エピソードでわかる「100点のほめ方」
いよいよ実践に移ります。さまざまなケースを想定して、6通りの「レベルアップストーリー」を用意しました。
【アクション1】関係性の土台をつくる……関係改善を図り、きちんと話を聞くことで、相手が「この人にほめられたい」と思える土台をつくる
【アクション2】「ほめポイント」を見つける……「マジック質問」で、相手が本当にほめてほしいポイントを探す
【アクション3】100点ほめ……生き方すべてを肯定し、ほめる
第2章でお伝えした「3つのアクション」に沿って、「100点のほめ方」をご紹介します。
事例1:取引先との商談
わたしの会社と取引先A社の話です。A社は、海外に本社を置くファッションブランドです。洗練されたライフスタイルと一緒にファッションを打ち出し、20~30代女性に大変人気があります。
店舗内に雑貨スペースやカフェを併設し、全国各地へ積極的に出店しようとしているところでした。わたしの著書を読んだA社の人事部長から、研修に興味があると問い合わせがあり、営業担当が出向きました。
ところが、うまくニーズを引き出すことができません。弊社のアピールをするばかりで、逆に不信感を抱かれてしまいました。
窓口になっていた人事担当者Uさんは、「本当にこの会社に任せて、大丈夫なの?契約を考えていたけど、いったん白紙に戻したほうがいいかもしれない」と、疑心暗鬼になっています。
そこで、わたしが別の営業担当を連れて、一緒に訪問することになったのです。
―アクション1:関係性の土台をつくる
ここからは、わたしと取引先の担当者Uさんの会話を交えながら解説します。まずは関係性を築くための第一歩として、期待に応えられていなかったことを謝り、一から聞く姿勢を示しました。
原「せっかく興味を持っていただき、時間をいただいたにもかかわらず、前の担当者が課題をヒアリングできずに申し訳ございませんでした。今日はわたしがしっかりヒアリングしますので、ご安心ください。お時間いただき、ありがとうございます」
そして、「どんなことで悩んでいるのか」「そもそも、いまどういう状況なのか」をきちんと聞くことから始めました。
原「前回と重複する部分があるかもしれませんが、改めて貴社の課題をお伺いしてもよろしいでしょうか?」U「当社はいま出店ラッシュで、今年はあと6店舗オープンする予定です。
ところが人材育成が追いつかず、特に店長クラスが十分に育っていません。
店長に各店舗のスタッフの教育を任せたいのですが、十分な教育ができておらず、店舗の接客レベルが落ちてしまっている状態です。
いま、ブランドに大きな注目が集まり、たくさんのお客様にお越しいただいているのですが、お客様に満足いただける接客ができていないんです」ここからは、「オウム返し」や「おっしゃる通りです」といった共感の言葉をはさみながら、内容を深掘りしていきます。
原「今年だけで6店舗オープンですか。それは大変ですね。新店舗をどんどん出すと、確かに人材の確保、そして教育も大変だと思います。人材研修はたくさんあるなか、当社の研修に興味を持った理由は何でしょうか?」
U「うちのマネジメント層はどうも、『ほめる』ことが苦手なんです。毎月、営業会議を行っているのですが、営業部長が特に厳しくて……。成果を出せずに伸び悩んでいる若手を『やる気がないのか!』と怒鳴るんです。でも、いまの若者はそんな言い方ではかえって萎縮しますし、実際にやる気を失っているスタッフもいて」
原「おっしゃる通りです。若者の多くは叱られることに慣れていません。叱ってばかりだと、きっと退職者も出てくるでしょう。営業部長さんは、いつも営業会議で怒鳴っていらっしゃるのですか?」
U「そうですね、毎回のように怒っています。先日は30分もの間、名指しでずっと部下を叱咤していました。怒られた本人はもちろんのこと、周りのスタッフもすっかりモチベーションが下がって、『もう辞めたい』と言う人も出てきています」
相手がいま直面している課題や問題について、十分に引き出すことができました。Uさんも、「この人は、わたしの話をきちんと聞いてくれるな」と感じています。
―アクション2:「ほめポイント」を見つける
このアクションでは、会社についての話題はいったん置いておいて、個人的なことに踏み込むためにマジック質問を投げかけます。
個人的な話を通してコミュニケーションをとることで、関係が深まり、仕事がより円滑に進むようになるからです。
【マジック質問】
- ①好きなことは?
- ②継続していることは?
- ③何を大切にしている?
