あなたのデスクまわりは、こんな状態ではありませんか?
- 必要な書類を探すのに10秒以上かかる
- 1週間以上使っていない文房具がある
- 引き出しのいちばん奥にあるモノが何かを即答できない
- デスクの上にありながら、1カ月以上触れていない書類がある
1つでも当てはまる人は、仕事のムダが発生しています。
いますぐ「片づけ」をする必要があります。でも、勘違いしないでください。片づけとは、「キレイにそろえる」ことではありません。それは、単なる「整列」。
ひとたび乱れてしまえば、再びぐちゃぐちゃの状態に逆戻り本書で紹介する「トヨタの片づけ」は、単なる「整列」ではありません。
トヨタの片づけとは……。無駄がなくなり、効率が上がり、売上が上がる。
片づけはあなたの仕事や職場をかえる「ビジネスツール」なのです。
はじめに
部下500人分の資料もデスクーつで大丈夫
あなたが、500人を超える部下を抱える上司だとしましょう。
あなたのデスクまわりを思い浮かべてみてください。
- デスクの上は、どんな状態でしょうか?
- 書類やファイルはどれだけ積まれているでしょうか?
- 引き出しの中はどうでしょうか?
「部下が数人しかいないのに、すでにデスクの上も引き出しもキャビネットもモノであふれかえっている。500人もいたら収拾がつかないに違いない」と思う人もいるかもしれません。
いずれにしても、「部下が増える、仕事が増えるほどに、モノは増えていく」というのが一般的な考え方です。
しかし、500人を超える部下を抱えていたトヨタの課長のデスクまわりは、驚くほどすっきりしていました。
デスクの上に常時置いてあるのは、電話が1つだけ。
就業時間中は、その日に使う必要最低限の書類とパソコンのみで、退社したあとのデスクの上には電話以外何も置かれていない。しかも、収納用のキャビネットは3つだけ。その中には書類用のファイルが12個、整然と並べられていました。
部下が2、3人増えて、「資料やモノが増えて困る」とボヤいている人からすれば、信じられない話かもしれません。
デスクの上に、書類や資料などがうず高く積んであると、仕事をしているように見えると思っている人もいるようです。
しかし、トヨタの人たちの仕事ぶりは、まったくの逆。デスクの上がぐちゃぐちゃな人ほど、仕事が後手にまわって、トラブルを起こしがちです。
反対に、デスクの上が整然と片づけられている人ほど、段取りよく仕事をこなしています。この差は明らかです。トヨタには、片づけの文化が浸透しています。
あとでくわしく述べることになりますが、トヨタには5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)というベースとなる考え方があります。
これらは、生産の現場で当たり前のように日々行われている基本中の基本。
本書では、この5Sのエッセンスをまとめて「トヨタの片づけ」と考えていますが、これこそトヨタ生産方式を支えている土台といっても過言ではありません。
特に「整理」と「整頓」をしっかりやるだけでも、作業のムダがなくなり、効率がアップするといわれています。それだけ片づけは、トヨタにとつて重要な位置づけなのです。
片づけの大切さは、工場の作業にかぎらず、オフィスでも同じ。オフィスにもさまざまな作業が存在し、それが全体に占める割合は少なくありません。
- ・書類をつくる
- ・書類を探す
- ・発送をする
- メールを処理する……
こうした一つひとつの作業の中に潜んでいるムダをできるだけ取り除くことで、仕事はスピードアップし、成果につながっていきます。
オフィスでも、整理・整頓ができていないと、「書類をすぐに取り出せない」「モノをすぐに紛失する」などのたくさんのムダが発生し、時間やコストの面で損失を被ります。そのくらいのムダはたいしたことないと思うでしょうか。
整理・整頓は毎日のことなので、塵も積もれば山となります。いますぐ手をつけなければ、この先ずっと、ムダを垂れ流すことになり、仕事の効率や成果にもマイナスの影響を与え続けます。
このように整理・整頓によるムダ取りは、仕事の段取りに直接つながってきます。
ですから、単純な作業の繰り返しが多い仕事にかぎらず、クリエイティブやマネジメントの仕事をしている人にとっても大きな効果をもたらします。工場とオフィスにおける片づけの重要性には、まったく違いがありません。
オフィスでもトヨタ流の片づけを実践すれば、必ずムダがなくなり、効率が上がります。違いがあるとすれば、「工具とペンの違い」、ただそれだけです。
