徹底的に相手の気持ちがわかる「視点移動」とは?
「相手の気持ちになって考える」人間関係をよくするコツとして、一般的に広くいわれています。
もちろん、わたしもその通りだと思っています。
そのための「相手軸」という考え方は、すでにご説明しました。
相手の気持ちに共感できてはじめて、相手の心を感動させるほめ言葉がいえるのですから。
ただ、相手軸になるといっても、実は意外に難しいものです。
どうしても、人間は自分中心に物事を考えがち。
「相手はきっとこう思っているだろう」と考えてみても、外れてしまうこともしばしばあります。
それは、当たり前のことです。
なぜなら、自分の目線で相手の気持ちを推測しても、限界があるからです。
では、ほんとうの意味で相手軸に立つには、どうしたらいいのでしょうか。
わたしがおすすめしているのは「小人」になることです。
聞き慣れない言葉なので、「どういうこと?」と思われたでしょう。
それほど難しいことではありませんので、イメージをしてみてください。
まずは、自分がぐんと小さく、手のひらサイズになった姿を考えてください。
そして、共感したいと思っている相手の体の中に、耳の穴でも、口からでも、どこからでもいいから、ポンと入ってしまう自分を想像してください。
相手の中にいる自分をイメージできたら、相手の目を通じて世界を見てみましょう。
それくらい、思い切って相手と一体化することを想像できれば、リアルに相手の目線に立てます。
わたしは、この考え方を「視点移動」とよんでいます。
では、相手の目線で、その人の一日を振り返ってみましょう。
たとえば、あなたがお姑さんだとして、嫁姑の関係がいまひとつうまくいっていないとしたら、ぐんと自分の体を縮めて「小人」になってお嫁さんの中に入ります。
お嫁さんの目線で、普段の暮らしを、そして自分自身を見たら、何が見えますか。
もしも、あなたが小さな孫の顔を見たい一心で、アポも入れずに、しょっちゅうお嫁さんの元を訪ねていたとしたら。
悪いことではありませんが、あまりに頻繁になるとどうでしょうか。
お嫁さんの目線で考えれば、子育ては戦争のようだし、家事もたいへんであれもこれもやらなければいけない。
そんなときに、アポなしでしょっちゅう訪ねてこられたら「また来たの……」ということになります。
お嫁さんの目線で、自分自身の姿を見てください。
「そりゃ、あなたは孫がかわいくて、孫と遊んでいればいいでしょうけど、面倒を見るのはわたしなのよ」と自分に対して言いたくなってしまいませんか。
もちろん、あなただって、普通に考えてお嫁さんがたいへんなことくらいわかってはいるでしょう。
けれど、「視点移動」までしてみると、「あれ?まだ洗濯も終わってない。
そんな最中にお姑さんが来たら迷惑だけど、無下にもできないし……」こんなふうに思ってしまうお嫁さんの気持ち、より深く理解できるのではないでしょうか。
「視点移動」で、お嫁さんの気持ちに共感できたら、「24時間、子育てで気が張っているでしょう。
ほんとうにたいへんね」「わたしも子育ての経験があるからわかるけど、子どものあやし方がとても上手ね。
あなたはよくがんばっている」と一声かけてあげてみては、いかがでしょうか。
自分の気持ちを分かってくれたお嫁さんは、きっとあなたへの信頼感を増すでしょう。
そのうえで、「今度から行くときは、事前に連絡するね」と言ってもいいし、さらに、行く途中でオムツを買ってあげたり、家事を手伝うなどすれば、より心が通じ合えるのではないでしょうか。
人の気持ちになりたければ、自分が「小人」になって、相手の中に入るくらいの気持ちで「視点移動」してみてください。
まずは「アイコンタクト」だけでいい
相手との関係が悪化していて、「ほめるどころじゃない、会話もろくにないし、目を合わせることもないよ」という経験、あなたにもありませんか。
たとえば、夫婦喧嘩。
いったんこじれると、なかなかやっかいです。
どうすれば仲直りできるのか、悩んでいる人はとても多いでしょう。
正直に言いますと、わたしも妻と夫婦喧嘩が絶えない時期がありました。
