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第1章すべての人が喜ぶ、ほめ方の技術

はじめに

~心を動かす「100点のほめ方」とは?人は、10のアドバイスをされるよりも、たった1つの「ほめ言葉」をもらった方が変わります。

では、どんな「ほめ方」をすれば、相手は喜んでくれるのでしょうか?「なんかステキ、かわいい」「今日もスーツ決まっているね」「いい契約が結べたな」相手の見た目をほめたり、結果をほめたりすることも、立派な「ほめ方」です。

しかし、パッと目に入った印象やわかりやすい結果をほめるだけでは、瞬間的な効果しか得られません。

そこで本書では、うわべだけだったり相手をコントロールしたりするようなほめ方ではなく、心に響く、記憶にしっかり残る「ほめ方」をご紹介します。

「ほめる」ことは、「あなたのことを信頼している」「あなたの良いところをもっと知りたい、仲良くなりたい」と好意を示すことです。

単に「見た目」や「結果」をほめるだけではなく、「その人のあり方」や「頑張ったこと・過程」をほめることを意識してみてほしいのです。

そこで、こんなほめ言葉はいかがでしょうか?「いい契約が結べたな。相手のニーズをここまで引き出すとは、思っていなかったよ。影で努力していた姿を見ていたし、いつか結果は出ると思っていた。何度も企画を出して、あきらめない姿を見ていると頼もしかったよ。

いままで多くの営業マンが跳ね返されてきたクライアントだったが、本当によくやった。これからも期待しているよ。わたしも勇気をもらった、ありがとう。その〝誠実さ〟は、持って生まれたように感じていたし、ご両親の育て方が良かったんだと思う。そして学生時代のクラブで良い恩師や仲間に恵まれたんだろうな。粘り強くやり切った、本当によくやった」

このほめ方には、「100点のほめ方」の技術がギュッと凝縮されています。

「そんな長いほめ台詞をいきなり言うなんて無理だよ……」と思われる方もいるかもしれませんが、大丈夫です。

「100点のほめ方」は、誰でも身につけることのできるシンプルな技術だからです。

―シンプルな技術で「ほめ上手」になれるこの本を読めば、相手に喜んでもらえる「100点のほめ方」が誰でもできるようになります。

たとえば、「いい契約が結べたな」契約をとってきた部下にこう言ったとしましょう。相手は喜んでくれるでしょうか。必ずしもその言葉で、すべての人が喜んでくれるとは限りません。

「本当に大変さをわかってくれているんだろうか……」そう感じる部下もいるでしょう。これではまだ、「20点のほめ方」です。そこで、具体的な行動や過程をほめてみてください。

【20点のほめ方】

「いい契約が結べたな」

【60点のほめ方】

「相手のニーズをここまで引き出すとは、思っていなかったよ。影で努力していた姿を見ていたし、いつか結果は出ると思っていた。何度も企画を出して、あきらめない姿を見ていると頼もしかったよ」

←具体的にどこがほめポイントだったかを表現しているこのようにほめると、相手は、「自分の頑張りをしっかりほめてもらった」と思えて、満足度がぐっと上がります。

これで、60点のほめ方になりました。

さらに、ほめる側の感情を伝えるためこう続けてみましょう。

【20点のほめ方】

「いい契約が結べたな」

【60点のほめ方】

「相手のニーズをここまで引き出すとは、思っていなかったよ。影で努力していた姿を見ていたし、いつか結果は出ると思っていた。何度も企画を出して、あきらめない姿を見ていると頼もしかったよ」←具体的にどこがほめポイントだったかを表現している

【80点のほめ方】

「いままで多くの営業マンが跳ね返されてきたクライアントだったが、本当によくやった。

これからも期待しているよ。わたしも勇気をもらった、ありがとう」

←一対一の関係性を意識した感情を伝えているこのように、ほめる側の感情をこめてほめることで、部下は一対一の関係性を大切にされたうえで「ほめられた」「認められた」という気持ちが強まります。

ここまでくれば、もう80点。

あと一歩です。

100点を目指すなら、生き方すべてを肯定し、ほめます。

生き方すべてを肯定するときは、「過去」と「現在」と「未来」、「その人の人生において大切な人」や「乗り越えてきた困難」などをその人の半生を振り返るような気持ちで、丁寧にほめていくのです。

【20点のほめ方】

「いい契約が結べたな」

【60点のほめ方】「相手のニーズをここまで引き出すとは、思っていなかったよ。影で努力していた姿を見ていたし、いつか結果は出ると思っていた。何度も企画を出して、あきらめない姿を見ていると頼もしかったよ」

←具体的にどこがほめポイントだったかを表現している

【80点のほめ方】

「いままで多くの営業マンが跳ね返されてきたクライアントだったが、本当によくやった。これからも期待しているよ。わたしも勇気をもらった、ありがとう」←一対一の関係性を意識した感情を伝えている

【100点のほめ方】

「その〝誠実さ〟は、持って生まれたように感じていたし、ご両親の育て方が良かったんだと思う。そして学生時代のクラブで良い恩師や仲間に恵まれたんだろうな。粘り強くやり切った、本当によくやった」

←生き方すべてを肯定し、ほめている現在の状況をほめるだけでは、相手の一部、「点」をほめているだけにすぎません。

そうではなくて、現在、過去、生きてきた環境、未来など……、相手の存在をつくりあげてきた多くの「点」を「線」で結ぶようなほめ言葉をかけることができたら、「100点のほめ方」です。

