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第12章 製品ライン拡張の法則

ブランドの権威を拡げたいという抗しがたい圧力が存在する。

私たちの提示する法則を破ることが刑罰を伴う犯罪であるとしたら、アメリカの企 業の大部分は刑務所入りするはめになるだろう。 本書の法則のうちで、断トツに破られている法則といえば、何と言っても「製品ラ イン拡張の法則」である。さらに悪いことに、ラインの拡張は企業サイドが意識的な 努力をほとんどしないでも、連続して起こるプロセスなのである。それは、あなたが たいした努力もしないのに、中味がふくらんぜいくタンスや机の引出しのようなもの である。 ある日、ある会社が、たいそう旨みのある単一の商品に脇目もふらず没頭している かと思えば、翌日には、その同じ会社が多くの商品ラインを抱え、延び切った戦線の 下で損失を被っている。 例えばIBMだ。大型コンピュータに精力を集中していた何年か前には、IBMは 莫大な利益を上げていた。今日、同社はあらゆることに首を突込み、業績はトントン にも達していない。 一九九一年の例でいうと、この年IBMの収入は六五〇億ドルだ った。けれども結局のところ、同社は二人億ドルの損失を被った。 一日八〇〇万ドル

近い損失である。 大型コンピュータの販売に加えて、IBMはパーソナルコンピュータ、ペンコンピ ュータ、ワークステーション、ミッドレンジ・コンピュータ、ソフトウエア、ネット ワーク、テレフォンなどを販売している。さらにはPCジュニアによって、ホームコ ンピュータ市場に参入しようとさえした。 その間IBMは、複写機(コダックに売却)、ロルム(シーメンスに売却)サテラ イト・ビジネス・システム(閉鎖)、プロディジー。ネットワーク(不調)、SAA、 トップビューなどの事業で何百万ドルもの損失を被った。 ある会社が信じがたいほどの成功を収める時には、例外なく、将来起こる問題の種 を撒いているものだ。ソフトウエアの分野で最も成功したマイクロソフト社の例を取 り上げて見よう(同社の会社規模はゼネラル・モーターズの五〇分の一であるが、株 式はGM株以上の価値がある)。マイクロソフト社の戦略とは何であろうか。 一日で 言えば、もっと多くを、である。 「マイクロソフト社の語るところによれば、同社は、パーソナルコンピュータ分野に

おけるあらゆる主要なソフトウエアのアプリケーション・カテゴリーで、圧倒的なシ ェアを取ろうと積極的に狙っている」と、最近の「ウオール・ストリート・ジャーナ ル」紙は報じた。同紙はさらに、「マイクロソフト社のアプリケーション事業部担当 副社長、 マイケル・メイプルズ氏は、同社は全ての主なアプリケーション・カテゴリ ーにおいて、七〇パーセントのシェアを達成できるだろうと述べた」と伝えている。 どこの会社が言っているように聞こえるだろうか。まるでIBM社の発言のようで はないか。 マイクロソフト社は、同社の名前が「小さい」ということを意味している にもかかわらず、巨人IBMに次ぐ位置に自らを置こうとしているのである。 マイクロソフト社は、パーソナルコンピュータのオペレーティング・システムにあ ってはリーダーである。だが、次のようなカテゴリーではリーダーの後塵を拝してい る。すなわち、スプレツドシート(リーダーはロータス)、ワードプロセッシング (リーダーはワードパーフェクト)、ビジネスグラフィックス(リーダーはSPCソフ トウエア・パブリッシングのハーバードグラフィックス)などの分野である。 マイクロソフト社は、ペンコンピュータといった新たなカテゴリーに触手を伸ばす

ことによってたえず拡張を続けている。最近では、データベース・ソフトウエア分野 に参入するため、 一億七〇〇〇万ドルでフォックス・ソフトウェアを買収した(きっ と同社は、そのうちにフォックスの文字を消して、 マイクロソフトに切り替えること だろう)。 マイクロソフト社の戦略には、 いくつか軟化の兆しが見られる。雑誌「エコノミス ト」は、 一九九二年初頭、次のように報じた。「ビル・ゲイツ会長は、事実上ソフト ウエア業界全体にわたって競争力を持つような、共通の技術基盤に立つ、 一連の製品 を統合しつつある。すなわち大型コンピュータから小型コンピュータ、情報管理シス テムから企業経営者のための作図を行なうグラフィック・プログラムに至る技術であ る。これまでにIBMが試みて、失敗したことはあるが、ソフトウエア業界では、ま だだれ一人このような複雑な事業をやり遂げた者はいない」と報じている。 あなたがすべての人の、すべての要望に応えようとすれば、結局は何らかの問題に ぶつからぎるをえない。「あらゆるところで弱みをさらすよりは、どこか特定のとこ ろで強みを発揮したい」とあるマネジャーは述べている。

