まえがき
人が話をするのには目的があります。そして、その目的の違いによって、話し方が変わります。
たとえば、ある広告代理店がCMの企画をつくり、他社とのコンペで自社案の売り込みを行なうとします。
このときの話す目的は「勝って仕事をとる」ことです。コンペで勝たなくてはいけませんから、どうしてもディベートのような話法になります。ちなみにディベートは「議論」と訳されることもありますが、正確にはやや違います。
真実を見つけたり、おたがい歩み寄る妥協点を見出すための会話ではなく、あることがらについて黒白どちらか一方の立場に立ち、自分の立場に敵対する相手をねじ伏せるための話法のことをいいます。
また、ある会社で、自社の方針を決める会議があったとします。
このときの話す目的は「正しい結論を求める」ことです。このときにディベートの話法を使うのはどうでしょう。自社の会議の目的は「正しい結論を求める」ことです。
もちろん、敵対派閥があれば、相手を負かすためにディベートを使うこともあるでしょうが、基本的には、人の意見をよく聞きながら、自分の意見も主張するようになるでしょう。
さらに、会社の同僚たちと昼休みに話すときはどうでしょう。このときの話す目的は「双方が楽しい時間をすごす」ことです。
ディベートとの違いは「勝たなくていい」こと、会議との違いは「正しい結論が不要」なことです。このように、目的が違えば話し方も変わってくるのです。
この本では「双方が楽しい時間をすごす」ことを目的とする話法、とくに「笑いがとれる話し方」ついて、一流芸能人の技術を例に説明していきます。
「サークルの人気者になりたい」「飲み会を盛り上げたい」という方、友人や同僚から「話していておもしろい、楽しい人だ」と思われたい方、ぜひ中身をごらんになってください。
きっと新しい発見があり、あなたの話し方の進化に役立つはずです。
第1章正しい会話と上手な会話について考えてみよう
会話はキャッチボール~きちんと受けて、きちんと返すことが大事です~
具体的な説明に入る前に、そもそも「会話」とはどういうものか、「会話上手」とはどういうことをいうのか、その基本や前提となる考え方について、いくつか見ていきましょう。
「会話はキャッチボール」という言葉があります。これは、相手の言葉をうまく受けとり、上手に投げ返すのが会話だ、という意味です。
会話は言葉を使った気持ちのやりとりなので、投げた相手の気持ちを探りながら、返してほしそうな言葉を投げ返す必要があります。
たとえば、公園でご近所さんと会ったとき、「こんにちは、いいお天気ですね」と話しかけられたとします。
この投げかけに対し、「夕方は大雨らしいですよ」といきなり返したのでは、「あいさつを交わしたい」という相手の気持ちを裏切ることになり、キャッチボールとして成立しません。
仮に天気予報で「夕方から大雨」といっていたのだとしても、まずは相手からの投げかけを「こんにちは」で受けたうえで、「そうですね、でも残念なことに、夕方から大雨になるらしいですよ」などと返してあげることが必要です。
ほかにも、「これからクラウンダイム社に行くんだが、資料はどこにある?」という投げかけに対し、「クラウンダイム?それって馬の名前ですか?」なんてカーブで返しては相手が困ってしまいますし、「うーん、この案件、大丈夫かなあ、ちょっと不安だなあ」という投げかけに対し、「君のそういうところが嫌いなんだよ!」などと速すぎる直球を投げつけるのも危険です。
さらには、「僕はビートルズが好きでね、いまでもむかしのLPをレコードプレイヤーで聴くんだ」という投げかけに対し、「へえ、そうなの。
あっ、そうそう、昨日、代官山に行ってね……」などと、投げられたボールを無視して、足元の石を投げ返してもいけません。
相手が投げてきたボールをきちんと受け取り、こちらからも相手が受け取りやすいように投げ返してあげる。こうすることで初めて会話のキャッチボールが成立するのです。ここで、ちょっとした投げ違いをすると、キャッチボールが成立しない、あるいは始まらなくなってしまいます。
たとえば正しい会話とは~キャッチボールにもタイプがあります~
「上手な会話」の前に身につけておきたい「正しい会話」。そのために必要な「正しいキャッチボール」の例を、ここで2つ挙げてみます。
《会話例1》A「ねえ、君はどこの出身だっけ?」B「岡山です」A「岡山か、いいところなんだろうね」B「まあ、瀬戸内海に面してて、温暖な街です」A「食べ物もおいしんだろうね」B「桃、マスカットあたりは有名ですね。あと、お土産といえばキビ団子ですか」
《会話例2》ア「ねえ、おまえの出身、どこだっけ?」イ「岡山だよ」ア「ああ、キビ団子の。あれもらうとさあ、家来になれっていわれてるみたいでね」イ「おまえはどこなんだよ?」ア「俺?パリ」イ「おまえにそんな異国情緒ねえぞ」ア「パリの場所、知らないんだろ。山形と青森のあいだにあるんだ」イ「あいだって、それ秋田じゃん。ああ、なまはげの子孫て感じは充分するよ」
このふたつの会話、どちらも話題は「出身地」ですが、受けた球の投げ返し方に少し違いがあることに気づきますよね。
会話例1は、Aという人が質問者に徹して、Bという人の話を聞いているタイプです。そのため、Aの言葉を消して読んでも話の全容がつかめます。
一方、会話例2は掛け合いというタイプで、どちらが話す、または聞くという役割分担がありません。ですからアかイのどちらかを消すと全容がつかみにくくなります。
会話は2名以上の人がいて成立しますが、みんなが黙っていると始まりませんし、いっせいに話しても成立しません。
会話が成立するには、スピーカー(話し手)とリスナー(聞き手)が必要です。そして会話の基本は例1のような、リスナーとスピーカーの役割分担が明確なタイプ。
