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第9章選抜──もっとも厳しい基準で決める

PART3捨てる技術多数の瑣末なことを容赦なく切り捨てる

内的なプロセスは、外的な基準を必要としている。

──ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(哲学者)TEDの人気スピーカー、デレク・シヴァーズ。

彼は自身のブログで、「もっとわがままにノーを言おう」と主張している。

中途半端なイエスをやめて、「絶対やりたい!」か「やらない」かの二択にしようと言うのだ(1)。

そのためのコツは、基準をとことん厳しくすること。「やろうかな」程度のことなら却下する。「イエス」と言うのは、絶対やるしかないと確信したときだけだ。

ある経営者は、ツイッターでこう言った。

「絶対にイエスだと言いきれないなら、それはすなわちノーである」まさにエッセンシャル思考らしい発言だ。

選択肢を検討するときには、つねにこの基準で考えたほうがいい。デレク・シヴァーズは、この基準を全力で体現している。

たとえば人材採用にしても、本気で圧倒された相手しか雇わない。できそうだな、という程度の人はすべて不採用にする。そうやって断りつづけるうちに、やがて「これだ!」という人材がやってくる。

世界各地でのイベントの予定が入っていても、本気でわくわくしなければすべてキャンセルし、家でやりたいことをやっている。

気乗りしないカンファレンスに出るより、そのほうが生産的だからだ。引越し先を考えていたときには、「住めたらいいな」と思う程度の街(シドニー、バンクーバーなど)をすべて除外した。

やがてニューヨークを訪れたデレクは、「この街しかない」と即座に確信したそうだ。第1章で紹介した、クローゼットの話を思い出してほしい。

「いつか着るかもしれない」というゆるい基準を使っていたら、クローゼットはめったに着ない服でいっぱいになってしまう。

これを「この服が本当に大好きか?」という基準に変えると、中途半端な服が消えるので、もっといい服を入れるスペースが生まれる。

同じことは、あらゆる決断に当てはまる。どうでもいいことを捨てられずにいると、本当に重要なことをする余裕がなくなってしまうのだ。

目次

90点ルールを取り入れる

先日、同僚と一緒にdスクールの「人生を本質からデザインする」授業への参加者を選抜した。

24人の枠に、100人以上の学生が応募してきていた。私たちはまず、「毎回休まず出席できる」などの基本条件を決めた。

次に、「人生を変える覚悟ができている」などの高度な基準をいくつか決めた。この基準に従い、応募者を10段階で評価していく。

評価9以上なら、文句なしの合格。6以下は不合格。問題は、7〜8の応募者だ。誰を受け入れるべきか頭を悩ませたが、やがて気づいた。

「悪くない程度の選択肢は、すべて拒否したほうがいい」そんなわけで、評価7〜8の応募者は不合格にした。実にさっぱりした気分だった。

この決断のしかたを「90点ルール」と呼ぶことにしよう。最重要基準をひとつ用意し、その基準に従って選択肢を100点満点で評価する。ただし90点未満の点数は、すべて0点と同じ。不合格だ。

こうすれば、60〜70点くらいの中途半端な選択肢に悩まされずにすむ。テストで65点をとったときの気分を思い出してほしい。

そんなぱっとしない気分のものを、わざわざ選ぶ必要があるだろうか?90点ルールは、トレードオフを強く意識させるやり方だ。

厳しい基準を設ければ、必然的に、大多数の選択肢を容赦なく却下することになる。

完璧な選択肢が現れることを信じて、かなり良い選択肢を切り捨てるのだ。完璧な選択肢はすぐにやってくるかもしれないし、なかなか現れないかもしれない。

だが、厳しい基準を設けるというその行為は、間違いなくあなたに自由を与えてくれる。

他人や世の中や偶然に決められるのではなく、自分自身で選ぶ自由だ。「仕方なく」選ぶのではなく、「選びたいから」選ぶ自由だ。

おわかりのように、90点ルールのすぐれた点は、瑣末な選択肢を容赦なく切り捨てられるところだ。

しかもシンプルな数字で決めるので、選択が合理的・論理的になる。直感や感情の入り込む余地はない。厳しすぎるルールに思えるかもしれないが、妥協すれば自分が損をするだけだ。

非エッセンシャル思考の人はいつも、消極的な基準でものごとを選んでいる。

「上司に言われたからやる」「誰かに頼まれたからやる」、あるいは「みんながやっているからやる」という基準だ。

ソーシャルメディアで多くの人がつながっている現在、「みんながやっているからやる」というのはかなり危険である。

世界中の他人の行動が見えてしまう状況でそんな基準を使っていたら、あらゆる瑣末なものごとに手を出すはめになってしまう。

以前仕事で関わったある経営チームは、仕事を受けるかどうかの判断に、3つの明確な基準を使っていた。

ところが、やがてその基準がどんどんあいまいになり、言われた仕事は何でもやる状態になってしまった。

その結果、チームの士気は激しく落ち込んだ。仕事量が増えすぎたせいもあるが、どの仕事にもやるべき理由が感じられなかったからだ。仕事は無意味な作業になった。そればかりか、会社の存在意義さえも危うくなってしまった。