まずは、「①好きなことは?」を質問します。
原「Uさんは、仕事に対してすごく前向きに取り組んでおられるように感じます。
この仕事はやり甲斐があるなとか、好きだなと思うことはなんですか?」U「わたしの好きなこと……そうですね、やはり洋服です。特に、当社のブランドの洋服が大好きなんです。バッグもいくつ持っていても、つい買ってしまいます」
原「それなら、まさに『好きなことを仕事にした』のですね。世の中で、好きなことを仕事につなげられる人は少ないですから、本当に素晴らしいですね」
ファッションが好きと答えたUさんでしたが、わたし自身はあいにく、ファッションにはあまり詳しくありません。
無理にファッションの話をするのではなく、「好きなことを仕事にする」という切り口で、あいづちを打ちました。
次は、「②継続していることは?」を質問します。
原「Uさんは、何か継続していることはありますか?」U「この仕事自体、始めてもう15年経ちます。
人事畑でずっと働いてきて、採用基準はもちろん、人事考課制度や表彰制度なども、すべて一から構築してきました」原「すごいですね!採用や人事考課などは、まさに経営の根幹を成します。
急成長している組織をまとめ、新しい人を採用しながら、教育していく……、想像もつかないぐらい大変なことだと思います」強い共感を示し、次のように質問を重ねました。
原「ところで人事部門は、どのような体制なんですか?」U「実は、わたしともうひとりの2人体制なんです」「実は」というワードは、相手の本音を示します。
このワードが引き出せたタイミングを、【アクション1】関係性の土台をつくると【アクション2】ほめポイントを見つけるが達成された目安としてみてください。
―アクション3:100点ほめそこでわたしは、Uさんが「実は……」と打ち明けてくれたことに、「100点のほめ方」で返しました。
原「えっ、2人体制なんですか?御社の規模をその体制で回すなんて、なかなかできることではありませんよ。どうやってタイムマネジメントされているのか、本当に不思議です。よく2人で、急成長するブランドの人事を支えていらっしゃいますね。
それだけ膨大な仕事量をこなしていて、その大変さを周りに見せないですもんね。まさに、プロの仕事です。本当にすごいです。
企業経営の〝肝〟である人事を15年以上続けてこられ、いろいろなご苦労を乗り越えてきた〝芯〟がUさんにはありますね。
その芯は、Uさんの〝生き方〟そのもののような気がします。
会話の節々に、『少しでも成長してほしい』という愛と情熱を感じます」相手が取り組んできたことを認め、すべてを肯定する気持ちで、「100点のほめ方」を伝えます。するとUさんは本当に嬉しそうに、こう答えてくれました。
U「わかってもらえます?そうなんですよ、本当に大変で。しかも、もうひとりのスタッフはまだ実務を始めて間もないので、なかなか全部任せるわけにもいかなくて。でも、原さんにほめてもらったから、当分頑張れますよ」
Uさんは少し恥ずかしそうに、でも誇らしげに、笑みを浮かべていました。
結果的にこの取引先からは正式に発注を受け、マネジメント層と全社員に対するセミナーを開催することとなりました。
セミナーももちろん大成功。この会社のブランドは人気を集め、全国で10店舗以上に展開しています。
―100点のほめ方のポイント
- まずは関係性を築くための第一歩として、一から話聞く姿勢を示す
- 「どんなことで悩んでいるのか」「そもそも、いまどういう状況なのか」をきちんと聞く
- 共感の言葉をはさみながら、内容を深掘りする
- 個人的なことに踏みこむためにマジック質問を投げかける
- まずは、「①好きなことは?」を質問し、次に「②継続していることは?」を聞く
- 「実は」というワードは、相手の本音を示すので聞き漏らさないようにする
- 仕事の大変さに共感するだけでなく、その根底にある「信念」や「生き方」をすべて肯定するほめ言葉を伝える
事例2:部下とのやりとり
わたしと部下とのストーリーです。Yさんは、わたしの秘書として入社しました。最初はお互いにギクシャクした関係。
わたしはYさんに、「これ、やっといて」「あれ、どうなってた?」と、矢継ぎ早に淡々と、指示や質問を繰り返すばかり。
YさんはYさんで、「はい、わかりました」と返事はするものの、表情はどこか不服そう。わたしも不信感を持っていましたが、出張が多いために直接話をする機会も少なく、コミュニケーションはすれ違ったままでした。
―アクション1:関係性の土台をつくる
ここからは、わたしと秘書Yさんの会話を交えながら解説します。Yさんはわたしに不信感を抱いている状態ですから、まずはもつれた糸をほぐすことが重要です。
ここでのポイントは、自分の悪い点を心から謝りつつ、「働きやすい環境を一緒につくっていきたい」という思いを伝えることです。
原「入社して間もないから、わからないことも多いと思う。わたしはこまめに教えるのが苦手なので、仕事も進めにくかっただろう。悪かったこれからもっと働きやすい環境を一緒につくっていきたいから、気づいたことを指摘してくれないかな?」
わたし自身が直すべき点は直す、だからYさんにも歩み寄ってもらいたい……その気持ちを「一緒に」という言葉で表現したのです。
するとYさんは、こう答えました。
Y「せっかく入社させてもらったので、頑張りたい気持ちはあるんですけど、原さんの口調や態度を見ていると、わたしのことを信用していないのではと思ってしまうんです。
だから、悲しくなるしやる気も出なくて……。
しかも、仕事に取りかかろうとすると、『そっちより、あっち優先して』とか、言うこともコロコロ変わるし。
そういうの、なんとかしてほしいです」わたしは、「思いつくままに仕事を頼み、振り回していたんだ。
悪いことをした」「自分の考えている以上に、気分が態度にも出てしまっていたんだな」と心底反省しました。
そして、Yさんとの関係性を良くするためには、自分自身の働き方を見直すことが必要だと判断したのです。
まず行ったのは、業務の棚卸しです。
どの業務を切り出してYさんに秘書業務としてお願いするのか、きちんと整理しました。
次に行ったのが、わたしの予定の共有です。
