はじめに
コピーライター思考で、「呪い」の時代から、「祝い」の時代へ「ホメるのが苦手です」そんな声をよく聞きます。
仕事仲間を、友達を、子どもを、もっとホメたい。
だけど、何をホメていいかわからない。
どうホメていいかわからない。
それどころか、口をついて出てくるのは意に反して小言だったりする。
ホメるのが難しい時代でもあります。
よかれと思って、男性上司が女性の部下に「髪切った?似合ってるね」とでも言おうものなら、「セクハラ!」とフロア中に響く声で叫ばれかねません。
では、もう私たちはホメなくていいのでしょうか?私はそうは思いません。
なぜなら、適切なホメ言葉は、相手にいい未来をプレゼントし、風通しのいい人間関係につながり、なにより社会にいい空気をつくるからです。
人類は言葉を手にしてから、高度なコミュニケーションを行うようになりました。
言葉があるからこそ、宗教や文化、社会そのものが形成されてきたといっても過言ではありません。
言葉はテクノロジーです。
そして、すべてのテクノロジーは、光と影の両面をあわせもちます。
例えば火は、人を温めることや、肉や魚を焼くことができる一方、人に火傷をおわせることがあります。
言葉も例外ではありません。
人の支えになったり、背中を押したり、生きる希望になることがある。
その反面、人を傷つけたり、絶望に陥れたり、社会に影をさしたりすることがあります。
だからこそ私は、言葉を、より光として使っていきたいと日々奮闘しています。
それは、「増大しつづけるダメ出し」という社会課題に対して楔を打ちたいからです。
今日もツイッターには、百花繚乱のダメ出しが咲いています。
政治家に対して、企業に対して、インフルエンサーに対して。
恐ろしい量のダメ出しが蔓延しています。
面と向かっては言わないことを、匿名だから、直接会う機会はないからと、辛辣で悪意のこもった言葉や表現で、誰かを攻撃する。
私が標的になっているわけではないのですが、こちらも傷つきます。
憎しみのこもったネガ言葉は、触れた人もケガをしてしまいます。
ツイッターだけではありません。
企業では上司が部下の働き方にダメ出しをし、家庭内では妻が夫の言動にダメ出しをし、OB訪問では社会人が学生にダメ出しをしています。
ダメ出しの総量が増えている実感があります。
なぜでしょうか?一つには、「ダメ出しするのは簡単だから」というのがあります。
相手が何を言っても、しかめっつらで「おもしろくない」「俺はどうかと思うよ」「考え直してきて」と言うのは実に簡単です。
インスタント・マウンティングの完成です。
また、超情報化社会の到来により、それぞれが日々大量の情報に触れるようになり、各自が「自分ってちょっと賢いのかも」という勘違いの全能感を抱き始めたことも大きいと思います。
いわゆる一億総評論家、総ツッコミ社会です。
それにより、自分の価値観からズレた人を見下したり、冷笑したり、口撃する傾向が強まっています。
これは「呪いの時代」と言えます。
マイナスな言葉を相手に発することにより、生気を奪い取り、とことん弱らせる。
ダメ出しは呪いです。
社会がどんどん窮屈になってきていると感じるのは、呪いが蔓延しているからかもしれません。
例えば「意識高い」という言葉は、やる気と好奇心を奪ってしまう、ひどい言葉です。
相手の思考を縛り、行動範囲を狭め、可能性を削っていくのが「呪いの言葉」なのです。
だからこそ意図的に、言葉の力で「祝いの時代」をつくるべきではないでしょうか。
私は知り合いから、「あのときもらった言葉を今でも覚えている」「あの言葉が糧になっている」と言われることがよくあります。
日常的に祝いの言葉をつくり、大切な人に届けることを心がけているからです。
では、私がもともと人を日常的に「祝う」ことが得意なタイプだったのかというと、全然そんなことありません。
むしろ逆です。
私は帰国子女で、日本の大学に入るまで、13年以上を海外で暮らしていました。
自分がアジア人で、英語が不得意という事実に押しつぶされ、なかなか海外の学校に馴染めずにいました。
いつしか人が苦手になっていました。
人の目を見て話すことができなくなりました。
それどころか、人を「ヒト」として見るようになっていました。
つまり、人を自分とは違う異質な生物として見るようになってしまったのです。
例えば、あるときから私は、人の顔に毛がはえていないことに恐怖を覚えるようになりました。
全身の毛を刈られたプードルを見るとき、違和感を覚えますよね?それと同じです。
ツルッとした、ケアされた女優さんの肌が一番苦手でした。
もちろん鏡に写る自分の肌さえも。
高校3年生のとき、私は自分を見られることさえも嫌になりました。
朝だろうが屋内だろうがサングラスをかける時期もありました。
他人と目を合わせたくないし、自分がヒトであるという事実にすら嫌気がさしていたのです。
そんな私がなぜ、人に祝いの言葉を積極的に贈るようになったのか。
自分でも不思議だったのですが、ある日その謎がとけました。
それは、私がコピ
ーライターとして働いているからです。
そもそもコピーライターとは何者でしょうか?その定義自体、時代と共に揺らいでいるため「何をしているかピンとこない」方も多いと思います。
端的にいうと、「言葉で、企業や社会、そして人をよりよい状態へと導く人」です。
わかりやすいのは、「そうだ京都、行こう。
」「ぜんぶ雪のせいだ。
」のように、いわゆる企業広告やキャンペーンなどに使われるキャッチコピーを書く仕事です。
コピーライターが書いた言葉を、皆さんもネットやテレビ、電車の中などあちこちで自然と目にしています。
また、企業の理念や姿勢を体現する「ビジョン」「ミッション」「パーパス」を、経営者や社員の皆さんと一緒に考えることもあります。
「社名から一緒に考えてよ」と言われることもあります。
最近では自治体のキャッチコピーや、例えば県全体のスローガンを考えることもありますし、社会の現象に名前をつけることもあります。
では、コピーライターはどうやってコピーを書くのでしょうか?そこには、基本姿勢とステップがあります。
まずは対象となる商品や企業に「惚れる」こと。
つまり最大限「肯定する」というモードに切り替えること。
ダメ出ししよう、という目線では見ない。
「絶対に素晴らしい魅力がある」という前提で、相手と向き合うのです。
そして徹底的に「観察」をする。
すると、必ず魅力の「発見」へとたどり着きます。
あとは適切な言葉でそれを「表現」する。
これでコピーの完成です。
お気づきでしょうか。
実はコピーライターの思考法とは、「ダメ出し」のそれとは真逆なのです。
相手の粗探しをしたり、否定的・批判的な言葉を投げつけたりするのではなく、徹底的に相手の魅力を観察し、発見し、そして言葉にする。
この仕事をつづけるうちに、知らず知らずのうちに、私は広告作業だけではなく、周りの大切な人とのコミュニケーションにも、この前向きなコピーライター思考を応用するようになっていきました。
そう、ホメるとは、相手のキャッチコピーを考えるようなものなのです。
一連のコピーライター思考を人に対して行うことを、私は「ホメ出し」と呼んでいます。
なぜ「出す」という言葉が入っているかというと、それは「わざわざ」することだからです。
私たちクリエイティブ職の人間は「案出し」といって、ゴールと締め切りを設定してアイデアを考えます。
ダメ出しも同じです。
言わなくていい負の言葉をわざわざ口にしているわけです。
翻ってホメ出しとは、意図的に、相手に祝いの言葉を贈るという概念です。
それは簡単なことではありません。
脳に汗をかかなければいけません。
ときには時間がかかります。
なかなかいい発見に至らないかもしれない。
適切な表現法が見つからないかもしれません。
でも、それでいいのです。
ホメ出ししようとする、その態度がまず大事なのです。
例えば、タクシーに乗ったとしましょう。
運転手さんが散々道に迷い、想定時間をはるかにオーバーして目的地に到着したとき、あなたはどんな言葉をかけますか?「ひどい運転手にあたった」「最悪の気分になりました」「会社に連絡してクレーム入れておきますね」ダメ出しをするのは簡単です。
