ホメ出しの着眼点を知ろう1魅力の、第一発見者になる。
ここまで、ホメ出しの「姿勢の整え方」をお伝えしてきました。
この大きな流れを知っただけでも、あなたは着実にホメサピエンスへと進化しています。
さて、第2章では、ひきつづき「何をホメ出しするか(What)」という観点で話を深掘りしていきます。
お伝えしたいのは、ホメ出しにはアクセルとブレーキがあるということ。
アクセルの踏み方、踏むタイミング、あるいは注意点も含めた「ホメ出しの着眼点」をお伝えします。
まずは、前章でお話しした「発見」の精度を上げていくアクセルの踏み方からです。
コピーライターは商品や企業の魅力の第一発見者
虫か星の、第一発見者になりたい。
小学3、4年生のときに、そんなことを思っていました。
よく考えたら虫が苦手で目も悪いので早々に諦めたのですが、今私はコピーライターとしてその夢を叶えようとしています。
なぜかというと、コピーライターは商品や企業の、魅力の第一発見者になる機会が多いからです。
生活者はもちろん、その商品の開発者や経営者ですら気づいていない足もとにある魅力を、どうにか提案の日までに発見するのがコピーライターです。
どうしてかというと、すでにみんなが知っている魅力をちょっと表現を変えてコピーにしたところで、見た人に鮮やかなインパクトを残すことができないからです。
つまり、せっかくつくった広告がスルーされてしまう。
だからこそやっぱり、新しいコピーには、新しい魅力が含まれていてほしいのです。
魅力の見つけ方は、コピーライターの数だけスタイルがあります。
ホメ出しは意識改革と努力の積み重ね
私の場合は、惚れレンズを装着して、観察魔になって、ハッとした瞬間を逃さない。
この、ホメ出しのホップステップジャンプを繰り返しています。
つまり、センスとか天賦の才能ではなく、ただの意識改革と努力の積み重ねなんです。
だから、誰でもコピーライターになれるし、誰でもホメ出しができる。
私はそう確信しています。
「相手にこんな魅力があったんだ!」というあなたの新発見が、「私こんな魅力あったんだ!」と、相手にとっても新発見である。
というパターン①の「新−新発見」が、いちばん相手の印象に残りやすいというお話をしました。
だけど、いちばん難易度は高い。
でも、不可能ということではありません。
それを先人コピーライターたちが示しています。
例えばこちらのコピー。
名古屋まで2駅大阪まで3駅(品川区)見た瞬間「そうきたか!」と思いました。
品川区の魅力は、しなわが水族館や、品川プリンスホテルのプールなど、わかりやすいものが山ほどあるわけですが、「その魅力があったか!」という点を突いていますよね。
しかも鮮やかな表現で。
あとはこのコピー。
愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。
(九州旅客鉄道)
1993年の名コピーなんですが、まったく色あせないですよね。
鉄道に揺られて好きな人に一年ぶりに会いにいく、あるいは親元を離れて都会に上京する。
そんな乗客の、愛とか勇気といった目には見えない感情を、鉄道は確かに乘せています。
鉄道のコピーというと、速さとか車内空間の快適さ、窓の外に広がる景色のことなんかをうっかりホメたくなりますよね。
そうではない新発見をコピーで表現しようという気概が感じられます。
この2つのコピーのような新発見は、なかなかできるものではありませんが、好例として自分の中に持っておくだけで、ホメ出しの精度は上がります。
「脇に置く」
ではここから、どうやったら魅力の第一発見者になれるかの極意をいくつかお伝えします。
ポイントは、脇に置く、聴き出す、外れ値を見つける。
この3つです。
まずやるべきは、観察範囲の一部を狭めることです。
具体的に言います。
これまでに相手が多くホメられてきたであろうポイントは、一旦脇に置いておきましょう。
例えば資料作成が早い男性であれば「もう資料できたんですか!?信じられない」「驚きのスピードですね!」と繰り返し言われてきています。
機転がきく人であれば「機転がききますね!」と何百回も言われているでしょう。
だからこそ、あえて相手にとっての「ベタなホメポイント」はサクサク外していきます。
再発見系ではなく、新発見だけを狙いにいきます。
相手の浅瀬部分をサッと通り抜け、どんどん深海へと潜っていくのです。
ベタなポイントはスルーする、と決めて観察をしていくと、実に多くの発見を得ることができます。
オシャレさにばかり気を取られていた仕事仲間の、資料をそろえるときの美しい所作に気づくかもしれないし、いつだって理路整然としている上司の何気ない瞬間に見せる少年のような笑顔にハッとするかもしれません。
相手の新しい一面が、次々と目に飛び込んできます。
これは、相手へのバイアスを外し、もう一度相手と出会い直すための工夫なんです。
相手を観察しながら、言葉を集めていく。
けれどその中でベタなポイントは一旦脇に置いておいて、ホメ出しの候補からは戦略的に外していく。
そんな工夫から、新発見系のホメ出しは生まれます。
「聴き出す」
そのとき、表面ばかり観察していても情報量に限りがあります。
だからこそ、相手の内面にも発見を見出すことが必要になってきます。
その人の思想や哲学や姿勢。
生き方や在り方。
そうした魅力は、内面に宿っています。
観察パートにあった「信念軸」「未来軸」に関わるところです。
では、どうやって内側の情報を外在化させるか?聴き出すことです。
「聴くことで、相手の魅力を見える形で外へと押し出す」、略して「聴き出す」です。
でも堅苦しくなく、できればリラックスした雰囲気の中で。
対話というより、ちょっとした雑談をしながら、本音ベースで話をする。
これを、私は「発掘雑談」と呼んでいます。
コピーを書くときにも、経営者や開発者へのヒアリングの場があるのですが、ここで勝負が決まります。
