20プロ秘書は「お客様のクレーム」にこう答える 壱番屋のように飲食店を経営していると、全国で毎日何十万人というお客様がご来店されます。すると、どんなに一生懸命やっているつもりでも、お客様からクレームが寄せられることもあります。そんなとき、「自分は頑張っているのに」とか「面倒くさいことを言ってきたな」と感じたら、それはお客様第一、感謝の心を忘れている証拠。まずは何が起こったのか真摯にお客様のご意見をお聞きして、不快な思いをさせたことに対しては「申し訳ございませんでした」と心から謝ること。その意見が本当に必要な改善なのかどうかの判断は、その後です。 壱番屋では、すべての店舗にアンケート用ハガキが置かれていて、今ではメールと合わせて月間四万五〇〇件近くのご意見が寄せられます。私が創業者の宗次德二の秘書をしていた頃は、本人が毎日約一〇〇〇通のハガキを読み、お褒めの言葉なのか、苦言なのか、ご要望なのか仕分けをして、お詫びやお礼、必要なものには回答もしていました。 たしかに、クレームというのは企業にとって耳の痛いものです。しかし、思いを言ってきてくださるお客様には、企業に対する何とか改善してほしい気持ちがあるのです。だからこそそのご意見は、しっかりと受け止めなければなりません。そのうえで、「できること」と「できないこと」の判断に入ります。お客様第一の精神とはいっても、会社の方針に反することや、どう検討しても難しいことに関しては、「残念ながらできません」とご回答することも大切です。お客様に対して、一度「やります」と言ったことに対しては、絶対に実践しなくてはならない責任があります。何にでも軽々しく「やります!」と言っていながら実行できず、結果的にもう一度お客様の信頼を裏切ることになってはいけないのです。 とはいえ、宗次德二は「クレームは、いい店舗をつくるためのヒント、宝の山である」という前提でお客様のご意見と向き合っているので、努力で変えられることに関しては、「やります」とお答えして、店舗にもアンケート用ハガキのコピーをファクスし、徹底させていました。例として挙げられるのは、営業時間に関することです。たとえば、閉店時間が二二時の店舗があったとします。その直前にご来店されたお客様には、当然お入りいただきます。閉店時間直前であっても、営業時間内であることには変わりないからです。次に、同じお客様が二二時三分にご来店されたとします。その場合は、まだ他に食事中のお客様がいらっしゃる場合に限り、店舗がまだ料理を提供できる状態であれば、「当店は二二時までの営業でございますが」とお伝えして、ご飲食いただきます。 せっかくのお客様に次回も来ていただくために、閉店時間直後に駐車場にお客様の姿が見えた場合は、入店前に店から駆け出して「当店は二二時までの営業ですので、閉店しました。申し訳ございません」と、ひと言お伝えし、お帰りいただきます。捉えようによっては、「閉店ギリギリの時間は来ないでくださいね」と言われたようにも聞こえるので、このひと言によって気分を害するお客様もいるかもしれません。しかし、どの店舗も定時営業をしているのに、「二二時過ぎてもお願いしたら食事ができた」という誤解が生まれることは避けられるのです。その店舗に「もっと遅くまで営業してほしい」という要望が多数届くようであれば、今度は営業時間の見直しが必要になってくるのかもしれません。正論を伝えたからといって安心するのではなく、「お客様のご意見に対してまだ歩み寄れる部分があるのではないか」という視点を持ち続ける必要があるでしょう。 お客様からのクレームは、会社にとってよりよい状態をつくるための最大のヒントです。マイナスの感情を抱かず、真摯に受け止めることが大切です。 □クレームはやっぱり宝の山である
