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第1章 一番手の法則

はじめに いかにも気がきいていて、ご立派、それに予算もたっぷり使っているくせに、おそ らくは役に立たないだろうと思われるマーケティング計画に、これまで何十億ドルも の金が無駄に費やされてきた。 マネジャーたちの多くは、きちんと設計され、きちんと実施され、相応の金を投じ たマーケティング計画は、効果が上がるはずだと考えている。ところが、必ずしもそ うとは限らないのぞある。そのことはIBM、ゼネラル・モーターズ(GM)、シアー ズ。ローバックの事例を見るだけで納得がいく。シアーズ。ローバック社が使ったマ ーケティング・ツールやテクニックは妥当なものであったし、ある場合には見事でさ えあった。GMのマーケティング計画を推進したマネジャーたちは、最高、最良のス タッフだったはずである。最高、最良の人材が伝統的にGMやIBMのような超一流企業に流れるのは確かな事実だから。ところがかんじんのマーケティング計画そのも のが誤った前提に基づいていたのである。 かつてジョン・ケネス・ガルブレイスは、アメリカの大企業に対する世間の認識を 尋ねられて、世間は企業のパワーに懸念を抱いていると答えた。今日、私たちは企業 の無能さに懸念をいだいているのだ! すべての企業がいま困難に直面している。とりわけ大企業がそうだ。GMがその良 い見本である。同社は過去一〇年以上にわたり、ものすごい代価を支払いながら製品 のブランドカを破壊してしまった(同社は各製品の見た目を同じにしただけでなく、 同じような価格設定を行なったのだ)。その結果、シェアが一〇パーセントも下がり、 年間一〇〇億ドルの売上げが消えた。 GMが抱えていた問題は、競争が激化していたとはいえ、競争力の問題ではなかっ た。また同社は最高品質の製品を市場に出していたとはいえなかったが、品質上の間 題でもなかった。明らかにマーケティング上の問題だったのである。 今日ではある会社が一つぞもミスを犯すと、たちまちその影響が表われ、競争力が失われる。競争力を取り戻すには、他社がミスを犯すのを待って、そのミスにつけい る手段を講じるほかないのである。 ではそうしたミスを避けるには、さしあたりどうすればいいのだろうか。手っとり ばやい答は、あなたの計画をマーケティングの法則に適ったものにすることである。 (私たちはいろいろのアイデアやコンセプトを″マーケティング″という旗印の下に 提示しているが、それらはあなたが会社のどの部署にいようと、またあなたの会社が どんな商品やサービスを販売していようとも有効である) では、そのマーケティングの法則とは何だろうか。そして、 いったいだれがそれを シナイ山から持ち下って石板に刻んだというのだろうか。 マーケティングの基本的な法則とは、すなわち本書で説かれている法則である。 だが、だれがそうだと言ったのか。どうしてコネチカット出身の筆者ら二人が、他 の何千人もの人々が見過ごしてきた法則を発見できたのだろうか。優秀なマーケティ ングの実務家や研究者は無数にいるというのに。そうした人たちは、私たちふたりが 明々白々だと考える法則をなぜに見逃したのだろうか。答えは簡単である。要するにほとんどの人が、 マーケティングに法則があること、 まして不変の法則があることを認めようとしないからなのである。 自然には法則がある。だとすれば、 マーケティングに法則があってなぜおかしいの だろうか。格好のいい飛行機を作ることはできても、物理の法則、なかんずく引力の 法則にしたがわない限り、地上から飛び立つことはできない。砂丘の上に優れた建築 物を建てることはできる。しかしひとたびハリケーンに襲われたら、せっかくの建造 物も台無しになってしまうだろう。それと同様に、いかに立派なマーケティング計画 を立てようとも、 マーケティングの不変の法則を知らなければ、その法則によってあ なたはつまずくこともありうる。 自分にできないことがあるということを認めたくないのは自然の感情であろう。た しかにほとんどのマーケッターたちは、十分なエネルギーと創造力、それに強国な意 志がありさえすれば、何事も達成できると信じている。そのうえ十分な予算があると なれば、なおさらのことだ。 マーケティングに法則があるという可能性を認めさえすれば、それが何であるかを理解するのは容易である。事実、それらの法則はしごく明白な事柄なのだ。 筆者たちは二五年以上もの間、 マーケティングにおいて有効な手法、有効でない手 法の研究を続けてきた。私たちが発見したところによれば、有効なマーケティング計 画とは、ほとんど例外なく、市場に存在するある基本的な力と調和している。 私たちは書物や記事、講演やビデオを通して、 マーケティングの基本原則をかなり 詳細に分析してきた。人間のマインドについて具体的モデルを含むマーケティング作 業の戦略モデルを開発し、「ポジショニング」というコンセプトの下に世に広めてき た。私たちはまた市場の軍事的モデルをも開発した。このモデルによって企業やブラ ンドはマーケティング戦争において攻撃、防御、迂回、さらにはゲソラ作戦を選択す るのである。 長年にわたるマーケティングの原則や問題点の研究を経て、私たちは自分たちの発 見の成果を基本的法則に煮詰めることができた。これらの法則が市場での成功、失敗 の帰趨を左右するのである。 私たちはこれらの原則を「マーケティング不変の法則」と呼んでいる。これには二二の法則が存在する。もしあなたがこれらの法則を犯せば、危険に見舞われることを 覚悟したほうがいい。 ボジショニング「oいこoユ品 ポジショニングとは、見込客の心のなかに、その商品の位置づけ(ポジショニング)を行なうことで ある。ポジショニングには、有形の商品、サービス、企業、組織、人の場合もありうる。 このポジショニングを知ることにより、競合他社との位置関係や、その位置づけの意味を知り、自社 の戦略を立案することができる。 例えば、自社のポジションを知り、差異化、特異化を押し進めていれば、他に追従されない独自のポ ジションを獲得することも可能となる。 このように企業は、見込客の心の中にひとつのポジション、即ちその企業の強みや弱みをこのポジシ ョニングで知るだけでなく、競合他社との比較上の違いをつくりだすことができる。

