MENU

第六章抑うつを科学で癒す可能性

第六章抑うつを科学で癒す可能性

環境が変われば遺伝子の発現度も変わり、脳が物理的に変化する。

ならば、科学が検証した様々なテクニックで脳を再形成してやれば、抑うつや不安症を治療して人生を変える可能性があるかもしれない謝辞注解説湯川英俊

第六章抑うつを科学で癒す可能性

環境が変われば遺伝子の発現度も変わり、脳が物理的に変化する。

ならば、科学が検証した様々なテクニックで脳を再形成してやれば、抑うつや不安症を治療して人生を変える可能性があるかもしれない

恐怖の回路は人間にとって、なくてはならないものだ。

もしもそれがなかったら、わたしたちは事故に遭いやすくなり、おそらくもっと早くに命を落としてしまうだろう。

けれどこの回路が過剰にはたらくと、人は不安や絶望におしつぶされてしまう。

ひどくなれば不安障害や抑うつを発症し、悲惨な結果を招きかねない。

心理学と神経科学は過去数十年のあいだ、薬からカウンセリング療法にいたるまでさまざまな方法を開発し、無自覚なまま進行しがちなこの種の病の治療法を模索してきた。

病的な不安や絶望を取り除くのはもちろんたいせつだ。

だが、それと同じほどたいせつなのは、幸福で豊かな生き方を高めていくことだ。

昨今の研究からは、ほとんどの人は驚くほど逆境に強いという心励まされる発見がもたらされている。

テロリストの攻撃や重い病気や愛する人の死など最悪の事態が起こっても、多くの人は深い衝撃からじきに立ち直っていく。

PTSDとは逆のポスト・トラウマティック・グロース(心的外傷後成長)を経験し、つらい出来事の前よりむしろ自分が向上したように感じる人さえいる。

努力しだいで人間は自分の脳に変化をもたらし、異常な不安を抑制し、そしてほんとうの意味で幸福になれることが今、心理学の進歩によってあきらかにされつつある。

役に入れこみ過ぎたレオナルド・ディカプリオの経験アメリカ人の飛行家で、エンジニアでもあり、事業家でもあったハワード・ヒューズは生前、不安系統の深刻な失調である強迫性障害を発症し、一九七六年に亡くなるまでこの病気に翻弄されつづけた。

強迫性障害の患者は全世界で何百万人にものぼる。

この病気の患者は興味深いことに、すべてがきちんとしていることを知っていても──たとえばストーブの火を消したことや、玄関に鍵をかけたことを重々承知していても──それでもなお、同じことを何度も何度も何度も繰り返しチェックせずにはいられない。

強迫性障害が始まるのは、たとえば「病原菌に感染したら死んでしまうかもしれない」という基本的な不安が患者の心の中で強迫観念にまでふくれあがり、果てしなく手を洗いつづけるなどの反復行動をとらないかぎり、不安をしずめられなくなってしまったときだ(1)。

おおかたの不安障害と同じく強迫性障害もまた、患者の心の中であまりに大きな場所を占めるようになれば、日常生活にたいへんな混乱をもたらす。

ヒューズの死からおよそ三〇年後、彼の伝記的映画である『アビエイター』が制作され、俳優のレオナルド・ディカプリオが主人公のヒューズ役を演じた。

役に一〇〇パーセント入り込むためにディカプリオは、強迫性障害についてさらに多くを学ぼうと、精神科医ジェフリー・シュウォーツのもとで数日を過ごした。

この病を抱えて生きるのがどういうことかを間近で見るために、シュウォーツの患者の幾人かと一緒に生活までした。

役にあまりに入れこみ過ぎたせいか、彼自身、強迫性障害の患者と同じような思考や感情を抱いたり、同じような症状に悩まされたりするようにまでなった。

つまりディカプリオ自身の脳内で、強迫性障害の症状が一時的に引き起こされてしまったのだ。

撮影が終わってから、症状を消すために集中的なセラピーと訓練が行われたが、元通りに回復するまでには三カ月近い時間がかかったという。

アメリカの国立精神衛生研究所の見積もりによれば、アメリカ全土で不安に関連する失調に悩む人は二〇〇〇万人を超えている。

そのほとんどは不安障害、PTSD、パニック障害、強迫性障害などに代表される恐怖症の患者だ。

人によって、何の前ぶれもなく突然強烈な不安や恐怖に襲われるケースもあれば、何か特定の出来事と関連して症状が起きるケースもある。

どちらにしても、不安にまつわる障害は人々の生活を蝕み、人生を変えてしまうことさえある。

不安障害の実例恐怖の回路の失調について理解を深めるために、次に紹介する二人の女性の例を見てみよう。

二人は、わたしがいくつかの調査を行わせてもらったイギリスのあるクリニックで不安障害の治療を受けていた人物だ。

ひとりはアンジェラ(仮名)という女性で、性的暴行未遂の被害者だ。

ある日、ジョギングをしていた彼女は人気のない林の小道でだれかに突然体をつかまれた。

走っているとき、前のほうの道路脇に立っている男がやけに自意識過剰な感じに見えたことを、彼女ははっきり覚えていた。

その横を通り過ぎた瞬間、アンジェラは体をつかまれ、茂みに引きずり込まれかけた。

アンジェラは必死で抵抗し、恐怖と怒りにおしつぶされそうになりながら、男を蹴飛ばしたり叫び声をあげたりしつづけた。

永遠とも思える時間が過ぎたあと、「やっとのことで男から身を振りほどき、町をめざして無我夢中で走った」と彼女は言う。

ようやく一軒の家を見つけたアンジェラは、玄関のドアを激しく叩いて助けを求めたが、そのほかのことはほとんど記憶にない。

次に思い出せるのは、病院で目覚めたときベッドのそばに両親の姿があったことだ。

鼻の骨が折れ、目のまわりに黒いあざができ、肋骨が砕けるなど、体にはいくつも怪我があった。

それらの怪我は時間とともに癒えていったが、心が受けたトラウマのほうは、おおかたがそうであるように、回復にはずっと長い時間がかかった。

「自分のアパートの中でも、窓やドアに鍵がかかっているかどうか、きりがないほど確認して、いつも神経をとがらせていました」とアンジェラは語る。

数カ月間は恐怖のあまり一人で外出できず、友だちと一緒でなければ家の外に出ることもできなかった。

結局その住まいは引き払い、何人かと共同で新しい家に移り住むことになったが、症状に変化は見られず、彼女は徐々に社会的孤立を深めていった。

地元のスーパーマーケットに買い物に行ったとき、はじめてパニック発作を経験した。

「パニックと激しい恐怖感に襲われ、胃が痛み、ただもう早く家に帰って自分の安全な部屋にたどり着きたいと、そればかりを考えていた」と彼女は言う。

家にいても、心が安らぐことはほとんどなかった。

ほどなくして、事件のフラッシュバックが起きるようになったからだ。

「あの男の顔が目の前に浮かび、汗の臭いまでよみがえってくる気がして」、恐怖のあまり何度も夜中に目を覚ました。

相手がナイフを手にしていたかどうか定かではないのに、「夢ではいつも、男はナイフをもっていた」という。

食欲は激減し、一日中ほとんど自室に引きこもって過ごすようになった。

アンジェラはここに至ってようやく医療に助けを求め、そこから長い時間をかけてPTSDの典型的な症状をすこしずつ改善していった。

今もまだ神経過敏などの症状が残り、ひとりで散歩に出たりジョギングしたりはできない。

それでも彼女の生活は事件から四年近くが過ぎた今、完全にではないがほぼ普通の域に戻ることができた。

もうひとりの女性、ジェーンの不安はもっと漠としており、説明するのがむずかしい。

「何の前触れもなく、突然それが始まった」と彼女は言う。

三〇歳のとき、ジェーンはすべてのものごとを突然不安に思うようになり、不安といらだちに始終悩まされることになった。

そして「何か悪いことがきっと起きるという、どうにもならない気持ちにさいなまれた」という。

原因になるような出来事には何も思い当たらないまま、不安感はどんどん強くなっていった。

先のアンジェラの場合と同じくジェーンも外出に恐怖を覚え、自室に引きこもるようになった。

激しいパニック発作も幾度か経験したが、日々感じる不安や恐怖のほうがジェーンには辛かった。

臨床心理学者のもとを訪れる患者に広く見られる、不安障害と総称される典型的な症状だ。

抑うつの症状もあらわれ、ものごとはぜったいに良い方向にはいかないという暗い気持ちに始終襲われた。

ネガティブな考えや思い込みで頭がいっぱいになることもたびたびあった。

「自分は無用な人間で、宇宙のゴミみたいな存在だと思えてならなかった」と彼女は語る。

こんなふうに不安が心を占めてしまうと、楽観的な思考をすることはおろか、普通の生活を送ることもままならなくなる。

不安や恐怖を消し去ることは、こうした精神的な失調を克服するひとつの道だ。

ディカプリオの経験が示すように、レイニーブレインの根底にある神経回路は非常に可塑性が高く、思考のしかたや習慣をまたたくまに、しかも強固に形成してしまう。

けれど可塑性があるからこそ、こうして機能不全に陥った回路を逆に、ポジティブな方向に変更することも可能なのだ。

心の失調はたいがいが、こうした回路の機能障害が原因で起きる。

この、障害をきたした回路をもとに戻す方法が、これまでに心理学と神経科学の両方の分野でいくつも研究されてきた。

これらは、巷の自己啓発本によくある表層的な「ポジティブのすすめ」や「ハッピーな思考がすべてを解決する」の類とはちがう。

わたしがこれから語るのは、脳内でニューロンとニューロンのつながりにじっさいに変化をもたらす方法だ。

個人を個人たらしめている記憶や信念、価値観や感情、そして習慣や性格の特徴などの要素はどれもみな、脳の中でニューロンがどんなふうにネットワークをつくりどのように連結するかに関連している。

だから、このパターンを変化させられれば、自分を変えることもきっとできる。

これから紹介する手法は、強迫性障害やPTSDなど不安にまつわる失調の治療に役立つだけでなく、日々を送るだけで精いっぱいだった人々を、真に豊かにかつ幸福に生きられるよう導いてくれるはずだ。

恐怖と不安を解除する具体的な方法とはアフガニスタン戦争やイラク戦争の帰還兵の多くに見られるように、深刻なトラウマは消しがたい記憶をつくり、その記憶はたえずトラウマを再燃させる。

そうしてつらい思いを始終揺りおこされる人々は、目の前にある現実の生活を普通に送ることができなくなってしまう。

前述のアンジェラが体験したフラッシュバックの例からわかるように、こうした恐怖の記憶は人がPTSDから立ち直る妨げになる。

だが、科学的な研究の結果、恐怖の解除方法はすでにいくつか確立されてきている。

たとえば、条件づけられた恐怖を解除するさいの〈消去〉という現象をもとに、ある方法が考案された。

前述のように、何かの音と電気ショックの恐怖を結びつけても、電気ショック抜きで音だけを何度も聞かせていれば、恐怖心は徐々に解消する。

一度落馬で痛い目を見ても、その後も馬に繰り返し接していれば、ついには「もう安全だ」という新しい知識が恐怖の記憶に勝つ。

恐怖の条件づけを動物で実験した結果から生まれたのが、〈暴露療法〉という手法だ。

この方法は、クモ恐怖症をはじめとする特定の何かへの恐怖心を克服するうえで、非常に高い効果をもつ。

恐怖の記憶といかに対峙し、いかにそれをしずめるかを教えるのが、この療法のポイントだ。

何かの恐怖症の人は、恐怖の対象にぜったいに近寄ろうとしないせいで、「近づいてもひどいことにはならない」と理解することができずにいる。

こうした人を恐怖の対象にあえて何度も対峙させるのは、恐怖心を消すうえで非常に有効な方法だ。

恐怖の対象と初めて向きあったとき、鼓動は速くなり、手のひらには汗がにじみ、心はパニック状態になるが、それらの反応は徐々におさまっていく。

そしてセッションを何度か繰り返すうち、クモ恐怖症だった人のほとんどは恐怖心を克服し、クモを自分の手でつかめるようにまでなる。

暴露療法を実践するこの暴露療法の効果は、実験室で行われる条件づけ恐怖の消去と同一線上にある。

この恐怖の消去プロセスがある薬によって加速することが、最近の研究から判明している。

その薬とは、本来結核の治療に用いられるD‐サイクロセリンと呼ばれる抗生物質で、それを飲むと普通よりずっと少ないセッション数で、恐怖心を克服することができる。

D‐サイクロセリン単独では効果がないが、投薬と暴露療法をセットで行うと、恐怖の対象がじつは無害だという新しい知識がすみやかに習得されるのだ(2)。

そのしくみを理解するために、シナプス伝達の過程でニューロンとニューロンがたがいに〈会話〉をするとき、何が起きるかおさらいしてみよう。

あるニューロンが別のニューロンへ神経伝達物質を放出することで、脳細胞はたがいにコミュニケートする。

放出された物質がぴったりあう形の受容体(レセプター)に接触すると、その受容体をもつニューロンは活性化する。

同じ形の受容体をもつ他のニューロンでも同じ現象が起き、脳内で波が広がるようにニューロンの活性化が起こる。

こうした受容体の中で〈グルタミン酸受容体〉と呼ばれるものが、恐怖の記憶をつくるうえで非常に重要な役目を果たすことがわかってきている。

この受容体は次のふたつのタイプに分けられる。

ひとつは、日常的なグルタミン酸の受け渡しを担当して、速い興奮性シナプス伝達を行っているAMPA受容体。

もうひとつが、より長期的な神経回路の可塑性や発達に重要な役目を果たすNMDA受容体だ。

NMDA受容体が活性化すると脳内では一連の変化が縦横に発生し、深い痕跡が残る。

多くの神経科学者の考えによれば、PTSDの根底にあるメカニズムとは、思考の反復によって神経のネットワークの中に道が作られ、脳のあちこちにメッセージがたやすく伝達できるようになることだ。

だが、PTSDにはNMDA受容体の活性化によって五感から扁桃体に深い道が刻まれることも関連していると考えられる。

だからこそ、PTSDによるフラッシュバックや恐怖の記憶はこれほど強固で消し去りがたいわけだ。

D‐サイクロセリンは脳内でさまざまな作用をもつ。

恐怖の回路の中心にあたる扁桃体内部のNMDA受容体に、直接はたらきかけるのもその作用のひとつだ。

D‐サイクロセリンの刺激でNMDA受容体が活性化し、可塑性が増す結果、心理療法はより大きな効果を発揮できるようになる。

その結果、この薬は恐怖の解除を促してくれるわけだ。

研究は現在も途上だが、心理療法とD‐サイクロセリンなどの薬を組み合わせることで、不安系統の失調と闘う新しい強力な武器が誕生するのはまちがいなさそうだ。

恐怖の記憶を消し去る消去のプロセスとは恐怖を消し去るのではなく、ただ抑制するだけらしいことが、恐怖の条件づけの実験からわかっている。

抑制されただけの恐怖は、何かの拍子にたやすく元通りになる可能性がある。

車のバックファイア音が引き金でとっさに身を伏せたとき、わたしの友人のサンドラはそのことを痛感したはずだ。

だからこそ、もっと永続的に恐怖を消し去る方法はないかと今も探究がつづいている。

ニューヨーク大学の研究者リズ・フェルプスとジョセフ・ルドゥーは、記憶の動的な性質を利用して、半永久的に恐怖心を消し去る方法を模索した。

一昔前の心理学者らは、記憶とは脳の中に非常に柔軟性の低いかたちで貯蔵されると考えてきた。

だが、新しく発見された事実によれば、記憶は──とりわけ感情にまつわる記憶は──人がそれを思い出すときに再活性化され、一時的にではあるが変化を受けやすい柔軟な状態になる。

この再活性化の最中は、もとの記憶に新しい情報が加わることができる。

人が何かの出来事を思い起こすたび記憶はわずかに変化し、オリジナル版とは微妙に異なる新しい版としてふたたび脳にしまわれるわけだ。

専門的には〈再統合〉と呼ばれるこのプロセスはおよそ六時間つづき、その間は、記憶を変化させるチャンスの扉が開かれている。

フェルプスとルドゥーのチームは、恐怖の記憶を再活性化することによって、恐怖ではない新しい情報で記憶の痕跡を更新できることを発見した(3)。

研究チームは六五人の被験者の手首に小さな電極をつけ、青い四角が画面にあらわれたときに弱い電流を流して恐怖の記憶を形成した。

黄色い四角があらわれたときには電気ショックは起こらない。

前者は恐怖関連刺激、後者は恐怖非関連刺激だ。

手のひらの汗をGSRで計測したところ、すべての被験者に、恐怖関連刺激の青

い四角に対する恐怖反応が生まれたことが確認された。

実験の翌日、被験者は三つのグループに分けられた。

うちふたつのグループに対しては恐怖関連刺激をもう一度行う。

その目的は、恐怖の対象を想起させて再統合のプロセスを開始することにある。

スタートから一〇分後、記憶の再統合が行われるまさにその時期に、ひとつのグループは消去のトレーニングを開始した。

もうひとつのグループは同じ消去のトレーニングを六時間後、つまり再統合のチャンスの扉がすでに閉じられたはずの時期に開始する。

そして、第三のグループは、恐怖の対象を今一度見せられることなく、そのまま消去のトレーニングを始める。

消去のトレーニングは、青の四角と黄色の四角をどちらも電気ショックを伴わずに何度も被験者に見せることで行われる。

二四時間後、三つのグループの被験者はすべて、恐怖の記憶がまだ残っているかどうかをテストで調査された。

恐怖の対象を想起しなかった第三グループと、再統合の扉が閉じたあとでトレーニングを受けた第二グループの被験者は、恐怖関連刺激の対象(=青い四角)を見せられると恐怖の記憶が再発した。

だが、再統合の扉が開かれていた時期に消去のトレーニングを受けた第一グループは、反応が再発しなかった。

恐怖の対象が心に思い起こされた後、不快な現象をともなわずに何度も提示されたせいで、もともとの恐怖の記憶は消し去られたわけだ。

少数の被験者を一年後にもう一度テストしたところ、再統合の扉が開いていた時期に消去のトレーニングを受けた被験者には、やはり恐怖の記憶は再発しなかった。

つまり、古い恐怖の記憶は変化を遂げたまま、その状態をずっと保っていたということだ。

恐怖記憶消去の仕組みジョンズ・ホプキンス大学のリチャード・フガニルはロジャー・クレムと組んで、先の研究のフォローアップ調査をマウスを使って行った。

その結果、記憶解除の鍵は、恐怖の記憶が再統合されるときの複雑な分子上のからくりにあるという証拠が見つかった。

扁桃体内部のニューロンには前述のグルタミン酸受容体のAMPA型が大量に含まれている。

恐怖の記憶がしまわれる重要な瞬間には一種の大がかりなオーバーホールが行われ、AMPA受容体がニューロンからニューロンへとたやすく移行できる状態になる。

異なるニューロン間で絶えまなく再編成が行われているこの期間、恐怖の記憶は一時的に脆い状態になるのではないかとフガニルとクレムは推測した。

マウスを使ったもうひとつのフォローアップ調査からも、この裏付けとなるような結果が出ている(4)。

グルタミン酸受容体の再編成を阻む薬をマウスに注射すると、恐怖の記憶は打ち消せなくなることが判明したのだ。

トラウマの記憶をまず想起し、その後消去のトレーニングを行うことで、その記憶にまつわる恐怖心を消せるという発見は、不安症の治療に新しい突破口をもたらした。

この新しいテクニックは患者の体に針や管をいっさい入れない〈非侵襲的〉なやり方でありながら、トラウマの記憶と決別することができるからだ。

恐怖の回路の解剖学的理解からも、病的なレベルの不安を治療する新しい方法が考えられる。

それは、扁桃体や恐怖そのものに焦点を合わせるのではなく、扁桃体をしずめる役目をもつ大脳皮質の中枢にはたらきかけるやり方だ。

感情をコントロールする中枢を強化すれば、恐怖心をコントロールしたり、不安を恒常的に弱めたりするのも不可能ではないはずだ。

この考えをもとに、感情をコントロールする能力を高めるための、多くの薬理学的療法や認知療法が考案されてきた。

恐怖の標準的な消去プロセスとは、脳内に新しい記憶を効果的に打ち立てることで行われる。

このプロセスで恐怖が抑制されるのは、脳のやや内側にある〈内側前頭前皮質〉という領域が活性化するためだ。

この領域から伸びる神経は扁桃体に直結している。

恐怖の反応を抑制するには絶好の解剖学的配置だ。

この内側前頭前皮質の細胞を直接刺激すると、扁桃体の活動は著しく減退する。

つまり皮質上の制御中枢を活性化すれば、恐怖の回路を落ち着かせ、トラウマの記憶をしずめることもできるのだ(5)。

逆に、この内側前頭前皮質が傷を受けると恐怖の解除ができなくなることが、ラットを使った実験から確認されている。

PTSDを発症する人は、これらの制御中枢がもともと発達不十分な可能性もある(6)。

暴行事件にあったアンジェラのような深刻なトラウマを経験した人に、トラウマに関連する映像を見せながら脳スキャナーで観察を行ったところ、PTSDの発症者は非発症者に比べて内側前頭前皮質が小さく、その活性度も低いことが確認されたのだ。

制御中枢の活性度が高い人は、フラッシュバックや発汗などPTSDの症状が出たとしても、その程度は比較的軽くすむ。

前頭前野の内側にあるこの領域や、その他の制御中枢を活性化させる方法が見つかれば、不安障害と闘う新しい武器がまたひとつ誕生するはずだ。

心に浮かんだ考えに「ラベルづけ」すれば、感情を制御することができる感情をコントロールするには、自分がものごとをどう解釈しているか認識し直すだけでも効果がある。

このことは今、多くの証拠からあきらかにされつつある。

たとえば、憂うつな気分でいっぱいになっているとき、「事態はそれほどひどくはないかもしれない」と自分で自分に語りかければ、それだけで、暗い気分を切り替えられる可能性があるのだ。

この方法は単に不安をやわらげるだけでなく、レイニーブレインを形成する脳の回路を変化させることさえできる。

悲惨な場面を意識的に解釈することで、恐怖の反応は抑制できる。

このことを初めて示した研究者のひとりリチャード・ラザルスは、一九六〇年代に次のような実験を行っている(7)。

ラザルスは被験者全員に、悲惨な場面をうつしたビデオクリップ──たとえば、アボリジニの割礼の儀式など──を見せ、恐怖反応を計測した。

ただし、一部の被験者には実験の前に「これは本物の映像で、この少年は強い苦痛を感じている」という説明を行い、他の被験者には「これは教育用のビデオで、出てくる少年たちはみな役者であり、ほんとうに痛がっているわけではない」と説明を行う。