仲よくしようとして空回りする、その繰り返しで、手痛い失敗をしてきた、そんな苦い過去があります。
何かのきっかけで、相手と気まずい状態になっていたりすると、ほめるなんてとても無理。
それ以前に、声すらもかけづらくなっているでしょう。
勇気を振り絞ってほめ言葉をかけても「はあ?何、言ってんの(怒)」という言葉が返ってくるのがオチです。
でも、そんな状況でも、「ほめる」ことはできるのです。
どうやればいいのでしょうか。
それは、アイコンタクトの交換です。
ある研究によると、良好な状態ならば、会話している時間の約6割は相手の目を見ているそうです。
それほど、アイコンタクトには、相手への関心や愛情を伝える役割があるのです。
家族と仲が悪くなったとき、家の中で視線も交わさず、朝起きてもむっつり押し黙ったままということがありませんか。
もし、あなたが仲直りしたいと思うのなら、まずは軽く目線を合わせてみましょう。
それだけでいいのです。
すぐに視線が交わらなくても構いません。
目線を向け続けていけば、相手にこちらの気持ちが伝わっていきます。
やがて声をかけやすい環境ができてくるでしょう。
自然に「おはよう」という言葉も出てくるでしょう。
そうすれば、もう大丈夫。
あとはいろいろな言葉が、ぽろぽろっと出てきます。
「行ってきます」「ただいま」「おやすみ」何気ない、ごくさりげない言葉が氷を溶かすように、距離を少しずつ縮めてくれます。
ハードルが低いアクション、言葉かけだから、続けるのも簡単ですよね。
「いきなりほめてきたりして、裏では何を考えているの?」などと勘ぐられることもありません。
ただし、どんなほめ言葉でもそうですが、単発に終わっては意味がありません。
少しずつでいいので、続けることがコツです。
「ほめ言葉」が習慣化されれば、家庭の中には自然と言葉がかけやすい環境が作られていきます。
人をその気にさせる「ほめプラスα」
あなたのお子さんが、テストでなかなかいい点を取れなかったとします。
普通なら叱るところでしょう。
けれども、少しでも努力の跡が見て取れたら、きちんとほめてください。
机につくことすらしなかった子どもが、まずは机について10分でも勉強をしたのであれば、それは立派な進歩です。
まず、そのことをほめてください。
「よくがんばった、その調子。
今回はうまくいかなかったけど、その調子でがんばれば必ず次は結果が出るよ」子どものことを、こうほめてあげれば、次もがんばろうという気持ちになります。
すぐに結果につながらなかったとしても、少なくとも、その子は、がんばることに喜びを感じるでしょう。
ただし、いい点をとれない子は、勉強をしていないのですから、改善しなくてはなりません。
もしも、スマホのゲームばかりに夢中になっているとしたら、まずはゲームを継続していることや、ステージをクリアしていることを認め、ほめてみてはいかがでしょう。
その力を勉強にも生かすようにうながすのです。
いきなりではなく、少しずつステップをふんで、勉強しやすい環境をつくってあげましょう。
誰しも、先が見えないことに対しては、すごく不安を感じてしまうものです。
たとえば、あなたが登山をしたとします。
はじめての山で、どれくらい歩けば頂上に着くかわからないと、歩くペースや休憩のタイミングがつかみにくいですよね。
でも「今は五合目」「次は八合目」ということがわかれば、「ここまで登って休憩しよう」「ここは、ちょっとがんばって行こう」というペース配分ができ、山頂まで何とか登っていけます。
「自分が何をがんばったらいいのか」「何をしたらほめられ、何をしたら叱られるのか」「今の自分がどこにいて、どのぐらい成長してきたのか」これらのハードルを小刻みに、そして適切に設けて、ほめてあげましょう。
単発でほめるよりも、こうして継続的にいろいろな角度からほめてあげたほうが、より成長が期待できるのです。
たとえば、習いごとをしているのであれば、その先生からほめ言葉をかけてもらうようにするとか、お友達のお母さんからほめてもらうようにすれば効果的です。
わたしは、みなさんに「1日1ほめ」を推奨しています。