このようなほめ言葉は、相手の心に響き、記憶にしっかり残ります。そして、相手は「自分を理解してくれている」と安心感を抱き、あなたとの間に信頼が生まれてきます。

また、このように相手のことを考え尽くしてほめると、ほめる側の記憶にも相手の良さが刻まれ、尊重し合う関係の基礎が完成します。

実はこのやりとりは、わたしの経験です。

「ほめる」が持つ力を実感しているのと同時に、上司から「君のことを信頼していない」と言われ、脱力感に襲われたときの経験をもとに、日々仕事で活かしています。

わたしは現在、複数の会社を経営しています。

わたしは、1年の約2割は海外出張でしたし、出張先や自宅でもビデオ通話の仕事が多く、また執筆依頼も毎週のようにあるため、部下とリアルに会うのは月に1度です。

でも、電話やSNSのメッセージ、ビデオ通話などを活用し、文章や音声、ときには映像も送ってしっかりほめているので、人間関係は円満です。

人間関係が円満だと、相手に対して、事務的なコミュニケーションだけではなく、「プラス1」の気遣いや配慮が自然とできます。

すると、話しかけるタイミングや伝え方の言葉選びに頭を悩ませないでスムーズにコミュニケーションをとれる関係性が築かれるので、仕事がどんどん進みます。

その結果、部下の残業はゼロ、有給取得率100%、ベースアップも4年連続で実現しています。わたしが部下をほめ、部下はわたしに感謝する。そんなゆるぎない関係が築けているため、改善点があれば気づいた瞬間言い合います。

感情の乱れは一切生じません。自分が悪かったと思ったら、もちろん、わたしも謝ります。素直に謝る文化も根づいているので、仕事の質がさらに上がり、とても良い循環が生まれています。

「100点のほめ方」を身につけると、ポイントをついた「ほめ」ができるようになり、相手との距離が一気に近づいて、信頼関係がこの上なく強固になるのです。

それは、相手の生き方をほめ、受け入れることにもつながります。

すると相手から「この人といると楽しい」「この人ともっと話したい」と思ってもらえて、仕事はもちろん、プライベートでも良いことがたくさん起こります。

そして、人間関係の悩みがほぼゼロになるのです。

―「ほめる」ことで人生が変わるわたしは「ほめること」の大切さを、日本中だけではなくアメリカや中国、インド、カンボジア、オーストラリアなど、世界17か国のべ50万人以上の方々へ伝えてきました。

そのなかで「ほめることで、また、ほめられることで、人生が変わった」という声をたくさんいただきました。

エステ会社で働いていたとある女性Sさんは、念願の独立を果たして、自分の会社を起こしたものの、顧客が思うように増えません。

そこで解決の糸口を求めて、異業種交流会や著者パーティの受付などの手伝いをすることにしました。人が多く集まる場所に行き、人脈を増やそうと考えたのです。

しかし会場には、同じことを考えるエステティシャンやサロン運営の人がたくさんいました。

Sさんは、自分のエステサロンの特徴を必死で伝えようとしますが、興味を持ってくれる人はなかなか現れません。

そこでわたしは、Sさんに交流会の場では、「相手の話を聞き、会話を楽しむこと」に徹し、交流会後に送るメールに、ほめ言葉を入れるようにアドバイスしました。

ほめ言葉を加えたメールは、次のような内容です。

「昨日は交流会でお名刺交換をありがとうございました。お話の中で、『利益=理念実現や社会貢献のための経費』とおっしゃっていたことが記憶に残っています。

貴社の理念の素晴らしさに感動し、一度ご教授いただきたいです。そして、秘書のHさんに本当にいろいろお気遣いいただき心から感謝しています」するとどうでしょう。

すぐに秘書のBさんからメールが届き、「一度エステをお願いしたい」と依頼があったのです。

効果を実感したBさんがリピーターになり、その後100点のほめ方を実践すると、紹介が増え、新規のお客様もどんどん増えていきました。

そしていまでは、予約がとれない人気エステサロンになりました。

自分の仕事を増やすことばかりを考えるのではなく、相手をほめることに焦点を当て、交流会に参加することで、Sさんは「記憶に残る人」になったのです。

しかも今回の場合、相手がほめてほしい点に触れたお見事な「ほめ方」でした。もうひとつ、事例をご紹介しましょう。

あるシングルファーザーの男性は、同居する息子とまともに会話することができないほど、関係が冷え切っていました。

男性は朝早く出社し、深夜に帰宅する毎日。なかなか息子と顔を合わせる機会もありません。仕事優先にしなくては、生活が回らないのは事実。でも、ますます息子と会話しにくくなる一方です。このままではダメだと思い、焦りばかりが募っていました。

もともと、その男性自身も自分の親と折り合いが悪く、交流がほとんどありませんでした。だから余計に、何をどう話せばいいのか、まったくわからなかったのです。こんな場合、いきなりほめるのは困難です。

