ここまで見てきたように、リラックスしながらも生産性を発揮するための鍵は2つある。1つは望んている結果を明確にし、その達成に近づくために次にとるべき具体的な行動を定義することだ。
もう一つは、それらを定期的に確認し、更新するためのリマインダーを信頼できるシステムに組み入れることである。私はこのプロセスを「気になること」を広く見渡しつつ先を見通していくという意味で「水平的な視点」と呼んでいる。
一見シンプルなやり方ではあるが、実践してみると驚くような成果が上がることが少なくない。
″垂直的な視点″を取り入れる
この水平的な視点を身につけていれば、ほとんどの場合はうまくいく。しかし、もう一つ上のレベルでうまくやりたいときもあるだろう。そうしたときに役立つのが「垂直的な視点」だ。
この視点では、より高いレベルからさらに段階的に「気になること」をとらえなおし、その結果を自分の分のシステムに組み込んでいくことになる。「水平的な視点」も「垂直的な視点」も知識労働に欠かすことがきない、あなたが身につけておくべき習慣である。
「垂直的な視点」といっても、それほど複雑な考え方ではない。カフェでちょっとした紙切れと ペンさえあればできるようなものだ。この思考プロセスは実に簡単なものだが、「費やした労力から」考えると、本当に素晴らしい成果をもたらしてくれる。
もちろんもっと詳細な計画を練って必要な要な要素を整理し、きちんとした優先度を決めなくてはならない場合もあるだろう。大規模なプロジェクトをチームで進めるときや、投資家を納得させられるような事業計画書を書かないといけない場合などだ。しかし通常は、ちょっとした紙とペンさえあれば事が足りるのだ。
思考プロセスというと、なんだか学術的だったリプロっぽかったりして難しそうに思えるかもしれない。しかし私が考えるに、日常的な物事を整理するためのカジュアルな思考プロセスこそが、現代に生きる人々にとって必要だと思う。きちんとした会議やプロジェクト管理ツールも有用ではあるが、それだけでは十分ではない。
結局はささっと紙に書き出せるような気軽な思考が最後には必要になってくる。そうしたちょっとした思考法を身につけることでやるべきことがはっきりし、物事をコントロールしているという実感を得られるようになるはずだ。
また多くの会議では、今やっていることのそもそもの理由を議論する時間が確保できてないかったり、ブレインストーミングをする時間が十分になかったりして、その結果、もっと楽しくて収益性の高いアイデアを出すことができない場合もある。さらに次にとるべき行動をきつちり決定するまで至らない会議も実に多い。
だが、悲観することはない。やるべきことについて建設的に向き合い、最小限の努力で最大限の成果を生み出していくのに必要な思考プロセスをここで紹介していこう。
このプロセスは脳にとってきわめて自然(ナチュラルな思考法だが、なぜか残念なことに仕事の現場で行なわれている思考プロセスとは異なっている(理由はあとで述べていく)。
意識的にこの「ナチュラル」な思考プロセスができるようになることこそが、ストレスを軽減し、よりよい成果を上げる秘訣だと私は考えている。
ナチュラルプランニングモデル
何かを達成したいとき、もっとも効率的かつ創造的に問題解決への計画を立てられるのが誰かご存知だろうか。それはあなたもよく知っている人物……そう、あなたの脳である。
脳という器官はひっきりなしに計画を立てて物事を解決しようとする。服を着ているときも、ランチを食べているときも、買い物をしているときも、おしゃべりをしているときも、あなたの脳は常に計画 を立てている。
一見、この脳の働きは行き当たりばったりに思えるが、実際は次の高度な5つのステップを経て、具体的な行動へと結びついている。
- ①目的と価値観を見極める。
- ② 結果をイメージする。
- ③ ブレインストーミングをする。
- ④思考を整理する
- ⑤次にとるべき行動を判断する。
わかりやすい例¨夕食の計画
最近夕食を食べにいったときのことを思い出してほしい。あなたがそうしようと思った理由は何だったろうか。空腹を満たすため、友人との親交を深めるため、あるいは、お祝い、商談、 デートといつた、さまざまなモチベーションがあったはずだ。
こういったモチベーションが高まると、脳は計画を開始する。それがなんであれ、夕食を食べに行こうと持った理由が「目的」となり、計画のプロセスが始動しはじめる。次に、自分の「価値観」を考慮して計画の大枠が決められる。
あなたはほぼ無意識のうちに、どういう夕食を食べたいか条件を設定したはずだ。
食べ物やサービスの質、料金、場所、快適さなどだ。こうした「目的と価値観」の見極めがまず 脳の中で行なわれる。
次にあなたが考えるのは何だろうか。おそらく「この前行ったあの店でイタリアンを食べよう」「窓際のテーブルを選ぼう」といったことだろう。
また、一緒にいる人の表情やその場の雰囲気、夕食後の状態まで想像した人もいるだろう。つまり「結果をイメージした」のだ。
