40プロ秘書は「断る」ときほど礼を尽くす 仕事をしていると、何かしら「お断り」しなければならない場面があります。「できません」「必要ありません」というひと言ですむ話ではありますが、プロの秘書はそんなときこそ誠意を尽くします。なぜなら、その企業や商品とは「いま」ご縁がないだけ。五年後、一〇年後のことまではわからないからです。未来にあるかもしれないご縁のために、今できる精一杯の誠意で応えるのがプロの秘書です。 特に飛び込みの営業の方に関しては、せっかく来ていただいても、上司との時間がとれないことも多いでしょう。そもそものご提案が企業にとって今は必要のない商品やサービスであった場合は、ある程度取捨選択するのも秘書の仕事です。「金融商品の営業で証券会社の方がいらしていますが、どうしますか」「絵画のカタログが届いていますが、いかがいたしましょうか」など、一度は上司に確認しますが、「今は投資の必要はないよ」「絵には興味がないんだよね」などということで断ってほしいという場合には、しばらくはそうした営業はお断りします。いちいちお伺いを立てて、上司の手を煩わせる必要はありません。「断る」ときに大切なのは、「本当に今回はごめんなさい」という気持ちで「申し訳ありませんが……」と謝ること。そして、相手の提案が必要ないのであれば、「今日は時間がとれません」「外出しています」などと一時しのぎでごまかすのではなく、「本人が投資には興味がないと申しておりまして、どの営業の方もお断りさせていただいているんです」と、きっぱりお断りすることです。相手は営業するのが仕事なので、「今日はタイミングが悪かっただけで、可能性があるかもしれない」と感じてしまったら、何度でも足を運んでくださるでしょう。それはお互いの時間をムダにするだけで、どちらにとってもメリットがありません。 また、「あなただけを断っているのではありませんよ」と伝えることも重要です。自分の力不足で営業に失敗したと感じれば、少なからずショックを受けるでしょうが、「どんな人が来てもダメなんです」と言われれば、心も軽くなるというものです。 さらに、ご提案をお聞きする段階までは進んだものの、検討の結果「お断り」することもあります。そういう場合に大切なのは、できるだけ回答をお待たせしないこと。長々と待たせれば、相手も「これだけ時間をかけたのだから」と期待してしまいます。理由をきちんと説明して、納得していただく必要があります。理由がわかれば次なる提案の足がかりになるので、「無駄な労力だった」とは思われないはずです。 お互いに仕事とはいえ、相手も人間です。せっかくの提案を断られれば、マイナスの感情を抱くことがあって当然でしょう。しかし、そんな場面でこそ自分の時間を割き、相手に礼を尽くすことで、会社の良い印象を守ることができるのです。 □ごまかさないではっきり断ったほうがいい
41プロ秘書は「親しい間柄だから代われ」との電話にこう対応する 上司にかかってきた電話の対応は、秘書の大切な仕事のひとつです。とはいえ、電話をそのまま上司に取り次ぐだけなら、ただの電話番と変わりありません。これは本当に上司に取り次ぐべき相手なのか、今この電話を取り次ぐべきなのか、内容とタイミングを見極められるのがプロの秘書です。 特に判断に迷うのが、上司の「親しい知り合いなんだけど」という相手からの電話です。このように親しさを訴えてくる相手でありながら、会社にかかってくる場合は、一度会ったことがあるならばよいですが、会ったこともないのに、でまかせを言っていることも少なくありません。最近ではどんな人も携帯電話を持っているので、プライベートな知り合いであれば、勤め先に電話をしてくることはほとんどないのではないでしょうか。私のように二〇年以上秘書をしていれば、仕事関係で親しい間柄の方はある程度把握しているので、「聞き覚えがないな」と思えば、「申し訳ございませんが、あいにく外出しておりまして……」と、上司に取り次ぐことなくとりあえずは対応します。とはいえ、「絶対に親しくないな」と気づいていても、相手の言葉を否定してはいけません。相手がそう言うなら、それでいいのです。