狭い意味でいえば、製品ラインの拡張とは、成功した商品(例えばA11ステーキ ソース)のブランド名をとって、発売を計画している新しい商品(例えばA11鶏肉 ソース)にくっつけるといったことも入る。 こういうと、極めてロジカルに聞こえることだろう。「私たちは、ステーキ市場で 群を抜くシェアを占める極上のソース『A11』を作っている。だが、人々の好みは ビーフからチキンに移らてきている。だから鶏肉商品を発売することにしよう。それ にはA11の名前を使うのが一番いい。そうすれば、世間はその鶏肉ソースがあの極 上のステーキソースA11を作ちているメーカーのものであることが分かるだろう」と。だが、 マーケティングは知覚をめぐる戦いであって、商品をめぐる戦いぞはないの だ。消費者のマインドの中では、A11はブランド名ではなく、ステーキソースその ものなのである。「そのA11をとってくれない?」と食事中の人が頼めば、「A11 のどれを?」と応じる人はいないだろう。 一八〇〇万ドルを投じた広告キャンペーンにもかかわらず、A11鶏肉ソースの発

売は惨めな失敗に終わった。 製品ライン拡張の方法は星の数ほど存在する。しかも新しい手法が毎日開発されて いる。長期的にみると、あるいは深刻な競争にさらされれば、ラインの拡張はまず効 果を発揮しないといってよい。 風味を作り出すことは、 マーケットシェアを奪う場合の一般的な方法である。風味 を増やせばシェアも増える、というわけだ。だがこれは、もっともらしくはあっても 実効の上がる方法ではない。 セブンアップが非コーラ系のレモンライムだけだった一九七八年当時、ソフトドソ ンク市場に占めるマーケットシェアは、五・七パーセントだった。その後、同社はセ ブンアップ。ゴールド、チェリー●セブンアップ、および各種のダイエット飲料を製 品ラインに加えた。いまでは、セブンアップのシェアは二・五パーセントにまで低下 している。 文字通りいたるところに、製品ラインの拡張が見受けられる。商店の棚がぎっしり 各種のブランドで埋まっているのはそのためである(なんと一三〇〇種類のシャンプ

―、二〇〇種類のシリアル、二五〇種類のソフトドリンクがある)。 各カテゴリーのナンバーワンは、例外なく拡張されたラインの上にはないブランド である。例えばベビーフードの場合を見ると、ガーバーが、ラインの拡張ブランドで ある三社、ビーチナットとハインツを引き離して、市場の七二パーセントを押さえて いる。 ラインの拡張は効果がないということが分かっていながら、各社は次々とライン拡 張ブランドを出し続けている。以下はその実例の一部である。

