私のトレーニングは、もともと声楽家をめざす人のために考案したものですから、声を出すための器官や筋肉を徹底的に鍛え上げることに重きを置いています。アナウンサーは、「正しく情報を伝えること」、つまり「伝達」が目的ですから、声の訓練のうえに、話し方の訓練が加わってきます。Sさんから教えていただいた、きちんと発音するための練習文を以下にご紹介しましょう。ひとつひとつ、声に出してはっきり発音して読んでみてください。くり返し発音することで、口を動かす筋肉、舌、歯、のどなどの発声器官を正しく動かせるようになってきます。「ア行」▼あら、また赤い旗があがった。勝った、勝った、赤がまた勝った▼威勢のいい医者が、息を切らして駅へかけつけた▼上野から魚河岸まで。鵜があゆを追い合う「カ行」▼貨客船の旅客。乗客の訓練。危険区域。区画計画。五カ国協力計画▼書きかけ書こうか、かけっこか、買い食いか、危険危険、今日が期限だ、書きかけ書こう▼きこりゴリゴリ木を切りに、きこりの子どもも木を切りに、のこぎりの音ゴリゴリ「サ行・ザ行」▼瀕死の使者。消息筋の推察。必死の疾走。指図する指揮者▼粗品、粗酒、粗食、就寝。やしの実をヒヒが食い。ひしの実をししが食う▼前日の事情。前夜の風邪。漸次増税。絶体絶命。全校生徒の座禅絶景「マ行」▼眼医者、名刺屋、名士に面識。馬の耳に念仏。寝耳に水▼ものまねのうまいママの姪。おまえのまねも、おまえのママのまねもみんなうまい▼おまえの舞の見物なのは、おまえを思う余の目にのみではのうて、余の者もみな申しておる「ラ行」▼いらいらするから笑われる。照れるからからかわれる。だらだらするから侮られる▼土砂で道路はドロドロだ。どうりで廊下はどろぼうの泥足で泥だらけ▼とろろいもをとる苦労より、とろろいもからトロッとするとろろ汁をとる苦労「ワ行」▼瓦、俵、私の瓦、われわれの俵。君はやわらの道、私は和学の道▼笑わば笑え、わらわは笑われるいわれはないわい▼わら縄ではわなに弱いわい。岩を結わえる縄はわら縄では弱いわよこれはプロのための訓練法なので、発音を鍛えるために最適です。自然な発声ができるようになったら、ステップアップとして練習してみるのもおすすめです。

声力は人間関係力――セミナー講師Fさんの話「いい声」を手に入れることで成功した、人気セミナー講師Fさんの例を紹介しましょう。Fさんは、いい声を手に入れる過程で身につけた「話し方」を自分なりに開発し、セミナー講師として活躍しています。Fさんの「コミュニケーション力を高めるための話し方講座」はどこでも大人気です。Fさんがもっとも重視しているのは、「明るく元気に発声すること」と、「相手の話をしっかり聞いてお互いの信頼関係を高める」ことです。明るく元気に話すことで、相手は警戒感を解き、こちらに心を開くようになります。「心の距離を縮めてもいいよ!」という準備態勢が整うわけです。そのうえで、相手の話をじっくり聞くと、相手は「この人は信頼できる人だ」という気持ちになり、心の距離はさらに縮まるのです。この聞き上手になるためのトレーニングとして、いくつかおもしろい方法をFさんから教えていただきました。①ミラーリング「ミラー」は「鏡」。文字どおり鏡に映っているかのように、相手と同じ動作をする方法です。相手が手を打ったらこちらも手を打つ、顔を触ったらこちらもそのようにまねをします。②ペーシングペーシングは「ペースを保って走る」の「ペース」です。相手がゆっくり話す人なら、自分もゆっくり話す。小さい声の人なら、こちらも小さい声で話す、というようにペースを合わせます。③バックトラッキングバックトラッキングは「あとをたどる」という意味で、相手の言葉をオウム返しに返す方法です。「今日は暑いですね」と言われたら、「ほんとうに暑いですね」と相づちを打つように返します。この3つは、いずれも相手との距離を縮めることが目的です。ですが、少し疑問を持ったので質問してみました。「意味はよくわかるのですが、相手の動作をまねしたり、言葉をオウム返しにしたりしていると、相手はバカにされていると感じて怒りだしませんか?かえってまずいような気もしますが……」Fさんは答えました。