今はご縁がないだけで、ひょっとしたら今後大事なお取引先になる可能性もあると思えば、丁寧な対応をしておくのが、秘書としての正しい行動です。 もし、秘書になって日が浅く、「昔よく遊んだんだけど」などと言われて判断に迷った場合は、「申し訳ありませんが……」といったん電話を切ります。そのうえで、上司に「先ほどこんな方からお電話があったのですが」と確認しましょう。やはり親しい間柄ではなかったと確認できれば、今後も取り次ぐ必要のない相手なのだということをチェックしておきます。しかし、毎日何十件という電話に対応していれば、なかには知り合いもいらっしゃいます。最近再会した学生時代の友人など、自分が把握していなかっただけで、本当に親しい間柄だったというケースもあるでしょう。そのときは、上司には正直に「お知り合いではないと判断して、外出中だとお答えしてしまいました」と素早く伝えましょう。ここで取り繕うためのウソを重ねると、後々厄介なことにもなりかねません。事実をそのままに伝えて詫びることが大切です。本当に親しい間柄であれば、一度電話を取りそこねた程度で関係が壊れることもないので、上司が自分でうまく修復してくれるでしょう。 一方、取り次ぐタイミングに関しては、上司の性格に合わせて判断するしかありません。「仕事が立て込んでいるときは緊急の電話以外は取り次がないでほしい」というタイプもいれば、「どんなに忙しくても自分にかかってきた電話は受けたい」と考える上司もいるでしょう。これは上司と仕事をしていくなかで、適正な判断ができるようになるはずです。 上司の手を煩わせないよう、電話の取り次ぎでも正しい取捨選択ができるのがプロの秘書。はじめのうちは間違いもあるかもしれませんが、「トライアル・アンド・エラー」の精神で挑んでください。 □「絶対に親しくないな」と気づいても、相手の言葉を否定しない
42プロ秘書は相手と同じペースで話す コミュニケーションの基本は、相手に合わせることです。プロの秘書は、相手の話し方や話すペース、声のトーンに合わせることを意識します。そうすることで、共感度が高まり、相手の警戒心を解くことができます。 これは、心理学的には「ペーシング」といわれるもの。同じスピードで話をすることで、相手は「自分が肯定されている」と感じ、こちらをすんなり受け入れてくれるのです。たとえば、相手が早口なら自分も話すスピードを上げ、のんびり話すならスピードを緩める。相手が元気よく話すならこちらも元気よく、落ち着いた話し方をするならこちらも落ち着いた話し方を……と、要は相手の話し方に合わせるのです。初対面のときや、相手が抵抗感を抱きそうな内容の話をするときに使うと効果的でしょう。 心理学的な観点からいえば、行動を真似る「ミラーリング」をプラスすることをおすすめします。たとえば、相手がお茶を飲めば、自分もお茶を飲む。足を組み替えたら、自分も足を組み替える。今度は、相手の仕草や行動を真似るのです。この行為もやはり、共通項をつくることで相手を安心させる効果があります。ペーシングと同時に行うことで、よりいっそう相手の心を開くことができるでしょう。 しかし、逆に相手のペースに合わせないことがポイントとなる場面もあります。それは、プロのクレーマーに対応するときです。クレームを言ってくる相手は大抵の場合ヒートアップしていますから、まくし立てるような早口で、それこそ矢継ぎ早に言葉を投げかけてくることが多いものです。人はテンションの高い相手からの影響を受けやすいので、同じようにヒートアップして、早口で話そうとするかもしれませんが、ここはグッと我慢。ペースに飲まれてはいけないのです。相手の気持ちを鎮めたい場合は、早口は厳禁です。一定の速度を保ち、落ち着いたトーンで話して、相手を落ち着いたペースに戻すのです。 一方、相手が腹を立ててクレームの電話をかけてきた「お客様」であれば、あまりに落ち着き払った態度で話していると、「バカにしているのか!」とさらに激高させてしまう可能性があります。この場合は、すこし高めの声で「左様でございますか」「申し訳ございません!」と必死な思いで謝っていることが伝わるように話してください。決して威圧的にならないよう、下手に出て丁寧に話すことが肝心でしょう。 まずは、普段から相手のペースを見極めて、上手に合わせていく練習をしてください。その結果、相手は心を開き、こちらの意見にも耳を傾けてくれるようになるのです。 □心理学のミラーリングとペーシングを活用する