工場の片づけが生産の効率や成果にプラスの影響をもたらすのと同じように、オフィスやのデスクまわりの片づけも、仕事の効率や成果に直結しているのです。
トヨタというと、「ジャスト・イン・タイム」や「カンバン方式」「カイゼン」に象徴されるトヨタ生産方式が、あまりにも有名です。
「うちみたいなオフィスではトヨタの工場のやり方はマネできない」「個人で取り入れても意味がない」と思っているなら、それは誤解です。
「ジャスト・イン・タイム」や「カンバン方式」は、すぐにマネできるものではありませんが、片づけなら、どんな小さな会社でも、どんな仕事に携わる人でもマネできます。大がかりなしくみや予算も必要ありません。いますぐカンタンに「トヨタ式」を仕事に取り入れられるのです。
本書は、おもに1960年代前半から現在にかけて、トヨタの工場や開発などものづくりの現場で活躍し、現在は株式会社OJTソリューションズ(愛知県名古屋市)でトレーナーとして活動している元トヨタマンの知恵やノウハウを一冊にまとめたものです。
トレーナーは、トヨタで培った考え方やノウハウを、多くの会社に導入し、業績アップや人づくりを支援するコンサルティングを実施しています。
本書で紹介する「トヨタの片づけ」も、トヨタやコンサルテイング先のビジネスの「現場」から得られた実践的な知見です。
トヨタ流の片づけの手法を通して、ムダやストレスのない仕事環境をつくり、あなたの仕事や職場の効率がアップすれば、これほどうれしいことはありません。
OJTソリューションズ
「ムダ」という宝を探せ
「徹底的にムダを排除する」ことは、トヨタの基本思想。片づけをすることで、ムダを取り除き、利益に変えることすらできる。
片づけない会社は業績も悪い
「片づけができているかどうかは、その会社の事務所や工場を10分見学すれば、すぐにわかる」
かつてトヨタの工務部で機械保全を担当し、いまはOJTソリューションズでトレーナーを務める中野勝雄は、こう断言します。
片づけができていない会社は、大きなムダが発生し、せっかく稼いだ利益を圧迫しているものです。
中野が、ある顧客の工場の指導をしたときの話です。その工場は、不要なものがあふれかえり、乱雑に散らかっている状態でした。
「知り合いの家にお邪魔すると、玄関に靴が乱雑に脱ぎ捨てられていることがありますよね。そういう家は、家の中も散らかっている可能性が高いものです。オフィスでも工場でも、靴やスリッパがそろっているか、ダンボールが積み重なっていないか、新聞などが整理されているか、従業員のデスクまわりはキレイか、社内掲示板の情報が新しいものに更新されているか、といった点を見れば、その会社がどれだけ片づけに力を入れているかが一目瞭然。興味深いのは、片づけができていない会社ほど、利益が出ていないなど、業績面でも苦しんでいる場合が多いという点です」
片づけができていない職場ほどムダが多く、効率が悪い。もっといえば、片づけができていない人ほど、作業のムダが発生し、十分な成果を出せていない―。これは、多くのトヨタマンが、長年の実体験から自信を持っていえることです。
片づければ「ムダ」が利益に変わる
片づけをしないと、多くのムダが発生します。おもに次のような4つのムダが考えられます。
①スペースのムダ
「どこかにモノを置く」ということは、必ず場所が必要になります。まず倉庫に置き、倉庫がモノであふれれば、工場内や通路に置き、そこがあふれればお金を払って別の倉庫を借りる。これは、指導先の現場でよく見られる光景です。
倉庫費用やスペースは、無料ではありません。モノを放置していれば、コストはどんどん膨らみ続けます。オフィスでも同様で、余計なものがあふれていれば、それだけスペースを奪われることになります。
単なる物置と化している部屋はないでしょうか。デスクまわりに、まったく使わないものやダンボールが積み重なつていないでしょうか。それらを片づければ、その部屋やスペースを有効活用できます。
②時間のムダ
さまざまなモノが混在していると、本当に必要なものを探し出すのに時間がかかります。
どこにどんな部品が置いてあるかが明確になっていないと、「その作業は担当者しかできない」という事態が起きます。
デスクまわりでも、書類やファイルが無造作に積み重なっていれば、必要な書類を探し出すのに時間がかかり、貴重な時間を失うことになります。
パソコンの中のデータやファイルも、ルールを決めずに放置しておけば、探す時間が生じてしまいます。
③間違えるムダ
ものづくりの現場では、片づけがされていないと、間違った部品を使ってしまうリスクがあります。これは、品質不良やクレームなど大きな問題につながりかねません。