「継続は力なり」といいますが、ほめることにも当てはまるからです。
たった一言でもかまいません。
LINEのスタンプひとつでもいいです。
ぜひ、続けることを意識してください。
お互いにほめることに慣れっこになったら、あえて意識して言葉を変えてほめてみてください。
もちろん「何て素晴らしいの!」「拍手!」などのように、仰々しい言葉は必要ありません。
「よくやったね!」「やるじゃん」「ほう」といった一言でいいのです。
こまめに回数を重ねましょう。
うわべのほめ言葉、無理やりのほめ言葉ではなく、ほんとうにほめられるべきことを、たとえ小さくてもいいから積み重ねてもらいたい。
それがほめられる人の気持ちなのです。
「ほめる」の反対は、「叱る」ではなく「比較」
「ほめる」の反対語をご存じですか。
それは「比較」です。
「『叱る』や『責める』ではないの?」あなたは、きっとそう思うかもしれません。
けれども、実は「比べること」なんです。
わたしは人をほめる際に「その人の長所をほめる」「本人なりの努力を見つけ出してほめる」ことをすごく大切にしています。
それとまったく逆のアプローチが「比較」することなのです。
比べるということは、優劣をつけるということ。
つまり、Aさんがすごいなら、それに及ばないBさんはすごくない。
そうなります。
けれど、Aさんもがんばっていて、Bさんもがんばっている。
ふたりともがんばっているのですから、優劣をつける必要などあるのでしょうか。
それでもわたしたちは、ふたりを比較して、どちらかが優れていて、どちらかが劣っていると比べてしまいます。
人は、なぜか「学歴」「年収」といったフィルターにかけて「比較」してしまうのです。
比較するということは、人をある特定のものさしで測るということ。
学歴で測れば、偏差値の高い大学に入った人は優れていて、それ以外の人は優れていない、ということになります。
でも、そんなことがあるはずがありません。
努力して勉強していい大学に入ったことは立派ですが、それは人間の持つ一側面に過ぎません。
あなたが、この人には絶対によいところがあるという「いい先入観」で相手を見れば、その人のさまざまなよいところが見つかるようになります。
だからわたしは、「比較する」ことをやめて、その人の長所を尊重し、向き合っていくことが大切だと訴えているのです。
たとえば、家事をまったく手伝ってくれない夫がいたとします。
あなたは、友人の夫と比較して、「田中さんの旦那さんは休みの日は家族に手料理をふるまうのに、うちの旦那は休日になるとゴロゴロして……」と腹を立てるかもしれません。
気持ちはわかります。
ただ、そのときあなたの目は、「家庭のことに積極的に参加するのがいい夫」というフィルターがかかっています。
そのフィルターをいったん外して夫をあらためて見てください。
確かに、家事を手伝わないという一点では、いい夫ではないのかもしれません。
でも、「いつも冗談を言って家庭を明るくしてくれる」という側面があるかもしれません。
だとしたら、悪い点ばかりを見るより、長所に感謝すれば、夫との関係性もよくなります。
「たまには、家事を手伝ってよ」という一言も、ギスギスせずに言えるようになります。
家事を手伝ってもらえる可能性もぐんと上がるかもしれません。
たとえばわが子が、かけっこが得意だとします。
でも、クラスや学校でもっと速く走れる子がいるかもしれません。
クラスや学校で1番でないかもしれません。
それでも、素直にほめてあげればいいのです。
ほめてあげれば、その子にとって大きな自信になるでしょう。
自分の資質をさらに伸ばそうとして努力を重ねることでしょう。
相対的な評価で1番ではなくても、「目標タイムをクリアした」といった別の評価でほめていけばいいのです。
それで人生がポジティブになり、前向きに挑戦を続けられるのであれば、とても素晴らしいことだと思います。
とはいえ、比較することすべてを否定するわけではありません。
ときには、プラスになる比較もあります。
それは、過去の自分との比較です。