21プロ秘書は「つけこまれるスキ」をつくらない お客様からのクレームの多くは、企業への気持ちがあるからこそ出てくるもの。どんなに耳が痛くても、真摯に受け止めなければならないものです。しかし、ほんの数パーセントではありますが、企業を困らせるのを生きがいとしているプロの「クレーマー」もいます。そういう方に対しては、まったく別の対応が必要です。特にトップに仕える秘書として以下のことを覚えておいてください。 まず、どんなに厄介な事態でも、「ここだけの話」「今回だけは」という例外をつくって、品物を渡したりするようなことがあってはいけません。クレーマーは、「面倒なことを言えばたかれる会社だ」と理解して、必ずまた同じことをしてきます。こちらの弱味につけこんでくるのです。クレーマーは、あしらうのではなく、丁寧に相手の言い分を聞き、納得してお帰りいただくこと。時間がかかるかもしれませんが、これが「つけこまれるスキ」をつくらないということです。 昔に比べればずいぶん数は減りましたが、いわゆる「押し売り」を生業にする会社もあります。たとえば、勝手に本を送り付けて「代金を支払え」と要求したり、実態のない年間購読料を請求したりするのです。たとえ社長宛てにこのようなものが送られてきても、購読リストが用意されていれば、そういったものが届くたびにチェックして、次に同じ物が送られてきても開封せずに「受取拒否」でお返ししたり、破棄します。もし自分の会社にも同じようなものが届いたら、伝票にある電話番号に電話をかけてみてください。そういう会社は、ほとんどの場合電話がつながりません。もしつながったとしても、こちらの質問にまともに答えられない「電話番」がいるだけ。それがわかれば、次からは受取を拒否すればいいのです。 押し売りの相手から「代金を支払え」という電話がかかってきた場合は、最初に「確認ですが、どのようなお品でしたでしょうか」とお聞きします。そして、「当社では記録簿を見ても購読しておりませんが、誰宛てにお送りいただいておりますでしょうか」と続けます。「チェックしている」と聞けば、向こうもつけこむスキがないことがわかるので、「間違えました」と引き下がってくれるでしょう。こちらから、「手違いでした」という引き際のセリフを与えておくことも重要です。 押し売りの中でもさらにブラックな、「ゆすり」「たかり」に当たるようなものに関しては、間髪入れずにまくし立てる独特の話し方で、「マニュアルを元に話しているプロだな」と、すぐにピンとくるはずです。この場合は、「おかけ間違いではありませんか?」とは言わず、「私にはわかりかねますので、担当の者に代わります」と言って、専門の部署や、それがなければ男性の上司に電話を代わってもらいましょう。一般的に、「男性のほうが責任ある立場についている」という概念があるので、相手も「上の人間が出てきたな」と感じますし、何より電話を代わることで、録音の態勢を整えることができます。その間よく聞く、「当社は接客向上のためにこの会話を録音させていただいております」というコメントが流れるわけです。もし自分が対応しなければならない場合は、声のトーンはできるだけ低くして、そしてできるだけ落ち着いた話し方をするよう心がけてください。相手がどんなにまくし立ててきても、圧倒されたり、ペースに呑まれたりしてはいけません。あえて相手の話し方に合わせないことで、会話の勢いを削ぐことができるのです。 電話の録音機能は、クレーマー対策として非常に有効です。「金を出せ!」というような発言が命取りになることは、相手が一番よくわかっているからです。すべての電話に取り付ける必要はありませんが、企業に一台は録音機能付きの電話を用意して、クレーマーに備えましょう。余談ですが、録音機能があれば、自分が普段どのような電話対応をしているか確認することもできます。 何の準備も心構えもない状態でクレーマーに遭遇すると、二次クレームにもなりかねません。まだ具体的な対策をしていないのであれば、マニュアルの作成からはじめましょう。 □声のトーンはできるだけ低く、落ち着いた話し方をする
