長期的に見れば、あらゆる市場は二頭の馬の競走になる。
初めのうち新しい商品カテゴリーの梯子には、多数の段がついている。ところが次 第に、その梯子が二段式梯子に変わっていく。 電池の場合は、 エバーレディーとデュラセルである。写真フィルムの分野ではコダ ックと富士、 レンタカーではハーツとエイビス、洗口液ではリステリンとスコープ、 ハンバーガーではマクドナルドとバーガーキング、スニーカーではナイキとリーボッ ク、歯磨きではクレストとコルゲートである。 マーケティングを長期的視野でとらえれば、競争は二大主役(一般的には、古くか ら信頼されているブランドと新進ブランド)の間の全面戦争に収餃されていくのが普 通である。 一九六九年の時点で、ある商品カテゴリーに二つの主要ブランドが存在していた。 トップブランドが市場の約六〇パーセント、ナンバーツー・ブランドが二五パーセン ト、ナンバースリーが六パーセントのシェアを確保し、残りをプライベート・ブラン ドや弱小ブランドが分けあっていた。「二極分化の法則」によれば、このようなマー ケットシェアは不安定ということになる。さらに、この法則で予測すれば、トップブ
ランドがマーケットシェアを減らし、ナンバーツーはシェアを獲得することになって さて、それから二二年後、トップブランドのマーケットシェアは四五パーセントに 下落し、ナンバーツー・ブランドのシェアが四〇パーセント、ナンバースリーのが三 パーセントになった。この商品とは、実は順にコカコーラ、ペプシヨーラ、 ロイヤル クラウンコーラであるが、この原則はあらゆるブランドにあてはまるのである。 長距離電話会社三社の例を見てみよう。AT&T社が市場の六五パーセントを握り、 MCI、スプリントのシェアはそれぞれ、 一七、 一〇パーセントである。この電話戦 争でどこが勝利し、どこが敗れるのであろうか。将来のことは予測し難いが(第17 章 参照)、投機家はおそらくMCIに金を投じることだろう。MCIは二位争いでスプ リントを押え、 いまや古くて信頼のあるAT&Tの対抗馬の地位をうかがっているの だ。 スプリント社は梯子の三段目にあって、居心地の良さを満喫しているに違いない。 九パーセントというシェアはたいした数字ではないが、年間売上げに換算すれば六〇
億ドルになるのである。しかも市場は急速に成長を続けている。 しかし長期的に見れば、スプリントは深刻な事態に見舞われるだろう。ロイヤルク ラウンの例を見ればいい。 一九六九年にロイヤルクラウンは同社のフランチャイズシ ステム、 つまり二五〇のボトラーを強力に活性化し、ライバル・ペット・フーズの元 社長やコークとペプシの両社で働いたことのあるベテラン幹部を引き抜いた。同社は また、 ニューヨークの強力な広告代理店を抱え込みもした。同代理店の社長、メソ ー・ウエルズはロイヤルクラウンのボトラーたちに向かって、「われわれは、 コークと ペプシを倒す」と宣言したものだ。「どうか、こういう言い方を許していただきたい。 でも、われわれは本当に喉元にくらいつく」。 結局、倒されたただひとつのブランドが、 ロイヤルクラウンだった。成熟産業にあ っては、第二位というのは、維持するのが難しいポジションなのである。 自動車産業の場合はどうだろうか。リー●アイアコッカによる大胆な施策にもかか わらず、クライスラーは困難な事態に直面している。長期的には、ここのマーケティ ングも二台だけの自動車レースとなるだろう。
次はビデオゲーム産業のケースである。八〇年代末、ここの市場は、七五パーセン トのシェアを持つ任天堂によって支配されていた。二頭の等外馬がいて、それがセガ とNECだった。いまでは任天堂とセガとが激しく競り合い、NECは遅れを取って いる。これもいずれは同じように二頭立てのレースになっていく。 しかしながら、時間枠にはおのずから違いが生じる。動きの早いビデオゲーム市場 は、二、三年で勝負がついてしまった。これが長距離電話市場となると、二、三〇年 はかかるかもしれない。 航空産業の場合はどうだろうか。市場の二〇パーセントを占めるアメリカン・エア ラインズが鼻差リードしていて、おそらく空のコカコーラといわれる立場を確保する だろう。興味深いのは、それぞれ一人パーセントのシェアを持つデルタ航空とユナイ テッド航空の間の戦いである。両社のどちらかが、ペプシのように大空に飛び立ち、 もう一方がロイヤルクラウンとともに墜落の運命をたどるだろう。そして結局、航空 二社の競争が展開されていく。