オフィスでも、いろいろな資料が混在していれば、間違った資料を打ち合わせ先に持っていってしまう可能性があります。
パソコンの中のファイル名がぐちゃぐちゃだと、誤ったファイルをメールに添付してしまうかもしれません。
④とりに行くムダ
頻繁に使用するものであるにもかかわらず、遠くに置いてあれば、それだけ時間をムダにします。とりに行く時間は価値を生み出しません。
オフィスでもコピー機を頻繁に使う仕事なのに、コピー機が近くにないと、「移動する」というムダを生み出すことになりますし、手元に頻繁に使用する文房具を置いていなければ、いちいちとりに行かなければなりません。
ムダは利益を生まないばかりか、どんどん利益を侵食していきます。
片づけをすれば、こうしたムダの数々を確実に取り除き、利益に変えることができます。このような視点から、デスクや職場を見まわしてみてください。あなたのまわりにも、ムダという「宝」が眠つていないでしようか。
片づけは雑務じゃない。「仕事そのもの」である
片づけは、「仕事の合間にするもの」と思つていないだろうか。トヨタでは、片づけも仕事の一部ととらえられている。
片づけをすれば生産性がアップする
トヨタには「何事も5Sから」という考え方があります。これこそ、トヨタの片づけの習慣を支えている屋台骨といえます。
5Sはトヨタにかぎらず、多くの企業で取り入れられている考え方なので、聞いたことがある方も多いでしょう。
5Sとは、次の5つの活動の頭文字をとつた言葉で、職場環境を維持・改善するうえで用いられるスローガンです。
- 整理
- 整頓
- 清掃
- 清潔
- しつけ
5Sは効果的な改善手法として、日本だけでなく、世界の企業からも注目を集め、採用されています。
しかし、「5Sは製造現場の手法だからオフィスでは導入できない」「うちみたいな小さな企業では、トヨタ式は無理だ」と思っている方もいるようです。
そうした考え方は、誤解にすぎません。5Sは、どんな職場でも仕事でも応用できる考え方です。企業の大小、業界、職種は問いません。
「片づけができていない」という状況は、5Sでほぼ100%解消されます。なぜなら、5Sは仕事そのものだからです。
「整理・整頓は、仕事とは別もの」ととらえている人も多いかもしれません。「職場や机まわりをキレイにするのが整理・整頓だから、仕事の合間にやれば十分」と。
しかし、トヨタでは、5S、すなわち片づけは仕事の一部ととらえられています。普段から習慣的にやるのが当たり前なのです。
本書は5Sの専門書ではないので詳細ははぶきますが、5Sを実施すれば、安全の確保、原価低減、品質の安定、従業員のマネジメントなど、企業が抱えるさまざまな問題が改善していきます。
5Sに取り組めば、それだけで生産性がアップするともいわれるほどです。「経営のすべての道は5Sに通じる」といっても過言ではありません。
まずは整理・整頓を徹底するだけでも、オフィスや仕事の生産性は上がる
「整理」「整頓」を徹底するだけでも成果が上がる
トレーナーの中野が指導に入った会社も例外ではありませんでした。まずメスを入れたのは、「整理」と「整頓」。
とにかく、いらないものを捨てること。
壁ぎわに並ぶ大きな棚には、しばらく使らていないものや、1つあれば十分な部品や工具が2つも3つも置いてありました。
それらを捨てて棚をすっきりさせて、必要なものだけを配置していくと、いくつかの棚が必要ないということになりました。
そこで、それをどけると、棚のうしろから窓があらわれ、ピカーッと太陽の光が差し込んだのです。
工場長も「こんなところに窓があったのか―」と驚いたほどで、従業員全員が、そこに窓があることを知らずに仕事をしてきたのです。
こうした整理・整頓の結果、どうなったでしょうか。
大幅な生産時間の短縮や年間300万円ほどのコストダウンに成功するなど、生産性が向上したのはもちろん、不良品が減るなど品質も向上しました。
工場内のスペースが広くなり、太陽の光が構内に差し込むようになったことで次の改善がしやすくなっただけでなく、職場の雰囲気がパッと明るくなり、従業員の「次の改善をやってやろう」という前向きな気持ちも芽生えました。これこそ整理・整頓の効果です。
ほかに特別なコンサルテイング手法を導入したわけではありません。
多くのトレーナーが言うことですが、5Sのうち最初の「整理」と「整頓」をやるだけでも、必ず職場の効率はアップし、成果が上がるのです。
片づけをすることで、利益をかすめ取るムダを取り除くことができるからです。