わたしがどんなタイムスケジュールで動いているのか、仕事もプライベートの予定もすべてオープンにし、クラウドのカレンダー機能で共有することにしました。
そして、Yさんに対してお願いしたいことを、箇条書きのリストにして毎日メッセージで送ることにしました。
「毎日、『やるべきリスト/やったことリスト』を更新して、わからなかったことや、つまづいたことはなんでも教えてほしい」と、伝えました。
Yさんからは言い出しにくいことを、毎日のルーティンに取り入れて、気兼ねなく伝えられるような仕組みにしようと考えたのです。
しかも、Yさんが手間取ってなかなか仕事が進んでいなくても、「教えてくれて、ありがとう」「正直に報告してくれて、ありがとう」このように、必ず「ありがとう」の言葉を添えることにしました。
すると、始業時間と終業時間に「やるべきリスト/やったことリスト」が送られてくるだけでなく、ちょっとした疑問があればすぐに「フェイスブックメッセンジャー」で質問が飛んでくるようになりました。
「さっき、メールの返信をやっておいて、とおっしゃっていましたけど、昨日頼まれたセミナー準備もまだ手をつけてないんです。
どっちの優先順位が高いですか?」「先ほどお客様から電話があってこのように伝えられたんですけど、どうすればいいですか?」といった質問です。
その都度、丁寧に回答をしているうち、1日平均で20通前後はメッセージをやりとりするようになりました。
もちろんお互いに意見を交換しやすくなりましたし、仕事の合間にくだらない笑い話をするようになりました。
気づけば、プライベートな話題も共有できるようになったのです。
―アクション2:「ほめポイント」を見つけるある日、わたしはYさんにマジック質問をしました。
原「Yさんの好きなことって、何なん?」そう、①の質問です。
するとYさんはこう答えました。
Y「わたし、ミスチル(Mr.Children)が好きなんです。
ライブにもよく行ってたんですけど、最近はチケットも取れないし、忙しいからなかなか行けなくて」原「ミスチルが好きなんや。
僕は山崎まさよしが好きで、ライブに行くと、ホンマ力をもらえるよね。
だから、Yさんも遠慮しないで、チケットが取れたらライブに行ってきてな。
いま、Yさんに任せてるのは、もともと僕がやってた業務やから、めっちゃ大変なのはわかる。
でも最近、スケジュール管理もしっかりしてくれるし、出張の手配に研修資料の作成……僕の考えている以上に頑張ってくれているよ。
本当にありがとう。
だから、プライベートの時間もしっかり取れるよう、僕もフォローするし、ミスチルのライブのチケットが当たったら、ぜひ行ってきてね」すると、Yさんの顔はみるみるほころんで、こう話してくれました。
Y「実は、ちょうど来週からチケット予約が始まるところで、悩んでたんです。
ライブが当たったら、きっとその日は会社を早退させてもらわないと、開演時刻に間に合わなさそうなので、原さんにお願いしようか、でも最近忙しそうだからな……と遠慮していて。
そうおっしゃってくださって、本当にありがたいです」そう言って、心から喜んでいました。
ここでのポイントは、相手の好きなことを尊重しながら、「話題を少しズラしてみる」ことで、自分との共通点(=ライブが好き)をつくったことです。
そして、相手の頑張りを認めながら、「相手が相談したいこと、希望」を先回りで想像して、その気持ちを後押しする言葉をかけたのです。
―アクション3:100点ほめここまできたら、アクション3の「100点ほめ」を毎日のルーティンに取り入れるだけです。
Yさんは秘書業務に慣れてきたこともあって、日々やりとりする「やるべきリスト/やったことリスト」の項目がどんどん増えてきました。
わたしに対するメッセージも、「AとBなら、Aのほうが優先順位も高いと思うので、こっちをやっておきますね」と、これまでの経験を踏まえて自ら判断できるようになり、仕事の処理能力も飛躍的に伸びていきました。
わたしは、そんなYさんの仕事をいつも100点ほめしています。
原「えっ、今日だけでこんなにタスクをこなせたの?僕自身もやってたからわかるけど、すごい。
いつも本当にありがとう。
Yさんが頑張ってくれてるから、僕は講演やコンサルティングに集中できているよ。いつも、Yさんの存在に支えられてる。
前から言おうと思っていたけれど、
Yさんの誠実さやきっちり作業を最後までやり切る姿勢は、ご両親をはじめ育ってきた環境が良かったのだと思うし、社会人になってからもいろいろな種類の仕事をして、そのときそのときにしっかり経験してきたことが、いま生きているよね。でも、根をつめすぎず、たまにはちゃんと休んでね」と、感情をこめて本心でほめ、頑張りすぎる傾向があるので注意することも忘れませんでした。
いまでは、わたしの仕事をサポートしてくれるだけでなく、会社の今後を見据えたうえで採用戦略を相談したり、新たに提供するプログラムの考案にも関わってくれたりするようになりました。
そしてYさんは、わたし以上に相手の気持ちを先回りで想像し、言葉をかけられるほど、頼もしく成長しました。
わたしが早朝、始発の新幹線で移動して、9時の始業時間に電話をかけたときです。
「社長、今日は朝から移動でしたよね。お疲れさまです。お変わりないですか?」こう声をかけてくれたときには、思わず胸が熱くなってしまいました。
わたしも、「さすがにちょっと疲れ気味やわ。ありがとう。Yさんも、休憩はしっかりとってな。後ほど、電話で資料の確認をしましょう。今日もよろしく!」と、少し弱音を吐けるほど、お互いに思いやり、本音で話し合えるような関係性を築くことができたのです。
―100点のほめ方のポイント・自分の悪い点を心から謝りつつ、ビジョンやタスクを共有する・提案するときは、「一緒に」ということを強調する・関係性の土台をつくるために、「ありがとう」を常に伝えるようにする・相手の「好きなこと」から、自分との「共通点」を探す・相手の頑張りを認めながら、「相手が相談したいこと、希望」を先回りで想像して、その気持ちを後押しする言葉をかける・100点ほめでは、ほめたことに対して、その人のおかげで自分がどう助かっているかも伝え、生き方をすべて肯定し、大切にしている家族との関係もそっとほめる