そこでわたしは「メッセージカード」を使うことを提案しました。

些細なことでもいいので「ありがとう」の気持ちをメッセージカードにしたため、息子に伝えるようにしてもらったのです。

たとえば、次のようなメッセージです。

「洗濯物のたたみ方、上手だね。ありがとう。嬉しかったよ」ほんの些細なこと。

でも、これが糸口になりました。

日頃言いそびれていた「ほめ言葉」と「ありがとう」を伝えることで、いままで当たり前だと思っていた息子の存在がありがたく思えるようになったからです。

そして、男性は自然と「息子の行動」に目が向くようになったのです。

「夜遅くまで、毎日素振りしているんだな。お父さんが帰ってきても、バットに熱がまだ残っているときがある。すごいな」

「お前の努力がエネルギーになり、お父さんも仕事頑張ろう、という気持ちになる」と、「ありがとう」以外のほめ言葉も添えるようになりました。

そうやって何枚目かのメッセージカードを渡したある日、息子からLINEのメッセージが届いたのです。

「今度、どっか飯でも食べに行かない?」そして、ふたりは焼き鳥屋へ行ったそうです。

言葉を交わすことは少なかったそうですが、男性は息子さんとふたりで出かけること、それ自体が奇跡のように思えて感無量だったと感想をいただきました。

息子さんにとってもその時間はとても楽しく、嬉しい思い出になったそうです。

―仕事の壁を乗り越えられたきっかけは、「ほめられたこと」わたしも「ほめる」こと、そして「ほめられる」ことで、人生が変わりました。

32歳の頃です。

当時、わたしは飲食店の店長として働いていましたが、気持ちがふさぎこんでいて、6か月間引きこもっていました。

さらに、転職活動では、不採用が続き、「わたしなんて、誰にも求められていないんだ」とさらに落ちこみ、投げやりになっていました。

そんなとき、最初に入社した食品メーカーでわたしの部下だったTくんから「ひさびさに、飲みに行きませんか」と誘いがありました。

転職活動に悩むわたしを思いやって、声をかけてくれたのです。

「なんか、最近元気なさそうじゃないですか。どうしたんです?」そうやって明るく声をかけてくれる彼に、わたしは思わず本音を打ち明けました。

「転職活動、なかなかうまくいかんわ。こないだの面接も、あまり良い感触じゃなかったし。……もう、なんかどうでもよくなってきたわ。仕事なんて、どれも一緒やん」

そんなわたしを見て、彼は語気を強めてこう言いました。

「どうしたんですか、原さんらしくないですよ。一緒に働いてた頃、僕ら部下たちの面倒もよく見てくれて、どんな相談にも乗ってくれた。本当に兄貴みたいでしたよ。原さんは、価値がある方です」わたしはその言葉を聞いて、ハッとしました。

転職活動がうまくいかず、「自分なんて」「どうせ」と、ひねくれてしまっていた自分にも、「良き上司」「良き先輩」であろうとした時期がありました。

そんなわたしを慕ってくれる部下や後輩が、ほかにも何人かいました。

Tくんが「原さんには価値がある」と、強い言葉で示してくれたことで、わたし自身、これまでの経験を否定する必要は何ひとつない。

前を向いて、自信を持って転職活動に臨もうと、心を奮い立たせられたのです。

年下も年上も関係なく、「あなたには価値がある」と言い切ってもらうことで、ものすごいエネルギーが体の中に入った実感がありました。

そこから一念発起し、わたしは無事、新しい会社の内定をもらうことができました。

その後独立、「ほめ育コンサルタント」として活動し、ほめることのパワーを伝えるために、日本全国、海外十数か国を飛び回り、多くの人に「ほめ方」を教えています。

いまでは、約300社の企業に「ほめ育」のセミナーやコンサルティングを導入しています。もし、部下だったTくんのあのほめ言葉がなかったら、いま、わたしはここにいないかもしれません。

―今日からほめ上手になれるこの本では、わたしがこれまで50万人以上の方々にお伝えしてきたほめ方をシンプルな方法でお伝えします。

仕事、家族、パートナー……あらゆる人と、より良い関係を築くために効果抜群の方法です。

第1章では、ほめることの目的をテーマとし、どんなスキルよりも役に立つことや、人生が豊かになることについてお伝えします。

第2章では、「『ほめ下手』を『ほめ上手』に変える3アクション」についてお伝えします。

第3章では、上司・部下、取引先、親子、夫婦、友だちなどのエピソードを交えて事例をご紹介します。

最後の第4章では「100点のほめ方+αテクニック」をテーマとし、より効果的にしていくための応用的な技術を披露します。

この本を読めば、「ほめる」ことの概念が変わります。ほめることは、決して相手をコントロールするためのものではありません。

たとえ過去に仲違いをした関係であっても、再びつながり合い、そして強固な信頼関係を築ける──そんな技術がこの本につまっています。

「100点のほめ方」で、相手の反応が面白いほど変わります。人間関係も良くなり、仕事も目に見える形、数字で成果が上がるようになります。そして、自分のこともほめられるようになり、人の温かさを実感することもできます。

さて、それはいったいどんな方法なのか。さっそく、解説していきましょう。

2020年8月原邦雄

目次

「ほめ上手」は才能じゃない。

技術で誰でもほめ上手になれる!

本書でお伝えする「100点のほめ方」は、誰でも身につけられる技術です。

100点のほめ方の3アクションを身につければ、どんな人ともあなたが理想とする人間関係を築くことができます。

さらに、この100点のほめ方の基本が身につけば、「こういう人には、こうほめよう」「こういうときは、こんなほめ言葉を添える」といった具合に、どんどんほめ方の引き出しが増えていくようになるのです。

すると、あなたの周りには、「あなたといると楽しい」「あなたと一緒にいたい」と思う人が増え、人がどんどん集まってきます。また、ちょうどいい距離を保った関係性を築くことができるのです。

そんな良いことだらけのほめることに才能はいりません。では、次の項目から、100点のほめ方の技術や目的について、具体的に解説していきます。

「ほめ言葉」にはさまざまな種類がある

「ほめ言葉」と聞いて、あなたはどんな言葉を思い浮かべますか。

「すごいね」「さすが」「上手」このように相手を称賛する言葉をイメージする方が多いかもしれません。

しかし、称賛以外にも、「感謝」「好意」を示す言葉もほめ言葉だと、わたしは考えています。

「感謝」「称賛」「好意」は、自尊心の三大欲求を満たすからです(次項~詳述)。

●感謝を示すほめ言葉「ありがとう」「感謝しています」

●称賛を示すほめ言葉「すごいね」「成長したね」

●好意を示すほめ言葉「好きだよ」「好感が持てる」

「ほめる」というのは、相手の考え方や行動に対して、感謝や称賛、好意を示し、相手のことをもっと理解したい、尊重したいという思いを伝えることなのです。

「ほめる」ことは人の才能を最大限に引き出す

そもそも、「ほめる」だけで本当に良いことが起こるのでしょうか。ある心理学者によると、人には、自尊心を満たすための三大欲求があるといいます。その3つをわかりやすく表現すると、次のようになります。

  1. 「ありがとう」欲求(自己重要感)……自分を大切な存在として認めてほしい
  2. 「すごいね」欲求(自己有能感)……自分を有能な人として認めてほしい
  3. 「好きだよ」欲求(自己好感)……ほかの誰かに好かれたい