書類を取り出すのは「10秒以内」
トヨタでは、工場にかぎらず、オフィスでも片づけが重要視されている。10秒以内に日当ての書類を取り出せるかどうかが目安となる。
「書類を探す時間」は、積み重なると大きなムダとなる
オフィスで働いている人は、ものづくりの現場で働いている人ほど、整理・整頓やムダについて意識していないかもしれません。しかし、自分のデスクまわりを見るだけでも、多くのムダに気づくと思います。
たとえば、デスクの上に、たくさんの書類やファイルなどを乱雑に積み重ねている人をよく見かけます。
タワーのように書類を積んであっても、「自分は必要な書類をすぐに取り出せる」と豪語する人もいますが、いったんほかの人が整理したり、書類の山が崩れてしまったりすると、どこにどの書類があるかわからなくなりますし、何より見た目が悪い。上司から頼まれた資料を何分も探した挙句、結局出てこない、といった話はよくあります。
パソコンの中のファイルやメールでも同様です。
これらも当然、時間のムダなのですが、「そのくらいは、たいした時間ではない」とうそぶく人もいます。しかし、1日30分間、何かを探す時間に充てていたらどうなるでしようか。
lヵ月20日働くとすれば、1年で7200分(600分×12カ月)。
ということは、1日8時間働くとすれば、年間15日間の貴重な時間を探すことに費やしていることになります。これをムダといわずに何といえばよいでしょうか。小さなムダも積み重なると、大きなムダになるのです。
今日、必要なもの以外はデスクの上に出さない
トヨタでは、オフィスであっても整理・整頓が求められます。トレーナーの山本政治は、こう証言します。
「私が所属していたトヨタの生産管理部では、書類は10秒以内に取り出すことが暗黙のルールでした」つまり、上司から「あの資料を見せてほしい」と言われてから、あたふたと探しているようではダメ。これこそ、探す時間のムダです。
トヨタで39年もの間、車体製造の工程を担当してきた中島輝雄もまた、デスクまわりの整理・整頓を心がけて仕事をしていた一人。
「デスクの上に積まれた書類の山の中に、今日の仕事で必要なものは、どれだけあるでしょうか。今日の仕事で使うのは、その中の一部で、ほとんどのものは使わないはずです。
なかには、1カ月以上、ひどい場合は1年以上使わないような資料が積まれているケースさえあります。デスクで仕事をするうえでの鉄則は、『今日、必要なもの以外はデスクの上に出さない』ということ。
明日、使う書類は必要ありませんし、文房具も今日使わないのであれば、定位置に収納しておくべきです。そして退社するときには、デスクの上には何も残っていない、というのが理想的な状態です」
置きっぱなしの書類のほとんどは捨てても問題ない
社内で地位が上がり、部下が増えれば増えるほど、デスクまわりが乱雑になってくる人も少なくありません。部下が増えれば、それだけまわってくる書類が増える。出席する会議も増えるので、資料も多くなる。だから、それらを保管するスペースがどんどん増え、モノばかり増えていく。そして、「場所がない、場所がない」とボヤいているのです。
しかし、トヨタの場合、管理職になるほどモノが少なくなり、デスクまわりがすっきりしている場合が少なくありません。
「はじめに」の中で、「500人を超える部下を抱えているのにもかかわらず、デスクまわりがキレイに片づいている課長」の話をしましたが、機械部で課長職を経験したトレーナーの土屋仁志もその一人。
一時は530人を超える部下のマネジメントをしていたにもかかわらず、「デスクの上に置かれているのは電話1つ、しかも、キャビネットは3つだけだった」と土屋は言います。
「自分のデスクの上に置きっばなしになっている書類を見渡してみてください。本当に必要なものなど、ほとんどないはずです。本当に重要なものは、データならパソコンの中に入っているし、紙なら鍵のかかる引き出しなどに入れてあるはず。なくして困るものなら、肌身離さず持っていて、家に持ち帰るでしょう。自分の免許証をデスクの上に放置する人はいませんよね。財布などは決まった位置に入れているはずです。それはデスクの上でも同じ。デスクの上に置きっぱなしにしているという時点で、捨ててもかまわないものである可能性が高いでしょう」
人間心理として、「いつか使うかもしれないから捨てにくい」と思ってしまうものですが、実際には、捨てて困ることはほとんどありません。
だいたいはパソコンの中にデータとして残っていますし、ほかの誰かが保管しているものです。大事に資料などを保管している人もいます。
