本書をお読みいただく前にこの本は、声に関する悩みを持つ人のために、1日という短い時間で「いい声」を手に入れるために書いたものです。「いい声」とは、「滑舌がいい」「よく通る」「音量がある」声のことをいいます。「いい声」は、人の気持ちにすっと入っていきます。だから、声を発した人の考えが、違和感なく相手に伝わります。コミュニケーションが円滑に進みます。きっとあなたはそんな声を自分のものにしたくて、この本を手にとってくださったことでしょう。その願いにお応えするべく、これまでに私が蓄積してきた「いい声になる」ためのノウハウを、本書にすべて投入いたしました。この本は、・会議やスピーチ、プレゼンなど、人前で話すときに、いつもビクビク、オドオドしてしまう・会議で指名されても、なにも発言できない・人と接することに苦手意識があり、相手に不快感を与えているのではと常に心配している・あがり症は一生治らないと思っている・社会人になりたてで、これから人前で話す機会がどんどん増える・他人に影響を与えられる人になりたいと思っているそんな人たちに読んでいただきたいと願っています。話し方を学んでも話せない理由ところで、世の中には話し方に関する書籍がたくさん出版されています。しかし話し方を変えるには、まず声から変えないといけない。それが私の持論です。なぜそのような考えに至ったかをお話しします。コミュニケーションに関する本のほとんどは、しっかりと声が出る人を想定して書かれています。声は相手に届いているけど、伝わらない話し方をしているため、理解されない、信頼されない……。そんな人が、話し方の本を読んで実践すると、望み通りの結果が得られるでしょう。ただし、話し方の本をたくさん読んで、書いてあることを身につけたとしても、肝心の声が相手に届かなければ、期待通りのコミュニケーションは成立しません。ボソボソと暗い声で話すと、相手はあなたのことを、自信がない人、裏がある人、やる気がない人、イライラさせる人、と受け取るかもしれません。信頼される人になるには、まず声から変える必要があるのです。また、どんなに緊張する場面でも、相手から緊張していることを悟られず、堂々とした自分になるには、声から変えていくことが最も簡単で即効性があります。緊張しているときに、心をいくら落ちつかせようと思っても、限界があります。「動じていないように見える」自分をつくるためにも、まず声を変えることです。堂々とした声で話すことで、内心のドキドキ感を相手に察知されないようにするのです。心に乱れが生じてしまうと、無意識のうちにノドが締まり、声の出が悪くなります。声はメンタルの影響をまともに受ける、非常にデリケートなものだからです。見た目の緊張は隠せても、声はウソがつけません。しかし、緊張していても、震えず、動じていないように聞こえる声を届けることは、トレーニング次第で短期間で可能です。本書でお教えするボイストレーニングを実践することで、緊張感や自分をとりまく空気に左右されない自分になることができます。声さえ変えれば人生が変わるか?では、声さえ変われば、すべて問題は解決するでしょうか?ボイトレ本やボイトレスクールでは、よく「声が変われば人生が変わる」と謳っています。こんなことを言うと同業者から怒られそうですか、これはウソだと断言できます。もともと論理的にわかりやすく話ができる人がいたとします。その人は、声がぼそぼそと小さく、こもった声しか出せなくて悩んでいます。そんな人が、声のトレーニングを経て、通る声に変わったら、伝わり方や説明する力は大幅にアップします。第一印象もよくなり、信頼度がアップして、人生に変化が起こるでしょう。しかし、論理的にわかりやすく話せない人は、いくら声がよくなっても、その声のよさが徒になります。声はいいけど、話していることは的はずれ。支離滅裂で納得できないことを、大きく通る声で話しても、その人のことを誰も信用しません。
「理屈が通っていない」と相手にしてもらえなくなります。声で信用を落としてしまい、人生は好転するどころか、暗転します。声がよくなるだけでは、人生は変わらないのです。「説明力」のある話し方伝わる声を身につけた後に必要な能力は、相手にわかりやすく話せるようになるための話し方、言い換えれば「説明力」のある話し方です。・シンプルな話なのに、複雑に伝えてしまって、理解されない・言いたいことはあるのに、どうすれば伝わるかわからない・話しているうちに、何を話したかったのかがわからなくなってしまう・相手の頭をムダに使わせ、自分もクタクタに疲れてしまうあなたは、こんな悩みをもっていませんか?