GSRで手のひらの発汗を計測すると、映像を演技だと聞かされていたグループは、本物だと聞かされていたグループよりも恐怖の反応が少なかった。

また、映像に動揺したかどうかをそれぞれにたずねると、「動揺した」と答える割合もやはり、映像を演技だと思っていたグループのほうがはるかに低かった。

同じ場面をどのように解釈するかによって、結果に差が生じたわけだ。

このように認識を通じて恐怖を抑制する試みが脳内で行われていることが、近年の進んだ脳内映像技術によってあきらかになりつつある。

脳の各領域を結ぶレイニーブレインの回路は大脳皮質の領域から、下にある反射的な領域に向けて抑制のメッセージを送り、感情の調節を手伝っている。

そして抑制中枢をはたらかせるためには、「何かを思考すること」が重要であるらしい。

心に浮かんだ考えや映像にラベルを貼るだけで、前頭前野の抑制中枢を活性化させ、それによって扁桃体の反応をしずめることができる(8)。

デューク大学の神経科学者アフマド・ハリーリーは、脳スキャナーに横になった一一人の健康な被験者に、二枚一組であらわれるたくさんの画像を見せ、その間の脳の状態を調べた。

画像はたとえばヘビとこちらを向いた銃などで一組になっており、被験者はそのどちらかを、もうひとつ別にあらわれる画像とペアにするよう求められる。

被験者は必然的に、画像の認識に集中していなくてはならない。

画像はどれもすべて恐怖を感じさせる内容なので、課題をこなすうちに被験者の恐怖の中枢が作動し、警戒モードに入るはずだ。

ハリーリーはもうひとつ、より興味深い内容の実験を行った。

今度は画像と画像をペアにするのではなく、画像と同時にあらわれるふたつの言葉のうち、画像が「自然」のものか「人工」のものか、正しくあらわすほうを選びとらなくてはいけない(サメ、クモ、ヘビなどの画像なら「自然」を、銃、ナイフ、爆発などの画像なら「人工」を選ぶことになる)。

この作業で被験者に求められるのは、画像を感情的にではなく、言語的に解釈することだ。

実験の結果、脳の活性化のパターンはふたつのケースで大きく異なることがわかった。

研究チームの予測通り、前者の〈ペアづくり〉の課題のときには扁桃体に強い反応があらわれたが、後者の〈ラベルづけ〉の課題のときには、前頭前野が強く活性化し、それとともに扁桃体の反応が抑制されるという、たいへん興味深い結果が出た。

〈ラベルづけ〉の作業で前頭前野の反応が強まり、それが扁桃体の反応を弱めることにつながったわけだ。

これらの反応パターンは次のことを示唆している。

前頭前野と扁桃体との相互作用のシステムは、現在の経験を意識的に評価することによって、感情をコントロールしたり方向づけたりするのを助けている。

うなり声をあげている犬など何かの危険に直面したとき人は、脳内のパニックボタンである扁桃体の指令だけに従うのではなく、前頭前野の助けを借りて、たとえば「その場から逃げられるかどうか」を考え、脅威の度合いを推し量っているものだ。

そうすることで、脳内の〈石器時代〉の領域にある扁桃体の活動を制御できる。

恐怖に対する感情の反応を制御するうえで、この、前頭前野と扁桃体との回路は非常に重要な役目を果たす。

不安症やパニック障害、恐怖症、PTSDや抑うつ症などさまざまな心の失調が起きるのは、レイニーブレインの根底にあるこの回路が機能不全になるせいなのだ。

心の中で感情をコントロールする技術感情のコントロールを人がどれだけうまく行えるか調べる、次のような実験がある。

脳スキャナーに横になった被験者に、爆発で重傷を負った人の体や切断されて血にまみれた腕など、衝撃的な映像を見せる。

画面に「注目」という文字があらわれたときは、被験者はその場面に感情移入するようにつとめ、「再評価」という文字があらわれたときは逆に、その場面から受ける感情がすこしでもネガティブなものでなくなるよう、自分の感情をコントロールしなくてはならない。

たとえば、「あの切断された腕は本物のように見えるけれど、じつはプラスチックでできた偽物だ」と自分で自分に語りかけてみるのだ。

これらの作業をしているときの脳のようすをスキャンすると、両者で顕著なちがいが浮き彫りになった。

「注目」の指示を受け、感情的な側面に注意が集中しているときは扁桃体が活性化し、いっぽう「再評価」の指示を受けたときには前頭前野が活性化し、扁桃体の活動は弱まっていたのだ。

じつを言えばわたしたち人間は、たいがい無意識にではあるが、こうした感情のコントロールを行っている。

マリアという友人は医学生になったばかりの頃、手術の現場を見なければならないとき精神的にどう対処したか、わたしに話してくれたことがある。

患者の内臓が見えるたび、彼女はその名称をひとつひとつ心の中で挙げ、解剖学的な面に全意識を集中させて、恐怖や嫌悪をおさえこんだという。

彼女が会得したこの方法は、ネガティブな感情をコントロールするうえで、非常に正しいものだ。

そしてそれを彼女に教えたのは、彼女自身の脳の、恐怖の回路だ。

気持ち悪さにくじけそうになったときも、マリアはたとえば「手術が終わればこの患者はもう痛みを感じなくなるし、元気に過ごせるようになる」と意識的に考えるようにした。

つらい状況でも感情をコントロールできるように、人はみな、こうしたこつを自然に身につけている。

こうしたメンタルな技術の差が脳の反応に大きなちがいをもたらすことが、今、科学的な研究からあきらかにされつつある。

この能力には大きな個人差があり、ささいな危険に出会っただけでパニックにおちいる人もいれば、このうえなく苦しい状況下でも落ち着きと集中を失わずにいられる人もいる。

その理由を、神経科学の研究は解き明かしはじめた。

不安を感じやすい人の脳には、解剖学的にも特徴があったダートマス大学のジャスティン・キムとポール・ホエーレンは、fMRIとそれよりさらに新しい拡散テンソル画像と呼ばれる技術を使って、脳の各領域のつながりをマッピングした(9)。

拡散テンソル画像はfMRIと似ているが、脳のどの領域が今活動しているかではなく、異なる領域が今どうつながっているかを、脳組織に水の分子がどう拡散しているかを観察することであきらかにする技術だ。

この拡散のパターンを観察すると、脳をめぐるネットワークが浮かびあがり、どの領域がどの領域と結ばれているかがわかる。

キムとホエーレンらの研究チームは、脳スキャナーの中に横になった二〇人の被験者に、さまざまな表情の顔写真を見せた。

その結果、恐怖の表情を見ているときは脳全体の活動度が増すが、恐怖以外の表情では脳の活動度に変化が起こらないことが確認された。

研究チームはこの増大した活動がどこから生じているのかをさぐり、〈鉤状束〉と呼ばれる神経繊維の太い束にいきついた。

鉤状束とは、扁桃体を含む領域と側頭葉、そしてさらに前頭前野とを結ぶ神経の繊維だ。

この神経繊維の束の太さが、被験者が報告した不安度と反比例するという興味深い事実を、研究チームは発見した。

不安を感じやすい人ほど扁桃体と前頭前野を結ぶ鉤状束は細くて弱く、反対に不安をあまり感じない人は、強い鉤状束で扁桃体と前頭前野のふたつの領域が結ばれていたのだ。

扁桃体と前頭前野の結ばれ方には個人差がある。

この事実からうかがえるのは、不安に強い人は前頭前野の抑制中枢を活性化し、抑制のメッセージを迅速かつ効率的に扁桃体に送ることで、不安反応をうまくしずめているという可能性だ。

鉤状束が強ければ、前頭前野から扁桃体へとメッセージは瞬時に送られ、パニック反応をすみやかに抑えられる。

いっぽう不安に弱い人の場合、事態はこんなにすんなりとはいかない。

第一にこういう人は、パニックにかかわる中枢がもともと反応しやすい。

加えて前頭前野の働きが弱いため、不安のコントロールがうまくいきにくい。

そのうえ、恐怖の中枢と抑制の中枢を結ぶ鉤状束がやはり弱いため、不安をしずめるのが人に比べてさらに困難になってしまう。

恐怖を感じにくい人は生まれつき鉤状束が強く、だから感情のコントロールがもともとうまいという可能性もある。

だが、脳の可塑性についてこれまで判明したことと考えあわせると、その線はどうやら薄い。

それよりも有力なのは、年月をかけて幾度も繰り返された経験や学習が、感情と抑制の中枢を結ぶ回路を強めたというシナリオのほうだ。

スポーツジムで体を鍛えれば筋肉を強くしたり柔軟性を高めたりできるのと同じように、訓練を行えば、脳の各領域を結ぶ経路を強くすることができる。

こうして認識の変更を何度も繰り返せば、恐怖や快楽に直面したときの脳の反応にたしかな変化が生じるようになるのだ。

意識レベルの認知行動療法、無意識下の認知バイアス修正法精神的失調のあらゆる治療法が結局、レイニーブレインのおおもとにある回路に働きかけているのはあきらかだ。

これらの回路が活性化し、可塑性のある状態になれば、〈良い〉回路を強めたり〈悪い〉回路を弱めたりできるようになる。

古典的なカウンセリング療法は脳の緊急領域の活動をしずめるいっぽうで、前頭前野の活動を高める効果ももっている(10)。

そうした手法のひとつである認知行動療法には感情のコントロール力を高める作用があり、不安症や抑うつ症の治療には最適であることが多い。

この療法は患者の意識レベルで作用する非常に複雑な心理学的介入であり、何らかのガイドラインや方策を患者に提示することで、思考パターンや行動形式を変えようと試みるものだ。

認知行動療法は不安症や抑うつ症の治療にたしかに高い効果をもつが、介入のしくみが複雑なため、どんなメカニズムで脳に変化をもたらすのかは正確にわかっていない。

だが、それが効果をもつ理由のひとつはおそらく、不安症や抑うつ症の患者のネガティブな認知バイアスを、軽度のものならこの手法で変化させられることにある。

このことは、認知バイアスの変化と不安症や抑うつ症の症状との関係からも、裏づけられている。

ネガティブなバイアスをポジティブな方向に変化させれば、不安の症状はおさまり、気分は安定する。

そのためのもうひとつの方法が、認知バイアス修正法だ。

認知バイアス修正のテクニックは、ものごとを否定的に解釈したりネガティブなものに注意を向けたりしがちな基本的傾向を再教育するものだ。

この方法は前意識レベルではたらき、患者の無意識下で作用しながら、本人が気づかないうちに脳に変化をもたらす。

こうした手法で、ネガティブなものよりもポジティブな

ものに注目する習慣を確立すれば、それを支える回路も徐々に変化しはじめるはずだ。

このさきさらに研究が必要なのはもちろんだが、認知バイアス修正法が脳の回路をたしかに変化させること、そして認知行動療法と同じように、扁桃体ではなく前頭前野の抑制中枢に作用することは、すでに多くの研究で実証されている(11)。

認知行動療法や認知バイアスの修正などの心理学的介入は、不安や恐怖の回路を制御する能力を強め、その結果として、有害なバイアスを変化させているのだ。

脳活動の左右の偏りと思考形式の関係人間にはもともと、危険を遠ざけるメカニズムと報奨に向かうメカニズムがどちらも備わっている。

このふたつの傾向が認知バイアス修正によって強まるのかどうか調べるため、わたしは自分の研究室である実験を行った。

被験者の頭にたくさんの電極を貼りつけ、ポジティブな画像やネガティブな画像を見ているときの脳内の電気的活動を計測するのだ。

被験者は実験の前に認知バイアス修正トレーニングを受ける。

その修正トレーニングのタイプによって、脳内の電気的活動が右寄りと左寄りのどちらに移行するかが、この実験のポイントだ。

左側への活動の偏りは、良いものごとに向かおうという積極的な傾向に関連しており、逆に右半分への活動の偏りは、悪いものごとに注意しようとする傾向に関連している。

だから、ポジティブなイメージに注目するような訓練を受ければ、サニーブレインの回路に変化が生じ、結果的に脳の活動も左寄りにシフトするはずだ。

逆にネガティブなイメージに注目する訓練を受ければ、レイニーブレインの回路に変化が生じ、その結果、脳の活動のパターンは右寄りに移行すると考えられる。

研究チームは、感情に強く訴える画像をポジティブなものからネガティブなものまで準備したうえで、ふたつの被験者グループに認知バイアスの修正トレーニングを行った。

片方のグループはポジティブな画像に注意を向けると同時に、中立的な画像を回避するよう訓練される。

もう片方のグループは、ネガティブな画像に注意を向けると同時に、中立的な画像を回避するよう教育される。

両グループとも、認知バイアスの修正を行う前と後に脳波の測定を受けた。

実験の結果(上図を参照)からは、被験者の認知バイアスだけでなく脳の回路にも変化が生じたことがうかがえる。

楽しい画像に注目するように方向づけられた被験者の脳内では、トレーニング後、活動が左寄りに移行していた。

ネガティブな方向へのトレーニングを受けた被験者の脳には、まったく逆の傾向が認めら

れた。

認知バイアス修正のトレーニングは、恐怖と快楽に対する脳の反応を変化させていたのだ。

抗うつ剤はどのようにはたらいているのか認知行動療法や認知バイアス修正法などの心理的介入は、深刻な精神失調の治療にこの先ますます重要な役割を果たすだろう。

しかし今のところ、抑うつ症や不安症などの精神的失調の治療に主として用いられるのは、向精神薬だ。

この種の薬がじっさいにどう作用しているかについては、じつはまだ未解明な部分が多い。

分子レベルでいえばおおかたの抗うつ剤は、シナプス接合部に存在するセロトニンなどの神経伝達物質を増加させる効果をもつ。

だが、この作用自体は投薬のほぼ直後から確認できるのに、気分の向上や他の症状改善などの臨床的な変化があらわれるのは、それから数週間がたってからだ。

また、抗うつ剤は患者の気分そのものを高めるわけではない。

気分を高める作用をもつたとえばコカインなどの薬は、抑うつの治療には概して効果をもたない。

つまり、抗うつ剤は患者の気分を直接引き上げることで作用しているわけではないのだ。

抗うつ剤がじっさいどのように機能しているかについて、オックスフォード大学の精神医学者キャサリン・ハーマーと同僚らが興味深い説明を行っている(12)。

不安症や抑うつ症に特有のネガティブな認知バイアスは、抗うつ剤の投与で弱まることがすでにわかっている。

ハーマーらはそこからさらに一歩進み、抗うつ剤で認識がポジティブに変わると、社会との関係に変化が生じ、それが気分に徐々に変化をもたらすのではないかと推論した。

認知バイアスがポジティブに変われば、抑うつ患者は社会的な状況において、以前より前向きな反応をするようになる。

この傾向は、社会との間で前向きかつ友好的な相互作用が起きることでさらに促進され、結果的にポジティブな方向への良い循環が生まれる。

より健康的で前向きの反応をするように脳を再教育したり訓練したりするための第一歩は、有害な認知バイアスの修正なのだ。

この考えは、抗うつ剤によってシナプスの可塑性が高まることを発見した複数の動物実験の結果とも合致する。

ネガティブなものを避けたり、ポジティブなものや気持ちのいいものに進んで向かったりする傾向がわずかでも生まれ、時間をかけて性格の一部になれば、人が世界に向かう姿勢は根本から変化する可能性がある。

認識のレベルでは、投薬による治療や心理学的な療法はどちらも、ネガティブな認知バイアスを変えることで効果を発揮しているように見える。

だが詳しく言えば、心理学的な療法は感情を制御する能力に影響を与え、抗うつ剤などの投薬療法は扁桃体に、より直接的な影響を与えると考えられる。

こうした薬はまず認知のバイアスに作用する。

そして多くの精神的失調に共通する、恐怖中枢の過剰な活動を抑制するのだ。

瞑想中に脳では何が起こっているか認識の深い偏りを修正できるという発見に、心理学界は沸いている。

人はどんな遺伝子の構造をもっていても、どんな出来事に見舞われても、それで人生の道筋が決まるわけではない。

世界には、逆境を乗り越えて幸福な人生を送る人がたくさんいる。

せっかくの長所をみすみすドブに捨てたり、チャンスや才能を浪費したりする人もたくさんいる。

人が状況にどう反応するかは、たしかに先天的な資質と後天的な環境に左右されるが、すべてがそれで決まるわけではないと科学は教えている。

心の目に映る風景──つまり個々の認知のバイアスやゆがみ──を変化させれば、わたしたちは自分の世界観をも変えることができるのだから。

このことを非常に印象的に示しているのが、仏教僧の了解を得て行われた、瞑想中の脳を分析する実験だ(13)。

瞑想には五〇〇〇年を越える歴史があり、チベット仏教をはじめ数多くのスピリチュアルな伝統の根幹に位置している。

瞑想を日常的に実践する人々は、「心をしずめる訓練とはどのように行うべきか」「怒りや嫉妬などの負の感情の悪影響を、どうやって減じるべきか」を示す、まさに生きる手本だ。

心のイライラをしずめられれば、人の心は自由に、純粋に何かに集中したり何かを洞察したりできるようになる。

そして、より充実した、より幸福な人生を手に入れることができる。

瞑想の一種に〈注意集中法〉という手法がある。

これは、自分の呼吸でも蠟燭の炎でも何かの言葉でもよいから、とにかくひとつのものごとに意識を集中することで、心を占めている思考やイメージの喧騒を遮断する方法だ。

ウィスコンシン大学のリチャード・デーヴィッドソンは、雑念をはねかえす力がこの瞑想法で強まることを、調査によってあきらかにしようとした。

多くの親が言うように、子どもが叫んだりわめいたりしている横で何かに集中するのは非常にむずかしいものだ。

けれど、この瞑想法を身につければ、うるさい物音や叫び声が聞こえても、簡単にそれを心から遮断できるようになる。

デーヴィッドソンと同僚のジュリー・ブレフツィンスキ=ルイスの研究によれば、注意集中法で瞑想を実践している人は、集中したり、気が散るのを防いだりする脳の回路がたしかに強くなっていた(14)。

二人は、平均一万九〇〇〇時間の瞑想を実践したエキスパートらに実験に参加してもらい、瞑想の初心者と比較した。

予想通り、邪念を遠ざけるのを助ける前頭前野の回路は、瞑想のエキスパートのほうがずっと強く、彼らは瞬時に集中モードにスイッチを入れることができた。

興味深いことに、瞑想の実践をもっとはるかに多く、平均で四万四〇〇〇時間も積んだ超エキスパートの場合、回路がそれほど活性化されなくても邪念をはねかえす力や集中する力は他の修行僧よりはるかに強いことが判明した。

おそらく徹底したメンタルトレーニングで脳の回路を強化した結果、彼らはさして努力しなくてもすぐに集中モードに入れるようになったのだろう。

瞑想の手法として、〈オープン・モニタリング〉もしくは〈マインドフルネス〉と呼ばれる方法も、よく知られている(15)。

この方法がめざすのは、今この瞬間に経験しているものごとのひとつひとつに注意を向けることだ。

聞こえてくる音や鼻をくすぐる匂い、そして頭に浮かぶ感情や思考を、判断したり反応したりすることなくともかく心の中を通過させ、そうして心を十分に開かれた自由な状態にし、自己認識力を高めるのだ。

自分の認識に〈ラベルづけ〉をするのも、この種の瞑想によく用いられる手法だ。

ラベルを貼ることで、人は自分の感情を一定の距離を置いて眺めることができ、感情を効果的にコントロールできるようになる。

マインドフルネス法とは突きつめていえば、客観的な目撃者として自分を眺めることだ。

ちょっと想像してみよう。

瞑想をして、すべてのものごとに心を開こうとしているとき、何か心配事が頭に浮かんできてしまった。

そんなとき必要なのは、心配事の中身にとらわれず、たとえば「これは苛立たしい考えだ」というふうにラベルをつけて、頭から過ぎ去らせることだ。

実行するのはけっして簡単ではないが、この方法を身につければ、感情のコントロールはきっと容易になるはずだ。

このマインドフルネス瞑想法にはまた、感情的な出来事への反応をつかさどる前頭前野の回路を強める効果もある。

出来事を、どう解釈するかで、出来事じたいが変わる日々の中で経験する悩みや心配ごとの大半は、外界で起きる出来事そのものに起因するのではなく、そうした出来事を自分がどう解釈するかで引き起こされる。

つまり、わたしたちの頭の中で起きることこそが、わたしたちに真の影響を与えるのだ。

何かに怒りを感じても、形をもたない考えとしてそれを受け流せば、怒りの力から上手に毒を抜くことができる。

これは、前頭前野の抑制機能を高める療法がストレスに効くという多くの証左と一致する。

投薬によってでもカウンセリングによってでも、扁桃体の活動をしずめれば、ストレスへの反応をうまくコントロールすることができる。

だからこそ、不安障害や気分障害の大半の治療法は、扁桃体や前頭前野を巡る回路の正常化をめざしているのだ。

脳の回路が可塑性をもち、鍛えれば変化するものである以上、どんなに深く刻まれた有害な回路も心理的な訓練によって修正することは可能なはずだ。

ある先駆的な研究によれば、精神失調の中でも治療がとくにむずかしい強迫性障害にも同じことがいえる。

強迫性障害の患者を悩ませるのは「何かが誤っているのではないか」という絶え間ない不安感だが、こうした患者の脳内では〈眼窩前頭皮質〉と呼ばれる場所が活動過多になっている。

脳のエラー探知機であるこの部分は、脳の前面の下側、ちょうど前頭前野の下あたりに位置し、扁桃体と回路で結ばれている。

強迫性障害の人はこの眼窩前頭皮質と扁桃体の双方で活動が

増し、その結果、回路に機能障害が起き、しかもそれがなかなか改善しない状態になっている。

レオナルド・ディカプリオに助言を行ったカリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神科医、ジェフリー・シュウォーツは、強迫性障害の治療を追究しつづけており、この分野に大きな進歩をもたらした。

そのきっかけとなったのは、自身実践的な仏教徒で瞑想の効用をよく知っていたシュウォーツが、強迫性障害の治療にマインドフルネス瞑想法を活用しようと考えたことだ。

彼は瞑想そのものについて詳しく患者に教えるのではなく、瞑想の要素をとりいれた認知行動療法の一種を考案した。

これが、〈マインドフルネス認知行動療法〉として知られるようになる手法だ。

シュウォーツが人々に訓練したのは、ストーブを消したかどうかチェックしたいという衝動と闘うことではない。

そうした症状を、〈憂慮すべき何か〉として認識するのをやめ、脳内回路の失調のあらわれとしてとらえ直すことを彼は患者に教えたのだ。

シュウォーツはこの分野の先駆け的な研究の中で、被験者に一〇週間のマインドフルネス認知行動療法を施し、療法の開始前と終了後の二回、脳スキャンを行った(16)。

その結果、療法を受けた後では眼窩前頭皮質の活動があきらかに低下していたことがわかった。

療法によって、強迫行為への衝動が弱まったのに加え、脳のエラー探知システムが活動過多でなくなったおかげで、被験者はなんとかふつうに生活を送っていけるようになった。

これはすばらしい進歩だった。

標準的な認知行動療法は強迫性障害にはほとんど効果をもたないものだが、マインドフルネス瞑想法を組み合わせたことで、大きな成果が得られたのだ。

マインドフルネスで抑うつの再発を防ぐマインドフルネス認知行動療法はまた、深刻な抑うつの治療にも効果がある(17)。

オックスフォード大学の心理学者マーク・ウィリアムズによれば、抑うつの治療における難題は、目の前の絶望や悲しみへの対処よりむしろ、再発を防ぐことのほうだ。

認知行動療法などのカウンセリング療法や薬物治療はどちらも抑うつの改善に最初こそ効果を発揮するが、多くの人はしばらくするうちまた絶望や不安の中に逆戻りし、それを何度も繰り返すことになる。