でも、よく考えてください。
あなたがダメ出しをしたときの運転手さんの気持ちを。
自分でも(道に迷ってしまった)(やってしまった)という自責にすでに苛まれていたのであれば、あなたのダメ出しはダメ押しになります。
暗澹とした気持ちを引きずり、次のお客さんを乗せたときにも上の空で再び道に迷うかもしれません(いやもしかしたら、あなたの前のお客さんからダメ出しを受けたショックで道に迷ってしまったのかも)。
ダメ出しは、ドミノ倒しの一枚目のように、連鎖的に社会全体にダメージを与えることがあるのです。
時計の針を、あなたがタクシーを降りるときに戻します。
もしもあなたの脳裏に「ホメ出ししよう」という選択肢があったら、こう言うかもしれません。
「ブレーキの踏み方が柔らかくて、リラックスできました。
ありがとうございます」あなたが運転手だったらどうでしょう?ましてや(やってしまった)と思っていたら。
救われた気持ちになるのではないでしょうか。
(次こそは道を間違えないようにがんばろう)と思えるのではないでしょうか。
もちろん、運転手さんに自己批判力がまったくなければ、(ラッキー!)と無反省のまま、学習と成長のチャンスを逃してしまうかもしれません。
しかし、ホメ出しすることにより、前向きなドミノ倒しの連鎖がはじまる、とあなたが信じなければ、祝いの言葉は贈ることができません。
1981年の高度経済成長期真っ只中。
変わりゆく日本を表すキャッチコピーがあります。
女性の美しさは、都市の一部分です。
(資生堂)女性の社会進出や美意識の向上が、社会の活力になったことを象徴するコピーです。
この言葉を本書のコンセプトに即してアレンジすると、こう言えます。
あなたの言葉は、社会の一部分です。
そう。
あなたの言葉には「影響力」があるんです。
SNSという拡声器が誰の手にも渡った今、なおのことです。
全員メディア時代だからこそ、一人ひとりがダメ出しではなくホメ出しをしていくことで、空気がやわらかくなり、社会の居心地がよくなる。
それは、言葉により、アウェイと感じている世界をホームに変えていくということです。
これまで、「ホメ方」の本は数多と出版されてきました。
しかし本書は、コピーライターの思考法を補助線に、名作キャッチコピーを参照しながら、「ホメ出し」を深掘りしていく一冊です。
コピーというのは、企業や商品を「祝う」ための言葉です。
今まで「ホメる」という文脈で語られてこなかったのが不思議なくらいです。
100年という長い人生において、ホメ出しを習慣づけるのと、つけないのとでは、大きな差が出ます。
そんな「コピーライター式ホメ出し」とは何かを、一つひとつひもといていきます。
目指しているのは、ホモサピエンスならぬ「ホメサピエンス」を一人でも多く社会に増やすことです。
ダメ出しによって人類を衰退させるのではなく、ホメ出しによって社会全体をエンパワーメントしていく存在。
それが、ホメサピエンスです。
この本では、ホメサピエンスになるための3つの進化ステップを詰め込みました。
まずは「姿勢」。
意外かもしれませんが、ホメ出しにおいて姿勢を整えることが大切です。
この点をおさえるだけでも、日常的に使う言葉が変わります。
つづいて「着眼点」。
やみくもにホメればいいわけではなく、そこには特徴や留意点があります。
ホメのアクセルとブレーキを知っておくことで、ホメ出し力は上がります。
最後に「表現」。
どのような切り口で、言葉で、ホメ出しを表現するかによって相手の受け止め方や言葉の波及力も変わってきます。
本書のページをめくるたびに、あなたはホメサピエンスへと着実に進化していくでしょう。
また、読み終わるころには、コピーライターとしての素地も身についているかもしれません。
SNSでは、集中的なダメ出しをすることを誰かを「叩く」といいます。
その瞬間、「叩く快感」があるかもしれませんが、その行為は長い目で見たときに何を生み出すでしょうか。
それよりも、言葉で誰かをそっと「抱きしめる」ことを目指すのが本書の役割です。
叩く言葉から、抱きしめる言葉へ。
呪いの時代から、祝いの時代へ。
ダメ出しから、ホメ出しへ。
ホメ出しというコミュニケーションで、是非あなたの人生を、社会全体を好転させませんか?
Contentsはじめにコピーライター思考で、「呪い」の時代から、「祝い」の時代へ
1章ホメ出しの姿勢を整える
Column01どうして私はコピーライターになったのか
0章そのホメ出し、なんのため?
ホメ出しはWhyから
早速ですが、ホメ出しの手段をお伝えしていきます。
と言いたいところですが、その前に重要なことがあります。
「なんのために」ホメ出しをするのか?という目的の整理です。
ここが曖昧だと、その効果もボヤけてしまいます。
ですので、この本では、・なんのためにホメ出しをするのか?(Why)・何をホメ出しするのか?(What)・どうやってホメ出しするのか?(How)という順番でお話しします。
改めて伺います。
あなたはなぜ、ホメるのでしょうか?「相手の自己肯定感を高めたい」「頑張った相手を認めたい」「相手に自信を持ってもらいたい」という動機もあるでしょう。
あるいは、「ホメることで相手をある方向へと誘導したい」という方もいるのではないでしょうか。
私は、ホメ出しの目的をこのように定義しています。
相手の「資産」になりうる言葉を贈ること。
これがホメ出しする理由のすべてです。
贈る言葉は、相手にとっての「糧」「エネルギー」「ジャンプ台」などさまざまに解釈できますが、すべてを包括して私は「資産」と位置づけています。
言葉の資産と負債を意識する
「資産」というのは、ビジネスで使われる用語です。
本来の意味は会社が持つ財産(預金、株式、土地、建物など)を指します。
資産の中でも、預金や株式などすぐに現金化できるものを「流動資産」と呼び、土地や建物など長期にわたって保有されるものを「固定資産」と呼びます。
資産の逆は「負債」で、会社の借金などマイナスの財産を指します。
負債にも、短期間で返済する「流動負債」と返済期限が先の「長期負債」があります。
詳しい説明は省きますが、ここでは資産/負債、流動/固定の概念だけつかんでもらえたら大丈夫です。
そして、私たちの心の中にも、「言葉の資産」「言葉の負債」が存在するのです。
生きるとは、多くの言葉を受け取るということでもあります。
その言葉には「よい言葉」と「嫌な言葉」、「一瞬の言葉」と「一生の言葉」があります。
それをまとめたのがこの表になります。
「言葉の資産」は文字通り、これまでの人生でかけてもらって嬉しかった言葉たち。
「言葉の負債」は逆で、誰かからダメ出しされたり、突然投げられる石のような悪意ある言葉を示します。
左上の「一生のよい言葉」は、あるときホメられたことが、何年経っても支えになっているような言葉です。
例えば幼いころに親から「あなたは本当に文章力があるね」と言われ、その言葉を励みに努力を続け、作家になったような場合。
お母さんの言葉は固定資産です。
実際に遠藤周作さんはお母さんから「お前には一つだけいいところがある。
それは文章を書いたり、話をすることが上手だから、小説家になったらいい」と言われ、本当に作家になりました。
これが「一生のよい言葉」です。
「一瞬のよい言葉」は、誰かから言われて嬉しかった言葉ではあるのですが、いつしか忘れ、風化していく言葉。
「一瞬の嫌な言葉」はその逆で、例えばツイッターで攻撃的なリプライが来て、一瞬嫌な気持ちになったけれどそのうち忘れるような言葉。
「一生の嫌な言葉」は、誰かから言われた一言に深く傷つき、ふとした瞬間に何度も思い出しては絶望する言葉です。
資産言葉より、負債言葉の方がインパクトが大きい
先日講演する機会があったのですが、アンケートを見ると99人が満足していて、1人が不満という結果でした。
普通に考えれば、満足率が99%なので誇るべきなのですが、どうしても不満に思った1人のことが気になり、その理由をコメントで見てみました。