事例3:友だちから恋人へ昇格
恋愛にまつわるエピソードです。
JくんとTさんは大学の同級生です。
ボランティアサークルの新入生歓迎会で、たまたま近くの席に座ったふたり。
Jくんは、「Tさんと話せて面白かった!話も盛り上がったし、一緒にいると楽しいな」と、Tさんに好意を持ちました。
ところがTさんにLINEでメッセージを送っても、返信は素っ気なく、既読にならないこともしばしば。
なかなか距離を縮めることはできませんでした。
サークルの定例ミーティングで集まったときのことです。
その日、Tさんは欠席。
そこでJくんは、Tさんと仲の良いMさんに、思いきって聞いてみました。
「今日、Tさん休みだけど、どうかした?たまにLINE送るんだけど、あまり返事が返ってこなくて……」するとMさんは少し呆れた顔で言いました。
「こないだの新歓でTさんがウンザリしてたの、気づかなかった?Jくん、ずっと自分のことばかり話してたじゃん!」Jくんは大きくショックを受けました。
てっきり歓迎会では楽しく会話ができたと思っていたからです……。
―アクション1:関係性の土台をつくるここからは、JくんとTさんの会話を交えながら解説しますまずJくんは、Tさんに次のようにメッセージを送ることにしました。
J「今日、サークルに来なかったんだね。
最近、忙しそうだけど大丈夫?そういえば、こないだの新歓のときは、ごめんね。
なんか、僕ばかりベラベラ話しちゃって。
今度またTさんと話ができたらいいな」しばらくして、Tさんからメッセージが返ってきました。
T「Mさんから何か聞いた?あんまり気にしてないよ。
またサークルでね」Jくんはひと安心です。
そして関係性の土台をつくるために、相手のことを知ろうと考えました。
メッセージを送るときには、なるべく質問もするようにしたのです。
J「第2外国語でフランス語とってるんだけど、難しくて落としそう。
Tさんはどの言語を選択してる?」J「教養科目でもっと面白い講義ないかなぁと思って。
Tさんのオススメは何かある?」J「最近、バイトが忙しくて。
Tさんは大丈夫?」するとTさんからは、T「わたしは中国語。
英語と同じ文法だから、比較的わかりやすいよ」T「比較文化学論は世界のいろんな国のスライドを見れて、面白いと思う」T「大丈夫。
ありがとう」などと返信が返ってくるようになりました。
質問のポイントは、答えやすそうな質問にすること。
なるべく相手が迷わず返事できるような質問をしました。
同時に、「自分はこんな人です」ということがわかる情報を少しずつ小出しにしていきました。
すると……、T「フランスに興味あるんだ。
行ったことある?」T「バイト頑張って」
などと、Tさんからも質問が返ってくるようになったのです。
―アクション2:「ほめポイント」を見つけるあるとき、大学のカフェテリアに立ち寄ったJくん。
Mさんと一緒にいるTさんを見つけました。
思いきって「一緒に昼食を食べない?」と誘ったところ、Mさんと一緒だったからか、Tさんも難なくOKしてくれました。
ここからは、マジック質問です。
J「ボランティアに興味を持って、好きになったきっかけって、なんだったの?」「①好きなことは?」をアレンジして、ふたりの共通点であるボランティアについて深掘りすることにしました。
お互いに共通点のある話題のほうが、深い会話をしやすいからです。
Mさんが答えた後、Tさんはこう答えました。
T「お父さんも大学時代にボランティアをしてて、子どもの頃からよく話を聞いてたんだよね。
高校時代にも生徒会活動でボランティアしてたし、もっとできることがあるんじゃないかな、って大学に入って思ったんだ」それに対してJくんは、感想を伝え、「②継続していることは?」をアレンジした質問を重ねました。
J「へぇ、お父さんもやってたんだ。
しかもそれを子どもの頃から伝えてくれるなんて、すごくステキなお父さんだね。
じゃあ、かなりボランティア活動を続けてきたんだね。
どういうモチベーションで続けてきたの?」するとTさんは、さらに自分のことを話してくれました。
T「ずっと、子どもたちに関わって、何か世の中のためになることをしたいと思ってた。
『貢献』って言葉が好きなんだよね。
だから、ボランティアでも、誰かのためになるようなことをしたい、ちっぽけな自分でも、できることをしたい、と思ってるんだ。
自己満足かもしれないけど」―アクション3:100点ほめTさんが自分のことをここまで話してくれたのは初めてでした。
そこでJくんはすかさず、100点ほめをしました。
J「自己満足なんて、とんでもない。
いや、自己満足でも何かの役に立てているなら、それは絶対、意味のあることだよ。
同い年なのに、すごくいろいろ考えてて、正直、尊敬する。
僕なんて、『就活のときに良いネタになるかな』と思ったのがきっかけだったもん。
でも、実際やってみると、自分にもできることがあるかもしれない……と思うようになって、ちょっとずつ前向きになれた。
もっと日本や世界の子どもたちのためになることを続けていきたいんだよね。
きっと、お父さんが素晴らしい人だから、Tさんも素晴らしい人なんだよね。
なんかお父さんにお会いしたくなったわ。
娘にこんなに影響を与えて、素晴らしい活動を引き継ぐまでに育てたんだもんね。
小さいとき、どんなことを言われたのかとか、また聞かせてほしい」T「普段はボランティアの話になると、『マジメなんだね』とか言われて、なかなか話を聞いてくれる人がいないから、すごく嬉しい。
ほんと、話を聞いてくれてありがとう」Tさんは嬉しそうにそう話しました。
これをきっかけにJくんとTさんの距離はグッと縮まり、毎日のようにLINEをやりとりするようになりました。
たわいもない話から、ボランティアについての最新情報を教え合うなど、同じ目的を共有する仲間になりました。
そしてその3か月後、ふたりは晴れて付き合うことになったのです。
―●100点のほめ方のポイント・関係性の土台をつくるために、まず、現在は、〝マイナスイメージ〟を持たれていることを自覚したうえで、メッセージを送るときには、なるべく質問もする・質問は、答えやすそうで、なるべく相手が迷わず返事できるような質問にする・マジック質問では、ふたりの共通点であるボランティアについて深掘りする