じっさい、これらの治療で短期的にでも症状が改善した人のじつに六割以上が、時間が経つにつれ、せっかく得た効果を保持できなくなってしまうのだ。

ウィリアムズは、ケンブリッジ大学の認知脳科学科のジョン・ティーズデール、およびトロント大学で認知行動療法クリニックを率いるジンデル・シーガルと共同で数多くの重要な研究を行った。

三人はそれぞれ、慢性的な抑うつ患者を救うむずかしさと長年格闘し、いったん良くなった患者がまたじきに病院に戻ってきてしまうことにたびたび落胆を味わっていた。

そこでティーズデールは、当時マサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジンが開発していたマインドフルネスストレス低減法を学び、実践しはじめた。

マインドフルネスストレス低減法はぜんぶで八週間のプログラムで、一回につき二~三時間のミーティングに毎週数回参加するのに加え、指定の練習を家庭で毎日実践するよう奨励される。

この練習で人々は、自分の体の各部分に順番に注意を集中する訓練を受ける。

たとえば「左の手に意識を集中してください」という指示のあと、今度は「左の膝に意識を移動させてください」というように指示が出る。

この練習が究極的にめざしているのは、患者の集中力を自分の呼吸に集め、その他の余計な考えが頭に入り込まないようにすることだ。

一見簡単そうに見えて、これはそう簡単ではない。

だが、万一余計な考えが頭に入り込んだときには、中身に拘泥せず、そのまま考えをやりすごせばよいという。

三人の心理学者は、患者にネガティブな思考回路の引き金を引かせないためには、マインドフルネス法のようなアプローチが最適だと考えた。

その引き金を引くか否かは、抑うつの再発を左右する鍵だ。

抑うつの患者は認知行動療法によって、ネガティブな思考を否定したり乗り越えたりするテクニックは学べる。

たとえば、だれかにデートの誘いを断られても、それで自分の価値がゼロになるとは考えないようにつとめられるかもしれない。

しばらくはそれでうまくいっても、なにかの拍子に昔の思考が戻り、ネガティブな回路にふたたび火がつく可能性は否めない。

「自分は好かれていないのだろうか」という疑念がふと浮かんだだけで、「自分には何も魅力がないのだ」「このさきもずっと、自分を好きになってくれる人間などいるはずがない」という救いのない思考のスパイラルが起こりかねない。

こうして本人も気づかないうちに、それまで以上にひどい抑うつが再発することがある。

ティーズデール、ウィリアムズ、シーガルの三人は、抑うつの再発経験がある一八歳から六五歳までの患者計一四五人を集めて調査を行った(18)。

被験者はさまざまな社会的階級から抽出された。

ウェールズ地方北部の小さな町バンゴールの郊外に住む人もいれば、田舎と都会が混在するケンブリッジに住む人も、大都市圏のトロントに住む人もいた。

被験者のおよそ半分は通常の治療に加えてマインドフルネス療法を受け、残る半分の被験者は標準的な治療のみを受けた。

実験の結果、マインドフルネスストレス低減法を受けた被験者グループは対照群と比べ、抑うつの再発率が半分にとどまったことがわかった。

過去に三度以上深刻な再発経験がある人々には、とりわけ大きな効果が見られた。

抑うつのスパイラルから抜け出せずにいた重症の患者に、マインドフルネス法によるアプローチは文字通り大きな変化をもたらした。

これは、抑うつの再発防止という難題の解決を予感させる、たいへん刺激的な結果だった。

マインドフルネス法と脳の変化この画期的な研究のあと、カバット・ジンはリチャード・デーヴィッドソンに、マインドフルネスストレス低減法のテクニックで脳の回路はじっさいに変化するのか調べてほしいと依頼した(19)。

臨床的な結果は上々に思われたが、脳の回路そのものに変化が生じていれば、改善した症状の持続が見込めるからだ。

はたしてマインドフルネス法による訓練で、脳のはたらき方は変化しているのだろうか?デーヴィッドソンはマディソン市にあるバイオテクノロジー会社の従業員から四八人を被験者に選び、半数にマインドフルネス法による介入を行い、残る半数はウェイティング・リストにのせたままにしておいた。

研究チームは被験者の脳の電気的活動を測定し、引きこもりや抑うつ気味の人に典型的に見られる前頭前野の活動の右側への偏りが、マインドフルネス法によって逆転するかどうかを調べてみた。

被験者となった従業員らは、マインドフルネスストレス低減法の介入をカバット・ジン本人から八週間にわたって受け、介入の開始時と終了直後、そしてさらに四カ月後の計三回、頭につけた電極によって、脳内の活動を測定された。

研究チームはさらにもうひとつ、実験にひねりを加えた。

被験者全員にインフルエンザのワクチンを注射し、マインドフルネス法の訓練を受けたかどうかで、体内でつくられる抗体の数に差が出るかどうかを調べたのだ。

デーヴィッドソンは長きにわたり、瞑想には免疫システムの機能を高めるはたらきがあると推測してきたためだ。

標準的な八週間のプログラム終了後に測定を行うと、マインドフルネス法の瞑想を実践した被験者には、脳の活動にも免疫機能にもプラスの変化が認められた。

脳の活動の左右の偏りについては、頭につけられたすべての電極にではないが、すくなくともいくつかの電極に、右から左への活動の移行が見てとれた。

ハッピーで楽観的な人に典型的に見られる脳活動のパターンは、瞑想によってたしかに強められていた。

また、マインドフルネス法の瞑想を実践した人の体内では、実践しなかった人に比べてインフルエンザの抗体が非常に多くつくられていたこともわかった。

マインドフルネス法はどうやって作用しているのか?すると次に問題になるのが、この種のメンタルトレーニングは(精神病の薬がおそらくそうであるように)扁桃体に直接はたらきかけているのか、それとも(認知行動療法や認知バイアスの修正などの介入方法がそうであるように)感情をコントロールする機能にはたらきかけているのかという点だ。

この問いに答えを出したのが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の二人の心理学者、デーヴィッド・クレスウェルとマシュー・リーベルマンだ。

二人は二七人の学生を被験者

に選び、質問票に回答してもらい、それぞれのマインドフルネスの度合いを測定した。

瞑想の訓練を一度も受けたことがなくても、被験者のマインドフルネスの度合いには個人差があり、この生来の多様性を研究チームは実験に利用した。

被験者はfMRIの脳スキャナーの中に横になり、画面に映し出される強烈な表情の顔写真にそれぞれ感情のラベルづけ(「怒り」「恐怖」など)や、性別のラベルづけ(「ジェーン」「トム」など)をするよう指示された(20)。

性別のラベルづけは脳内の活動に特に変化をもたらさなかったが、感情のラベルづけを行っているときは脳全体に波のような活動が生まれた。

前頭前野に強烈な活動の波が起こり、それに応じるように扁桃体の活動がしずまるという古典的かつ規則的な反応が見られたのは、マインドフルネスの度合いがもともと高い人のほうだった。

対照的な結果が出たのが、マインドフルネスの度合いがもともと低かった学生だ。

彼らの場合、扁桃体が激しく活性化しても前頭前野の活動量はほとんど変わらず、扁桃体で起きた原始的な恐怖反応は抑制されなかった。

いいかえれば、脳の緊急領域が警報ベルを鳴らしっぱなしになっていたわけだ。

こうして神経科学的に確認されたのは、その昔ブッダが説いたのとまったく同じことだった。

自分の感情にラベルを貼り、単に注意の向かう〈対象〉として扱えば、ネガティブな経験をもある種超然とした立場から眺められるようになるのだ。

瞑想は脳に構造的変化をもたらすかさらに一歩進んだ研究によって、マインドフルネス瞑想法の習得で気分が向上するのは、不安などの感情を統御する部分に変化が起きたせいであるらしいとわかった。

ある調査で一六人の被験者が、カバット・ジンの開発した八週間のマインドフルネスストレス低減プログラムに参加し、受講の前後にMRIで脳のスキャンを受けた。

プログラムを受講しなかった対照群と比較すると、瞑想を行った被験者の脳スキャンの結果からは、感情のコントロールを助けるいくつかの重要な領域が高密度になっている──つまり、ニューロンが増加している──ことがわかった。

また、このプログラムを受けるうちストレスが大幅に減じたと報告した人々は、扁桃体の密度が低くなっていることもわかった。

マインドフルネスストレス低減法は、恐怖の中枢を物理的に小さくすると同時に、抑制中枢を大きくしていたのだ(21)。

感情をコントロールする能力に個人差があるのなら、その差が幸福度や心の安定の度合いに関連するのかどうか、考えてみるのは重要だろう(22)。

トロント大学の心理学者ステファン・コッテはまさにこの問題を、スタンフォード大学のアネット・ギュラークおよびカリフォルニア大学バークレー校のボブ・レベンソンとともに研究した。

たいていの人は感情のコントロールを保つさまざまな方法を知ってはいるが、なかなか実行することができない。

何かのプレッシャーを受けているときにはなおさらだ。

三人の研究者はこうした事情をふまえたうえで、次の実験を行った。

まず被験者に不快で強烈な音を聞かせる。

音が聞こえるたび、被験者にはビクッとするような反射反応が自然にあらわれるが、彼らは恐怖の表情を極力表に出さないようにと実験者から指示されている。

実験の結果、反応を隠すのがあきらかにうまい人々がいるのがわかった。

研究チームは独自の用語で、こうした人々を優秀な〈感情調節者〉と呼んだ。

研究からはさらに、感情調節力の差が、実生活で人々が感じる幸福度の差にも関連していることがわかった。

感情をいちばんうまく調節できる人は、いちばん大きな幸福を感じていたのだ。

二番目の実験では、研究者らはまったく逆のことをした。

ひどい火傷を負った人や腕を切断した人の治療の様子など、生々しい場面ばかりを映したさまざまなビデオクリップを被験者に見せ、見ているあいだ自分の感情をできるだけ増幅するように指示したのだ。

つまり、自分が感じていることを隠そうとするのではなく、積極的に表に出せということだ。

先の実験と同様、感情の反応をどれだけ発現増加させられるかには大きな個人差があった。

そして感情の調節が上手な人ほど、幸福感や安心感は高かった。

被験者の平均所得をあわせて比較すると、さらに驚きの発見があった。

感情のコントロールが上手な人は不得手な人に比べ、総じて非常に高い収入を得ていたのだ。

ビリヤードのスヌーカーの元世界王者のスティーヴ・デーヴィスはかつてこんな発言をしている。

「成功の秘訣は、とんでもないことが起きても、それがなんでもないことのようにプレイできることだ」サニーブレインで困難から立ち直る修羅場のさなかでも感情的な反応をどれだけコントロールできるかは、その人の成功の度合いに、そして人生に対する満足度にもかかわってくる。

人々の大半は、じつは感情の調節の達人だ。

何かですぐに金切り声をあげたり癇癪を起こしたりしていた幼い子どものころから、人は時間をかけて、感情のコントロールを学んでいく。

そしてそれに熟達するほど、人生の浮き沈みにうまく対処できるようになる。

不安障害の患者が増加の傾向にあるとはいえ、全体で見れば少数にとどまっているのはそのためだ。

たいていの人は非常に心の弾性が強く、困難におちいってもすみやかにそこから立ち直ることができる。

九・一一の後、ニューヨーク市や周辺一帯に不安症やPTSDが大きく広まるのではないかという懸念の声がさかんに聞かれた。

けれど、結局そんな事態は起こらなかった。

住民の大半は当時、不安と恐怖にさいなまれていたが、それらは時間とともに徐々に薄れ、しばらくたつと人々は普通の生活に戻りはじめた。

事件の後、何かの症状に長いあいだ苦しむ人ももちろん存在したが、政治家やメディアが誇大に主張したり心配したりしたのとは裏腹に、大半の人々は不安がもたらすネガティブで長期的な作用に屈しなかった。

少数の人々が深刻な不安障害を発症したのはたしかだが、いっぽうで心的外傷後成長と呼ばれる前向きな症状を経験した人々も少数ながら存在した。

心の弾性に富むこれらの人々は、トラウマになるような経験をしたことで自分が成長し、人間としてより豊かになったと語っていた。

ニューヨークのコロンビア大学の心理学者ジョージ・ボナーノはそのキャリアのほとんどを、巨大なトラウマに人がどう反応するかを詳細に記録することに費やし、大きな不幸やトラウマを経験した後でさえ、人々が精神的な安定を取り戻す例を数多く目にしてきた(23)。

彼は研究仲間のダハナー・ケルトナーと協力し、愛する人と死別したばかりの人々があらわす感情を調査した。

人々がみな悲しんでいたのはもちろんだが、彼らはそのほかに、ポジティブなものからネガティブなものまで、じつにいろいろな感情を抱いていた。

悲嘆に打ちのめされていても、彼らの大半は時おり笑うことができたし、何かを楽しむこともできた。

この回復する能力は、サニーブレインの鍵となる性質だ。

サニーブレインの思考形式を強められれば、ストレスへの耐性やストレスに対処する能力も高まるはずだ。

人生の舵を自分で握るために神経科学と心理学は現在、レイニーブレインの研究だけでなく、サニーブレインがもたらす心の弾性や、楽観を支えるメカニズムについても理解を深めようとしている。

異なる分野の多くの調査研究から浮かび上がってきたひとつの鍵は、「人生の舵は自分が握っている」という感覚が非常に重要だという点だ。

運命をコントロールするのは自分だという強い気持ちをもっている人は、逆境から立ち直るのも早いし、人生を最大限楽しむこともできる。

この洞察の最初のヒントは、動物を使った研究からもたらされた。

ある実験で犬に、絶対に逃れられない電気ショックを繰り返し与えると、〈学習性無力感〉と呼ばれる症状があらわれる。

この命名者であるペンシルバニア大学の心理学者マーティン・セリグマンは、同僚のスティーブン・マイヤーとともに次の独自な実験を行った(24)。

まず犬を実験用の小部屋に入れる。

小部屋の内部は、低い敷居でふたつに分けられている。

床にはときどき、肉体には無害な電気ショックが

流れるが、敷居を飛び越えて反対側に飛び移れば、電気ショックを避けることはできる。

一部の犬は実験用の小部屋に入れられる前に、逃れることのできない電気ショックを経験している。

手順は次の通りだ。

二匹の犬をペアにし、弱い電気ショックを双方に与える。

片方の犬は鼻でレバーを押せば電気ショックを止めることができるが、もう一匹の犬はレバーを押しても電気ショックを止められない。

ここでのポイントは、どちらの犬もまったく同じ回数の電気ショックを受けるが、片方の犬だけが状況を自分でコントロールできるという点だ。

実験用の小部屋に移され、床に電流が流れたとき、電気ショックを避けようとためらわずに低い敷居を飛び越えたのは、前の実験でコントロールを手にしていた犬たちだった。

逆にコントロールを与えられていなかった犬は、電気ショックから逃れようと試みすらしなかった。

そうした犬の大半(およそ三分の二)は、苦痛を逃れる道がすぐそこにあるのに、ただその場にうずくまって痛みに耐えていた。

いっぽうコントロールを与えられていた犬には、こうした抑うつ的な対処のしかたはまったく認められず、実験で特にストレスを受けているようすもうかがえなかった。

コントロールを与えられていた犬たちには、ストレスが起きたときにそれをはねかえす強靭な心──いわば心理的な免疫──が育っていたわけだ。

この心理的な免疫の発達度は、前頭前野の中で感情の統制にかかわる部分がどれだけよく機能するかで大きく変わる(25)。

セリグマンの同僚だったスティーブン・マイヤーはコロラド大学神経科学研究所のホセ・アマットとチームを組み、電気ショックのコントロールでストレスへの免疫をつけても、前頭前野のある領域を不活性化するとその免疫が完全に消えてしまうことを発見した。

つまり、皮質下の領域を前頭前野のはたらきによってうまくコントロールすることこそが、逆境に屈しない精神を育む重要な神経的メカニズムなのだ。

前頭前野のこの統制力を取り去ったら、ストレスに対する免疫はおそらく消失する。

だから、状況を自分でコントロールできること──あるいはコントロールできると感じること──は、幸福度を左右する重要な要素なのだ。

困難な状況におちいっても、状況をわずかでも自分で制御できると信じれば、対処しようという気持ちはおこりやすい。

猛スピードで走る自転車の後ろの荷台や、横滑りしている車の助手席に座っているときの恐怖を思い浮かべてほしい。

もし自分が運転をしていれば、恐怖心はいくらかなりとも緩和されるはずだ。

それは自分が状況を制御しているという感覚が、自信を与えてくれるからだ。

ラットを使った実験からも、自分で制御がきかない状況は、胃潰瘍などストレスに関連した疾患につながることがあきらかになっている(26)。

学習性無力感は寿命にまで影響していた今ではもう古典というべき実験が、一九七〇年代にニューイングランドのアーデンハウスという介護施設に住む高齢者を対象に行われた(27)。

実験を行ったのはニューヨーク市立大学の二人の心理学者、ジュディス・ローディンとエレン・ランガーだ。

二人は、介護施設の住民にありがちな決断能力の欠如は、環境を自分でコントロールすることが許されていないせいではないかと考えた。

セリグマンによる実験で発見された〈学習性無力感〉を念頭におき、ローディンとランガーの二人はそれと同じ作用が介護施設の住民にも起きているのではないかと推論したのだ。

答えを見出すために、二人は巧妙な実験を考えた。

アーデンハウスの中のふたつの階がランダムに選ばれ(二階と四階)、これらの階の住民はすべて、植物の鉢をひとつと、週に一度映画を見に行くチャンスを与えられた。

状況をコントロールする自由がどれだけ与えられるかという点を除いては、ふたつの階の状況はできるかぎり同一にされた。

四階の住民は自分の好きな植物を選び、好きな時間に水をやることができる。

何曜日の晩に映画を見に行くかも自由に選ぶことができる。

対照的に、二階の住民は決められた植物を与えられ、水やりもスタッフが行う。

映画を見に行く曜日もスタッフが決定し、住民に伝えた。

一八カ月後にローディンとランガーはふたたび施設を訪れた。

結果は驚くべきものだった。

四階の住民が二階に比べて幸福度や健康度が高かったのはともかく、両階の差は死亡率にまで及んでいたのだ。

二階の住民の死亡者数は四階の住民のじつに二倍にのぼった。

状況をコントロールする自由を手にしていた人々はそうでない人々に比べ、長生きをしていたわけだ。

コントロールの有無によって余命にこれほど大きな差が出るとは、だれも予想すらしていなかった。

自分で状況をコントロールしているという感覚が、健康や幸福度に重要なかかわりをもつことは、その他の研究からも確認された。

興味深いことに、かならずしもほんとうに状況をコントロールしていなくても──つまり、〈コントロールしている〉というのが本人の幻想であっても──同じほど大きな利益が得られることが、複数の実験結果から示されている。

マイケル・J・フォックスはわたしと話をしたとき、自分はリスクに無自覚なのではなく、何が起きても対処できる自信があるのだと、熱心に語っていた。

「どんな危機が起きたって、僕はちゃんと対処していける」。

この自信はサニーブレイン型の思考の重要な側面だ。

科学的にもそれは確認されている。

このしくみをあきらかにしたのが、一九七九年にローレン・アロイとリン・アブラムソンの二人の心理学者が発表した今や古典となった研究だ(28)。

実験は次のように行われた。

被験者の頭上で白熱電球がランダムに点いたり消えたりしている。

被験者は手元のボタンを押すことを許可されているが、じつはこのボタンを押しても電球が点くか消えるかには何の影響も生じない。

ところが、被験者の中でもどちらかといえば楽観的な人々は、電球が点いたり消えたりするのを自分がある程度コントロールできていると確信していた。

これはいわば、コントロールの幻想だ。

いっぽう、どちらかというと悲観的な人々は、自分が状況をいっさいコントロールできていないことをより正確に見定めていた。

これは〈抑うつリアリズム〉と呼ばれる現象だ。

アロイとアブラムソンの言葉を借りるなら、悲観的な人々は「より悲しいが、より賢い」のだ。

悲観的な人はほんとうに、自分がどれだけ状況をコントロールしているかを正確に評価し、いっぽう楽観的な人は世の中をバラ色に見過ぎているのだろうか?この答えはそう単純ではなく、予想以上に複雑であることがわかっている。

つづいて行われた実験で被験者は、自分と他人のどちらがどれだけ出来事をコントロールしているか評価するよう求められた。

悲観的な人はこの実験でもまた、自分に主導権がないことを正確に判断したが、いっぽうで他人がどれだけ主導権を握っているかについては過大な評価を下した。

悲観主義者は「自分は主導権を握っておらず、他人は握っている」と確信していたのだ。

かたや楽観主義者は、自分はある程度の主導権を手にしているという不正確な判断をした。

良い結果がもたらされる場合にはとりわけ、その思い込みは強くなった。

サイコロを二個投げて一〇ドルを獲得したら、楽観主義者は「自分が何かをしたおかげでそうなった」と考えがちなのだ。

心理学の研究からは今、人々の大半がじつは、日々の多くの出来事に自分のコントロールが及ぶと思い込んでいることがあきらかになっている。

これは、なぜわたしたちの大半が〈どちらかというと楽観主義的〉なのかを説明するのにおそらく役に立つ。

そして、なぜ人々が宝くじの番号をコンピュータに選ばせるより自分で決めたほうが当たる確率が高いように感じるのか、なぜ大半の人々が、他人にサイコロを振らせるより自分でしたほうが良い目が出やすいと思っているのかも、説明がつく(29)。

こうしたコントロールの魔力は、楽観主義における重要かつ不可欠な要素だ。

幸福になるためにはどうしたらいいのか幸福を追い求めるさいに重要なその他たくさんの要素を、心理学の研究はあきらかにしてきた。

人が自分をとりまく風景の意味に気づくために不可欠な、いわばレーダーの役目を果たすのがレイニーブレインとサニーブレインの回路だ。

脳のこの領域のはたらきいかんで、思考は悲観的にも楽観的にもなる。

人が何を感じ何に反応するかは、サニーブレインとレイニーブレインのはたらきに左右されるのだ。

不安をつかさどるレイニーブレインの回路が過剰に反応すれば、不安や抑うつなどの症状があらわれ、場合によっては悲惨な結果を招く。

そして、レイニーブレインが古来の脅威に対応して進化してきたのとちょうど同じく、快楽を

つかさどるサニーブレインもまた、祖先にとって良きものに対応するように進化を遂げてきた。

わたしたちの祖先にとっての良きものとは、たとえば食べ物や住みかの獲得であり、だれかと一緒にいることで得られる身の安全であり、愛や許しや思いやりなどだ。

現代の世界において、食べ物や住まいや暖かさなどの基本的な要求はたいてい満たされている。

なお満たされていないのは他者との結びつきであり、生きることの意義だ。

これを、グレッグ・イースターブルックは〈進歩のパラドックス〉と呼ぶ(30)。

イースターブルックが行った調査によれば、アメリカとヨーロッパでは一九五〇年代からこれまでの半世紀を超える歳月で、富はめざましく向上したが、人々が感じる幸福度は横ばいで、しかも不安や抑うつの発症率は大きく上昇している。