かつては自分たちの強みを生かしてきらりと光る仕事をしていたのに、今では無個性な何でも屋になり下がってしまったのだ。

そこで私は、彼らにもっとも厳しい基準をひとつ決めさせた。そして8割の案件はすぐに却下させた。

おかげでどうでもいい仕事から解放され、彼らはふたたび自分たちの強みを生かした仕事ができるようになった。択基準が明確になったおかげで、チームの士気も上がった。

経営陣の気まぐれな受注に振りまわされず、自分で納得できる仕事に取り組めるからだ。

あるときには、入社まもない控えめな社員が、経営陣のトップに反論するのを耳にしたこともある。

「これは受けないほうがいいんじゃないですか?私たちの基準にかなっていませんから」こんなことが言えるようになったのも、明確な基準のおかげだ。

明確で厳しい基準があれば、誰でも不要な選択肢をシステマティックに却下し、重要な選択肢を選びとることが可能になるのである。

明確で厳しく、そして正しい基準を採用する

イギリスの家具会社Vitsoe(ヴィツゥ)の社長をつとめるマーク・アダムスは、27年のあいだ明確で厳しい基準を貫いてきた。

家具業界というのは、とにかく大量の製品をつくるイメージがある。季節ごとに色とスタイルを変えた新作を出して、消費者の目を迷わせる。

ところがヴィツゥは、たった1種類の製品しかつくらない。606シェルビング・システムという収納システムに、何十年もこだわりつづけてきたのだ。

なぜか?ヴィツゥは非常に厳しい基準で製品を選んでいるからだ。その基準にかなう製品がほかにないなら、それをつくりつづけるだけだ。

606シェルビング・システムは、第1章で紹介したディーター・ラムスの「より少なく、しかしより良く」という思想を完璧に体現している。

それもそのはず、606をデザインしたのはディーター・ラムス本人である。ただし、ヴィツゥのすごいところはそれだけではない。

特筆すべきは、製品の基準以上に厳格な、人材採用基準だ。いまひとつの人間を雇うより、人が足りないほうがいい。

それがヴィツゥの基本方針だ。

だから人材採用のプロセスは、非常に厳格でシステマティック。まず最初に、電話で面接をおこなう。

電話を使うのは、見た目の印象に左右されたくないからだ。また、電話応対のマナーが適切かどうかもチェックできる。

これならわざわざ会う手間を省きながら、多くの候補者を除外することが可能だ。

電話面接を通過した候補者は、社内のさまざまな人間と面接をすることになる。

何段階もの面接をクリアしたら、今度は1日体験入社だ。実際にチームに交じって働いたあと、社員にアンケートが配られる。

「彼/彼女は、この会社で働くのが好きになると思いますか?」「彼/彼女が入社したら、楽しく一緒に働けると思いますか?」

こうしておたがいの相性を探り、もしもうまくいきそうなら、さらに何度かの面接を経て採用となる。

もしも社員の反応が微妙なら、その候補者はアウトだ。以前、ある有能な男性がヴィツゥに応募してきた。希望職種は商品の組立・設置エンジニア。

顧客への印象を左右する重要なポジションだ。この候補者は腕が良かった。体験入社のときにも、チームと一緒にそつなく作業をこなした。

ところが、あとでチームのみんなに印象を訊いてみると、ひとつ気になる点があると言う。

1日の作業が終わって道具を片づけていたとき、彼は工具を雑に放り込み、そのまま工具箱のふたを閉めたのだ。普通なら、それほど気にしない問題かもしれない。

わざわざ報告するほどでもないし、ましてや採用の判断を左右するとは思わないだろう。だが、ヴィツゥにとっては違った。

彼らの求めるエンジニアは、けっして工具を雑に扱ったりしない。それが条件だ。ほかは完璧な仕事ぶりだったにもかかわらず、結局この候補者は不採用になった。

絶対にイエスだと言いきれないなら、それはすなわちノーである。彼らの厳しい基準は、なんとなく感覚的に決まったわけではない。

何がうまくいき、何がそうでないかを、冷静に観察しつづけた結果だ。おもしろいところでは、子供のときにレゴブロックで熱心に遊んだ人ほど、ヴィツゥでうまくやっていけるという事実がわかっている。

当てずっぽうで言っているわけではない。彼らは長年、あらゆる基準を考慮しつづけてきた。大多数の基準は途中で消え、いくつかの基準だけが生き残った。

そのほかに彼らが大事にしている基準は、たとえば「この候補者は確実にわれわれと相性がいいか?」。

何度も念入りに採用面接をおこなうのは、そのためだ。1日体験入社をして、社員一人ひとりの意見を聞くのも、そのためだ。彼らは慎重に情報を集め、冷静に論理的に決断を下す。

