第 2章 五つの競争要因──利益をめぐる競争
前の章では、「最高を目指す」ことが勝利の秘訣だという、競争について最も広く信じられている誤解について考えた。本章ではもう一つの大きな誤解をとりあげる。
一般に競争といえば、競合企業間の直接対決と考えられている。これが辞書に載っている標準的な定義だ。
たとえばアップルは iPhoneを売りたい。リサーチ・イン・モーションはブラックベリーを売ろうとする。
競合する二社は、スマートフォンの顧客獲得をめぐって対決する。同様に、ヤマハはピアノを売るためにスタインウェイと競争する。
BMWとアウディは自動車の販売、ハイアットとウェスティンは宿泊客の獲得をめぐって競い合う。
だがこのような考え方は、競争を狭くとらえすぎている。
競争の主眼はライバルを負かすことにあるのではない。売上を奪うことがねらいではない。
肝心なのは、利益をあげることだ。利益をめぐる競争はもっと複雑なものだ。
競合企業以外にもさまざまな当事者が、業界内で生み出される価値の分配をめぐって競争する。
たしかに企業は利益をめぐって競合他社と争う。
だが同時に、できるだけ少ない出費でできるだけ多くを得たいと考える顧客とも競い合う。
サプライヤーも、できるだけ少ないものに対して、できるだけ多くの見返りを得ようとするため、競争の対象になる。
場合によっては自社製品の代替品として使えそうな製品のメーカーとも競争する。
また既存の競合企業だけでなく、今後参入するかもしれない企業とも競い合う。
新規参入の脅威があるだけで、顧客に要求できる価格の上値が抑えられるからだ。
競争の主眼はライバルを負かすことにあるのではない。肝心なのは利益をあげることだ。
これらの五つの競争要因──①既存の競合企業同士の競争、②買い手(業界にとっての顧客)の交渉力、③サプライヤーの交渉力、④代替品の脅威、⑤新規参入者の脅威──が業界の構造を決定する。
業界構造という重要なこの概念は、小難しく聞こえるかもしれないが、そんなことはまったくない(図 2‐ 1)。
たとえばビルや住宅、教会、倉庫などの建物なら、構造さえわかれば、それがどのように使われ、どのように「機能」し、どのように空間を囲って雨風をしのいでいるかといったことについて、重要な情報が得られる。
建物の構造は、土台、壁、屋根といった、あらゆる建物に共通する要素によってきまる。
これと同じで、業界の構造を調べれば、業界そのものに関する重要な手がかりが得られるのだ。
ポーターの五つの競争要因を分析することで、業界がどのように「機能」し、どのようにして価値を創造、共有しているかがわかる。
これら五つの要因が、業界の収益性を決定する。
業界構造と収益性の因果関係に関するポーターの研究成果は、よくある誤解に異を唱える。
実際ポーターは、次のことを明らかにしている。
◎第一に、業界は表面的には異なるように見えても、一皮むけばどの業界にも同じ力が作用している。
広告業からジッパー製造に至るあらゆる業界に、相対的な影響の大きさと重要度こそ違え、同じ五つの競争要因がはたらいている。
◎第二に、業界の収益性を決定するのは、その構造である。
多くの人が考えるように、業界が低成長か高成長か、ローテクかハイテクか、規制が厳しいか緩いか、製造業かサービス業かといった要素が収益性を左右するのではない。
業界構造は、こうした思いつくままあげられた分類に勝る。
◎第三に、業界構造は驚くほど硬直的である。
一般にビジネス環境はめまぐるしく変化していると思われがちだが、ポーターは業界構造が──まだ構造が存在しない草創期を過ぎた後は──かなり安定していることを発見した。
新製品は次々と現れては消えていく。技術の移り変わりも激しい。ものごとは絶えず変化する。
だが業界の構造──と平均収益性──に変化が起こるには、長い時間がかかることが多い。
業界構造‥より強力なツール どんな組織においても、戦略を評価し構築する際には、五つの競争要因のフレームワークが出発点となる。