22プロ秘書は「取引先からのいただきもの」を自腹で買い取る トップの近くにいる秘書は、お取引先から接待の対象になることがあります。接待をすることで、多少なりとも優先的な対応を取り付けたいという意図を含んでいることが多いものです。私に関して言えば、お取引先にとってメリットになるような権限がありませんが、なかにはそのような裁量を与えられている秘書もいます。そうであれば、なおさら公明正大でなければなりません。「何かしらの形でお返ししなくては」と感じるような接待を受けないように心がけるのはもちろん、基本的には贈り物を受け取らないようにすることも重要です。私も、「ぜひお試しください」と自社製品をお送りいただいたり、中元歳暮をいただいたりすることがあります。そんなときは、「本当にありがとうございます。部署のスタッフで美味しくいただきました」と感謝の気持ちをお伝えした後で、「恐縮ですが、今後はお気遣いありませんよう……」と返礼しています。お会いしたときに、「弊社では、個人宛てにいただいたものもすべて、スタッフでいただくことになっているんですよ」と、さりげなく自社のルールをお話しすることもあります。そうすることで、先方も秘書である私に妙な期待を抱かなくなりますし、「気遣いは無用です」という意図が伝われば、その後は贈り物が届くこともなくなります。 どんな部署の人間もお客様に対してフェアでいられるよう、ちょっとした差し入れレベルのものから、個人宛てにお送りいただいた自社製品、中元歳暮に至るまで、すべて所属する部署のスタッフみんなで分け合うルールはよく聞くようになりました。もちろん壱番屋でも「いただきものはすべて会社のもの」というスタンスなので、自分の家に持ち帰って使いたい、食べたいと感じた商品があれば、定価の三割の金額を会社に支払って、自腹で買い取るルールです。 グレーな部分が少しでもあると、そこを突いて取り入ろうと考える人が出てくるものです。また、人は接待や物に弱いので、一度その味を覚えてしまうと、ズルズルと抜け出せなくなる危険性もあります。接待やいただきものを通じて特定のお客様と結びつくことのないよう、自ら徹底して予防線を張ること。プロの秘書には、特に高い意識が求められているのです。 □いただきものは定価の三割を会社に支払い、自腹で買い取る
23プロ秘書は「かわいい情報漏えい」ができる 上司の近くで仕事をしていれば、そこにはさまざまな情報が飛び交います。経営上秘密にしなければならない情報もあるので、プロの秘書には絶対の「口の堅さ」が求められます。聞かれるままにペラペラと話すようでは、秘書失格。秘書でなくても、口が軽い部下は上司からの信頼が得られにくいので、あまり出世は見込めないでしょう。 貴重な情報だからこそ、秘書から上司に関係した話を聞きたいと考える人は多いもの。社内外から「少しだけ教えてよ」とつつかれることも多いのではないでしょうか。そんなときに私は、小ネタを提供してその場をやり過ごすことにしています。これが「かわいい情報漏えい」です。「上司のことは意地でも何も言いません」と頑なな態度を取るのも秘書としては立派ですが、まったく何も教えてもらえないと、余計に知りたくなるのが人の性。「何か隠さなくてはいけないことがあるのかな」と邪推する人も出てしまいます。 たとえば、「最近会社の近くにできたイタリアンに行ったらしいよ」など、本人の行動に関すること。または、「とにかくワイン好きで、チーズにはうるさいみたい」など、本人の食の好みに関すること。「名刺の裏にいろいろメモ書きしてくれるから、整理をするときにすごく助かるの」など、本人の性質に関することを話しても問題ないでしょう。これらは、よくよく考えてみれば、身近な人間なら誰もが知っていることで、聞けば本人もすんなり答えてくれる「小ネタ」です。しかし、情報が欲しい第三者にとっては、立派な「情報」になるのです。そのうえ、取引先にとっては、「それなら会食はワインに合う料理がいいかな」などと考えるための良いヒントにもなるので、有益な情報でもあります。もし、どこまで話していいかわからず判断に迷うなら、「自社のホームページに載せていることまで」など、絶対に問題のないラインで線引きをしてしまいましょう。自分の中で明確な判断基準があれば、そういった話題のたびに迷うこともないはずです。 とはいえ、やはり秘書には、「絶対に漏らしてはいけない情報」というものがあります。知っていることを「知らない」と答えたり、ウソをついたりしなくてはいけない場面もあるでしょう。