俯瞰的な視点に立って、「3カ月前からどの部分が伸びたのかな」「伸び悩んでいる部分はどこだろう」「逆にダウンした要素はあるのかな」といったポイントを冷静に見極めることができます。
他人と比べるのではなく、自分の成長をしっかりとほめられる。
それが、「過去の自分との比較」が持つメリットです。
「改善」だけでは人間関係はよくならない
人間関係がどうもうまくいかないというとき、あなたなら何を考えますか。
「自分の言い方が悪かったのかな」「もっと、気を使ってあげればよかった」というふうに、自分自身のふるまいを反省するでしょうか。
あるいは、「あいつの、あの態度が気に食わない」「あんな言い方はないだろう」と相手に対して腹を立てるでしょうか。
もっと踏み込んで、相手に対して「あなたの今の言い方は間違っている」と指摘する人もいるでしょう。
このふたつ、どちらも根っこは同じです。
それは「欠点に目を向ける」考え方です。
何か問題が起きたとき、「どこが悪かったのか」を考えてそれを修正することで乗り越えようとする。
いわゆる「改善」の考え方は、ビジネスの現場などでは有効なケースもあるでしょう。
しかし、わたしはこのやり方だけでは、人間関係をいい方向に向かわせることは難しいと思っているのです。
なぜなら「改善」では、まず欠点を先に見つけなくてはならないからです。
相手の悪いところばかりが目に入り、ただでさえうまくいっていない相手に対して、ますます嫌な気持ちがつのってしまいます。
たとえ、自分の欠点を直すにしても、まず自分がマイナスであるというところから考えがスタートします。
ですから、相手に対して自信を持って話ができない、委縮するといった状況になります。
負のスパイラルに陥ってしまう恐れがあるのです。
これでは自分も他人も幸せにすることはできません。
もちろん、よくしようと努力する意味での「改善」は残しつつ、欠点ばかりに目を向けてしまう考え方を改め、今までと伝え方を変えていかなければ、ほめ言葉の効果が出ません。
わたしが考えるほめ言葉は、まず長所を見ます。
人の性質を、プラスとして捉えるのです。
マイナスな面を見ないふりをするのではありません。
この人のよいところを真摯に探し、丁寧にほめていくことが「魔法」につながるのです。
ほめる、ほめられることで心が満たされ、「もっとここを伸ばしたらいいんじゃないか」「ここは、こうやって引き上げていこう」という前向きな気持ちが自然に湧きあがってきます。
短所といわれていた部分も、長所に転化できるようになるでしょう。
もし、あなたが、どうしても相手の欠点が気になるのであれば、その欠点の裏側を考えてみるとよいでしょう。
長所と短所はコインの裏表のようなものです。
活動的な性格は「とびっきり明るい」と捉えることができる一方、「落ちつきがない」ともいえます。
ポジティブとネガティブ、どちらに光を当てるかです。
しかし、欠点を探すという見方に立てば、ネガティブ面ばかりが目についてしまいがちです。
人と接する際は、そして自分をかえりみる際は欠点チェックマンになるのではなく、ほめポイントチェックマンになる。
そんな心構えが大切なのです。
失敗談を赤裸々に話したほうが好かれる
「ほめ言葉の魔法」を考えていくうえでは、「何を」ほめるかもすごく大切です。
でも、それ以上に大切なのが「誰に」ほめられるかです。
「あなたには言われたくない」「そんな人にほめられても、まったくうれしくない!」こう思われてしまっては、ほめ言葉の「魔法」はかかりません。
では、どうすればいいのでしょうか。
まず、「弱みをさらけ出す」「自分の非を認める」ことから始めてください。
「俺もお前の年の頃は失敗ばっかりだったよ。
たとえば……」「最近、ちょっと言葉がキツかったかも。
ごめんね」まず、こう切り出してみてはいかがでしょうか。
わたしの知り合いには数百人のスタッフを束ねる社長がいますが、彼は自分の失敗談を赤裸々に、スタッフの前で語ります。
そして、自分の責任でスタッフに迷惑がかかったと思ったら、全店を回って素直に頭を下げるそうです。
どうですか。
こんな社長にほめられたら、うれしくないでしょうか。