戦略は、競争にさらされた組織が卓越した業績を実現する方法を示すものだと、前の章で説明した。
これに対して五つの競争要因のフレームワークは、企業が直面する競争に焦点をあて、卓越した業績の基準を与えてくれる。
つまり業界の平均的な価格とコスト、そして自社が超えるべき平均収益性を明らかにする。
自社の(現在と過去の)業績を理解するには、まず業界の基本的な経済性を押さえておかなくてはならない。
五つの競争要因のフレームワークは、企業が直面する競争に焦点をあて、卓越した業績の基準を与えてくれる。
五つの競争要因は、業界で何が起きているのかという、肝心かなめの問題に答えてくれる。
業界で起きているさまざまなことのうち、競争にとって重要なものはどれだろう? 注意を払うべきものはどれだろう? ポーター登場以前は、環境分析の枠組といえば SWOT分析が主流だった。
SWOTとは Strengths(強み)、 Weaknesses(弱み)、 Opportunities(機会)、 Threats(脅威)の頭文字を並べたものだ。
この手法は、企業をその環境と関連づけるというねらいはよかったのだが、ツールとしての効果は薄かった。
実際にやってみた人ならわかると思うが、 SWOT分析には一貫した経済原理の裏づけがないため、四つの見出しのもとに思いつくまま項目をあげるだけで終わってしまう。
だれが議論に参加したか、その朝どんな問題が頭に浮かんだかで、内容はランダムに変わる。
SWOT分析はいまも一部では使われているが、経営者の昔からの信条を肯定する方向にバイアスがかかっている(私の経験からいうと、かかりすぎている)。
こうした信条には、正当な経済学に裏打ちされたものもあれば、経営幹部の個人的な思惑もある(たとえば「機会」に大規模な買収があげられたのは、幹部がかつての勤務先への報復をもくろんでいるからかもしれないし、年度末の莫大なボーナスを期待してのことかもしれない。この種のバイアスは実際よくある話なのだ)。
これに対して業界構造は、競争の力学を理解するための、きわめて強力かつ客観的なツールだ。体系的な分析なので、重要なことを見落とすおそれが少ない。
事実と分析に(本来的には)立脚しており、ただの箇条書きの羅列ではない。そのため昔の課題の焼き直しになりにくく、新しい発見をもたらすことが多いのだ。
この分析は、競争の経済原理を明らかにすることで、外部の要因がいかにして自社の競争機会を阻み、あるいは生み出すかを浮き彫りにする。
五つの競争要因を評価する
五つの競争要因のそれぞれが、明快で直接的、かつ予測可能なかたちで、業界の収益性と結びついている。
原則として、競争要因の影響が強ければ強いほど、価格やコストに対する圧力が高まり、既存企業にとって業界の魅力度は薄れる(注意してほしいのだが、このフレームワークではつねに業界の既存企業の観点から構造分析を行なう。潜在的参入者はまず参入障壁を乗り越える必要がある。このことは、既存企業にとって「魅力的」なのに新規参入者を引きつけない業界がなぜあるのか、その理由を説明する)。
column 基本となる利益方程式‥利益 =価格 |コスト
ビジネスにおける競争の本質は、利益をめぐる競争であり、業界が生み出す価値の分配をめぐる駆け引きである。
競争は複雑で多面的なものだが、収益性の計算は単純だ。
ポーターは、最終目標である利益と、それを構成する二つの要素である価格とコストに集中せよと教える。
つまり‥ 単位あたり利益 =価格 |コスト
この場合のコストには、競争のために用いられるすべての経営資源が含まれる(資本コストを含む)。つまり企業が価値創造のために用いるすべての資源だ。
価格は、顧客が業界の製品・サービスをどのように評価するか、また代替品と比較検討した結果、それにいくらの金額を支払う意思があるかを反映している。
業界が顧客のために十分な価値を創造しなければ、コストをかろうじて賄う程度の価格しか要求できない。
逆に業界が大きな価値を生み出している場合には、その価値がどのように分配されるかを理解するうえで、構造がとても重要となる。