・共通点から質問をすると、内容を深掘りしやすい・共通点から話が盛り上がると、距離がグッと縮まる・信頼関係ができた後、核心をズバリほめることにより、格段に印象に残る存在になる・100点ほめでは、その人自身だけをほめるのではなく、育った環境や、相手が影響を受けた人の話も織り交ぜて、相手の生き方すべてを肯定する
事例4:冷めきった夫婦関係が修復
あるご夫婦のエピソードです。
Wさん家族は、会社員の夫と、主婦業のかたわら設計士として活動する妻、そして子どもふたりの4人家族。
間もなく結婚10周年を迎えるWさん夫妻でしたが、夫婦仲は冷え切っていました。
会話の内容といえば、子どものことや両親のことなど「事務的なやりとり」ばかり。
普段は目も合わせません。
たまに目が合ったと思えば「どうしてわかってくれないんだ」「どうしてもっと家族のことを考えてくれないの」と、ケンカが始まります。
夫は出張を増やし、妻がリビングにいるときには、そそくさとダイニングへ……。
妻も早くに寝て、一緒に過ごす時間をつくろうとしません。
昔はふたりでよく晩酌を楽しんだのがうそのようです。
お互いに「結婚相手を間違えたかもしれない」と、後悔していました。
―アクション1:関係性の土台をつくるここからは、Wさんご夫婦の会話(Wさん=夫、Wさんの奥さん=妻)を交えながら解説します。
さすがにこのままでは、息が詰まってしまう……。
Wさんはたまりかねて、なんとかコミュニケーションをとろうと考えました。
とはいえ、いきなり楽しく会話できる雰囲気ではありません。
そこでやりとりを増やすために活用したのが、LINEのメッセージです。
夫「今日の帰りは22時半頃になる」夫「今日はやっぱり夕飯いらない」夫「今週末、東京へ出張するからいない」など、こまめに自分の予定をLINEで伝えるようにしました。
すると、はじめは既読がつくだけだったのが、「了解」「OK」など、奥さんから端的ですが返信がくるようになりました。
そこでWさんは、事務連絡だけではなく、夫「お疲れさま」夫「いつもありがとう」など、スタンプを交えてねぎらいの言葉をかけたり、夫「今日、飛行機から見た景色がすごく綺麗だった」と空の写真を送ったりと、たわいもない会話を増やしていきました。
そのせいか、奥さんの返信も妻「こちらこそ、いつもご苦労さまです」妻「本当だ、綺麗だね」と、文章も少しずつ長くなり、スタンプが返ってきたり、子どもの日常の様子を写真で送ったりしてくれるようになりました。
LINEでのコミュニケーションが活発になっていくのと同時に、不思議と家でのふたりの会話も少しずつ増えてきました。
子どもの自宅学習や習い事での様子、近くに住む両親からの伝言など家族に関すること、そして地域の集まりでの心配事など、もっぱら奥さんのほうが話すばかりでしたが、Wさんは、奥さんの「話を聞いてほしい」という思いを受けとめて聞き役に徹し、「そうなんだ、なるほど」「うわぁ、それは大変そうだね。
大丈夫?」「へー、そうだったんだ。
良かったね」「気づいてなかった。
ありがとう」といったように、相手の言うことを否定せず、同意しながら話を聞き続けたのです。
そして日常の会話量も増え、それまでWさんが夜遅くに帰ってきても、先に寝てしまい、「おかえり」すらも言わなかった奥さんがWさんの帰りを待つようになったり、「明日早いから、先に寝るね」とLINEでメッセージを送ってきたりするようになり、なるべくWさんとの時間を取ろうとするようになりました。
Wさんは、奥さんの態度が少しずつ変わり、話をしてくれるようになったのを見計らい、よりじっくりと対話する機会をつくろうと考えました。
そこで、いつもより早く家に帰れそうな日の昼過ぎに、こんなLINEを送りました。
夫「今日、夜9時頃に家へ帰れそうだから、ワインでも買っていくよ。
何かつまみでも用意してくれると嬉しいな」奥さんからは、「待っているね」のスタンプが届きました。
夫が家に着くと、子どもふたりはもう寝る準備をしていて、「お父さんおかえり。
こんな時間に帰ってくるの、珍しいね」と喜んでいる様子。
Wさんは子どもと会話する久しぶりの平日を楽しみつつ、「明日も早いから、そろそろ寝なさい」と、寝かしつけました。
そうこうしている間に夜10時近くになり、やっと落ち着いてふたりで話せるようになりました。
LINEでは奥さんに対して「いつもありがとう」「子どものこと、任せきりでごめん」と、伝えるようになっていましたが、改めて面と向かって、Wさんは奥さんにこう切り出しました。
夫「俺も仕事が忙しいばかりに、家のことを任せきりでごめんね。
いつも本当に助かってる。
ありがとう」妻「あなたが忙しいのは仕方ないから、わたしも割り切ってる。
でも、最近意識してちゃんとわたしの話を聞こうとしてくれてるよね?別に何か解決できるわけじゃないけど、少しはわたしも気が楽になってる。
ありがとう」久しぶりに面と向かって感謝を伝え合ったのです。
―アクション2:「ほめポイント」を見つけるお酒の力も借りて、久々にゆっくりと話ができるようになったWさん夫妻。
そこで、マジック質問で、奥さんが大切にしている価値観を探ってみることにしました。
【マジック質問】①好きなことは?②継続していることは?③大切にしていることは?まずは「①好きなことは?」の質問です。
夫「いまさら聞くのもなんだけど、Mちゃん(奥さんの名前)が好きなことって何?」妻「やっぱり、家の設計をしているときは、すごく楽しいよ。
毎日、家のことや子どものことで忙しいけど、子どもを寝かしつけてから、ひとりで家具やキッチンのことを調べたり、実際にコーディネートをいろいろと考えたりしているときは、楽しくてつい夜更かししちゃうんだよね」夫「へー、そうなんだ。
俺って全然『衣食住』のことに関心がないじゃん?だから、Mちゃんが熱心に家具やカーテンを選んだり、テーブルコーディネートしたりしているのを見ていると、本当にすごいなぁ、センスあるなぁ、と思うんだよ」そして、こんなふうに「③大切にしていることは?」の質問を続けてみました。
夫「どうして、そんなに家の設計のことを大切にしているの?」
妻「設計に限らず、毎日の食事もそうだし、掃除、洗濯……そういう家のことは全部、大切だと思ってる。