この悩みは、説明力の欠如から来ています。説明力がないと、特にビジネスの場では大きな問題になります。あなた自身の評価は下がり、仕事のスピードや内容にも悪影響を及ぼすことでしょう。プレゼンが通らなかったり、何を言っているのかわからないと怪訝な顔をされたりすることを繰り返すと、どんどん自信がなくなり、自己肯定感も下がっていきます。だから声を変えた後は、説明力のある話し方を身につける必要があるのです。声と話し方が身についても、自信を持って話せない理由ここまで読んでこられた方は、声と話し方に自信がつくと、自分に自信が持て、自己肯定感がアップすると考えるようになったのではないでしょうか。しかし、期待を裏切るようで大変申し訳ありませんが、ボイストレーニングや話し方のトレーニングだけでは、自分に自信を持つことはできません。トレーナーとして、約10年にわたり、声や話し方のレッスンを行なってきて気づいたのは、声や話し方を変えることで、自分に自信が持てるようになって、やりたいことに十二分にチャレンジできるようになる人は、2割~3割。それ以外の7割~8割の方は、一時的に変わっても、また元の自信のない、相手に振り回されっぱなしの、低い自己肯定感に戻ってしまいます。ボイストレーナーとして駆け出しの頃のことです。レッスンを受講した直後は、声や話し方が変わり、目を輝かせて帰って行かれた生徒さんが、1か月後、2か月後に、元のボソボソとした声、話し方に戻ってしまっていることに気づきました。「レッスン直後はたしかに声がよく出るようになり、説明力がアップして、プレゼンもスピーチもうまくいきました。でも、状況や環境、人間関係が変わると、また元に戻ってしまうのです。とくに相手が、上の立場の人であったり、また好意を寄せている人であったりすると、心臓がドキドキしてしまって、うまく話ができなくなってしまうのです」そんな声を聞きました。せっかく芽生えた自信が萎えてしまい、上がったと思っていた自己肯定感が再び下がってしまったというわけです。そのとき私は、なぜ、声と話し方が変わって自信がついたのに、また元に戻ってしまったのか、理由がわかりませんでした……。自分を信じられなかった過去ここで、私自身の話をさせてください。私はかつて、保険会社の社員として働くかたわら、テニスのプロインストラクターとして活動し、同時にテニスプレーヤーとして試合にも出場していました。その間、いくら練習を重ねても、まったく試合で勝てない時期がありました。いわゆるスランプというやつです。きっかけは、大きくリードしてマッチポイントを握った試合で、そこから挽回されて逆転負けを喫したことでした。そのときは、相手が強かっただけ、仕方ないと思って自分を納得させました。しかし、その試合以降、いくら試合中リードしていても、いつかは追いつかれて最後は負けてしまうのではないか?という思いが、毎回湧き上がってくるようになったのです。絶好調で大差でリードして、あと1ゲームとれば、勝てる!と思った瞬間、また以前のように逆転負けするのではないかという恐怖感が襲ってくるのです。勝ちビビりといいましょうか。勝つことが怖くなるのです。いわゆるトラウマです。トラウマは、実際に身体の症状としてあらわれました。足が金縛りのように動かなくなった後、けいれんをおこすようになったのです。手の平からは大量の汗が吹き出し、タオルでいくら拭いてもグリップが滑り、ラケットが手の平からすっぽ抜け、相手コートまで飛んでいくこともありました。吐き気をもよおし、心臓の鼓動が激しくなって、このまま死んでしまうかもと恐怖感が押し寄せてきます。そんなときは、いっそ死んだほうがまだ楽なんじゃないかとさえ本気で思いました。それからというもの、こんな苦しい思いをして、どうせ最後に負けるくらいなら、全力でプレーするのはもったいない、ムダだと思うようになりました。こうして、真剣にプレーすることができなくなってしまったのです。それを見ていたチームメイトやコーチからは、「手を抜くんじゃない!やる気がないのか!」と非難を受けました。それでも、弱い自分の心を認めたくない、そんな自分になってしまった自分の内面をまわりの人たちに悟られたくないという思いから、私の心と体に起こって