目的と価値観を見極め、結果をイメージしたあとにあなたの脳は何を考えるだろうか。おそら く「何時にしようか」「店は開いているだろうか」「混んでいるかな」「天気は大丈夫かな」「着替 えたほうがいいかも」「車のガソリンは大丈夫だよな」「どのくらい食べようかな」といった、さまざまな思考が浮かんできたはずだ。これが「ブレインストーミング」である。
これらの疑問は特定の結果を得ようとしているときに自然に起こってくる創造的な思考プロセスだ。あなたの脳は望んでいていることと現状の間にギャップがあることを認識し、そのギャップを埋めるための手段を自動的に模索し始める。
こときの脳は、かなり自由にさまざまなことを思い浮かべているはずだ。
そこで次のステップだ。十分な数のアイデアが浮かんできたら、あなたの脳は自動的にさまざまな基準で「整理」しようとする。
目的を達成するにはどういう要素が必要か(いっしょに行く人、場所、時間、レストランの種類など)、どういう優先順位を考慮すべきか(2人で行くよりも誰かを誘ったほうがいいのではないか)、どういう順序で行なうべきか(まずは店に電話し、次に電車の時間をチェックしよう)といつた具合だ。
ここまで思考が整理されたら、あなたの脳は「次にとるべき行動」について考えはじめることになる。「店に電話して予約を取る」といったものがそれにあたるだろう。
ここではわざと丁寧に見てきたが、この5つのステップは我々が日常行っているあらゆる行動に関してごく自然に行われている。まず何かが起こって欲しいと望む。ついでその結果をイメージする。さらにそれに関するさまざまなアイデアを思い浮かべ、それらを整理する。
そして、望んでいる結果を達成するのに必要な行動を決めるのである。あなたはこれらを、とくに意識することなく行なっているはずだ。
仕事の現場ではどうか?
ここで紹介した5つのステップはいかにも自然で、「当たり前じゃないか」と思えるかもしれない。ただ、ひるがえってあなたの仕事のやり方を考えてみよう。
会社のIT部門が新しいシステムを導入するときに同じような思考プロセスを経ているだろうか。会社の合併についてはどうだろう。
達成しようとしていることのそもそもの目的と価値観を見極め、関係者全員にきちんとそれを伝えられているだろうか。また、成功したときのことをイメージして、そのときにおこりうる様々な結果を思い描いただろうか。もしくはすべてのアイデアや可能性を洗い出し、結果に影響を与えそうなことを残らず考慮しただろうか。また、目的を達成するために次にとるべき行動を決定し、誰がそれに責任をもつかをきちんと決めただろうか。
あなたもおそらくそうだと思うが、私が指導した人の多くは、これらの質問に対して「きちんとはできていないかな……」と自信なさげに答える。少なくとも一部のプロセスが欠けているのである。
私はよくセミナーで、「現在、仕事で抱えている「プロジェクト」について、この5つのステップを当てはめてみてください」と参加者を促している。するとたった数分の作業であったにもかかわらず、そこで大きな成果が得られることがしばしばある。これまで苦労していたのが嘘 みたいだと驚く人もいる。
ある男性はセミナーのあとで私のところにやってきて、こう言った。 「感謝したいような腹立たしいような複雑な気持ちですよ。何力月もかかると思っていた事業計画がたった今できてしまいました。もうやらないわけにはいきません」
あなたも、今すぐ試してみるといい。新しいプロジェクトや、なかなか進まないプロジェクト を一つ選び、その目的を考えてみてほしい。次に、それが成功したときの結果をイメージしてみよう。あなたをとりまく状況はどうなっているだろうか。財務状況は? 知名度は,・自由に想像してみよう。
さらにブレインストーミングをして、出てきたアイデアを整理してみよう。そのうえで、次にとるべき具体的な行動を決めるのだ。どうだろう。望んでいる結果に向けてどうアプローチしていけばよいか、すこしははっきりしたのではないだろうか。
″ナチュラルではない″プランニングモデル
ここで、ナチュラルプランニングモデルの効果を実感してもらうため、私たちが仕事の現場で 「普段」使っている「ナチュラルではない」プランニングモデルと比べてみることにしよう。
″いいアイデア″が悪いアイデアになるとき
「これについて何かいいアイデアがあるかな?」 ミーティングの最初によく聞かれる台詞である。
しかし、ここで問題なのは、出てきたものがいいアイデアかどうかを判断するには、目的が明確になっていなければならない点だ。まずは目的を定め、望んでいる結果をイメージし、それに関するあらゆるアイデアをかき集め、整理しておく必要がある。
「いいアイデアはないかな?」 は悪くない質問だが、思考プロセスが8割がた終わった時点でないと意味がない。いきなリアイデアを出せと言っても、創造力は空回りするだけである。
