はじめに ここ数年、注目を浴びている「 KPI」( Key Performance Indicator)。「業績評価指標」などと訳されますが、この言葉の意味するところを、簡単にまとめると「目標達成度を測るためのプロセスないし結果の指標」と言えるでしょう。 もともと KPIは事業部制とか社内カンパニー制などが流行りだした日本のバブル時期にそのルーツがあります。独立事業部の評価は、その事業部のために投下した資本と、その事業部において各期に回収される獲得利益との費用対効果がその指標になります。 ですが、今、 KPIが注目されているのは、「全社員が経営目標を共有して業績回復に努める」点にあると、筆者は考えています。であれば、 KPIで採用されるべき指標とは、「投下資本対利益率( ROE)」のようなものではなく、利益を生み出すプロセスたる会社のマネジメントと直結するものでなければなりません。 本書は、会社の目標達成度を測るための指標である KPIを、部門別、個人別に設定し、マネジメントサイクルを回すことを「 KPIマネジメント」と位置づけ、自社、自部門の生産性向上、高利益体質実現のためのテーマ設定から、測定、改善までのポイントを、具体例とともにまとめました。 また、 KPIに関するセミナーで、よく聞かれるのが「間接部門のテーマ設定に苦労している」という声です。そこで第 3章では「部門別 KPIテーマ設定例」として、直接部門はもちろんのこと、「人事」「法務・総務・財務・経理」「研究開発」「設計」「購買」「品質管理・品質保証」「生産技術」「生産管理」「物流部」といった、さまざまな間接部門のテーマ設定の例を紹介しています。 これらの内容が、少しでも KPI理解の一助となり、適切なテーマ及び目標値設定・達成を通じて、読者の皆様の会社の継続と繁栄、そして従業員の皆様のモチベーションの維持・向上に資するならば幸いです。マネジメントコンサルタント 堀内智彦
もくじはじめに 1 KPIマネジメントの基本 01 KPIと KGI 02 KPIと目標管理 03 KPIマネジメントとは 04 KPIマネジメントのキーワード ① 限界利益 05 KPIマネジメントのキーワード ② 機会損失 06 KPIマネジメントのキーワード ③ 人件費コスト 07 KPIマネジメントのキーワード ④ 適正人員 08 KPIマネジメントのキーワード ⑤ 直間比率 2 KPIマネジメント 導入・運用のポイント 01導入・運用で成功する4つのポイント 02ポイント ①トップダウン 予算を分解してトップダウンで落とす 03ポイント ②定量化 目標は必ず定量化する 04ポイント ②定量化 機会損失防止、実際損失防止、売上・利益伸長の目標を設定する 05ポイント ②定量化 月次の定量化で人事考課にも活用できる 06ポイント ③業績向上と連動 売上、変動費、限界利益、固定費、営業利益と必ず連動させる 07ポイント ③業績向上と連動 目標設定の具体的手順 08ポイント ③業績向上と連動 結果をプロセスに連動させる 09ポイント ④毎月フォローアップを実施 毎月集計・評価を行う 10ポイント ④毎月フォローアップを実施 「敗者復活制度」をつくる 11ポイント ④毎月フォローアップを実施 原因分析と改善はどうやって行うか 3 部門別 KPI テーマ設定例 01マネジメントを成功に導く 7ステップ 02目的/手段、結果/原因を分けて考える 03「直接部門」テーマ設定のポイント 04「営業部門」テーマ設定のポイント 05「製造部門」テーマ設定のポイント 06「間接部門」テーマ設定のポイント 07「人事部門」テーマ設定のポイント 08「法務・総務・財務・経理部門」テーマ設定のポイント 09「研究開発部門」テーマ設定のポイント 10「設計部門」テーマ設定のポイント 11「購買部門」テーマ設定のポイント 12「品質管理・品質保証部門」テーマ設定のポイント 13「生産技術部門」テーマ設定のポイント 14「生産管理部門」テーマ設定のポイント 15「物流部門」テーマ設定のポイント奥付