いる異変を、誰にも伝えることができませんでした。自分も人も信じられない異変はコミュニケーションにおいても現れました。いくら相手とわかり合おうと努力しても、最後に相手は裏切って去って行ってしまうのではないか?それなら傷つかないために距離を置いて付き合おう。自分には価値がない。そんな自分に寄り添ってくれる人、真剣に向き合ってくれる人なんていない。そんな虚無感を常に抱えるようになったのです。恐怖との向き合い方を心理学から会得この虚無感から抜け出したい思いから、セラピーも受けました。自己啓発セミナーにたくさん参加し、心理学の本も大量に読み込みました。しかし、なかなか目に見える効果はあらわれませんでした。もしかしたら、セミナーで教えてくれることや本に書いてあることは、自分には合わないのかもしれない。だったら、自分を実験台にして自らメソッドをつくってみればいいのではないか――そう感じるようになりました。そこで、これまでに読んだ書籍やセミナー資料などを全て捨て、自ら新たなメソッドをつくり上げていったのです。数年にわたる研究の中で、長い間苦しみ続けた悩みが、これならうまく解決できるかも!と、思える方法を見つけました。それは潜在意識との関わり方を変えていくことで、トラウマと思っていた恐怖感情を消していき、自己肯定感を高めていく方法です。それを実践した効果は、まずテニスの試合にあらわれました。ずっと負け続きだったのが、あるときから急に勝てるようになったのです。あきらめていた優勝までできるようになりました。それと歩調を合わせるように、対人関係にも大きく変化があらわれました。人に対する恐怖感が消え、どんな人とでもフラットに話ができるようになったのです。このメソッドは使える!そう確信して、声と話し方のレッスンに取り入れました。「声の力」+「説明力」+「メンタルコントロール法」を活用して、ビビらず落ち着いた自分になれるこのメソッドを、私は「ハイパーボイス・パフォーマー理論」と名付けました。「声の力」+「説明力」+「メンタルコントロール法」=ハイパーボイス・パフォーマー理論であなたの人生はきっと変わる声と説明力を高めるだけではうまくいかない人たちに、ハイパーボイス・パフォーマー理論を提供したところ、変化があらわれました。・一部上場企業の役員の方が、2500人の前で堂々と話をすることができた・人を惹きつける話し方ができないと悩んでいた方が、選挙で見事当選を果たした・クライアントから「相談しにくい雰囲気を出している」と思われていた弁護士の方が、とても話しやすく親身になってくれるという評価に変わった・営業成績で伸び悩んでいた生保マンが、自信がなさそうに聞こえる声を、落ちついた低音の声に変えたところ、売り上げが2倍にアップした・管理職昇進試験に何度も落ちていた方が、面接で自信を持って話せるようになったところ、無事昇進を果たした他にもたくさんの方の変化に立ち合うことができました。私のように人知れず苦しんでいる方の力になりたいと思い、安定した保険会社の職を思い切って辞めて、声と話し方、メンタルを総合的に教えるスクールの運営に携わり、誰でもラクにあがり症や、自信のなさを改善する方法を確立しました。もともと重度のあがり症、自己肯定感が最低だった私だったからこそ、よくある話し方のテクニックだけでなく、声、説明力、メンタルを改善する「ハイパーボイス・パフォーマー理論」を伝えられると思っています。本書の読み方本書は1日で、「いい声」に加えて、「説明力のある話し方」「人前でラクに話すことができるメンタル」が身につく構成になっています。まず、PART1で、声がよくなるとどんないいことが起きるかについて知っていただきます。ここはモチベーションを高めていただくPARTなので、「既にモチベーションは高い」という方は、読み飛ばしていただいてかまいません。PART2からPART5にかけて、「いい声」になるための身体的トレーニングをお伝えしています。各トレーニングに必要な時間も載せていますので、それを目安に、順番に行なってみてください。PART6で、「説明力のある話し方」のトレーニングを厳選して紹介しています。これを身につければ、あなたの説明力は飛躍的にUPするはずです。また、スピーチなどの本番前に、このトレーニングをおさらいしておくことも効果的です。PART7は、緊張抑止トレーニングです。「人前であがりやすい」「頭が真っ白になる」という方は、ぜひやってみてください。このトレーニングも、PART6のトレーニング同様、本番前に行なうと、自信がつきます。最後のPART8は、仕上げとして、メンタルトレーニングを行なっていただきます。ここまでのPARTで身につけた「いい声」と「説明力のある話し方」を、しっかりと定着させるために絶対に必要なトレーニングです。
ぜひ最後まで気を抜かず、やってみてください。前説はここまでにしておきましょう。本書を読み終えたあなたは、声を通して今までの自分とは違う自分をきっと手に入れているはずです!