コピーライターの仕事の9割は、聴き出すことなんです。
私は経験上そう確信しています。
それはホメ出しも同じです。
相手を観察するときに、聴きながら引き出していく。
例えば、「信念軸」で観察したいときには仮説をぶつけてみる。
「先輩、とにかく家族の幸せを一番大切にしている印象があるんですけど、何かきっかけはあるんですか?」。
すると、「そうなんだよ。
実はね…」と一歩深い話を聴き出せたりします。
また、「未来軸」で観察したい場合には、「自分の子どもが20歳になるまでには、もっと豊かさを実感できる社会にしたいんだよね」などと自分のビジョンを共有しつつ、「どういう社会が、豊かさを実感できる社会だろうね」と自然と話を振りながら、相手が描く理想的な未来像を聴き出す。
それは、雑談といいながらも真剣勝負です。
自分が持つすべての集中力と好奇心を、注ぎ込む。
私はいつも、自分と相手にだけスポットライトが当たっていて、周辺の世界はブラックアウトしているイメージを持ちます。
そういう状況の中で、前傾姿勢で、「相手の新しい一面」を内面から探ろうとする。
「聴く」という行為のスペシャリストに、ノンフィクション作家の小松成美さんがいます。
中田英寿さん、イチローさん、YOSHIKIさんなど、超一流と呼ばれる人たちから絶大な信頼を得て、膨大なインタビュー時間を経て、数々のベストセラーを生み出してきた方です。
小松さんは相手から話を聞くときに、心の中でこう呟くそうです。
「今この世界で、あなたのことを一番知りたいのは私です」このような姿勢で挑むからこそ、質問にも熱が入
欠片でも見逃さないんだ、という迫力が宿るのです。
私たちは「聴く技術」をテーマにしたビジネス研修などで、「相槌の打ち方」「相槌の使い分け方」「相手が言ったことをおうむ返しする」といったテクニックを教わります。
でも、小松さんがおっしゃるのはそれ以前の、「聴く姿勢」のお話です。
「あ、この人はちゃんと私の話を受け止めてくれているな」と相手に感じさせる人にだけ、開かれる言葉があります。
何より必要なのは、相手が「この人にだったら自分のことを話していいな」という心理的安全性を確保することなんです。
心理学者であるカール・ロジャーズは、こんな言葉を残しています。
「受容、誠実さ、共感的理解が、教室などでの成長を促す人間関係における重要な条件。
最も優先させなければいけないのは、聴いてもらっている、理解されている、大切にされていると相手が感じること」相手の内面を知るために聴き出すときには、真剣に、誠実に、相手に一途になって向き合うべきなのです。
そうすることで初めて、相手の思わぬ一面と巡り会えることがあります。
ちなみに傾聴姿勢は、あなたがそのときどんなレンズで相手を見ているかに左右されます。
例えば「自分は相手より偉いレンズ」をかけていたり、「相手の話は面白くないに違いないレンズ」をかけていたら、情報が歪んだり、届かなかったりします。
これはある意味では「耳が濁っている」状態です。
だからこそ、相手はまだ自分が知らない魅力や物語で溢れている、という前提に立てる「惚れレンズ」を装着し、情報をまっすぐに受け止めきることが大切です。
そのときあなたは「耳が澄んでいる」状態なのです。
耳を澄ますと、その攻めの傾聴姿勢は相手に必ず伝わります。
そうすると、また一つ言葉の引き出しが開かれるのです。
「外れ値を見つける」
魅力の第一発見者になるための極意の3つ目は、聴き出すときに「違い」をキャッチすることです。
平均からハミだした外れ値に着目するのです。
つまり、相手が持つ「独自性」にスポットライトを当てます。
そのとき、相対的に、自分と相手を比較してもいいです。
Aさんにあって自分にないものとは?Aさんが色濃く持つ、独自性の高い特性に焦点を当てていきます。
これは、「唯一無二軸」で観察することと同義です。
すると、「誰かを言葉で不用意に傷つけないという強い信念があるんだ!」「大きな仕事を任されるほど、冷静さが増すんだ!」と、ハッとする面がどんどん見つかります。
その中で一番ハッとしたもの(新発見である可能性が高いもの)をホメ言葉として贈る。
それが一見、マイナスに思えるものでも大丈夫。
すべてのマイナスはプラス転換できます。
ただ、外れ値を見つけるときには、「超」がつくほど振り切れているかを見極めてください。
「超慎重」な同僚がいれば、「徹底的に色々な可能性を検討するから、一緒に仕事していて心強いよ」と、すかさずポジティブ転換してください。
このポジ転のやり方は、第3章の表現パートでもお話しします。
とにかく、プラス材料だろうが、一見マイナス材料だろうが、相手の外れ値に狙いを定めて、「ハッ」としたらホメ出しする。
ホメは格闘
ホメは楽じゃない。
むしろホメは格闘なんです。
脳がヘトヘトになります。
でも、地道に戦っていると、必ず勝利がおとずれる。
そういう格闘です。
そのためには、自分自身のコンディションを整えたり、相手を惚れレンズ越しに観察したり、ハッとした瞬間を見逃さなかったり、一歩一歩を積み上げていきます。
ホメに近道はありません。
私が書いたコピーを一つご紹介します。
ブラインドサッカーという、アイマスクを装着してプレーするスポーツがあります。
2014年に、日本で世界選手権が開催されたときに一本のコピーを書きました。
見えない。
そんだけ。
(日本ブラインドサッカー協会)どんな「ホメ出し」をブラインドサッカーに対してしようか考えたときに、「頂点を狙え」「仲間を信じて」という、いわゆるスポーツ大会系コピーみたいなベタなホメポイントは脇に置きました。
また、ウェットなお涙ちょうだい系も捨てました。
その上で視覚に障害がある選手たちと「発掘雑談」をしたのですが、実に「普通」なわけです。
おいしい食べ物の話をしたり、好きな女性の話をしたり。
極めつきは、「見ないでサッカーするのって怖くないですか?」と聞いたら「いや、慣れれば普通だよ」とあっけらかんと言われたこと。