マーケテイング作業から、神話と誤った考え方を取り除くために

一番手になることは、ベターであることに優る

マーケティングの基本的な課題はあなたの商品やサービスが他に優っていることを 顧客に納得させることだ、と信じている人が多い。 その考えは間違っている。もしあなたの商品のマーケットシェアが小さく、もっと シェアの大きい、予算も豊富な競合商品相手に戦いを挑まなければならないのだとし たら、たぶんあなたのマーケティング戦略はスタートから間違うことになる。あなた はマーケティングの第一の法則を犯したからだ。 マーケティングの基本的な課題は、あなたが先頭を切れる分野を創造することであ /′ρ。

これが「一番手の法則」である。他に優っていることよりも、先頭を切ることのほ うが大切なのだ。最初に顧客の心に入り込むことのほうが、最初に入り込んだ商品よ り自分の商品の方がベターであると人に納得させることよりもはるかに容易なのであ る。 次の二つの質問を読めば、一番手の法則がよく理解できるだろう。

① 大西洋を最初に単独で横断飛行した人物の名前は? そう、もちろんチャール ズoリンドバーグだ。 ② 大西洋を二番目に単独飛行した人物の名前は,。おそらく簡単には答えられない だろう。 大西洋を二番目に単独横断飛行した人物はバート・ヒンクラーである。ヒンクラー はリンドバーグよりも腕のいい飛行士だった。少ない燃料で、早く飛行することがで きた。だが、バート・ヒンクラーの名を知る人は余りいない(ヒンクラーは家を出て しまって、夫人もヒンクラーのその後の消息を知らないという)。 リンドバーグ方式の方が明らかに優れているにもかかわらず、たいていの会社はバ ート・ヒンクラーのとった道を追いかけている。彼らは市場が成長するまで待つ。そ してそれから他よりも優れた製品をひっさげ、たいていはそれに会社名をつけて、勢 い良く市場に参入するのである。今日のような競争の激しい環境の中では、製品ラインを広げただけの二番煎じの製品が、利益を生む主カブランドになる見込はほとんど ない(第12 章参照)。 どんなカテゴリーであれ、市場をリードするブランドはほとんどといっていいくら い、顧客の心に最初に入り込んだブランドである。レンタカーのハーツ、 コンピュー タのIBM、 コーラのコカコーラなどがそうだ。 第二次世界大戦後、アメリカで最初に名声を築いた輸入ビールはハイネケンだった。 それから四〇年後のいま、輸入ビールのナンバーワンは何だろうか。 一番うまいビー ルだろうか。それともハイネケンだろうか。現在アメリカでは四二五種類の輸入ビー ルが売られている。そのうちのいくつかは明らかにハイネケンよりも味が優れている はずである。だがそんなことはたいした問題ぞはない。ハイネケンはいまでもナンバ ーワンの輸入ビールで、三〇パーセントの市場シェアを確保しているのである。 国産初のライトビールはミラー・ライトだった。今日アメリカで一番売れているビ ールは何だろうか。 一番うまいビールだろうか、それとも消費者の心を最初につかん だビールだろうか。