まさに、エッセンシャル思考のやり方である。

オンラインストレージサービスのBox(ボックス)を創業したカリスマ起業家アーロン・レヴィも、人材採用に関して似たようなやり方をしている。

彼は候補者に出会うと、毎日この人と一緒に働きたいか、と考えるそうだ。

「たとえばこう自問するんです、この人が創業メンバーだとしても違和感はないか(2)?」もしも答えがイエスなら、会社にぴったり合う候補者なのは確実だ。

チャンスを正しく選別するには

選択肢から何を選ぶか、というのも難しい問題だが、もっと難しいのは思わぬチャンスが転がってきたときだ。意外な方面からの転職の誘い。

得意ではないが、金になるプロジェクトの話。給料は出ないが、以前からやりたいと思っていた企画。理想の場所ではないが、安く使えるシェア別荘の誘い。

さて、どうするべきか?こんないい話は、今を逃したらもうないかもしれない。目の前に転がっているチャンスを逃すなんて、あまりにももったいない。だが、簡単に手に入るという理由でそれを選んでいいのだろうか。

これを選んだせいで、数日後にやってくる理想的なチャンスにノーを言うことにならないだろうか?デュアルテ・デザイン社CEOのナンシー・デュアルテも、会社の方向性について同じジレンマを抱えていた。

もともと彼女の会社は、多様な要望に応えるデザイン会社だった。企業イメージ、ウェブサイト制作、プレゼンテーション制作など、何でもこなす。だが、「これだ」という個性に欠けていた。何らかの独自性がなければ、どこにでもある平凡なデザイン会社で終わってしまう。

ナンシーはジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』を読みふけった。

本当にやりたいことや得意なことがあるなら、そのことだけをやりなさい、とコリンズは述べていた。

そこでナンシーは思い当たった。自分だけの強み、ほかのデザイン会社がやりたがらない分野。それは、プレゼンテーションのデザインだ。

デュアルテ・デザイン社はプレゼンテーションの仕事に特化してノウハウを積み上げ、世界で随一のプレゼンテーション会社となった。

ただし、そのためにはほかのあらゆるチャンスにノーを言わなくてはならなかった。たとえ景気が悪くても、手軽にお金が入るチャンスが来ても、ぐっとこらえた。それは飛び抜けた存在になるための代償だった。

たくさんのチャンスや仕事を断り、自分たちの専門分野をとことん追求していったのだ。

突然舞い込んできたチャンスを正しく選別するためには、次の3つのプロセスを踏むといい。

①そのチャンスについて、記述する

②考慮するに値するチャンスの「最低限の基準」を3つ書き出す

③考慮するに値するチャンスの「理想の基準」を3つ書き出す

最低限の基準を満たしていないチャンスは、もちろん却下。そして、理想の基準を満たしていないチャンスも、やはり却下しよう。すべて満たしているものだけが、考慮に値するチャンスだ。

「これしかない」と思えることを選ぶ

選択の基準を厳しくすると、脳のサーチエンジンが精度を増す。

たとえばグーグル検索で「ニューヨークのおいしいレストラン」と検索すると、広い範囲の検索結果が出てくる。

一方、「ニューヨークのブルックリンで最高のピザ屋」と検索すれば、結果はかなり絞られてくる。

それと同じように、「いい転職先」というキーワードで考えたとき、脳のサーチエンジンは数えきれないほどの検索結果を返してくる。

一方、もっと詳細に設定して「自分は何が大好きか?」「自分は何に向いているか?」「どうやって世の中の役に立てるか?」の3つで検索すれば、答えはおのずと絞られてくる。検索結果は多いよりも、少数精鋭のほうがいい。

私たちの目的は、やってもやらなくてもいいことを何十ページもブラウズすることではない。「これしかない」と思えることを、ひとつだけ見つけることだ。探検家のエンリック・サラも、そうやって自分のやるべきことを見つけた(3)。

彼はもともと、カリフォルニアの有名なスクリップス海洋研究所で教授をつとめていた。

けれども、自分のやるべきことはほかにあるはずだという気持ちをずっと拭えなかった。そこで彼は教授の地位を捨て、ナショナルジオグラフィックで働くことに決めた。

転職はうまくいき、ワシントンDCの本部では魅力的なチャンスがいくつもめぐってきた。だが、まだ何かが違うような気がした。

以前の成功に引きずられて、本当にやりたいことから少しだけ逸れている。

海洋学者ジャック=イヴ・クストーによる驚異的な海底世界の映像を見て以来、エンリックは「世界でいちばん美しい海にもぐりたい」と夢みていた。

数年後にそのチャンスがめぐってきたとき、彼は迷わなかった。自分の力を最大限に生かすために、本社を離れて探検家のポジションへ飛び込んでいったのだ。

現在の彼の主な仕事は、世界各地の知られざる海にもぐることだ。また専門知識とコミュニケーション力を生かして、地球規模の政策に影響を及ぼしている。

彼はこの仕事にたどり着くために、多くのチャンスをふいにした。かなり心惹かれる話もあったが、じっと我慢して完璧なチャンスを待ちつづけた。大好きで、才能を生かせて、世界の役に立てる仕事。

エンリックはその三拍子揃った仕事を手に入れた数少ない人間のひとりだ。彼は貴重な手つかずの海を守るために、国立公園に相当するような海洋保護区の設立に尽力している。彼の仕事が、地球を変えるのだ。

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