先ほど見たような、脳にとって「ナチュラル」な思考プロセスとは異なるアプローチで何かを達成しようとしても、なかなかうまくいかない。
困ったことに多くの人がこのアプローチをとっ ているが、たいていはあやふやな結果に終わり、ストレスばかりが溜まっていく。
さらに、テー ムでやっている場合は、自己主張やさまざまな思惑などもからんできて本来の議論ができなくなり、結局、いちばん弁の立つ人の独壇場になることも多い。自分1人の場合でも同じだ。目的を考えて結果をイメージし、さまざまな可能性を洗い出す前に「いいアイデア」を思い浮かべよう としても、ほとんどは不発に終わる。
リアクション型プランニングモデル
こうした経験が積み重なってしまうと、どうせ成果が上がらないだろうから……という理由で参加者はミーティングをいやがるようになる(もしくはぎりぎりまでやろうとしない)。
そうなるとどうなるだろうか。そう、「危機的状況」が発生するのだ。「え、まだやっていないの? 君がとっくにやったと思っていたのに―」といった、組織内でよく遭遇するあれである。こうして切羽詰まったときに動き出すのが「リアクション型プランニングモデル」である。
追い詰められたときにあなたがまず考えることは何だろう。そう、行動することである。
もっとがんばって残業し、もっと人数を増やして、何とか達成しようとするわけだ。そこには、 ストレスが溜まりに溜まった人たちが投入されていくことになる。
しかし、そういう人たちが罵り合ったところで状況が好転したりはしない。やがて多少気の利く人間が「まずは問題を「整理」しよう」と声をあげ、みんなが問題点を指摘し、丸や四角でグループ分けをし、どう問題を整理すべきかをごちゃごちゃと議論しつづけるようになる。
しかしある時点で、それでは問題が解決しないことに気づく。そしてもっと気の利いた人が、 建設的に考えないとだめだと指摘する。「よし、解決案について「ブレインストーミング」をしてみよう」となるわけだ。このあたりで部長がしゃしゃり出てきて、「誰かいいアイデアはないのか」とはっぱをかけはじめる。
そこまでやってもたいした進展がなければ、部長は「どうやらここらが君たちの限界だ」と宣言し、コンサルタントを雇う。コンサルタントに報酬に見合う能力があればやがて1つの疑問を提起するだろう。
「で、結局何をしようとしているのですか?」。ようやく、「目的」と「価値観」にたどりついたわけである。
ナチュラルプランニングのテクニックーー5つのステツプ
言うまでもないことだが、ここではつきりと指摘しておこう。プロジェクトや状況について考えるときに効果的な思考プロセスを身につけていると、物事をより素早く、好ましいかたちで進めていくことができる。
脳の自然な思考プロセスから我々は何を学びえるだろうか。効果的に思考を展開し、よりよいアイデアを出すために、このモデルをどう活用すべきだろうか。 ここで、ナチュラルプランニングの5つのステツプをどう活かすことができるか、それぞれに ついて詳しく見ていこう。
目的と価値観を見極める
「なぜそれをするのか?」という質問をして損をすることはない。この質問をすることによって今の状況が前進したり、前向きのエネルギーが湧いてくることもよくある。
次の会議はなぜ必要なのか。このタスクの目的は何か。なぜ友人を夕食に招待するのか。なぜ代理店を使わずにマーケテイング部長を雇うことにしたのか。この組織で生じている状況に対してあなたはなぜ何もしないのか。なぜこの予算が決められているのか……あなたの生活の中には無限の「なぜ?」が存在する。
そんなことは当たり前じやないか、と思う人もいるだろう。そのとおりだ。ただし、何かを成し遂げようとする際に、適切な部分に焦点を当てつつ、創造的に物事を進展させ、協力を得るためには、「なぜ」それをするのかをしっかりと理解することが最たる指針となる。
そしてこれは 実際にはあまり実践されていない思考でもある。いったん物事にとりかかってしまうと、その形式にとらわれてしまい、本来の意図が忘れ去られてしまうことがよく起きるからだ。
様々な会社で優秀な人たちと一緒に何千時間も費やしてきた経験上言えることだが、「なぜ、それをするのか?」は、決して忘れてはならないことだ。
会議が多すぎると不満を漏ら す人たちに対し、私は「なぜ、この会議は開かれているのですか?」と聞かねばならない。「戦 略ミーティングには誰を呼べばいいでしょうか」と聞かれたら、私は「そのミーティングの目的 は何ですか?」と聞き返さねばならない。
もしくは「休暇中も仕事を気にかけてメールをするべきでしょうか」と質問されたら、私は「休暇のいちばんの目的は何でしょうか?」と聞き返すだ ろう。「なぜ」それをするのかがわからないと、彼らの質問に対して適切に答えることができないからだ。
「なぜ」を考えることの価値
「なぜ」それをするのかを考えることのメリットをいくつか挙げてみよう。
- 成功の基準が定まる。