つまり、人は「ありがとう」(①自己重要感が満たされる)「すごいね」(②自己有能感が満たされる)「好きだよ」(③自己好感が満たされる)といったほめ言葉をかけられると、自尊心の三大欲求が満たされ、自分に自信を持ち、いきいきと行動し、最大限の能力を発揮することができるのです。

ここで、学生の頃に陸上をしていたお母さんの影響で、陸上部に入部した小学4年生のAちゃんとお母さんのエピソードをご紹介します。

Aちゃんは、お母さんの影響だけではなく、自分自身も走ることが好きで陸上部に入部しました。しかし、厳しい練習に疲れ、帰宅するといつも「しんどかった……」と愚痴をこぼしていたそうです。

それを聞いたお母さんは、「自分で決めたことなんだから」と発破をかけてAちゃんを励ましていた(つもりだった)といいます。

そんなやりとりを続けているうちに、Aちゃんの表情は暗くなり、家に帰るとすぐに部屋に閉じこもってしまうようになってしまいました。

そこでお母さんは、とにかくAちゃんの話を聞いて、その頑張りを認めてあげることにしました。

母「今日はどんな練習をしたの?」

娘「200mX5本を2セット、それと1000mのタイムトライアルもやったよ」

母「わぁ、それはすごいね。本当に頑張ってるんやね」と言って、Aちゃんの「すごいね」欲求を満たしました。

そうやって、頑張りを認め、励ましているうちに、Aちゃんは、「走るのが楽しい」「友だちと一緒に頑張りたい」と口にするようになりました。

そして、それに比例するように、Aちゃんの記録はどんどん伸びていきました。そこでお母さんは、Aちゃんの自己ベストを表にして、壁に貼ることにしました。

1000mのタイムが、先週よりも3秒縮んだ、6秒も縮んだ……。

その度にお母さんは、「休まずにコツコツと練習してるから、速くなってきたんやね。本当にすごいね」と、さらにAちゃんをほめてあげました。

そして陸上の試合を観に行ったお母さんは、Aちゃんが楽しそうに仲間たちとおしゃべりしたり、応援し合ったりしているのを見て、こんな言葉をかけました。

「友だちと応援し合うのは、とても良いことだよ。応援し合う姿を見て、ますますAちゃんのこと好きになったわ。良い仲間に出会えて、本当に良かったね。お母さんも嬉しい」

ここでは、「好きだよ」欲求を満たすほめ言葉をかけました。

こうして、ますます陸上にのめりこみ、才能を発揮するようになったAちゃんは、小学6年生のときに市内の駅伝大会でなんと区間新記録を達成。

中学校へ進学してからは、県選抜に選ばれ、全国大会に出場。都道府県対抗戦では、なんと日本一になったのです。自宅の壁には、Aちゃんの走る写真や、授与された賞状が一面に貼り出されています。

お母さんはことあるごとに、「努力して、しっかり結果を残しているあなたのこと、誇りに思うわ。勇気をもらったよ。本当にありがとう。お母さんも頑張らなきゃね」と、彼女に伝えているそうです。

そうやって「ありがとう」欲求も満たしているのです。

「ありがとう」「すごいね」「好きだよ」自尊心の三大欲求を満たすほめ言葉が、Aちゃんの才能を最大限に引き出したのです。

誰も「ほめ方」を教えてくれなかった

ここまでお伝えしたように、ほめることはとても良い循環を生んでくれます。しかしなぜ、わたしたちは、ほめることに苦手意識があるのでしょうか。

日本人の多くは、ほめた経験もほめられた経験も少ないので、ほめ方がわからないのです。

そして、遠慮することや意見を言わないことが「空気を読む」につながるような風土がある国ではないでしょうか。

また、いざほめられたとしても、「いやいや、大したことありませんよ」「こんな簡単なこと、誰でもできますよ」と謙遜したくなるのがわたしたち日本人の性分ではないでしょうか。

ほめられることに慣れていないと、当然、ほめることもできません。ほめようとしても、照れくさくなったり、どんな言葉をかけたらいいのかわからなくなったりします。

習慣になかったことを、大人になってから身につけようとするのは、どんなことでも難しいですよね。

ましてや、誰からも「ほめ方」を習ったことがないのに、ほめ言葉がすんなりと出てくるなんて、できなくて当然のことなのです。

だから、わたしはこの本で、誰でもすぐにできる「100点のほめ方」をお伝えしたいのです。

「100点のほめ方」は人生を豊かにしてくれる

100点のほめ方は、順番通りに行えば、誰にでもできます。相手の人生をすべて肯定することにより、相手の記憶に刻まれる存在になるのです。

そんな関係が続々と構築できていくと、どんな良いことが起こるか想像できますよね?相手に合わせた「ほめ言葉」を暗記するように覚えて、ぎこちなくほめるのではなく、本心でほめるので、相手の心に響くのです。

そして、ポイントは、それが〝簡単〟にできるようになることです。

「すごいですね」というシンプルなほめ言葉でも、生き方すべてを肯定する気持ちで伝えると、相手の記憶に一生残る〝ほめ言葉〟になるのです。

ほめられた側は、そんな経験は初めての人が多く、良い意味で脳にエラーが起き、一生忘れられない出来事になるのです。

そして、関係がこじれてしまった人に対しても、少しずつ距離を縮め、修復し、心地の良い関係を再構築できます。

ほめ言葉は、誰にでも使える魔法の言葉なのです。人はひとりでは生きてはいけません。仕事もお互いが支え合って、成り立っています。

その関係性が理想に近づけば、あなたの笑顔が格段に明るくなることも想像できるでしょう。

「100点のほめ方」は、周りとあなたの笑顔を増やし、人間関係の悩みを限りなくゼロにすることで、人生を豊かにしてくれる技術なのです。

「ほめ方」は、どんなスキルよりも役に立つ

現代は、新型コロナウイルスの影響で、さらに「変化が激しい時代」になりました。

オンラインでの教育、宅配サービスの多様化、VRプログラミングなどの新時代の仕事、そして、AI(人工知能)の時代(シンギュラリティ)が目前です。

「AIに置き換えられない能力」とはいったい、なんでしょうか。そのひとつに、「ほめる」があるとわたしは考えています。多くの仕事は、「ひとり」だけでは成り立ちません。