内容とは関係ない悪意ある言葉で溢れていました。
そのとき、私の心の中の言葉のバランスは大きくくずれました。
99人の好意的な意見により、「一瞬のよい言葉」が溜まりました。
しかしそれ以上に「まったく共感が得られませんでした」という、ダメージの大きな言葉が流動負債に加わりました。
言葉の資産/負債は、受けた言葉の数ではなく質に左右されます。
そして、特徴としては、一つの言葉でも、資産言葉よりも負債言葉の方がインパクトを残すのです。
ああ…。
これまでの人生で、自信につながるような言葉の資産をたくさん受け取ってきたはずなのに、一件のネガティブコメントで「もう自分なんてダメなんだ!」と絶望に陥るなんて。
幸いなことに、翌日には私はこの負債言葉を忘れることができたので、流動負債が減り、言葉のバランス、つまり心の均衡は元の状態に戻りました。
ただし、「一瞬の嫌な言葉」だと思っていたのが、むしろ時間が経つほどに効いてきて、ムカっ腹が立ったり、その後もふとした瞬間に思い出してしまうことがあります。
流動負債だと思っていたのに、固定負債、つまり「一生の嫌な言葉」に繰り上がってしまうこともありえるのです。
誰しも覚えがあるのではないでしょうか?ダメ出しした人にとっては一瞬の出来事でも、受け手にとっては一生ものになってしまいます。
だから不用意なダメ出しはするべきではないんです。
ちなみに「批判」は、一見嫌な言葉に見えますが、愛ある批判であれば、「言葉の資産」となります。
なぜならその言葉は、あなたの改善すべき点や、目指すべき新たな道を暗示しているからです。
ただ、そもそも相手を罵倒したい、傷つけたい、という批判であれば、それはただの毒です。
完全なる「言葉の負債」です。
ホメ出しの主役はいつだって相手
さて、再びホメ出しの目的に戻ります。
相手の「資産」になりうる言葉を贈ること。
そう、ホメ出しで増やしたいのは、相手の言葉のバランスの左側。
「言葉の資産」なんです。
ホメることによって、相手を制御したいとか、自分がいい人に見られたいとか、自分って寛容性がある素晴らしい人物だなあと悦に入りたいとか、そうした動機は今すぐビリビリに破いて窓の外に投げ捨ててください。
自分の利益になるからと相手をホメるのは、ホメることを装った利己的な行為です。
自分本位ではなく、相手の資産になるかもしれない言葉を贈ること。
ホメ出しの主役はあなたではなく、相手なんです。
だからといって、むやみやたらに、ゲームのように「相手の言葉の資産を増やすんだ」とホメ出しを繰り出すのも違います。
相手の「いいなあ」と思う側面を発見したときなど、しかるべきタイミングでのみホメ出しはするべきです。
この話は追って詳しく説明します。
社会の「言葉のバランス」をよくしたい
「はじめに」で、「ホメ出しで、社会全体を好転させませんか?」と書きました。
これは、社会を構成する一人ひとりの「言葉のバランス」を、「言葉の資産>言葉の負債」状態にすることを目指す決意です。
その集積として、「社会全体の言葉のバランス」で、「言葉の総資産」が「言葉の総負債」に勝っている世界を目指したいのです。
もちろん簡単なことではありません。
自分が優位に立ちたいから、自分を賢く見せたいから、なんとなくむしゃくしゃしているから、という瑣末な理由で、今日も新しいダメ出しが大量に生成されています。
だからこそ、私たち一人ひとりが、「相手に、資産になるかもしれない言葉を贈るんだ」と、一丸となって立ち向かっていく必要があるんです。
「ホメ本だと思って気軽に手にとったのに」と思っているあなた。
ご安心ください。
ここから、いよいよ相手の何を、どうホメ出しするかの話に入っていきます。
でも、この章でお伝えしたホメ出しの目的を見失わないようにしてください。
こういうコピーがあります。
目的があるから、弾丸は速く飛ぶ。
(パルコ)そう。
相手の「資産」になりうる言葉を贈ること、という目的があるから、ホメ出しの言葉はまっすぐ速く飛ぶことができるのです。
ではお待たせしました。
次の章からは、ホメ出しの姿勢の整え方をお伝えします。
「ホメ出し」まとめ0章言葉を贈るときは、言葉の資産と負債を意識する●ホメ出しの目的:ホメ出しの主役となるのは、自分ではなく相手。
相手の資産になりうる言葉を贈る。
●私たちの心の中には、「言葉の資産」と「言葉の負債」が存在する。
・言葉の資産:これまでの人生でかけてもらって嬉しかった言葉・言葉の負債:誰かからダメ出しされたり、突然投げられる石のような言葉●一つの言葉でも、資産言葉よりも負債言葉の方がインパクトを残す。
ホメ出しの姿勢を整える1「ホメる」の一歩は、「惚れる」から。
「惚れレンズ」越しに対象を見る
それではいよいよ「何をホメればいいか」という話です。
その前提として必要なのは、ホメ出しの姿勢を整えることです。
つまり、どのような態度で、モードで、あるいは目や耳で、相手と向き合うべきかというスタンスをつくるべきなのです。
第1章ではまず、❶惚れる❷観察する❸発見するの3つを軸に、姿勢づくりを始めていきたいと思います。
さて、いきなりですが質問です。
最後に惚れたのは、いつですか?恋を何年休んでますか?みたいなテンションで言ってしまいましたが、実際あなたはどうでしょうか。
惚れるとは、何も恋愛だけに限定した感情ではありません。
こんまりこと近藤麻理恵さんが提唱する、「ときめくものは捨てない」の「ときめく」とは、服や日用品に惚れているともいえます。
実は、「ホメ出し」の一丁目一番地は、相手に「惚れる」ことです。
コピーライターの仕事も、目の前の企業や商品に惚れることから始まります。
惚れるから、ホメる(コピーを書く)ことができるわけです。
誰かをホメるときにまず重要なのは、ホロレンズ(複合現実体験用ゴーグル)ならぬ、「惚れレンズ」越しに対象を見ることです。
つまり、相手が「惚れどころ満載」という前提に立つのです。
そうすることで、抽出できる相手の魅力や、出力されるホメ出しの量や質が変わってきます。
『(500)日のサマー』(マーク・ウェブ監督)という映画をご存じでしょうか。
端的にいうと、トムという男性が、サマーという女性を好きになる恋愛映画です。
この映画には、印象的なシーンがあります。
光が注ぐ美しい空間の中。
スローモーションで、サマーがやわらかな笑顔を見せる。
そこに、トムのダイアログが入ってきます。
あの笑顔髪の毛ヒザも好きだ胸元のハート型のアザも話す前に唇をなめる癖も好きだ笑い声も眠っている時の顔も映画史に残るポエティックなシーンです。
ところが、サマーとの関係性が悪化すると、状況が変わります。
先ほどとまったく同じサラの笑顔シーンに、トムのまったく別のダイアログが重なります。
俺はサマーが嫌いだ不ぞろいの歯と60年代風の髪型も嫌いだ骨張ったひざもゴキブリのような形のアザも話す前に舌打ちする癖も高笑いも嫌いだそう、同じ景色でも、「惚れレンズ」をつけているかどうかで、意味が変わるという象徴的な例です。
「惚れレンズ」をつけているとき、長所は目につきやすい。
だから「ヒザも好きだ」なんて言えちゃうわけです。
それだけではなく、短所さえも長所にひっくり返してくれます。
無双モードです。
無限にホメ出しできます。
逆に、惚れレンズをつけていないと「胸元のハート型のアザ」も、「ゴキブリのような形のアザ」に変換されてしまうわけです。
では、どうやってこの「惚れレンズ」をつけるか?恋をしていないと無理じゃない?と思うかもしれません。
いえ、もっと簡単です。
「惚れレンズをつけるぞ」と自覚的になればいいのです。
そんな観念的なこと?と思われるかもしれませんが、この姿勢こそがホメの第一歩なのです。
脳神経科学の分野に、「効率的選択」と呼ばれるものがあります。
わかりやすく言うと、人が何か特定のことに注意するとき、脳もその情報を得ようと一生懸命働く、という話です。
一時期私は、ある広告のアイデアを出すために、「街中にある赤いもの」を探したことがあったのですが、看板やポスト、お店のひさしの色など、日頃気づいていなかった赤いものを多く発見できたという体験があります。