- 意思決定の基準ができる。
- 必要なリツースがわかる。
- モチベーションが上がる。
- 焦点が明らかになる。
- 選択肢の幅が広がる。
ではこれらを一つずつ見ていこう。
成功の基準が定まる
現代社会では、誰もが「勝ちたい」と思っている。みんなが勝負が好きで、勝ちたいと思っているか、少なくとも勝てる位置にいたいと思っている。だが、自分のしていることの目的がはっきりとわかっていなければ勝てる見込みはない。
目的がはっきりすると、成功の基準がはっきりしてくる。選挙への出馬の決定であろうと書類のデザインであろうと、時間や労力を注ぐ際のいち ばんの基準となるのがその目的である。
会議の目的が何だったのかがわからないと、その会議がうまくいったと納得することはないだ ろう。枕を高くして寝たいなら、「どうしてマーケティングの責任者を解任したのか」「あのやり手のMBAホルダーを新しい財務部長に雇ったのはなぜだね」と役員に聞かれたときに適切な答えを返せなくてはならない。
意思決定の基準ができる
予算を増やしてカタログを5色にするべきだろうか、それとも2色のみにしておくべきだろう か。新しいウェブサイトの制作に大手デザイン事務所を使うべきだろうか。娘を私立の学校に行 かせるべきかどうか……。こういった意思決定はどうやって行なえばよいのだろう。
結局は、何が目的かによって決まる。達成したい目的からその投資が必要かどうかを考えればよい。目的がわからないとそもそも判断することができないのである。
必要なリソースがわかる
割り当てられた予算をどのように使えば良いだろうか。この先1年、小売業者としての存在感を最大限に発揮していくには、今の時点でどのようにキャッシュフローを活用すればよいだろう か。毎月の昼食会や講演の設定にもっと多くの予算を充てるべきだろうか。いずれのケースも、 達成しようとしている目的、つまり「なぜ」がわからないと答えが出せないだろう。
モチベーションが上がる
適切な理由がなければ、何かをする意味などないだろう。私がクライアントを指導する中でわかったことだが、「なぜ」それをしているのかを忘れている人が多すぎる。また、私が「なぜそれをしているのですか」と聞くだけで、すぐにやる気を取り戻す人が多いことにもいつも驚かさ れている。
焦点が明らかになる
何をするにせよ、本来の目的がなんなのかに思いが至ると、いろいろなことがはっきりと見えてくる。数分だけ時間をとって主な目的を書き出してみるだけで、カメラのピントがぴったり合うかのように視界がはっきりしていくる。
プロジェクトや状況が混乱していると感じられるときに は原点に立ち返り、ほんのすこしだけでも「なぜこれをしているのか?」と考え直してみよう。 それだけでうまくいくことも多い。
選択肢の幅が広がる
逆説的だが、目的を考えると焦点が定まる一方、創造的な思考ができるようになって可能性の幅が広がってくる。
カンフアレンスにせよ、会社のパーティにせよ、管理職のリストラにせよ、 根本にある「なぜ」をきちんと理解すると、望んでいる結果を導くにはどうすればよいかについて自由に考えられるようになる。私のセミナーでも、参加者にプロジェクトの目的を書き出してもらうと、爽やかな風が通り抜けたかのようにすっきりした顔になる人も実に多い。
あなたは今やっていることの具体的な「目的」をしっかりと理解しているだろうか。目的にしっかりと焦点が向けられていれば、モチベーションが高まり、どうすればよいかがわかってくる。
また、意思決定の基準ができて足並みが揃い、創造的な思考ができるようにもなる。こういった恩恵を存分に得られているのであれば、具体的な目的がわかっている証拠だ。
しかし、目的を言葉にしてみても、たいていは曖味で、なかなかこのような恩恵が得られないのが実情だ。 たとえば、「よいチームを作る」は、目標としては大ざっぱすぎるだろう。
「よいチーム」とはなんなのかまで踏み込まねばならない。
やる気のある人たちが健全なかたちで協力し合い、積極的に物事に取り組むチームだろうか? 予算内に収めることのできるチームだろうか? つまり、どういう状態になれば目的を達成したことになるのかがわかっていないと、現実的な指針としては使えない。「どうなっていたら目的から外れているのか?」という質問にも明確な答えが出せな くてはならない。
自分の価値観
目的と同じぐらい大事なのが、あなたがもつさまざまな価値観だ。なかなか意識的に考えることはないが、価値観は必ず自分の中に宿っている。
価値観が冒されると、生産性が阻害されてストレスを抱えることになる。自分の価値観を知るには、次の文の「……」に何が入るかを考えてみよう。「……である限り は、みんな自由にやってくれていい」。
あなたのテームの活動には、どのような方針が該当するだろうか。「予算内に収まっている限り」か。「クライアントが満足している限り」か。もしくは、「チームが健全である限り」か。