目次本書をお読みいただく前にPART1「声」のすごさを知る声はエネルギーそのもの声は〝履歴書〟「いい声」は場を支配する「いい声」になるための5つのポイント「いい声」は自信のある自分を演出するまず「明るい声」を出すコラム〝自撮り〟で声・話し方・姿勢のチェック
PART2姿勢トレーニング
超短時間で声の出し方を変えるプログラム「いい声」は、まず「姿勢」から「よい姿勢」を体に覚え込ませるトレーニング首のストレッチアゴの前出し禁止トレーニング肩甲骨ゆるトレ鎖骨ゆるトレ体全体リラックス・トレーニング
PART3滑舌トレーニング
滑舌をよくしたいなら早口言葉は不要クチビル筋トレ舌リラックス体操口・頰まわりの筋肉をほぐすトレーニング1分間300文字トレーニング母音トレ文節の頭にアクセントを置くトレーニングコラム棒読みトレーニング
PART4「よく通る声」トレーニング
声の悩みのダントツ1位相手との距離をはかるトレーニング肋骨を上げ、首を引くトレーニング声帯の筋トレ「ニャニャニャ発声法」「ソ」と「ラ」トレーニングハミング・レッスン
PART5「声量アップ」トレーニング
大きな声は積極性と安定感を演出する大きな声を出すのに腹筋は不要横隔膜マッサージ温息発声トレーニング横隔膜プッシュ・トレーニングエア風船トレーニングサイレントロングブレス・トレーニングドッグブレス・トレーニング
PART6「説明力」トレーニング
声だけでは、問題は改善しない説明力が格段にアップする「話のフォーマット」トレーニング日常でのトレーニング「間」のトレーニングコラム体を冷やさない
PART7緊張抑止トレーニング
本番前に原稿に印をつけておく講演やセミナーの前は控室にこもるなあがりカミングアウト目を合わせるのが苦手な人向けのメソッド「え~」「あのぉ〜」抑止法本番中の原稿チェック法緊張感を高揚感に結びつけるコラムシンプル丹田呼吸法
PART8メンタルトレーニング
声は心、心は声潜在意識の力を上手に活用する感情に振り回されないため息デトックス「心の毒」セルフチェック「声」と「言葉のクセ」で相手の本心を読み取る自分の声を好きになる方法声は表情で大きく変わるコラム声日記ボイストレーニングのキーワードは、「〝もう一度会いたい〟と言われる人になる」――あとがきに代えて
PART1「声」のすごさを知る声の威力を知っていただくためのパートです。時間がない方は、読み飛ばしていただいてかまいません。トレーニングは、PART2から始まります。
声はエネルギーそのものあなたは今、仕事はうまくいっているでしょうか?交渉や商談、プレゼンで高い成功確率を上げているでしょうか?仕事で困ったときに協力してくれる人はいるでしょうか?あなたが上司なら、部下のマネジメントはしっかりできているでしょうか?これらの問いに対して、「NO」の答えしか浮かばないとしたら、あるいは「いやぁ、何とも言えないな」と自信が持てないようだったら、その原因は十中八九、あなたの「声」にあると断言できます。話す内容はしっかりと吟味した。相手への気遣いも忘れないようにしている。にもかかわらず、うまくいかないというなら、それは、あなたの仕事スキルが低いわけでも、話し方や話の内容に難があるわけでもありません。あなたの、その声が問題なのです。口の中に音がこもって、モゴモゴ聞こえる「声」。口をあまり開けずにボソボソとしゃべる、小さくて響かない「声」。ノドを締めつけてガンガン怒鳴るようにしゃべる、大きいけれどかすれた「声」。早口でまくしたてるようにしゃべる、キンキンした高い「声」。滑舌が悪く、一語一語が不明瞭で消え入りそうな、か細い「声」。そういった「声」では、どんなに素晴らしいことを言っても、相手に伝わりません。相手はあなたの話を聞くことに疲れて心を閉ざしてしまうか、不快感を覚えるか、意図が伝わらず適当に流されるか……。いずれにせよ、コミュニケーションに支障を来すはずです。私のレッスンには、仕事上の様々な悩みを抱えた、リーダーの立場にある方が多く来られます。みなさん上昇志向が強く、向上心も旺盛。話し方、自己啓発、交渉術、営業クロージングなどのセミナーにも積極的に参加され、自己研鑽を怠らない方々ばかりです。