その他複数の調査でも、人々の幸福度がすこしも増加しておらず、多くの人が未来について深い悲観を抱いているという結果が出ている。

社会の物質的な豊かさと、そこに住む人々が感じている幸福や安心の度合いには何の関連も認められなかった。

それでは、より幸福で、より豊かに栄える社会を築いていくために、わたしたちはどうすればよいのだろうか?ひとつの方法は、不安障害や抑うつの増加に正面から戦いを挑むことだ。

これらの失調に苦しむ人々は今、地球上で何百万人にもなる。

そして患者ひとりにつき、すくなくとも五人の家族や親族が影響を受けている。

だれかがこうした失調に見舞われれば、家族だけでなく、職場の同僚や地域の人々も無関係ではなくなる。

けれど、不幸の芽を摘むことばかりに気をとられてはいけない。

それよりもたいせつなのは、幸福を増すような要素を積極的に見つけることだ。

幸福を左右する要因には、健康や食生活などの一般的な事柄ももちろん含まれる。

だがそれらに加え、ある種の認知バイアスや、自分が状況をコントロールしているという感覚などポジティブな心理的要素も、豊かな生活をつくるうえで重要な役目を果たしている。

もうひとつ重要な発見が、科学的な研究からもたらされている(31)。

それは、人がほんとうの意味で幸福になれるのは次に述べる三つの要素があわさったときだけだということだ。

ひとつ目は、ポジティブな感情や笑いを数多く経験すること。

ふたつ目は、生きるのに積極的にとりくむこと。

そして三つ目は、今日明日ではなくもっと長期的な視野で人生に意義を見出すことだ。

ふたつ目の、仕事であれ趣味であれ、自分がしていることに積極的にかかわることは、三つの中でもとりわけ重要だ。

幸福に関する複数の調査からは一貫して、より良い仕事やより良い家、より良い車などのいわゆる〈ものごと〉が、高い幸福感の継続にはつながらないという意外な結果がもたらされている。

売る側が何をどう言おうと、新しいぴかぴかの腕時計や新しい携帯電話は、長期的には人の幸福度をすこしも高めてはくれないのだ。

基本レベルの豊かさ(住む家があり、十分食べ物があること)がひとたび得られれば、それ以上にどれだけカネがあっても人が感じる幸福度にほとんど差は生じない。

これは複数の調査からあきらかにされた事実だ。

それよりも人を幸福にするのは、自分にとって大きな意味のある何かに積極的にとりくむことだ。

これこそが楽観主義者の本物の証明だ。

楽観主義者とは、大きな目的に向かって没頭したり、意義ある目標に到達するために努力を重ねたりできる人々なのだ。

完全に没頭した「ゾーン」に入るカリフォルニアのクレアモント大学大学院で教えるハンガリー人の心理学者、ミハーイ・チクセントミハイは、人が何かに没入することを〈最適経験〉もしくは〈フロー〉と呼ぶ。

こうした経験をしているとき、過去や未来についての意識は頭の中から消え、強烈な〈今〉という感覚だけが残る。

〈今この瞬間の自分〉という圧倒的な感覚は、スポーツ選手が「ゾーンに入る」と呼ぶのと同じ状態だ。

これは精神と肉体が苦もなくひとつになる魔法のような瞬間だ。

たとえばテニスで完璧なサーブを打つためには、足の位置やラケットの握り方、頭上に投げ上げたボールの軌跡、ネット越しに敵に向けた視線、ゆっくり前に振れる体、ボールを完璧に叩くラケット、完璧なフォロースルーなど、すべての要素がそろわなくてはいけない。

〈フロー〉を体験している瞬間には、それが魔法のようにあっけなく成功してしまう。

チクセントミハイによれば、大半の人々はこの種のフロー体験を数カ月に一度くらいはしている。

フローを経験したことが一度もないと語る人も一二パーセント程度いるが、いっぽうで毎日のように経験していると言う人も一〇パーセント存在する。

フローを体験する鍵は、自分の技量のレベルと挑戦の度合いとのあいだで絶妙なバランスを見つけることだ。

もし課題があまりにも簡単すぎれば、人はすぐに飽きてしまうし、逆にむずかしすぎればストレスに苦しむことになる。

けれど課題のハードルが低すぎもせず、また非現実的なほど高くもなく、挑戦者にまさにぴったりのレベルであるとき、他のいっさいが入り込むことができない一種のトランス状態が訪れる。

幸福と楽観の研究は関連していることがすくなくない。

だが、幸福と楽観は同一ではないことを忘れないでほしい。

幸福とはおおまかにいえば、わたしたちが今・ここで感じる気持ちだ。

それはたとえば、お天気の良い日に愛するだれかが海で遊ぶのを見たとき、胸に湧き上がる喜びであり、人生を振り返ったときに感じる満足感だ。

いっぽう楽観や希望とは、未来についてわたしたちがどう考え、どう感じるかだ。

ものごとはいちばん良い方向に進むと心から信じていれば、どんな障害にぶつかっても、それに負けることはきっとない。

楽天家がかならず幸福になるとはいえない。

けれど、世界を楽観的な視点でとらえることは、とりわけそれがリアリズムと結びついていれば、またとない出発点にちがいない。

わたしはこの本を書いているあいだ、たくさんの楽観主義的なリアリストに話を聞いたが、彼らの大半はあきらかに、それぞれの人生を最大限に生きていた。

高い成功をおさめた人もたくさんいた。

お金持ちになった人もいれば、そうでない人もいた。

けれど彼らはみな、自分がしていることを楽しみ、未来を楽しみにしていた。

それでは、人間が幸福になるために、心理学はどんな助言をできるだろうか。

どうすれば人は、幸福になることができるのだろうか。

ポジティブとネガティブの黄金比がある!幸福になる方法のエキスパートである心理学者のバーバラ・フレドリクソンは、日々の生活にポジティブな感情をより多く見いだすことを提唱している(32)。

彼女が発見したのが、ポジティブ三:ネガティブ一という黄金の比率だ。

この数字が示すのは、豊かな人生を送りたければ、ネガティブな気持ちをひとつ感じるごとにポジティブな気持ちを三つ感じるべきだということだ。

ポジティブな感情の体験とは、たとえば驚嘆や思いやり、満足、感謝、希望、喜び、性的欲望などであり、ネガティブな感情とは怒りや軽蔑、嫌悪、困惑、不安、悲しみ、恥などだ。

フレドリクソンは言う。

もし人生に成功したいと心から願うなら、ネガティブな感情をぜんぶ排除しようとしてはいけない。

それよりも大事なのは、「ネガティブひとつにつき、ポジティブを三つ」という比率を守るように努力することだ。

フレドリクソンの見解では、たいていの人はネガティブな感情ひとつにつきポジティブな感情をふたつは体験している。

この比率でもまるきりだめなわけではないが、なかなか効果は出ない。

ポジティブな感情を二から三に引き上げられれば、人は真に豊かな人生へと歩み出すことができる。

フレドリクソンは、ブラジルのカトリック大学で教える数学者マルシャル・ロサダと共同で研究を行い、前述の三対一の比率の大切さに加え、ポジティブな感情と幸福度の関連は数式で示せるという発見をした。

ここでいう〈幸福〉とは自己を最大限に生きることであり、良きものや成長や創造性に満ちた生活を楽しむことだ。

そしてまた、ものごとが悪いほうに進んだときも、困難を乗り越えて立ち直る強さをもつことだ。

フレドリクソンとロサダは一八八人の大学生に調査を行い、四五人の中に、先に述べたような意味での精神的な〈幸福〉を認めた。

一八八人のうち四五人、つまり二三パーセントというのは非常に少ない数値に見え

るかもしれない。

だが、これまでに行われたいくつかの調査によれば、先のような意味で幸福な人は全アメリカ人の二〇パーセント程度にとどまるという。

フレドリクソンとロサダの二人は独自の基準で被験者を〈幸福な人〉と〈幸福でない人〉に分けた後、全員にこれから一カ月間、ある安全なウェブサイトに毎晩ログインするように指示した。

被験者はログイン後、その二四時間以前に経験した感情の種類と回数を決まった書式に記入する。

経験したポジティブな感情とネガティブな感情の数は一カ月後にそれぞれ合計され、ポジティブな感情の合計をネガティブな感情の合計で割った〈ポジティビティ比〉が算出される。

もし仮に、怒りを一五回、恐怖を二回、悲しみを七回、そして幸福を一〇回、満足を一四回、感謝を六回、愛に満ちた思いを一〇回経験していたら、ポジティビティ比は、四〇(ポジティブな感情の合計)/二四(ネガティブな感情の合計)=一・六六ということになる。

いいかえれば、ネガティブな感情を一回経験するごとに、それを補うポジティブな感情をおよそ二回(正確には一・六六回)経験しているという計算だ。

フレドリクソンとロサダの調査によれば、〈幸福な人〉と〈幸福でない人〉とのポジティビティ比には、大きな差があった。

前者のポジティビティ比が三・三だったのに対し、後者の平均的なポジティビティ比は二・二にとどまったのだ。

三対一のポジティビティ比は、人生を最大限に生きようと取り組む人とそうでない人とを分ける、重要なラインのようだ。

このことは、ほかの調査の結果からも示唆されている。

ポジティビティ比は、幸福な結婚生活の鍵でもある(33)。

シアトルにあるゴットマン研究所のゴットマン博士は、カップルがたがいにどう関連しあうかの研究に厳密な科学的法則を適用した人物だが、彼が結婚生活の幸福度について広範な調査を行ったところ、どの夫婦が別れ、どの夫婦が別れないかを占う重要なポイントは、カップルが相手に対して感じるポジティブとネガティブの感情比にあった。

この場合の黄金比率は、ネガティブ一:ポジティブ五だ。

ポジティブな経験に比してネガティブなエピソードの数が増してくると、カップルが離婚する可能性はそれだけ高くなる。

ポジティビティ比は、人が他者にどう接するか、職場でいかに効率良く仕事ができるか、そしてどれだけ健康に過ごせるかに至るまで、生活のさまざまな面に影響を与える。

悲観が大きな力をもつにもかかわらず、なぜ人々の多くが「自分は幸福だ」と言うのかというパラドクスにも、このポジティビティ比の研究はおそらく答えを出してくれる。

何度も繰り返してきたように、恐怖の力は快楽よりも強く、危険の兆候は快楽の兆候よりもずっと強い力を人間にふるう。

だから、楽観を手に入れるのは、悲観を手に入れるよりずっとむずかしいはずだ。

それなのにどうして大半の人々は未来を楽観し、自分の人生に幸福と満足を感じていると答えるのだろう?この矛盾に対し、ポジティビティ比の考察はおそらくひとつの回答を与えてくれる。

人々はじっさいのところ、ポジティブな出来事よりもネガティブな出来事のほうにより多くの関心を払っている。

けれど、生活の中にポジティブな何かを意識して頻繁に見つけることで、それを逆転させているのだ。

ネガティブな感情にひそむ毒を打ち消すには、ネガティブな経験ひとつにつき、すくなくともふたつの──可能ならばもっと多くの──ポジティブな何かを経験するような努力が必要だ。

幸福や楽観を抱いて生きるためには、ネガティブな出来事ひとつにつき、すくなくとも三つはポジティブな経験をすることをめざさなくてはならない。

レイニーブレインとサニーブレインのバランス人間が生きる上で、健康的で敏感なサニーブレインをもつことは重要だが、健康的で敏感なレイニーブレインをもつことも非常に重要だ(34)。

心理学者のターリ・シャーロットが同僚のリズ・フェルプスと共同で行った実験によれば、未来に明るい展望を抱くためには、恐怖と快楽をつかさどる回路がどちらも重要な役目を果たす。

シャーロットとフェルプスの二人はまず被験者に、過去に起きたネガティブな出来事を思い出すよう指示し、その間の脳のようすをスキャンした。

母親と死別したときの気持ちを思い出した人もいれば、パートナーと別れたときの気持ちを思い起こした人もいた。

こうしたつらい経験を心によみがえらせたとき、扁桃体には強い反応があらわれた。

次に二人は被験者に、同じネガティブな経験が未来に起きたらどんな気持ちがするか想像するように頼んだ。

すると、扁桃体の反応はずっと弱くなった。

楽天家を自認する人にはことにその傾向が顕著だった。

楽天的な人はそうでない人に比べ、未来に不幸が起きるのを想像するのが不得手なのだ。

この、暗い未来を思い描く力が弱いことが、楽観寄りの思考の根底にある神経のメカニズムではないかと、シャーロットとフェルプスは推測している。

発達心理学者のアンソニー・オングとコーネル大学の同僚らが行った研究結果も、明るい未来を展望するにはレイニーブレインとサニーブレインがどちらも重要だという先の説明と合致する。

オングらの研究からわかったのは、立ち直りが早い楽観的な心の持ち主は、つらい出来事を経験しているあいだ、ポジティブな感情もネガティブな感情も他の人々より多く経験していることだ。

伴侶に死なれたときいちばん早く立ち直る人は、感情を広い幅で経験する人だった。

多くの研究者は今、ポジティブな感情を経験できることは、ネガティブな感情をコントロールする重要な鍵だと考えはじめている。

悪い経験は、良い経験によっていわば中和されるのだ。

重要なのはネガティブな気持ちをおさえこむ能力ではなく、ネガティブとポジティブのバランスを適正に保つことだ。

バーバラ・フレドリクソンが九・一一後のニューヨークで理解したのはまさにそのことだ。

健康な心をつくるポジティブな思考をしても脳の回路が変化せず、つらい出来事の助けにならないときもあるだろう。

「雨の降らない人生はない」というのは真実だ。

失望や悲しみから完全に逃れられる人など、どこにもいない。

だからこそ、さまざまな感情を経験する能力を養い、さらに、必要に応じてそれらを抑制できるような能力を養うことは、バランスのとれた人生を送る鍵のひとつなのだ。

わたしたち人間には、良きものにすぐ反応するサニーブレインが必要であると同時に、それと仲良く共存できる健全なレイニーブレインも必要なのだ。

サニーブレインとレイニーブレインという心のふたつの側面は、人生で起きる出来事や生まれもった遺伝子の組成、そして経験が遺伝子に与える作用によって影響を受ける。

だがそれよりもっと重要なのは、「アフェクティブ・マインドセット」の根底にある強固な認識のバイアスや癖が、訓練次第で修正できるということだ。

心のバイアスを修正する方法は、マインドフルネス法や認知バイアス修正法、そして投薬による療法や伝統的なカウンセリング療法まで、じつにさまざまだ。

人間の心の可塑性は高く、「アフェクティブ・マインドセット」も例外ではない。

それを変化させるのはけっして簡単ではないが、可能性はいつでもすぐそこにあるのだ。

この本の執筆が終わりに近づいたころ、わたしはウィスコンシン大学のワイズマン脳科学研究所に所属するリチャード・デーヴィッドソンを訪れた。

多くの心理学者と同じくデーヴィッドソンも、不安や抑うつの原因である感情の様式を理解するために、そしてそれを変化させるためにこの道に入った。

けれど今は、やはり多くの心理学者と同様、〈人を幸福にするものは何か〉を解明することに多くの力を注いでいる。

「不健康な心については、ずいぶん多くがわかってきた」。

デーヴィッドソンは言った。

「でも、健康な心についてはほとんど何もわかっていない」「じゃあ、健康な心って何でしょう?」とわたしはたずねた。

「言葉では説明できないけれど」と彼は答えた。

「でも、見ればわかるさ」わたしが帰る日に、デーヴィッドソンは新しい精神衛生調査研究所を案内してくれた。

建物はつくられたばかりで、内部の装飾はまだ途中だった。

中央には大きな広間があり、柔らかな色調の木材に太陽の光が降り注いでいた。

「ここは瞑想をする場所だよ」。

彼は言った。

「いくつかの部屋には、最新のfMRIを置くことになっている」研究所では、古来の瞑想の伝統と、現代の神経科学の最新鋭の技術がひとつに融けあっていた。

研究所をあとにしたわたしは、歩きつつ感慨にふけった。

不安や恐怖を克服する方法、そして、幸福や楽観を得る方法の解明には、この数年間で大きな進歩があった。

心理学や神経科学、遺伝学から考え出された新しいアプローチを利用し、それらを東洋古来の知恵と結びつけることで、わたしたちは今、健全な心の持ち主が真に幸福になれる社会を創造する道に向かいはじめたのだ。

謝辞本書の執筆中、サニーブレインとレイニーブレインの気まぐれについて、心理学、神経科学、遺伝学のそれぞれの研究者とともに考える機会を得、彼らの革新的な研究におおいに鼓舞された。

これはまさに著者の特権というべきだろう。

人それぞれの思考形式が感情にどう影響するかという問題は、私の長年の研究の核にあり、関連する分野の最前線で活躍する多くの科学者とはこの数年で親交を結んだり、ともに仕事をする仲間になったりした。

認知バイアスの力と、それを変化させることで得られる可能性について、私と幾度となく議論してくれた次の人々に感謝する。

ヤイル・バー=ハイム、フィル・バーナード、エニ・ベッカー、ブレンダン・ブラッドレイ、ティム・ダルグレイシュ、ナツ・デラクスハン、パウラ・ハーテル、コレット・ヒルシュ、エミリー・ホルムズ、エルンスト・コスター、ジェニファー・ラウ、バンディ・マッキントッシュ、コリン・マクラウド、アンドリュー・マシューズ、スーザン・ミネカ、カリン・モッグ、マイク・リンク、マーク・ウィリアムズ、そしてジェニー・イエンドに感謝をささげたい。

本書の土台の大部分は、恐怖と快楽の科学的研究から形成されている。

これらの研究を先頭に立って進めてきたケント・ベリッジ、アンディ・カルダー、リチャード・デーヴィッドソン、レイ・ドラン、ジョセフ・ルドゥー、アルネ・エーマン、リズ・フェルプスらの科学者は、恐怖と快楽の性質についての質問や、そうした原始的な衝動が脳の中でどう力をふるうかについてのわたしの問いに快く回答してくれた。

この場でお礼を申し上げたい。

遺伝子が行動にどう影響するかという通説を一変させた遺伝学者らも、わたしの質問に答えるために惜しみなく時間を割いてくれた。

彼らの意見は常に一致していたわけではないが、その研究は全体として、遺伝子と環境の相互作用がレイニーブレインとサニーブレインの形成にどうかかわるかについて、わたしが理解を深める助けになってくれた。

助けになるだけでなく、それはとても楽しい経験だった。

アブシャロム・カスピ、タリア・エレイ、ジョナサン・フリント、アフマド・ハリーリー、ケネス・ケンドラー、テリー・モフィット、エッシィ・ヴィディングには特に感謝を伝えたい。

エセックス大学の研究室の幾代もの助手や大学院生らの理解なくしては、この本は完成を見なかっただろう。

いちばん最近ではパヴリナ・チャララムブスとレイチェル・マーティンの両名に大いに助けられた。

そのほかに、ステイシー・エルティティ、ケリー・ガーナー、アンナ・リッジウェル、ヘレン・スタンデージ、デニス・ウォーレス、アラン・イェーツ、コンスタンティナ・ゾウグコウらも長らくわたしをサポートし、執筆で手が離せないときも事態が何とか運ぶように手助けをしてくれた。

レイニーブレインについての研究を一五年以上にわたって支援してくれたウェルカム・トラストにもこの場でお礼を申し上げる。

わたしの良き友であるマイケル・ブルックス、キャシー・グロスマン、アレクサ・ガイザー、ステファン・ジョセフ、ピーター・タラック、クリスティーン・テンプルらは、このテーマをぜひ一般の読者に向けて発表するよう根気強くわたしを励ましてくれた。

そしてヒュー・ジョーンズ、デボラ・ケント、ニック・ケント、ピッパ・ニューマン、リチャード・ニューマンは、土壇場でわたしを支え励ます力となってくれた。

ウィヴェンホーの町で夜ふけまでワイン片手にナイジェル・ストラットンやリサ・タフィンと語りあったことも、完成までの道のりの大きな助けとなった。

そして夫のケヴィン・ダットンはいつものように、すべてがうまくいくようわたしを支えてくれた。

本書の題名のアイディアを含め、もろもろのことに感謝したい。

エージェントのパトリック・ウォルシュは熱意のこもった的確なアドバイスで、いつもわたしにインスピレーションを与えてくれた。

そしてこの本が書かれ、無事出版されるまで、ジェイク・スミス=ボザンケットとアレックス・クリストフをはじめとするコンヴィル・アンド・ウォルシュ社の面々にはたいへんお世話をかけた。

カオスの塊だった最初の草稿に構築性を与える手助けをしてくれたのは、ベーシックブックス社のララ・ハイマートとウィリアム・ハイネマン社のドルモンド・モアの二人だが、そのほかにベーシック社のリズ・シュタインやハイネマン社のトム・アヴェリーとジェイソン・アーサーにも編集上の示唆を受けた。

すばらしいウェブサイトを立ち上げてくれたピート・ウィルキンズにもこの場で感謝を申し上げたい。

本書はわたしがオックスフォード大学モードリン・カレッジに客員教授として赴いていたあいだに完成した。

無事刊行に至るまでわたしを支え励ましてくれたモードリン・カレッジの教授陣とスタッフに心より感謝する。

最後に──。

わたしはこの年来、抑うつや不安に苦しむ何百人もの人々に質問や調査やテストをしてきた。

悩める心を癒す効果的な方法が科学の力で徐々に生まれてくることを、わたしは強く信じている。

本書は、調査や実験に被験者として参加してくれた世界各地の人々や実験を行った人々、そして資金を援助してくれた人々に捧げられている。

本書で論じたさまざまな研究がひとつになり、人々の心がより幸福で健康になることを、そして社会がより豊かに栄えることを心から願っている。

注第一章快楽と不安の二項対立1ポール・キャッスルの自殺の記事は、2010年11月20日付デイリーメール紙(ロンドン)に掲載された。

次のサイトを参照:www.dailymail.co.uk/news/article1331308/PrinceCharlessfriendPaulCastlecommitssuicidebusinesshitrecession.html.2アダン・アボベイカーによる勇敢な救出劇は2010年11月19日付イブニング・スタンダード紙で報じられた。

3ここで紹介された研究については次の資料を参照:B.W.HeadeyandA.J.Wearing,’Personality,LifeEventsandSubjectiveWellBeing:TowardaDynamicEquilibriumModel,’JournalofPersonalityandSocialPsychology57(1989):731739.4ABCが制作。

2009年5月7日にアメリカで放映。

マイケル・J・フォックスの著書『AlwaysLookingUp:TheAdventuresofanIncurableOptimist』(NewYork:HyperionBooks,2009)〔邦訳『いつも上を向いて‐超楽観主義者の冒険』、入江真佐子訳、SBクリエイティブ〕には、非常に楽観的な人々についての興味深い逸話が多数紹介されている。