そうはいっても、初めての商品がすべて成功するとは限らない。タイミングが問題 なのであって、初めての商品でもタイミングが遅すぎるという場合もある。例えば日 刊紙の「USAトゥデイ」はアメリカ最初の全国紙であるが、成功の見込みは薄い。 同紙はすでに八億ドルの損失をこうむり、これまぞに利益を上げた年は一度もない。 このテレビ時代にあっては、全国紙はタイミングを逸した商品なのだ。 初めての商品の中には発想が間違っているために、成功しそうもないものもある。 愛犬用のアイスクリーム、フロスティー・ポウズもまず当たる見込みがないだろう。 大たちは気にいるかもしれないが、飼い主たちといえば自分の食料品しか買わないし、 だいたい犬が専用のアイスクリームを必要とするとは考えていない。大は皿をなめる だけで満足すべき生き物なのだ。 一番手の法則はどんな製品、どんなブランド、どんなカテゴリーにもあてはまる。 たとえば、あなたがアメリカで最初に創立された大学の名前を知らなかったとしよう。 どんな場合にも、最初のもののかわりに代表的なものを思い浮かべることによって、 正確な推測ができる。たいていの人はおそらくハーバードの名前を上げることだろう。

そしてハーバードこそまさにアメリカで最初に設立された大学なのである(アメリカ で二番目に設立された大学はどこだろうか。ウイリアム・アンド・メリー大学だが、 その知名度はバート・ヒンクラーをほんのちょっぴり上回っているに過ぎない)。 二つの商品で、双子ほどに似通った商品は存在しない。だが、その双子がいつも嘆 くことはといえば、人は双子のうち最初に会った方を、もう一方と知りあった後もず っとひいきにし続けるという事実だ。 人間というのは、いま現在所有しているものにこだわる傾向がある。仮にあなたが ご自分の妻、あるいはご亭主よりましな相手に出会ったとしても、弁護士の費用や、 家や子供たちと離れ離れになることを考えれば、乗り換えるほどの価値はない。 一番手の法則は雑誌にもあてはまる。「タイム」が「ニューズウィーク」を、「ピー プル」が「アス」を、「プレイボーイ」が「ペントハウス」をリードしているのはそ のためである。例えば「TVガイド」誌の場合を見てみよう。五〇年代の初め、当時 強力な出版社だったカーティス・パブリシング社は発刊して間もない「TVガイド」 を向こうに廻して、テレビ雑誌に進出しようとした。「TVガイド」は細々とスター

卜したばかりだったが、カーティス社の恐るべき力をもってしても、新しい雑誌を軌 道に乗せることはできなかった。「TVガイド」が市場を先取りしていたのである。 一番手の法則は大学とかビールといったソフトな分野と同じく、自動車やコンピュ ータのようなハードな分野にもあてはまる。ジープは道なきところを走る最初の四輪 駆動車だった。アキュラは最初の日本製高級車だった。IBMは最初の大型コンピュ ータぞあり、サン・マイクロシステムズは最初のワークステーションだった。ジープ、 アキュラ、IBM、サンはいずれもリーディングブランドである。 初めてのミニバンはクライスラー社から発売された。今日クライスラー社は、自動 車市場の一〇パーセント、ミニバン市場の五〇パーセントを確保している。自動車マ ーケティングの基本はよりよい車を作ることだろうか、それとも市場に真っ先に参入 することだろうか。 初めての卓上レーザープリンタを開発したのは、 コンピュータ会社のヒューレツ ト・パッカード社だった。現在、同社はパーソナルコンピュータ市場の五パーセント とレーザープリンタ市場の四五パーセントを握っている。

ジレットは初めての安全剃刀、タイドは初めての洗濯用合成洗剤、 ヘイズは初めて のコンピュータ。モデムだった。全部がリーディングブランドになっている。 最初のブランドが一般に先行的立場を維持する一つの理由は、そのブランド名がし ばしば商品の総称になることである。最初の複写機であるゼロックスは、複写機全般 を指す総称となった。ソコーとかシャープあるいはコダックの複写機の前に立ちなが ら、人は「どうやってゼロックスすればいいのかな」などとつぶやく。パッケージに はっきり「スコット」と書いてあるのに、人々は「クソネックスをください」と注文 する。ペプシコーラしかないのに、 コークですといって差し出す。 スコッチテープではなくてセロファンテープと言って注文する人がどのくらいいる だろうか。あまり多くはいないだろう。たいていの人はブランド名がその商品の総称 になると、ブランド名を使う。ざっと上げれば、バンドエイド、フアイバーグラス、 ジェロ、クレイジーグルー、Qティップス、サランラップ、ベルクロなどの例がそう である。 なかには、あるブランド名を商品の総称にしようと骨折る人がいる。「この荷物を