会社という組織に属していても、個人事業主として働いていても、さまざまな人と関わり、目標に向かって仕事を進めていかなければなりません。

その際、どんな仕事であっても、必要となるのは、コミュニケーション能力です。どんな情報をやりとりし、どんな思いを伝え、どんな意思決定を行うか。どんな人に対し、どんな価値を提供し、いかに満足をしてもらうか。

このように、人と人とのやりとりには必ずコミュニケーションが発生します。それらすべてが円滑にいけば丸く収まるのですが、なかなかそうはいきません。ときにはギクシャクすることも、摩擦が生じることもあります。

そんなとき、ある種の「潤滑油」の役割を果たしてくれるのが、「ほめる」ことです。「ほめる」ことで生まれる円滑なコミュニケーションは、すべての仕事を加速させます。

ほめ合うことで、それぞれが身につけたスキルや培った経験を、最大限に発揮することができるからです。

それを証明する、こんなエピソードがあります。ある税理士のMさんは、会社員として働きながら税理士資格を取得して、晴れて税理士として独立。けれどもなかなか顧客がつかず、副業しなければ生活が成り立たないほど。

「雇われる働き方」に違和感を覚えて、一国一城の主になったはずなのに、こんなはずじゃなかった……と、独立したことを後悔しはじめていました。

わたしはMさんのことを以前から知っていたので、その状況を歯がゆく思っていました。そこで、彼にこんなアドバイスをしたのです。

「Mさんは聞き上手ですね。その聞き上手を磨いてけば、きっとうまくいくと思いますよ。相手から心地良い声のトーンやあいづちのタイミングだけで好感を持ってもらえるし、あとは、質問の質を上げていけば、経営者の良き参謀になると思うんです。

経営者は孤独で、資金繰りや育成のことなど、社内の人間には到底理解できない悩みと向き合っていますから、良き理解者になれば、おのずと仕事を頼まれると思いますよ」

そこでMさんは、サロンやスクール経営者向けの税務セミナーを始めることにしました。そして、出会った経営者に対して個別にアポイントを取り、経理で何か困り事がないか、アプローチすることにしたのです。

経営者の方と話すときには聞き役に徹し、経営者視点の悩みに寄り添い、税務上のことをアドバイスしました。

そして、そこにほめることも加えて、相手の仕事やその姿勢をほめるようにしました。

「それほどお客様のことを思って仕事をされるなんて、本当に素晴らしいですね」「こんなに従業員のことを大切にされている経営者に会ったのは、初めてです」

このように会話やメールのやりとりにほめ言葉を入れると、少しずつ距離が近づいていき、経営者が本当の悩みを打ち明けてくれるようになったのです。そして、100点ほめをすると一気に経営者の信頼を得て、契約を結ぶことができたのです。

しかも、経営者の間で評判が広がり、「わたしも一度食事に行ってほしい」「資金繰り全般をみてほしい」など、紹介で新しい顧客からの依頼が増えたのです。

経営者は孤独な人が多く、共感してほしい、ほめてほしい人が多い中、知識と100点ほめで、圧倒的な安心感を提供できたのです。

いまでは、年収2000万円を超える人気の税理士になっています。「ほめる」ことは、自分や相手の姿形を何ひとつ変えずに行うことができます。

これまでの経験や実績に「100点のほめ方」をプラスするだけで、誰もが望む通り、収入をアップさせることだって可能なのです。これほど、汎用性の高いスキルはほかにありません。

「100点のほめ方」を学べば、いままでの資格や経験がさらに活きるのです。「ほめる」ことで生まれる円滑なコミュニケーションは、すべての仕事を加速させる

「ほめ方」を学べば、会社の業績も上がる

「ほめ方」を学ぶことは、個人だけでなく、会社レベルでも役に立ちます。その一例をご紹介します。

外食産業でフランチャイズチェーンを運営するA社は、組織全体でほめ方を学び、年商40億円から、年商100億円にまで業績を伸ばしました。

なんと2倍以上の事業成長です。その企業はかつて、既存店売上高が毎期前年度比95パーセントほど。

けれどもその実情は、離職率が高く、新規出店するにも人材が不足し、もともといた従業員たちの不満が募るばかりでした。

当然、そんな状態では、お客様に満足いただけるようなサービスを提供することはできません。既存店売上高はジリジリと下がってきてしまいました。

そんなとき、「ほめ方」を組織全体で学ぶことにしたのです。

店長とスタッフがお互いに「感謝の思い」や、「成長したな」「すごいな」「好感が持てるな」と感じることや、「期待していること」を伝え合い、ポジティブなフィードバックを交わすようにしました。

月に1度、上司から部下へ、部下から上司へのほめ、感謝の気持ちを形にし、そして継続することを社内ルールにしたのです。

このルールを導入した当初、店長からは、「ほめるところが見つからない」「何をほめたらいいかわからない」と言われ、スタッフからは、「毎日の業務に手いっぱいで、余裕がない」「店長に感謝なんて、言えない」と、戸惑いの声が上がりました。

しかし、ほめ育を導入していくうちに、お互いへの「ねぎらい」のほめ言葉が自然に増えていったのです。

「忙しい時期、率先してシフトに入ってくれてありがとう」「新人たちの良き先輩として、自分の仕事や行動でその姿勢を見せてくれる。

本当に素晴らしいですね」「お客様からクレームをいただいたとき、戸惑っていたわたしたちを見かねて、すぐに飛んできてくれた店長。とても頼もしいと感じました。ありがとうございます」