5アウシュヴィッツでの体験を綴ったプリーモ・レーヴィ最初の著作『IfThisisaMan(これが人間か)』〔邦訳『アウシュヴィッツは終わらない‐あるイタリア人生存者の考察』、竹山博英訳、朝日新聞出版〕は1947年にイタリアのエイナウディ社から出版され、その後各国で翻訳された。

続く著書『TheTruce』〔邦訳『休戦』、竹山博英訳、岩波文庫〕では、アウシュヴィッツの衝撃から徐々に回復するさまが描かれる。

レーヴィは67歳の時、狭い階段の吹き抜けから転落して死亡した。

その死は謎に包まれており、抑うつの悪化による自殺だと主張する人々もいる。

だが、証拠がないとして自殺説を否定する人々もいる。

6ライプニッツの楽観主義論についての入門書は、以下を参照:LloydStrickland,LeibnizReinterpreted()7LOTRはマイケル・シャイアとチャールズ・カーヴァーによって開発された。

詳細については次の文献を参照。

MichaelF.Scheier,CharlesS.Carver,andMichaelW.Bridges,’DistinguishingOptimismfromNeuroticism(andTraitAnxiety,SelfMastery,andSelfEsteem):AReEvaluationoftheLifeOrientationTest,’JournalofPersonalityandSocialPsychology67(1994):10631078.8子どもの目に世界がどう見えるかの説明として、ウィリアム・ジェームズの著作『ThePrinciplesofPsychology』(NewYork:HenryHolt,1890)488.に登場する表現。

ウィリアム・ジェームズは医学を学んだが、医療の現場には身を置かず、ハーバード大学で解剖学と生理学を教える職についた。

彼はまもなく人間の心を理解することに関心を向け、1875年には同大学に全米初の実験心理学の研究室を立ち上げ、アメリカの心理学の祖として知られるようになる。

小説家ヘンリー・ジェームズとは兄弟。

ウィリアム・ジェームズは、幼児の知覚はあまり研ぎ澄まされていないと推測し、それゆえ「花ざかりの騒音と混乱」という表現を使ったが、その後の研究により、幼児にはジェームズが考えていたよりはるかに鋭い認識能力があることがわかった。

このテーマについては以下を参照:R.N.AslinandL.B.Smith,’PerceptualDevelopment,’AnnualReviewofPsychology39(1988):435473.9オリジナルの研究の大半は、1920年代から1960年代にかけてシュネイルラがニューヨーク大学で行ったものである。

以下には、彼の視点がわかりやすくまとめられている。

T.C.Schneirla,’AnEvolutionaryandDevelopmentalTheoryofBiphasicProcessesUnderlyingApproachandWithdrawal,’inNebraskaSymposiumonMotivation,ed.M.R.Jones(Lincoln:UniversityofNebraskaPress,1959).シュネイルラの生涯とその研究については、以下を参照:EthelTobach,’T.C.Schneirla:PioneerinFieldandLaboratoryResearch,’inPortraitsofPioneersinPsychology,vol.4.ed.GregoryA.KimbleandMichaelWertheimer(Washington,DC:AmericanPsychologicalAssociation,2000).接近と回避のメカニズムについてのより新しい神経学的および心理学的な研究については、以下を参照:RichardJ.DavidsonandW.Irwin,’TheFunctionalNeuroanatomyofEmotionandAffectiveStyle,’TrendsinCognitiveSciences3(1999):11–21;S.Whittleetal.,’TheNeuroanatomicalBasisofTemperament:TowardsaBetterUnderstandingofPsychopathology,’NeuroscienceandBiobehaviouralReviews30(2006):511–525.10この装置はエレノア・ギブソンとリチャード・ウォークが考案したもので、ふたりはこれを使った実験をヒトの乳児だけでなく、さまざまな動物でも行った。

人間の子どもはガラス板の硬さを手で感じられても、見せかけの〝崖〟の向こう側には絶対に進もうとしなかった。

他の動物についても結果は同じで、触覚よりも視覚が優位にあることが確認された。

ただし視覚よりも嗅覚を頼りに行動するラットは、深い〝崖〟の上をまったく不安がらずに嬉々として走り抜けた。

この装置と実験については以下を参照:E.J.GibsonandR.D.Walk,’The”VisualCliff”,’ScientificAmerican202,no.4(1960):6471.11チェリーのこの研究は、1950年代に航空機の管制塔で起きていた問題をヒントに行われた。

管制塔内では異なる機上のパイロットの声がスピーカーで同時に放送され、その結果、複数の音声が混じりあい、管制官の業務に大きな支障をきたしていた。

事態の改善方法をさぐるため、チェリーはロンドンのインペリアル・カレッジで一連の実験を行った。

大きな前進が見られたのは、被験者の左右の耳に異なるメッセージを送る〝両耳異音聴課題〟を行ったときだ(この実験の結果は、E.C.Cherry,’SomeExperimentsontheRecognitionofSpeechwithOneandTwoEars,’JournaloftheAcousticalSocietyofAmerica25(1953):975979.に詳しい)。

チェリーの実験を受けて他の研究室でも同じテーマの、より広範で洗練された実験が行われたが、それらについては以下を参照:N.L.WoodandN.Cowan,’TheCocktailPartyPhenomenonRevisited:HowFrequentAreAttentionShiftstoOne’sOwnNameinanIrrelevantAuditoryChannel?’JournalofExperimentalPsychology:Learning,MemoryandCognition21(1995):255260;N.L.WoodandN.Cowan,’TheCocktailPartyPhenomenonRevisited:AttentionandMemoryintheClassicSelectiveListeningProcedureofCherry(1953),’JournalofExperimentalPsychology:General124(1995):243262.選択的処理のバイアスに関する新しい研究については、以下を参照:ElaineFox,EmotionScience:CognitiveandNeuroscientificApproachestoUnderstandingHumanEmotions()12注意プローブ課題にはさまざまな種類がある。

その歴史については、次の本の該当章で簡単にまとめられている:ElaineFoxandGeorgeGeorgiou,’TheNatureofAttentionalBiasesinHumanAnxiety,’inCognitiveLimitationsinAgingandPsychopathology,ed.RandallW.Engle,GrzegorzSedek,UrlichvonHecker,andDanielN.McIntosh(Cambridge,UK:CambridgeUniversityPress,2005),249274.このパラダイムを用いたいちばん初期の実験は、スクリーンに否定的な言葉と中立的な言葉をペアにして映し出す形で行われた。

被験者は、スクリーンの上からふたつの言葉が消えた後、ターゲットとなるプローブがどこにあらわれるかを見定め、できるだけ速くボタンを押さなければならない。

この実験を行ったコリン・マクラウドと同僚は、中立的な言葉ではなく否定的な言葉のあった場所にプローブがあらわれたとき、不安症の人はより迅速に反応できることを発見した。

不安症でない人々には、こうした反応時間の差異は認められなかった。

この実験については以下を参照:C.MacLeod,A.Mathews,andP.Tata,’AttentionalBiasinEmotionalDisorders,’JournalofAbnormalPsychology95(1986):1520.その後に行われた複数の実験でも同様の現象が確認されている。

以下を参照:Y.BarHaimetal.,’ThreatRelatedAttentionalBiasinAnxiousandNonAnxiousIndividuals:AMetaAnalyticStudy,’PsychologicalBulletin133(2007):124.13マクラウドに代表される初期の研究では、不安症の人にはネガティブな情報にすすんで向かうバイアスがあることが発見されたが、その後の他の研究から、不安症でない人には往々にして逆方向の、つまりネガティブな情報を避けようとする偏りが存在することがわかった。

参考資料は以下の通り:ElaineFox,’AllocationofVisualAttentionandAnxiety,’Cognition&Emotion7(1993):207215;ColinMacLeodandAndrewMathews,’AnxietyandtheAllocationofAttentiontoThreat,’QuarterlyJournalofExperimentalPsychology40A(1988):653670.14この実験については、以下の研究を参照:G.H.Bower,’MoodandMemory,’AmericanPsychologist36(1981):129–148;G.H.BowerandP.R.Cohen,’EmotionalInfluencesinMemoryandThinking:DataandTheory,’inAffectandCognition,ed.M.S.ClarkandS.T.Fiske(Hillsdale,NJ:Erlbaum,1982),291–331;G.H.BowerandJ.P.Forgas,’MoodandSocialMemory,’inHandbookofAffectandSocialCognition,ed.J.P.Forgas(Mahwah,NJ:Erlbaum,2001),95–120;G.H.Bower,K.P.Monteiro,andS.G.Gilligan,’EmotionalMoodasaContextforLearningandRecall,’JournalofVerbalLearningandVerbalBehavior17(1978):573–585.15こうした単語を用いた記憶の実験においては、ポジティブな言葉とネガティブな言葉の候補を選ぶさいに、それらの言葉が言語全体の中で登場する頻度や、それらの言葉が人々にどれだけ親しまれているかの度合いを均等にするよう、入念な注意が必要だ。

話し言葉と書き言葉の双方における使用度は単語により異なり、より頻繁に使われる単語は人々に記憶されやすくなる。

このため、ポジティブな言葉とネガティブな言葉をペアにして実験で使うときは、それぞれの頻出度を可能なかぎり等しくすることが非常に重要だ。

そうでなければ、どちらの単語を記憶しやすいかは、それぞれの単語が喚起する感情ではなく頻出度に左右されてしまう。

16信念の裏づけとなるものばかりを見ようとする確証バイアスについては、多くの論文がすでに書かれている。

外向型と内向型についてのマーク・スナイダーによる研究は、以下を参照:M.SnyderandW.B.Swann,’HypothesisTestingProcessesinSocialInteraction,’JournalofPersonalityandSocialPsychology36(1978):1202–1212.個々人の信念がそれぞれの社会的現実にどう影響するかについては、以下を参照:MarkSnyder,’WhenBeliefCreatesReality,’inAdvancesinExperimentalSocialPsychology,vol.18,ed.L.Berkowitz(NewYork:AcademicPress,1984),247–305.17ヴァンス・ヴァンダースのケースのような、強い思い込みが医学的症状を引き起こす興味深い事例は、以下に多数紹介されている:CliftonK.Meador,SymptomsofUnknownOrigin:AMedicalOdyssey()ヴァンダースの話は次の記事の中でも紹介されている:HelenPilcher,’TheScienceofVoodoo:WhenMindAttacksBody,’NewScientist2708(13May2009).18思い込みで病が引き起こされるノーシーボ効果の科学的研究は、以下を参照:ArthurBarskyetal.,’NonspecificMedicationSideEffectsandtheNoceboPhenomenon,’JournaloftheAmericanMedicalAssociation287,no.5(2002).ノーシーボ効果はPilcher,’TheScienceofVoodoo.’でも論じられている。

思い込みによって頭痛が起こるというカリフォルニア大学の実験は、以下に詳しい:A.SchweigerandA.Parducci,’Nocebo:ThePsychologicInductionofPain,’PavlovianJournalofBiologicalScience16,no.3(July–September1981):140–143.19思い込みが脳の生理学に直接影響しうることを示したズビエタの研究については、以下を参照:DavidJ.Scottetal.,’PlaceboandNoceboEffectsAreDefinedbyOppositeOpioidandDopaminergicResponses,’ArchivesofGeneralPsychiatry65,no.2(2008):220–231.20「自分は心臓病にかかりやすい」と思い込んでいた女性はそうでない女性に比べて死亡率が高いという発見については、以下を参照:RebeccaVoelker,’NocebosContributetoaHostofIlls,’Journal

oftheAmericanMedicalAssociation275,no.5(1996):345–347.第二章修道院の奇妙な実験1快楽のシステムの根底にある神経のメカニズムについて、学術的に詳しく説明した文章は以下を参照:KentC.Berridge,’MeasuringHedonicImpactinAnimalsandInfants:MicrostructureofAffectiveTasteReactivityPatterns,’NeuroscienceandBiobehavioralReviews24(2000):173–198;KentC.Berridge,’ComparingtheEmotionalBrainsofHumansandOtherAnimals,’inHandbookofAffectiveSciences,ed.R.J.Davidson,K.R.Scherer,andH.H.Goldsmith(NewYork:OxfordUniversityPress,2003),25–51;K.C.BerridgeandT.E.Robinson,’ParsingReward,’TrendsinNeurosciences26(2003):507.手近な入門書としては、以下を参照:MortenL.Kringelbach,ThePleasureCenter:TrustYourAnimalInstincts()2ラットを用いて行われた有名な電極実験(ラットは生殖や食事の快楽よりも、側坐核を電流で刺激してもらうことのほうを選んだ)については以下を参照:J.OldsandP.Milner,’PositiveReinforcementProducedbyElectricalStimulationofSeptalAreaandOtherRegionsofRatBrain,’JournalofComparativeandPhysiologicalPsychology47(1954):419–427.3ロバート・ヒースの著書『TheRoleofPleasureinBehavior:ASymposiumby22Authors』()、。

:JournalofNervousandMentalDiseases()脳の奥を刺激する初期の実験は、ホセ・デルガドの著書『PhysicalControloftheMind:TowardaPsychocivilizedSociety』()。

、。

2419、「」、「」。

、、「」。

、。

4この部分についての参考資料:’TheNobelChronicles1936:HenryHallettDale(18751968)andOttoLoewi(18731961),’Lancet353(January30,1999):416;NobelLecturesinPhysiologyorMedicine19221941()、〝〟、。

、、、。

5これは、ビデオゲームで遊ぶなどの行動が脳内のドーパミン分泌にどうかかわるかを示す最初の実験となった。

実験は、被験者がビデオゲームをしているときの脳内のようすをPETでスキャンし、どの領域で神経伝達物質が分泌されているかを観察するものだ。

実験の詳細は以下を参照:M.J.Koeppetal.,’EvidenceforStriatalDopamineReleaseDuringaVideoGame,’Nature393,no.6682(1998):266268.6快楽の科学については次の研究で、第一線の専門家らが、快楽のシステムの背後にあるさまざまな局面について議論を交わしている:MortenL.KringelbachandKentC.Berridge,eds.,PleasuresoftheBrain():ThePleasureCenter(.快楽の科学についての楽しい)次読のみ本物がにあはる、PaulMartin,:Sex,DrugsandChocolate:TheScienceofPleasure()7ベリッジの研究についてはすぐれた評論がいくつか書かれている。

次の資料の中には、ベリッジの研究プログラムのすばらしさが的確にまとめられている:M.L.KringelbachandK.C.Berridge,’TowardsaFunctionalNeuroanatomyofPleasureandHappiness,’TrendsinCognitiveSciences13,no.11(2009):479–487;K.S.Smithetal.,’HedonicHotspots:GeneratingSensoryPleasureintheBrain,’inKringelbachandBerridge,eds.,PleasuresoftheBrain,27–49.さらに詳しく知るためには、ミシガン大学のベリッジのウェブページを参照:wwwpersonal.umich.edu/~berridge/.8この研究については以下を参照:A.S.Helleretal.,’ReducedCapacitytoSustainPositiveEmotioninMajorDepressionReflectsDiminishedMaintenanceofFrontoStriatalBrainActivation,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences106(2009):22445–22450.9この研究については以下を参照:RichardJ.DavidsonandWilliamIrwin,’TheFunctionalNeuroanatomyofEmotionandAffectiveStyle,’TrendsinCognitiveSciences3(1999):11–21.10R.Veenhoven,’HedonismandHappiness,’JournalofHappinessStudies4(2003):437–457.11刺激追求の心理学および、強烈な体験のためにすすんでリスクを冒す性向については以下に詳しい:MarvinZuckerman,SensationSeekingandRiskyBehavior()12このテストはリック・ホイルとケンタッキー大学の同僚らによって開発された。

詳細は次の文献を参照。

R.H.Hoyleetal.,’ReliabilityandValidityofaBriefMeasureofSensationSeeking,’PersonalityandIndividualDifferences32,no.3(2002):40141413ジェイン・ジョゼフとその同僚による研究は、刺激追求度が高い人とリスクを嫌う人は脳に相違があることを明らかにした。

詳しくは以下の研究を参照:J.E.Josephetal.,’NeuralCorrelatesofEmotionalReactivityinSensationSeeking,’PsychologicalScience20,no.2(2009):215–223.14SuzanneSegerstrom,BreakingMurphy’sLaw:HowOptimistsGetWhatTheyWantfromLife–andPessimistsCanToo()〔『』、、、、〕15バーバラ・エーレンライクの次の著作には、無配慮な楽観主義がいかに人を傷つけるかが軽妙にまとめられている:BarbaraEhrenreich,SmileorDie:HowPositiveThinkingFooledAmericaandtheWorld()16この調査についての詳細は次のサイトを参照:www.lottery.co.uk/news/lottooptimismreport.asp.17BBCのワールドサービスが行ったこの調査の詳細は、以下を参照:news.bbc.co.uk/1/hi/world/americas/obama_inauguration/7838475.stm.18オプティミズム・バイアスもしくは〝ポジティブな幻想〟と呼ばれる現象に関するもっとも初期の研究については以下を参照:NeilD.Weinstein,’UnrealisticOptimismaboutFutureLifeEvents,’JournalofPersonalityandSocialPsychology39(1980):806820.人間が抱く不合理な考えについての古典的文献は以下を参照:StuartSutherland,Irrationality:WhyWeDon’tThinkStraight!()〔不合理誰もがまぬがれない思考の罠100』、伊藤和子・杉浦茂樹訳、阪急コミュニケーション.〕オプティミズム・バイアスについての最近の研究で、特に行動経済学に関連するものは以下に詳しい:DanAriely,PredictablyIrrational:TheHiddenForcesThatShapeOurDecisions()〔『』、、、〕TheOptimismBias:ATouroftheIrrationallyPositiveBrain()〔脳は楽観的に考える』、斉藤隆央訳、柏書房、.〕19多くの男性が女性のフレンドリーな態度を性的関心と受け取りがちなことについては、以下の実験をはじめとする多くの研究から報告されている:F.E.Saal,C.B.Johnson,andN.Weber,’FriendlyorSexy?ItMayDependonWhomYouAsk,’PsychologyofWomenQuarterly13(1989):263–276;MartieHaseltonandDavidBuss,’ErrorManagementTheory:ANewPerspectiveonBiasesandCrossSexMindReading,’JournalofPersonalityandSocialPsychology78(2000):81–91.20人生に対する満足尺度(SWLS)はエド・ディーナーとイリノイ大学の心理学教授ジョゼフ・R・スマイリーおよびその同僚らによって開発された。

初出の論文は、Ed.Dieneretal.,’TheSatisfactionwithLifeScale,’JournalofPersonalityAssessment49(1985):7175.を参照。

この尺度とさまざまなスコアがもつ意味についての広範な議論は、internal.psychology.illinois.edu/~ediener/を参照。

21ここで紹介されている調査については、以下を参照:D.D.Danner,D.A.Snowdon,andW.V.Friesen,’PositiveEmotionsinEarlyLifeandLongevity:FindingsfromtheNunStudy,’JournalofPersonalityandSocialPsychology80(2001):804–813.22この理論はフレドリクソンの名著『Positivity:GroundbreakingResearchRevealsHowtoEmbracetheHiddenStrengthofPositiveEmotions,OvercomeNegativity,andThrive』()〔『:』、、、〕。

11、、:JournalofPersonalityandSocialPsychology()23M.Kivimäkietal.,’OptimismandPessimismasPredictorsofChangeinHealthAfterDeathorOnsetofSevereIllnessinFamily,’HealthPsychology24(2005):413–421.24ウォーカー夫人は非凡な生涯を送った。

19世紀後半にアメリカ南部で、もと奴隷の貧しい家庭に生まれた彼女は苦労の末に大会社を設立してその経営者となり、全米でもっとも裕福な女性の一人になった。

詳細は、彼女の孫の孫が著した次の本を参照:A’LeliaBundles,OnHerOwnGround:TheLifeandTimesofMadamC.J.Walker()25ここで紹介した、粘り強さについての実験は以下に詳しい:L.SolbergNes,S.Segerstrom,andS.E.Sephton,’EngagementandArousal:Optimism’sEffectsDuringaBriefStressor,’PersonalityandSocialPsychologyBulletin31(2005):111–120.26S.Segerstrom,’Optimism,GoalConflict,andStressorRelatedImmuneChange,’JournalofBehavioralMedicine24(2001):441–467.27H.N.Rasmussenetal.,’OptimismandPhysicalHealth:AMetaAnalyticReview,’AnnalsofBehavioralMedicine37(2009):239–256.28ビジネスにおける楽観主義の重要性に関するベゾスの発言は、以下の文献に紹介されている:JackRoseman,’Entrepreneurship:OptimismVitaltoEntrepreneurs,AsIsAbilitytoCalculateRisks,Costs,’PostGazette()FastCompanyジェフ・ベゾスは1999年にタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

彼の詳しい生涯とアマゾンの設立については以下を参照:Time,27December1999.29ネルソン・マンデラの波乱の人生については、彼の自叙伝を参照:LongWalktoFreedom:TheAutobiographyofNelsonMandela()〔『』、、、〕30発言は、2004年7月27日の民主党大会での演説から引用。

オバマの思想についてより広範に知るためには、以下を参照:BarackObama,TheAudacityofHope:ThoughtsonReclaimingtheAmericanDream()〔『』、、、〕311947年にイラン北西部の都市ハメダンに生まれたシリン・エバディは人権活動家として第一線で活躍している。

その生涯については以下を参照:nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2003/ebadibio.html.エバディの思想の詳細については、2009年11月12日にヴォイス・オブ・アメリカが行ったインタビューを参照(http://www.voanews.com/english/news/middleeast/a1320091112vocal69822647.html)。

当局によって2009年6月に事務所を閉鎖され、自宅や銀行口座を差し押さえられたときのことを、エバディはこのインタビューで語っている。

家族の何人かは今も、当局から嫌がらせや脅しを受けているという。

しかしエバディは正義のために闘いつづけ、とりわけ女性が教育と積極的な政治参加を通じて社会の中で大きな役目を果たせるように嘆願活動を行っている。

彼女のような人々の努力なくして、社会正義は達成され得ない。

第三章恐怖を感じない女

1中立的な画像よりもヘビやクモなどの画像に人の視線が素早く向かうことを示した実験は、以下に報告されている:A.Öhman,A.Flykt,andF.Esteves,’EmotionDrivesAttention:DetectingtheSnakeintheGrass,’JournalofExperimentalPsychology:General130(2001):466–478.脳は進化の過程で、原始的な脅威に特に反応するような恐怖の基準を発展させてきたという仮説は、以下にわかりやすく述べられている:A.ÖhmanandS.Mineka,’TheMaliciousSerpent:SnakesasaPrototypicalStimulusforanEvolvedModuleofFear,’CurrentDirectionsinPsychologicalScience12(2003):5–9.古代の地球にヘビが存在していたことが、人類の進化の大きな原動力になったというユニークかつ驚くべき説明については、以下を参照:LynneIsbell,TheFruit,theTree,andtheSerpent:WhyWeSeeSoWell()2恐怖のシステムの作用を非常にわかりやすく、楽しく説明しているのが、カリフォルニア・サイエンス・センターが制作した次のサイトだ:GooseBumps:TheScienceofFear(www.fearexhibit.org).極度の危険にさらされたとき、人間の心がどう働くかについては、次の文献の中にわかりやすい説明がある:JeffWise,ExtremeFear:TheScienceofYourMindinDanger()〔『』、、、〕、、:TheEmotionalBrain:TheMysteriousUnderpinningsofEmotionalLife()〔エモーショナル・ブレイン‐情動の脳科学』、松本元・川村光毅ほか訳東京大学出版会、.学術的な説明は〕以下を参照、E.A.Phelps,’Emot57nandCognition:InsightsfromStudiesoftheHumanAmygdala,’AnnualReviewofPsychology2006:27–233;J.E.LeDoux,’EmotionCircuitsintheBrain,’AnnualReviewofNeuroscience2000(:155–2218;A.J.Calder,A.D.Lawrence,andA.W.Young,’NeuropsychologyofFearandLoathing,’NatureReviewsNeuroscience2001:352–363.3わたしの友人の体験は、心理学では〝凶器注目効果〟の名で知られる有名な現象だ。