01 KPIと KGI ◆ KPIは経営目標、 KGIは財務目標 KPIとは「 Key Performance Indicator」の略で、「重要業績評価指標」を意味します。 KPIに関連して、「 KGI( Key Goal Indicator)」という「重要目標達成指標」をあらわす言葉があります。 両者の関係を整理すると、設定した経営目標に対して、どのような過程を通過すれば達成可能かを洗い出し、その過程をクリアできているか数値で計測するのが KPIです。 KGIは、「 Goal」という言葉が入っているように、経営の最終目標が達成されているかを計測するための指標です。 つまり、「 KGIに到達するための過程として KPIが設定される」のです。 KGIは、経営の最終目標として位置づけられているため、投下資本対利益率である「 ROE( Return on Equity)」を見ることで、把握することができます。 ROEは「獲得利益/投下資本」で求められます。 一方で、 KPIは、「はじめに」でも述べたように、もともとは大企業の独立資本単位(事業部)における業績評価手法として定義されていたものでした。そのため、 KGI同様に、その事業部のために投下した資本と、その事業部において各期に回収される獲得利益との費用対効果を測る ROEが、 KPIの指標として有効でした。 ですが、 KPIを、「経営改善プロセス」において経営者が必要とするマネジメントの指標ととらえると、 ROEを指標とするのは無理があります。 ROEは、投資家(株主)から見た事業の評価、すなわち「結果」という意味合いが強いからです。 すなわち、 KGIは「 ROE =株主・投資家から見た結果目標」、 KPIは「経営者・経営管理者から見た結果及びプロセス目標」と位置づけることができます。
02 KPIと目標管理 ◆ KPIと目標管理は同じもの ・KGI =株主・投資家から見た財務目標 ・KPI =経営者・管理者から見た経営目標 このように整理すると、 KPIは、現在多くの企業に普及している「目標管理」と本質的には、同じであることがわかります。「目標管理( Management By Objectives through Self-control:自己統制を通じた目標による管理)」とは、 P・ F・ドラッカーが提唱したマネジメントツールです。 目標管理が成功するには、職務設計が明確に構築されている欧米型経営において、自己統制による目標設定とその達成プロセスに重点がおかれていることがポイントです。 ですが、日本型経営は、トップダウン型とは言っても、家族的経営を基本とした企業別労働組合制度、終身雇用制、年功序列型賃金体系(定昇とベースアップ)といった強固なチームワークとリーダーシップに支えられたものであり、欧米型経営とは大きく異なります。 そのため、業績達成プロセスにおいて、この点を考慮していない目標管理はまず成功しないと言ってよいでしょう。 さらに、目標管理がうまくいかないのは、日本企業の職務設計が極めて曖昧であることに加え、この目標管理が業績向上というより人事考課の査定に使われている実情があります。 評価が主体となると、個人が達成しやすいテーマを設定し、容易に目標達成はするけれど「業績向上に結びつかない」という極めて残念な結果が生まれます。 また、達成が容易な目標ばかりということは、相対評価においても横並びで、偏差値のような正規分布にはならないことになります。したがって、人事評価においても余計な混乱を招き、人事システム上悩ましい存在になることでしょう。 ボトムアップ型の目標設定は、部門目標の達成につながらず、経営目標達成に向けたマネジメントが機能不全に陥ります。 目標管理を成功させるには、目標設定は、経営目標 →部門目標 →個人目標へとトップダウンで行わなければなりません。当然、業績の達成と整合性があり、予算管理に裏打ちされている必要があるわけです。 目標管理にしても、 KPIにしても、企業の生産性を上げ、利益を生み出すマネジメントツールにするには、ただ目標を設定すればいいのではなく、業績向上に結びつくトップダウン型であること、結果目標とプロセス目標が含まれていること、定量的であるべきことなど、押さえておくべきポイントがあるのです。