アイボリー・ソープ:アイボリー●シャンプー

ライフ・セイバーズoキャンディー:ライフ・セイバーズ・ガム

ビック・ライターズ:ビック・パンティーストッキング

シャヽ不ル:男性用シャネル

タンカレイ。ジン:タンカレイoウオツカ

クアーズ・ビール:クアーズ・ウオーター

ハインツ・ケチャップ:ハインツ・ベビーフード

USA ・トゥデイ:USA ・トゥデイ。オン・TV

アディダス・ランニングシューズ:アディダス・コロン

ピユール・カルダンの洋服:ピエール・カルダンのワイン

リーバイス・ブルージーンズ:リーバイス・シューズ

拡張ブランドは、いずれも首をかしげたくなるような商品ばかりだ。 コルゲート・パルモリブ社「わが社は、わが社の基本的なコアプランドを梃入れす るとともに、わが社のブランドネームを利用して、新しいカテゴリーに進出したい」 (エド・フォウガティ社長)。 キャンベルスープ社「高品質でリピート買いされるブランドの名前を強化し、拡大 することが、新しい名前を売り出すことよりも優先されなければならない」デビッ ド・W 。ジョンソンCEO) デルモンテ社「わが社は単一ブランド哲学を信奉している。だから、デルモンテの名を新しい分野に絶えず拡げていく方針である」(エイワン・マクドナルド社長) ウルトラ・スリム・ファースト社「今後スープ、パスタ、サラダドレッシング、ソ ーダ、フルーツジュース、それにウルトラ・スリム・ファースト・プラスという従来 より濃いダイエットドリンクを出す予定だ」(ダニエル・エイブラハム会長) ラインの拡張は効果が上がらないという圧倒的な証拠があるのに、経営トップは何 故に効果が上がると信じているのだろうか。 一つには、ラインの拡張は長期的には失 敗するにしても、短期的には成功することがありうるからである(第■章参照)。経 営陣はまた、自分の会社やブランドを盲目的に信奉している。そうでなければ、ペプ シコがペプシライトやペプシAMの失敗にもかかわらず、クリスタルペプシを発売し たことの説明がつかない。 「多いこと」は「少ないこと」に通じる。会社が商品や市場、提携先を増やせば増や すほど、収益は減少するのだ。「あらゆる方角にフルスピードで突っ走れ」というの は、危険な吊橋からの呼び声であるといってよい。いったいいつになったら、会社は ラインの拡張が忘れさられる危険に通じる道であることを悟るのだろうか。

「少ないこと」は「多いこと」に通じる。もしあなたが、今日ただいま成功すること を望むのであれば、顧客の心の中に一定の地歩を築かなければならないし、そのため には焦点を絞り込む必要がある。 IBMという社名は、何を表わしているだろうか。かつてそれは「大型コンピュー タ」を表わしていた。今日ではありとあらゆることを表わしている。ということは、 何も表わしていないということなのだ。 シアーズローバックはなぜ経営困難に陥ったのか。その理由は、同社がすべての人 の、すべての要望に応えようとした点にある。シアーズは耐久消費財で名をあげたあ げく、衣料品雑貨、さらにはファッション商品にまで手を拡げた。はてはファッショ ンモデルのシェリル・ティーグズを抱えたりもした(ファッションモデルがまさかシ アーズでミニスカートを買ったりするだろうか)。従来の見方からいえば、経営戦略 とは通常全方位のビジョンを打ち立てることから成り立っている。言い替えれば、今 日市場にあるだけでなく将来計画の中にも含まれている、会社のすべての商品やサー ビスを支えるに足るコンセプトないしアイデアは何か、ということである。

従来の見方からすれば、戦略とはテントのようなものである。自分が参入したいと 思うあらゆる商品を支えてくれるだけの、大きなテントを張るのである。 IBMは途方もなく巨大なコンピュータのテントを張りめぐらしている。現在はも ちろん将来ともに、 コンピュータ分野でIBMのテントをはみ出すような製品は出な いだろう。実はこれこそ、失敗に至る手法なのである。新しい会社、新しい商品、新 しいアイデアがコンピュータ市場を侵食するにつれて、IBMは吹き飛ばされていく。 たとえIBMのような金のある王国でも、 コンピュータのような急速に成長する市場 を防ぎ切ることはできないのである。戦略的視点からいえば、もっと焦点を絞り、ど こにテントを張ったらいいか、場所を吟味して選ぶことが大切だ。 戦略的に見ると、ゼネラル・モーターズはIBMと同じボートに乗り合わせた同類 である。GMは車輪のついたものであればそれこそ、ありとあらゆるものに手を出し ている。セダン、 スポーツカー、低価格車、高級車、トラック、ミニバン、それに電 気自動車まで手がけているのだ。となると一体、GMの企業戦略は何だろうか。道路 を走っているかぎり、あるいはたとえ道路を外れていても、追い着かれてしまうことだろう。 多くの会社にとって、製品ラインの拡張は、安直な打開策である。新しいブランド を開発するとなれば、金がかかるだけでなくアイデアとかコンセプトを必要とする。 しかも、その新しいブランドが成功するためには、新しいカテゴリーに一番乗りしな くてはならない(第1章参照)。あるいはまた、その新しいブランドはナンバーワ ン・ブランドに取って代わるブランドとしてポジショニングされなくてはならない (第9章参照)。新しい市場が形成されるのを待っている会社はたいてい、これら二つ のナンバーワンたるべき位置がすでにだれかに先取りされてしまっているのを知るは めになる。そこで、こうした会社は、古くからの、頼りになるライン拡張の手法にす がることになるのだ。 製品ライン拡張病の解毒剤はただ一つ、このところ品薄気味の、企業の勇気である。

 

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