43プロ秘書は「復唱」で予防線を張る プロの秘書は、会話をするときに必ず相手の発言を「復唱」します。はじめは少しまわりくどいと感じるかもしれませんが、「復唱」はさまざまな場面でコミュニケーションを円滑にしてくれる魔法のテクニックです。場面に合わせて使いこなせるようにしておきましょう。まず第一に、相手の言葉を復唱すると、相手と確認し合うことができます。たとえば上司から、「来週金曜日の九時に ○ ○部長と打ち合わせがしたいんだけど」と言われた場合。「かしこまりました」と言うだけでなく、さらに「来週金曜日の朝九時に、 ○ ○部長とですね?」と重要な部分をその場で復唱しましょう。上司にとっては、「わかりました」という返事だけで、理解していなかったというケースが一番怖いので、「いちいち確認するなよ」とは思わないはずです。むしろ、自分の言ったことが正確に伝わっているとわかってよいかもしれません。 また、イレギュラーな行動が多いマイペースな上司であれば、「前回は夜の九時でしたが、『今回は』朝九時ですね?」と復唱します。そうすれば、朝なのか、夜なのか、など勘違いが起こりやすい部分を確認することができます。さらに、これはちょっとしたおまけのようなものですが、「今回は」と強調することで、「毎回確認されている」と気づかせる効果もあるかもしれません。「あいまいな言い方はよくないな」と感じれば、次からは「今回は、昼の一二時にランチをとりながら打ち合わせがしたいんだけど、レストランの予約も一緒にお願いできる?」など、より具体的な指示をしてくれるかもしれません。 復唱は、会話そのものを盛り上げるためにも使えます。会話の相手が、共通の話題も多い上司や同僚なら困ることもありませんが、初対面の相手と、本題に入る前に少し雑談をする場面などでは、復唱が有効です。たとえば、「今日は暑いですね」と言われれば、「本当に暑いですね。この部屋はエアコンの温度を高めに設定しているので、少しお下げしましょうか?」「いやいや、大丈夫です。でも、たしかに最近はどこに行っても節電ですね」「弊社も全社的に『クーラーの設定温度は二六度以上』と決めて節電しているんです。昔は違いましたか?」「昔はね……」 というように、相手の言葉尻を拾っていくだけで、簡単に会話を続けることができます。 また、「楽しい」「嬉しい」「悲しい」「おいしい」など、相手の感情や感想を表す部分を「とっても楽しそうですね」「喜ばしいことですね」「それは残念でしたね」などと復唱することで、共感をアピールすることもできます。 ミスが少なく、どんな人とも感じよく話ができる秘書は、上司にとって絶対に手放したくない存在です。日常会話に取り入れて、自分のものにしていきましょう。 □「復唱」はいろいろな場面で活躍する
44プロ秘書は言いたいことを「提案型」で伝える 秘書として一番近くにいるからこそ、ついこのほうがよいかもしれないと思う瞬間もあるでしょう。しかし、「いつも同じところで躓いているな」「もっとこうすればいいのに」などと感じても、ストレートに「間違っています!」「意見を聞いてください」と切り込むのは間違いです。秘書として、やってはいけない行為です。そうかといって、「上司が言っているのだから仕方ない」と、目をつぶり、そのままにしておくのも良い秘書とはいえません。 そこで、何か言いづらい意見を言ったり、異なった考えを言うときは、提案型で伝えることをおすすめします。たとえば、上司の仕事の進め方に関して問題を感じているなら、「このような方法もあるそうですよ」「こういった進め方はいかがでしょうか」と、あくまでひとつのアイデア、提案として、自分が良いと思う方法を提示するのです。違いを指摘しているわけではなく、あくまで提案なので、上司が良いと思えば取り入れればいいし、嫌なら無視すればいい。「選択権はあなたにありますよ」というわけです。部下から、「このやり方のほうが絶対に効率的です!」などと言われると、面白くないと感じる上司も、提案であれば少し軽い気持ちで耳を傾けてくれるでしょう。 