そんな優秀なリーダーたちが、なぜ私のレッスンに訪れるかというと、みなさん、頑張ってもうまくいかない原因が、自分の「声」にあるのではないかということにうすうす気づいているからです。「部下が指示通りに動いてくれません。どうも私の意図が正しく伝わっていないようです」「声をからして号令をかけているのに、こちらの気持ちがわかっているのか、いないのか、部下の反応がとても鈍いんです」「何を言っても、どこ吹く風みたいな感じで、何だかナメられているような気がします」「十分丁寧に説明しているのに、意思の疎通がうまくいかなくて、揉め事ばかり起きるんです」受講生の方は、そんな悩みを打ち明けてくれます。でも実は、これらはすべて、自分の気持ちが「声」にのって伝わらないことに原因があるんですね。声とは意志力の表れであり、エネルギーそのものです。声がよくないと、意志力や本気度が欠如していると相手には受け取られてしまうのです。ここに気づくことが、「いい声」を出す第一歩です。「人前で話すのは苦手」という人のなかには、「話し方」「コミュニケーション」「交渉術」などに関する本を何冊も読んできたという方がいるでしょう。それらを読むのは悪いことではありません。話し方のコツをつかむには効果的です。ただ、何冊読んだところで根本的な問題は解決しません。というのも、そこに載っているノウハウは、「声」がしっかり出ていることを前提に書かれたものだからです。「話し方」だけ学んでも、肝心の「声」がしっかり出なければ、学習効果は期待できません。それらの本はいったん脇に置き、まず「声」の出し方を学ぶことが大切です。声がしっかり出るようになれば、あれこれ言葉を尽くさなくても、人の心は動くものです。部下の機嫌をとらなくても、あなたの指示通りに動いて結果を出してくれる。商談で卑屈に頭を下げなくても、相手から「ぜひ買いたい」「ぜひあなたと取引がしたい」と思われる。社内で一目置かれる存在となり、随所で影響力を発揮することができる。声の出し方ひとつで、多くの人の心をつかむことができるということを、まずはしっかり理解してください。
声は〝履歴書〟あなたが今、発しているその「声」は、良きにつけ悪しきにつけ、これまで生きてきたなかで出来上がったものです。人生で経験した様々なこと、置かれた環境、人間関係、性格、体調など、たくさんの要素が絡み合って、「声」の個性をつくりあげます。過去何万回と発してきた声のデータの中から、そのときそのときに必要な声を脳が選択して、表現しているのです。私はレッスンの前に、決まって受講生の方にこんな質問を投げかけます。「いつから、常に聞き返されるほど小さな声になったのですか?」「いつから、語尾をはっきり言わなくなったのですか?」「いつから、そういう怒鳴るような大声になったのですか?」「いつから、つっかえ、つっかえ、しゃべるようになったのですか?」「何がきっかけになったのか、思い当たることはないですか?」声について深く考えたことのある人は少ないのでしょう、ほとんどの方は戸惑いの表情を浮かべます。それでも、しばらくすると「そういえば、幼い頃はふつうに声が出ていました」と言いながら、思い出したように話し始めます。たとえば……。「中学生の頃にいじめに遭いました。私は自分の意見をはっきり言うタイプだったんですが、それがクラスメートの反感を買ってしまったんです。そのときくらいからですね、発言を控えるようになったのは。それにつれて、声も小さくなったような気がします」「子どもの頃、両親がいつも大声で怒鳴り合いをしていて、ずいぶんイヤな思いをしました。そのため〝大きな声は人を傷つける〟ということが刷り込まれたのかもしれません。知らず知らずのうちに、相手を怖がらせてはいけないと、ボソボソ声でしゃべることが習慣になりました」「きょうだいが多いので、食事のときも、遊ぶときも、大きな声で主張しないと、言い分を聞いてもらえませんでした。それが原因なのか、大人になってもつい大声になりがちで、人を威圧するような話し方になってしまったのかもしれません」「親や先生に叱られたとき、消え入るような声で話したほうが反省しているように思われて、その場が丸くおさまることを学びました。今も仕事でクレームを受けたりするときは、相手が聞き返すくらいの声で対応しています。