こうして、店長もスタッフも少しずつ「ほめる」ことに慣れ、ほめ言葉をきちんと言語化して、相手に伝えることが習慣化してくると、普段の業務時間中も「ありがとう」「素晴らしい」「頼もしい」と、気軽にほめ合うようになりました。

つまり、「ほめる文化」が生まれたのです。すると、もともと一人ひとりが持っていたポテンシャルを存分に発揮できるようになりました。

「お客様が入店した直後、〝いらっしゃいませ〟というかけ声の徹底」「店内スタッフが連携を取り、アイコンタクトを合計2秒する」「お客様が多い時間帯ほど最高の笑顔で働く」そうやって、店舗に活気が生まれました。

自然とお客様の来客数も増え、各店舗の売り上げを伸ばすことができました。それだけではありません。離職率も下がり、長く働く人が増えてきたのです。

そして特に飲食サービスという採用が難しい業界にもかかわらず、採用広告など募集に費用をかけることなく、従業員を採用することができているのです。

通常、ひとりを採用するだけで何十万、会社全体だと何百万というお金がかかります。しかも、必死に採用した人材がすぐに辞めてしまうことも多々あります。

多くの企業にとって、採用と離職は深刻な課題です。

けれどもこの企業の場合、「ほめ方」を学び、「ほめる文化」が生まれたことで、業績も上がり、離職率も下がり、採用にかかるコストを削減することができました。

そうやって利益が上がった分で、従業員の労働条件を改善し、週休2日制を導入し、1週間もの連休を取れるようになりました。

すると、もともとアルバイトで働いていた学生やフリーターが、自ら手を挙げて社員になることも増えてきました。

「ほめる」ことで、ポジティブなスパイラルが生まれたのです。

「ほめ方」を学べば、会社の業績は上がり、社内の関係性もより良くなり、従業員たちもいきいきと働けるようになるのです。

「ほめる」ことで行動が変わる

「ほめる」ことで、人の行動は劇的に変わります。そんなことを教えてくれた、こんなエピソードがあります。

とある飲食店でキッチンスタッフとして働くKさんは、「自分の持ち場はここだけ」と、厨房からまったく出ようとしない人でした。

どんなにお店が忙しくなってお客様が並んでいても、ホールスタッフが右往左往していても「我、関せず」。

やがて周りのスタッフからは「あの人は何も協力してくれない」と陰口を言われ、孤立するようになってしまいました。

こうなってしまうと、お店全体の士気にも影響が出てしまいます。

そこで、その店の店長とスタッフで、感謝の思いなど、ポジティブなフィードバックを互いに行うようにしました。

店長は、Kさんに対して、こんな言葉を伝えました。

「Kさんがしっかりと厨房を守ってくれているおかげで、お客様にもおいしい食事を提供することができます。ありがとう」

「スタッフからは『Kさんの作るまかないがめっちゃおいしい』と評判です。これからもよろしくお願いします(ただし、なるべくコストは抑えてね)」自分の領域をかたくなに守り、心を閉ざしていたKさんでしたが、「あ、店長は自分のことをきちんと見てくれて、わかってくれている」という実感を得られるようになり、店長に対して感謝の思いが芽生えました。

気持ちが変わると、行動が変わりはじめます。

Kさんは、もっと「相手が喜んでくれること」をやろうと、少しずつお店全体の様子を気にかけるようになり、ときにはホールスタッフのサポートをするようになりました。

「自分は料理さえすればいい」と範囲を狭めていたKさんが、「自分は何ができるだろうか」と考え、自発的に行動するようになったのです。

「ほめる」ことは、相手を理解しようとする姿勢を見せるとともに、「あなたには、こんな可能性がある」「きっとこういうこともできる」と、期待を示すことでもあります。

人は、自分に期待をかけてくれる人に対して、「いい人だな」「ステキな人だな」と好感を持っていれば、「この人の期待を上回ろう」「この人のために頑張ろう」という意欲が芽生えます。

そして、ほめる側にも変化があります。

「苦手な人だから、ほめることなんてない」「どんなに注意してもダメなやつだ」と考えていると、嫌なところばかりが目につき、ますます苦手意識が強くなります。

けれども「ほめるところ」を探そうとすると、相手のことをよく観察し、対話し、行動を理解しようという姿勢が生まれます。

すると、相手には相手なりの考えがあって、どんな行動や言動にも、相手なりの背景があることに気づくはずです。

「この人はこんなふうに考えているのか」「自分にはない考えだけど、一理あるかもしれない」このように、すべてを理解することは難しくても、一部分なら理解できるようになったり、共感できたりすることが見えてくるのです。

理解の「糸口」がつかめると、「ほめるところ」がだんだん見えてきます。

  • 確かに仕事は遅いけど、ミスのないよう、丁寧にやってくれる
  • ガミガミ怒ってばかりの上司だけど、意外と子煩悩で、子どものことを聞くと嬉しそうに話してくれる
  • いつも人の悪口を言うばかりだけど、交友関係が広く、最新情報にもすぐ目をつけ、知らせてくれる