世間から見れば、アイマスクをしてサッカーをやる様子は「大変そう」「怖そう」「辛そう」と勝手な印象を持たれているので、そのギャップこそが魅力だなとハ
ッとしたんです。
この事実こそが、外れ値だなと。
そこで、「そんだけ」という極力ライトな表現を使うことを決めました。
脇に置くこと、聴き出すこと、外れ値を見つけること。
丁寧に段階を踏んでいくと、魅力の第一発見者になれるのです。
ホメ出しの着眼点を知ろう2リーダーシップのある、ホメ言葉を贈る。
人をいい未来へと導く言葉
佐藤雅彦さんをご存じでしょうか?ポリンキーなどの大ヒットCMを手がけ、「だんご3兄弟」や「ピタゴラスイッチ」など「つい見てしまう」「抗いがたい」作品の数々をつくられてきた方です。
実は社会人3年目のときに佐藤さんのもとで1年だけ修業する機会を得たのですが、このときの経験がその後の私の人生を変えました。
あるCMの、絵コンテ(絵と文字で示す、映像の設計図のようなもの)を見せたときのこと。
佐藤さんが、「澤田さんは頭の中で映像が流れていますね」と言ってくださったんです。
どういうことかというと、確かに私は映像企画を考えるときに、頭の中で映像を一回完成させて、それをコンテに落としていたんです。
でも、佐藤さんが言うには、脳内で映像が流れない人の方が多いと。
私はそれを知らなかったんです。
だからその日から、「この道を極めよう!」と決めて、映像を脳内で流すことを意識的に強化しました。
私は日々新しいスポーツを考えていますが、アイデアを構想する段階から、そのスポーツが実現した光景を脳内で流すようにしています。
すると、運動が苦手でも楽しめるかどうか、笑いに満ちているかどうか、事前にシミュレーションできるんです。
15年前に佐藤さんから「澤田さんは頭の中で映像が流れていますね」とホメていただいたからこそ、自分の中で伸ばせた強みとも言えます。
これは、「リーダーシップのあるホメ言葉」と言えます。
つまり、佐藤さんは、その言葉によって私をいい未来へと導いてくださったのです。
社員や関係者を導く「リーダーシップコピー」
さて、ここでも、キャッチコピーを参考にしながら、この話を掘り下げていきます。
コピーにはいくつかの種類があります。
パッと目を惹くキャッチコピー。
それを数行の文章で補足するボディコピー。
あるいはキャッチコピーとボディコピーの橋渡しをするリードコピー。
その中には、人に対して強烈なリーダーシップを発揮するコピーがあります。
それを私は「リーダーシップコビー」と呼んでいます。
例えばこちら。
地図に残る仕事。
(大成建設)このコピーは外向けにも機能しつつも、インターナル(社員や関係者)向けのコピーともいえます。
今自分がやっている仕事は、建物を建てているだけではない。
中長期的にこの星に残る、地図を更新する仕事をしているんだ、という大義が端的に表現されています。
もし私が大成建設の社員だったなら、この言葉に誇りを持ち、この言葉にリードされる形で仕事をするはずです。
It’saSony.(ソニー)こちらも、歴史に残るリーダーシップコピーです。
「これはIt’saSonyだね!」「確かに!この発想は他社にはない!」というように、この言葉が羅針盤となり、ソニー社員や関係者を、It’saSonyな未来へと引っ張ってくれたのではないかと容易に想像ができます。
最後にもう一つ。
目の付けどころが、シャープでしょ。
(シャープ)完璧なリーダーシップコピーです。
会議中に「目の付けどころがシャープだから、これで行きましょう!」「目の付けどころがシャープじゃないから、もうちょっと考えましょう!」と、経営や事業や開発を進める上での判断基準となる、みんなを適切な未来へと誘ってくれる言葉です。
相手の中に「道」を見出す
ホメ言葉には多様なパターンがあるのですが、その中の一つがここまで説明をしてきた、リーダーシップのあるホメ言葉です。
では、どうやったら、この言葉を意識的に贈ることができるでしょうか?ポイントになるのが、相手の中に「道」を見出すということです。
剣道、花道、柔道、などに代表される「道」のことです。
どういうことでしょうか。
ある結果に向かって進むとき、人は、その人らしいプロセスを踏みます。
それが「道」というものです。
例えば私はCMをつくるというゴールに向かって「頭の中に映像を流す」プロセスを踏みますが、「象徴的なワンシーンをつくる」人もいれば、「映像ではなく言葉で組み立てる」人もいます。
それぞれの道があるわけです。
ある種の「スタイル」ともいえます。
リーダーシップのあるホメ言葉とは、「道」に光を当て、成長を促すものなのです。
リーダーシップコピーがあったからこそ、大成建設の社員の皆さんは「地図に残る仕事道」を極めているし、SHARPの社員の皆さんはかつて「目の付けどころがシャープでしょ道」を極めていたわけです。
例えば子どもがサッカーでシュートを決めたときに「結果」にだけ注目してしまうと、「いいシュートだったね!」とホメることになります。
もちろんそれもいいですが、そこで満足して、成長が止まってしまう場合があります。
できれば、なぜそのシュートにいたったのか、にスポットライトを当てるべきなのです。
「自分のプレイ動画を繰り返し見て研究した」など、そこには何らかの「道」が必ずあります。
その流儀を、ホメ出しするのです。
「自分の動画を何度も見て、傾向と改善点を見出していたね。
なかなかできることじゃないよ。
すごいね」。
そうすると、ホメ出しされた相手は、その道をさらに極めようとするでしょう。
そして、相手が自覚していない道こそ、ホメ出しするべきなのです。
道とは、本人がその上を歩いていることを自覚してこそ一層追究できるからです。
それは、いつだってわかりやすい道とは限りません。
未舗装の場合だってあります。