たとえば、上司が病気療養中であっても、周囲にいらぬ気遣いをさせないため、もしくは経営上の判断で入院の事実を隠しておく、などのケースが考えられます。そのために急にアポイントをキャンセルすることになった場合には、「実は体調を崩して入院中で……」とは言えないので、それなりに信憑性のある「事実とは異なった情報」を用意することになります。 事実ではないと思うと胸が痛むものですが、これはあくまで秘書の仕事としてすること。自分の損得に関するものではありませんし、悪意を持って誰かを騙そうとしているわけでもありません。良心の呵責に苛まれないためにも、仕事上のウソは「必要な情報提供なのだ」と割りきって考えることです。事実を提供できないから、仕方なくその場を収めるためにつくられた情報を発信しているだけなのです。事実を伝えるべき場合と、そうでない場合があるということを覚えておいてください。 そういう理由もあって、私は「秘書は積極的に上司のプライベートを知ろうとしないほうがいい」と考えています。もちろん、上司が自分から話してきた場合は楽しくお聞きすればいいのですが、その内容をすべて、周りに話していいわけではありません。これは話してもいい小ネタなのか、絶対に秘密なのか、自分で判断しなくてはならないのです。上司のプライベートを知らなければ、「ごめんね、全然知らないのよ」と正直に伝えることができて、ずっと気楽ではないでしょうか。 秘書が周りに話していいのは、日常で誰もが知り得るかわいい小ネタだけ。絶対に流してはいけない事実は伏せておく。この二点を前提に話をすれば、上司に信頼される、口の堅い秘書になれるはずです。 □秘書が周りに話していいのは、かわいい小ネタだけ
24プロ秘書は「噂話」に耳を貸さない 目の前の仕事に没頭するあまり、社内で飛び交う会話や口頭で行われる指示に耳を傾ける余裕がないのは、プロの秘書として避けたい状況です。しかし、噂話はそれとはまったくの別物。プロの秘書は、噂話に耳を貸しません。 よく、噂話を聞くのも情報収集のひとつ、それどころか「噂話にこそ重要な事実が紛れている」と考える人がいますが、噂話は、あくまで噂。私は部下に、「噂話は真実ではないと思いなさい」と話しています。考えてもみてください。話している当人が見聞きしたことであればまだしも、又聞きの又聞き……というような状況では、果たしてどれほどの真実が残っているでしょうか。興味深い噂である段階で、誰かの「こうなったらいいな」という願望や、「きっとこうに違いない」という決めつけ、「もしかしたらこんな可能性もあるかもしれない」という憶測など、さまざまな人の思惑が加わっているはずです。それは、実態からかけ離れていることが多いのではないでしょうか。一度でも噂話に加わったことがあればわかると思いますが、他人の弱みになりうるような噂話をしているとき、人は各々で勝手な推測を言うものです。それら外野の声も吸収された結果生まれるのが、「噂話」。そう考えれば、噂話に耳を傾ける馬鹿らしさに気づくことができるでしょう。 また、噂話は誰かを蹴落とすための「悪意あるウソ」として、捏造されている場合もあります。そんなでたらめな情報に振り回されながら仕事をするのは、非常に不毛で非効率的です。また、噂話を広めることで、その悪事の一端を担ってしまったとしたら、職場での信頼関係が損なわれてしまうこともあります。もし、噂話に加わっていないと重要な情報が得られないような職場環境なのであれば、その状況こそが問題です。今後、気持ちよく仕事をしていくためにも、改善する方法を考えなくてはなりません。 さらに、噂話に加わると、他人の話をしているつもりでも、自分の考え方や興味のある話題、考え方の傾向など、自分自身の根幹に関わる情報を思った以上に提供することになります。その場にいるのは、他人の噂話に興じ、ともすれば捏造して楽しんでいる人たちですから、いつ何時、自分がターゲットにならないとも限りません。そんな信用ならない相手に大切な情報を提供しているのだと思えば、気楽に聞き役になることもできなくなるのではないでしょうか。 