「おっしゃるとおりです。本来の目的は、相手の考え方、価値観、そのときの気分の状態などに、こちらも合わせるための方法なのです。そのために、相手の動作や言葉をまねることを入り口にしているだけなのです。ですから、本来の目的を忘れて、ただまねをしているだけでは、良好なコミュニケーションにはなりません。相手の気分、テンションに合わせ、相手との心理的な距離を縮め、そして信頼関係を築き上げるための方法だと理解してください。〝心を共鳴させる〟方法ですよ」このお話を聞いて私も納得しました。「心の共鳴」とは、とてもよい言葉ですね。私の「いい声・美しい声」も、声帯を正しく使い、口の中や、身体に共鳴させる方法ですから。「身体の共鳴」と「心の共鳴」はセットで考えたほうがよいようです。

声力は説得力――企画マンIさんの話Iさんは、大手広告代理店で働く企画マンです。仕事は企業スポンサーに対し、広告企画を提案することなど。社内ミーティングやプレゼンテーションのかたちで、人前で自分の企画を説明し、納得してもらわなくてはなりません。Iさんはもともと声が小さく、人前で話すのが得意でなかったので、入社して数年間は怒られっぱなしだったそうです。それが、「いい声」を手に入れ、はっきりと明瞭に話すことができるようになっただけで、どんどん評価が高まっていき、今ではヒットメーカーとして活躍しています。Iさんは、相手との心の距離を縮めることを意識して話をするように心がけているそうです。具体的には、①にこやかな表情で話す②ゆっくりしたペースで、母音をはっきりと発音する③まず冒頭部分で結論を話す④相手のきつい質問に対しては、「そうですね、そこがポイントですね」といったんソフトに受け止める。けっして感情的にならない⑤ネガティブな言葉は使わない。ポジティブな表現を選んで話す相手を説得しようということが先に立つと、どうしてもあせりが出てきてしまいます。それより、その場の雰囲気をなごませ、自分に対して親しみを持ってもらうような「環境づくり」を意識して話せば、同じことを説明しても、相手が親近感を持ってくれている分だけ、理解度が高まると言っていました。自分からの発信力となる声力に加えて、相手の立場に立って受け入れられる話し方をすることで、説得力を得られるすばらしい会話術といえますね。

声力はコミュニケーション力――予備校講師Hさんの話Hさんは70歳になった今も、予備校の現役講師として活躍しています。以前は公立高校の数学教師でしたが、45歳のときに、それまで自分でつちかってきた教習技術を、もっといろいろな生徒に伝えたいと思い、予備校の講師に転職しました。転職から25年たった今では、「H先生の授業を聞けば、志望校入学間違いなし!」との伝説が生まれたほどだそうです。Hさんがこれだけの人気講師になるには、人知れずくり返した「話し方の自己学習」がありました。23歳で公立高校に赴任したとき、彼が真っ先に考えたのは、「数学嫌いの生徒は多い。理屈がわかりはじめれば、こんなにおもしろい学問はないのに、なぜかそのおもしろさを知る前に数学嫌いになってしまう人が多い」ということでした。そこでHさんが工夫したのは、生徒の立場に立って自分の教え方を客観的に評価してみるという方法でした。自宅で明日おこなう授業内容を録音し、それを何度も聞き返しました。まずは声の大きさのチェック、教室の隅まできちんと聞こえる声を出しているか?つぎに、言葉を正しくわかりやすく発音しているかのチェックです。そして、飽きさせないように、興味を持続できるように話をしているかのチェックもしました。適度に脱線をし、笑いをとりながら話すことにも注意しました。これだけの準備と努力をしていても、授業中に居眠りをする生徒、あくびをする生徒はなくなりません。はじめは大きなショックを受けましたが、Hさんは、あくび、居眠りが出たら、その日はいつもの録音チェックに加え、生徒があくびをした個所、居眠りをしていた個所の話し方、話の内容を再検討したそうです。何度も、何度も検討を重ね、納得がいくまで授業内容、方法を研究したそうです。Hさんが工夫した点はいくつもありますが、基本としたのはつぎの3点だそうです。