そうすると、相手が『言いすぎたかな』と矛をおさめてくれることが多いんですよ」このように、子どもの頃の経験というのは、後々まで「声」に影響を及ぼすことが多いのです。しかし、それはすでに過去のこと。その事実を変えることはできませんが、これを糧として、今どういう声になりたいかということにフォーカスしましょう。ここで大切なのは、なりたい声がどういう声なのかという「ゴール」を決めることです。ゴールと聞くと、「声が小さいので、大きな声が出せるようになりたい」「聞き返されたくない」「緊張せずに話せるようになりたい」など、目の前の障害を取り除くことを第一に考える人が多いのですが、果たして、それが本当のゴールなのでしょうか。ここで、「本当のところ自分はどうなりたいのか?」と自問してください。「なぜ、大きな声で話せるようになりたいのか?」「大きな声で話せることで得られることは?」「最終的にどうなりたい?」自分が理想とする声になりたい、その理由を突きつめて考えることで、ようやく真のゴールが見えてくるのです。「自信にあふれ、堂々とした自分になりたい」「プレゼンを次々と成功させ、収入をアップさせて、将来的には起業したい」「お客様に愛され、従業員に愛される会社のオーナーとして活躍したい」こんなふうに、最終的にどうなりたいかという、理想の自分をリアルに思い描いてほしいのです。そうすれば、声が変わるだけでなく、本当に自分がやりたいこと、成し遂げたいことを、声を手段に実現する自分になれるのです。
「いい声」は場を支配する声が大きいヤツは得だな。結局声が大きいヤツが勝つ。たいしたこと言っていないのに、声が大きいから自信があるように見える。――こんなことを感じたことはありませんか?アメリカのデイトン大学のチャールズ・キンブル博士が行なった実験です。男女100人の被験者に対し、選択式の質問をして、答えを言うときの声の音量を測定しました。その結果、質問に対しての答えに自信がない場合の声の音量は平均58・47デシベル、自信がある場合の声の音量は平均61・84デシベルとなりました。自信があるときは、無意識に大きな声ではっきりと伝えることができ、自信がないときは、小さくボソボソとした声になってしまうという結果が出たわけです。この実験結果を見て、みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか?かつての私は「つぶやき君」「ささやき君」というあだ名がついていたほどの小さな声で、声が大きい人に対してコンプレックスを持っていました。「えっ?よく聞き取れなかったのですが」「すみません、もう少し大きな声で話していただけますか?」「言いたいことがあるなら、もっとはっきり言ってもらえますか?」「ごめんなさい、あなたが何を言いたいのか、よくわからないんですが」相手にそう言われると、「何か、まずいことを言っただろうか?」と暗い気持ちになりました。単に聞こえなかっただけなのに、自分の発言内容が疑問視されたように受け止めてしまったわけです。相手にそう言われると、人によっては「いえ、何でもありません」などと発言を引っ込めてしまったり、「否定されている」と受け取って相手に議論を挑んで大きく声を張り上げてしまったり、ということもあるでしょう。あるいは、最初の一声だけ大きくして、でもだんだん尻すぼみになり、前にも増して弱々しい声になってしまう人もいるでしょう。こんなふうに、いかにも自信なさげにしゃべったり、嚙みながら滑舌悪く話すことを繰り返すと、相手につけ入るスキを与えることになります。自分のほうが強いと判断すると、「よし、やっつけてやれ」と攻撃的になる人っていますよね。はっきりとした口調で話せば、相手と摩擦が起きるかもしれない、断定的な話し方をすると、自分に責任を押しつけられるのではないだろうか……。そんな危惧から無意識に、小さい声で、モゴモゴした話し方になっている人もいます。しかし、これでは逆効果。自分から、「どうぞ、突っ込んでください」「どうぞ、反論してください」とお願いしているのも同然だからです。こういう場合、自分の発言に対して相手がどう思うか、異を唱えるのではないか、といった心配はしないことです。その上で、「自分は何を伝えたいのか」ということに集中するのです。