03 KPIマネジメントとは ◆ B/ Sをマネジメントして P/ Lを創る 本章の冒頭で、 ROE(投下資本対利益率 =獲得利益/投下資本)は、プロセスを計測するマネジメントツールである KPIには適さないと述べました。 ROEの分子である会社の利益は、「 P/ L(損益計算書)」に計上されます。 ROEの分母である投下資本は、「 B/ S(貸借対照表)」に載っています。 しかしながら、マネジメントの「結果」の集計である財務諸表をいくら眺めて分析しても、利益が増えるわけではありません。 ここで B/ Sと P/ Lの関係を整理しておきましょう。 1年間で集計された P/ Lによって算定された「税引後利益」は、未処分利益として計上され、「利益処分案」としてその後、株主総会の決議を経て、配当や役員賞与などが行われます。 そしてこれら社外流出以外の残額は「剰余金」として、 B/ Sの「純資産の部」に蓄積され、黒字計上を重ねながら純資産の部が増大して、財務体質が強化されていきます。「当期首 B/ S」 →「当期 P/ L」 →「期末 B/ S」 つまり、「 1会計期間で獲得した利益( P/ L)が期末 B/ Sのインプットになる」わけです。 そして、肝心要の「当期 P/ Lの利益」を生み出すプロセスこそが「マネジメント」なのです。「マネジメント」とはとても簡単に言うと、「企業利益を生み出すために、与えられた『経営資源(ヒト・モノ・カネ)』をうまくやりくりする方法論」に他なりません。【当期首 B/ S(資本)】 →【「当期 P/ L」プロセス →マネジメント →利益】 →【期末 B/ S(資本)】の循環をきちんと押さえることが、 KPIを理解するうえで、極めて重要なポイントです。 KPIの本質とは、期末 B/ S(資本)を「マネジメントプロセス」にインプットすることにより、経営資本を間接的に人的資源に投資し、ヒトのパフォーマンスを上げて利益を生む P/ Lを創り出す、この好循環を構築することなのです。 ◆注目すべきは人件費投資効率 会社を株主のものとして評価指標を考えると自己資本利益率「 ROE」が主体となります。しかし、現実的にはマネジメントプロセスにおいて、実際に働いているヒトにパフォーマンスを上げてもらわないと、会社は利益を出すことができません。 ヒトに着目し、スループット(付加価値)の最大化を目的としたマネジメントを行うためには、「人件費投資効率」に着目する必要があるのです。人件費は「 Labor Cost」ですが、筆者はコストではなく投資ととらえてます。 この人件費投資効率は、 ROEに対して、「 ROH」と位置づけられます。 ROH( Return On H( Investment for Human))は、経営者(マネジメント)から見て、人件費を投資と位置づけたときの利益(リターン)であり、健全経営の指標は「 ROH」が 200%以上です。 企業利益の源泉は売上ではありません。売上は確かに必要条件ですが、利益の源泉は「限界利益(付加価値)」です。すべての企業では「限界利益を最大化すること」が求められています。 企業利益を生み出す必要条件はマーケティングとイノベーションと言われます。確かにこれらは重要な手段ですが、一番大切なものは企業に属するモチベーションの高い「ヒト」集団のチームワークとリーダーシップです。 そして、ヒトに対するモチベーションを維持・向上させるものは何といっても、その評価と報酬です。報酬は決算書にあらわすと、固定費たる「人件費( H)」です。 「ROH」 =「人件費投資効率」 =「限界利益/人件費」 200% が企業継続の必須条件です。 ここまでをまとめると、「マネジメントとは、投下した人件費の少なくとも 2倍の『限界利益(付加価値)』を稼ぎ続けることによって、社員のモチベーションを維持し、それを達成する手段として、経営管理者が与えられた『経営資源(ヒト・モノ・カネ)』をうまくやりくりする方法論」であると言えます。 会計的・定量的に考えても、毎期継続して「限界利益/人件費」 200%を達成することがマネジメントの目的であり、その具体的方法論として「 KPIマネジメント」が必要とされているのです。 なお、 ROHは 200%超が企業継続の必須条件ですが、これが会社平均で恒常的に 400%に達していると、賃金水準が低すぎて、そのことが社員のモチベーションを低下させている可能性があります。