だけど、その先に綺麗な道がのびていくイメージをあなたが持てれば、「あ、そこに道ができはじめてるよ!」とホメ出しするべきなのです。
すると、その言葉によって、相手がその道を認識し、積極的にその上を歩こうとするようになる。
相手に道を示すから、リーダーシップのあるホメ言葉なのです。
ですから、目の前の相手をホメ出しするときに、「この方は何の道のプロなんだろう」という目線で観察することが大切になります。
どんな結果を積み重ねてきたのか。
そこに至るまでに、どのような過程があったか。
癖が働いたか。
道は、すべての人の中にあります。
ちなみにコピーライターは、さまざまな企業や商品を見つめてきているからこそ、他社にはない魅力としての「地図に残る仕事」を抽出できるのです。
佐藤さんは、数多くのコピーライターやCMプランナーを知っているからこそ、「澤田さんは頭の中で映像が流れていますね」という外れ値に気づいてくださったのです。
そう、ホメ経験値が上がれば上がるほど、相対的に目の前の相手を観察できるので、「道」をズバッと探しあてることができるのです。
第1章で、ホメ出しは絶対評価でいい、誰かと比べなくていい、というお話をしました。
それは「AさんはBさんより◯◯」と、縦の比較で目の前の人を見るべきではないという意味です。
多くの人や企業を見ているから、その人ならではの道を発見できるというのは、「AさんはBさんと違って◯◯」という横の比較ができているからです。
そして、この横の比較をするための力は身につけておくに越したことはありません。
つまり、リーダーシップのある言葉を相手に贈るためには、誰もがまず「ホメ道」を極める必要があるのです。
そのためにこの本があります。
呪いのホメを贈ってはいけない
でも、そのときに注意点があります。
それは、「ホメ出しによって、相手を恣意的に、自分にとって都合のいいようにコントロールしよう」と思ってはいけないということ。
一見リーダーシップのある「祝い」の言葉のようであり、その実、変な方向に導いている「呪い」の言葉であるということがあります。
「言葉の資産/負債」を思い出してください。
自分としては「言葉の資産」を贈っているつもりが、相手にとっては人生のマイナスにつながる「言葉の負債」になってしまうことがあるのです。
例えば、外出先で子どもが静かにしているときに、「大人しくしてえらいね」とホメ出ししたとします。
すると子どもは、なぜ大人しくするとえらいのか?どういう場面では大人しくするべきか?を考えずに、「大人しくしていると親からホメられるから大人しくする」という考え方をリーダーとし、行動します。
そこには、「他人に迷惑をかけないようにする」だけでなく、「子どもが大人しくしている方が楽だ」という大人の思惑が含まれているかもしれないのに。
子どもは、親の言葉を鵜呑みにしてしまうことがあります。
だからこそ、今自分が発する言葉によって、相手をいい方向に導いているだろうか?それとも、よからぬ方向に誘導していないだろうか?と常に自分に問い続けてください。
それほどに、あなたの言葉には力があるのです!心理学者キャロル・ドゥエックが、小学5年生400人を対象に行った研究があります。
生徒たちにやさしいパズルをやってもらい、ホメたのです。
半分には「あなたは頭がいいんだね」と知性をホメ、もう半分には「一生懸命やったね」と努力(道)をホメた。
次に、「少し難しいパズル」と「簡単なパズル」を提示すると、知性をホメられた生徒たちは、「自尊心を守り、失敗することを恐れる」ようになり、簡単なパズルを選んだ。
それに対して努力をホメられた生徒は、難しい方のパズルを選んだそうです。
よからぬ言葉は、相手にとって「言葉の檻」となります。
変な方向にホメ出しすることで、相手の言動を過度に制御してしまったり、間違った方向に導いてしまうことがあります。
だからこそ、「言葉のシェルター」となるような、安心して次の挑戦につながるホメ出しを贈ることができるようにしましょう。
「澤田さんは頭の中で映像が流れていますね」という佐藤さんの言葉は、仕事で自信を失いそうになるとき、私を守ってくれました。
揺るぎない自信をもたらしてくれました。
シェルターそのものです。
私にとっては「一生のよい言葉」です。
ホメは時間差で効くことがある
もう一つ大切なことを。
ホメ出しは、あなたと、ホメる相手との共同作業です。
当たり前ですが、相手あってのコミュニケーションです。
つまり、いくらあなたが「リーダーシップのある言葉を贈るんだ」と意気込んでも、その狙い通りに相手が受け取ってくれるわけではありません。
相手にとっての新発見度合いが高いとか、あるいはタイミングがもうこの上ないぐらいドンピシャである場合は、言葉に即効性が宿りますが、たいていの場合、あなたが力を入れて贈った言葉は、あなたが期待するほどには届かないことがあります。
でも、大丈夫です。
その言葉は、時空を超えて届くことがあります。
私が小学5年生だったころ。
当時担任だった先生が、「みんな図書館の本は1週間で返すように」と帰りの会で言ったとき、私はすかさず「先生の机にある本、1ヶ月以上置いてありますよ!」と指摘してしまったんです。
担当したくない生徒ダントツ1位です。
今考えても青ざめてしまうぐらい、「正論の暴力」です。
さすがに「叱られるかな」と身構えたのですが、先生はニコッとしてこう言いました。
「正しいことを、ひるまずに言える勇気があるね。
参りました」先生のこの言葉を、私はその後20年以上思い出すことはありませんでした。
でも、30代になって、ある出来事をきっかけにその言葉がふいに甦ったのです。
息子に視覚障害があるとわかり、理不尽な出来事に遭遇するたびに、どう考えても障害は人にあるのではなく、社会の方にこそあると確信した。
そのころ、ある行政の方と話していて、さも障害があることは本人の非である、といったニュアンスの言葉を聞き、私は「障害のある人や親に責任があるという考え方はおかしいです」と面と向かって言いました。