このとき、少し低め、かつ大きめ、そしてゆっくりとした「声」を出すことがポイントです。伝えたいことが「声」にのって、明瞭に話すことができます。たったそれだけのことで、相手は〝戦意〟をそがれるのです。対等の立場で会話や議論をする条件が整うからです。もし、うっかりボソボソと話してしまい、聞き返されたとしても、あわてることはありません。単に相手へ声を届ける距離感を誤っただけです。「声」の出し方がよくなかっただけなので、仕切り直せばいいのです。しっかりと相手に向かって言葉を届けることに注意を向けます。話す内容を変えたり、自分の意見を引っ込めたりする必要はまったくありません。一呼吸おいて、本書で学ぶ「発声法」で話してみてください。不利な状態に傾きかけていた空気を押し返し、自分のペースで有利に話を進めることができます。以前、社会派として知られるある弁護士さんが、記者会見などでよく記者に突っ込まれてタジタジになることに悩み、レッスンに来られました。彼は、専門用語を多用し、機関銃のように早口でまくしたてるクセがありました。そのため、聞く人から反感を持たれ、逆に記者から厳しい質問をされることが多かったと言います。私は彼が話す様子を録画し、それを一緒に見ながら現状を理解してもらったうえで、「凜とした落ち着きのある声」が出るように指導しました。そして、「専門用語はかみくだいて表現する」「一語一語をはっきりと発音してゆっくりと話す」訓練を行ないました。
それ以来、厳しい質問は減ったと言います。声を変えて落ち着いて話せるようになってからは、どんなに厳しい質問を受けても、たじろぐことなく堂々と話せるようになりました。「落ち着いて話せるようになったことで、クライアントからも信頼されるようになりました」とうれしい報告もいただきました。
「いい声」になるための5つのポイントある市役所の広報課に勤める30代の女性がレッスンに来られました。ラジオで20分間、イベントのPRをすることになったのですが、もともとあがり症の彼女は、人前に出るとたびたび頭が真っ白になってパニック状態に陥ってしまったと言います。「こんなことでは、ラジオでうまく話せない。二度とこういう仕事を任せてもらえない」それが、私のレッスンを訪れた理由でした。私は彼女に「声」の出し方と同時に、本番でどんなことに気をつけて話したらいいかを助言しました。具体的には「いい声」になるための5つのポイントを意識し、原稿のどの部分をどのような声で表現したらいいかをお教えしたのです。「いい声」になるための5つのポイントとは、1.音量コントロール2.スピードコントロール3.高低コントロール4.間コントロール5.声色コントロールです。(これらについては、本書のなかでくわしく説明していきます)右の5つに気をつけてトレーニングをしてもらった結果、ラジオでのPRトークはうまくいき、イベントの集客数が前年より格段にアップしました。「来客数が前年の1・5倍に増えました」と、とても喜んでいました。広報の仕事は、自分たちが取り組んでいることをメディアに魅力的に伝えることが大事です。そのためにも、「いい声」が出るか出ないかが勝負の分かれ目、と言ってもいいでしょう。彼女のように、「いい声」を獲得すれば、それだけ仕事の幅を広げていくことも可能になるのです。
「いい声」は自信のある自分を演出する部下への指示でも、会議での議論でも、営業の場でも、「いい声」で話すと、堂々として見えます。「自分の意見や考えに自信がある」という印象を相手に与えるからです。ここで誤解してほしくないのは、「堂々とした態度が堂々とした声をつくるのではない」ということです。事実はその逆で、「堂々とした声が、堂々とした態度をつくる」のです。その意味で、いい声はあなたの「印象」に大きな影響を与えるといえます。声がいい声に変われば、態度が自然に堂々としたものに変わり、メンタルも安定してきます。そのため、反対意見や意地悪な突っ込みに対しても、感情的に声を荒らげたり、ムキになって反論するといった、見苦しい反応が避けられます。相手の言葉をしっかり受け止め、反論すべきときは反論し、受け入れるべきときは受け入れる。こうして、建設的で前向きな議論が進んでいくのです。質問という形で突っ込まれても、わからないことははっきり「わかりません。調べて、後ほどお答えします」と言えばすむこと。そのときの声がいい声であれば、あなたのなかに、落ち着いて的確に答えていくだけの強さと余裕が生まれます。自分の意見を押し通すにせよ、異なる意見どうしをぶつけ合いながら妥協点を探すにせよ、堂々とやり合ったほうが、お互いに気持ちよく議論を進められるものです。そのやりとりに必須の要素が「いい声」なのです。