業界が顧客やサプライヤーのために大きな価値を生み出しながら、その労力に対してほとんど見返りを得ないことはあり得るし、実際によくあることだ。
五つの競争要因の相対的な影響の大きさと、独自の組み合わせが、業界の潜在的収益性を決定する。
なぜなら競争要因は、業界の価格とコストに直接影響をおよぼすからだ。
それぞれの競争要因が価格とコストに与える影響は前の表の通り。
本章ではまずそれぞれの競争要因を説明し、続いてその影響の大きさを評価する方法を示す。
その際多くの事例をとりあげるが、それには二つのねらいがある。
競争要因をわかりやすく説明するとともに、実在の企業が業界の重要な競争要因にどのように対応したかを実感してもらいたいのだ。
私はよく「企業はこのフレームワークを実際にどのように使っているのか」という質問を受ける。
成功している企業は当然ながら、業界の最も重要な競争要因に対して有利なポジションを築いている。
だがここで強調したいのだが、ポーターの手法を用いると、業界の構造についてしっかり考えるようになり、その結果ものごとを理解しやすくなるのだ。
これを出発点としよう。
そうすれば次は自社と競合他社が業界内に占めるポジションに焦点を合わせることができる。
買い手
強力な買い手(業界にとっての顧客)は、影響力を使って値下げ圧力をかけてくる。製品・サービスの向上を求めることもある。
いずれにせよ、顧客の価値のとり分が増えるため、業界の収益性は低下する。
強力な買い手は値下げ圧力をかけたり、製品・サービスの向上を求めたりすることで、価値のとり分を増やす。
たとえばセメント業界について考えてみよう。
アメリカでは大手の強力な建設会社が、セメント業界の売上の大部分を占めている。
建設会社は影響力を行使して値下げを要求し、業界の収益性を圧迫している。
国境の向こう側のメキシコでは、セメント業界の売上の八五%を多数の小規模な顧客が占める。
こうした数千、数万の「アリ」のニーズを満たしているのは、一握りの大手メーカーだ。
この小規模なモザイクのような買い手と少数の大規模な売り手という、交渉力における不均衡が、メキシコのセメント業界の構造を特徴づける要因だ。
市場支配力をもつメーカーは割高な価格を要求し、高い収益をあげている。
そんなわけで、アメリカでもメキシコでも大手セメント生産者であるセメックスは、当然ながら本国メキシコでの方が高いリターンをあげている。
だがそれは本国市場でより多くの価値を生み出しているからではない。
セメックスは実質的に二つの異なる業界で競争しているのだ(本章後半のコラム「業界分析の典型的な手順」で、業界の境界を正しく定義することが、戦略上いかに重要であるかを説明する)。
買い手の力を評価するにあたっては、製品の流通チャネルが、エンドユーザーに劣らず重要な場合がある。
特にチャネルがエンドユーザーの購買意思決定に影響をおよぼす場合だ。
たとえば投資顧問会社は顧客に絶大な影響力をもち、その力に見合う高い利ざやを確保している。
またホームデポやロウズなどの強力な小売業者が出現したことで、住宅改修用品のメーカーが大きな圧力にさらされている。
同じ業界内でも、交渉力や価格感度が異なる複数の買い手セグメントが存在する場合がある。
価格感度が高い買い手は、交渉力を行使してくる可能性が高い。
買い手(法人、個人にかかわらず)の価格感度は、業界の製品が次のような場合に高くなる傾向にある。
- ◎差別化されていない
- ◎買い手のほかのコストや予算と比較して、相対的に高価である
- ◎買い手の製品・サービスの質に影響をおよぼさない
これら三つの条件がどれもあてはまらない例をあげると、大手映画製作会社は製作用機材を購入またはレンタルする際、価格をあまり気にしない。
たとえば撮影用カメラは高度に差別化された機材だ。
価格は製作にかかるほかのコストに比べれば低く、しかも機材の性能が映画の成否に大きく影響する。
こうした場合、価格よりも品質が優先される。
サプライヤー