心臓がバクバクになり、その瞬間相手の表情が曇り、摩擦が生じました。
けれど、結果としてそこから硬直した状態にヒビが入り、新しい仕事につながっていったのです。
不思議だったんです。
どうして自分に、あんなことが言えたのか。
その理由を探っているときにハッとしました。
あのときの、担任の先生のホメ出しだ。
「正しいことを、ひるまずに言える勇気があるね」。
あの言葉が、私の中で保存されてずっと残っていて、しかるべき瞬間に解凍されて、脳内でスパークしたんだ。
先生としては、リーダーシップのある言葉を贈ろうとか、目の前にいる一人の生徒に何か武器を授けようとか、そうした狙いはなかったと思うんです。
だけど、おそらくですが、何かしらハッとした気持ちがあって、それを最適な表現で伝えてくれた。
11歳の少年は30代になったときに、ようやくその言葉を受け取った。
そう、コミュニケーションとは「今ここ」だけで成立するわけではないんです。
ホメ出しには、即効性があるべきだ。
と考えてしまうかもしれません。
確かに、相手の状態や心情によっては早く効く言葉も必要でしょう。
だけど、人生という長い旅をお供してくれて、その時が来たら力になってくれる。
私が佐藤さんと小学校の担任の先生からいただいたような「いつリーダーにな
ってくれるかわからない言葉」も、大切なのです。
ホメ出しの着眼点を知ろう3ホメ殺すのではなく、ホメ生かす。
言葉は「再生ボタン」にも「停止ボタン」にもなる
ホメ殺しがいちばん怖い。
村上春樹さんがかつてインタビューで語っていましたが、本当にその通りです。
前述した「呪いのホメ」もそうですが、ただホメればいいということでもないのです。
ホメ出しとは、相手の成長を促したり、可能性を広げたり、人生を進める一助となるべきです。
これは、相手の「再生ボタン」を押すような行為なのです。
他方で、ホメ殺しとは、ときに相手の「停止ボタン」を押しかねません。
だから、人をホメ出しする前に「ひょっとして、これってホメ殺し!?」と思ったらブレーキを踏むべきなのです。
では、どういうときがホメ殺しか?私は、過度にホメすぎることによって、あるいはホメる内容が芯を食っていないことで、相手の未来や可能性を摘み取ってしまう行為だと捉えています。
つまり、量か質どちらかに問題がある場合です。
まずは、量によるホメ殺し。
例えば若いスポーツ選手がテレビの密着番組に出て、「見たよ!」「すごいね!」と会う人会う人からホメられて、天狗になって失墜していくケースです(例えばの話です)。
つまり、賞をとったとか、メディアに出たとか、会社が上場したとか、そういったタイミングにおいては、瞬間風速的にホメ量が増えてしまうので、当人はホメ殺される可能性が高い。
だとしたら、その瞬間あなたは、相手をむやみやたらにホメない方がいい。
場合によっては、ハッパをかけたりする方がいいかもしれないのです。
次は、質が悪いことによるホメ殺し。
またまた村上春樹さんの言葉をお借りすると、世の中で何がいちばん人を深く損なうかというと、それは見当違いな褒め方をされることだ。
(村上春樹『村上ラヂオ』新潮社)観察が浅い、無理矢理こじつけでホメようとしている、バイアスや先入観などによりあさっての方向にホメてしまっている、あるいはホメ出す側の意図が入りすぎている。
こうした質が悪いことによるホメ殺しが、多発しています。
「そんなこと本当に思ってないでしょう」「適当なこと言わないでよ」と、ホメ殺しというより、二人の関係性を殺してしまう可能性だってあります。
ですので、本書で繰り返し述べているように、丁寧な観察をしたり、しかるべき魅力の第一発見を目指したり、地に足をつけながらホメ出しするべきです。
それが、結果的に相手の再生ボタンを押す「ホメ生かし」になります。
ホメ出しするべき3つのタイミング
ホメ出しとは「ホメ道」だというお話をしましたが、そこにはホメるべき間合いがあります。
私が、特に「今だ!」と思うのは❶相手が自信を失っているとき❷相手に努力の跡が見えたとき❸自分が相手に嫉妬をしたときという3つのタイミングです。
❶相手が自信を失っているときまずは、「相手が自信を失っているとき」。
試験の結果がよくない、営業成績が悪い、競合プレゼンに負けた。
「自分ってダメなんだな」と思うときって誰しもありますよね。
努力が足りないなど、もちろん原因が相手にあることもあります。
だけど、やり方は正しかったのにただ結果がついてきていない場合もあります。
やり方がそもそも間違っていたけれど、そこに挑む姿勢そのものは素晴らしかった場合もあります。
また、たまたま設定された区切りにおいて結果が出なかっただけで、あと1年勉強する時間があれば受験が成功していた場合だってあります。
つまり「結果」とは、結果がすべてではない。
だからこそ、いい結果が出なくて落ち込んでいる人がいたら、私はホメ出しします。
微々たるものでもプラス材料を見つけ、結果以外のポイントをホメ出しします。
「粘り強さがすごかったよ」「できないことを何度も反復してて、すごいなと思った」「諦めないで最後まで全力を尽くせたね」その上で、もしやり方がそもそも間違っているのなら、何かアドバイスを添えるのもよいでしょう。
❷相手に努力の跡が見えたときつづいて、「相手に努力の跡が見えたとき」。
こちらは結果が伴ったとしても、そうでなくても、いずれにせよ、努力したこと自体をホメ出しする。
「あの分析の深め方は真似できない」と、その跡をなぞるようにホメます。
2020年に話題になった、NiziProject(虹プロ)の総合プロデューサーであるJ.Y.Parkさんは、まさにそんな「ホメ生かし」の天才と思うわけです。
「完全にスターのように見えました」「点数をあげるとしたら本当に100点」Parkさんは、まだまだ努力をする余地があるメンバーに対しては、厳しい言葉をつきつけることもあります。