これらの結末はあらかじめ定められているのだろうか。もちろんそんなことはない。 この他にも結末に影響を与えるマーケティングの法則が存在するのだ。おまけに、あ なたのマーケティング計画がマーケティングの諸法則に合致しているなら、販売結果 に強い影響を及ぼすのである。あなたがロイヤルクラウンのような、弱いナンバース リーの立場であるとしたら、他の強力な三社に積極的に攻撃をしかけても、さしたる 成果はあがらないだろう。彼らはそういう立場になれば、旨みのあるニッチ市場(隙 間市場)を自らの努力で得たはずである(第5章参照)。 マーケティングは長期的には二頭の馬のレースになるものだということを知ってい れば、あなたが短期の戦略を練る際に役立つことだろう。 明確なナンバーツーが不在というケースがしばしばある。その場合、以後の推移は、 競争各社の戦術の巧みさによって決まる。ラップトップコンピュータのケースを見て みよう。トップにいるのは、二一パーセントのマーケットシェアを持つ東芝である。 しかし二位以下には五つの会社が並んでいる。ゼニス、 コンパック、NEC、タンデ ィ、シャープの各社で、それぞれ八から一〇パーセントのマーケットシェアを持って
いる。 コーナーを回れば二頭しか走れる余地のないところに、六頭の馬がさしかかっ たのを見るのは面白いに違いない。東芝と、あとはどこだろう。二着に入るのはどの 会社だろうか。 経済的見地から見てとりわけ悲劇的なのは、ラップトップコンピュータのような、 一見して見分けのつく多くの商品カテゴリーに、資源が浪費されていることである。 現在、市場には一三〇銘柄ものラップトップが出回っている。二極分化の法則からい えば、これらのブランドのうちのほとんどが二一世紀まで生き延びることはできない のである。 アメリカの自動車の歴史に目を向けてみよう。 一九〇四年には一九五種類もの車が、 六〇社のメーカーによって製造されていた。その後の一〇年間に、五三一の会社が生 まれ、三四六の会社がつぶれた。 一九二三年まで生き延びた自動車メーカーはわずか に一〇八社、 一九二七年にはそれが四四社にまで減少した。今日ではフォードとゼネ ラル・モーターズ社が国内の業界を支配し、クライスラーの将来は疑間視されている。 成功するマーケッターというのは、上位の三社に入ろうと精力を集中する。ゼネラ
ル・エレクトリック社の伝説的な会長兼CEOであるジャック・ウエルチは、先頃こ う述べた。「ますます競争の激化するグローバルな戦場では、それぞれの市場でナン バーワンかナンバーツーの企業だけが、生き残れるだろう。そうでない企業は、買収 されるか、閉鎖されるか、売却されることになるだろう」。プロクター&ギャンブル 社を今日のような巨大企業に築き上げたのは、まさにこのような考え方である。P& Gはアメリカにおいて、同社の四四の商品カテゴリーのうち三二のカテゴリーで、ナ ンバーワン、ないしナンバーツー・ブランドの座を確保している。 初期の成長市場にあっては、ナンバースリーないしナンバーフォーの座も魅力的に 見えるものだ。売上げは増大し、新しい、比較的うぶな顧客が市場に流れ込む。この ような顧客は、どのブランドがトップブランドぜあるのか知らないこともあり、この ため、興味が湧き、魅力的に見える商品に手を出す。そうした商品がナンバースリー だったリナンバーフオーだったりすることが、ままあるのである。 しかしながら、時間が経つにつれて、このような顧客にも事情が分かってくる。彼 らは、トップブランドのほうがよりましに違いないという素朴な考えから、トップブ
ランドを欲しがるようになるのである。 繰返して言うが、顧客はマーケティングとは商品の戦いだと信じている。二つのブ ランドが常に上位を占め続けられるのも、このような考え方のせいである。「このブ ランドがベストであるに違いない。なにしろトップブランドなのだから」と。
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