強力なサプライヤーは、交渉力を行使して他社より高い価格を請求したり、有利な条件を要求してくる。
いずれにせよ、サプライヤーの価値のとり分が増えるため、業界の収益性は低下する。
PCメーカーは、マイクロソフトとインテルの市場支配力に長年苦しめられてきた。
インテルの場合、「インテル入ってる」キャンペーンにより、本来汎用品であるはずの部品をブランド化することに成功した。
強力なサプライヤーは、他社より高い価格を請求したり、有利な条件を要求したりすることで、業界の収益性を引き下げる。
サプライヤーの力を分析する際には、製品・サービスに投入するために購入したすべてのインプット(投入物)をもれなく検討しなくてはならない。
これには労働力(自社の従業員)も含まれる。
強力な労働組合の交渉力は、長年航空業界の足かせになってきた。
たとえばかつては「搬入搬出」に関する就業規則によって、発着する飛行機に空港のゲートから手を振って合図をするのは、賃金の低い手荷物係やほかの地上勤務員でもできるのに、特別の訓練を受けた整備士だけときめられていた。
修理は主に夜間に行なわれるが、この規則のせいで整備士は二四時間体制でシフトを組み、航空会社は保守・修理に必要な数を大幅に上回る整備士を雇わざるを得なかった。
いまでは廃止されたこの規則は、高賃金の整備士にとっては事実上の雇用創出プログラムであり、航空会社にとっては利益流出の一因だった。
サプライヤーと買い手の力はどのようにして評価すればよいだろうか? どちらも考えるべき問題は同じなので、一つのリストにまとめた。
サプライヤーや買い手の力が大きくなるのは、次のような場合だ。
◎業界の企業が乱立しているのに対し、サプライヤー/買い手が大規模で集中している場合(多数のダビデが一人のゴリアテと対決している状態)。
このサプライヤー/買い手が業界全体の購入額/売上に占める割合はどれだけだろう? データから傾向を読みとろう。
このサプライヤー/顧客を失えば、業界はどれほどの損失を被るだろうか? 固定費の高い業界(通信機器、海洋掘削など)は、大口顧客に対して特に立場が弱い。
◎業界がサプライヤー/買い手を必要とする度合いが、必要とされる度合いよりも高い場合。
代わりのサプライヤーが(少なくとも短期的に)いない場合もある。
たとえば医師やパイロットは昔から圧倒的な交渉力を行使してきたが、それはどちらのスキルも代わりがきかず、かつ供給が不足しているからだ。
レアアースのネオジムは、世界生産の九割を占める中国が輸出規制をかけたせいで、たった一年間(二〇一〇年)のうちに価格が四倍に跳ね上がった。
トヨタはレアアースへの依存を軽減するために、新型モーターの開発に余念がない。
◎スイッチングコストがサプライヤー/買い手に有利にはたらく場合。
これが起きるのは、業界がサプライヤーに牛耳られているときだ。
一例として P C業界は、オペレーティング・システム( OS)とソフトウェアの主要サプライヤーであるマイクロソフトに牛耳られている。
またスイッチングコストが買い手に有利にはたらくのは、買い手が容易に業者を変更できるときだ。
一般的な航空路線では、顧客が容易に航空会社会社を変更できるため、航空会社は値上げやサービスの縮小になかなか踏みきれない。
マイレージサービスはスイッチングコストを引き上げることをねらって導入されたが、効果はあがっていない。
◎差別化がサプライヤー/買い手の有利にはたらく場合。
買い手は業界の製品がほとんど差別化されていないと感じれば、業者を競わせることができる。
PCそのものの汎用品化が進むなか、買い手の力は増している。
その一方で、 PC業界のサプライヤー(マイクロソフトとインテル)は高度に差別化されている。
PCメーカーは強力なサプライヤーと強力な買い手の板挟みに苦しんでいる。
◎買い手/サプライヤーが製造機能を垂直統合して、業界の製品を内製する可能性が実際にある場合。
ビールやソフトドリンクのメーカーはこの戦術を使って、飲料容器の価格を抑えてきた。