多少は厳しい指摘をされても、素直に受け止める気になるのではないでしょうか。
「そんなことを言ったりやったりするとナメられるよ」と思われるかもしれません。
でも、そんな心配はまったくありません。
その社長ほどスタッフに慕われ、信頼されている人はいませんから。
こうしたことは、職場に限った話ではありません。
たとえば、自分の夫に改善してほしい点があったとしたら、上から目線で指摘するのではなく、自分にも至らない点があると認めたうえで「あなた、いつも遅くまで働いてくれてありがとう」と感謝の意を示してください。
そうして心を開いてもらってから、「ちょっとだけ気になることがあるんだけど、玄関の靴、そろえるようにしない?子どもたちがまねするようになると思うから」このように伝えたら、悪かったところはきっと素直に認められるようになりますよ。
第三者からほめられると、うれしさ倍増
「いいところに気がついたね……やるな」「それ、新しいじゃない」「深いよ、その考え方」「1日1ほめ」を推奨しているわたしは、「ほめ言葉」のバリエーションを増やすことを日々考え続けています。
必勝パターンを持つのは鉄則のひとつです。
剛速球を持っているピッチャーでも、スピードボール一辺倒ではバッターの目が慣れてしまい、いつか打たれてしまうでしょう。
あえてワンクッション置いてからほめたり、あえてミスに目をつぶってほめてみたり。
ときには間を置かずに連続してほめたり。
違った角度からほめることで、より相手に深く届くようになります。
ほめも緩急が必要なのです。
「ほめ言葉」のバリエーションでおすすめなのが、第三者を通じてほめることです。
家庭や日常におけるシーンでは、1対1でほめるのがほとんどでしょう。
でも、他の人を経由して、つまり第三者を通じた「ほめ」を考えるのも、一味違っておもしろいですよ。
たとえば、いきなり本人をほめるのはハードルが高いと思ったら、「最近の裕太は違うね。
宿題を前倒しでやろうとするなんて、姿勢が変わったよ」といったことを家族の前でつぶやき、「お父さん、こう言っていたわよ」と伝えてもらうとか。
本人から直接ほめられるのはもちろんですが、第三者を通して伝わるほめは、いっそう心に届くものなのです。
わたしが「ほめ言葉」を教えているある会社では、「成長できたこと」を社員みんなの前で発表してもらい、それをほめるという試みを行っています。
というのも、みんなの前でほめると、その人がどんどん輝き出すからです。
スタッフにしてみたら、「自分が考えたことがほめられた」に加えて、「みんなの前でほめられた」「そしてさらに、みんなからほめられた」というほめのよいループで、モチベーションが上がります。
ほめられた人の意識もグンと上がります。
「以前よりキラキラ、いきいきと仕事をしている!」という輝きを目の当たりにできる──。
「ほめ言葉の魔法」を考えるわたしにとって、こんなにうれしく、感動できる場面はありません。
ですから、家族の前で、そして友人たちの前で、職場のみんなの前で、どんどんほめてあげてください。
そしてもうひとつ。
ほめは言葉だけとは限りません。
ゴミ出しをしてあげる、皿洗いをしてあげる、ケーキや花束を買ってくるなど、感謝を行動で示す方法もあります。
いろいろなほめのバリエーションを考え、自分自身の引き出しを広げていくこと。
これも、コミュニケーションを楽にしてくれる魔法のひとつです。
「ほめポイント」がすぐに見つかる質問のしかた
わたしは、介護施設で80歳くらいのおじいちゃんやおばあちゃんに話を聞くことがよくあります。
そんなとき、相手の方のよいところは、どんなところだろうと思いながら質問をします。
すらすら答えてもらうコツは、その人の生き方を知ろうとすること。
まずは、「この施設はいかがですか」「何かお困りではありませんか」と、悩みに共感するところから入り、「山本さんって学生時代はクラブ活動をされていたんですか」「今までどんなお仕事をされていたのですか」と過去を振り返ると、自慢話や苦労話がいくらでも出てきます。