自分に赤ちゃんが生まれると、街でも赤ちゃんがよく目にとまる、なんてこともありますよね。
これがまさに「効率的選択」です。
今欲している大切な情報を脳が選び取り、感覚野から知覚野へと受け渡す状態です。
脳は、不平等に情報を受け取っています。
だからこそ、脳の特徴をちゃんと理解することで、相手の魅力的な一面を選択することができるんです。
「カクテルパーティ効果」をご存じでしょうか?ガヤガヤしたパーティ会場でも、人は自分が興味のある音を選択する脳の状態のことです。
例えば野球に興味がある人なら、目の前に会話相手がいても、隣のグループの「今年のヤクルトは強いよね」なんて会話が耳に飛び込んできたりすること、ありますよね。
だからこそ、ホメ出しする相手にフォーカスを当てて、「興味の対象」と捉えるべきなのです。
つまり、「惚れレンズを装着するぞ」という意識を持つことで、相手のホメポイントが多く目につくようになるということです。
例えば、短歌を書いている歌人は「短歌レンズ」をつけているからこそ、日常に落ちている何気ない発見をすくいあげることができます。
シーフードカレーは海の地獄絵図えんまの母が鍋をみおろす(穂村弘選『短歌ください』KADOKAWA)この短歌も、「短歌レンズ」で日常を見ていないと、見過ごしてしまいますよね。
あなたも身に覚えがあるのではないでしょうか。
インスタグラムを始めたら、「何か映えるものはないかな?」と「インスタレンズ」をつけて生活を送るようになるし、noteを始めたら、「何かnoteのネタないかな?」と何気ない日常の中から発見を抽出するようになります。
これ、すべて脳が「効率的選択」をしている状態なんです。
スネ夫に惚れてみよう
新しいレンズをつけると、世界の解像度が上がります。
何気ない情報が、とっておきの情報に変わります。
人間は、意識的に世界を見るレンズを選べるのです。
だからこそコピーライターは、コピーを書くときに、自覚的に「惚れレンズ」をつけます。
そうすることで、向き合う企業や商品の魅力がザクザク溢れます。
いいコピーライターは、いい惚れレンズを装着できている、ということでもあります。
一つ試しにワークをしてみましょう。
対象はスネ夫です。
言わずとしれた、漫画『ドラえもん』の名脇役。
そういえば、あんまり注目したことがないですよね?読者が感情移入するのは、のび太かドラえもんです。
この二人を起点に物語が発展していくので、情報量も多くなるし、読者も「好きになろう」「惚れよう」と能動的になります(そもそもそのように演出されています)。
好敵手であるジャイアンも、ふだんこそ暴君そのものですが、映画になると男気を発揮して、「興味の対象」となりやすい。
翻ってスネ夫は、あくまでジャイアンの太鼓持ちキャラですので、私たちはあまり関心を持ちません。
では、ここで意識的に「惚れレンズ」をつけてスネ夫を見てみましょう。
スネ夫は素晴らしい人に違いない!という前提で、スネ夫を見直してください。
今手元にドラえもんの漫画がある方はスネ夫にフォーカスを当てて読み返してください。
ない方は、記憶の引き出しからスネ夫を引っ張り出してください。
では、3分で、スネ夫の魅力を3つ見つけてください。
いかがでしょうか?これまでの人生で、一番スネ夫と向き合ったのではないでしょうか。
いつもなら、のび太とジャイアンの二項対立を助長する役割にしか見えていなかったスネ夫を「惚れレンズ」で見ると、まったく新しい一面が浮き彫りになります。
ちなみに私が発見した、スネ夫の魅力はこちらです。
「絶対に誰かに手を出すことはない」「最先端のオモチャを紹介してくれる」「ジャイアンがいないとわりと優しい」「言われてみれば」、これらはスネ夫のよさですよね。
私も彼のこのよさを視界には捉えていたけれど、情報の優先度を下げていたわけです。
なぜなら、「スネ夫=鼻持ちならない嫌味で偏屈なキャラ」という偏見があったから。
つまり、ある情報を選んだとき、私たちは他の情報を捨てているのです。
脳の認知負荷を減らすために、世界をある一定のパターンに当てはめて思考停止する。
それが人間の特徴です。
だからこそ、意識して「惚れレンズ」をつけて、目の前の人と向き合うべきなのです。
「愛情バイアス」を活用する
誤解を恐れずにいえば、私たちは、結構いい加減に世界を見ています。
例えば、相手に抱く「第一印象」に目を奪われすぎて、他の側面を見落としてしまうことはよくあります。
つまり、「几帳面な人だな」と一度思ってしまうと、そこにばかり注意が向いてしまい、「すぐにミスをする人だな」と思ってしまうと、やっぱり相手のミスをする挙動に注目しすぎてしまいます。
これは「確証バイアス」とも言われますが、私たちは実に多くの認知バイアスに囚われているのです。
先入観や誤解や偏見が、私たちを生きやすくする反面、私たちの目を濁らせるともいえます。
もう一つだけ、私たちは世界を粗く見ているという事例をご紹介します。
「見えないゴリラ」という実験です。
あるバスケットボールの動画を、被験者に見せる実験なのですが、そこには白いユニフォームと黒いユニフォームを着た選手が映っています。
被験者は、映像の中で白いチームが何回パス回ししたかを答えるのです。
この質問に答えること自体は、難しいものではありません。
正解は15回です。
ここからが面白いのですが、被験者は「では、映像の中にゴリラが9秒登場したことは気づきましたか?」と聞かれます。
すると、約半数の人が「気づかなかった」と答えるのです。
普通に考えると、日常的な光景であるバスケの試合に、異物としてのゴリラが入ってきたら気づきそうです。
でも、ある限られた情報にだけロックオンされた状態だと、私たちは世界を広い視野で、あるいは正しい焦点で確認することができないのです。
すでに脳や目が、バイアスに囚われているのであれば、「自分はバイアスにかかっている」という前提に立つことが大事です。
加えて、ホメ出しの流儀においては、「愛情バイアス」を意図的にかけることがポイントです。
バイアスを解いて、バイアスを加える。
相手が「素晴らしい人に違いない」というある種の偏愛状態に陥るのです。
そう、これこそがまさに「惚れレンズ」のことです。
惚れレンズをかけるとは、自分自身に新しいバイアスをかけるということなのです。
心に留めておくべき3つのアイ
相手をホメるとは、ホメ方が見つかるということです。
つまり、ホメるにあたっての、「アイデア」を思いつくということです。
そのために大事なのが、これまで語ってきた惚れレンズという「愛」。
ホメることは、相手を愛でることです。
でも、実はもっと大事なのが、ホメる主体である私、「I」です。
惚れるためには、自分に余裕が必要です。
頭が割れそうに痛いとか、予定が詰まりすぎていて手詰まりとか、嫉妬に狂っているとか、色々な意味で不健康な状態だと、相手をホメるどころではありません。
だから、逆説的かもしれませんが、相手をホメる前に、まずは日頃から自分を大切にしておくことが大事です。
自分が健康的で、余裕があると、相手のよさを存分に受け入れるためのアンテナがピンと張った状態でいられます。
この状態だからこそ「惚れレンズ」が起動し、ホメポイントというアイデアにたどり着きます。
Iと愛とアイデアで、「3つのアイ」です。
実際、私はコピーを書くときには、自分という「I」をなるべくいい状態に保ちながら、適切な愛を相手に注げているか、常にチェックしています。
だから、夜を徹してコピーを書いて、フラフラになるようなことはしません。
ここで、「とても精度の高いレンズで相手のこと見ているな」と思ったコピーを一つご紹介します。
どんな夢も、手帳に書けば、計画になる。
(能率手帳)このコピーは、よほど「I」の状態がよくて、能率手帳への愛と惚れ度が深くないと書けません。
もし自分が能率手帳の社員だったとしたら、このホメ言葉をプレゼントされたら嬉しいですよね。
ホメサピエンスへの一歩は小さな意識改革から
