日常で使える小ワザ「なんだかめんどくさい話になってきたわね。とりあえず今すぐなんとかならないの?」ここまで読んでそんなことを思ったあなたのために、ちょっとここでブレイク。日常で使える小ワザを紹介しましょう。ちょっとした声の悩みなら、〝一時的には〟これでけっこう解消されますよ。【悩み①】長く話していると声がかすれたり喉が痛くなる話すということは、呼吸などの身体の生命維持のための機能と器官を借りる行為。しかも発音源の声帯は薄くデリケートな粘膜ですから、誰でも長く話せば疲れます。途中で体温程度の適度な水分をちびちびと補給することは、喉の保護のためにとても有効です。過度に疲れる場合は無駄な力が入って無理な発声をしているので、時折肩を上下させて首まわりの力を抜くことが大事。首の筋肉を軽くさすって、がちがちにこわばっているのを外からほぐすのもOK。息を吸うときに肩が上がるのはもっとも疲れる原因です。呼吸は、息を吸ったときにお腹が膨らみ吐いたときにへこむようにしましょう。お腹は前面よりも横腹を意識する。腰に手を当てると意識が横腹に向けられます。さりげなく腰や横腹に手を添えて確認しながら喋るのもいいでしょう。喉頭を「ごくん」とものを飲み込む寸前の形で止めて、もとに戻すことを繰り返してみましょう。これは声帯のマッサージです。声帯の柔軟性が落ちて声がひっくり返ったり、ポリープなどの病変を防ぐためにもマスターしてみてください。声を酷使するクラシックの歌手などは間奏のときにこれをやっていたりします。声を出すことに気をとられていると息が浅くなって、肺に二酸化炭素がたまってくることがあります。その場合には肺の浄化を行いましょう。息を吐ききってから、細くゆっくり2秒吸い、2秒間止める(息を止めると喉に力が入るので、息を止めるのではなく吸うのを止めるイメージ)。続きを2秒吸ってまた2秒止める。そうしたら全部吐く。これを数回繰り返すと肺の老廃物の排出ができるのですっきりしますよ。【悩み②】騒がしいところで声が相手に届かない喋ったことを相手に聴き取ってもらえないと、とても虚しい気持ちになるものです。だから「え?」などと訊き返されると、つい声を張り上げてしまいがち。そうすると喉に力が入って締め付けられるので、もっと響きのない声になり逆効果です。むしろ力を抜いて、ちょっと低めの声でゆっくり話しましょう。たとえ周りの騒音の周波数があなたの声に近く、かき消されたとしても、ゆっくり話すことで「錯聴効果」という助っ人を使うことができます。「錯聴」──目に見えないものを見えたと勘違いすることを錯覚と言いますね。錯聴は、聞こえないものを耳が聞こえたと勘違いする現象です。錯聴には何種類もありますが、ここで使うのは「ある文章のなかでいくつか音を消してしまっても、そこを雑音で埋めると実際に出されていない音が聞こえる」というものです。「ら○しゅ○、こ○しょ○い○もう○ちど、○って○ていた○き○○の○す○れ○」これではなんだかわかりませんね。この個所の音を抜いてしまうと、実際に何を言っているのか理解できません。しかしあら不思議、この○の個所にザーッという雑音を入れることで、「らいしゅう、このしょるいをもういちど、もってきていただきたいのですけれど」と、なかったはずの音が補完されて聞こえてきます。しかし早口で話してしまうと、聞こえない部分がつらなりすぎて補完しきれなくなるのでご注意。必ずゆっくり喋ってくださいね。そしてもうひとつ、これは本当に小道具を使った小ワザです。紙でもノートでもお店のメニューの紙でもよいからA5~A4サイズ程度のつるっとした材質のものを、自分の顎の下から胸にかけて持ち、先を相手のほうに少しだけ傾ける。見た目にはノートや紙を胸の前で持っているようにしか見えませんが、実はあなたの声を反射させて相手に届けてくれる簡易拡声器の役割をします。相手によく聞こえるようになるのと同時に自分にもいくらか反射して、出した声がよく聞こえるので、喉の力が緩み、より響きやすい発声になるという効果もあります。もちろん向かい合わせだけでなく、横にいる人にも角度の調整だけで、声を届けることができますよ。うるさい店内でがなり立てずに余裕で声が届く、反響を使った小ワザですが、その効果にはちょっとびっくりすることでしょう。【悩み③】スピーチの恐怖、緊張して胸がドキドキ足はガクガクこれ、一番つらいですよね。話す前からすでに心臓が口から飛びだしそうになって、頭が真っ白になる。声は震えるし上ずるし、膝はガクガクするし手は震える。誰でもこんな経験をしたことは何度かあるのではないでしょうか。たいていのことは少しずつ慣れていくものだけれど、こればかりはいつまでたってもダメ、という人も多いと思います。