この方法は、新しい職場や部署で、改善したいポイントがある場合などにも有効です。後から入ってきた人間に、「どうしてそんなやり方をしてるの?」と言われれば、誰しも反感を覚えるものですが、ひとつの提案だと思えば受け入れやすいはず。それすら言い出しにくい雰囲気なら、雑談を利用して、「前の職場ではこんなふうに進めていてね……」と会話の中にアイデアを滑りこませてしまう方法もあります。相手に気づかれないように、さりげなく「気づき」の機会を与えるのです。これなら、提案以前のひとつのアイデアなので、相手は「改善を求められている」とは感じません。それどころか、「そのやり方もいいかもね」という展開になり、トントン拍子に事が進むこともあるでしょう。 もし提案が通らなくても、諦めてはいけません。まずは素直にその会社や上司のやり方に従って仕事をしてみて、それでもやはり自分のやり方のほうが良いと思うなら、何度でも提案し続けること。上司が替われば考え方も変わる場合もありますので、意外なほどあっさり自分の提案が通ることもあるものです。 どんなに良い提案でも、正しいからといって受け入れてもらえるわけではありません。むしろ、正論だからこそ反発されてしまうこともあります。相手が提案を受け入れやすい話の運び方をするのも、プロの秘書のテクニックなのです。 □あくまでも「選択権はあなたにありますよ」という提案型で
45プロ秘書は「クッション言葉」を上手に使う 何か上司に伝えたいことがあっても、ストレートに「こうしたほうがいいです」と伝えるのは、秘書としてあってはならないことです。とはいえ、提案型で「 ○ ○してはいかがでしょうか」と伝えても、雑談としてアイデアを話しても、まったく響いた様子がないのなら、別の策を講じるしかありません。大切なのは「私はいちおう伝えたから」という事実ではなく、事態をより良い方向に改善することなのです。そんなとき、プロの秘書は、「クッション言葉」を使って直球を投げます。 クッション言葉というのは、コミュニケーションの緩衝材となるような言葉のこと。たとえば、「申し訳ございませんが ~」「お差し支えなければ ~」「つかぬことをお伺いしますが ~」「恐縮ではございますが ~」「お忙しいことと存じますが ~」「僭越ではございますが ~」など。言いにくいことを言う前に、ほんのひと言プラスするだけで、相手への伝わり方がグッとやわらかくなるので、いくつかのパターンを覚えておくと便利です。 たとえば、ストレートな表現を好むタイプは、「ストレートにお願いしてもよろしいでしょうか」というクッション言葉の後で、「できればこういうときは、 ○ ○していただきたいのですが」と直球でお願いします。この手のタイプは、「提案」と言われれば「提案なのだな」、「アイデア」と言われれば「ただのアイデアなのか」と受け取る素直な性格なので、「お願い」と言われれば、「お願いされては仕方がない」と、すんなり受け入れて、すぐに事態が改善されることもあるでしょう。 また、相手にとって耳の痛い話を聞かせるときには、クッション言葉だけでなく、良い点や褒め言葉も同時に伝えて、ショックを和らげることが大切です。たとえば、「お忙しいところ申し訳ございません」というクッション言葉の後に、「丁寧に作業していただいて本当に嬉しいのですが、そろそろ期限が迫っているようです。私にできることはお手伝いしますので、 ○日までに完了していただきたいとの要望です」という具合です。 上司にもいろいろなタイプがいます。「これが正解」という対応はなく、ケースバイケースで見極めていくしかありません。相手に合わせて上手にクッション言葉を利用するのも、ひとつのテクニックとして覚えておいてください。 □クッション言葉プラス提案で事態は改善される