04 KPIマネジメントのキーワード ①限界利益 ◆すべての業種の収益構造がわかる絶対的指標 KPIマネジメントを導入・運用するうえで重要なキーワードをいくつか押さえておきましょう。まずは、前項で登場した「限界利益」からです。 事例で考えてみましょう。 同じ商店街のお隣同士で営業している、美容院( A社)と寿司店( B社)。両社とも年商が 1億円。 A社は、社長以下 6名が、 B社は大将以下 3名が働いています。 年商が同じで、業種が違う会社の収益構造を探るとき、役に立つのが限界利益です。それでは一体、この A社と B社、どちらが儲かっているのか、見ていくことにしましょう。 まず、年商 =売上高です。売上高は、お客様からいただく収益・収入であり、このケースでは、両社とも 1年間に 1億円の売上高を獲得するので、差はつきません。 次に、この売上を稼ぐために直接かかった原価を考えるのがポイントです。お客様が美容院で施術を受ける「サービス業」と、お鮨を食べたりお酒を飲んだりするという「飲食業」の違いでもあります。 一番の相違点は、「仕入 =売上原価」の多寡です。 美容院においては、販売目的のシャンプー・リンス、化粧品などを仕入れる必要はありますが、カットやパーマなどは、そもそも仕入がありません。一般的な美容院では、これらの施術売上が大多数を占めると考えると、直接かかる原価は、シャンプーやリンス、パーマに使う薬剤や、タオルなどのリネン類や消耗品が主体となります。これらのように、「お客様が来店したとき =稼動したとき =売上計上したときに」直接発生して、その売上にある程度比例する「ひも付きの費用」のことを「変動費」と言います。 それでは、寿司店ではどうでしょうか? 売上に「直接ひも付く費用」が、おつまみやお鮨のネタとして欠かせない食材(鮮魚など)になります。これらの購入原価を〝仕入〟と呼びます。仕入はもちろん売上に連動するので売上原価たる「変動費」です。 この「売上」から「変動費」をマイナスしたものが、「限界利益(付加価値)」です。 A社と B社では、業種の違いから、売上に対する変動費の割合が異なります。 この割合を変動費率(変動費額 ÷売上高)と呼び、仮に A社の変動費率を 10%、 B社が 40%とします。 ここで、限界利益率( 100% −変動費率)を計算すると、 A社 90%、 B社 60%となり、限界利益は、 A社が 9000万円、 B社が 6000万円となります。 会計上、売上は利益ではありません。売上に次いで、最初でかつ最大の利益のことをこのように「限界利益」と呼ぶのです。 製造業では「付加価値」と考えてよいでしょう。 小売・サービス業においては「限界利益 =付加価値 =粗利益 =売上総利益」であり、この限界利益がその後負担するものは、固定費と営業利益ということになります。「限界利益 =固定費 +営業利益」です。さらに、固定費の内訳を見ると「固定費 =人件費 +物件費」です。 A社、 B社の年間 1人あたりの限界利益額を比較すると、「 A社 9000万円 ÷ 6人 = 1500万円」「 B社: 6000万円 ÷ 3人 = 2000万円」なので、 B社の方が儲かっている、あるいは給料が高いと推定することができるわけです。 このように、限界利益額はすべての業種・規模において比較可能な絶対的指標です。 ◆業種別の限界利益率を把握する方法 この限界利益率ですが、業種によって、おおよその傾向があります。 このことは、消費税の簡易課税制度における「みなし仕入率」において明示されています。みなしとは、個別に経費を積み上げる原則方式に対して、計算を簡便にするために、売上にこの「みなし仕入率」を掛けて課税仕入額を算定するものです。 みなし仕入率は、例えば、卸売業なら 90%(付加価値率 10%)、小売業なら 80%(付加価値率 20%)、製造業なら 70%(付加価値率 30%)という具合です。 このようにして、業種と売上、そして従業員数がわかれば、その会社の大体の収益力が推定できるのです。