そもそも秘書は社長など「企業のトップ」の近くで働き、企業の中枢に近い場所にありながら、中立の立場で仕事を進めねばなりません。社内であっても社外であっても、特定の誰かにとって有利になるよう上司への情報を取捨選択したりすることは、プロの秘書としてあってはならないことです。どんなに孤立しようとも中立であること。企業の中の誰とも癒着することなく上司にとって信頼できる良き盾となり、パイプ役となるのがプロの秘書。 情報は、自分の足を動かし、自分の目で見て収集するものです。信じていいものは、自分の力で得た情報だけだと肝に銘じましょう。 □どんなに孤立しようとも中立であることがプロの証
25プロ秘書は「悪口大会」に参加しない「会社は選べても上司は選べない」とは、昔からよく言われることです。そのため、不満が募るとつい職場の仲間と愚痴を言ったり、上司の悪口を言ったりしてしまうこともあるかもしれません。気持ちはわからなくもないのですが、悪口を言い合っても何も変わりません。それどころか、誰かの悪口を言っていたとわかれば、周りからの信頼を失います。秘書が上司の悪口を言えば、重要な情報を外部に漏らすことにもなります。プロの秘書であれば、決して悪口大会には参加しないことです。 悪口を言っている集団は、雰囲気でわかるものです。また、愚痴はすぐに誰かの悪口へと変化するものなので、「 ○ ○がイヤだ」「ウチの会社の × ×が気に入らない」など、マイナスな言葉が飛び交う場所にも身を置かないようにしましょう。リフレッシュルームや食堂などでマイナスの空気を察知したら、サッとその場を立ち去ること。タイミングを外して席を立てなくなってしまっても、絶対に同調してはいけません。完全に聞き役に徹して、ひと言も口をきかず、頷きもしないことです。「それでは場から浮いてしまう……」と心配になるかもしれませんが、この場合はあえて〝浮く〟ことがポイントなのです。悪口を言う集団は「共感」を求めているので、そういう態度を貫くことができれば、次からは悪口大会の席に呼ばれなくなります。そんな集団からは嫌われてもいいと割りきってください。 しかし、うっかり長居してしまい、不本意ながらも頷いたりすれば、それは悪口を言ったも同じこと。「 ○ ○さんも『わかる』って言ってたよ」と言われる程度で済めばいいほうで、尾ひれがついてひどい悪態をついたことになっていたとしても、文句は言えません。また、悪口大会には裏切り者が混じっているものです。誰が誰に対して、どんな悪口を言っていたのか、必ず外に漏れる仕組みになっています。 悪口大会がいけないのは、他人を貶めて共感するだけの無意味な場だからです。そこで、どうしても気に入らないことがある場合は、「改善提案大会」を開くことをおすすめします。「改善提案大会」では、上司への不満や愚痴を吐き出すだけで終わらせず、「どうすればその不満をなくすことができるのか」「この状況を改善するためのいいアイデアはないか」、傾向と対策を全員で考えます。悪口を言う人たちは「上司は変わらないから」と現状を嘆くだけですが、上司自身は変わらないとしても、自分たちが集団でアクションすることで、少なくとも今よりは良い状態に変えていくことができるかもしれません。また、そこは改善を提案する場なので、参加した人は意見を言うことになります。そうしたオープンな状況では裏切り者も出にくいというわけです。 悪口や愚痴は何も生み出しませんが、「不満や要望」は現状をより良く変えるためのヒントの宝庫です。プラスの発想で建設的に利用して、よりよい職場環境をつくっていきましょう。 □マイナスの空気を察知したら、サッとその場を立ち去る