コピーライターの場合は相手に、惚れるのはいいけれど、惚けてはいけません。
つまり、批判性のない、盲目的な愛ではいけないんです。
例えばチョコレートをホメるときに、「甘くていい!」というコピーだと、独自の「らしさ」「イズム」が表出しきれていません。
他のチョコレートでも言えてしまいますから。
だけど、これはあくまで、コピーライターの話。
大切な人にホメ出しするときには、惚けていいんです。
無批判的な愛でいいし、相対評価ではなく絶対評価でいい。
「○○さんと比べて強い」じゃなくていい。
目の前の相手とだけ向き合って、魅力を全力で受け止める。
ちなみに、四六時中惚れレンズを装着する必要はありません。
そもそも無理です。
オフが必要です。
「今だ!」というホメどきがあるので、その瞬間サッと装着することが大事です。
この適切なタイミングについては、第2章でお話しします。
また、惚れレンズ装着は、テクニックではありますが、テクニックに終わらせると表面的になり効果を発揮できないことがあります。
正しく惚れレンズを装着すると、心から相手の魅力が伝わってきます。
曹洞宗の開祖である道元はこんな言葉を残しています。
愛語といふは、衆生をみるにまづ慈愛の心をおこし、顧愛の言語をほどこすなり。
(道元『正法眼蔵(四)』岩波書店)ここでいう「愛語」とは、愛に裏打ちされた言葉です。
つまり本書でいう、相手の存在を祝う言葉としてのホメ出しです。
道元はそのとき、「慈愛」の心が起きてこないと、愛の言葉は生まれてこないといいます。
つまり、惚れレンズを装着し、心から相手のよさに惚れることから、心のこもったホメ出しができるようになるのです。
私たち人類は、約1200万年前に類人猿から分岐し、漸進的にホモサピエンスへと進化しました。
気が遠くなるような時間を積み重ねてきたわけです。
しかしホメサピエンスへの進化は、この小さな自覚から一気に始まるのです。
ここまで読んでいただいただけで、すでにあなたは音を立てて進化を遂げています。
その速度をさらに上げるために、つづいての重要ポイント「観察」についてお話しします。
ホメ出しの姿勢を整える2今日から、「観察魔」になろう。
コピーライターは「観察魔」
数年前の夏、とある世界的に有名な教授と食事をすることがありました。
するとその教授は突然、初対面の私に向かってダメ出しを始めたのです。
相手は強敵です。
絶体絶命のピンチなはずなのに、私は妙に冷静に(なるほど。
平時からボディランゲージが多いけど、怒っているときはもっと増えるんだ)(一見熱くなっているけれど、よく聴くと言っていることは理路整然としているんだなあ)などとしげしげと相手を観察してしまいました。
これは、コピーライターの性ともいえます。
そう、コピーライターは、「観察魔」なんです。
コピーを書くときに商品や企業をつぶさに観察します。
それはもう、徹底的に観察します。
ここまでお伝えしてきましたが、「惚れレンズ」を装着していると、粒度の細かい観察ができます。
徹底した観察があるからこそ、魅力を抽出でき、商品や企業をホメる(コピーを書く)ことができるんです。
では、コピーライターはどのように観察しているか?私のやり方をシェアします。
今この原稿を書いている目の前に、お守りがあります。
せっかくなのでこのお守りを観察してみます。
そのときに、むやみやたらとではなく、「観察軸」をいくつか設けておくと、なめらかに観察ができます。
一つずつ説明していきますね。
「観察軸」を設定しよう
まずは「基本軸」。
これは、客観性が命の、フィールドワーク的観察です。
大きくは「外見」「中身(機能や情緒的価値)」の二方向で、観察や調査をしていくベーシックなやり方です。
例えば私のお守りの場合だと、こんな感じ。
外見:「お守り」(名前)、長方形、黄色、金色の文字、茶色い紐、「御守」という文字中身:げんかつぎ、縁起物、ザラザラしている、ありがたい、魔除け、ご利益、安心見たまま、感じたままに、リストをつくっていく。
順当な観察です。
例えば数を決めて、それぞれ30個ずつ見つかったら、その材料をもとにコピーを書きはじめることもあります。
ただ、私の場合ここで大きく基本軸から逸脱します。
新しい横軸を刺していくのです。
主役は、「主観」。
主観的観察から、ユニークな魅力が発見されていくのです。
私の場合は、「関係性」「アングル」「擬音」「唯一無二」などの観察軸を横軸にザクザク刺していきます。
その一つである、「関係性軸」。
お守りを色々な人やものの隣に(心の中で)置いてみて、相対的な価値をあぶり出します。
例えばバスの後部座席にひとり座って、お守りを握りしめている小学3年生の男の子がいたとしたら。
それは、隣町に住むおばあちゃんを初めて一人で訪ねるときに、お母さんが持たせてくれた「無事に目的地までつくための祈り」かもしれません。
もしくは、オーストラリアのコアラの胸にお守りがぶらさがっていたとしたら(絶対ぶらさがっていないですが)。
ユーカリの豊作を願って代々コアラに受け継がれてきた、「まあ意味があるかわからないけどないよりはいいだろう」という「気休め」かもしれません。
この「関係性軸」で観察をすると、その対象物が輝くシーンが思い浮かびますし、その「役割」が次々と見えてきます。
ここで、「関係性軸」をもとに書かれたであろうコピーを紹介します。
ケーキを買って帰る人の歩き方は、やさしい。
(函館洋菓子スナッフルス)こちらはケーキ屋さんのコピーです。
ケーキと、家族にケーキを買って帰るお父さん、という関係性を観察する中で生まれたのでしょう。
隠れた名コ
ピーです。
「関係性軸」による観察が、表現を大きく左右することがわかりますよね。
つづいて「アングル軸」をご紹介します。
文字通り、カメラアングルを変えながら対象物を観察します。
クローズアップショット、ロングショット、真俯瞰ショット。
カメラマンになった気持ちで、「素晴らしい!」なんて心で叫びながら対象物をあらゆる角度から切り取るのです。
例えば、ぐっと寄ってみます。
お守りの場合、金箔がキラキラと煌めいて、見ようによっては「砂漠に奇跡的に存在するオアシス」のようです。
ぐっと引くとどことなく柱にも見えます。
家の柱よりは小さいけれど、茶柱よりは大きい。
仮に中柱と名づけておきます。
すごく引いて遠くから見ると、「小さな守り神」のようです。
このように、鳥の目や虫の目で対象を見るのが「アングル軸」なのです。
ハイスピード(スロー)で見てもいいし、コマ送りでもいい。
あらゆる角度や尺度から観察します。
「擬音軸」とは、対象物に音をつけるとしたらなんだろう?と観察していく軸です。
お守りの効果音なんて考えたことがないですが、しいて言うなら…「そそそそっ」「フワりゅ〜〜」いや絶対こんなファンシーな擬音じゃないと思いますが、浮かんでしまったのだから仕方がありません。
はひょ〜、やっぱムヒだわ。
(ムヒ)以前こんなCMがありました。
この「はひょ〜」はムヒを塗った直後の気持ちを、見事に表現していますよね。
擬音から、らしさを発見することもできるのです。
観察で遊びながら、多面性をあぶり出す
思っていたより、自由な観察だなと思いましたか?いいんです。
スターバックスで窓越しにする人間観察も、勝手気ままに相手の生活とか習慣を妄想するじゃないですか。
観察はクリエイティブな作業なんです。
観察が退屈だったら、いい魅力は引き出せないですよね。
観察魔とは、観察で遊ぶ人のことです。
まずは心が動くままに観察しましょう。
軸を刺しながら観察で遊ぶ行為は、「拡散的思考」を狙ったものです。
これは、あるテーマがあったときに、探索的にさまざまなアプローチをとっていく手法のこと。
つまり、何かを観察するときに、ベタで直線的なやり方だけでは、得られる情報は限られてしまう。
一見遠回りかな?と思うぐらいの曲線的なやり方をとることで、その途中でさまざまな情報を拾うことができるのです。
気を集中するというより、むしろ気を散らすことが、観察範囲を広げます。
こんな要領で、次々と横軸を刺しながら観察をします。