わたしのお母さんが教えてくれたことが大きいかも。
『家づくりは人づくり』って。
学校や会社で過ごす時間以外は、みんなずっと家で過ごすでしょ。
そういう一日一日が積み重なって、人生になっていく。
だからこそ、家という空間を快適に保って、毎日の暮らしを大切にしていくことで、家族みんなの品格がつくられていくんじゃないかな、と思うの」―アクション3:100点ほめWさんは、奥さんの気持ちに対して、「100点ほめ」で正直な思いを表現しました。
夫「うわー……そうだったんだ、そんなに俺らのことを考えてくれてたんだ。
最近、雑誌で『名もなき家事』という記事を読んで、家事の中には明確なToDoリストだけでは見えない、やらなくちゃいけない細かい家事がたくさんあって、俺が考えている以上に、家事って大変なことだらけなんだな、と思ってたところだったんだ。
考えてみたら、自分の趣味や友人との食事などもほとんどなしで、家族のために頑張ってくれてるよな。
ご両親の育て方や学生生活、社会人になってからの周りの環境が、良かったんだよな。
一つひとつのことを大切に思って生きてきているのが伝わるよ。
いままで、ごめんね。
あまり共感できずに、本当ごめん。
そして、ありがとう」妻「ありがとう。
わたしもつい抱えこんでしまうことがあるから、なるべくあなたになんでも話すようにするね。
あなたこそ仕事が忙しいんだから、無理せず、困ったことがあったら相談してね。
解決できないかもしれないけど、話せば楽になるよ。
わたしみたいに(笑)」そこでふたりで笑い合って、その日はWさん夫婦たちにとって楽しい一日になりました。
その後、「働き方改革」の影響もあり、Wさんの残業も少なくなりました。
たまに、Wさんが子どもふたりの面倒をみて、奥さんひとりで友だちと出かけることも。
そうやって、お互いのやりたいことを尊重して、ともに助け合い、家族で過ごす時間を大切にするようになったのです。
―100点のほめ方のポイント・「いきなり楽しく会話なんてできない…」という関係性のときは、LINEなど、メッセージのやりとりから始める・メッセージでのやりとりは、「こまめに自分の予定を伝える」ことから始める・メッセージのやりとりが会話に発展したら、相手の言うことを否定せず、同意しながら話を聞き続ける・マジック質問で、「好きなこと」「大切にしていること」を聞いて、相手が主役になる会話をする・100点ほめでは、単にほめるだけでなく、自分の「正直な気持ち」も伝え、夫婦関係は特に、お互いの生き方をすべて肯定する〝歩み寄り〟が必要
事例5:勉強嫌いな息子の変化
ある親子のエピソードです。
Kさん一家は、夫と小学3年生の息子Sくんとの3人家族。
特に最近、Sくんとの関係に悩んでいました。
Sくんは授業でもじっとしていられず、ノートも取りません。
宿題に取り組むのも苦手で、担任の先生から「お母さんからもきちんと言っていただけませんか」と注意されるほど。
Kさんは毎日のように、Sくんを叱りつけていました。
「どうしてちゃんと授業を受けないの?」「宿題しないと、大人になってから困るのはあなただからね」「板書しなさい!それくらいできるでしょ」叱れば叱るほど、Sくんは言うことを聞きません。
Sくんは野球クラブに通っているのですが、かたくなにKさんが練習を観に来るのを拒むようになります。
本来、ほかの親御さんと一緒にクラブの手伝いもしなければならないのに、それすら嫌な顔をするのです。
いったい、どうすればいいのか……困り果てたKさんが、すがるように始めたのが100点ほめでした。
―アクション1:関係性の土台をつくるここからは、Kさん親子の会話(Kさん=母、Sくん=息子)を交えながら解説します。
まずは、アクション1です。
学校での様子は、逐一、担任の先生から伝わるのですが、Sくん本人は学校でのことをなかなか話したがりません。
そこでKさんは、思いきって「叱る」のをやめて、Sくんから学校のことを話してもらえるような状況をつくることにしました。
母「今日、学校でどんな勉強したの?」母「友だちと何をして遊んだの?」母「野球クラブは楽しかった?」と、とにかく質問しました。
はじめのうちは息子「うーん……わかんない」息子「なんでもない」息子「うん」と、言葉少なだったSくんでしたが、叱られないことで少しずつ警戒を解いて、息子「分数の計算。
難しかった」息子「ドッジボール。
すぐ外野になっちゃったけど」息子「うん、楽しかった。
ヒットも打てたし」と、少しずつ自分のことを話してくれるようになりました。
そんな頃、同じ野球クラブに通う子どもを持つお母さんから、こんなことを教えてもらいました。
「Sくん(息子)、うちの子がエラーしたときにも『ドンマイ!』って声かけてくれるんです。
優しいお子さんですね」これまで、まったく知らなかった、Sくんの野球クラブでの一面です。
―アクション2:「ほめポイント」を見つけるSくんは、勉強は苦手だけれど、どうやら野球は楽しんでいること。
そしてチームメートとも交流しているのを知って、少しホッとしたKさん。
そこで、マジック質問をしてみました。
【マジック質問】①好きなことは?②継続していることは?③大切にしていることは?まずは、「①好きなことは?」の質問。
野球クラブから帰ってきて、麦茶を飲みながらくつろいでいるSくんに対して、Kさんはこう会話を切り出しました。
母「Sくん、野球するのって好き?」息子「好きだよ」母「どういうところが好きなの?」息子「うーん、ヒットを打てると嬉しい。
試合にも勝てると嬉しいし」母「打つのが好きなの?」息子「投げるのも好きだよ。
今日はピッチャーだった」母「そうなんだ!試合もあったんだよね。
どうだった?」息子「うーん、負けちゃった。
でも、監督がほめてくれた。
コントロールは良かったよ、って」母「そうなんだ。
すごいじゃん」息子「へへっ」野球のこととなると、Sくんは楽しそうにいろんなことを話してくれました。
そこで、Kさんは思いきって、こんなことを聞いてみました。
母「ねぇ、お母さん、Sくんが投げてるところ観てみたいなぁ。