46プロ秘書は「オープン&クローズド」質問を使い分ける 秘書として、上司に何か確認しなければならない場面は、一日に何度も訪れます。そこで、上司からなかなか回答がもらえなかったり、せっかく回答がもらえても的を射たものではなかったとしたら、自分の聞き方に問題があるのかもしれません。プロの秘書は、相手が答えやすい質問をします。 質問には、「はい」か「いいえ」のひと言で答えられる「クローズド・クエスチョン」と、回答の自由度が高い「オープン・クエスチョン」があります。これは、どちらが良くてどちらが悪いというものではありません。肝心なのは、 TPOに合わせた使い分けです。 たとえば、上司に翌日の予定を念押ししておきたい場合では、「明日は一〇時に弊社で ○ ○さんと打ち合わせの予定です。変更はありませんね?」とクローズド・クエスチョンを投げます。そうすれば、上司はすぐに「了解」、もしくは「変更はないよ」とひと言で答えてくれるでしょう。クローズド・クエスチョンは、「伝わっていることがわかればいい」「できるかできないかだけ知りたい」という〝確認〟に適しています。ムダがなく、時間の節約にもなるので、上司の仕事が立て込んでいるようなときは、できるだけクローズド・クエスチョンを用いるといいでしょう。応用として、「 ○ ○さんから明日打ち合わせをしたいとお電話がありました。一〇時と一四時の予定が空いていますが、どちらがよろしいですか?」と、 Aか Bかを選ぶだけの状態にして質問する方法もあります。いつも多忙な上司や、選択肢が多いと悩んでしまうようなタイプであれば、この聞き方をするといいでしょう。 一方、具体的な回答が欲しい場合、たとえばダイレクトメールの中で必要な物と不必要な物を分けたい場合などは、「郵便物の中で、こちらで破棄してもいいのはどのようなものでしょうか?」とオープン・クエスチョンを投げます。そうすれば上司は、「金融機関からのパンフレットは僕に渡してもらいたいけど、カタログ類は処分してほしい」など、具体例を挙げて詳しく答えてくれるでしょう。オープン・クエスチョンは、相手からより多くの情報を引き出したい場面で有効な、話が広がる質問なのです。話を展開させ、会話をふくらませていくためには、オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンをバランスよく組み合わせていく必要があります。 自分では丁寧に質問しているつもりでも、質問の仕方を間違えると、相手の時間をムダにしてしまうかもしれません。この場面ではオープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンのどちらが答えやすいのか、上司の立場になって考えてみてください。 □クローズドは「確認」。オープンは「具体的な答え」
47プロ秘書は「おおらかな上司」から視線を外す プロの秘書は、上司と良い関係を築くために、相手の思考回路やこだわりに合わせて行動することができます。そのためには、相手をよく観察して、何か新しい発見があるたびに情報を更新していくことが必須です。今回は、上司を「おおらかなタイプ」「神経質なタイプ」「マイペースなタイプ」と、三つのタイプ別の傾向と対策をご紹介します。もちろん、これに当てはまらないタイプや、どの要素も少しずつ持ち合わせたタイプなど、実際にはもっと複雑な分類が必要でしょう。自分の上司により近いと思われるタイプをベースに情報を更新して、オリジナルの傾向と対策を立ててください。 この項目でお話しするのは、「おおらかなタイプ」。話し好きで、あまり喜怒哀楽が激しくなく、性格は穏やか。時間にも仕事の進め方にも、あまりこだわりのないタイプを想像してください。 このタイプの上司は、部下に厳しく接することはないので、人間関係をつくっていく過程で苦労することはほとんどありません。また、話し好きで自分からどんどん情報提供してくれるので、人柄や思考回路を理解するのもあまり難しくはないでしょう。上司の下について日が浅く、情報を集めたい時期には、相づちを打っていろいろと話を引き出すといいと思います。 ただし、部下に厳しくないのと同じように、自分にも厳しくないのがおおらかな上司の特徴。本人に悪気はないものの、「うっかり忘れていた」ということが多いので、スケジュールの確認や締め切り前の早めの念押しは必要です。また、こちらの仕事が立て込んでいても関係なく話しかけてくるので、忙しいときに捕まってしまうと大変です。