これは、凶器を目にすることですべての関心がそこに引きつけられる現象で、それゆえ目撃者の証言の有効性を減じることになる。

この効果を検証した実験は、以下を参照:NancyMehrkensSteblay,’AMetaAnalyticReviewoftheWeaponFocusEffect,’LawandHumanBehavior16,no.4(1992):413424.4恐怖の表情と幸福な表情に扁桃体が異なる反応をすることを明らかにした初期の研究は、以下を参照:J.Morrisetal.,’ADifferentialNeuralResponseintheHumanAmygdalatoFearfulandHappyFacialExpressions,’LetterstoNature383(1996):812–815.5無意識の脅威に扁桃体が反応することを示した実験は、以下の文献に紹介されている:J.S.Morris,A.Öhman,andR.J.Dolan,’ASubCorticalPathwaytotheRightAmygdalaMediating”Unseen”Fear,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences96(1998):1680–1685.6JBについての実験は以下を参照:E.Fox,’ProcessingEmotionalFacialExpressions:TheRoleofAnxietyandAwareness,’Cognitive,Affective&BehavioralNeuroscience2(2002):52–63.7脳に損傷を受け、視覚障害を患った人を対象に、ティルブルグ大学のベアトリス・デ・ゲルダー率いる研究チームは重要な研究をいくつか行ってきた。

彼らの研究については、次のすぐれた記事の中で説明されている:BeatricedeGelder,’UncannySightintheBlind,’ScientificAmerican()半側空間無視の患者が、恐怖をあらわすボディ・ランゲージを感知できたことを発表した論文:M.Tamiettoetal.,’SeeingFearfulBodyLanguageOvercomesAttentionalDeficitsinPatientswithNeglect,’JournalofCognitiveNeuroscience19(2007):445–454.8視覚野に損傷を受けた患者が恐怖の表情に情動伝染するという発見は、以下を参照:M.Tamiettoetal.,’UnseenFacialandBodilyExpressionsTriggerFastEmotionalReactions,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences106(2009):1766117666.むろん、脳の損傷後に可塑性が発揮される可能性を考えると、デ・ゲルダーとその同僚の報告は、本当は盲視ではなかったという推測もなりたつ。

脳には損傷を受けたあと、すみやかに自身を再配線する能力があることは明らかで、それゆえ、視覚野を損傷した患者は本来とは別ルートでものを見るすべを身につけていた可能性があるのだ。

だが、たとえそうだったとしても(それが可能かどうかは、今学界の注目を集めている)、恐怖のサインがきわめて目に留まりやすいという発見は、恐怖の回路が非常に強い力をもつことを裏づけている。

9恐怖の表情は視覚を向上させるためのものであることを示した研究については、以下を参照:J.M.Susskindetal.,’ExpressingFearEnhancesSensoryAcquisition,’NatureNeuroscience11(2008):843–850.10恐怖の表情を一瞬見ただけで視覚が向上することを示したリズ・フェルプスとそのチームの研究は、以下を参照:E.Phelps,S.Ling,andM.Carrasco,’EmotionFacilitatesPerceptionandPotentiatesthePerceptualBenefitsofAttention,’PsychologicalScience17(2006):292–299.11コリン・スタフォードがインドでトラに遭遇した体験については、次のインタビュー記事に詳しい:MichaelKellyin’21stCenturyFox,’IrishTimesMagazine,March29,2008.12ここで紹介された研究については、以下を参照:H.D.Critchleyetal.,’NeuralSystemsSupportingInteroceptiveAwareness,’NatureNeuroscience7(2004):189–195.次の短いふたつの記事の中でも、感情を意識することに脳がどう関わっているかがわかりやすく説明されている:A.D.(Bud)Craig,’HumanFeelings:WhyAreSomeMoreAwareThanOthers?’TrendsinCognitiveSciences8,no.6(2004):239–241;JohnS.Morris,’HowDoYouFeel?’TrendsinCognitiveSciences6,no.8(2002):317–319.13ドランとクリシュレイは、自身の心拍に気づく能力は肉体的な状態を感情に翻訳するのを助けていると考えた。

だが、別の可能性もある。

つまり、不安や恐怖を強く感じがちな人々は、リズ・フェルプスやアダム・アンダーソンの実験に見られるように、そもそも知覚力が鋭いとも考えられるのだ。

そうなると、ふたつの関係性はまったく逆になる。

いいかえれば、恐怖を感じやすい人はだからこそ自分の心拍をよりよく認識できるのであって、その逆ではないというわけだ。

14このキャンペーンについては、次の本で紹介されている。

著者のウェステンは、有権者の投票行動や支持政党が感情に影響されたことを同書で論じている:DrewWesten,ThePoliticalBrain:TheRoleofEmotioninDecidingtheFateoftheNation()15ドリュー・ウェステンの本には、有権者の政党支持についての研究例が多数紹介されている。

心をハイジャックしてしまえば、相手を説得するのはずっと容易になる。

このことは次の本でも、非常にわかりやすくかつ広く説明されている:KevinDutton,Flipnosis:TheArtofSplitSecondPersuasion()〔『』、、、〕:SplitSecondPersuasion:TheAncientArtandNewScienceofChangingMinds(.)16扁桃体に損傷を受けた二人の患者については以下を参照:A.J.Calder,’FacialEmotionRecognitionAfterBilateralAmygdalaDamage:DifferentiallySevereImpairmentofFear,’CognitiveNeuropsychology13(1996):699–745.その他五名の患者の結果は、以下に報告されている:P.Broksetal.,’FaceProcessingImpairmentsAfterEncephalitis:AmygdalaDamageandRecognitionofFear,’Neuropsychologia36(1998):59–70.一般的な参考文献としては、以下をすすめる:R.Adolphsetal.,’FearandtheHumanAmygdala,’JournalofNeuroscience15(1995):5879–5891.17患者DRが顔の表情を認識できないだけでなく、恐怖や怒りに関連する音声も聞き分けられないことを明らかにした論文は、以下を参照:S.K.Scottetal.,’ImpairedAuditoryRecognitionofFearandAngerFollowingBilateralAmygdalaLesions,’Nature385(1997):254–257.18相手が信頼できそうな人間かどうかを評価したり、他の性質を判断したりするのに扁桃体が重要な役目を果たすという発見は、以下に報告されている:R.Adolphs,S.BaronCohen,andD.Tranel,’ImpairedRecognitionofSocialEmotionsFollowingAmygdalaDamage,’JournalofCognitiveNeuroscience14(2002):1264–1274.19信頼がおけそうな顔とそうでない顔の造作にまつわる興味深いデモンストレーションは、アレクサンダー・トドロフのウェブサイト(webscript.princeton.edu/~tlab/demonstrations/)で見ることができる。

このウェブサイトではいくつかの論文を読むこともできる。

次の論文では、信頼がおけそうな顔とそうでない顔の造作について、興味深い結論が出されている:N.N.OosterhofandA.Todorov,’SharedPerceptualBasisofEmotionalExpressionsandTrustworthinessImpressionsfromFaces,’Emotion9(2009):128–133.20信頼のおけなさそうな顔つきに扁桃体と島皮質が反応することを明らかにした実験は、以下に報告されている:J.S.Winstonetal.,’AutomaticandIntentionalBrainResponsesDuringEvaluationofTrustworthinessofFaces,’NatureNeuroscience5(2002):277–283.21扁桃体を損傷すると、リスクの高い賭けをしがちになることを示した実験は、以下を参照:B.DeMartino,C.F.Camerer,andR.Adolphs,’AmygdalaDamageEliminatesMonetaryLossAversion,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences107(2010):3788–3792.22患者SMが普通の人に比べ、〝個人的空間〟を小さくとらえがちなことを明らかにした論文は、以下を参照:D.P.Kennedyetal.,’PersonalSpaceRegulationbytheHumanAmygdala,’NatureNeuroscience12(2009):1226–1227.23脳右側の活動度が高い人は不安がちなことを示した研究は、以下にわかりやすくまとめられている:R.J.Davidson,’AffectiveStyleandAffectiveDisorders:PerspectivesfromAffectiveNeuroscience,’Cognition&Emotion12(1998):307–330.脳の右側の活動度が高い人は血流内のコルチゾール値が高いことを示した実験については、以下を参照:N.H.Kalinetal.,’AsymmetricFrontalBrainActivity,Cortisol,andBehaviorAssociatedwithFearfulTemperamentinRhesusMonkeys,’BehavioralNeuroscience112(1998):286–292.24スピールバーガーが開発したこの質問票は、状態/特性不安のふたつの要素を計測する手段として、世界中で用いられている。

詳細な情報については以下を参照:www.mindgarden.com/products/staisad.htm.25ここで紹介されている実験については、以下を参照:K.Moggetal.,’SelectiveAttentiontoThreat:ATestofTwoCognitiveModelsofAnxiety,’Cognition&Emotion14(2000):375–399.26特性不安度の高い人は、注意の瞬きのテストを行ったとき、幸福そうな顔よりも恐ろしそうな顔を感知しやすいことを示した実験については、以下を参照:E.Fox,R.Russo,andG.Georgiou,’AnxietyModulatestheDegreeofAttentiveResourcesRequiredtoProcessEmotionalFaces,’Cognitive,Affective,&BehavioralNeuroscience5(2005):396–404.27危険に対する扁桃体の反応はもともとの不安度が高いほど強くなると結論した研究は、現在までに複数発表されている。

脅威に対する扁桃体の反応に不安度が影響を与えることや、怒った顔に直視されたときにとくにそれが顕著になることを明らかにしたわたしたち研究チームの論文は、以下を参照:M.P.Ewbank,E.Fox,andA.J.Calder,’TheInteractionBetweenGazeandFacialExpressionintheAmygdalaandExtendedAmygdalaIsModulatedbyAnxiety,’FrontiersinHumanNeuroscience4(July2010):Article56.28脅威に直面したとき、特性不安度がもともと高い人は抑制中枢をなかなか作動させられないことを明らかにした研究については、以下を参照:S.J.Bishopetal.,’PrefrontalCorticalFunctionandAnxiety:ControllingAttentiontoThreatRelatedStimuli,’NatureNeuroscience7(2004):184–187.第四章遺伝子が性格を決めるのか1「楽観主義の遺伝子を発見」とメディアに報道された問題の研究論文については、以下を参照:ElaineFox,AnnaRidgewell,andChrisAshwin,’LookingontheBrightSide:BiasedAttentionandtheHumanSerotoninTransporterGene,’ProceedingsoftheRoyalSociety:BiologicalSciences276(2009):17471751.論文中で報告されている実験は、セロトニン運搬遺伝子の型の相違と、ネガティブもしくはポジティブなものごとへの注意の偏向に関連性があることを示しており、遺伝子の型が悲観的もしくは楽観的な心の傾向にも結びついている可能性を示唆した。

2ここで言及されている調査研究については、以下を参照:RobertI.E.Lakeetal.,’FurtherEvidenceAgainsttheEnvironmentalTransmissionofIndividualDifferencesinNeuroticismfromaCollaborativeStudyof45,850TwinsandRelativesonTwoContinents,’BehaviorGenetics30(2000):223233.

LOT‐Rによる楽観度がどれだけ遺伝するかをテーマにした研究論文は現在作成中で、近々発表される見込みだ。

50歳以上の双子3053組を対象にした別の調査からは、LOT‐Rで計測した楽観の遺伝率は36パーセントという結果が出ている。

この調査については、以下に詳しい:MiriamA.Mosingetal.,’GeneticandEnvironmentalInfluencesonOptimismandItsRelationshiptoMentalandSelfRatedHealth:AStudyofAgingTwins,’BehaviorGenetics39(2009):5976043わたしはこれらふたつの異なる見解を深く知るにつれ、両者の対立を激化させている原因は、「精神の疾患や幸福度の原因遺伝子はどれか?」という一見単純な問いに答えを出すために、とんでもなく莫大な研究費がかかることだと気がついた。

2007年にメリーランド州チェビー・チェイスのスタンレー医学研究所は、マサチューセッツ州ケンブリッジのブロード研究所に対し、精神疾患の危険遺伝子を探し出すゲノムワイド関連解析の研究費として1億ドルを寄付した。

1年後、リーバー一族が設立したエッセル財団はほぼ同額を、精神疾患の候補遺伝子の研究費としてダニエル・ワインバーガーとその研究チームに寄付した。

資金は今、どちらの陣営にも流れている。

世界各地から日々新しいデータがもたらされる今、激しく対立してきた両陣営が共同で研究をするようになるのも夢ではないだろう。

4ここで論じられている研究については、以下を参照:MichaelF.Eganetal.,’EffectofCOMTVal108/158MetGenotypeonFrontalLobeFunctionandRiskforSchizophrenia,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences98(June5,2001):6917–6922.5JonathanFlint,RalphJ.Greenspan,andKennethS.Kendler,HowGenesInfluenceBehavior()6ここで論じられている研究については、以下を参照:HelleLarsenetal.,’AVariableNumberofTandemRepeatsPolymorphismintheDopamineD4ReceptorGeneAffectsSocialAdaptationofAlcoholUse:InvestigationofaGeneEnvironmentInteraction,’PsychologicalScience21(2010):1064–1068.7ジョナサン・フリントは、ブリストル大学の心理学者、マーカス・ムナフォとともに多数のメタ分析(分析の分析)を行い、神経症などの性格的特性は特定の遺伝子に起因するといえるかどうかを調べた。

二人はその過程で徐々に、実験者がどんな質問票を用いるかで結果が変わることに気がついた。

ある質問票を用いた実験では遺伝子との関連が認められても、別の質問票を用いた実験では認められなかったりするのだ。

この問題について興味がある読者には、次のふたつの学術論文が役に立つ:M.R.Munafòetal.,’5HTTLPRGenotypeandAnxietyRelatedPersonalityTraits:AMetaAnalysisandNewData,’AmericanJournalofMedicalGeneticsB:NeuropsychiatricGenetics150B,no.2(2009):271281;M.R.MunafòandJ.Flint,’MetaAnalysisofGeneticAssociationStudies,’TrendsinGenetics20(2005):439444.8このテーマについてのすぐれた議論は、以下を参照:Flint,Greenspan,andKendler,HowGenesInfluenceBehavior()9ゲノムワイド関連解析は候補遺伝子アプローチに比べて評価項目が大雑把になりがちだという問題を、わたしは以前、ヴァージニア大学の精神科医ケネス・ケンドラーと議論した。

2011年10月にケンドラーがオックスフォード大学で講演を行ったあとのことだ。

多くのゲノムワイド関連解析についてはたしかにそうした傾向があるとケンドラーは認めたが、今まさに行われている研究の大半は被験者の家庭的背景や仕事や社会的生活などについて、候補遺伝子アプローチよりむしろはるかに詳しい情報を収集していると彼は明言した。

実験室で人々を調査することには、実生活で起きる邪魔な要因をすべて排除できるという大きなメリットがある。

だが問題は、実験室の管理された環境下では非常に明確に、強くあらわれていた作用が、実際の生活環境下で調べるとはっきりわからなくなる場合があることだ。

10セロトニン運搬遺伝子のはたらきについてのすぐれた学術論文は、以下を参照:A.R.HaririandA.Holmes,’GeneticsofEmotionalRegulation:TheRoleoftheSerotoninTransporterinNeuralFunction,’TrendsinCognitiveSciences10(2006):182–191;T.CanliandK.P.Lesch,’LongStoryShort:TheSerotoninTransporterinEmotionRegulationandSocialCognition,’NatureNeuroscience10(2007):1103–1109.11アブシャロム・カスピとテリー・モフィットによるこの古典的な研究は、セロトニン運搬遺伝子と抑うつ発症の関連について、遺伝子と環境が相互に作用していることを示唆した:A.Caspietal.,’InfluenceofLifeStressonDepression:ModerationbyaPolymorphisminthe5HTTGene,’Science301(July18,2003).セロトニン運搬遺伝子と抑うつの関連については、近年議論が高まっている。

一部の実験では強い相互作用が認められても、別の研究では遺伝子と環境との関連がまったく認められていないからだ。

たとえばあるメタ分析は、セロトニン運搬遺伝子の型と強いストレスとが組み合わさっても、抑うつの発症率は上がらないと結論している。

これについては以下を参照:N.Rischetal.,’InteractionBetweentheSerotoninTransporterGene(5HTTLPR),StressfulLifeEvents,andRiskofDepression:AMetaAnalysis,’JournaloftheAmericanMedicalAssociation23(17June2009).問題の一因は、〝ストレスの強い出来事〟の尺度が研究によって大きく異なることだ。

ある研究ではストレスを非常に短い期間─たとえば1年程度─しか調べないのに対し、別の研究ではもっとずっと長期にわたって計測を行う(たとえば、カスピの研究ではその期間は5年に及んだ)。

実験の構想上のこうした違いは、まったく相反する結果を生むことが少なくない。

だが全体としては、抑うつや他の精神疾患の発症に遺伝子と環境が相互に関連しているのは確実だ。

遺伝子と環境が精神疾患にどう関わるかの概観は、次の文献を参照:A.CaspiandT.E.Moffitt,’GeneEnvironmentInteractionsinPsychiatry:JoiningForceswithNeuroscience,’NatureReviewsNeuroscience7(2006):583590.12虐待にあった子どもは、モノアミン酸化酵素A遺伝子が特定の形である場合のみ、反社会的な問題を起こしやすいことを明らかにした研究については、以下を参照:A.Caspietal.,’RoleofGenotypeintheCycleofViolenceinMaltreatedChildren,’Science297(2002):851.13この発見について報告したオリジナルの記事は、以下を参照:C.M.KuhnenandJ.Y.Chiao,’GeneticDeterminantsofFinancialRiskTaking,’PLoSONE4,no.2,e4362(2009):1–4.この研究についてのより手軽な概論は、オンライン上で発表されている。

以下を参照:’BigTimeFinancialRiskTaking:BlameItonTheirGenes,’ScienceDaily,11February2009,www.sciencedaily.com/releases/2009/02/090211082352.htm.14アフマド・ハリーリーと同僚は、セロトニン運搬遺伝子をはじめとする遺伝子と特性不安との関連を調べるため、多くの実験を行った。

セロトニン運搬遺伝子が短い型の人は扁桃体の反応が敏感だと示したこの古典的実験については、以下の資料を参照:A.R.Haririetal.,’SerotoninTransporterGeneticVariationandtheResponseoftheHumanAmygdala,’Science297(2002):400403.2008年に発表されたメタ分析ではセロトニン運搬遺伝子の多型と扁桃体の活性度の関連が確認されたが、最初の実験で出た数値は─ゲノムワイド関連解析の多くに典型的に見られるように─おそらく過大評価であることが明らかになった。

このメタ分析は、以下の資料の中で紹介されている:M.R.Munafò,S.M.Brown,andA.R.Hariri,’SerotoninTransporter(5HTTLPR)GenotypeandAmygdalaActivation:AMetaAnalysis,’BiologicalPsychiatry63(2008):852857.15遺伝子的な要因によって注意バイアスが楽観寄りになったり悲観寄りになったりするというわたしたちの論文については、以下を参照:Fox,Ridgewell,andAshwin,’LookingontheBrightSide’16ここで論じられている実験については、以下を参照:ElaineFoxetal.,’TheSerotoninTransporterGeneAltersSensitivitytoAttentionBiasModification:EvidenceforaPlasticityGene,’BiologicalPsychiatry70(2011):1049–1054.17ここで述べられている理論については、以下を参照:J.BelskyandM.Pluess,’BeyondDiathesisStress:DifferentialSusceptibilitytoEnvironmentalInfluences,’PsychologicalBulletin135(2009):885–908.特定の遺伝子型をもつ人は危機に弱い半面、良いことが起きたときはふつう以上に大きな利益を得るという考えは、次の記事の中に非常に明快にまとめられている:DavidDobbs,’TheScienceofSuccess,’Atlantic()18ここで論じられている研究については、以下を参照:KathleenGunthertetal.,’SerotoninTransporterGenePolymorphism(5HTTLPR)andAnxietyReactivityindailyLife:ADailyProcessApproachtoGene–EnvironmentInteraction,’PsychosomaticMedicine69(2007):762–768.19この研究およびエピジェネティクス全般についての概観は、以下を参照:JohnCloud,’WhyYourDNAIsn’tYourDestiny,’Time,6January2010.20ここで議論されている研究については、以下を参照:MarcusE.Pembreyetal.,’SexSpecific,MaleLineTransgenerationalResponsesinHumans,’EuropeanJournalofHumanGenetics14(2006):159–166.21この研究は、以下に掲載されている:’Epigenetics:DNAIsn’tEverything,’ScienceDaily,13April2009,www.sciencedaily.com/releases/2009/04/090412081315.htm.22DNAの基本構造は変わらないまま、エピジェネティックな変化が次代に受け継がれることを示すすぐれた研究は現在、何百例も報告されている。

それらを包括的にまとめた文献は以下を参照:EvaJablonkaandGalRaz,’TransgenerationalEpigeneticInheritance:Prevalence,Mechanisms,andImplicationsfortheStudyofHeredityandEvolution,’QuarterlyReviewofBiology84,no.2(2009):131176.がん治療との関わりを主体に、エピジェネティクスについて一般向けにまとめた文献としては、以下を参照:StephenS.Hall,’BeyondtheBookofLife,’Newsweek,July13,2009.23妊娠中に高脂肪の食事を摂ったマウスにはエピジェネティックな変化が起こりやすいことを示したトレイシー・ベイルとその同僚による実験は、以下を参照:G.A.DunnandT.L.Bale,’MaternalHighFatDietPromotesBodyLengthIncreasesandInsulinInsensitivityinSecondGenerationMice,’Endocrinology150,no.11(2009):4999–5009.24次の記事には、遺伝子と環境との相互作用がわかりやすくまとめられている:F.A.ChampagneandR.Mashoodh,’GenesinContext:GeneEnvironmentInterplayandtheOriginsofIndividualDifferencesinBehavior,’CurrentDirectionsinPsychologicalScience18(2009):127–131.本書の「メチル化による遺伝子のエピジェネティックな変化の模式図」は、この記事の図表1をもとに作成されている。

25イアン・ウィーバーとその同僚が行ったこの経験的な研究については、以下を参照:I.C.Weaveretal.,’EpigeneticProgrammingbyMaternalBehavior,’NatureNeuroscience7(2004):847–854.エピジェネティクス全般について、および母親の接し方が子どもの遺伝子の発現度にどれだけ影響するか、またそれが世代から世代にどれだけ受け渡されるかについては、以下を参照:FrancesA.Champagne,’EpigeneticMechanismsandtheTransgenerationalEffectsofMaternalCare,’FrontiersofNeuroendocrinology29(2008):386–397.26ストレスへの対処を助ける重要な遺伝子のいくつかが、母親の妊娠時の抑うつによって沈黙してしまう可能性を明らかにしたこの研究については、以下を参照:T.F.Oberlanderetal.,’PrenatalExposuretoMaternalDepression,NeonatalMethylationofHumanGlucocorticoidReceptorGene(NR3C1)andInfantCortisolStressResponses,’Epigenetics3,no.2(2008):97–106.第五章タクシー運転手の海馬は成長する1この研究については、以下に詳しい:E.A.Maguireetal.,’NavigationRelatedStructuralChangeintheHippocampiofTaxiDrivers,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences97(2000):4398–4403.2この主張の根拠は、以下を参照:C.GaserandG.Schlaug,’BrainStructuresDifferBetweenMusiciansandNonMusicians,’JournalofNeuroscience23(2003):9240–9245.3脳のはたらきにどれだけ可塑性があるかを発見した科学者およびその研究については、以下の文献に非常にわかりやすい記述がある:NormanDoidge,TheBrainThatChangesItself:StoriesofPersonalTriumphfromtheFrontiersofBrainScience()〔『』、、、〕、、。

:ThePlasticMind:NewScienceRevealsOurExtraordinaryPotentialtoTransformOurselves(.)4目の見えない人は、本来視覚野であるべき部分が聴覚に接収されることを示した研究は、以下に報告されている:A.A.Stevensetal.,’PreparatoryActivityinOccipitalCortexinEarlyBlindHumansPredictsAuditoryPerceptualPerformance,’JournalofNeuroscience27(2007):10734–10741.