自分の価値観にそぐわない行動をとる人がいたり、それを許す人がいたりすると、大きなストレスの原因となる。
こういった問題にわずらわされることがないとすれば何とも幸運な話だ。
しかし、こういった困った状況があるのなら、建設的な話し合いを通じて自らの価値観を明らかにすることで、みんなの足並みをそろえ、不要な対立を防ぐことができる。
まずは「どのような行動が自分の価値観にそぐわないだろうか。どうすればそれを防げるだろうか」と考えるとよいだろう。
それが自分の価値観を定義する出発点となる。 目的を明らかにすると行動への活力と方針が導かれるのに対し、価値観について考えると行動の範囲と優れた行動に対する基準が定まっていく。
結果をイメージする
潜在能力も含めた、あなたが持っているすべてのエネルギーにアクセスするには、成功している状態がどういったものかを明確に意識しなくてはいけない。
それはどのように見えるのか、どう感じられるのか。五感をフルに活用してイメージしておくべきだ。
目的と価値観に焦点をあわせることで行動に対する推進力と規範が導かれるのに対し、結果をイメージすると具体的な最終成果物が見えてくる。「なぜ」ではなく「何」の部分だ。
「セミナーで教えた専門知識を、受講者が常に応用できるようになっている」「今年度における 北東地域全体での市場占有率が2%向上する」「大学に進学したばかりの娘が、親からはどのような支援が受けられるのかをしっかりと理解している。」こうした具体的な成果物をイメージで きるようにしておこう。
焦点をあてることの威力
望んでいる結果を思い描き、それに関して適切に焦点を当てることがいかに有益かについては、1960年代より多くの書籍で解説されてきた。この視点は、イメージトレーニングとしてオリンピツクレベルのアスリートたちにも活用されている。
彼らはエネルギーに満ち浴れている自分自身を強くイメージし、成功を思い描くことによって、無意識のレベルから最高のパフォーマンスを発揮できるようにしているのだ。
頭の中でどこに焦点を当てるかが、あなたの感じ方やパフオーマンスに大きな影響を与える。これは何もゴルフコースの話だけではなくて、スタツフとのミーティングでも、人生の伴侶との重大な会話においても当てはまる。
この理論はさまざまな場面で実践的に活用できるが、プロジェクトに関する思考プロセスにおいてもおおいに役立てることができる。
休暇なり、会議なり、始めてみたいプロジェクトなり、何かに重点的に焦点を向けていくと、それまで考えつかなかったようなアイデアや思考パターンが湧き出てくる。
頭の中で何らかのイメージを強く思い浮かべると、それがあたかも現実であるかのように体も反応するからだ。
結果を明らかにする
イメージトレーニングが身体に与える影響を理解すると、シンプルながら深い示唆に満ちた原 則にたどりつく。
それは「結果をイメージできないと、どうすればそこへ到達できるのかが見えてこない」ということだ。
以前にも起きたこと、もしくは似たような経験をしたことがあれば、その結果をイメージすることはたやすいだろう。しかし、未知の領域や慣れない領域においては成功のイメージが湧きにくい。
私たちの多くは、望んでいる結果を達成する方法を誰かが教えてくれない限り、なかなか成功をイメージしようとしない。
これまで述べてきたように、脳がどのようにアイデアや行動を生み 出していくかを考えると、残念ながらこれは前向きの姿勢とは言えないだろう。
仕事でもプライベートでも成功していくには、結果を明確にイメージできるようになることだ。
この能力は、習得して磨きをかけていくべき、もっとも重要な能力の一つでもある。何を達成しようとしているのか、仕事のそれぞれの分野について意識的に明らかにしていく必要がある。
このプロジェクトは完了時にどうなっているのか。プレゼンテーションが終わったあとにクライアントにはどう感じてもらい、何を理解し、何をしてほしいのか。
3年後、自分のキャリアはどうなっているのか。理想のウェブサイトはどのようなデザインで、どのようなことができるも のだろうか。息子との話し合いがうまくいった場合、彼らとの関係はどうなっているのか。
結果のイメージは単純な場合もあるし、そうではない場合もある。「コンピュータシステムの 導入を完了させる」といった明白なものもあるし、細部に至るまで綿密に描きこまれた、まるで映画のような表現になる場合もある。
私が指導してきた経験からも、プロジェクトが成功したところを参加者に想像してもらうと、 彼らのエネルギーが高まってきて、ユニークでポジティブな考えが次々と出てくることが多い。
まずは「こうなったらすごいのではないか」と考えてみるのも悪くはないだろう。そうするうち に、答えが見えてくるものだからだ。
ブレインストーミングをする
「なぜ」そのような結果を導き出したいのかが明らかになったら、次は「どのようにすればいいのか?」と考える番だ。思い描いた結果が現状と異なっていたならば、あなたの頭は自動的にこの思考に移っていくはずだ。