しかし、努力の跡が見られ、結果として相手の成長を目の当たりにしたときには、最適なホメ出しを繰り出します。
魔法のような言葉をかけられたメンバーが自信を得て、輝きをますます増していったシーンをメディアでご覧になった方も多いでしょう。
RPG(ロールプレイングゲーム)では、経験値を積んでいくと、レベルが上がりますよね?そのとき、具体的な数字とレベルアップするときの効果音で、プレイヤーは自分が成長したことを確認できます。
でも、現実では、わかりやすくレベルの目盛りが上がっていくものではありません。
親切に、レベルアップ音も鳴りません。
だからこそ、あなたの「ホメ言葉」が、レベルアップを証明する印となります。
若かりしころの藤子・F・不二雄は、多忙を極めていた手塚治虫に描きかけの作品を見てもらったことがあるそうです。
すると、「おお、すごいな。
がんばってますね」と言葉をかけられた。
このことが励みになり、『ドラえもん』を代表とする名作漫画の数々が生まれていったことは想像に難しくありません。
「おお、すごいな。
がんばってますね」は、ホメ出しそのものです。
「あなたの努力の方向性は間違ってないですよ。
すごいですよ。
このまま突き進んでくださいね」という想いがこもっています。
ここには手塚治虫の、ホメ出しによって「相手の未来にいい芽を植えたい」という次世代への愛が感じられます。
努力の跡が見えたら、ホメ出しする。
それが未来を変えてしまうことだってあるのです。
手塚さんのこの一言がなければ、第1章のスネ夫ワークも存在していないかもしれません。
❸自分が相手に嫉妬をしたとき3つ目の最適タイミング。
これは不思議に思うかもしれませんが、「あなたが相手に嫉妬をしたとき」です。
相手がいい成績をおさめた、いい仕事をした、自分では手に入れられない幸せをおさめた。
そんなとき、どうしても人は、心がザワッとしたり、ちょっぴり嫌な気持ちになったり、心の底から祝福できないことがあります。
それは裏返すと、相手が、あなたを嫉妬させるほどの確かな結果を残したということです。
そんなときは、悶々とせずに、秒でホメることをおすすめします。
私がまだコピーライターの駆け出しのときに、ある広告賞で優秀賞を受賞しました。
一方、同期のコピーライターは、最優秀賞を受賞したんです。
発表会場で、その結果を知った私は、当然「悔しい!」と思ったのですが、次の瞬間その同期に、「いや、あんな切り口があるのかってびっくりした。
おめでとう!」と伝えました。
すると、10年以上が経った今でも相手は、「あのとき澤田が、気持ちいいぐらいホメてくれた」と覚えてくれています。
「ホメ出しをするといっても、タイミングがわからない」という質問を受けることがあるのですが、この「自分が相手に嫉妬をしたとき」はわかりやすいのでおすすめです。
特に練習や勉強や仕事など、相手の日頃の鍛錬が効いている場合においてホメ出ししましょう。
また、あなたが相手にとってライバルのときはなおのこと。
ライバルにホメられたという驚きとともにホメ言葉が届くので、相手は自信を持ち、なにかのご褒美かのように良好な人間関係もできあがることもあります。
好敵手はいつか仲間になるかもしれない。
だからこそ、ライバルをホメ出しすることも、私は大切だと思っているのです。
ただし、「永遠に負けた」とは思いません。
あくまで「この試合に負けた」だけなので、また次頑張ろうと、相手をホメながら、自分を鼓舞させます。
ホメ出しはゴールではなくスタートであるべき
このように、ホメ出しするときには、ホメたときがゴールになるホメ殺しではなく、スタートになるホメ生かしをするべきなのです。
ちなみに、「相手が自信を失っているとき」「相手に努力の跡が見えたとき」「自分が相手に嫉妬をしたとき」すべてに共通しているのが、どれもその人にとって大なり小なり「人生の分岐点」であること。
そのとき、マイナスの流れを断ち切ってプラスにしたり、あるいはプラスの流れをさらに加速させる。
「ここしかない」「今だ」という絶妙なタイミングでホメ出しすることで、相手をホメ生かすことができるのです。
ホメ出しの着眼点を知ろう4ホメるときは、森を見て、木も見る。
「森を見る」ホメ出しと「木を見る」ホメ出し
ここまでの「ホメ出しの着眼点」、いかがでしょうか?ホメ出しのアクセルを踏むために「魅力の第一発見者」になったり「リーダーシップのある言葉」を贈ったり、相手を「ホメ生かす」ことの重要性をお伝えしました。
一方で、相手をよからぬ方向に導く「呪いの言葉」や「ホメ殺す言葉」を贈りそうになるときには、ブレーキを踏むべきという注意点もお話ししました。
この章の最後に、もう一つだけホメ出しのアクセルの話をします。
ホメ出しするときに観察が足りないと、つい雑にホメ出ししてしまうときがあります。
しかし逆にいうと、正しく丁寧な観察さえすれば、解像度の高いホメ出しをすることができます。
実はそこには❶「」❷「」の2パターンがあります。
「森を見る」ホメ出しとは、その人の大きな方向性や特徴、揺るぎないスタイルなどをホメること。
「木を見る」ホメ出しは、その人の「森」を因数分解して、言語化して、なるべく具体的に、できれば多くホメる。
そして、実は森を見るホメ出しとは、木を見るホメ出しの積み重ねの先に見つかりますし、逆もまたしかりです。
ちなみに、世のホメ出しを観察していると、そのほとんどが「森を見るホメ出し」であることがわかります。
「やさしいね」「丁寧だね」「足速いね」と、抽象度の高い表現で、相手のよさを大きな方向性でまとめ、言語化する。
もちろんこれも大事ですが、森を構成する木々に着目し、言語化するという試みも是非おすすめします。
高浜虚子さんの『俳句への道』という本に、「客観写生」という手法が紹介されています。
主観を消して淡々と観察することの意義が語られているのですが、これは木を見るホメ出しにおいて大切な心構えです。