「またいつか使うかもしれない。だから捨てにくい」と言いますが、現実に使うことなどめったにありません。
そもそも時間がたてば、ビジネス環境は大きく変わっています。昔の資料などは時代が古くて使いものにならない。そのときにはそのときの新しい資料が必要になっているはずです。
「キレイにする」がゴールではない
モノを右から左へ移動させ、キレイに「整列」させることは、トヨタでは片づけとはいわない。まずは「整理」「整頓」の定義をはつきりさせる必要がある。
多くの人が片づけられない理由
「自分のデスクまわりを片づけたい」「オフィスをキレイにしたい」と思ったとき、どのような手順を踏んでいけばいいのでしょうか。片づけを始めてみたものの、途中で収拾がつかなくなつてしまう。
あるいは、しばらくの間は片づいてキレイになっているものの、また乱雑に散らかつた状態に戻ってしまうことがあります。なぜ、そうなるのでしょうか。
その理由は、次の通りです。「整理・整頓とは何かについて、そもそも考えたことがない。そんな状態のまま取り組むから、いつもうまくいかない」
片づけられない人は、整理・整頓について「身のまわりをキレイにすること」程度の認識しかないのが現実ではないでしょうか。
しかし、トヨタの片づけは、「キレイにする」がゴールではありません。トヨタは5Sの中でも、特に整理・整頓を重要視し、まずは、この2つから取りかかることになります。
整理・整頓の定義そのものは、きわめてシンプル。
次のようなものです。
- 整理する=「いるもの」と「いらないもの」を分け、「いらないもの」は捨てる
- 整頓する=「必要なもの」を「必要なとき」に「必要なだけ」取り出せるようにする
トヨタの片づけのすべては、ここから始まります。
定義そのものはシンプルですが、その意味するところは深く、実行に移していくことは単純なことではありません。
なぜなら整理についていえば、。これは「いるもの」。これは「いらないもの」と分けていくための判断基準が毎回、間われてくるからです。
判断基準があらかじめ定まっていないと「いるもの」と「いらないもの」を峻別することができません。
だからこそ、思いつきで整理を始めたとしてもうまくいきません。身のまわりの数々のものを前にし、戸惑ってしまう。
これは「いるもの」か「いらないもの」か判断できず、結局は何も捨てられなくなってしまうのです。
整頓についても同じ。
「必要なものを必要なときに必要なだけ取り出せるようにする」といいますが、。「何が」必要なのか。「いつ」必要なのか。「どのくらい」必要なのかがわかっているかどうか。それらを定めていけるかどうかが重要です。
それなしに整頓を進めたとしても、モノの適切な置き場所を決めていくことはできません。結果として、当人にとつてきわめて非効率なモノの配置となり、整頓のための整頓になってしまいます。
「キレイにそろえる」、それは「整列」にすぎない
整理・整頓というと、モノを右から左に動かすだけで終わってしまうことが多くないでしょうか。それでは何のためにやつているのかわかりません。ただ並べ直しただけでは「整列」、単にキレイにそろえただけです。
たとえば、本棚を整理・整頓しようというときに、本の大きさごとにそろえて収納する。あるいは、書類の入ったファイルを大きさや色別にそろえて並べる。見た日はキレイになるので、多くの人はそこで満足してしまいます。
いらないものを捨てずに、右から左ヘモノを移動させることは、トヨタでは整理・整頓とはいいません。
整理・整頓とは「捨てる技術」であると同時に、「必要なものを必要なときに必要なだけ取り出せるようにする」ことなのです。

モノを持つことは、コストになる
「捨てるのはもったいない」という心理的抵抗があると、いつまでたつても片づかない。トヨタでは、こうした「心の壁の片づけ」も大事にしている。
トヨタが取り組んできたソフトとハードの融合
片づけには人間性への深い洞察も必要となります。なぜなら「整理・整頓を進めていくのは人間にほかならない」ためです。
何でもそうだと思いますが、物事にはハードとソフトの両面があります。
ハードは、さまざまな手法、設備、しくみといったもの。一方のソフトは、人間の心の部分。
トヨタでは長年にわたって、ハードとソフトの融合に取り組んできました。トヨタというと、トヨタ生産方式などハードの部分が脚光を浴びがちです。
しかし、トヨタが長年にわたり苦心して向き合ってきたのは、むしろ人間の心というソフトの部分なのです。
それがあつて初めて、ハードの部分をつくることができ、それを活用していくことができた。これは、整理・整頓の活動についてもあてはまることです。