これがブレインストーミングである。小さなアイデア、大きなアイ デア、大してよくない考え、すごいアイデアなどが、ぽつぽつと頭に浮かんでくる。
この思考プロセスはたいてい頭の中で自然と行なわれており、それだけで十分だったりもする。
たとえば、 上司に会いに廊下を歩いている間、何と報告すればよいかをあれこれ考える、といった思考だ。 だが場合によっては、紙に書き留めるなどして、頭の外に出したほうがいい場合もある。
そうすることで思考が大きく活性化され、生産的な結果が生まれることもあるからだ。
アイデアを記録する
過去何十年かにわたり、創造的な思考を促す方法として、考えたことを図に描き出していくブレインストーミング法が紹介されてきた。マインドマップ、クラスタリング、パターニング、 ウェビング、特性要因図などと呼ばれるものだ。
こういった手法の考案者は「自分の手法はほかとは違う」と主張するだろうが、私たち利用する側にとってみれば、基本的な考え方はいずれも同じだ。
つまり、どのようなアイデアでも自由に書き出してみて、そのアイデアが使えるか、それについて何をすればよいかを明らかにしていく手法である。
こういった手法にはさまざまな利点があるが、何よりも効率性につながる。浮かんだアイデアを記録しておけば、もうそのアイデアを頭に残しておく必要がないからだ。
こういった概念や手法の中でもっとも普及しているのは、英国のトニー・ブザンが考案し、彼 が命名した「マインドマップ」だろう。
マインドマップでは、核となるアイデアを真ん中に書き、連想されることをそこから自由な形で周囲に派生させていく。
たとえばオフィスを移転する ことになったら、パソコン、新しい名刺、いろいろな配線の変更、新しい家具、電話の変更、不 用品の処分、箱詰めなどを考えつくだろう。こういった考えを図にしてみると、左ベージのようになる。

分散認知
ブレインストーミングのよい点は、元のアイ デアをとっておけることに加え、それらを見直 すことによって新たなアイデアが次々と浮かんできやすいことだ。
頭が話しかけてくれるとし たら、次のような感じだろう―― 「うまく使っ てくれそうな数だけしかアイデアは出さない よ。
でも、何らかの確実な方法でそれらをとつ ておいてくれるならもっと出してもいいな。そ うしてくれるならどんどん出すよ。
はい、どう ぞ―。そうだ、これもある。ああ、そういえば これも―」
心理学者たちは、このような思考プロセスを 「分散認知」と名づけている。頭から思考を追 い出し、あとで確認できるように客観的な形式 に置き換えること― ,つまり精神を外に拡張し て「外部の脳」を作ることだ。
私の高校の先生 はこの理論を知らなかったはずだが、よく次のように言っていた。 「デビッド、君は大学に行って論文を書くことになるだろう。そのやり方を教えてあげよう。メ モも引用も全部、別々の小さな紙に書き出してから自分の考えを整理するんだ。書いた紙を全部 床に広げて、どう構成するのが自然かを考えてみるといい。それから、不足しているものがない かを考えるんだ」
エドモンドソン先生はまさに、ナチュラルプランニングモデルの骨組みを教えてくれていたのだ。
全体像が見えないまま、何のツールも使わずに一つのトピックについて考えようとしても、数分が限界ではないだろうか。30秒間だけ、今自分の抱えている大きなプロジェクトについて考え てみてほしい。
ペンや紙を使ってアイデアを書き出してはいけない。そうなるとこれはかなり 難しい作業になる。しかし、思考のためのツールがあれば何時間でも集中して考えることができ る。
だからこそ、パソコンやマインドマップ、あるいはテーブルの上にあるナプキンに考えていることを書き出してみたり、ホワイトボードと新しいマーカーが使える部屋で会議を開いたりす ることが大事なのだ。
ブレインストーミングのコツ
ブレインストーミングに代表される、独創的なアイデアを出していくためのテクニックにはいろいろあるが、基本原則は次のようにまとめられるだろう。
・決めつけない、異議を唱えない、評価しない、批判しない ・質より量 。思考の分析や整理は最低限に決めつけない、異議を唱えない、評価しない、批判しない
ブレインストーミングでは、短絡的にアイデアを評価したり批判したりする状況に陥りやすい。人にどう思われるかがすこしでも気にかかっていると自由な表現が阻害されて、「正しい意見を出さなければ」という考えが出てきてしまう。
また、ブレインストーミングはプランニングプロセス全体の一つのステップであると理解してから行なうことが重要だ。
「ブレインストーミ ングのためのブレインストーミング」になってしまうと、やる気が出てこないし、出てきたアイデアも的外れに感じられてしまう。
ここで出たアイデアは次のステップで利用されるし、いずれ解決策にたどりつくのだと納得していれば、この作業に必要十分な労力を注ぐことができる。