みんな、よろこんで、いろいろな話を聞かせてくれます。
なぜ、スムーズに答えてもらえるのでしょうか。
大事なのは、あなたのことをもっとよく知りたい、大切にしようとしているものを教えてほしいと思う気持ちです。
もっと話を聞かせてほしい、という意思表示をするのです。
こうした気持ちを持ちながら、相手に質問を投げかけると、相手のいいところがいっぱい見つかります。
ここで、子ども向け、パートナー向けの質問の例文をご紹介しましょう。
実はこれ、実際にわたしが自分の家族に向けた質問です。
(5歳の娘に)いつもくつをそろえてくれてありがとう。
パパはとてもうれしいよ。
とてもきもちよくなるし、みんながよろこんでいるよ!ありがとう。
いつからできるようになったの?なぜ、こうやってくつをそろえようとおもったの?(妻に)いつも実家の両親に料理を届けてくれてありがとう。
その気遣いがとてもうれしいよ。
両親も、すごく感謝していたよ。
ほんとうにありがとう。
そんな気遣いができる女性に、娘たちも育ってほしいね。
お義父さん、お義母さんはどんな育て方をされたのかな?今度お会いするとき、聞いてみてもいい?いかがでしょうか。
わたしは、妻が自分の母親と同じくらい、わたしの母のことも大事にしていることに感動して、ほめたのです。
そして、その後、さらにいいところを聞きました。
これが、身近な人の「ほめポイント」を見つけることができる質問です。
こうして相手に興味を持ち、その行動をほめながら質問をしていきます。
こうすれば、家族、パートナーの素晴らしい部分がどんどん見つかります。
質問をするために相手に関心を持ち、話をじっくり聞いたりすることで、関係性が良好になっていくのは言うまでもありません。
心の距離を一瞬で縮める「思い出」の魔法
相手との心の距離を縮めるのにも「ほめる」ことは、とても役に立ちます。
相手とうまくいかない場合、あるいはある程度親しくなれた相手ともっと親しくなりたい場合、どちらにも、ほめることは有効なのです。
ただし、これからご紹介する魔法は、すでにお互いともに過ごした時間が長いケースに当てはまります。
夫婦、恋人、長年の友人などです。
付き合いが長ければ長いほど、いろんなことがありますし、ささいなきっかけですれ違いが起きることもありますよね。
素直になりたいのになれない、そんなとき、どうしたらいいのでしょうか。
わたしがおすすめするのは、「思い出」をプレイバックする魔法です。
つき合いが長ければ、ときにはケンカもあるでしょうが、いい記憶もたくさんあるはず。
それを思い出してもらいます。
奥さんや夫との最初のデート、子どもとの最初の思い出……。
それを語り合うだけでも効果は抜群です。
でも、もっと効果的な方法があります。
それを次に紹介しましょう。
まずは、その思い出の場所に足を運んで、同じシチュエーションで携帯やスマートフォンの写真に撮って、相手に送るのです。
その画像を見て、あなたの胸にはどんな思いがよみがえるでしょうか。
楽しかった、あの頃の記憶が浮かんできませんか。
「あの映画、ふたりで見に行ったね。
帰りにあのイタリアンに寄ったっけ……」「ちいちゃんがまだ2才のとき、公園のウサギの遊具、うまく乗れなくて泣いたよなぁ」そんなメッセージを添えるとさらに効果的です。
受け取った側も、すぐに記憶の連鎖が始まるはずです。
「あの頃に戻ろうよ。
今は気持ちが冷え切っているかもしれないけど、楽しく笑いあえていた、あの頃に戻りたいよ……」そんな気持ちが、思い出の場所の写真には込められます。
これが、「思い出の魔法」です。
写真1枚ですぐに仲直りができる、関係が修復できるとは思いません。
だけど、「関係性をよくしたい」というあなたの気持ちは静かに、そして確かに伝わります。
人間関係は思い出づくりです。
ともに過ごした日々の記憶を少しずつ重ねて、共通の思い出を紡いでいくことから、強固な関係性ができあがります。
お互いがお互いのファンになるような、そんな素敵な未来も見えてくるでしょう。
「あの頃のふたりに戻りたい」というメッセージが伝わったとき。