①声の大きさに強弱をつけるいつも大きい声を張り上げていてもいけない。「ここは重要だよ!」と大声で言ったあとに、意識的に小さな声でつぶやくと、聞き逃してはいけないと思うので、教室中が静かになり、じっくり話を聞いてくれる。②話すスピードは一定にしないアナウンサーのように一定のペースではなく、早口でしゃべったり、反対にゆっくりしゃべったりするように、メリハリをつける。③キーワードを決める授業の始めに、その日の重要ポイントを黒板に書き出しておき、授業の最中に何度もそのキーワードをくり返し口にする。授業全体をひとつの読み切りドラマのように考え、起承転結を明確にし、そのシナリオを役者が舞台でしゃべる気分で「教師の役」を演じるようにしたといいます。公立高校時代もHさんの授業は評判がよかったのですが、予備校に転職してからはその人気が爆発。夏休み、冬休み、春休みの講習には、現役の高校生も殺到する人気ぶりです。これは、話し方、授業方法を何度も何度も研究して試行錯誤した努力のたまものなのでしょう。

声力は人間力――言語聴覚士Oさんの話Oさんは言語聴覚士として、ある大学病院のリハビリ部に勤務しています。言語聴覚士の仕事は、病気やケガ、あるいは先天的な原因によって、うまく声が出せない人たち、言葉を話せない人たちのリハビリをするプロフェッショナルです。また、食べる、飲むなどの機能障害に対しても、呼吸、発声の場合とほぼ同じ器官(口、鼻、のど)を使うということで、うまくものが食べられない、うまく飲みこめないという人たちのトレーニングもサポートしているそうです。「楽しく話す、おいしく食べるというのは、人間のもっとも基本的な欲求です。この機能を回復させることにより、QOLが上がり、生活を楽しむことができます。疾患により失った機能を、治療によって回復させることができればベストなのですが、無理な場合には、残された機能を最大限に活用して、話す楽しみ、食べる喜びを取り戻してもらうのが私たちの仕事です」Oさんは、このように言語聴覚士の仕事を説明してくれました。今、この資格を取った専門家は1万5000人程度しかおらず、まだまだ人数が不足しているのが現状とのことです。Oさんのお話で私が興味を持ったのは、嚥下障害(ものをうまく飲みこめない障害)の患者が、食べる前の準備体操としておこなっている「ぱ・た・か・ら体操」という発声プログラムです。食べる器官と発声器官は同じところを使っているので、この体操は、発声訓練法にもなるそうです。「ぱ・た・か・ら体操」のプログラムは2つありますのでご紹介します。なるべく口を大きく開けて、次の言葉を大きな声で発声するようにしましょう。【その1】1「ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ」×3回「ぱぱぱぱぱっ、ぱぱぱぱぱっ」×1回2「たっ、たっ、たっ、たっ、たっ」×3回「たたたたたっ、たたたたたっ」×1回3「かっ、かっ、かっ、かっ、かっ」×3回「かかかかかっ、かかかかかっ」×1回4「らっ、らっ、らっ、らっ、らっ」×3回「らららららっ、らららららっ」×1回【その2】1「ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ」「たっ、たっ、たっ、たっ、たっ」「かっ、かっ、かっ、かっ、かっ」「らっ、らっ、らっ、らっ、らっ」2「ぱっ、たっ、かっ、らっ」「ぱっ、たっ、かっ、らっ」3「ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ」「たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ」「かっ、かっ、かっ、かっ、かっ、かっ、かっ、かっ、かっ、かっ」「らっ、らっ、らっ、らっ、らっ、らっ、らっ、らっ、らっ、らっ」このときに発音する「ぱっ」「たっ」「かっ」「らっ」の4つの言葉の頭文字を取って「ぱ・た・か・ら」体操と名づけたそうです。この4つの言葉はすべて発音訓練として意味があって選ばれているそうです。「ぱっ」では、唇を結んで勢いよく破裂させます。「たっ」では、舌の前方を上歯の根元につけて破裂させます。「かっ」では、舌の奥のほうをできるだけ持ち上げて、歯切れよく声を出します。「らっ」では、舌を上あごにつけて反転させます。この唇、舌、のどの動きをくり返すことで、筋肉に運動をさせ、食べ物をこぼさず上手に食べられるようになるそうです。また、先ほど述べたような理由で、発声訓練にも使えるとのことです。Oさんのお話をお聞きすると、声力は、QOLを高める「人間力」の回復にも役立つように感じます。