05 KPIマネジメントのキーワード ②機会損失 ◆会社には年商の 10%のムダがある あらためて、言うまでもなく、マネジメントの最大の敵、それはムダです。 マネジメントでは、ヒトをはじめとする経営資源を投入し、スループット(付加価値)の最大化を目的とするわけですから、当然と言えるでしょう。 一方で、ムダというものは、見つけづらい、把握しづらいものでもあります。 これを、定量化、すなわち見える化することが、 KPIマネジメントを行ううえでは、非常に重要になります。 それでは、会社には一体どれくらいのムダが潜んでいるものなのでしょうか。 モトローラやソニーなどで導入して成功したとされる「シックスシグマ」というマネジメントツールでは、企業のすべてのプロセスにおいて発生するミスを積算すると年商の 10%以上に達すると結論づけられています。 一方で、このデータを経営者に提示すると、ほとんどの方が「ムダはあるとは思うが、そんなにたくさんはない」と即答されます。果たしてそうでしょうか? この年商の 10%以上という数字ですが、企業のムダには「実際損失と機会損失」という 2種類があることがポイントです。実際損失とは、「製作ミスをしてクレームとなり、材料費損失とクレーム処理費用が発生した」というケースで、このような場合、会社からお金が出て行くので、この実際損失を会社は認識できます。 他方、機会損失は見逃されがちで、この損失を認識していない、というよりも定量化できていないために認識できないことが、「うちには年商の 10%のムダはない」という発言につながるのです。 ◆機会損失を定量化する では、この機会損失をどのようにすれば定量化できるか。次の例で考えてみましょう。 あるワゴン販売のお弁当屋さんでは、毎日朝から仕込みをして、価格は高めですが素材にこだわった手作り「特選弁当」を近くの公園で販売しています。 毎日の販売目標数 100個に対して、次の2つのケースで、損失金額を考えてみましょう。 弁当 1個あたりの売価は 1000円、材料費(原価)は 600円とします。 場所の制約から、販売時刻は 11時 30分〜 14時です。 【ケース A】 14時(販売終了時刻)に 50個売れ残った場合 【ケース B】 12時(販売開始後 30分)に 100個完売した場合 ケース Aでは、損失金額は、材料費の「 600円 × 50個」で、 3万円です。 ケース Bは、売れ残りはないので実際損失はゼロです。 ですが、ケース Bで、当日公園で特別なイベントがあり、完売した 12時の時点で行列が 100人続いていたとするとどうでしょうか。 あと 100個作っていれば、売れたのにと考えると、「利益 = 1000円 − 600円」なので、損失金額は、「 400円 × 100個」で、 4万円となります。ただし、この損失金額は会社から、実際にお金が出て行くことはありません。お金が入ってこない「機会損失」です。 このように企業経営におけるムダは次の2つの損失で構成されています。 ●実際損失:会社からお金が出る損失 ●機会損失:会社にお金が入らない損失 これらの合計が年商の 10%以上ということであれば、どの会社にも改善の余地があることが理解されると思います。
