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第10章 分割の法則

ペトリ皿の中で分裂を続けるアメーバのように、 マーケティングの舞台は、たえず 拡大を続けるカテゴリーの海とみなすことができる。 一つのカテゴリーは単体としてスタートする。たとえばコンピュータがそうだ。し かし、時が経つにつれて、このカテゴリーはいくつかに分割されていく。大型コンピ ュータ、ミニコンピュータ、ワークステーション、パーソナルコンピュータ、ラップ トップ、ノートブック、ペンコンピュータといったように。 コンピュータと同じく、自動車の場合も単一のカテゴリーとしてスタートし、三つ のブランド(シボレー、フオード、プリムス)が市場を支配していた。その後カテゴ リーは分割され、今日では高級車、普通車、低価格車もあれば、大型車、中型車、小 型車もある。またスポーツカー、四輪駆動車、RV、ミニバンなども存在する。 テレビ業界を見れば、かつてはABC、CBS、NBCの三社が視聴者の九〇パー セントを握っていた。いまではネット局、独立系、ケーブルテレビ、ペイテレビ、パ ブリックテレビなどがあり、間もなくインストアテレビ、インタラクティブテレビな どが登場するだろう。ビールのスタートも似たり寄ったりだった。いまや輸入ビールもあれば、国産ビー ルもある。特製ビールもあれば、大衆ビールもある。ライトビール、ドラフトビール、 ドライビールのほか、ノンアルコールビールまである。 「分割の法則」は国家にまで影響を及ぼしている(ユーゴスラビアの混乱を見よ)。 一七七六年には、およそ二五の帝国、王国、国家、連邦国家しか存在していなかった。 第二次世界大戦までにこの数は二倍になり、 一九七〇年には一三〇を越える数になっ た。今日では一九〇ほどの国が、主権国家として一般に認められている。 音楽の分野に目を転じてみよう。音楽といえばかつてはクラシックとポピュラーミ ュージックに相場が決まっていた。ポピュラーミュージックに通じていたければ、テ レビで「ユア・ヒット・パレード」を見ればこと足りた。毎週のヒット曲、ベストテ ンを特集していたからだ。ラジオ局は「トップ。フォーティー」という構成でこの番 組の後追いをしていた。いまではトップフォーティーは崩れかかっている。何故なら もはやリストは一つだけではないからである。 ミュージックビジネスのバイブルといわれるビルボード誌には、 一一の異なるヒットリストが掲載されている。クラシック、 コンテンポラリージャズ、カントリー、ク ロスオーバー、ダンス、ラテン、ジャズ、ポップ、ラップ、リズムアンドブルース、 それにロックである。さらに一一のジャンルのトップアーティストも掲載してある。 最近では、イツアーク・パールマン、フォアプレイ、ガース・ブルックス、 ルチアー ノoパバロッティ、 マイケル・ジャクソン、ミ・マヨール・ネセシダ、デイブ・グル ーシン、エンヤ、パブリック・エネミー、バネッサ・ウイリアムズ、ブルース・スプ リングスティーンらが入っている。 おのおののカテゴリーは、区分けされた、個別の存在である。各カテゴリーには、 それぞれの存在理由がある。またそれぞれにリーダーがいて、それらのリーダーが当 初のカテゴリーのリーダーと同じであることはめったにない。IBMは大型コンピュ ータのソーダーであり、DECはミニの、サンはワークステーションのソーダーとい った具合である。 しかしながら、多くの企業経営者たちは、こうした分割のコンセプトを理解するど ころか、カテゴリーは互いに結合していくという幼稚な考えを抱いている。「連携」とか、それにやや近い「企業提携」といった言葉が、アメリカのあちこちの重役室で もっともらしく語られている。「ニューヨークタイムズ」紙によると、IBMは、「テ レビ、音楽、出版、 コンピュータを含む全産業の来たるべき大連合に乗ずる」備えを しているということだ。 ケーブルおよび電話ネットワークと、 コンピュータやテレビメーカーとの予想され る連合に際してのIBMの一番の強みは、同社が超高速ネットワークをつくるために 開発したテクノロジーであろう」と同紙は報じている(第20 章参照)。 そんなことは、まず起こらないだろう。カテゴリーは分割されこそすれ、結合する ことはないのだ。 ここで「金融サービス」と呼ばれる、盛んに喧伝されたカテゴリーについて見てみ よう。マスコミの報道によれば、将来的には、銀行、保険会社、証券会社、抵当貸付 け機関などは姿を消すだろうということだ。代わって、金融サービス会社が登場する という。もっとも、今後の話ではあるが。 プルーデンシャル、アメリカン・エクスプレス、その他の会社は金融サービスとい