なお、アイデアを批判してはいけないが、批判的な思考をしてはいけないという意味ではない。ブレインストーミングの段階においてはフェアな視点が必要だ。
「そのアプローチではこの点に問題があるかもしれない」という意見があるなら表明してもよい。いちばん厳しくて批判的な意見が、もつとも優れたアイデアに転じることも多いものだ。
自分がどのように感じているかを認識し、それを活用できるようにしておこう。肝心なのは、さまざまなアイデアを受け入れ、幅広く拡散させていくことだ。
アイデアを締めつけて思考を萎縮させてしまうのでは本末転倒である。 質より量 「まずはとにかく量を出そう」と心がけると、思考がどんどん広がっていく。
いいアイデアがどんなものかは、実際にそれが出されるまでわからないことが多い。大きな店でいろいろな選択肢を考慮してから買ったほうが、自分の選んだものに自信をもてるのと同じことだ。
たくさんのアイデアが出れば出るほど、選択の幅を広げるための好ましい下地ができてくるのだ。思考の分析や整理は最小限に思考を分析して評価し、整理することは、創造的で斬新なアイデアを出すのと同じくらい自由になされてよいものだ。
だが、重要なことであるとはいえ、それを中心にブレインストーミングを進めてはいけない。 まずは、すべてを書き留めてブレインストーミングを続け、あとで不要なものを捨てて整理していけばいい。
思考の整理
ブレインストーミングを行なってたくさんのアイデアを出し、頭の中をすつかり空にできたら、自然とアイデアが整理されていることに気がつくだろう。
私の高校の先生が言ったように、 アイデアを全部頭から出して目の前に並べると、それらの関係性とその構造が見えてくる。
今までのステップを経ることで、プロジェクトがおのずと整理されていくのだ。 プロジェクトが整理されていくには、それを構成する要素、物事が起こる順序、そして優先順位について認識していく必要がある。
最終的な結果を達成するには何が行なわれなくてはならないか(構成要素)、それらはどの順番で行なわれなければならないか(順序)、プロジェクトの成功にいちばん重要なことは何か(優先事項)、といったことだ。
※↓まとめ
- 最終的な結果を達成するには何が行なわれなくてはならないか(構成要素)
- それらはどの順番で行なわれなければならないか(順序)
- プロジェクトの成功にいちばん重要なことは何か(優先事項)
この段階では、封筒の裏を使って箇条書きにしてみたり、専用のソフトウェアを利用してみたり、さまざまなツールを活用してみるといいだろう。
より客観的で厳密な管理をしていくには、 プロジェクトの要素を階層的に表現できるツールや、何がどのような順番で起こるのかを把握できるガントチャートなどが必要だ。
創造的な思考はここで終わりではなくて、別の形をとってさらに続く。基本的な構造を認識することができたら、あなたの頭はそこに足りていないものを補おうとするだろう。
たとえば、プロジェクトに関して必要となる三つの要件を並べてみたら、四つ日、五つ目の要件が思い浮かんできたりすることもある。
次にとるべき行動を判断する
プランニングの最終段階は、プロジェクトを実際に進行させるために必要な、物理的なリソースの配分だ。ここで考えるべき質問は「次にとるべき行動は何か?」である。
第2章で述べたように、(望んでいる結果を明らかにすることに加え)こういった現実的なレベルで考えることによって、実際にやらなければならないことが何なのかが明らかになってく る。
私の経験では、プロジェクトプランニングのほとんどは、プロジェクトをリストにして、それぞれについて次にとるべき行動を常時把握することでまかなうことができる。
このような地に足のついたアプローチをとると、さまざまな事柄を正しく見つめ直せるようになる。本当にこれをやりたいのか、責任者は誰だろう、これについてじつくりと考えただろうか、といった具合 だ。
行動を起こす必要があるプロジェクトの場合は、どこかの時点で次にとるべき行動を必ず判断しなければならない。
「このプロジェクトについて具体的に何をしたらいいだろうか?」という質問に答えられることができれば、それについて十分に思考できたということだ。
もし答えられなかったらナチュラルプランニングの前のステップに戻り、さらに考えを詰めていく必要があるだろう。
プランニングをどこまでやるか
こうしたプランニングは、どこまで細かく詰めて、どの程度まで具体化すべきだろうか。答えは簡単だ。気になるプロジェクトが「気にならなくなるまで」である。
頭の中に何かが残りつづけるのは、望んでいる結果と次にとるべき行動が明確になっていないか、それらのリマインダーを定期的に見直すことができるシステムで管理されていないことが原因である。
私の経験からすると、プロジェクトの80%は単純なものだ。株のディーラーを探しているな ら、友人に電話して名前を教えてもらばいい。
