MENU

第13章編集──余剰を削り、本質を取り出す

私は大理石のなかに天使を見た。石を削ってそれを解き放った。──ミケランジェロ(彫刻家)

毎年アカデミー賞の季節になると、人びとは作品賞の予想で盛り上がる。マスコミが特集を組み、みんな興奮して夜中まで見守っている。

一方、作品賞の陰に隠れて、あまり目立たない賞もある。「アカデミー編集賞」だ。

編集賞の発表時間になると、たいていの視聴者はチャンネルを替えたり、台所にポップコーンのおかわりをとりに行ったりしている。だが実を言うと、作品賞と編集賞には密接なつながりがある。

1981年以来、作品賞をとった作品はほぼ例外なく編集賞にもノミネートされているのだ(1)。

実際、編集賞と両方ノミネートされている場合、3分の2は作品賞を獲得しているほどである。

アカデミー賞の歴史のなかでもっとも尊敬されている(有名かどうかは別として)編集技師は、マイケル・カーンという人物だ。

過去8回のノミネートという史上最多記録を持ち、受賞数も3回に上っている。カーンの顔や名前を知らない人でも、彼の手がけた映画は知っているはずだ。

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』『プライベート・ライアン』『シンドラーのリスト』など、数々の超有名作品を編集してきた。

スティーブン・スピルバーグ監督作品はほとんどすべてカーンが編集しており、スピルバーグの右腕とも呼べる存在となっている。

それなのに、カーンの名前を知っている人はあまりに少ない。編集の仕事が「目に見えないアート」と呼ばれる所以だろう。編集は、エッセンシャル思考の技術である。

不要なものや余分なものを容赦なく削り、作品の本質を取り出す仕事だ。

では、どうすればすぐれた編集技師を見分けられるのか?アカデミー賞の選考をおこなう映画芸術科学アカデミーは、「見せられたものを見ないために懸命に努力する(2)」のだと言う。

言い換えれば、すぐれた編集技師は、重要なものがいやでも目に入ってくるようにするのだ。

余分なものを排して、見るべき要素だけを観客に提示するのである。第6章で、すぐれたジャーナリストは部分の集まりから全体像をつくるという話をした。

意味のある全体像ができあがったら、次のプロセスは余分なものをすべて切り捨てることだ。すぐれた編集技師になって、自分の仕事や生き方を完璧に編集しよう。

ツイッター共同創業者のジャック・ドーシーは、たぐいまれなエッセンシャル思考の経営者だ。

ディナーに同席したとき、彼はCEOの役割を「最高〝編集〟責任者」と定義していた。

別のスタンフォード大学のイベントでは、次のように説明している。

なぜ編集かというと、日々やることは山ほどありますよね。でもそのなかで、本当に重要なのは1つか2つ。エンジニアやサポート担当やデザイナーは次から次へとアイデアを持ちかけてきますが……編集者である自分は、そういう情報のなかから1つのこと、あるいは2つか3つの要素の交点を見つけ出し、それだけを実行すると決めるのです(3)