おわりに〜いろいろな声を表現する日本語の豊かさ〜声の種類を表現する言葉はたくさんあります。高い声、低い声、かわいい声、怒った声……。「○○な声」という言葉は、たいへんな数があるでしょう。それ以外の「○○声」という表現にはどんなものがあるのかと、ちょっと興味を持ったので、『広辞苑』で調べてみました。以下に、興味深い表現を並べてみます。厳つ声(いかつごえ)……いかめしい声色声(いろごえ)……色めいた声。なまめかしい声上声(うわごえ)……高い声。頭声老い声(おいごえ)……老い衰えた声。盛りを過ぎた声おこない声(おこないごえ)……読経する声鎌倉声(かまくらごえ)……鎌倉なまり。関東弁神声(かみごえ)……神楽歌を歌うような声枯声(かれごえ)……しわがれ声。一説に、空声で、うつろな声土器声(かわらけごえ)……土器のようにつやけがなくがらがらした声寛闊声(かんかつごえ)……悠揚として豪快な声切声(きりごえ)……一音ずつ区切って発する声。また、切口上曇り声(くもりごえ)……はっきりしない声寂声(さびごえ)……老熟して趣のある声。かれて渋みのある声塩辛声(しおからごえ)……かすれた声。しわがれ声湿り声(しめりごえ)……涙にしめった声。悲しみのために沈んだ声しゃなり声(しゃなりごえ)……わめき声。どなり声洒落声(しゃらごえ)……女がはしゃぎ立てる声。また、しゃれてなまめいた声白声・素声(しらごえ)……ふつうでない、うわずった声。金切り声せぐるし声(せぐるしごえ)……息苦しそうな声節季声(せっきごえ)……せわしくて落ち着きのない声蟬声(せみごえ)……蝉の鳴き声に似た、しぼり出すような声茶利声(ちゃりごえ)……滑稽な声胴間声(どうまごえ)……調子はずれの濁って太く下品な声寝惚れ声(ねほれごえ)……寝ぼけ声引入れ声(ひきいれごえ)……息を吸いこむようにかすかに出す声任せ声(まっかせごえ)……「よしきた」と叫ぶ声斑声(むらごえ)……むらになって聞こえる声。調子の整わない声槍声(やりごえ)……鋭いとがり声。怒った声薬缶声(やかんごえ)……大きく耳ざわりな声戦慄声(わななきごえ)……わななきふるえる声侘声(わびごえ)……わびしそうに発する声日常的にいわれている、金切り声、がらがら声などを省いても、これだけの興味深い「声」の表現がありました。でも、よくよくながめてみると、「いい声」を表現する言葉はほとんどないですね。その理由はわかりませんが、もしかすると、「いい声」が当たり前で、「○○声」とするのは、異常な状態をさしているのかもしれない、などと勘ぐりたくなります。昔は、誰もが「いい声」で話していたのかもしれません。冒頭から一貫して述べてきたのは、ほんとうの「いい声」というのは、人間が生まれてきたときの産声だということです。成長するにしたがい、住居、食事、文化などの生活環境の変化により、その声をしだいに忘れてしまっただけなのです。「声力開発トレーニング」は、忘れてしまったものを、思い出してもらうためのお手伝いプログラムです。正しい声の出し方を練習し、「いい声・美しい声」を手に入れることで、あなたの声はすばらしいものになるはずです。そしてその「声力」が、あなたの人生の新しいとびらを開けてくるでしょう。「声力」が増したあなたは、人から頼られ、好感を持たれるようになるでしょう。仕事も順調に進み、人生がうまくまわりだすようになるでしょう。さあ、素敵な「声力」ライフを、エンジョイしてください!島村武男

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