26プロ秘書は上司が出張先で倒れても動じない プロの秘書であれば、仕事がスムーズに運ぶよう、うまくスケジューリングができて当然です。しかし、不測の事態というものは、いつ誰の身に降りかかってくるかわかりません。自分の上司に何かあった場合も、機転を利かせて事態を収拾できるよう、日頃から対策を講じておく必要があります。 たとえば上司の移動中に、乗っていた社用車が故障した場合。現場から連絡を受けたら、まずはケガなどがないか、無事を確認します。次に、別の社用車やタクシーを手配して、一刻も早く目的地に着けるような段取りを組みます。先方との約束の時間がある場合は、「大変申し訳ないのですが、 ○分程度遅れそうです」と、連絡することも忘れてはいけません。 とはいえ、社用車であれば運転手から、一体どのような状態なのか詳しく情報収集できますし、今どこにいるのかも簡単に確認することができます。故障した車の対応はいったん運転手に任せることができるので、それだけでもずいぶん負担が減るはずです。不測の事態とはいえ、スケジュールを立て直しやすいケースでしょう。 困るのは、上司本人が車を運転していた場合です。本人にケガなどない場合でも、故障した車の対応と同時に、目的地と現在地を把握し、移動もしなければなりません。短時間にいくつもの複雑な対応をする必要がでてきます。不測の事態を考えれば、上司にはできるだけ運転手をつけて、社用車で移動してもらったほうがリスクが少なく安心でしょう。今後、自分の運転で移動するという状況をなくしていく、新たなシステムづくりの必要があります。せめて、体調が良くないときだけでも運転を避けてもらえるよう、上司に「お疲れではないですか?」とひと声かける気配りも大切です。 次に、出張先のホテルで上司が体調を崩した場合について考えましょう。この場合は、まずホテルの方から事態を聞き、状況を把握します。軽い体調不良であれば、すぐに病院に搬送する手はずをとってもらい、搬送先の病院に服用中の薬やアレルギー、病歴などのリストをファクス等で送ります。治療で新たに投与する薬を決める際に必要な場合もあるので、秘書は必ず上司の健康状態を把握して、病歴や常備薬をリスト化しておくべきでしょう。 このケースで困るのは、本人の意識が薄れている場合です。一刻を争う場合が多く、ホテルの方にお願いすれば、サイレンを鳴らさずに救急車を呼んでもらえたり、ホテル側から救急車以外の方法で搬送してもらえたりする場合もあります。これは日頃からの関係性次第という部分もあるので、絶対とはいえません。しかし、一流のホテルであれば必ずそれなりの対応をしてくれますし、「東京なら上司は毎回ここに泊まる」「大阪ならここに泊まる」という常宿があると、ホテルの方とのコミュニケーションもとりやすいでしょう。 問題が発生してから慌てないためにも、いくつかの「不測の事態」をシミュレーションして、上司の健康状態に関するデータや、緊急連絡先など、現状で足りていない部分を補完しておきましょう。不測の事態が起きたら、まずは事態を正確に把握し、そのうえで冷静に次の行動に移り、最悪の事態を未然に防ぐこと。いざというときに上司が安心して頼れてこそ、プロの秘書なのです。 □上司の病歴や常備薬をリスト化しておくべき
27プロ秘書は新幹線で「上司の隣の席」に座らない 上司と行動するときには、第三者の視点を意識しなくてはなりません。つまり、自分と上司の関係が他人からはどう見えるか、ということです。スーツ姿の男性同士であれば、どこからどう見ても「ビジネス」なので、気にする必要はありません。しかし、日本に多い「男性の上司と女性の秘書」という組み合わせでは、あらぬ誤解が生じないとも限りません。誤解が生まれるスキのない行動をとるのも、プロの秘書としての大切な心がけです。 たとえば二人で出張に行くとき、新幹線で隣同士の席に座るのは間違いです。上司がグリーン車に座るなら、秘書は前後どちらかの車両の席をとります。たとえ社長秘書であっても、秘書は一般社員なので、ランクを一つ下げて当然です。隣の車両であれば、必要な場合はすぐに駆けつけることができるので、上司が困ることもありません。もし上司が「近くにいてもらったほうが安心だ」というのであれば、同じ車両に席をとっても構いません。しかし、上司のイメージを考えれば、隣の席は避けるべき。どんなに上司が有名でも、その秘書が知られている企業はほとんどありません。他人から見れば、「女性と二人で新幹線に乗っていた」という〝事実〟しか残らないのです。 出張中の宿泊先にも同じことが言えます。