そこに「我」が入ることで、観察の精度が落ちることがあります。
とにかく目の前の相手の魅力を見たまま、感じたままに、ストレートに拾い上げていく。
自分の存在を消すから、出現する相手の「美」があるのです。
ただし、「惚れレンズ」を装着した写生は、ホメ出しにおいて有効です。
それは、相手の持っている魅力を拡張するからです。
逆に注意しなければいけないのは、例えば相手はこういう人に違いないという「決めつけレンズ」を装着しているケース。
つまりバイアスに囚われている状態。
これこそが観察を邪魔する「我」なのです。
20代のときに、あるCMを納品した日。
先輩と祝杯をあげたのですが、「澤田くんがよかった点が3つある。
映像素材を丁寧に見たこと、ベストな音楽を探し当てたこと、最後のコピーを入れるタイミングを指摘したこと。
本当にありがとう」と言われ、びっくりしたんです。
なぜなら先輩が指摘した3点とは、まさに自分としては、力を入れ、妥協しなかったポイントだったからです。
「細かいところまで、見ていてくれたんだ!」という驚き。
そしてなにより、「色々指摘して先輩に失礼かな」とちょっと思っていた矢先だったので、先輩が自分のプライドはさておき、ピュアに私の頑張りを認めてくれたのが嬉しかった。
「やっぱり私は、この3点を頑張れたんだ」と、自分のことを再発見できたし、この3本の木から、ひょっとして私は「粘り強い」「忖度せず意見を言う」マクロな強さがあるのかもしれないと、私という森が見えてきたんです。
そんな自信を持てたのは、先輩の「客観写生」のおかげです。
木というより枝葉を見るコピー
やはりコピーを書くときにも、企業や商品の魅力をとにかく細かく分解して、言語化することがよくあります。
その方が、具体性を持って魅力が伝わるからです。
例を見ていきましょう。
例えばみんなが知っている接着剤のセメダイン。
仮にセメダイン君が後輩だったとしたら、上司であるあなたはどうホメますか?「なんでもくっつけて偉い!」みたいになるのではないでしょうか。
ちなみに、今セメダインでメインに使われているコピーは、「つけるが、価値。
」です。
セメダインの揺るぎない、王道的な価値が端的に詰まっています。
つまりこのコピーは「森を見る」目線で書かれています。
翻って、セメダインの「木を見る」系のコピーは何か?過去、こんなコピーがありました。
ビールと同じくらい、「とりあえず」が似合う。
(セメダイン)セメダインのよさってなんだろう、と細部を探った結果、「代替品がない」というポイントに行き着いたのでしょう。
名作です。
このコピーは、これ以上細かく分解できないぐらい、木というよりも枝葉に着目しています。
細部の輝きを求めることで、ハッとする表現にたどり着くことがあるんです。
例えば丁寧な仕事に定評がある後輩がいたときに、「いつも丁寧に仕事するよね、ありがとう」と森を見るホメ出しをしてももちろんいいです。
十分相手に伝わります。
ただ、もしあなたに余裕があれば、この言葉を分解してください。
「何度も抜け漏れがないか資料チェックしてくれるよね」「毎朝誰よりも早く出社して、確認時間を多く取ってくれているよね、ありがとう」とホメ出ししてみましょう。
木を見るホメ出しはよく見える写し鏡
どうでしょう、木を見るホメ出しは、「自分の細かいところにまで目を向けてもらえている」という実感も伴いませんか?その分、印象に残りますよね。
ホメ出しの言葉とは、相手にとっては自分を見る写し鏡のようなものです。
「丁寧に仕事するよね」は、抽象度が高く、解釈する余地がたっぷりあるので、ある種自分の理想的な姿を投影できます。
他方で、「何度も抜け漏れがないか資料チェックしてくれるよね、ありがとう」という具体的なホメ出しは、「解像度の高い写し鏡」のようなものです。
「なるほど、自分のよさはここなんだな」ということがはっきりと見えて、今後自分のよさを自己模倣することができます。
なので、具体的に、細分化して、言葉を明確にしていく「木を見る」ホメ出しは、相手が自分をより一層見つめ直すことができるんです。
おすすめしたいのは、「相手にとって新発見」系のときには、森を見るホメ出しをすることです。
「自分にこんな一面があったんだ」という意外性があるので、新しい情報としては十分です。
一方、「相手にとって再発見」系のときには、是非木を見るホメ出しを。
大きな傾向は本人がすでに知っているものであっても、それを細かく分解することで、ミクロな新発見をもたらすことがあるからです。
吉田松陰はホメ出しの天才だった
ちなみに、「森も木も見る」天才だと私が思う人物がいます。
吉田松陰です。
言わずと知れた長州藩の思想家で、明治維新に進んでいく日本の中でもがき続けた歴史的人物。
「諸君、狂いたまえ」というワイルドな発言や、黒船で密航しようとした奇行など、エキセントリックな人として記憶している人も多いかもしれません。
でも、吉田松陰のすごさは、その激しさだけではありません。
江戸末期に吉田松陰は、かの有名な松下村塾をつくります。
教育期間はわずか1年ですが、高杉晋作、伊藤博文、山県有朋など、明治維新で活躍めざましい若者たちを輩出したのです。
どうしてこんな短期間で、傑出した人物たちが巣立っていったのでしょうか?それは、「ホメ出し」が効いていたからだと私は想像します。
実は吉田松陰は、松下村塾から巣立っていく塾生たちに、必ず手紙のようなものを送っていました。
「愛の檄文」とでもいいましょうか。
松蔭との出会いのエピソードから始まり、本人の性格や長所を指摘し、生き延びるための術があり、決別の言葉で締める。
これは、冷静に分析した相手のよさを手紙で贈るホメ出しなんです。
あなたは詩がうまい、策を練るのがうまい、学業が急激に進歩した、いつか天下をとるであろう。
読んでみるとびっくりするのですが、驚くほど細かい点を突いているんです。