家で使うプリンターが欲しければ、インターネットで機種や価格を調べればいいだろう。プランニングモデルをきっちりあてはめてもいいが、こうした単純な作業は頭の中でさっと考えて行動し、完了させていけばいいだろう。
ただ、プロジェクトの残り20% のうち15%ぐらいは、頭の中だけで考えずに、手を使ってアイデアを書き出していく作業が必要だ。
マインドマップやワープロといったツールでアイデアを出していくといい。会議の課題や休暇の日程、セミナーのスピーチなどはこれで十分だ。
そして最後の残り5%は、プランニングプロセスのそれぞれのステップでじっくり思考し、完成度を高めていく作業が必要になる。何か明らかになっていない部分、もっと思い切った行動が必要なものに関してはサイドそれぞれのステップをやり直してみると効果的だ。
自信がないとき
なんだかもやもやとした感じが残るときは、ナチュラルプランニングの手順をさかのぼっていくといい。
方向性がはっきりしないまま「次にとるべき行動」ばかりに追い立てられているという人は多いが、そうしたときはそもそものアイデアに立ち返って「思考の整理」をしてみるとい い。
プランニングそのものが不明瞭な場合は「ブレインストーミング」で十分なアイデアを出し、もっと信頼できるプランにすることが突破口になるかもしれない。
ブレインストーミング をしても思考がすっきりしないなら、「結果のイメージ」に戻るべきだろう。結果のイメージがはっきりしないなら、そもそもの「目的」を考えてみるとうまくいく。
やる気がでないとき
計画を立てたあと、どうにもぐずぐずしてしまうのならば、ナチュラルプランニングモデルを最初からやり直してみることだ。
「目的」ははっきりしていても、結果の細部までイメージするのが面倒だと感じている人も多い。
たとえば職場環境を改善したいと思っていても、具体的にどういう状態にしたいかがわかっていないこともある。
そうしたときは、「望んでいる結果はどうなっているか」と自問し、細部までしっかリイメージしてみるとうまくいく。
イメージが明確なのに先に進まないという人は、「ブレインストーミング」で「どのようにやるべきか」を見直すといい。
私のクライアントには、「新しい評価制度を導入する」といった比較的明快なプロジェクトを引き継いだものの、「どうやるべきか」を十分考えていなかったため に作業が進んでいないという人がいた。
ブレインストーミングをしても立ち往生してしまうときは(理想を掲げたようなプロジェクト に多い)「思考の整理」に進み、それぞれのアイデアを評価して何が本当に重要なのかを見極めるといい。
たくさんの会議を繰り返してアイデアはたくさん出たものの、どこから手をつけるべきかがはっきりしていないようなケースにはとくに有用だ。
何をすべきかの計画ができているのにプロジェクトが進まない場合は、「次にとるべき行動は何で、誰がやるべきか」を明らかにすべきだ。
以前、年次総会の準備を引き継いだ女性幹部から 「去年みたいにスタッフが連日徹夜をしなくて済むようにしたいのだけど……」と相談されたこ とがあつた。
そこで、彼女の計画をざっと聞いたあとに「今すぐ進められるのはどれですか」と 尋ねてみた。すると、いくつかは今すぐ進められることがわかった。
そして、それぞれについて次にとるべき行動を決めたところプロジェクトが前に進みはじめ、前年のような事態を回避することができたのだ。
前章と本章では、リラックスしつつも最小限の努力で最大限の生産性を発揮し、状況をコントロールしていくための基本的なモデルを紹介してきた。
GTDの基本はすでに述べたとおりである。
「気になること」をすべて把握し、それぞれを見 極め、その結果を整理して更新し、行動を選択していくというものだ。
また、さらにうまくやりたいならばナチュラルプランニングモデルの5つのステップを意識的に適用していくこともできる。
多くのプロジェクトはこのモデルを当てはめることによって、より生産的に進めていけるようこれらのモデルはシンプルで、実行するのも簡単だ。
しかも実行すれば、驚くような結果が得られる。とくに新しいスキルを学ぶ必要もない。
あなたはすでに紙とペンを使って書くことができるし、結果をイメージしたり、次にとるべき行動を決めたりすることもできる。
物事をカテゴリーに分け、確認し、直感的に選択することもできるだろう。
うまくいつたときのイメージを思い浮かべ、ブレインストーミングを行ない、考えを整理して次の行動を起こしていく能力は、誰にでも備わっているものなのだ。
ただし、やり方がわかつていてもすぐに結果を出せるとは限らない。ある程度の訓練が必要だ。より詳細な手法やテクニックを学習し、新しい習慣が身につくようにしていくべきだろう。
第2部では、そのあたりを見ていくことにしよう。
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