5ネヴィルとその同僚は、これまでにいくつもの驚くべき発見をしている。

もっとも初期のものについては、以下を参照:H.J.Neville,A.Schmidt,andM.Kutas,’AlteredVisualEvokedPotentialsinCongenitallyDeafAdults,’BrainResearch266(1983):127–132.もっと最近のいくつかの議論については、以下を参照:D.Bavelieretal.,’VisualAttentiontothePeripheryIsEnhancedinCongenitallyDeafIndividuals,’JournalofNeuroscience20(2000):1–6.6WilliamJames,ThePrinciplesofPsychology()7この研究については、以下を参照:T.G.BrownandC.S.Sherrington,’OntheInstabilityofaCorticalPoint,’ProceedingsoftheRoyalSociety:BiologicalSciences85(1912):250277.脳に高い柔軟性がある可能性を初めて示唆したこの研究はしかし、当時はほとんど黙殺された。

チャールズ・スコット・シェリントンはその後、1932年に神経系統の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した。

8フランツがこれらの結論を導き出すもとになった研究は、以下にわかりやすくまとめられている:S.Franz,’TheFunctionsoftheCerebrum,’PsychologicalBulletin13(1916):149–173.フランツの生涯と、彼が心理学の歴史に果たした(しばしば見落とされがちな)貢献については、以下を参照:V.A.ColotlaandP.BachyRita,’ShepherdIvoryFranz:HisContributionstoNeuropsychologyandRehabilitation,’Cognitive,Affective,&BehavioralNeuroscience2(2002):141–148.9カール・ラシュレイは、記憶の〝格納場所〟の研究に長い年月を費やした。

1950年に彼は自身のそれまでの研究をまとめ、「記憶は脳の特定の場所に存在する」という仮説を実証できなかったことを認めた。

この記事については、以下を参照:K.S.Lashley,’InSearchoftheEngram,’SymposiafortheSocietyofExperimentalBiology4(1950):454–482.サルの脳の運動皮質が可塑性をもつことを明らかにしたラシュレイの研究については、以下を参照:K.S.Lashley,’TemporalVariationintheFunctionoftheGyrusPrecentralisinPrimates,’AmericanJournalofPhysiology65(1923):585–602.ラシュレイの生涯と、彼が心理学の発展に果たした役割についての興味深い文章は、以下を参照:N.M.Weidman,ConstructingScientificPsychology:KarlLashley’sMindBrainDebates()10量作用の原理については、ヘッブによる次の古典的な著作を参照:DonaldO.Hebb,TheOrganizationofBehavior:ANeuropsychologicalTheory()〔『』、、、〕、:NeuroscienceandBiobehavioralReviews()11脳の可塑性という概念の歴史をまとめたものとしては、以下のふたつが秀逸である:P.R.Huttenlocher,NeuralPlasticity:TheEffectsofEnvironmentontheDevelopmentoftheCerebralCortex()TheMindandtheBrain:NeuroplasticityandthePowerofMentalForce()〔心が脳心の力る‐脳科学と「」』、吉田利子訳、サンマーク出.ベグレイの著書〕『ThePlasticMind』『TheBrainThatChangesItself』〔脳は奇跡を起こす』、講談社インタにもショナル〕脳の可ヘッブの主張の根幹にある脳の化学およびそのニューヨークのコロンビア大学のエリック・カンデルによって解明カンデルは2000年に。

学習と記憶の分子上の基礎ノーベル賞を共同受賞した、。

12この研究についての記述は、心理学の初歩的教本や知覚についての教科書にかならず登場する。

オリジナルの論文は以下を参照:D.H.HubelandT.N.Wiesel,’ThePeriodofSusceptibilitytothePhysiologicalEffectsofUnilateralEyeClosureinKittens,’JournalofPhysiology206(1970):419–436.13発達上重要な時期以降に目が見えなくなった人も、何かを聞くことで視覚野が活性化すると示した重要な実験は、以下を参照:T.Kujalaetal.,’ElectrophysiologicalEvidenceforCrossModalPlasticityinHumanswithEarlyandLateOnsetBlindness,’Psychophysiology34(1997):213–216.14アルバロ・パスクアル=レオーネは人間を対象に多くの実験を行い、どこか特定部分の機能を繰り返し動かし続けていると、皮質上でその動きをつかさどる部分が拡大することを発見した。

初期の実験のいくつかを例にとると、たとえば、点字を読める人は読めない人に比べて、指が何かを〝読む〟のをコントロールする領域が増大していた。

この実験については、以下を参照:A.PascualLeoneandF.Torres,’PlasticityoftheSensorimotorCortexRepresentationoftheReadingFingerinBrailleReaders,’Brain116(1993):3952.ここから思い起こされるのは以前、マイケル・マーゼニックがサルを用いて行った次の実験だ。

マーゼニックと研究チームはウィスコンシン大学で、多数の若いサルに顕微鏡手術で手の重要な神経を切断し、手の動きをつかさどる皮質上の領域が、手から送られるサインを受け取れないようにした。

それから約7カ月後に研究チームは、サルの脳内で何が起きたかを調べてみた。

驚いたことに、サルの脳内で本来手の動きをつかさどる領域は完全に再配線されていた。

マーゼニックはこれを受け、脳に可塑性があることを強く主張したが、この考えは当時の神経科学の潮流とは真っ向から対立するものだった。

あまりに異端であったため、マーゼニックの論文は、「神経の可塑性について言及した部分は割愛する」という条件でのみ、発表を許可された。

この実験については以下を参照:R.L.Paul,H.Goodman,andM.M.Merzenich,’AlternationsinMechanoreceptorInputtoBrodmann’sAreas1and3ofthePostcentralHandAreaofMacacaMulattaAfterNerveSectionandRegeneration,’BrainResearch39(1972):119.15豊かな環境で育てられた若いマウスにニューロンの新生が見られるとゲージが初めて発表した論文は、以下を参照:F.Gageetal.,’MoreHippocampalNeuronsinAdultMiceLivinginanEnrichedEnvironment,’Nature386(1997):493495.ゲージの研究チームはその後の実験でさらに、ニューロンの新生はもっと年齢の高い動物にも起こりうることを発見した(G.Kempermann,H.G.Kuhn,andF.H.Gage,’ExperienceInducedNeurogenesisintheSenescentDentateGyrus,’JournalofNeuroscience18(1998):32063212.を参照)。

興味深いのは、ゲージのこの発見がニューロン新生の分野で最初のものではなく、もっと以前に同様の発見がなされていたことだ。

神経の可塑性を発見した最初の論文が当時の科学界から黙殺されたのとまったく同じように、1962年にMITの神経科学者ジョセフ・アルトマンが行った学界初のニューロン新生の報告は、当時最先端の雑誌で発表されたにもかかわらず、やはり無視された。

この論文については以下を参照:J.Altman,’AreNewNeuronsFormedintheBrainsofAdultMammals?’Science135(1962):11271128.ニューロン新生の発見にまつわる顚末は、以下のふたつの文献に紹介されている:MichaelSpector,’RethinkingtheBrain:HowtheSongsofCanariesUpsetaFundamentalPrincipleofScience,’NewYorker,July23,2001;Begley,ThePlasticMind()16マーク・ローゼンツヴァイクは1960年代にカリフォルニア大学バークレー校で研究チームを作り、ラット、アレチネズミ、マウスを用いた実験を行い、豊かな環境で育てられた個体は貧しい環境で育てられた個体よりも脳の重量や容積が増すことを発見した。

この実験については、以下を参照:M.R.RosenzweigandE.L.Bennett,’EffectsofDifferentialEnvironmentsonBrainWeightsandEnzymeActivitiesinGerbils,Rats,andMice,’DevelopmentalPsychobiology2(1969):8795.それから数年後、イリノイ大学のウィリアム・グリーンノウは、先の実験結果のように豊かな環境で育てられた個体の脳の質量が増すのは、ニューロン同士の連結がさかんになり、個々のニューロンに樹状突起(他のニューロンから送られた信号を受け取る役目を果たす器官)が多く育つ結果、皮質上のネットワークが高密度になるためだと指摘した。

詳しくは以下を参照:F.R.VolkmarandW.T.Greenough,’RearingComplexityAffectsBranchingDendritesintheVisualCortexoftheRat,’Science176(1972):14451447.17この会議とは2004年にダーラムサラで、ダライ・ラマと第一線の科学者によって主宰された心と命の会議のことである。

詳しくは以下を参照:Begley,ThePlasticMind()、:NatureMedicine()18恐怖の条件づけについて、その分野の最先端の科学者が著した、非常にわかりやすく内容的にもすぐれた説明は、以下を参照:JosephE.LeDoux,TheEmotionalBrain:TheMysteriousUnderpinningsofEmotionalLife()〔『』、、、〕、:Scholarpedia()19現在〝恐怖の条件づけ〟として知られる作用の非常に初期の例として有名なこの実験については、以下を参照:J.B.WatsonandR.Rayner,’ConditionedEmotionalResponses,’JournalofExperimentalPsychology3(1920):1–14.20消えたはずの恐怖がもとに戻ってしまう可能性を示したマーク・ブートンの研究は、以下の論文でわかりやすく論じられている:M.E.Bouton,’Context,Ambiguity,andClassicalConditioning,’CurrentDirectionsinPsychologicalScience3(1994):49–53.21銃などの現代的脅威がヘビやクモなどの原始的脅威と同じくらい迅速に感知されると示したわたしたちのラボの視覚探索実験は、以下を参照:ElaineFox,LauraGriggs,andEliasMouchlianitis,’TheDetectionofFearRelevantStimuli:AreGunsNoticedasQuicklyasSnakes?’Emotion4(2007):691–696.22この研究は以下の論文を参照:M.CookandS.Mineka,’ObservationalConditioningofFeartoFearRelevantVersusFearIrrelevantStimuliinRhesusMonkeys,’JournalofAbnormalPsychology98(1989):448–459.23心理学のラボで行われた多数の実験から、たとえ実質的なつながりが何もなくても、人が何か特定の事物と危険を関連させがちなことが明らかになっている。

この作用を初めて確認した実験は、以下を参照:A.J.Tomarken,S.Mineka,andM.Cook,’FearRelevantSelectiveAssociationsandCovariationBias,’JournalofAbnormalPsychology98(1989):381–394.24人が幸福と痩身を過剰に結びつけがちなことを明らかにした実験については、以下を参照:R.J.Vikenetal.,’IllusoryCorrelationforBodyTypeandHappiness:CoVariationBiasandItsRelationshiptoEatingDisorderSymptoms,’InternationalJournalofEatingDisorders38(2005):65–72.25携帯電話が体に悪いと信じる人は多い。

だが、他人の携帯電話の電源がオンかオフか人はふつう認識できず、電源がオンであってもオフであっても彼らの訴える症状に差は出ないことが、多くの科学的研究から明らかになっている。

公衆衛生に関する世界各地の団体は、「携帯電話の技術は健康に悪い」という主張を検証する科学的な調査研究に莫大な資金を投じてきた。

わたしはブリティッシュ・モバイル・テレコミュニケーションズ・アンド・ヘルス・リサーチ・プログラム(MTHR)から資金援助を受けて新しい研究を立ち上げ、複数の分野の科学者を集めた研究チームを率いて、携帯電話の電磁波および基地局が、一部の(しかしその数は増え続けている)人々が主張しているように、本当に健康上有害なのかどうかを検証した。

わたしたちの研究以外にもプラシーボ対照による二重盲検が世界各地で多くの人々を対象に行われた。

それらの結果得られたもっとも一貫した発見は、人々が電磁波を突き止められる確率は〝あてずっぽう〟と大差ないということだった。

さらに「携帯電話の信号のせいで具合が悪くなる」と信じる人々が言う短期的なネガティブな症状は、彼らの思い込みとは裏腹に、電磁波の存在とは無関係らしいこともわかっている。

関連があるのはむしろ、良きにつけ悪しきにつけ、人々が何をどう信じるかのほうだった。

つまり自称〝電磁波過敏症〟の人々が訴える健康障害は、電磁波そのものによって引き起こされているのではなく、携帯電話に対する不安感や「携帯電話は有害だ」という思い込みから生まれていると考えるのが妥当なのだ。

電磁波の放射をほんとうに探知できる人は探せばどこかにいるのかもしれないが、現在のところ科学の光はそうした人々を見つけだすのに成功していない。

このテーマを扱った科学的な論文は、以下を参照:S.Eltitietal.,’DoesShortTermExposuretoMobilePhoneBaseStationSignalsIncreaseSymptomsinIndividualsWhoReportSensitivitytoElectromagneticFields?ADoubleBlindRandomisedProvocationStudy,’EnvironmentalHealthPerspectives115(2007):10631068;R.Russoetal.,’DoesAcuteExposuretoMobilePhonesAffectHumanAttention?’Bioelectromagnetics27(2006):215220.電磁波と健康について世界中で行われている科学的研究をわかりやすく要約した記事は、世界保健機関が制作した次のウェブサイトに掲載されている。

www.who.int/pehemf/project/en/.26集団外のメンバーは準備刺激のように作用し、そのために人は集団外の人間を恐怖することをたやすく学習すると示した実験については、以下に詳しい:A.Olssonetal.,’TheRoleofSocialGroupsinthePersistenceofLearnedFear,’Science309(2005):785–787.

27この研究については、以下を参照:E.A.Phelpsetal.,’PerformanceonIndirectMeasuresofRaceEvaluationPredictsAmygdalaActivation,’JournalofCognitiveNeuroscience12(2000):729–738.28社会的不安を感知できない遺伝子上の障害、ウィリアムズ症候群をわずらう子どもは人種的なステレオタイプを学習できないという調査報告は、以下の文献を参照:A.Santos,A.MeyerLindenberg,andC.Deruelle,’AbsenceofRacial,butNotGender,StereotypinginWilliamsSyndromeChildren,’CurrentBiology20(2010):307308.サントスと同僚によるこの研究は、人種差別の根底には社会的な不安感があるという強い証拠になると考えられる。

つまり、社会的な不安感を駆逐すれば、人種差別も駆逐されるということだ。

この説には異を唱える人々もいる。

たとえば、その一人であるリズ・フェルプスによれば、サントスの研究結果は確かに興味深いものだが、ウィリアムズ症候群の少女はそのほかに重度の学習障害を抱えており、そうした子どもが人種差別的な態度を〝学習〟できないのは社会的不安の欠落ゆえではなく、学習能力の欠陥に起因する可能性がある。

これは良い指摘ではあるが、ウィリアムズ症候群の子どもが男女のステレオタイプを難なく学習できるという事実を説明することはできない。

外集団への不安感を減じることで人種差別やネガティブなステレオタイプ化も減じられるという考えは、たいへん興味深いものだし、さらに調査を行うだけの価値がある。

29心のバイアスの修正は可能だとデータによって初めて示した論文は、両義的な情報の解釈を矯正することに焦点をあてていた。

以下の資料を参照:A.Mathews,andB.Mackintosh,’InducedEmotionalInterpretationBiasandAnxiety,’JournalofAbnormalPsychology109(2000):602615;S.GreyandA.Mathews,’EffectsofTrainingonInterpretationofEmotionalAmbiguity,’QuarterlyJournalofExperimentalPsychology53A(2000):11431162.注意バイアスの修正は可能だという主張をコリン・マクラウドが初めて行った論文は、以下を参照:C.MacLeodetal.,’SelectiveAttentionandEmotionalVulnerability:AssessingtheCausalBasisofTheirAssociationThroughtheExperimentalManipulationofAttentionalBias,’JournalofAbnormalPsychology111(2002):107123.その後の実験結果を含めたさらに詳細な情報は、次の文献を参照:A.MathewsandC.MacLeod,’InducedProcessingBiasesHaveCausalEffectsonAnxiety,’Cognition&Emotion16(2002):331354.および、C.MacLeod,E.H.W.Koster,andE.Fox,’WhitherCognitiveBiasModificationResearch?CommentaryontheSpecialSectionArticles,’JournalofAbnormalPsychology118(2009):8999.次の本の複数の章でも、認知バイアス修正の手順の発展が論じられている:J.Yiend,ed.,Cognition,EmotionandPsychopathology:Theoretical,EmpiricalandClinicalDirections()わたしが最近著した教科書の中でも認知バイアス修正法の概観や、認知プロセスと感情との関わりが詳しく論じられている:EmotionScience:CognitiveandNeuroscientificApproachestoUnderstandingHumanEmotions()30ここで紹介されている研究については、以下を参照:ReinoutW.Wiersetal.,’RetrainingAutomaticActionTendenciesChangesAlcoholicPatients’ApproachBiasforAlcoholandImprovesTreatmentOutcome,’PsychologicalScience22(2011):490–497.31この研究については、いくつかの学術的な概観を、エルンスト・コスターとコリン・マクラウド、わたしが編集した以下の雑誌の「認知バイアス修正特集」で読むことができる:JournalofAbnormalPsychology118,no.1(2009).ここに掲載された各論文についてのコメントも、以下で読める:MacLeod,Koster,andFox,’WhitherCognitiveBiasModificationResearch?’.さらに最近では、トリニティ大学のパウラ・ハーテルとカリフォルニア大学デーヴィス校のアンドリュー・マシューズが概論を発表している。

以下を参照のこと:’CognitiveBiasModification:PastPerspectives,CurrentFindings,andFutureApplications,’PerspectivesonPsychologicalScience6(2011):521–536.第六章抑うつを科学で癒す可能性1強迫性障害と、それを克服するためのさまざまな手法については、以下を参照:JeffreySchwartz,BrainLock:FreeYourselffromObsessiveCompulsiveBehavior()〔『』、、、〕2D‐サイクロセリンは〝認知増強剤〟として知られる薬物のひとつである。

エモリー大学の心理学者マイケル・デーヴィスは、高所恐怖症などの恐怖症を暴露療法で克服するさい、D‐サイクロセリンを併用することで治療効果が高まるという証拠を実験によって得た。

この研究についての非常にわかりやすい議論は、次のサイトを参照:www.dana.org/news/cerebrum/detail.aspx?id=752.心理学的介入とD‐サイクロセリンの併用によるプラス効果を初めて学術的に論じた文章は、以下を参照:K.J.Ressleretal.,’CognitiveEnhancersasAdjunctstoPsychotherapy:UseofDCycloserineinPhobicIndividualstoFacilitateExtinctionofFear,’ArchivesofGeneralPsychiatry61(2004):11361144.3この研究について報告した論文は以下の通り:D.Schilleretal.,’PreventingtheReturnofFearinHumansUsingReconsolidationUpdateMechanisms,’Nature463(2010):49–53.この研究についてのすぐれた議論は、以下の資料を参照:DanielLametti,’HowtoEraseFearinHumans,’ScientificAmerican,March23,2010,www.scientificamerican.com/article/howtoerasefearinhumans.4ここで紹介されている研究については、以下を参照:R.L.Clem,andR.L.Huganir,’CalciumPermeableAMPAReceptorDynamicsMediateFearMemoryErasure,’Science330(2010):1108–1112.5前頭前野のある領域を活性化すると、不安に対する扁桃体の反応を鎮静化できると示した研究については、以下を参照:M.R.MiladandG.J.Quirk,’NeuronsinMedialPrefrontalCortexSignalMemoryforFearExtinction,’Nature420(2002):70–74.6PTSD患者の脳の各領域がどれだけ活性化しているかをスキャンによって調べる大規模な実験については、以下の文献で概要が述べられている:L.M.Shinetal.,’Amygdala,MedialPrefrontalCortex,andHippocampalFunctioninPTSD,’AnnalsoftheNewYorkAcademyofSciences1071(2006):67–79.7この研究についてのすぐれた説明は、以下を参照:RichardLazarus,PsychologicalStressandtheCopingProcess()8感情に言葉でラベルづけをすることで前頭前野が活性化し、扁桃体の活動を弱められると示した実験は、以下に報告されている:A.R.Hariri,S.Y.Bookheimer,andJ.C.Mazziotta,’ModulatingEmotionalResponses:EffectsofaNeocorticalNetworkontheLimbicSystem,’NeuroReport11(2000):4348.嫌悪や恐怖をもよおす映像を用いた同種の実験でも、同じパターンの結果が出ている。

この実験については、以下を参照:A.R.Haririetal.,’NeocorticalModulationoftheAmygdalaResponsetoFearfulStimuli,’BiologicalPsychiatry53(2003):494501.ほかにも、感情的な状況をどれだけ積極的に再解釈したり再評価したりするかによって脳内の制御中枢に変化が生じることを示す研究は増加している。

全体の概論は、次を参照:K.N.OchsnerandJ.J.Gross,’CognitiveEmotionRegulation:InsightsfromSocial,CognitiveandAffectiveNeuroscience,’CurrentDirectionsinPsychologicalScience17(2008):153158.9ここで論じられている、鉤状束(こうじょうそく)の強さが不安度の強弱に関連するという研究については、以下に詳しい:J.KimandP.Whalen,’TheStructuralIntegrityofanAmygdalaPrefrontalCortexPathwayPredictsTraitAnxiety,’JournalofNeuroscience29(2009):11614–11617.10認知行動療法の科学的な裏づけの概観は、以下を参照:DavidA.ClarkandAaronT.Beck,’CognitiveTheoryandTherapyofAnxietyandDepression:ConvergencewithNeurobiologicalFindings,’TrendsinCognitiveSciences14(2010):418–424.11認知バイアス修正法が脳内回路に与える作用を実証するには、さらに多くの研究が必要だ。