代替品 代替品、つまり業界の製品と同じ基本的ニーズを異なる方法で満たす製品・サービスは、業界の収益性に上限をつくる。
確定申告書類作成ソフトは、税務申告書作成代理業者の H& Rブロックの代替品だ。
代替品は、既存企業が売上を減らさずに設定できる価格に天井をつくる。
OPEC(石油輸出国機構)は何十年にもわたって石油価格を注意深く管理し、代替エネルギーへの投資意欲を阻むことで、代替エネルギー開発を牽制してきた。
環境保護主義者がガソリン税の増税を歓迎するのは、そのためだ。
代替品、つまり業界の製品と同じ基本的ニーズを異なる方法で満たす製品・サービスは、業界の収益性に上限をつくる。
代替品は直接の競合品でないからこそ、予想外の場所から現れる。
このため予測が難しく、現れても気づかないことさえある。
代替品は少し離れた場所からやってくるとき、特に厄介な脅威になる。
たとえば電気自動車は今後二、三〇年のうちに内燃機関をもつ自動車を大方代替してしまうかもしれない(しないかもしれない)。
そうなればカスケード効果が生じ、ほかの多くの部品も代替されるだろう。
一例として、電気自動車はバッテリーを搭載することで重量がかさむため、 BMWは車体に使うスチールの軽量な代替品として、カーボンファイバーの使用を検討している。
トランスミッションや排気システムの製造・補修企業は、二一世紀の馬鞭メーカー〔時代遅れの象徴〕になるかもしれない。
代替品の脅威はどのようにして評価すればよいか? 経済性に注目し、特に代替品が業界の製品よりもコストパフォーマンスの高いトレードオフになるかどうかを考える。
コインスターのレッドボックス(一ドルぽっきりで映画をレンタルできる自動販売機)は、ハリウッドの映画業界がその二〇倍から四〇倍もの金額で映画 DVDを販売できる機会をはっきりと脅かし始めた。
コインスターはビデオ購入の代替品であり、またレッドボックスの便利な立地と低コストに太刀打ちできない地元のビデオレンタル店にとっては、直接の競合相手になる(ちなみにこの文章を書いてひと月ほどたった頃、大手ビデオレンタル・チェーンのブロックバスターが民事再生法の適用を申請した)。
DVDレンタルは長い間 DVD購入の代替品だったが、レッドボックスの格安料金と利便性の組み合わせは、顧客のツボを明らかにとらえたようだ。
ツボをとらえるのは低価格の代替品だけとは限らない。
マドリッド‐バルセロナ間を結ぶ高速鉄道は、フライトに対する高価値、高価格の代替品だ。
またエナジードリンクはコーヒーに対する高価格の代替品だ。
どちらもカフェイン供給飲料だが、より大きな刺激が得られる代替品に割高な価格を喜んで支払う消費者がいる。
スイッチングコストは代替において重要な役割を果たす。
代替品が普及するのは、買い手が代替品に乗り換えるスイッチングコストが低いときだ。
映画から DVDへの乗り換えはもちろんこの好例だし、ブランド医薬品からジェネリック医薬品への乗り換えもそうだ。
またコーヒー飲用が深く根づいた習慣であることを考えれば、若者の方が進んでエナジードリンクをとり入れているのも納得がいく。
新規参入者
参入障壁には、市場に新たな生産能力をもたらしてシェアの獲得をねらう新規参入者から、業界を保護するはたらきがある。
新規参入者の脅威は、二つの方法で業界の収益性を低下させる。
- 一つは価格に上限をつくることだ。価格を引き上げれば、新規参入の魅力が増してしまう。
- 二つめの点として、既存企業は顧客をつなぎとめるために、投資を増やす必要に迫られることが多い。
これが新規参入者の越えなくてはならないハードルを引き上げ、参入意欲をくじく。たとえば高級コーヒー小売業は、参入障壁そのものは低い。
だからこそスターバックスはつねに投資を行ない、店舗やメニューの刷新に努めなくてはならない。これを怠ると、新たな競合企業に扉を開くことになる。
参入障壁は、新たな生産能力をもたらそうとする新規参入者から、業界を保護する。