つまり、木を見ている。
その弟子に贈った言葉には、それぞれ何度も推敲した跡があったそうです。
つまり、この手紙でどう相手をホメ出しするかが、塾生たち、ひいては日本の運命を左右するのだと理解していたのでしょう。
ああ、私も吉田松陰先生に、ホメてもらいたかった。
この送序はネットでも見られますので、ご興味があればぜひ検索してみてください。
「ホメ出しの着眼点」は以上となります。
ホメ出しの功罪や、その適切なタイミング、観察方法や発見の精度の上げ方など、第1章の「ホメ出しの姿勢」を深める内容を色々とお伝えしてきました。
注意点が多くて大変そうだと思いましたか?でもご安心ください。
すべてを覚えておく必要はありません。
「ホメ出しにはアクセルとブレーキがあるんだな」ということを、印象として持っておくだけでホメサピエンスに進化するには十分です。
さて、次の章はいよいよホメ出しの伝え方や表現のお話です。
「ホメ出し」まとめ2章ホメ出しは着眼点と、アクセルの踏み方、踏むタイミングが大事着眼点1相手の魅力の第一発見者になるための極意●脇に置く:ベタなポイントはスルーして、相手の新しい一面と出会い直す。
●聴き出す:真剣に、誠実に、相手に一途になって向き合う姿勢を持つ。
●外れ値を見つける:相手が持つ独自性=平均からはみ出した外れ値に着目する。
着眼点2いい未来へと導く「リーダーシップのあるホメ言葉」を贈る●「リーダーシップのあるホメ言葉」は、相手の中にある「道」(その人らしいプロセス)に光を当てて、成長を促す。
着眼点3相手を新たなスタートへと導く「ホメ生かし」●「ホメ出し」とは、相手の成長を促したり、可能性を広げたり、人生を進める一助となるもの。
ホメすぎて「ホメ殺し」しないよう、意識する。
●ホメ出しするべき3つのタイミング❶相手が自信を失っているとき❷相手に努力の跡が見えたとき❸自分が相手に嫉妬をしたとき着眼点4正しく丁寧な観察が解像度の高いホメ出しを可能にする●ホメ出しの2つの手法・森を見るホメ出し:その人の大きな方向性や特徴、揺るぎないスタイルをホメる・木を見るホメ出し:その人の「森」を因数分解して、言語化して、具体的に、できれば多くホメるホメ出しの言葉は、相手にとって自分を見る写し鏡のようなものになる。
「木を見るホメ出し」は、相手が自分を見つめ直す機会を与えることにもなる。
COLUMN……………02ホメ出しのスペシャリスト、小松成美さん
「運転中に、ある人の悲しみを思い出して泣いていたら、パトカーに止められた」小松成美さんから聞いたお話です。
「聴き出す」パートでご紹介したノンフィクション作家の小松成美さんは、超一流と言われるアスリートやミュージシャンの書籍を多く出されています。
その根底にあるのは、人間への興味。
そして、物語への渇望です。
あるとき小松さんは富山県に出張へ行き、タクシーに乗りました。
そして、女性の運転手さんに話しかけました。
「私、富山のチューリップが大好きです。
ホタルイカ釣りも幻想的。
この世のものとは思えない美しさが溢れているのが富山ですよね」すると、運転手さんが、自身の生い立ちから何からバーッと話し始めたといいます。
これは小松さんにとって珍しい出来事ではありません。
あるときはレストランのウェイターの人と話し込み、その方の人生についてすっかり詳しくなったそうです。
そう考えると私たちは、タクシーの運転手さんや店員といった、人生の中で一瞬すれ違うような人に対して、一人の人間として興味を持てているでしょうか。
「名もなき人」という大括りの器に入れてしまってはいないでしょうか。
小松さんの著書『対話力私はなぜそう問いかけたのか』には、ホメ出しのヒントが多く詰まっています。
「聞く」ときにおそれるべきは、先入観(中略)。
あらゆる情報に対してアンテナを張りつつも、風説やメディアが報じる情報だけを盲信しない。
(小松成美『対話力私はなぜそう問いかけたのか』筑摩書房)相手の印象を白紙に戻す。
自分の目で、耳で、身体で受け取る情報だけを頼りに、相手の輪郭をゼロからつくりあげていく。
これはバイアスを意図的にふりほどき、今目の前に存在している相手と全身全霊で向き合うための、とても大切な姿勢です。
相手が主役だと考えるほうがコミュニケーションは上手にいきます。
(中略)私は人の話を聞くとき、まるで劇場で素晴らしい芝居を見ているような気持ちになります。
(『対話力私はなぜそう問いかけたのか』)私はこの話をご本人から伺ったときに、小松さんの真髄に触れた気がしました。
壇上にいる人を見るとき、私たちはその一挙手一投足を食い入るように見つめ、対象となる相手に憧れを抱きながら、つぶさに観察しています。
それはこの本でお話しした、惚れレンズをかけて、観察魔になる姿勢そのものです。
私たちは、常に他者の断片しか見ることができません。
また、その断片から相手の全体像を勝手に描き、相手とのすれ違いが生まれることも少なくありません。
でも、小松さんの「人との向き合い方」は違います。
前提として、「この人にはどんな素晴らしい物語があるんだろう?」とワクワクしながら、まるで一本の映画をじっくりと観るように、一人の人からシーン豊かな物語を引き出していくのです。
それは、相手の魅力が次々と溢れ出る、夢のような時間でしょう。
そして、その魅力を言葉にして伝えればホメ出しになるのです。
私は、小松さんのような眼差しで、世界や人を見つめたいと日頃から切に願っています。
今よりも、自分と他者を重ね合わせることができたなら。
どんなに世界は平和になるだろう。
最後に、私の胸に刻まれている小松さんの言葉をご紹介します。
私は、だれに対してもフラットに接する。
何歳であろうと、ただの人間だから。
私は、人間が一番面白いと思う。
自分では知り得ない立場に、だれもがいるから。
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