その逃げ出したくなるような緊張を一瞬でおさめる方法があります。あまりに簡単なので、あっけなく思うくらいです。手のひらに人と書く?深呼吸をする?どれも違います。答えは、なんと「咳払い」です。緊張が高まってがちがちになっても心臓がバクバクになっても、これひとつですうっとおさまります。不思議でしょ?ただしあまり大きな咳払いはかえって妙な注目を集めますから、口を押さえて「コホン」と品良くいたしましょう。軽い咳払いで充分です。話している途中でも緊張してきたら、マイクから顔を背けて手で口を押さえて「コホン」。咳払いは本来、気道に異物が入るのを防ぎ、窒息の危険のある誤嚥から命を守るためのもの。また喉頭周辺は随意筋と不随意筋が入り交じり、さまざまな神経が集中しているところでもあります。誤嚥とか窒息という身体の一大事にいたるかもしれない事態を回避する咳払いによって、緊張したり興奮した身体の状態が瞬間的にリセットされるのです。緊張は一度失敗を経験してしまうと、次には恐怖感を持ってしまい、もっと緊張するというマイナスのスパイラルにはまり込んでしまいます。しかし一度、上手に緊張をやり過ごす経験をすると、次には「たいしたことないや」と思えるのであまり緊張しない、そうすると人前で話すことが苦にならなくなる、むしろ楽しくなるというプラスのスパイラルに入っていきます。マイナスのスパイラルを止めるのは、軽い咳払いひとつ。あれこれと考えて悩むよりも、スマートな咳払いの仕方を練習するとよいですよ。ただしやりすぎると他の場面でも緊張を緩和するためについやってしまい、癖になるのでほどほどに。
【悩み④】声が暗い、もそもそするこれもけっこう多い悩みです。声が陰気でもそもそとした印象のある人は、顔つきや物腰もどことなく陰気なものです。これもまたマイナスのスパイラル。顔つきが暗い→声が暗くなる→陰気な声を自分で聴き続けるともっと陰気になる→陰気な気分だから顔つきが暗くなる……というわけです。声は純音ではなくさまざまな周波数の音を含んでいます。音量的にもっとも多い周波数を、その人の声の主たる音程として認識するわけですが、実際には超音波まで含む広い範囲の音が出ています。明るい声には高めの周波数帯が含まれます。高周波ほど脳を活性化しますから、高い周波数の音をあまり含まない暗い声で喋っていると、脳や身体の動きまで鈍くなってきます。声を明るくするのに、もっとも簡単で効果的なのは眉を上げることです。「あ───」と声を長く伸ばして、眉を上げてみてください。かすかに音程が上がり音色も明るくなるのが実感できるでしょう。同じように「あ───」と出しながら、今度は眉をしかめてみてください。半音近く音程が下がり音色も暗くなるはずです。目を閉じても暗くなります。だから瞬きが多いと音声は不安定になるのです。スピーチの名手は声を出している間、瞬きのタイミングを考えています。瞬きによって音程が下がり、自信なさげだったりリーダーシップを感じられない声になってしまうからです。名歌手も同じです。声を伸ばしているときはもちろん、歌詞の切れ目まで瞬きはなし。これは歌うときの基本中の基本なのですが、最近はたったこれだけのことすらできない歌手が増えました。というわけで、明るい声を出すには眉毛を少し上げて目をはっきりと開くだけでいいのです。明るい声にしようと意識して、声を張って無事に明るくしようとするとかえってわざとらしくなり「イタイ感じ」になります。しかも実際には明るくなるよりも硬質な声になってしまいます。日本人は眉を上げる習慣がなく目から上をほとんど動かさずに話しますから、感触をつかむためには少々オーバーに練習してみてください。眉を上げると顎も一緒に上がる人が多いので、顎は必ず軽く引くようにしましょう。顎を引いて眉を少し上げる。実はそれだけで共鳴腔が広がり、声が与える印象は驚くほど変わります。慣れてきたら自分にちょうど良い眉の上げ具合を見つけていきましょう。あまり眉を吊り上げているとミスター・ビーンみたいになりますからご注意。眉を上げるのに慣れてきたら、日本語なら心もち上げれば充分に声は明るくなります。英語は声の明暗に関係なく、眉を上げることで口腔の奥が広がり、それによって可能になる発音があるので少々大げさにする必要がありますが。人の心をつかむには「はじめの10秒」と「比較」これも小ワザの一種です。たいていの人は話し始めは調子がつかめず、だんだん慣れてきたり落ち着いてきたりして、言いたいことが言えるようになるものですよね。気心が知れた人たちの集まりや、毎日顔を合わせている会社の会議なら、百歩譲ってそれでも良しとするかもしれません。しかし初対面の場合はどうでしょうか。人の印象は10秒以内に決まると言われています。あなたが相手の前に向かい合ってからわずか10秒。