う危険な罠に陥っている。顧客は金融サービスを買うわけではない。彼らが買うのは、 株式であり生命保険であり銀行日座である。しかも各々のサービスを、里(なる会社か ら買いたがる。 業界のナンバーワンがその座を維持する方法は、新たに登場するカテゴリーにそれ ぞれ異なるブランド名を使用することである。ちょうど、かつてGMが、シボレー、 ポンティアック、オールズモービル、ビュイック、キャデラックといったブランド名 を使ったようにである(最近ではジオ、サターンがそうだ)。 会社はえてして、あるカテゴリーに使った有名なブランド名と同じブランド名を、 別のカテゴソーにも使うといった過ちを犯す。その古典的な事例が、小型車をアメリ カに導入したフォルクスワーゲンのたどった運命である。同社の「ビートル」は大き な成功を収め、かつてはアメリカにおける輸入車市場の六七パーセントを押さえてい た。 フォルクスワーダンの成功が余りに華々しかったために、同社はゼネラル・モータ ーズと同じような、大型で、高速で、スポーツタイプの車も売ることが出来ると考え

るようになった。そこぞ同社は、ドイツで製造中の車種をかき集め、アメリカに持ち 込んだ。しかしGMとは違い、同社はあらゆる車種にフォルクスワーゲンという同一 のブランドを使った。「異なる人々に異なるフォルクスを」というのが、広告の謳い 文句だった。この広告で、ビートル、四一二型セダン、ダッシャー、シング、さらに はステーションフゴンなど五種類の異なる車種が宣伝された。言うまでもなく、引き 続き売れたのは「小型」のビートルだけであった。 そこで同社は事態の収拾に乗りだした。アメリカでのビートルの販売を中止し、大 型で、高速で、高価なフォルクスワーゲンの新車種の発売に踏み切ったのである。バ ナゴン、シロッコ、ジェツタ、ゴルフGL、カブリオーンなどがそうだった。これら の見事な新車をつくるために、ペンシルベニア州に組立て工場まで建設した。 フォルクスワーゲンにとって不運なことに、小型車のカテゴリーは拡大し続けた。 人々は耐久性に富み、経済的なVWを買うことができなくなったので、トヨタやホン ダ、日産に移っていった。 今日、フォルクスワーゲンがかつて占めた、六七パーセントというシェアは、四パ―セント以下に下落している。 フォルクスワーダンといえば、サーブとかアルファロメオといった、ョーロッパの マイナーなブランドではない。ヨーロッパで一番売れているブランドである。VWが アメリカで売っている車は、同社がヨーロッパで売っている車と同じである。違って いるのはただ、その車を買う人たちの心だけなのだ。アメリカではフォルクスワーゲ ンというと小さくて不格好な車を意味している。だれも大型で、美しいフォルクスワ ーゲンなど買いたがらないのだ(第4章参照)。 フオルクスワーダンの競合会社の一つであるホンダが、市場の上のクラスを狙うこ とに決めた時のことである。同社は高級車市場で、ホンダの名前を使う代わりに「ア キュラ」というブランド名を採用した。さらにはホンダとの混同を避けるために、別 個にアキュラ独自のディーラー網を配置するという金銭的犠牲まで払った。 アキュラはアメリカにおける日本製高級車の第一号となった。いまではホンダがア キュラを売る数は、フォルクスワーゲン社がフォルクスワーダンを売る数を上回って いる。かくしてホンダはいまや、二つのカテゴリーにおいて、ナンバーワン・ブラン

ドを抱えているのである。 業界のナンバーワン企業が新しいカテゴリーで異なるブランドを出すことを思い止 まるのは、その結果、自社の既存のブランドがどうにかなるのではないかという恐れ からである。メルセデスベンツやBMWが勢力を築いた、超高級車分野に対するゼネ ラルモーターズの反応は遅々としていた。 一つにはGMの誇るキャデラックの上を行 く新しいブランドが、キャデラックのディーラーたちの反感を買うかもしれないとの 理由からだった。 結局、GMは五万四〇〇〇ドルの「アランテ」によって、キャデラックをより上の 市場に対応させようとした。結果は大失敗に終わった。いわゆるキャデラックと変わ りない車に、だれがそんな大金を払うだろうか。せいぜい三万ドルくらいにしか見え ない車なのだから。何のプレステイジにもならないのだ。 ゼネラル・モーターズがとるべき戦略は、メルセデスの牙城に新しいブランドを投 入することであったろう(クラシックカーの「ラサール」を再生産しても良かったか もしれない)。

タイミングも同じように重要ぞある。あまりに早すぎたために、せっかくの新しい カテゴリーがものにならない場合もある。かつて五〇年代には、「ナッシュランブラ ー」がアメリカ製の初の小型車だった。ところがメーカーのアメリカン。モーターズ は、このカテゴリーが成長するのを見守るだけの勇気も、資金力も持ち合わせていな かった。 遅いよりは早いほうがいいに決まっている。商品が成長するのをしばらく待つだけ の覚悟がなければ、顧客の心を真っ先につかむわけにはいかないだろう。

 

 

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