そうやって、「相手の良いところを探す見方」を癖づけることで、自分の考え方の幅が広がっていくのです。

そうなると、「こうしなければ」「こうあるべき」と頑固になっていた気持ちも楽になり、表情もやわらかくなっていきます。

自分だけでなく「相手の視点」も身につけられるようになります。

「ほめる」ことで、自分と相手の「カチコチの心と関係性」を変え、お互い前向きに行動できるようになるのです。

ほめる力を実感した、最初のきっかけ

わたしは、「ほめる」ことの大切さ、「ほめる」ことで人生が変わることを、何度もなんどもお伝えしていますが、その原点は、わたし自身が「ほめられて育った」ことです。

父はもちろんのこと、特に母は「これ以上ない」ほど、わたしのことをほめて育ててくれました。

わたしは小さな頃からやんちゃ坊主で、毎日のようにケンカしたり、クラスの同級生にちょっかいを出したりしていました。

いまでも忘れられないのは、小学2年生のときの授業参観日。

ある女の子のお母さんから名指しで呼び出されたのです。

「あんたホンマ、ええかげんにして。うちの子にもうちょっかい出さんといて」と、一対一で怒られました。

そのときはさすがに母からも怒られるだろう……と覚悟していましたが、怒られませんでした。

「もう、ホンマに元気なんやから。お母さん、道の真ん中歩けないわ(笑)」と、母は微笑んでくれたのです。

まだまだ、わたしのやんちゃは止まりません。

中学生の頃、友人たちと悪さをして、教頭先生から呼び出される騒ぎを起こしてしまったことがありました。

母も学校へ呼び出されました。これはもう、大ごとです。教頭先生と担任の先生からこってり絞られ、母からも厳しく注意されました。

これはさすがに、母にも申し訳ないことをした。家に帰ってからまたこっぴどく叱られるだろう……そう確信していました。

しかしその帰り道、母は、わたしにこんな言葉をかけました。「邦雄……よく、頑張ったね」こともあろうに、こんなわたしをほめたのです。

母は、わたしの味方をしてくれる人がいないような状況下でも、わたしのことをほめてくれました。「誰がなんと言おうとも、わたしは邦雄の味方やから」と、覚悟を持って示してくれたのです。

そのときから、わたしの人生が変わりました。自分のことを、これほど深く理解しようとしてくれている人を、絶対に悲しませてはいけない。

もっともっと、喜ばせてあげたい。これが、わたしに「ほめることの大切さ」を教えてくれた実体験でした。

「鬼店長」が逆境で気づいた「ほめる」力

社会人になったわたしは、新卒で入社した食品メーカーではセールスを務め、同期でトップの成績を収めたことから、「僕に勝てるやつなんて、いないだろ」と思い、すっかり調子に乗っていました。

転機が訪れたのは、その後、上場している大手コンサルタント会社へ転職したときでした。

何かの分野で「一番」になりたいと強く思っていたときに、上司から、「そんなに一番になりたいなら、現場を経験したら?コンサルタントは現場に行けないのが弱み。

その弱みを強みに変えたら、原君は一番になれるよ」と、その後専務にまでなられた方に、アドバイスをもらったことがきっかけでした。

わたしが、「もう少し、具体的に教えてもらえませんか?」と聞くと、「つまり、原君が好きなラーメン業界で一番になりたいなら、屋台を引いて、そこからやり直せ!ということだよ」と言われたのです。衝撃でしたが、目が覚めたような感覚でした。

屋台につながる人脈は、ありませんでしたが、尊敬するラーメンチェーンの社長に相談し、住み込みで洗い場から働かせてもらうことにしたのです。

現場では皿洗いからスタートし、本当に苦労しましたが、周りの支えと必死の努力の甲斐あって、1年半で店長に就任しました。

店長になったからには、この店で大きな成果を出したい……と、わたしは強い決意を持っていました。

現場では、先輩方から厳しく指導してもらったように、わたしもスタッフを厳しく育てていこう。そうして、副店長以下、すべてのスタッフを厳しく叱咤するようになったのです。

結果を出すことに必死になりすぎて、学生の頃、母からほめられて救ってもらったことを忘れ、鬼のような店長になってしまっていました……。

毎日朝から晩まで、ひとりにつき5回から10回はダメ出しをしていました。

「良い店にするためには、厳しく指導しなければならない」と信じていたからです。ある年上のスタッフTさんは、ラーメンを作るのが遅く、声も小さい人でした。

そんな彼を、お客様がたくさん来られる昼の時間帯にもかかわらず、店の裏に呼び出して、こんこんと説教をしていました。

「Tさん、ホンマにいいかげんにしてもらえませんか?何回言ったらわかるんですか?いままで、何をしてきたんですか?」と、彼がこれまでやってきたことを否定して、「できないやつだ」とレッテル貼りをしたのです。

また、とあるスタッフに対しては、ほかのスタッフがいる前で叱りつけ、泣くまで説教しました。

「ホンマにもう……役立たず。いないほうがマシや」いま思い返しても、わたしは本当にひどい店長でした。

そんなことを続けていれば当然、ひとり、またひとりとスタッフは辞めていきます。

最初、25名もシフトに入れるスタッフがいたにもかかわらず、気づいたらスタッフはわたしと副店長、そしてアルバイトの4名だけになってしまいました。

ここまでくると、絶体絶命のピンチです。ここから一人でも欠けてしまったら、店を続けることはできません。

なんとかしなければ……と考えながら、刻々と時間だけが過ぎていったある日のこと、アルバイトのひとりが、わたしにこんなことを言いました。

「原さん、今月のMVPって、誰ですか?」その月は、ライバル店の売り上げを上回った月でした。それで、彼はそんなことを話したのです。

けれどもそう問われたわたしは、「え、MVP??」と、まるで頭のコンピュータがフリーズしたかのように、何も思い浮かびませんでした。

わたしは当時、「自分以外、みんなダメなやつらばかりだ」と考えていました。

「あいつはお客様にラーメンを出すのが遅いから、ダメだ」「いらっしゃいませの声が小さいから、ダメだ」

あれもダメ、これもダメ……。

そう、「悪いところ探し」をするばかりで、ちっともスタッフの「良いところ」に目を向けていなかったのです。

けれども聞かれたからには、答えなければなりません。うーん……と考えて、こう言いました。

「いつも明るいし、常連さんも慕ってくれているから、Yさんかな。シフトへの貢献、自主的に仕事を見つけて行動したし、お待ち案内も完璧になった」という理由で、アルバイトのYさんをMVPに指名したのです。

すると彼女は、思いがけない言葉に少し戸惑いながらも、すぐにこう言いました。

「ありがとうございます。来月も頑張ります」Yさんのその嬉しそうな笑顔を見て、わたしはようやく気づきました。怒られ、叱られても、人は変わらない。むしろ萎縮して、ビクビクして、ミスを重ねて、叱られないように、それを隠そうとしてしまいます。