だがもうすでに、この手法で前頭前野の抑制中枢に変化が生じたという研究は報告されている。

以下を参照:M.Browningetal.,’LateralPrefrontalCortexMediatestheCognitiveModificationofAttentionalBias,’BiologicalPsychiatry67(2010):919–925.12この研究についてのすぐれた概観は、以下を参照:C.J.Harmer,G.M.Goodwin,andP.J.Cowen,’WhyDoAntidepressantsTakeSoLongtoWork?ACognitiveNeuropsychologicalModelofAntidepressantDrugAction,’BritishJournalofPsychiatry195(2009):102–108.13ウィスコンシン大学の心理学者、リチャード・デーヴィッドソンは精神のコントロールや調節機能に瞑想が及ぼす作用を初めて検証した一人だ。

一連の独自な実験の中でデーヴィッドソンは、経験を積んだ仏教僧が瞑想状態に入ったとき、脳内で起きる活動のパターンを調査した。

この実験については以下を参照:A.Lutzetal.,’AttentionRegulationandMonitoringinMeditation,’TrendsinCognitiveSciences12(2008):163168.デーヴィッドソンが〝瞑想界のオリンピック級選手〟と呼ぶ仏教僧の脳の活動を論じた初期の論文は以下の通り:A.Lutzetal.,’LongTermMeditatorsSelfInduceHighAmplitudeGammaSynchronyDuringMentalPractice,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences101(2004):1636916373.以下の文献には、この研究が非常に読みやすい形でまとめられている:SharonBegley,ThePlasticMind:NewScienceRevealsOurExtraordinaryPotentialtoTransformOurselves()14この研究は以下に報告されている:J.A.BrefczynskiLewisetal.,’NeuralCorrelatesofAttentionalExpertiseinLongTermMeditationPractitioners,’ProceedingsoftheNationalAcademyofSciences104(2007):11483–11488.15マインドフルネス瞑想法と、それがストレスの対処に果たす役目については、以下を参照:MarkWilliamsandDannyPenman,Mindfulness:AnEightWeekPlanforFindingPeaceinaFranticWorld()16マインドフルネス認知行動療法を10週間行うことで、強迫性障害患者の眼窩前頭皮質の活動が抑制されただけでなく、臨床的にも大きな改善があったと示す画期的な研究については、以下を参照:J.M.Schwartzetal.,’SystematicChangesinCerebralGlucoseMetabolicRateAfterSuccessfulBehaviourModificationTreatmentofObsessiveCompulsiveDisorder,’ArchivesofGeneralPsychiatry53(1996):109–113.ジェフリー・シュウォーツがマインドフルネス法を土台にした認知行動療法を発展させた経緯については、以下に詳しい:JeffreyM.SchwartzandSharonBegley,TheMindandtheBrain:NeuroplasticityandthePowerofMentalForce()〔心が脳心の力る‐脳科学と「」』、吉田利子訳、サンマーク出.〕17抑うつについての研究のすぐれた概要は、以下を参照:K.J.ResslerandH.S.Mayberg,’TargetingAbnormalNeuralCircuitsinMoodandAnxietyDisorders:FromtheLaboratorytotheClinic,’NatureNeuroscience10(2007):1116–1124.より身近な入門書としては以下がある:WilliamsandPenman,Mindfulness()18マインドフルネス認知行動療法が、抑うつの再発防止に有効であることを示した研究については、以下を参照:J.D.Teasdaleetal.,’PreventionofRelapse/RecurrenceinMajorDepressionbyMindfulnessBasedCognitiveTherapy,’JournalofConsultingandClinicalPsychology68(2000):615–623.次の本でも、マインドフルネス法と認知療法の融合がわかりやすく説明されている:Z.V.Segal,J.M.G.Williams,andJ.D.Teasdale,MindfulnessBasedCognitiveTherapyforDepression:ANewApproachtoPreventingRelapse()〔『』、、、〕19ジョン・カバット・ジンが考案した8週間のマインドフルネスストレス低減法は、免疫機能を向上させ、前頭前野の活動を左脳寄りのポジティブなパターンに移行させる効果があった。

この研究については以下を参照:R.J.Davidson,etal.,’AlterationsinBrainandImmuneFunctionProducedbyMindfulnessMeditation,’PsychosomaticMedicine65(2003):564570.前頭前野の活動の左側への偏りがポジティブな感情の経験と関連し、右側への偏りがネガティブな感情と関連していることは科学的に検証されている。

以下を参照:R.J.Davidson,’EmotionandAffectiveStyle:HemisphericSubstrates,’PsychologicalScience3(1992):3943;R.J.DavidsonandW.Irwin,’TheFunctionalNeuroanatomyofEmotionandAffectiveStyle,’TrendsinCognitiveSciences3(1999):1121.20マインドフルネス度が高いと判定された人は前頭前野の活動が強く、扁桃体の活動(不安反応など)を制御しやすいことを、fMRIを使って明らかにした研究は、以下を参照:J.D.Creswelletal.,

‘NeuralCorrelatesofDispositionalMindfulnessDuringAffectLabelling,’PsychosomaticMedicine69(2007):560–565.21ここで紹介されている研究については、以下を参照:BrittaK.Hölzeletal.,’MindfulnessPracticeLeadstoIncreasesinRegionalBrainGrayMatterDensity,’PsychiatryResearch:Neuroimaging191,no.1(2011):36–43.22感情の調節能力の差が、実生活での幸福度や経済的成功度の差に関連していることを明らかにした研究については、以下を参照:S.Côté,A.Gyurak,andR.W.Levenson,’TheAbilitytoRegulateEmotionIsAssociatedwithGreaterWellBeing,Income,andSocioeconomicStatus,’Emotion10(2010):923–933.23トラウマを受けた後でも多くの人は立ち直れることを示した研究の概観は、以下を参照:GeorgeA.Bonanno,TheOtherSideofSadness:WhattheNewScienceofBereavementTellsUsAboutLifeAfterLoss()〔『』、、、〕、〝〟、:WhatDoesn’tKillUs:TheNewPsychologyofPosttraumaticGrowth()〔トラウマ後成長と回復‐心の傷を超えるための6つのステップ』、北川知子訳、筑摩書房、.次の論文〕でGaryStix,’TheNeuroscienceofTrueGrit,’る:ScientificAmerican()24犬を用いた実験で〝学習性無力感〟を発見したのはマーティン・セリグマンとその同僚である。

彼らの実験については以下の文献を参照:M.E.P.Seligman,S.F.Maier,andJ.Geer,’AlleviationofLearnedHelplessnessintheDog,’JournalofAbnormalPsychology73(1968):256262.この実験について特筆すべき興味深い点は、逃れられない電気ショックを受けた150匹の犬の約三分の一は、〝無力感〟に陥らなかったこと─つまり、状況をあきらめなかったことだ。

電気ショックを逃れられなかった犬の大半が状況に後ろ向きに対処する傾向を育み、無力感を抱くようになったのに対し、これら三分の一の犬たちはへこたれず、より楽観的な対処のスタイルを保った。

こうした差異が、人間にも見られるような悲観的・楽観的な思考パターンにも関連していることはおそらく間違いない。

25この研究は以下の論文に発表されている:J.P.E.Amatetal.,’PreviousExperiencewithBehavioralControloverStressBlockstheBehavioralandDorsalRapheNucleusActivatingEffectsofLaterUncontrollableStress:RoleoftheVentralMedialPrefrontalCortex,’JournalofNeuroscience26(2006):13264–13272.26ここで述べられているラットを用いた実験については、以下を参照:J.M.Weiss,’EffectsofCopingBehaviorinDifferentWarningSignalConditionsonStressPathologyinRats,’JournalofComparativeandPhysiologicalPsychology77,no.1(1971):113.特筆しておきたいのは、ジョゼフ・ブラディがこれより先に発表したサルを用いた研究では、まったく逆の結果が出ていることだ。

ブラディの報告によれば、電気ショックを自分でコントロールすることを許された〝エグゼクティブ〟のグループのサルは、同じ数の電気ショックを与えられた別の一群より、潰瘍をむしろ多く発症していた。

だが、ブラディの実験方法には大きな問題があったことが、今では広く知られている。

問題は、実験用のサルが〝エグゼクティブ〟とそれ以外の群にランダムに分けられたのではない点だ。

ブラディは学習速度がいちばん速いサルを〝エグゼクティブ〟のグループに入れ、学習速度が遅いサルを〝電気ショックをコントロールできない〟グループに入れていた。

ジェイ・ワイスがその後に行った実験により、反応速度が速い個体はそもそも(電気ショックの有無に関係なく)潰瘍を発症しやすいことがわかり、ブラディの実験の信ぴょう性は大きく損なわれた。

さらにその後の複数の実験でも、状況をコントロールできた個体は潰瘍を発症しにくいという、ジェイ・ワイスが報告したパターンが再確認された。

ブラディの実験については、以下を参照:J.V.Bradyetal.,’AvoidanceBehaviorandtheDevelopmentofGastroduodenalUlcers,’JournaloftheExperimentalAnalysisofBehavior1(1958):6972.27エレン・ランガーとジュディス・ローディンが行った介護施設の住民についての調査は、以下のふたつの論文に発表されている:E.J.LangerandJ.Rodin,’TheEffectsofChoiceandEnhancedPersonalResponsibilityfortheAged:AFieldExperimentinanInstitutionalSetting,’JournalofPersonalityandSocialPsychology34(1976):191–198;J.RodinandE.J.Langer,’LongTermEffectsofaControlRelevantInterventionwiththeInstitutionalisedAged,’JournalofPersonalityandSocialPsychology35(1977):897–902.28〝抑うつリアリズム〟についての最初の研究は、以下に詳しい:L.B.AlloyandL.Y.Abramson,’JudgementofContingencyinDepressedandNonDepressedStudents:SadderbutWiser?’JournalofExperimentalPsychology:General108(1979):441485.その後の研究により、抑うつ的な人や悲観的な人は必ずしも〝より悲しいが、より賢い〟わけではないことがわかった。

正しくいえば、抑うつ的な人は状況のコントロール力が自分にないことは他の人々よりも正確に把握できるが、興味深いことに、他者がどれだけコントロール力を手にしているかについては過大評価しがちなのだ。

この研究については、以下を参照:D.Martin,L.Y.Abramson,andL.B.Alloy,’TheIllusionofControlforSelfandOthersinDepressedandNonDepressedCollegeStudents,’JournalofPersonalityandSocialPsychology46(1984):125136.29自分が何かをコントロールしているという幻想の効果について、包括的に論じた文献は以下の通り:E.J.Langer,’TheIllusionofControl,’JournalofPersonalityandSocialPsychology32(1975):311–328.30グレッグ・イースターブルックは著書『TheProgressParadox:HowLifeGetsBetterWhilePeopleFeelWorse』(NewYork:RandomHouse,2003)の中で、過去50年以上にわたり先進国の富が劇的に増大したことを中心に、それにまつわる興味深い事実や人物を数多く紹介している。

たとえば、イースターブルックの指摘によれば、1950年代にはマクドナルドのチーズバーガーの価格は人々の平均時給のほぼ半分だったが、2003年のチーズバーガーの価格はほぼ9分間の賃金に等しい。

にもかかわらず、2003年に調査を受けた人々は、自分たちの暮らしは親たちの世代よりも悪くなっていると主張し、自分の子どもたちが大人になる頃には世の中の状況はさらにもっと悪くなっているだろうと予測していた(むろん、マクドナルドには何の責任もないことだ)。

ものごと自体は良いほうに変化しているのに(たとえば、家の広さや暖かさなど)、人々の幸福度が増加していない例は、ほかにも枚挙にいとまがない。

31マーティン・セリグマンは長いあいだ〝ポジティブ心理学〟の研究の先頭に立ち、喜びと意義にあふれた生活は何によってもたらされるか、どんな要因が人々を真に幸福にするのかを解き明かそうとしてきた。

セリグマンの研究の成果は、彼の著書『AuthenticHappiness:UsingtheNewPositivePsychologytoRealizeYourPotentialforLastingFulfillment』(NewYork:FreePress,2002)〔邦訳『世界でひとつだけの幸せ‐ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生』、小林裕子訳、アスペクト〕の中で説明されている。

ポジティブ心理学についてのより学術的な説明は、以下を参照:M.E.P.SeligmanandM.Csikszentmihalyi,’PositivePsychology:AnIntroduction,’AmericanPsychologist55(2000):514.ミハーイ・チクセントミハイはそのほかに、〝フロー〟や〝最適経験〟の概念を中心に、ポジティブ心理学について広く論じている。

この考えは、チクセントミハイの今や古典となった著書『Flow:ThePsychologyofOptimalExperience』(NewYork:HarperCollins,1990)〔邦訳『フロー体験喜びの現象学』、今村浩明訳、世界思想社〕の中でわかりやすく述べられている。

32ここで述べられている幸福とポジティビティ比の研究については、フレドリクソンとロサダの共著論文’PositiveAffectandtheComplexDynamicsofHumanFlourishing,’AmericanPsychologist60(2005):678686.に詳しい。

フレドリクソンの主張は彼女の名著『Positivity:GroundbreakingResearchRevealsHowtoEmbracetheHiddenStrengthofPositiveEmotions,OvercomeNegativity,andThrive』(NewYork:Crown,2009)〔邦訳『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』、バーバラ・フレドリクソン著、高橋由紀子訳、日本実業出版社〕を参照。

読者自身のポジティビティ比は、フレドリクソンのウェブサイト、www.positivityratio.com.でも調べることができる。

特筆しておきたいのは、ポジティビティ比を3以上に保つことは幸福に生きるために重要ではあるが、あまりにそれを高めようとするのは逆効果だということだ。

フレドリクソンも指摘しているように、ポジティブな経験は心からのものでなければならず、ポジティビティ比がむやみに高いのはかえって良くないことなのだ。

33ジョン・ゴットマン博士は、ポジティビティ比を5対1以上にすることなど、幸福な結婚生活のために重要な事柄をいくつか特定している。

博士による以下の著作を参照:JohnGottman,WhyMarriagesSucceedorFail:AndHowYouCanMakeYoursLast()34恐怖に反応する扁桃体などの部分は、オプティミズム・バイアスにも大きなかかわりを持っていることを明らかにした研究は、以下を参照:T.Sharotetal.,’NeuralMechanismsMediatingOptimismBias,’Nature450(2007):102–105.立ち直りの早い人は、危機の時にポジティブな感情もネガティブな感情も概して平均より多く経験すると明らかにしたアンソニー・オングの研究は、以下を参照:A.D.Ong,C.S.Bergeman,andT.L.Bisconti,’TheRoleofDailyPositiveEmotionsDuringConjugalBereavement,’JournalofGerontologyB:PsychologicalSciencesandSocialSciences59B(2004):158–167.

著者エレーヌ・フォックスElaineFox心理学者、神経科学者。

なぜ逆境にも強く前向きな人と、後ろ向きで打たれ弱い人がいるのかという疑問を中心に、感情の科学について幅広く研究する。

ダブリン大学、ヴィクトリア大学ウェリントン校などを経て、エセックス大学で欧州最大の心理学・脳科学センターを主宰。

現在はオックスフォード大学教授として、オックスフォード感情神経科学センターを率いる。

認知心理学と神経科学、遺伝学を組み合わせた先端的な研究を行い、セロトニン運搬遺伝子が楽観的な性格を生むという論文はセンセーションを巻き起こした(その後、この研究は意外な展開を見せた。

詳しくは本書の本文で)。

『ネイチャー』『サイエンス』『ニュー・サイエンティスト』や『エコノミスト』まで含む一流誌に数多く寄稿。

また2010年には俳優のマイケル・J・フォックス(ちなみに親戚ではないそうだ)のドキュメンタリー番組に登場。

2013年にはBBCのドキュメンタリー番組に出演してパーソナリティのマイケル・モズレーの脳を前向きに変える実験を行うなど、幅広く活躍する。

本書はドイツ、スウェーデン、オランダなど5カ国語に翻訳されている。

訳者森内薫KaoruMoriuchi翻訳家。

主な訳書に『細胞から若返る!テロメア・エフェクト』(エリザベス・ブラックバーン、エリッサ・エペル、NHK出版)、『帰ってきたヒトラー』(ティムール・ヴェルメシュ、河出文庫)、『ヒトラーのオリンピックに挑め─若者たちがボートに託した夢』(ダニエル・ジェイムズ・ブラウン、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、『ダライ・ラマ子どもと語る』(クラウディア・リンケ、春秋社)などがある。

解説湯川英俊なぜ人間には楽観的な人と悲観的な人がいるのか。

なぜ、困難な状況に直面しても前向きに対処できる人とできない人がいるのか。

そうした性格は生まれつきなものなのか、それとも変えられるものなのか。

誰もが興味を持つテーマを認知心理学、神経科学、遺伝学を組み合わせた独自の研究の最新成果に基づいてわかりやすく、かつ、深く解説している本書を読んで、ぜひ「白熱教室」で講義を見てみたい、と思ったのは2014年の終わり頃だったと記憶している。

「白熱教室」シリーズは世界各国の一流大学の講義をそのままに近い形で番組化して人気を得たNHK・Eテレの番組だ。

テーマは幅広く、哲学や経済学から宇宙論や物理学・数学まで、ハーヴァード大学やマサチューセッツ工科大学、ケンブリッジ大学などの一流教授の講義を放送してきた。

私は当時この番組のプロデューサーを務めており、常に新しい出演者を探している状態で、それまで取り上げていなかった脳科学・心理学という分野は視聴者の強い関心を惹くテーマではないかと思ったのだ。

早速エレーヌ・フォックス教授と連絡を取らせていただいたところ、本書のエッセンスを基に、パートナーであるケヴィン・ダットン博士とともに4回の特別講義を収録させていただけることになった。

ディレクターが講義の内容について何度かやりとりをし、4回の内容を固めていった。

1回目の講義ではまず「楽観脳」と「悲観脳」について詳しく解説するところから始めてもらうことにした。

人間の脳には危険を察知し恐怖を感じる回路と快楽や喜びを感じる回路があり、そうした強い感情を抑えようとする回路もある。

脳の回路のでき方は人によって違い、悲観的な人や楽観的な人が生まれるという。

その仕組みを図なども活用しながら具体的に教えてもらうことからスタートしようと考えた。

続く2回目は本当の楽観主義とはどういうことなのかに迫ってもらうことにした。

フォックス教授によると楽観主義とは単なるポジティブ・シンキングのことではなく、4つの要素があるという。

ポジティブな思考に加え、ポジティブな行動、さらに根気と粘り強さ、そして自分の人生をコントロールしている感覚。

前向きで楽観的な人は粘り強さを発揮し、様々な困難に負けずチャンスが生まれるような立場に自らを置く傾向にあるという。

何度か失敗したときに「もうだめだ。

これはうまくいかない」とあきらめる人より、失敗してもそれほど打ちのめされずに継続して挑戦をする人のほうが最終的に成功につながるチャンスを得られる。

視聴者に向けた前向きなメッセージになる内容だ。

3回目はフォックス教授のパートナーである、ケヴィン・ダットン博士の講義になった。

テーマは「あなたの中のサイコパス」。

ダットン博士の専門であるサイコパス(精神病質者)はよく猟奇犯罪と結び付けられるが、博士によると誰しもがサイコパス的気質をもつといい、実際ダットン博士の研究では大企業のCEOや弁護士など社会的に成功している人たちのサイコパス度が高いことがわかっている。

困難な状況下でも冷静に物事に対応するサイコパス的特性をうまく活用することで、人生に役立てることもできるという博士の論も視聴者への前向きなメッセージになる内容だ。

そして最後に4回目では「あなたの性格は変えられるか」と題し、人間の性格は生まれつきのものなのか?それとも環境によるのか?性格を変えることはできるのか?に迫ってもらうことにした。

フォックス教授によると、性格を変えることは簡単ではないができる、という。

脳の回路を訓練によって変えることは可能だというのだ。

脳の回路は皆が思っているよりずっと柔軟であり、あなたがよりポジティブな方向に自分を変えたいとすれば、それは簡単なことではないが、継続的に行えば必ず脳は応えてくれるという。

シリーズ全体としてより有意義な人生を送るツールとして視聴者に役立つ内容にできると期待を強めた。

実際の収録は2015年6月17日から19日の3日間にわたってオックスフォード大学のマグダレン・カレッジのホールで行われた。

マグダレン・カレッジは1458年に設立された由緒あるカレッジで、50名の受講生を集めての特別講義だった。

収録を始めてディレクターがびっくりしたのが、教授の講義の情報量の多さだったという。

内容は論理的かつわかりやすいのだが、伝えたい内容が豊富で次から次へとあふれ出る、つまりストレートに言えば教授は早口なのだ。

それだけ内容豊富な講義なのは番組にとってもありがたいことなのだが、実はこのときディレクターの「悲観脳」が発達した。

「白熱教室」は副音声では原語そのままで放送するが、主音声は日本語吹き替えにする二ヶ国語放送だ。

つまり先生の講義内容を日本語に訳した上で吹き替え作業を行わなければならない。

これまでの経験では、普通のスピードなら英語を日本語に吹き替えると同じ時間でほぼ同じ量の情報が伝わるのだが、フォックス教授の早口では日本語訳にすると倍近く時間がかかりかねない。

ディレクターは内容が期待通り面白いことにほっとしながらも不安を感じたのだ。

通常現在の日本人が話すスピードは1分間に400文字くらいなのだが、NHKの番組ナレーションのスピードは伝統的には1分間300文字である。

テレビというのは本と違って読み返したりすることができないので、少しゆっくりしたスピードで語らないと理解が追いつかないと考えられているのだ。

ところがフォックス教授の講義を日本語訳してみると1分間に600文字を超えていた。

ディレクターの心配どおり、講義の内容をいかに短い言葉で表現するか、吹き替えナレーションの作成に通常よりも相当大きな労力が必要になった。

しかしおかげさまで7月下旬から4週にわたって放送した「心と脳の白熱教室」はいつも以上の好反響を得た。

ネット上にもリアルタイムで多くの書き込みがあり、「物事を楽観的にとらえられるようになりそう」だとか「訓練によって自分の性格が変えられるという言葉に勇気をもらった」などの前向きな反応が多くみられた。

まさに狙い通りの反響を得られたわけで、プロデューサーとしてはとてもうれしい番組だった。

限られた放送時間で、しかも読み返したりできないというテレビ番組でもフォックス教授の研究の魅力は十分に伝わった。

何度も読み返せる、しかもより詳しいディテールまで書き込まれている本書が多くの読者により有意義な人生を獲得するためのヒントを与えるに違いないと確信している。

(NHK「白熱教室」元プロデューサー)

単行本二〇一四年七月文藝春秋刊この電子書籍は、二〇一七年八月十日刊行の文春文庫を底本としています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次