自分に余裕があれば、いくらでも聞いていればいいのですが、そうでないときは、気分よく早めに話を切り上げてもらえるような工夫が必要です。 基本的には聞き役に徹して、相づちは控えめに。あまり話を合わせすぎないようにしましょう。頻繁に相づちを打って熱心に聞いていると、話が盛り上がり、延々と雑談が続いてしまいます。これでは話が終わりそうにないなと感じたら、さらに返事や相づちを減らして、声のトーンも少し落としていく。多少失礼ではありますが、視線を外したり、時計に目をやったりして「そろそろ……」というサインを送ってもいいでしょう。しかし、おおらかな上司はあまり察しのいいタイプではありません。それでもこちらの意図に気づかず、ニコニコと話し続けていることも多いでしょう。そういうときは、机の上の資料を触ったり、「あっ」と何かに気づいたような表情をしてみせて、会話がいったん途切れるように仕向けること。そこまでやれば、さすがの上司も「そうだ仕事中だったね。少しのんびり話しすぎたかな」と気づいて、自分の仕事に戻っていくはずです。 基本的には付き合いやすく、仕事をするうえでもあまり苦労させられることのないタイプですが、上司の雑談を上手く切り上げるテクニックだけは早めに身に付けること。それができれば、お互いに仕事もはかどり、一石二鳥ではないでしょうか。 □長引く話を切り上げるには時計に目をやったりしてみる
48プロ秘書は「神経質な上司」に変則的な問いかけをする 秘書が上司とうまく仕事をしていくうえでは、話し方や仕事の進め方を相手に合わせる必要があります。上司を代表的な三タイプに分けた場合の傾向と対策として、この項目では「神経質なタイプ」についてお話しします。「神経質なタイプ」は、言葉数が少なく、こだわりが強く、何事もきちんとしたい細やかな神経の持ち主です。仕事をする環境は清潔で、整然と片付いていることをこのみます。仕事そのものも丁寧かつ正確にやりとげたいと考えるタイプを想像してください。 このタイプは、何事にも正確なので、スケジュール管理や締め切りに関しては心配する必要がありません。また、自分のルールから外れた行動もしないので、一度パターンを理解してしまえば、次の動きが予想しやすいのも特徴です。 しかし、どちらかといえば、雑談などは苦手で、自分からはあまり情報提供をしてくれません。そのため、秘書のほうから積極的かつ押し付けがましくないようにコミュニケーションをとり、情報収集していかなくてはなりません。さらに、仕事が立て込んでいるときや、シンキングタイムには「そっとしておいてほしい」と考えるので、話しかけるタイミングも慎重に見計らう必要があるでしょう。 仕事の進め方に関しては、時間厳守は当たり前。誤字脱字などのケアレスミスをもっとも嫌うので、いつも以上に念入りにチェックしてから、時間に余裕を持って提出します。また、自分が関わっている案件に関しては、細かい部分まですべて把握しておきたい性格なので、「ホウ・レン・ソウ」もマメに行いましょう。上司がイライラせずにすむよう、「あの件はどうなったの?」と聞かれる前に報告するようにしてください。 このタイプの特に大変なところは、情報は少ないのに人一倍こだわりが強い点です。たとえば、書類のまとめ方ひとつをとっても、クリアファイルに入れるのかクリップなのか、とめるとしたらどの部分がいいのか、書類はどこにどのように置きたいのか……などなど。おおらかな上司は「どうでもいい」と考えるような部分まで、きちんとしなくては気がすまないのです。また、思い通りにいかなくても、いちいち秘書に伝えることはせず、自分の好きなようにやり直している場合もあるので、上司が席を外した際に時にはデスク周りをさりげなく観察するなど、秘書には上司以上のきめ細やかな気遣いや目配りが求められます。 このタイプに就いたら、時にはこちらがイレギュラーな行動をとって、上司の「あったらいいな」の部分を引き出してあげてもいいでしょう。たとえば、いつも朝はコーヒーを飲む上司に、「お客様からチョコレートをいただいたんですけど、召し上がりますか?」と聞いてみるのです。気遣いの人でもあるので、とりあえずは「うん、ありがとう」と返事をするはずです。