その代わり、良いところを見て、尊重し、共感し、ほめることで、人は前向きになれる、と。わたしは小さい頃、「ほめられる」ことに恵まれた環境で育ちました。

そのため、ほめられることに慣れてしまい、ほめる力のすごさと可能性を見失ってしまっていました。

けれども、ほめられて、「自分を信じてくれている」と確信できるからこそ、頑張ろうという意欲が湧いてくる。

プラスのエネルギーが身体にみなぎってくるのです。「これだ!」わたしはそう、思い出しました。

それまでの「鬼店長」から心を入れ替え、毎月1回、スタッフ全員とともに「ほめる会議」を始めました。

清掃を、誰よりも細かいところまで気づいてやってくれた人。忙しい土日に、自ら進んでシフトに入ってくれた人。

お客様に「お冷やはいかがですか」と声をかけることで、自然とお会計を促し、お店の回転率を上げるのに貢献してくれた人──。

なるべく具体的に、その人がしてくれたことがどれほどお店の運営に寄与したか、感謝の思いとともに伝えました。

「ほめる」ことを意識すると、スタッフの見え方が変わってきました。

  • お客様にラーメンを出すのは遅いけど、とても丁寧に接客してくれている
  • いらっしゃいませの声は小さいけど、お客様にありったけの笑顔を見せてくれている

「悪いところ」ではなく、「良いところ」が目に入ってくるようになり、やがて、ほめるのは会議のときだけではなくなりました。

一緒に働きながら、「今日は忙しかったけど、集中力を切らさず、よう頑張ってくれたな。ありがとう」「あ、おしぼりのストック、補充してくれたんや。気づいてくれて、ありがとう」などと、普段からスタッフの良いところを見逃さず、こまめに伝えるようにしました。

すると、どうでしょう。お店の売り上げは驚くほど伸びました。日曜日の売り上げがなんと前年比の160パーセントを記録することもありました。

当然、ラーメンそのものはレシピもメニューも変えていません。販促もほかのお店と横並び、まったく一緒です。

そして、それから1年間、スタッフは誰ひとり辞めることなく、新しいスタッフが増えるばかりになりました。結果が出れば、スタッフにも自信がみなぎり、より動きがよくなっていきます。

スタッフが増えれば、シフトに余裕ができ、無理なく働けるようになりますし、アルバイトの時給も上げられるようになります。

副店長にも昇級のチャンスが巡ってくるし、お店全体にプラスのエネルギーが回ってくるようになります。

そしてわたしは、「人」の力と、「ほめる」力を確信するようになりました。「ほめる」ことが、わたしたちに力を与え、生きる喜びを与えてくれるのです。

それでは次章から、「100点のほめ方」の3アクションを解説していきます。良いところを見て、尊重し、共感し、ほめることで、人は前向きになれる

第1章のまとめ

  • ほめ言葉には、「感謝」「称賛」「好意」の3種類がある
  • 「ありがとう」「すごいね」「好きだよ」という気持ちをほめ言葉で伝えると、人の自尊心の三大欲求(自己重要感・自己有能感・自己好感)を満たすことができる
  • ほめることは、どんな人間関係でも役立つ
  • ほめることは、コミュニケーションの「潤滑油」になる
  • ほめることで、相手の行動が変わり、「結果」につながる

column1相手の心にまっすぐ届く「ほめ手紙」

「ほめ手紙」は、あなたとあなたの会いたい人をつないでくれる懸け橋になります。

あなたが会うきっかけをつくりたい、関係を深めたい相手に対して、「あなたの考え方に共感しています」「あなたのことを、もっと知りたいです」という思いを手紙にしたためて送ることで、まったく縁もゆかりもない相手とでも、信頼を築くきっかけをつかむことができるのです。

わたしの事例をご紹介します。

会社を起業し、「ほめ育コンサルタント」として活動を始めたころ、わたしにはまだ特定の取引先はありませんでした。裸一貫、ゼロからの出発です。

そこでわたしは、東証一部上場の企業をリストアップして、各企業の経営者へ手紙を送りました。手紙には、「ラブレター」のような気持ちをこめました。

その企業の経営理念やビジョン、顧客目線での素晴らしい点などを書き連ねたのです。ある飲料メーカー系列のレストランには、こんな「ラブレター」を送りました。

新入社員のとき、先輩に連れて行ってもらった飲食店で、「原くん、ビールはラガーやで!」と言われました。

どの料理とも合う独特の苦み!それ以来大ファンです。冷蔵庫にはもちろん常備し、どの飲み会もできるだけキリンにして、みんなにもすすめています。

生産へのこだわりはもちろん、ロゴが出来たエピソードは、わたしが大好きな明治維新と関わりがあり、よく行っていた土佐稲荷神社とも縁があると知り、とても共感しました。

御社の人材面での課題を解決する支援ができれば幸いです。

そして、わたし自身の活動として、「ほめる」ことがどのように企業や社員、お客様に良い影響を与えるか、「ほめる」ことの可能性をお伝えしました。

最後に自筆の署名を入れ、経営者やその秘書の方へ、定期的に手紙を送りました。さらに、内容を記す欄に、「10分お時間をください。貴社の業績が上がる資料が入っています」と書きました。

単に「パンフレット」「書類」と書いてしまえば、すぐに捨てられてしまう可能性もあります。

そこで、「10分」というほんの短時間で「業績が上がる」と、相手にとってメリットになることを書き記したのです。

すると、「ほめ手紙」を送った先方の秘書や経営層の方から「詳しい話を聞きたい」と、問い合わせが来るようになりました。

直接お会いしたときにも、その企業がどれほど素晴らしいか、どれほど社会に貢献しているのか、心をこめてお伝えしました。

そうした結果として、大手飲料メーカーや大手飲食チェーンとセミナー契約を結ぶことができたのです。

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