そこであなたの話を最後まで真剣に聞いてもらえるかどうかが決まると言っていいでしょう。就職の面接などは、最初の印象で合否を分けることになりかねません。特に皆が同じようなスーツで訪れるような企業では、あなただけの特徴である声で差別化を図ることが必要です。声は印象に大きく影響しますから、最初のワンフレーズを大切にしましょう。話し始めは誰でも早口になりがちです。いつもよりゆっくり話すように意識して、顎を引き、堂々とゆったりと。最初のフレーズを徹底的に「録音して」練習することでびっくりするほど自信がつきます。そこで自分が心地よいと思う自分の声を探して自分の耳に覚えさせましょう。そうすれば自然にその声が出るようになり、話すことがどんな場面であろうと楽しみになります。また緊張してドキドキしていると、わずかの間がとても長く感じられます。人間の脳は速いビートによって時間の経過を速いと錯覚するからです。アップテンポの曲を聴いていると時間が早く過ぎていきます。逆にゆっくりした曲を聴くと、同じ時間でもずいぶん遅く感じます。体感時間は刻むビートによって長くも短くもなるのです。緊張したときほど、沈黙を恐れたり焦ったりしてはいけません。聞き手は沈黙によって精神を集中します。沈黙のあとは大きな声で話す必要はありません。集中しているときには小さな声でも充分すぎるほど相手の心に届きます。沈黙を味方につけましょう。あのヒトラーも沈黙の効果を知っていて、長い沈黙後に発する声に勝負をかけていたのです。それともうひとつ。人間は比較によって評価をする、むしろ比較によってしか評価ができない生き物です。自分に注意を向けさせるには、比較を上手に使いましょう。周りが声を張り上げたら、自分は普段の声より少し低めに、より落ち着いた声で話す。硬質な声の人が近くにいたら、自分はソフトにしてみる。逆に協調性を印象づけたいなら、相手に少し近いトーンで応じればいいのです。余談ですが、漫才でもふたりの声の質の違いがはっきりしていると、お客さんには各キャラクターが明確に伝わるのでノリがよく、人気が出ます。「お笑い」ももう少し声に注意を払うと素晴らしい芸術になりうると思うのですが、ほとんどの芸人さんはネタだけで勝負をしていて、声の意識が低いのが残念です。笑わせる、心をつかむ、注意を引きつけるなど、芸人さんに(もちろん私たちにも)必要なことはすべて声によってできるのですから。
【声のコラム⑤】声帯模写ではなく声道模写!?声色を真似る芸に「声帯模写」というものがあります。これは戦前から戦後にかけて活躍した演芸家、古川ロッパ(緑波とも)が命名したもので、モノ真似である「形態模写」をもじったなかなか洒落た言葉です。しかし実際には声を真似る場合に声帯はあまり関係がありません。本文でも説明したように、声のもととなる声帯が出す音(喉頭原音)は「ブーッ」という低い振動音でしかありません。これが喉頭より上の咽頭という部分や口腔や鼻腔などに共鳴することでさまざまな声の質や音色を作り出しているのです。また言葉の発音は、唇や歯や舌などを使うことで倍音を増幅し、それによって母音などの構音を行います(これをフォルマントといいます)。声が高い・低いというのは、もっとも中心になる強い周波数帯で判断しているわけで、実際には非常に幅広い周波数の音を誰でも発しています。その音の混ざり具合や共鳴のさせ方を真似するものが「声真似」です。声真似をしている人は、必ず真似もとの人と似た表情をして話します。これはテレビなどの場合、ビジュアル的な効果を狙ってわざとオーバーに似せる場合もありますが、声道の状態を模して共鳴を似せるわけですから、おのずから表情が似てしまうことになるのです。つまり声真似は声帯ではなく声道模写というわけです。ちなみに声真似の名手は耳がよく分析力に優れています。先述しましたが、人間は聴き取れない音を出すことはできません。だから声真似の名人はかなり微妙な音程変化や構音要素を聴き取っているということです。そして脳で真似もとの声道の状態を綿密に分析し、自分の声道をコントロールして共鳴や倍音、雑音の混ぜ方を音として再現しています。というとすごく難しいようですが、声真似の素質は誰でも持っています。最初は似ていなくても懲りずに続けることでどんどん「音を聴き取って、声道をコントロールして再現する」回路ができてきます。これは声からさまざまな情報を読み取る訓練にもなるし、コントロールができるようになると声を出すことへの自信にも繫がります。まずは自分と背格好や顔つきが似ている人の声真似から始めるとうまくいきますよ。ただ、やりすぎると本来の自分の声ではない出し方をするために(かすれ声や雑音の多い人の真似は特に)喉を痛めますからほどほどに。
コメント