まず「明るい声」を出す医学的に、「声」は生まれつきのもので変わらないといわれます。それは、半分は正しいのですが、しかし半分は間違っていると言えます。たしかに声を変えることはできません。しかし、「今の声と違う声」を手に入れることはできます。それは、「声を変える」というより、「本来の声を取り戻す」と言ったほうが近いかもしれません。きちんとトレーニングをすれば、自分の「声」が本来持つ個性を伸ばしながら、いい声を獲得することが可能なのです。今、みなさんが認識している自分の「声」は、実は環境によってつくられたものです。「声」にコンプレックスのある方は、「生まれつきだからしかたがない」とあきらめ、その「声」を出し続けます。結果、「声」なりの性格が形成されていくのです。「小さい声」の人は、おとなしい性格になっていく。「こもる声」の人は、無口ではっきりものを言えない性格になっていく。「ダミ声」の人は、怒りっぽい性格になっていく。「カン高い声」の人は、高圧的な性格になっていく。「太く低い声」の人は、頑固な性格になっていく。「浮ついた声」の人は、落ちつきのない軽い性格になっていく。これらは、みな「よくない」声です。「声」のコンプレックスがそのまま性格に反映されてしまうのです。性格は個性とも言えますから、ネガティブなものも含めてすべてを否定するわけではありませんが、誰もが共通して身につけたい資質は、やはり「明るい性格」ではないでしょうか。性格そのものを変えるのは難しいとしても、せめて他人には明るい印象を与えたいものです。それには、まず「声」から明るくしていかなくてはいけません。「明るい声」が「明るい外見」をつくり、その外見の明るさがまた「声」の明るさにつながっていく……。そんな好循環をつくることができるのです。本書では、明るく通る声が出せるようになるトレーニング法も紹介しています。大手の製造業で労働組合の委員をつとめ、組織を束ねるFさん(男性30代)は、労使交渉の場で堂々と自信をもって話せるようになりたいと、レッスンを受講されました。Fさんはボソボソ声で感情表現が苦手なタイプで、気持ちをうまく表現できず、離婚も経験しました。しかし、トレーニングを通じて、印象がガラリと変わりました。明るく朗々と通る声で話せるようになり、労使交渉もうまくいくようになりました。プライベートでも良縁にめぐまれ、最愛のパートナーが見つかったと、うれしい報告をいただきました。
コラム〝〟自分がふだんどんな表情で話をしているのか、どんな目の動きをしているのかを、事前にセルフチェックしておくと、本番でよりよい話し方につながります。今はスマホという便利なツールがあるので、その自撮り機能を使えば、打ち合わせや雑談の場面を簡単に録画できます。最初はカメラを意識するかもしれませんが、5分もすれば、カメラの存在を忘れてしまいます。そのときの自分の声・話し方・姿勢・視線などを、後で再生・チェックしてみるのです。私もときどきやっていますが、自分がどんな表情のときにどんな「声」を出しているかがよくわかります。大切なのは、主観と客観のギャップを知ること。自分では笑顔で話しているつもりでも表情がこわばっていたり、大きい声で話しているつもりでも小声になっていたりなど、たくさんの「気づき」を得られるはずです。私のレッスンでは、必ず録音と録画を行ない、この主観と客観とのギャップを知っていただいた上で、レッスンのなかで、その差を埋めていくようにしています。不思議なことに、最初は自分が話す姿を見るのに抵抗がある人でも、その結果、声や話し方や姿勢が改善すると、次からは積極的に自分の姿を録画するようになり、さらなる改善に意欲を見せ始めるのです。
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