ダメ?」息子「えー?」母「恥ずかしい?」息子「うーん、そういうわけじゃないけど」母「じゃあ、どうして?」息子「うーん、怒られると思った」母「え!」息子「いつもお母さん、怒ってばかりだから……」Kさんはこのとき初めてSくんの本心を知りました。
Sくんがかたくなに、Kさんが野球クラブへ来ることを断っていたのは、ちゃんと理由がありました。
普段あまりにもガミガミと怒られるあまり、野球クラブに来るとさらに怒られる材料を増やしてしまうと考えていたのです。
Kさんは、怒ることばかりに気を取られ、Sくんの考えをまったく聞くことができていなかったことを反省しました。
そして、こう伝えました。
母「お母さん、いつもSくんのことを怒ってばかりだったもんね。
ごめんね……。
でもお母さん、Sくんが楽しそうに野球のこと話してくれて、本当に嬉しいの。
だから、Sくんが野球しているところ、観てみたいんだ」するとSくんは次のようなことを伝えてくれました。
息子「怒らないなら、いいよ。
来週の土曜日、隣町のチームと練習試合するから、そこに来たら?」Kさんはやっと、野球クラブへ行くことを許してもらえたのです。
―アクション3:100点ほめ試合当日、Sくんはベンチスタートでしたが、途中からピッチャーとして登板しました。
失点を2点に抑え、リリーフとしては上々。
バッターとしてもヒットを打ち、見事、チームの勝利に貢献することができたのです。
Kさんは試合の帰り道、Sくんにこんな「100点のほめ方」をしました。
母「お母さん、Sくんが投げてるのを観て、感動しちゃった。
チームも勝ったし、本当に良かったね。
チームメートのみんなもSくんに声をかけてくれていたし、Sくんが『野球楽しい!』って思うの、わかった気がする。
振り返ったら、Sくん、本当よく頑張ってきたよね。
お母さんが、あまり応援してなかったときも、練習してたり、友達も励ましたりしてたんでしょ。
すごいすごい!我が息子として尊敬してるよ。
試合に連れてきてくれて嬉しかった。
今日は本当にありがとう。
Sくんみたいな良い子が生まれてきてくれて、本当に嬉しい、ありがとう」Sくんは照れくさそうにしていましたが、少し安堵したのか、ホッとした笑顔にも見えました。
そして、後日、担任の先生からこんな知らせが届きました。
「Sくん、最近、ちゃんと板書をしてくれるようになったんです。
何か、特別なことでもされたのですか?」KさんはSくんをもちろん、ほめました。
母「先生から聞いたよ。
最近、板書をするようになったって、すごいじゃん」Sくんは相変わらず照れくさそうに「うん」と答えただけでした。
しかしおそらく、お母さんが喜ぶ顔を見たくて、苦手な勉強に取り組もうと頑張るようになったのかもしれません。
―100点のほめ方のポイント・相手が話してくれないときは、とにかく質問をして、会話の糸口を見つける・会話の糸口から、相手の「知らなかった一面」を見つけられたら、そこを深掘りするマジック質問をする・苦手なところではなく、「すごいところ」をほめることで、苦手なことにも取り組もうと思う気持ちが相手に芽生える・100点ほめでは、その行動だけではなく、子どもの存在そのものを認め、すべてを肯定するほめ言葉をかける・100点ほめをしたことで、子どもの行動が変わったら、そのこともほめる
事例6:関係がこじれてしまった両親との仲直り
ある家族のエピソードです。
Eさんは、妻と子どもふたりの4人家族。
地方に住み、会社員として働いています。
Eさんの最近の悩みは、実の両親との関係。
両親は同じ県内で暮らしていますが、実家は山間部の限界集落。
頻繁に会いに行ける距離ではありません。
2年ほど前に「実家を手放して、駅の近くにマンションを借りないか?」と転居話を持ちかけたところ「親を老人扱いして、とんでもない」と憤慨。
すっかり関係がこじれてしまい、没交渉になってしまいました。
はじめのうちは「親のためを思って言ったことなのに、理不尽に怒られて、なんてことだ。
いざ困ったことになっても、知らないぞ」と意地を張っていたEさんですが、時が経つにつれて、両親の気持ちも聞かずに、唐突に話を進めようとしていたことを、反省するようになりました。
―アクション1:関係性の土台をつくるここからは、Eさん親子の会話を交えながら解説します。
「少なくとも連絡は取り合えるようにならなくては」と考えたEさんは、思いきって母親に電話をかけてみることにしました。
E「久しぶり……元気?変わりない?」母「あら、久しぶり。
こっちは年のせいか、病院に通うことも多くなったけど、なんとか暮らしてますよ。
それより、お父さんは相変わらず頑固で。
あなたとあんまり長く話してると、ヘソを曲げてしまうかもしれない。
いまだに『なんだ、アイツは』って怒るのよ。
もう……困ったもんよね」母親とは問題なく会話できるものの、どうやら父親は、まだEさんのことを許していない様子。
それからEさんは、1か月に1回ほどの頻度で母親と電話で連絡を取って、近況を伺いながら、なんとか父親との関係修復を図ろうと考えました。
そこで活用したのが、タブレットです。
Eさんの両親は、インターネットを使った経験がありません。
最初はタブレットを使うことに乗り気ではありませんでした。
「子どもたちの写真を送るから」と伝えて説得し、タブレット端末とWi-Fiを契約。
母親に使い方を教えて、使ってもらうようにしたのです。
Eさんは両親のタブレット宛てに、子どもの習い事の発表会や運動会の様子を写真で送ったり、メッセージを送ったりするようになりました。
E「おはよう。
今日は少し肌寒いね」E「こんばんは。
変わりない?」はじめのうちは既読がつくだけだったり、「元気だよ」とたどたどしい返信があるだけでした。
ところがタブレットの操作方法について、母親から電話で頻繁に問い合わせがくるようになったのです。
母「この操作はどうしたらいいの?」母「こういう表示が出ているんだけど、大丈夫なのかしら?」Eさんは内心「面倒くさいな」と思いながらも、やっと自然に連絡が取れるようになり、ホッとしていました。
母親も少しずつタブレットの操作に慣れ、メッセージを送ってくれるようになりました。
そして、子どもの写真を父親にも見せてくれている様子。
ある日、母親から電話がありました。
母「今年のお盆、久しぶりに家に帰ってこない?