まずいことは隠したくなる。それが人間の心理
具体的には、人は自分にとってまずいことがあれば隠してしまうといったことがあります。これは、いかんともしがたい人間の心に関わるもの、ソフトの部分にあたるものです。
ものづくりの現場では、誤発注によって搬入された材料が、誰の目にもとまりにくい倉庫の隅に隠されてしまうことがしばしば起きます。
結果、倉庫はモノであふれかえり、整理・整頓が進まない状況になります。
こうした状況に陥るのを防ぐために、「まずいことがあれば隠したくなる」という人間の心にどのように向き合っていけばよいのか、を考えていくことが必要です。
そのほかにも、まわりが無関心であつたらやる気を失う、という人間のメンタリティがあります。どんなによいことであっても、まわりからの評価。叱責などの関心がなければ続けていくのはむずかしい。
整理・整頓のルールを決めたとしても、やがてそれがすたれてしまうのもそのためです。だからこそ、人と人とがどう関わっていくかというソフトの部分への考察と対応も求められてくるのです。
実は、トヨタの強みは、このソフトの側面にあります。整理・整頓を進めていくための考え方と方法についても、それらはすべて人間に対する深い洞察から生まれてきたものです。
それが理解できて初めて、これまでなかなかうまくいかなかつた整理・整頓を、スムーズに進めていけるようになります。
期限を過ぎたら捨てる
モノを捨てることに対して、心理的な抵抗を感じる人もいることでしよう。
実際の現場でも、期限が過ぎているにもかかわらず、なかなか処分することができず、ずるずるとモノを持ち続けてしまうことがよく起きています。
これもソフトの問題です。
たとえば目の前に、不要になった書類があるとします。これらの書類を捨てること自体はカンタンです。シュレツダーにかければ、ほんの数秒で終わってしまいます。
ただ、その一方で、それらの書類にまつわる人の心がなかなか捨てにくい。
「いらないもの」だと、頭ではわかっていたとしても、。「急に必要になったときに困らないだろうか」。「一生懸命つくったものだから、とつておきたい」。「使わないけど、捨てるのはもったいない気がする」。「上司が『書類を見たい』と言ってくるかもしれない」といった心の部分がブレーキとして働きます。
頭では「捨てよう」と考えても、心では「捨てたくない」と思うのです。モノを捨てることに対し、人間の心理として「もったいない」という気持ちが働くのが通常です。
特に、私たち日本人は子どもの頃から、「モノを粗末にしてはいけない」「モノは大切に使うべきだ」と教わってきました。
これ自体はすばらしい思想だと思います。
モノを捨てることに抵抗がある人に対し、私たちは「モノを持つことにはコストがともなうことを考えてください」と話しています。
「いつかは使うだろう」をコストとして見たときにどうなのか、モノを保管することでどのくらいお金がかかるのか、を考えてみてください。
コストとは、金銭的なものだけでありません。モノを探す時間やモノを遠くまでとりに行く時間も立派なコストです。
コスト意識を持ってモノを見れば、それは本当にとつておくべきなのかどうか、「いるもの」なのか「いらないもの」なのかを考えて行動できるようになります。
そして、「いつかは使うだろう」「捨てるのはもったいない」と言って、「いらないもの」を抱え続けているほうが、「もったいない」とわかるはずです。
「いつかは使うだろう」は諸悪の根源
会社には決算があります。決算前の棚卸しでは、モノによっては資産として評価されるものが出てきます。
使われることのない「いらないもの」を抱えているがために課税対象となり、余分な税金を払わなければいけないといったことが起こります。
また、モノは長く保管しているうちに必ず傷んできます。数年すると錆びて使えなくなるものもあります。
「いつか使うかもしれない」と言ってとっておいても、気がついたら使いものにならなくなっていた、ということがよく起こります。そうしたモノのために、高い倉庫代をかけてよいのかどうか……。
「いらないものは処分する」を徹底できていない人や職場は、コストの観点が求められます。
トヨタには「「いつかは使うだろう」は諸悪の根源」という言葉があります。「いつかは使うだろう……」。
あなたには、こんな口ぐせはないでしょうか。そんな言葉がよく出てくるようでは、片づけはうまくいきません。
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