06 KPIマネジメントのキーワード ③人件費コスト ◆人件費コストは 1秒イコール 1円 企業の機会損失において、特に認識が薄いと思われるのが「人件費コスト」です。 ここで登場するのが、「 1秒 = 1円」という考え方です。 例えば、製造業などは、「 1秒 = 1円( 1時間 = 3600円)の人件費(原価)がかかっている」と考えるとわかりやすいと思います。 人件費の内訳は次のとおりです。人件費 =給与手当 +交通費 +法定福利費(労働保険・社会保険の会社負担分) +賞与負担額 +退職給与負担額 +福利厚生費等の合計額 時間あたりの人件費コストは、総人件費を総投入時間(総投入工数)で割って計算します。例えば、人件費総額 1・ 8億円、人数 25名の会社ならば、 総人件費 1・ 8億円 ÷総投入工数(稼動日数年間 250日 × 1日 8時間 × 25名) で、 1人、 1時間 3600円( 1秒で 1円、 1日で 2万 8800円)です。 このように考えると、あらゆる仕事の〝人件費コスト〟を把握できます。 就業時間中に 10名の社員が 2時間の会議をして、結論が出なかった場合には、 10名 × 3600円 × 2時間 = 7万 2000円 の機会損失(人件費コスト)が生じたと考えることができるのです。
07 KPIマネジメントのキーワード ④適正人員 ◆適正人員の求め方 それでは人件費コストと関連して、「適正人員」について考えてみましょう。 売上 10億円、限界利益 6億円、営業利益 1億円の C社の平均給与(年収)が 400万円だとした場合、この会社の適正なスタッフ数は何人でしょうか。 この会社がどんな業態を営んでいるかによって正解が変わってくるとは思いますが、財務的・管理会計的に考えると、ある程度答えが推測されます。 平均給与(平均賃金)は「給与総額 ÷従業員数」で求められます。 平均人件費は「人件費総額 ÷従業員数」で求められます。 ここで注意したいのは、「給与 ≠人件費」であることです。 給与と人件費の関係ですが、給与の 1・ 2〜 1・ 5倍が人件費です。 このとき、給与とは総支給額(税込金額)です。 この 1・ 2〜 1・ 5の割増係数がある理由は、法定福利費(労災保険、雇用保険・健康保険・厚生年金の事業主負担分)に加え、就業規則や賃金規定による賞与月次負担分と退職金負担分、さらに、福利厚生費(食事補助や制服支給分など)などが加算されるからです。そして、企業によってその内容や金額が異なるため、割増係数の 0・ 2〜 0・ 5の負担率が変動します。 どのような規模・業種・業態の企業でも、比較可能な唯一の財務指標は「限界利益(付加価値)」であると説明しました。 そして、給与の元になる原資が「限界利益」であることも述べました。 C社の平均給与は 400万円、給与と人件費の換算比率を仮に 1・ 25とします。 平均人件費 =平均給与 × 1・ 25 = 400万円 × 1・ 25 = 500万円 ここで固定費を推定します。 管理会計では、 売上高 −変動費 =限界利益 限界利益 −固定費 =営業利益 です。そうすると、 限界利益( 6億円) −固定費 =営業利益( 1億円) ∴固定費 = 6億円 − 1億円 = 5億円 です。さらに、「固定費 =人件費 +物件費」ですが、この会社の「人件費:物件費」を「 1: 1」と仮定すると、 固定費 = 5億円 = 1: 1 = 2・ 5: 2・ 5(人件費:物件費) ∴人件費 = 2・ 5億円 平均人件費が、 500万円となるので、 適正人員 =総人件費 ÷平均人件費 = 2・ 5億円 ÷ 500万円 = 50名 となります。 ここでのポイントは、人件費と同額の物件費があると仮定していることです。 これは設備投資を前提としているので、サービス業などではこの比率は変わってきます。 いずれにせよ、 C社の人員が 50名以下であれば、適正、反対に 50名超であれば、過剰である、ということがわかります。