上司をホテルまで無事に送り届けるのは秘書の役目ですが、同じホテルに泊まる必要はありません。やはりここでも一つランクを下げて、近くの手頃なビジネスホテルに泊まりましょう。もし上司から「同じホテルにしてほしい」と言われても、違うフロアの部屋を押さえます。「女性とホテルにいた」という事実がどんな想像を生むのかは、お察しのとおりです。 二人で外を歩く、という日常的な場面でも、上司が異性であれば注意が必要です。「昼間から女性と歩いていた」と言われることのないよう、ひと目でビジネスだとわかるきちんとした服装をしましょう。また、会話をしながら歩く場合も、立ち位置は上司を案内しながら前を歩くか、後ろから上司についていくかのどちらかです。親しげに横並びで歩くことがあってはいけません。 出先で食事をする際は、お店選びが肝心です。わざわざ上司と別の店で食事をしたり、離れた席に座ったりする必要はありませんが、今度は「ビジネス中の食事なのだ」ということが誰の目からも明らかなお店を選ぶこと。たとえば、駅ビルの中にあるカジュアルなレストランであれば、「仕事のついでのランチなのだな」と解釈してもらえるでしょう。しかし、有名ホテルのフレンチレストランであれば、たとえランチであっても誤解されかねません。そして、食事が終わった後の支払いは、会社の経費から秘書が行います。「上司におごってもらう」ということがあってはいけないのです。 こういった気配りで社外の人たちからの誤解を避けると同時に、会社にも「今 ○ ○に到着しました」「 × ×様との打ち合わせが終了しました」「これから東京に戻って、直帰させていただきます」など、逐一報告することが大切です。日頃の仕事ぶりが認められていれば、おかしな想像をされることもないでしょうが、どこにでも悪意を持った見方をする人がいるものです。予定通りに事が運ばず、「空白の時間」ができてしまったりすると、怪しまれることもあるかもしれません。 上司と秘書が、社内外の誰の目から見てもクリアな関係であることは、企業イメージ的にも重要なポイントです。自分の行動が企業イメージを左右する可能性もあることを自覚して、上司の理解のもとどんな場面でもスキをつくらないよう、第三者の視点を持って行動しましょう。 □出張先でのランチは駅ビルのカジュアルレストランで
28プロ秘書は「上司からの誘い」をこう受ける 長い間一緒に仕事をしていると、上司と秘書との間柄も、少しずつフランクなものになっていくことが多いようです。仕事中と雑談中のメリハリがついていれば、まったく問題ありませんが、上司からの気軽なお誘いだとしても慎重になるべきです。 上司にまったく下心がなく、「食事に行こう」と誘われた場合。私なら、「ありがとうございます。それでは、部署の皆と予定を取りまとめておきますね」とお答えします。暗に、「皆と」、と匂わせるのです。勘のいい上司であれば「まぎらわしい誘い方だったかな」と気づき、「それじゃあ、よろしくね」と、サラリと返してくれるでしょう。そして、それ以降は常に「皆で」というお誘いとなるはずです。 秘書の中には上司からの「下心のあるお誘い」や、突然のプレゼントに頭を悩ませている人もいるようです。そんな場合の対応も、基本的には同じ。どのような誘いでも、「えっ、二人きりでですか?」などと過剰な反応はしません。「二人きりの食事のお誘いだとはまったく考えてもみないこと」という態度で、「同じ部署の者にも伝えて、予定を立てますね」とお答えします。この場合もやはり、勘のいい上司なら「断られたな」と察して、大人の対応をしてくれるでしょう。 しかし、その後もたびたび誘われるようであれば、「私にその気はないですよ」ということをもう少しストレートに伝えるのもひとつの方法です。プライベートな雑談をしているときに、「お付き合いしている人がいるんですけど……」と、エピソードのひとつとして情報提供しましょう。こうした発言をすれば、さすがにどんな男性でも、〝牽制球〟だということに気づくはずです。 プレゼントをされてしまった場合は、すぐに所属部署の上司に報告します。