それが、次の思い出づくりの第一歩になるのです。
ろくに返事もくれない人と仲よくなる方法
わたしの知人の田中さんは最近、結婚したばかり。
お相手の方は再婚で、中学2年生になる娘、あおいさんがいます。
つまり、いきなり中学生の女の子のパパになったのです。
このふたり、はた目には驚くほどの仲よし父娘です。
でも、田中さんから話を聞くと、いきなり、こんなに仲よくなれたわけではなかったようです。
結婚相手の方との出会いは3年前。
意気投合し、やがて、結婚を前提におつき合いを始めました。
田中さんは、わたしとの交流を通じてほめ言葉の力を知っていたので、パートナーとの間でも、お互いにほめ言葉を交わす良好な関係性を築けました。
しかし、あおいさんが心を開くまでには、はじめは緊張していたこともあり、時間がかかりました。
それはそうでしょう。
いきなり知らない男の人がママの彼氏と言われても。
ひょっとしたらパパになるかも、なんて言われても、すんなりと受け入れられません。
それに、前のお父さんとの関係性もあまりよくなかったようなのです。
ますます、男性に対して心を閉ざしやすい状況ができていました。
話しかけてもろくに返事をしてくれない、恥ずかしさもあり、たまに敬語で話してくれる程度。
しばらく、こんな関係が続きました。
それでも、真剣に彼女との将来を考えていた田中さんは、どうしてもあおいさんとの関係をよくしたいと考えていました。
そこで田中さんがまず始めたのは、あおいさんが大切にしているものを知ることでした。
あおいさんは、マンガやアニメが大好きでした。
田中さんはあまりマンガやアニメを見ておらず、しかも小学生の女の子が見るマンガやアニメは詳しくありません。
それでも、相手が大事に思うものを、自分も大事にしようと思ったのです。
まずは、あおいさんが好きだというマンガを何冊も読み、アニメ作品を何本も見て、自分なりにどこがおもしろいのか理解しようとしました。
おかげで、信じられないくらいアニメやマンガに詳しくなったそうです。
「あのアニメすごくおもしろいよね」いつの間にか、そんな会話を切り口に、少しずつですが話ができるようになったそうです。
心の距離が近づいてきて、LINEのやりとりをするようになると、スタンプが山のように送られてきます。
田中さんははじめ、目を白黒させましたが、自分もスタンプをたくさん買いました。
そして自分も山のように送り返しました。
やがて、あおいさんから「田中っち、ええやん」の一言が。
思いもかけず、自分の人柄を好きだと言ってもらえたのです。
ようやく、心が通じ合えたことに思わず胸が熱くなりました。
それに、敬語でしか話してくれなかった子から「あだ名」で呼ばれるなんて、うれしくて、ちょっとこそばゆいような気持ちになりました。
「田中っちは昔はどんな人だったの?」「同じ高校に行きたいな」「今度、勉強のやり方を教えてね」という言葉までかけられるようになりました。
大切にしたい人の、大切なものを知り、それを大切にする。
ほめ言葉をかけるうえで、もっとも大切なことです。
LINEでもまごころが伝わる「手書きメッセージ」
時間がなくて、直接ほめ言葉を伝えるのが難しい場合、携帯電話のショートメッセージ、スマートフォンのLINEアプリ、パソコンのメールを使う方法もあります。
いつも顔をあわせている家族の間であっても、あらためて言葉をかけるのは照れてしまうものです。
そんなときは、ほめ言葉をテキストや絵文字、スタンプにして送るのは大いに有効でしょう。
ただ、メールによるテキストのやり取りは、ときには無味乾燥で感情が伝わりにくいこともあります。
これがネガティブ要素ではあります。
「了解」「今から帰る」といった、用件のみ伝える、単刀直入すぎるメッセージに、思わずムッとした経験は誰にでもあるはずです。
そんなデジタルほめのデメリットを補う魔法が、「手書き要素のトッピング」です。
これはわたし自身、妻や娘によく送っているとても簡単な方法です。
ホテルのメモパッドや便せんにメッセージを手書きし、それをスマホでパチリと撮って、写メで送るだけです。