すると、あっという間に、観察表が成長していきます。
観察軸を刺しながら進める、守備範囲の広い観察には、2つの目的があります。
1つ目は、対象となるモノの「多面性」をあぶり出すことです。
どんなモノでも、そしてもちろん人でも、特徴が一面しかないなんてあり得ません。
色とりどりの面が存在します。
でも、観察を怠ると、目立った一面だけが見えすぎてしまうことがよくあります。
私はコピーライターに加えて福祉の仕事をしているのですが、障害のある人は、「障害のある一面」ばかり見られることがよくあります。
その結果として、その人に対するバイアスがかかってしまうのです。
つまり、惚れレンズをかけて、観察魔になるとは、多角的な視点で、多面性の発見を目指す姿勢なんです。
そして、観察の結果もたらされた面の数だけ、ホメ出しは可能になります。
観察とはホメるための「言葉の採取」
2つ目の観察目的は、ホメるにあたっての「言葉の採取」をすることです。
多角的な観察をすることで、思ってもみない言葉との出会いが生まれているともいえます。
あの手この手で観察することで、まるでオモチャ箱をひっくり返すように、言葉を散らかして、その中から使えそうな言葉を選択していく。
だからこの表は、「言葉の標本」でもあるわけです。
これだけ言葉のコレクションがあると、コピーを書くときのアシストになります。
うっかり、コピーライターにおける観察の作法について紙幅を割きすぎてしまいましたが、もうおわかりですよね。
そう、相手をホメ出しするときにも、「観察魔」になることが大事なのです。
基本軸や関係性軸、自分が観察しやすい軸をどんどん刺して、相手を研究するつもりで観察し、言葉を集めます。
ホメ出しにおける観察の実践
私がホメ出しをする際、どのような観察軸を持って、どのように言葉の採取をしているかお伝えします。
お守りの事例で、コピーを書く際の観察軸をいくつかご紹介しましたが、人を観察するときの観察軸はまた少し違います。
まず、私が活用する基本軸としてはこの5つです。
❶外見軸❷性格軸❸行動軸❹信念軸❺未来軸それぞれの軸に沿って、最近福祉の仕事でご一緒したOさんを観察していきます。
、せっかくなので皆さんも一緒にやってみませんか?こちらにワークシートがありますので、誰か一人深く観察してみたい人を選んでください。
その上で、一緒に考えてみましょう。
まずは「外見軸」です。
といっても、Oさんのルックスを観察するわけではありません。
私は、顔や身体の特徴をホメ出ししません。
それは変えようがないということと、繊細な領域なので、ホメたつもりが傷つけたり、あるいはハラスメントにつながることがあるからです。
ではOさんの外見の何を観察するかというと、ずばり服装と持ち物です。
服を代表とする持ち物は、その人なりのこだわりや好み、価値観を色濃く反映しています。
メディア論で知られるマーシャル・マクルーハンはかつて服を「第二の皮膚」と言いましたが、服とは特にその人を示す重要な要素です。
Oさんはいつもビシッとスーツで決めていて、黒縁のメガネが似合うな。
木製の素敵な万年筆をいつも使っているな。
など、服も含めた持ち物に関する特徴をピックアップしていきます。
つづいて「性格軸」でOさんを観察します。
Oさんはどんな性格の方でしょうか?まず浮かぶのは情報通であることです。
これだけ情報が氾濫する時代において、適切で、それでいて新鮮な情報をいつもチームにもたらしてくれます。
そして、何より柔軟。
チームのうねりを敏感に感じ取り、そのうねりを増幅するような発言を連発します。
また、譲れない点は譲らないという芯の強さもあります。
そして「行動軸」。
相手が日頃とっている行動、あるいは過去にとった行動などを聞いた上で、観察していきます。
Oさんは、とにかく機敏で、チームの方針が決まったらすぐにタスク整理とスケジュール作成を行ってくれます。
スピーディに、フットワーク軽く仕事を進めてくれる頼れる仲間です。
さらに「信念軸」。
相手の価値観や哲学、譲れないことを観察します。
Oさんは「障害のある方に適した仕事はもっとつくれる」という確固たる信念があります。
この点がブレることはありません。
だからこそ、ある程度安定を約束された大企業を退職し、障害福祉ベンチャーに転職するという行動をとりました。
強い意志がある方です。
最後に「未来軸」。
どのようなビジョンや夢を持っているのかという点に注目してください。
もし知らない場合は、聴き出してみてください。
ちなみにOさんは「障害があってもなくても生き生きと生きることができる社会にしたい」という明確な未来を見据えています。
ここまでの観察結果を見て、「Oさんはなんて素晴らしい人なんだ!」と思いませんでしたか?もちろんその通りなのですが、このOさんの魅力は、私が惚れレンズを装着して、観察魔になっているから抽出できているともいえます。
他のチームメンバーは漠然とOさんのよさを感じつつも、はっきりとはその特徴を言語化できていないはずです。
ここが、ホメ出しできるかできないかの分岐点なのです。
さて、基本軸の観察がおおよそ終わったら、観察で遊んでいきましょう。
Oさんの独自性を探っていく「唯一無二軸」で観察します。
Oさんにあって、他の人にない面は何だろう?山ほどありますが、一つはこまめに連絡してくださるキメ細かさ。
そして、何か小さなミスをしたときに「やっちゃいましたね、ごめんなさい。
あはは」とすぐに非を認めて笑い飛ばせる強さ。
そして「擬音軸」。
Oさんは行動力があるから「シャキーン」とかがいいな。
「サッ」「シュー」「そそそっ」みたいな擬音も似合うな。
そうかさ行が多いんだな。
さ行系擬音タイプ(今勝手に考えた言葉)なんだ、なるほどなあ、と勝手に納得して進めていきます。
さらに、「関係性軸」です。
これはもちろん、実際にOさんが誰かと接しているシーンを観察してもいいです。
ただ、妄想してもいいのです。
例えば渋谷でおばあちゃんが道に迷っていたら、Oさんは、「サッとノールックで助けそう」という印象です。
ここでさっき抽出した「サッ」を使いました。
観察軸同士を、掛け合わせていくのもいいですね。
このように、どんどん、観察と妄想をマリアージュさせて「自分なりの相手像」をつくります。
観察すればするほど、立体的なホメ相手が脳内に立ち上がってきます。
Oさんをホメ出しするための言葉がどんどん溜まります。
ここまでくれば、どんどんホメ出しすることができます。
「Oさんがいれば、障害のある方の働き方が本当に変わりそうですよね」「柔軟だけど譲れない点は譲らないから、奇跡的なバランス感覚ですよね」「Oさんって、おばあちゃんをサッとノールックで助けそうですよね」観察の数と質が、ホメ出しを左右するのです。
ちなみに、横串に刺す観察軸はなんでもいいのです。
自分が考えやすい軸(問い)を用意して、手元に置いておくことをおすすめします。
「もしも軸」(もしも目の前の相手が○○だったら)とか「メタファー軸」(相手を何かに例える)とか「動詞軸」(目の前の相手を動きで追ってみる)とか。
自分が積極的に観察をしたくなる軸であれば、どんどん軸を創作してください。
繰り返しになりますが、文化人類学者のような正確さが求められているのではなく、あなたの「マイ解釈」が尊いのです。
さて、ここまで書き進めてきたワークを見てみましょう。
いかがでしょうか?観察するんだという意識を持つと、またいくつかの観察軸があると、その人の新しい一面や輪郭が浮かび上がってきませんか?これこそが、観察魔になることの効果です。
この観察癖が、ホメ出しの心臓部分となるのです。
締め切りドリブンで考える
ちなみに、人の行動を促す大切な要素があります。
それは「締め切り」です。
ふだん私はクリエイターとして広告やスポーツなどをつくっているのですが、締め切りがなければ永遠にソファに寝転がってプリングルスを食べているでしょう。
だからこそ誰かにホメ出しする際にも、自分の中で締め切りを設定するとよいのです。
例えば友人と1時間お茶をするならば、「この1時間で必ず1回はホメ出しする」と決める。