08 KPIマネジメントのキーワード ⑤直間比率 ◆直間比率は労働生産性から逆算する 適正人員数とのかかわりで、多くの経営者・経営管理者が頭を悩ませる、「適正な直間比率(直接部門と間接部門の比率)」についても、考えてみましょう。 直間比率の、絶対的な指標はありませんが、安定的な経営を考えるのであれば、「労働生産性」から逆算するとその答えが見えてきます。 労働生産性とは、 1人あたり年間の付加価値額、すなわち限界利益額です。 労働生産性(年額) =限界利益 ÷人数 前項の C社で計算すると、労働生産性は、「限界利益 6億円 ÷ 50名」で、 1200万円(年/人)です。 ちなみに日本の労働生産性( 2013年度)は、公益財団法人日本生産性本部によると約 764万円。 OECD加盟国 34カ国中 22位(先進 7カ国で最下位)と低迷しています。 その低迷理由としては、「日本の人件費が高いから」となりがちですが、実は、この式には人件費は出てきません。 ほんとうの要因は、分母である人数にかかる人件費に比べて、それらが創出する分子(付加価値・限界利益)が低すぎることにあるのではないでしょうか。 日本では「ホワイトカラー」の生産性が低いと言われていますが、その論理的根拠は、労働生産性と同様に、「(労働)生産性 =アウトプット/インプット =限界利益/人数」と考えれば、間接部門は付加価値を生んでいるものの、その金額には自ずと限界値があり、それに対して投入する人数・人件費が相対的に多いからでしょう。 つまり、労働(就業)人口のうち、直接部門:間接部門の割合(直間比率)において、間接割合が高いわけです。 端的に述べてしまうと、事務作業を中心とした付加価値をあまり生まない仕事に対して、多数の労働者が従事しているのが、その原因の主たるものです。 ◆直接部門が稼がなければいけない額とは 日本の労働生産性 764万円という金額を月額換算すると、約 64万円( 764万円 ÷ 12カ月)です。この労働生産性の金額は、個人企業や大企業などすべて含まれている GDP(国内総生産 =総付加価値)と就業人口を元にしていると思われますので、企業規模・業種・業態によってかなり変わるはずですが、日本企業の総平均として参考になります。 前述の C社は労働生産性 1200万円(月額 100万円)、経常利益 6000万円(納税額は約 2400万円)ですから、この財務資料だけで見ると、企業業績・平均賃金(人件費)・納税額ともに売上 10億円規模ながら、優良企業・健全経営と言えると思います。 管理会計上では、現在の間接割合は決して高いわけではありません。ただし、工夫次第では改善の余地はありそうです。 従業員数 50名のうち、役員を含む総務部門のスタッフが 10名とします。 間接部門は付加価値を生まないと考えた場合、残り 40名の直接部門のスタッフは、いくら限界利益(付加価値)を稼がなくてはならないか――直接部門も間接部門も人件費の平均額は変わらないものとして考えてみましょう。 従業員数 50名(うち間接部門 10名)で、限界利益が 6億円。これを 40名で稼ぐことになりますから、直接部門の労働生産性は、 6億円 ÷ 40名で 1500万円です。 平均人件費が 500万円ですので、このケースだと、直接部門のスタッフは、 人件費投資効率 = 1500万円 ÷ 500万円 = 300% つまり、人件費の 3倍稼がないと、間接部門のスタッフの人件費を賄うことはできません。 もしもこの会社が、間接部門の業務を改善して、その人員を直接部門に異動して直接部門の人員を増やし、限界利益(付加価値)が増える可能性があるのであれば、現在の直間比率である「 40: 10」、すなわち間接部門比率の 20%が適正であるか、検討する余地が出てきます。 会社によっては、プレイングマネージャーである直接部門の管理職を間接人員とカウントすることもあるため、このあたりは、実態に即して考える必要があるでしょう。 このようにして、機会損失や、人件費コスト、適正人員、適正直間比率について定量化することは、ヒトのパフォーマンスを改善することによって利益の最大化を目的とするプロセスマネジメント、すなわち KPIマネジメントにとって、必要不可欠な視点なのです。
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