手書きだからこそ伝わる感情があります。
人柄はもちろん、そのときの気持ちの揺れ、あるいは気分の高まりなど、筆跡から伝わる言外のメッセージもまた、あるのです。
これを見た家族は、同じように肉筆のメッセージ、手描きの絵を送ってくれるようになりました。
旅先で何度なぐさめられ、勇気づけられたことでしょうか。
たとえば、わたしのふたりの娘からはこんなメッセージが届きます。
パパへきょうは、どこにいるの?また、いっしょにかくでんぼしようね。
おしごとがんばてね。
すきだよ。
パパ、また、いっしょにおふろはいろうね。
きょうはともだちとあそんだよ。
ももかより………………………………………パパへだいすき。
いつもありがとう。
おしごとがんばってね。
ちいちゃんもべんきょうがんばるよ。
小学校のプールではもうむずかしいことしているよ。
また、こうえんいこうね。
すき。
すき、だいすき♡パパのおやすみまってます。
ちはなより………………………………………それに対して、それぞれ返事を書いています。
ももかへおはよう、ももちゃん。
パパは、いまとうきょうにいますよ。
きょうはプールかな?たのしんできてね。
またはなしきかせてね!ねーねとなかよくね。
げつようび、ももちゃんのようちえん、みにいきますね。
たくさん、かくでんぼしようね♡パパより………………………………………ちはなへ♡おはよう、パパです。
きょうはプールかな?こないだは、いっしょにプールにいけてよかったよ。
たのしかった!パパはいま、とうきょうにいます。
あしたのよる、かえるから、げつようびのあさ、あえるね。
ちいちゃんはちいちゃんらしく、いろいろがんばってね♡パパはおうえんしてますよ。
パパより♡………………………………………絆を密にしていくことで、家族が個々に成長でき、心も豊かになります。
気持ちをダイレクトに伝えられ、ほっこりとした気持ちになれる手書きメッセージの送信、ぜひ試していただきたい魔法のひとつです。
相手が大切にしているコトを少し大切にしてみる
相手ともっと仲良くなりたい、仲直りしたい。
そんなときに相手との関係をもうひと押しするステップがあります。
ここでは、ある夫婦の「小さな計画」についてお話ししましょう。
その夫婦は40代の夫婦でした。
子どもは小学校5年生と2年生のふたり。
妻は音楽大学出身で、ピアノを専攻していたので、子どもたちにも楽器を習わせました。
一方、夫は不器用で、楽器はからきし。
妻からの「家族で演奏会をしたい」というリクエストに応えることができず、次第にそれがコンプレックスになって、やがてギャンブルに走るようになりました。
夫婦関係は、少しずつ悪くなっていきました。
子どもたちとのコミュニケーションも、ギスギスしていきました。
しかしあるとき、「このままではいけない」と思った夫は、夫婦でできる〝ある計画〟を考えつきました。
それは、キャンプに行くこと。
楽器好きな奥さんが、実は自然も好きだったことを思い出し、一緒に楽しめると提案したのです。
そこから、夫婦の新しい計画が始まりました。
ふたりでキャンプ場を探したり、テントを選んだり。
小さなキャンピングカーを借りて、家族で1泊2日の旅行に行く計画も立てました。
一緒に趣味を楽しめなかった夫婦が、やっと見つけた小さな計画は大成功で、家族の関係もよくなりました。
でも、この話はここで終わりません。
夫から妻に、今度はこんな提案があったのです。
「もしかしたらウクレレなら、俺でもできるかも」そして夫はウクレレを購入し、練習を始めました。
最初はなかなか上達しませんでしたが、少しずつ練習を重ね、今では家族で演奏会ができるまでになったのです。
もしも夫が妻の趣味に寄り添わず、キャンプを思いつかなかったら。
妻が、楽器にこだわるあまり夫の提案を受け入れなかったら。
このエピソードは生まれなかったでしょう。
相手の大切にしていることを、少し大切にしてみようとしたふたりの気持ちが、小さな計画を通じて、実を結んだのです。
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