あるいは、3人の部下たちと30分打ち合わせをするときに、「この30分で必ずそれぞれに1回はホメ出しする」と自分のアジェンダに入れてしまう。
仕事から家に帰ったら、寝るまでに妻に1回ホメ出しする。
シーンは何でもよいのですが、とにかく自分で自分に締め切りを課す。
それが惚れレンズを装着することにつながり、結果として観察魔に変身することができるのです。
ここまでのお話で、もうホメ出しの準備は9割整ったといっていいでしょう。
次はホメるにあたっての「発見」の仕方についてお話しします。
ホメ出しの姿勢を整える3発見とは、「ハッ」。
ハッとしたら相手をホメよう。
相手の魅力を「発見」する
「あ、ミュートになってます」気づいたら、今日は3回口にしていました。
新型コロナウイルスの影響でオンライン生活にシフトしてもうずいぶん経ちます。
私にとってのひそやかな楽しみは、オンラインだからこその「その人らしさ」を見つけることです。
いつもは渋い声の上司が、娘さんが横にいると甘い声を出すんだなとか。
いつもはちょっと緊張感漂う取引先の方が、自宅モードだとリラックスされていて、人懐っこさが全開になるんだなとか。
実はこのとき、私は相手の魅力を「発見」しています。
つまり新事実をつかんでいます。
誰かをホメ出しするときにも、この「発見」がものを言います。
何をもって発見と呼ぶのか?それは、あなたが「ハッ」としたときです。
発見は、ハッ見なんです。
私はオンライン会議で、上司や取引先の人の意外な一面に「ハッ」としているのです。
これは相手の新しい魅力に出会ったときに鳴る胸の音です。
そして、その瞬間こそが、ホメどきなのです。
発見には「新発見」と「再発見」の2つがある
ちなみに発見には、大きく2種類あります。
「新発見」と「再発見」です。
新発見とは、「ハッ!実はそんな一面があったんだ」「ハッ!知らなかったけどそんな性格だったんだ」という新しい情報との遭遇です。
一方、「ハッ!やっぱりいい人だな」と「ハッ!そういえばこういう魅力があったな」という再確認系の発見もあります。
さらに言うと、あなたが見つけた「新発見」と「再発見」を相手がどう受け止めるかにも、2パターンあるのです。
例えば、「ハッ!田中さんって、何があっても仲間のことを守ってくれるんだ」という新発見を、田中さんに伝えたとしましょう。
「え、俺そうだったの!」という反応が返ってきたら、それは田中さんにとっても新発見です。
でも、極端な話「さっきも同じこと言われた」と返ってきたら、ホメ出しするあなたにとっては新発見でも、田中さんにとっては再発見です。
また、例えばあなたが、「ハッ!やっぱり部下の高橋さんって、言葉づかいが美しいな」と再発見をして、それを高橋さんに伝えた場合。
「恐れ入ります。
たまにそう仰っていただきます」と、高橋さんが返してきたらお互い再発見です。
ところが「え、そうなんですか?」「初めて言われました!」という反応が返ってくることもあるのです。
つまり、あなたにとって、相手の魅力が自明だとしても、本人が気づいていない場合が多々あります。
だからこそ、「これ、相手は何回もホメられてるかな」と思ったとしても、再発見したことも相手に伝えるべきなのです。
まとめると、ホメ出しにおいては4パターンの発見があるということです。
一番相手の印象に強く残るのは❶の「新−新発見」です。
でも、逆にいうと、難易度が高い。
だから、まずは❹の「再−再発見」をおすすめします。
すでに長年のつきあいがある相手(家族でも恋人でも仕事仲間でも)を惚れレンズを装着して観察する。
すると、必ず相手のいいところを再発見できます。
「山下さんって、絶対人の悪口を言わないよね。
それってなかなかできることじゃないと思う」発見したら、是非そのことを相手に伝えてください。
「たまに言われるんだよね。
でもありがとう」と言われた場合、これは❹です。
あなたの再発見が、相手の再発見。
まずはここからで十分です!ホメ出しとして成立しています。
❹を狙っていれば、たまに「自分では気づいてなかった、ありがとう」と、棚からぼた餅のごとく、❸「再−新発見」がもたらされることがあります。
ホメ出しに慣れていけば、❷へと進んでいき、さらに経験を積むと❶の打率を上げることが可能になります。
このあたりの精度を上げる方法は、また追ってお話しします。
あなたの中に「いいなあボタン」を
あなたの中に生じる「ハッ」は、いつでもわかりやすいわけではありません。
微弱な信号として、小さくハッとなるときもよくあります。
そうした場合に、相手のホメ出しポイントを逃さない工夫があります。
それは心の中で頻繁にこうつぶやくことです。
「いいなあ」相手の話を聞いていて、「なんて魅力的なんだろう。
いいなあ」「素晴らしい仕事をしているな。
いいなあ」と、「いいなあ」という感嘆の気持ちを差し込んでいきます。
実際に口に出してもいいです。
そうすると、どんどん愛情バイアスがかかって、霧に包まれていた相手の素晴らしい面がよく見えるようになります。
これは、インスタグラムやツイッターを見ているときの気持ちに近いともいえます。
友人やインフルエンサーの、魅力的な投稿に対して私たちは「いいね」ボタンを押すわけですが、実はこのとき、心の中でハッとしていることが多いです。
ちなみに、私たちはどうして「いいね」を押すのでしょうか?それは、サービスの設計として「いいねボタン」がすでにあるからです。
これ、実はすごく重要です。
つまり、そのSNSを見るときに、いいねボタンがあることで、私たちは無意識のうちに自分の「いいね」を取りこぼさず、キャッチしているのです。
ですから、ホメ相手と話すときには、あたかも目の前に「いいなあボタン」があるという前提で、相手に対する「ハッ」を逃さないことが大切になります。
それほどに、相手のよさとは、スルッと簡単にあなたの目の前を通り抜けてしまいます。
すべてのコピーに発見が含まれている
ちなみに、すべてのコピーには、何らかの発見が含まれています。
また、そこには、発見の多様性があります。
新発見、再発見はもちろん、大発見、小さい発見、本質的発見、普遍的発見、細部の発見、変な発見。
どれも立派な発見です。
コピーライターによる「発見の共有」がキャッチコピーなのです。
例えばこちらのコピー。
くしゃみの飛距離は7人がけの座席より長い。
(KIRINプラズマ乳酸菌シリーズ)くしゃみってそんなに飛ぶんだ!とハッとすることで、それを防いでくれるこの商品のことが気になってきます。
「細部の発見」は例えばこういうコピーがあります。
冬の餃子は、白菜が、うまい。
(大阪王将)
小さくですが「ハッ」としますよね。
さらに、大発見系のコピーもご紹介します。
サラリーマンという仕事はありません。
(西武セゾングループ)なるほど!と思わず膝を打ってしまいます。
名作コピーには大発見が含まれている分、心で鳴る「ハッ」も大きい。
その結果、忘れられない発見となり、見た人の人生に刻まれます。
コピーライターは、商品や企業に惚れて、執念深い観察をすることで、なんらかの発見にたどり着くのです。
その発見の痕跡は、誰かをホメ出しする際にも大いに参考になるので、私は日頃コピー研究をしています。
ホメ出しは姿勢が9割
ここまで、誰かにホメ出しするときには、惚れレンズを装着し、観察魔になることで、発見がもたらされる。
という3つの話をしてきました。
この基本姿勢を守るだけで、ホメ出しの量が増え、質が上がります。
私はコピーライターと並行して、「世界ゆるスポーツ協会」というスポーツ団体の代表をつとめています。
イモムシラグビー、ベビーバスケ、トントンボイス相撲など、スポーツが苦手な人でも楽しめるスポーツを開発している団体です。
これまで100競技以上のスポーツを発明してきました。
「室内で」「普段着で」「安全に」できるスポーツが豊富に揃っているので、企業研修などで、チームビルディングの一環としてゆるスポーツを活用していただくことがあります。