つまり、どちらかがスピーカーとなり、他方はリスナーとなる。ピッチャーとキャッチャーがしっかり決まっているスタイルです。
それに対して例2は基本を変形させたタイプで、ピッチャーとキャッチャーといった明確な役割分担がなく、内野手同士でボールを回しているようなスタイルです。こちらはいわば応用編で、親しい相手との会話や、ある事柄について意見交換をするような対話形式で用いられます。
基本を知らずに応用を理解するのは難しいですし、無理して使うと危険です。なので、まずは基本的な話し方、聞き方から見ていきましょう。応用は、そのあとで。
会話上手の3要素~話がウケないのにはワケがあります~
みなさんのなかには、「僕の話はウケがわるい」「私が聞き手になると場が沈む」といった悩みをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
ではなぜ、ウケが悪かったり、場が沈んでしまうのか。会話の「要素」を分解すると、その原因がわかりやすくなります。会話は3つの要素で構成されています。
(1)話の中身(2)相手に伝える表現力(3)相手に楽しい時間をすごしてもらおうという気持ちの3つです。
このすべてが揃えば上手な会話ができます。なにかが欠けていると、うまくいきません。これは、スピーカーにもリスナーにも当てはまります。
たとえば、自分がスピーカーをしているときに「話がウケない」原因は、(1)話の中身自体がおもしろくない(2)身振りや話のテンポなど、おもしろさを伝える技術がたりない(3)相手を楽しませようという気持ちがたりない(4)(1)~(3)が複合しているといったことが考えられます。
一方、リスナーをしていると「場が沈む」のなら、その原因は、(1)スピーカーの話をうまく盛り上げたり、進行させてあげられない(2)よく聞いていることが相手に伝わっていない(3)相手に楽しんで話してもらいたいという気持ちがたりない(4)(1)~(3)が複合しているといったことが考えられます。
テレビは楽しい教科書です~まずは好きな芸能人の口マネから始めましょう~
私は以前、水商売のコンサルタントとして、店舗の運営管理やホステスの人材育成、接客指導などをしていたのですが、ホステスへの会話指導のときには「テレビを観ること」をすすめていました。
とっつきやすいから、というのも理由のひとつですが、最大の理由は「よいお手本から学べる」からです。テレビには会話の達人がたくさん登場します。
ぼんやりと観ていれば楽しいだけで終わってしまいますが、観方を少し変えると、上手な会話のとてもいい見本になるのです。
たとえば、ホンジャマカの石塚英彦。彼はグルメリポーターとして洒落たレストランへ行き、こんなリポートをすることがよくあります。
石塚「店長、このおしゃれな一品はなんですか?」店長「これ、実は豚足なんです」石塚「豚足!」店長「ええ、豚足を煮込んでテリーヌに仕上げたんです」石塚「へえー。わあ、柔らかそうー!ちょっとフォークで刺してみましょう。あっ、痛い!あら?豚足だと思ったら僕の前足でした。あっ、前足じゃない、手ですね。さあ、あらためていただきましょう。(食べる)ん?んん?ブヒー!」石塚英彦らしい、コミカルで楽しいリポートです。
こうしたリポートを観て「おもしろい」「楽しい」と思ったら、それが「会話上手へのヒント」です。「なぜ、この話をおもしろいと感じたのか」を考えてみましょう。
おそらく、石塚英彦自身が「太っている」ことを「豚」にからめた発想、そこから「前足」や「ブヒー」というフレーズを使ったことなどが理由でしょうか。
ちなみに石塚英彦の番組からは、1日の収録で多くの店に行きたくさんの料理を食べて、きっとお腹もいっぱいであるだろうに、それを感じさせず、ずっと楽しそうにしていて、店ごとのおいしさの特徴を伝えようとしている気持ちも伝わってきます。そこも「好感」を持たれやすいポイントかもしれません。
このように、テレビを観ていて「おもしろい」「楽しい」と感じたら、どこが、なぜ「おもしろい」「楽しい」と感じたのかを確認する習慣をつけましょう。
それが会話上手への第一歩です。それにはまず、興味のある番組を録画するといいです。録画を観て、「おもしろい」「楽しい」と感じたところがあったら、巻き戻して確認します。
何度か観たら、オチにくるまでの話すスピードや強弱、オチの直前にくるちょっとした間を口マネしてみます。すると、よく似た話し方、つまり表現力が身についてきます。
一流の芸能人は、スピーカーをしてもリスナーをしても会話の3要素に欠けたものがなく、とくに秀でている点を持っています。
そういう芸能人の番組を録画で何度も観て、よいところをマネることが、会話能力を高めるトレーニングになるのです。まずは好きな芸能人の口マネから始めてみましょう。
慣れてきたら、好きではないけれどマネる必要がある芸能人の観察をしてみるのもいいでしょう。
たとえばあなたが営業マンで「中年の主婦にウケるようになりたい」と考えるなら、「中年の主婦に好かれている芸能人」を観察するのです。
ただし、マネる相手(芸能人)と自分とでは考え方やレベルが違いすぎると思ったなら、もう少し自分のキャラやレベルに近い芸能人を探しましょう。
あまりにも自分とは違いすぎる人をマネても、なかなかうまくいきません。こういう作業を繰り返していくと、いろんな話し方や聞き方ができるようになります。
そうすると、対応できる相手も増えていきます。そして徐々に会話上手になっていけるのです。次章から、いよいよ具体的な会話術に入ります。
会話にはスピーカーとリスナーが必要ですが、まずは、よいリスナーになる方法からお話ししますね。
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