そうは言ったものの、長い時間チョコレートが机の上に置かれたままなら、「本当はいらなかったんだな」と理解して、翌日からはいつも通りコーヒーだけお出しするようにしましょう。逆に、すぐにペロリと食べたなら、「意外と甘い物は好きなのだな。朝のコーヒーにお菓子を添える日があってもいいかも」と考えて、時折実践してみるのです。神経質な上司は、必要最低限のことしか言わないので、仕事と直接関係のない部分に関しては、特に情報が少ないもの。変則的な質問が、上司が「嬉しいと思うこと」「楽しいと感じること」を知るきっかけになるのです。 コミュニケーションが取りづらく、きめ細やかな心配りが求められる上司は、秘書としてもっとも大変な相手かもしれません。しかし、こちらの働きをきちんと見ていて、一番フェアな評価をしてくれるのもこのタイプです。「しっかりしているな」と認めてもらえるよう、上司にとって快適な環境づくりに努めましょう。 □上司が席を外した際に、時にはデスク周りを観察してみる
49プロ秘書は「マイペースな上司」を上手に誘導する 最後にお話しするのは「マイペースなタイプ」です。何でもマイルールに従って行動し、時間的な拘束や締め切りに縛られるのは非常に苦手。アイデアマンで行動力があるタイプを想像してください。 このタイプの上司は、コミュニケーション能力が高く、いろいろな提案をしてくれるので、一緒に仕事をしていて楽しいと感じることも多いでしょう。喜怒哀楽がはっきりと態度や表情に表れるので、機嫌が簡単に読み取れる、わかりやすいタイプでもあります。 とはいえ、アイデアがたくさん出てくるということは、発言がコロコロ変わるということでもあります。自分が「いい!」と思えば、一八〇度方向転換してしまうこともしばしば。また、秘書が注意していないと、知らないうちに自分でスケジュールを入れていたり、逆に、締め切りになってもまったく書類が上がってこない……というような状況も珍しくありません。上司と会話をするときは、必ず重要な部分を復唱してさりげなく、でもこまめに確認する習慣づけが大切です。 また、ルーティンの仕事の進め方を嫌う傾向にあり、イレギュラーな行動も多いため、はじめのうちはまったく先読みができず、困ってしまうこともあるでしょう。しかし、このタイプにも思考のパターンや行動の傾向があります。注意して観察していれば、次第に次の行動が読めるようになるので、一にも二にも観察が必須です。上司がどのタイミングで何を言い出しても対応できるよう、次の次の行動まで先読みするつもりで、抜かりなく準備しておきましょう。 ここで重要なのは、すでに準備ができていても、上司には決して悟らせないということです。何事も、「自分が決めた」「自分が主導権を握っている」と感じていたい性格なので、秘書に先読みされていることがわかると、へそを曲げてしまうこともあるのです。秘書は、「あれはどうなった?」と上司に聞かれてから答えること。急かされるのを嫌うので、上司が締め切りを忘れているなと感じても、ストレートに「 ○日が締め切りですが、進捗はいかがですか?」などと聞いてはいけません。たとえば、「さっき廊下で ○ ○さんとお会いしたんですけど……」と、会話の中にさりげなく担当者の名前を出したり、時には「先ほど確認の電話がありましたが、どのようにお答えしましょうか?」と聞いてみるなど、上司の機嫌を損ねないための工夫が必要でしょう。そうして、上司のペースで事が進んでいるように演出しながら、こちらが予測したゴールへと上手に誘導するのです。 上司のペースが摑めないうちはいろいろと振り回されますが、一つ一つ状況を集めていくしかありません。 繰り返しになりますが、上司の思考回路に合わせて行動するのがプロの秘書です。上司を選ぶことはできないので、自分とはまったく違うタイプの上司についてしまうと、苦労することも多いでしょう。しかし、プラス思考で向き合うことが人間関係の基本です。「秘書の腕の見せ所だ」と考えて建設的に対策を立てれば、少しずつでも働きやすい環境が手に入り、自分のストレスも減るのではないでしょうか。 □準備ができていても、上司には決して悟らせない
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