その中に「リーダーシップ研修」というプログラムがあるのですが、参加者の皆さんに順番に審判をやってもらいます。
その際、私からお願いすることは一つだけ。
「1分間に5回以上、プレイヤーをホメてください」そう。
審判といっても、選手がルールを守っているかを監視してほしいわけではないのです。
このお願いをすると、「えー」「難しいな」「できるかな」という声が飛びます。
しかし実際に始まってみると、ホメが止まらなくなります。
「今のパス、美しい!」「どんどん成長してる!」「そのチャレンジに1点!」前向きな言葉が、次々と飛び出します。
すると、どうなるでしょうか?ホメ出しされたプレイヤーの動きがよくなり、どんどんチャレンジするようになります。
また、ホメ出しした審判とされたプレイヤーの会話が増えたり、「以前よりも距離感が縮まった」とアンケートで答えていただくこともあります。
「審判としてホメてください」という一つのディレクションを入れるだけで、自然と「惚れレンズ」が起動し、観察魔に変身し、多くの発見を得られるのです。
だから、ホメ出しにおいては姿勢が重要なんです。
テクニックの前に、まずは姿勢。
相手を「新大陸」だと信じる
ホメ出しの姿勢に通底しているのは、「相手を信じる」ことです。
思わぬ発見が相手の中に隠れているに違いない!そう心から信じることです。
新大陸はもう世界にはないけれど、目の前の人の中にあるのです。
そう信じる冒険家にだけ、発見がもたらされます。
冒険といえば、この章の最後に好きなコピーを一つだけ。
これぞ発見、というコピーです。
保険は冒険から生まれた。
(東京海上日動火災保険)さて、ここまではホメ出しにおける姿勢の取り方をお話ししてきました。
次章からは、ホメ出しの着眼点や表現法、より具体的な事例をご紹介しま
す。
「ホメ出し」まとめ1章「ホメ出し」は姿勢が9割、テクニックの前にまず姿勢を整えよう。
姿勢1「惚れレンズ」越しに相手を見る●「ホメ出し」の一歩は、相手に「惚れる」こと。
・「自分は、先入観、誤解、偏見などのバイアスに囚われている」という前提に立って、相手やものを見る。
・ホメ出しに必要なのは、3つの「アイ」(Ⅰと愛とアイデア)。
惚れレンズを装着し、心から相手のよさに惚れることで、心のこもったホメ出しができる。
姿勢2「観察魔」になる●観察の目的は2つ❶対象となるモノの「多面性」をあぶり出す❷ホメるにあたっての言葉の採取●観察の方法・一般的なフィールドワーク的観察:外見と中身(機能)・コピーライター的観察:主観的観察→ここに「関係性軸」「アングル軸」「擬音軸」「唯一無二軸」を刺していく。
・人を観察する(「ホメ出し」する)ときの観察軸:「外見軸」「性格軸」「行動軸」「信念軸」「未来軸」観察の数と質が、「ホメ出し」を左右する。
姿勢3「ハッ」としたら相手をホメる●ホメ出しにおいては、相手を信じて、その魅力を発見することが大事。
発見には「新発見」と「再発見」があり、「ホメ出し」においては4パターンの「発見」がある。
❶自分にとっての新発見-相手にとっての新発見❷自分にとっての新発見-相手にとっての再発見❸自分にとっての再発見-相手にとっての新発見❹自分にとっての再発見-相手にとっての再発見●発見をするためには、自分の心の中に「いいなあ」ボタンを持ち、心の中で頻繁に「いいなあ」とつぶやく。
COLUMN……………01どうして私はコピーライターになったのか
12歳のとき、私は人生最悪の決断をしました。
当時フランスのパリ日本人学校に通っていたのですが、せっかく海外にいるのに日本人のクラスメートに囲まれて、日本語で教育を受けることに「もったいない」と感じていたのです。
そこで、中学校に進級するタイミングで、自分の意思で「パリのイギリス人学校」に転校することを決めました。
決め手は日本人が一人もいないこと。
この逆境でこそ、英語力がみるみるうちに伸びるに違いないと踏んでの決意でした。
険しい道を選ぶ自分に酔っていたのかもしれません。
ところが、そこは逆境も逆境。
むしろ地獄でした。
はじめの数日こそ物珍しさでイギリス人のクラスメートたちが色々と話しかけてくれたのですが、当時英語が話せなかった私は両手に分厚い英和辞典と和英辞典を持ち、何か英語で聞かれるたびに辞書を指差し、「This!」と辞書を通じて会話するようお願いしました。
グーグル翻訳が誕生するはるか前の話です。
ところが、辞書を介しての会話は段取りが多いので面倒くさい。
あっという間に私の周りから人がサーッといなくなりました。
まるで透明人間のような日々。
私は1年で「Hello」「ThankYou」しか言葉を発しませんでした。
そんなとき、「人の肌がツルツルしているのが気持ち悪い」と思うようになってしまったのです。
ツルツル恐怖症はしばらく続きました。
それは、自分が「人間社会の一員」ではないと疎外感を感じていたからこそ、人間をヒトという異物と捉えてしまっていたのかもしれません。
そんなとき、私を救ってくれたのは本でした。
パリには日本語の本を扱う図書館があったので、毎週のように通っては、上限20冊分の本を借りて、むさぼるように読みました。
印象的だったのは、登場人物の悲しみや喪失感を、美しく表現した本がいくつもあったことでした。
言葉というのは、負の感情にさえ光を見出すんだなと、なんだか安心するのと同時に、漠然と「言葉」の奥深さに興味が湧いてきました。
15歳のとき、アメリカのシカゴに引っ越しました。
そのとき、再び「言葉の力」を印象づけられた出来事がありました。
当時テレビで、アメリカ海軍の新兵を募集するCMが流れていたのですが、筋骨隆々のスーパースターみたいな軍人たちが描かれ、「君もアメリカのヒーローにならないか?」という大袈裟なコピーで締めくくられていたのです。
「ずいぶん派手なCMだな…」ぐらいにしか思っていなかったのですが、翌朝学校に行くとアメリカ人の同級生たちが「昨日のCM見た?」「俺もヒーローになる!」と大盛り上がり。
そのうちの一人は実際海軍に入隊していました。
衝撃を受けました。
一つの言葉が、こんなにも人を動かすだなんて。
その後、「コピーライター」という職業があることを知りました。
いつしか自分もコピーライターになりたいという想いが湧いてきました。
孤独だったパリのイギリス人学校時代。
幸いなことに私はその後、アメリカへの引っ越しをきっかけに友人ができたり、コミュニティに属することができましたが、世界にはまだ孤独な人が大勢いる。
あるいは、自分のことが好きになれなかったり、世界そのものを居心地が悪いと感じている人がいるかもしれない。
だとすれば、コピーライターという「不特定多数の人に言葉を届けることができる」職業を通じて、誰かを肯定したり、応援したり、少しでも力になれる言葉を生み出したい。
そんな動機で、2004年に広告会社に入社し、2005年からコピーライターとして働いています。
私の思いが結実した一つのコピーがあります。
2010年に、アミューズメントメディア総合学院という、クリエイターを育成する専門学校のコピーを考えるチャンスを得ました。
話を聞く中で、大学に進学せずに専門学校に通うということで、後ろめたさを感じている生徒がたくさんいると知りました。
また、小中高と学校に馴染めず、教室の隅っこで黙々と絵を描いて、そのまま絵を仕事にしたいと思って入学する生徒もいる。
この話を聞いて、「中学時代の僕に似ているな」と思ったのです。
何か生徒の皆さんにエールを送るコピーを書きたい。
いや、書かなければいけない。
そこで生まれたのがこのコピーです。
あなたが生まれなければ、この世に生まれなかったものがある。
あなたがいたから生まれた絵や声、映像がある。
という意味合いはもちろんのこと、「あなたが存在しているということ自体を祝福したい」というメッセージも込めました。
私の、コピーライターとしての仕事はまだ続いていきます。
これから先も、誰かの人生に寄り添うような言葉を書いていきたいと思います。
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