ただノーと言うだけなら、3歳児にもできる。編集の技術は、ただ減らすことにあるのではない。減らしながら、価値を増やすのだ。

すぐれた編集技師は、余分なものを削ることによって、そのプロットや世界観やキャラクターをいっそう際立たせる。

同じように、自分の仕事や生き方を編集すれば、その成果をよりいっそう高めることができる。

本当に重要なことにエネルギーを集中できるからだ。余分なものを削ってこそ、重要なものを生かす余地が生まれる。

編集は、邪魔なものを削ることによって、エッセンシャル思考の苦労を取り除いてくれる。ある書籍編集者はこう語った。

「僕の仕事は、できるだけ読者にラクをさせることです。その本から得られる情報やメッセージを、間違えようがないほど明確にするんです」

もちろん、編集にはトレードオフがつきものだ。すべてのキャラクターやエピソードを残したいと思う気持ちに反して、編集者はこう問いかける。

「このキャラクターやエピソードは、本当に作品を良くするだろうか?」本の著者や映画の脚本家は、自分が書いたものに強い愛着がある。

自分が長い時間をかけて必死で書き上げたものを、少しでも削るのは心が痛む。それでも、削らなければ本質は見えてこない。

作家のスティーブン・キングもこう述べている。

「大好きなものを殺すんだ。書き手のちっぽけなエゴに満ちた胸がはりさけたとしても。大好きなものを殺すんだ(4)」

目次

編集の4原則を知る

もちろん、仕事や生き方を編集するのは、映画や本を編集するより少々やっかいだ。

時間をさかのぼって自分のセリフを書き直すことはできないし、終わった会議やプレゼンをなかったことにすることはできない。

それでも、編集の4つの原則を知っておけば、人生は今よりずっとクリアになる。

1削除する

編集の基本は、あいまいでわかりにくい要素を排除し、観客や読者の混乱を防ぐことだ。うまく編集された映画や本は、すんなりと頭に入ってくる。

何かを決めるとき、選択肢を増やしたほうが安心だと考える人は多い。だが実を言うと、決断の本質は、選択肢を減らすことにある(5)。

決断(decision)という言葉の語源は、ラテン語で「切る」「殺す」という意味だ。余分な選択肢を断ち切れば、すんなりと決断できる。

かなり魅力的な選択肢だとしても、混乱のもとになるものはすべて取り除いたほうがいい。

魅力的なものを捨てるのはつらいけれど、あとになってみればそのほうがよかったと実感するはずだ。

ここでスティーブン・キングの言葉をもうひとつ。

「書くことは人の仕事だが、編集は神の仕事だ(6)」

2凝縮する

「すみません、もっと時間があればもっと短い手紙が書けたのですが」さまざまなバージョンで伝わっている有名な言葉だ。

何事においても、増やすよりは減らすことのほうが難しい。

ひとつの言葉やひとつのシーンに、より大きな意味を持たせなくてはならないからだ。すぐれた編集者は、言葉を減らすことにこだわり抜く。

この2文を1文にまとめられないか。2語のところを1語で言えないか。

数々の有名書籍を手がけた編集者アラン・D・ウィリアムズは、「編集とは何か」というエッセイで次のように語っている。

「編集者が著者にたずねるべき基本的質問が2つある。

『言いたいことを言えているか?』と『言いたいことを最大限明確かつ簡潔に言えているか(7)?』」言葉を凝縮するとはつまり、言いたいことを最大限明確かつ簡潔に言うことだ。

文章にかぎった話ではない。

起業家のグラハム・ヒルは、ニューヨークの狭いアパートメントに引っ越したとき、自分の持ち物をどうやって凝縮しようかと考えた。

そして工夫した結果、「小さな宝石箱」のような部屋が完成した。そこでは、あらゆる家具が複数の役割を兼ねている。

左側の壁は映画鑑賞のためのプロジェクターになり、その裏には客用のベッドが2つ収納されている。

右側の壁を押すと、たちまちクイーンサイズのベッドが現れる。あらゆるものが最大限に活用され、暮らしに大きく役立っているのだ。

彼はこのアイデアをもとにLifeEdited(人生を編集する)というビジネスを立ち上げ、世の中に画期的なイノベーションをもたらしている。

念のために言っておくが、凝縮の目的は一度に多くをやることではない。無駄を減らすことだ。より少ない言葉でアイデアを伝える。より少ないスペースで快適な生活を実現する。より少ない努力で大きな成果を出す。

つまり人生を凝縮するということは、結果に対する行動の比率を減らすということだ。

そのためには、いくつもの無意味な行動をやめて、重要な行動ひとつに置き換えればいい。

ある企業で働いていた優秀な社員は、毎週のミーティングを必ず欠席し、あとで話のポイントだけ聞いていた(高い評価を得ていたのでクビになるようなことはなかった)。

そうすることで、2時間のミーティングを10分に凝縮し、残りの時間をもっと重要な仕事に費やしたのだ。

3修正する

編集の仕事は、削除と凝縮だけではない。間違いを直すのも大事な役目だ。単純な文法の間違いもあれば、論旨の構成に欠陥が見つかる場合もある。

こうした修正を正しくおこなうためには、文章や作品の全体的な狙いを明確に把握しておくことが不可欠だ。

マイケル・カーンはスピルバーグの作品を編集する際、言われたとおりのことはやらない。スピルバーグが本当に伝えたいことを汲みとり、それを実現させるのだ。

作品の大きな狙いを正確に把握しているから、監督自身が言葉にできない点まで修正することが可能になる。

仕事や生き方でも、自分の本質的な目標を明確にしておけば、それに合わせて行動を修正できる。

自分の行動はきちんと本質目標に向かっているだろうか、と振り返ってみてほしい。もしも間違った方向に進んでいたら、正しく編集し直せばいい。

4抑制する

すぐれた編集者は、作品に手を入れすぎない。何もしないほうがいいこともあると知っているからだ。編集が「目に見えないアート」と呼ばれるもうひとつの理由である。

何でも手術するのが名医というわけではないのと同じで、すぐれた編集者は自分を抑制し、本当に必要なときにしか手を出さない。

抑制すべきところを知っておくと、人生はもっとうまくいく。反射的に手を出すのをやめて、何もしないことを選ぶのだ。

たとえば、社内メールで議論が巻き起こっているとき、反射的に「全員に返信」ボタンを押さない。

ミーティングのとき、よけいな口出しをしない。まずは立ち止まって、様子を見る。すると、全体の流れがクリアになる。

「より少なく」というエッセンシャル思考のやり方は、すぐれた編集術でもあるのだ。非エッセンシャル思考の人は、やたらと何にでも手を出して、いざとなったら編集しようと考える。

だが、編集のタイミングが遅れると、どうしようもなくなって不本意な削除を選ぶことになるかもしれない。

最善の結果を得るためには、こまめに行動を振り返り、小さな編集を積み重ねたほうがいい。

エッセンシャル思考で生きるということは、削除と凝縮と修正を、日々の習慣にすることだ。まるで呼吸するように、自然に生き方を編集しよう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次