お父さんがね、『孫の顔が見たい』んだって(笑)」―アクション2:「ほめポイント」を見つける久々の帰郷。
子どもたちは、自然に囲まれた実家の風景に興味津々です。
「おじいちゃん、あの鳴き声ってなんの鳥?」「川遊びに行っていい?」と、山の暮らしを満喫。
父親も、孫にせがまれて遊びに付き合うことにまんざらでもなさそうです。
Eさんは、思ったよりも元気そうな両親の様子に胸をなでおろしました。
夕飯が済み、後片付けも終わって、子どもたちは日中の遊び疲れのせいか、早々と床につきました。
Eさんは、テレビを見ながらくつろいでいる両親に、思いきってマジック質問を投げかけました。
【マジック質問】①好きなことは?②継続していることは?③大切にしていることは?まずは「①好きなことは?」を質問してみることにしました。
単に質問するだけでなく、少しアレンジして、自分の思いとともに伝えました。
E「今日久々にここへ帰ってきて、子どもたちが喜んでいる様子を見て、しみじみと思ったんだよね。
『あー、田舎暮らしもいいなぁ』って。
親父もおふくろも、ここで暮らすのが好きなんだろ?」母「そうねぇ、好きというより、もうずっとここで暮らしてきたからね。
当たり前というか、これ以外にないのよ。
でも、最近少し足が悪くなってきて、車を出すのも不便になってきてね。
あなたが近くに住んでくれたらいいんだけど、それは難しいんでしょ?」E「うん……会社から2時間以上かかるから、さすがにここには住めないよ。
ごめん。
おふくろにも親父にも、心配かけてると思ってる。
申し訳ない」少し無言が続いた後、Eさんは「③大切にしていることは?」を質問しました。
E「でも、別に好きというわけでもないのに、どうしてこの家を大切にしているの?やっぱり、先祖代々から受け継いできたから?」母「わたしはここに嫁いできた人間だけど、あなたたちが生まれて、ようやくここが『わたしの家』になったの。
あなたが生まれてからの思い出が、全部ここにあるでしょう。
だから、やっぱり離れたくないのよね」Eさんはその言葉に思わずグッと感情が高ぶりました。
―アクション3:100点ほめEさんは改めて引っ越しを持ちかけたときのことを振り返りました。
すると、ご両親のこれまでの言動の真意に納得し、共感の思いが湧いてきました。
そして、こんな「100点のほめ方」をしました。
E「こっちの思いこみばかりで、『絶対に街なかで暮らしたほうがいい』なんて言ったけど、そんなにこの家のことを大切に思っているなんて、知らなかった。
ごめん。
ていうか、そんなに家のことを大切に守ってくれていて、本当に、本当にありがとう。
庭も畑もキレイにしておくのも大変だろうし、家のことを全然手伝えなくてごめん。
あのとき、ちゃんと親父とおふくろの言い分も聞いておくべきだったんだよな……。
考えてみたら、いつも心配ばかりさせていた俺のことを思い、この家で家族で一緒に食事しながら、いろいろな話をしてくれた幼少期。
家族の支えがあったから、学校も卒業できたし、就職もできたのにな。
命を懸けて子育てしてくれたことに、まず感謝しないとね。
本当に生んで育ててくれてありがとう」すると、ずっと黙っていた父親が、ようやく話しはじめました。
父「わかっているんだよ。
ずっとここにいるのが難しいこともな。
でもな、母さんの思いもわかってあげてほしかったし、年をとると変化についていけないところがあるからな……。
でも、こうやってEも考えてくれていることがわかって、良かった。
この前はごめんな。
そして、ありがとう」Eさんは、てっきり父親がわがままを言っているだけだと思いこんでいました。
でも本当は、家族みんなのことを考えてくれていたのでした。
Eさんは自分の言い方や伝え方の悪さが原因だとわかり、反省しました。
E「本当にごめん。
話してくれてありがとう」こうして、Eさんと両親のわだかまりは解け、半年に1回は顔を合わせるまでに関係が回復しました。
頻繁にLINEのメッセージや電話でやりとりをするようにもなりました。
母親の思いを尊重して、実家をどうするかは保留にしましたが、Eさんが帰ってくるときに倉庫や荷物を整理したり、庭木を手入れの少なくて済む木に植え替えたりするようにしました。
最近では、家族三世代で温泉宿へ旅行することもあり、Eさんの親孝行は続いています。
このように、年を重ねた親子の関係は、すぐに最高の結果につながらないかもしれませんが、心ではつながっているもの。
きっと良い関係になっていきます。
―100点のほめ方のポイント・音信不通の関係を打破するために、まずは「連絡を取る」ことを最優先にして、そのための手段を実行する・話す内容がないときは、「お互いに笑顔になること」を通じてコミュニケーションをとる・近しい人へのマジック質問には、「自分の思い」も織り交ぜて、アレンジを加えることも効果的・100点ほめでは、生んで育ててくれたことに対して100点の感謝を言葉に出して伝える
column3上司と部下のコミュニケーションに「ツール」と「対話」は使いよう
上司と部下のコミュニケーションを加速させるために使いたいのが、最近増えている便利なツールです。
最近では「働き方改革」の影響もあり、グループウェア(社内用の情報共有ツール)やチャット(会話用)ツールなど、便利なソフトウェアが大企業だけでなく中小企業でも続々と導入されています。
そういった新しい技術を活用すれば、コミュニケーションが想像以上に活発になるはずです。
メールだといちいち、「〇〇課長、お疲れさまです」「何卒よろしくお願いします」と、定型文を書かなければならず、時間がかかってしまいます。
かしこまったやりとりをするには適していますが、1日に何往復もメッセージをやりとりするには、あまり適している方法とはいえません。
ちょっとした億劫さから「後回しにしよう」と、上司への報告が遅れたり、大切な相談の機会を逃してしまったりするかもしれません。
わたしの会社では、記録として残しておくべきやりとりは「チャットワーク」というチャットツールを使い、普段のやりとりは「フェイスブックメッセンジャー」を使うことにしています。
わたし自身、出張が多く、会社にいないことがほとんどなので、始業時には部下から「今日やるべきこと」を、終業時には「今日やったこと」を報告してもらっています。
すると、部下が「これだけ頑張った」「こんなに意欲的にやろうとしている」ということが一目でわかります。
わたしは、それに対して「すごい」「今日はホンマに頑張ったな、ありがとう」と、ほめ言葉を返すようにしています。
コミュニケーションツールは大変便利です。
直接言葉で伝えたほうがいいな、と感じることについては、電話や対面で、語調や雰囲気も含めて伝えるようにしています。
また、ほめシート、感謝シート(本コラム末で紹介)というものを活用して、ほめ言葉の交換も定期的に行っています。
デジタルでの会話はスピーディである反面、感情が入りにくいので、アナログなコミュニケーションも取り入れて関係づくりに役立てています。
こうやって、お互いの気持ちを確認し合うこと、言いそびれたほめ言葉・感謝の言葉を継続して伝え合うことで、より良い関係を築いていっています。
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