それも「困っている」というのではなく、「こんなに高価なものをいただいてしまったんですけど、どうお返しすればいいでしょうか」と、素直に相談するのです。そして後日、「実は上司の ○ ○にも相談して選んだのですが、気に入っていただけるでしょうか……」と、あくまで気づかないふりでお返しを渡してしまいます。すると、上司も自分の迂闊な行動が公になっていることに気づき、態度を改めてくれるでしょう。 もし、上司の好みで秘書に任命されたのであれば、いずれは別の部署に異動となることもあるでしょう。たとえ、上司とはうまくいかなくとも、周りの人と公平に、明るく接し続けているならば、見ている人はちゃんと見ているものなので、秘書の適性があるならば、別の上司の秘書として仕えることもあるでしょう。 上司からのお誘いの多くは、ねぎらいの気持ちからと考え、甘えすぎず、客観的に見てもフェアであるよう、上司のイメージを守る必要があります。 □「それでは、部署の皆の予定を取りまとめておきますね」
29プロ秘書は同性の秘書を薦める「秘書」と聞くとドラマで見るような美人秘書を想像し、「女性の仕事」と考える人も多いと思います。なかには、「上司と恋愛関係にあるのでは?」と想像を膨らませる人もいます。そのため、プロの秘書として、私は常々「秘書は男性のほうが便利である」と思っています。 もちろん、女性の秘書にも、女性ならではの良さがたくさんあります。一般に、身の回りの世話焼きは女性のほうが細やかで得意といえます。映画『プリティ・ウーマン』のワンシーンではありませんが、年配の男性ばかりになりがちなトップの会食の場に女性がいると、それだけで場が華やぎ、男性同士だと辛辣な話し合いになってしまうような場面でも、和やかなムードになることもあるのです。 しかし、男性の秘書であれば、重い荷物や車の運転も気兼ねなく頼めます。長期の海外出張なども男同士なら気楽ですし、たとえば深夜まで二人で仕事をしたり、時には食事をしていても周りの視線を気にする必要がありません。仕事のパートナーと考えれば、やはり男性の秘書に軍配が上がるように思えます。 大企業では秘書は自分で選ぶものではなく、総務部長や人事部長などから見て「あの上司には合いそうだ」と思われた人間が配属されます。「自分で気に入った部下を秘書に任命できればいいのに」と考える人もいるかもしれませんが、秘書選びに関しては、第三者の意見を優先したほうが確実だと思うのです。 多くの場合、「気に入った部下」は、自分と同じ考え方をする「気の合う部下」です。「秘書として優秀な部下」として選ばれてはいないので、居心地が良いだけになりがちです。また、イエスマンの秘書では、上司の盾役になることができません。秘書には、上司の仕事をサポートすると同時に、上司に問題点を気づいてもらう役割もあるのです。極論ではありますが、ベースの考え方が〝真逆〟なくらいのほうが、結果的には足りない部分を補完でき、仕事上の良きパイプ役になれるのです。最初はソリが合わないと感じたとしても、第三者の意見を優先したほうがいいというのは、そういう理由です。 自分が気に入った人間を秘書にできるケースを見ていると、自分好みの人間を秘書にしている上司も少なくないようです。「自分の会社だから人事権もある」と言われればそれまでですが、私はやはり第三者の意見を優先すべきだと思います。社長の奥様が常務や部長として同じ職場で働いているケースであれば、夫婦で決めてもらうのが一番。そうでないと、二人の板挟みになってしまう秘書も少なくないようです。しかし、秘書を決める段階でお互いの意見が尊重されていれば、あらぬ誤解も生じにくくなるでしょう。また、社長の奥様を味方につけることができれば、こんなに働きやすい職場はありません。 秘書とは、上司の仕事のサポート役です。お互いの能力を最大限引き出し、良い仕事をするためにも、自分の意見や居心地の良さは二の次にしたほうがいいでしょう。 □ベースの考え方が〝真逆〟なくらいのほうがよい秘書になれる
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