西海岸までフェデックスしてください」などと。あなたが新しい分野に新商品を導入 しようとする場合には、総称になりうるような名前を選ばなくてはならない(弁護士 はしばしば反対のことを助言するが、彼らにはマーケィングの法則など分かってはい ないのだ)。 通常、最初のブランドが先導商品になるばかりではない。後に続いたブランドの売 上げ順位も参入の順序に合致する場合が多いのである。そのよい事例が抗炎症剤イブ プロフェンである。この分野ではアドビルが一番、ナプリンが二番、メディプレンが 二番だった。現在の売上げもちょうどこの順番である。アドビルがイブプロフェン市 場の五一パーセント、ナプリンが一〇パーセント、メディプレンが一パセントのシェ アを占めている。 市場に参入した四番目のブランドはモトリンーBだった。モトリンはイブプロフェ ンの処方薬として強力な信用を誇っているにもかかわらず、そのマーケットシェアは わずか一五パーセントに過ぎない(アドビルが売り出された時の謳い文句が「処方薬 モトリンと変わらない」だったことを思い起こして欲しい)。そしてそれがどのよう

に総称に変じたかに注目していただきたい。消費者は現在、アドビルを普通名詞とし て使用している。彼らがイブプロフェンという言葉を使うことはめったにない。医師 でさえ患者に「アドビルを二錠飲んで明朝電話してください」などといっている。 鎮痛下熱剤アセトアミノフェンの最初のブランドであるタイレノールの場合を考え てみよう。タイレノールはだんとつのブランドなので、二位のブランドがどれかを決 めることは難しい。 成功の秘密が顧客の心に最初に入り込むことだとして、では多くの会社はどんな戦 略をとっているのだろうか。実はベタープロダクト戦略なのである。現在、企業経営 にあって、最新にして最もホットな課題はベンチマーク戦略である。「究極の競争戦 略」ともてはやされているベンチマーク戦略とは、あなたの会社の製品を業界におけ る最良の製品と対比し、評価する手順のことだ。それは、しばしば「全体的な品質管 理(トータル・クオソティー・マネジメント)」と呼ばれる手順の中の本質的な要素で ある。 残念ながら、このベンチマーク戦略は効力を発揮しない。人々は、実体云々よりも、

心に入り込んだ最初の商品を優れた商品であると知党する。 マーケティングとは、知 覚をめぐる戦いであって、商品をめぐる戦いではないのだ。 そこでお聞きするが、アスピリンの最初のブランドの名前は何だったろうか。アセ トアミノフェンやイブプロフェンの最初のブランド名は。(ヒント¨「最初」という 言葉を「代表的な」という言葉に置き換えてみれば、これら二つの質問の答えが見つ かるだろう)。 チャールズ。シュワブは自らを「アメリカ最大の手形割引き仲買人」と称している。 あなたは手形割引き仲買人業界におけるチャールズoリンドバーグが、チャールズ。 シュワブであることを知って驚かれるだろうか。 月に最初の第一歩を印した人物はニール・アームストロングだった。では二番目は だれだっただろうか。 一マイルを四分で走った最初の人物はロジャー・バニスターだ った。二番目はだれだったろうか。 ジョージ。ワシントンが初代のアメリカ大統領だった。では二番目は?・マフィン の最初のブランドはトマス、 スポーツドリンクの最初のブランドはゲータレード、二

番目はそれぞれ何だったろうか。 仮にあなたが顧客の心の中に入り込むのが二番目だったとすれば、あなたはバズ・ アルドリンやジョン・ランディー、ジョン・アダムス、どこかの名もないマフィンや スポーツドリンクのように永久に後塵を拝さなければならないのだろうか。そうとは 限らない。幸いなことにそのほかにも法則があるのだ。 *ベター・プロダクト戦略(H , Φσo諄Φ7o「o〓o■い一3■oQ) 常に良い製品をつくり出すことを、主眼に置いた戦略。私たちの製品は、競合他社よりも優れている。  22 より優れたものをつくりだすことこそ、成功の錠だと信じる考え方。 しかしマーケティングは、製品同士の戦いではなく、知覚の戦いなので、結果的には相対的に良い (ベター)というポジションに落ち着いてしまい、常に改良、改善を余儀なくされる。 また見込客には、「それほど良い商品なら、どうしてソーダーにならないの?」という心理的疑間を 生じさせるので、この戦略は、なかなか自社に有利なポジションを獲得しにくい。 *ベンチマーク戦略(口oコoす3o「バ∽■3■oQ) 価値判断となる基準尺度(∞oうoすヨ●ヽ天)を設けて、その基準値をもとにして、効果を測定しながら、 戦略を立案する手法。 例えば、ゼロックス社は、自社の総合的な業務改善をめざすための一環として、FF∞8つJ 社のす ぐれたシッピング(配送Yオペレーションを手本にベンチマークを設定し、自社の基準尺度と比較し て、改良。改善を施し配送システムの効率化を計った。

 

 

 

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