新規参入の脅威はどうやって評価するか? 既存企業が参入障壁を高めるには、どうすればよいだろう? 新しい業界に参入しようとする企業は、行く手を阻む障壁を乗り越えられるだろうか? 参入障壁にはいくつかの種類がある。
障壁を見きわめ、その大きさを評価するために、まず次の質問に答えてみよう。
◎生産量が増えると、単位あたりコストは下がるだろうか? 規模の経済性が存在するなら、生産量がどの水準に達すると作用し始めるだろう? こういった数字をしっかり把握することが大切だ。
またその場合、規模の経済性はどのような面ではたらくのだろう? 生産量を拡大することで固定費を分散できるから? 規模が大きくなると、より効率的な技術を利用できるから? サプライヤーに対する交渉力が高まるから? ちなみに P Cの新しい OSを開発するには約一〇億ドルかかるが、マイクロソフトほどの規模があれば、ものの数週間でコストを回収できる。
◎顧客がサプライヤーを変更すると、スイッチングコストが生じるだろうか? Macから PC(または逆)に乗り換えると、セットアップを行ないスキルを学び直すのに何時間もかかる。
アップルは市場シェアが小さい小規模プレーヤーなので、相手から顧客を奪うことで得られるものは、マイクロソフトよりはるかに大きい。
そのためアップルは、 PCユーザーのスイッチングコストを軽減するための投資を積極的に行なってきた。
◎ある企業の製品の利用者が増えるにつれて、利用者にとっての製品の価値は高まるだろうか?(これはネットワーク効果と呼ばれる)。
供給サイドの規模の経済性で検討したように、ここでもやはりその価値がどこから生じ、金銭に直すといくらほどになるのかを明らかにする必要がある。
企業の安定したイメージや評判が、その製品を「安全」な選択肢にしていることもある。
ネットワークの大きさが価値の源泉という場合もある。
フェイスブックがこの好例だ。
◎事業に新規参入するための「入場料」はいくらだろう? どれほどの資本投資が必要か? それだけの投資を行なう意欲と能力をもつ企業には、どんな企業があるだろうか? 製薬会社は新規参入者の脅威をそれほど不安に感じないため、価格を気兼ねなく引き上げられる。
この事業では研究開発やマーケティングに莫大な投資が必要だからだ。
◎業界の既存企業には、規模とは別に、新規参入者にもちえない強みがあるだろうか? たとえば独占的な技術やゆるぎないブランド、有利な立地、流通チャネルとの結びつきなどだ。
流通チャネルは厄介な参入障壁になることがある。
特に限られた数のチャネルを既存企業が囲いこんでしまう場合だ。
その結果、新規参入者は独自のチャネルを開拓せざるを得なくなることがある。
新興の格安航空会社は、旅行代理店が大手
大手航空会社を優遇しがちだったため、インターネットでのチケット販売に活路を見出した。
◎政府の政策は、新規参入を制限または阻止しているだろうか? 私の住むマサチューセッツ州では、ワイン販売免許がなかなか下りないことが販売業者の新規参入を大きく阻んでいる。
規制や政策、特許制度、補助金などは、ほかの参入障壁を高めたり低めたりすることで、間接的に作用する場合もある。
◎新規参入を計画している企業は、既存企業からの反撃をどのように予想しているだろうか? 業界は新規参入者に徹底的に応戦するという評判だろうか? 業界には激しく対抗できるだけの経営資源があるだろうか? 業界の成長が鈍い、または固定費が高い場合、既存企業は市場シェアを死守するために激しく戦う可能性が高い。
既存企業同士の競争
既存企業同士の競争が激しいほど、業界の収益性は低下する。
値下げ競争によって業界の生み出した価値が買い手に流れたり、競争に要するコストがかさんで価値が散逸することがある。
競争はさまざまな形態をとる。
価格競争、宣伝合戦、新製品の投入、カスタマーサービスの拡充など。
製薬会社は昔から研究開発やマーケティングで激しい戦いを繰り広げてきたが、価格競争にだけは陥らないよう気をつけている。
既存企業同士の競争が激しいと、値下げ競争によって業界の生み出した価値が顧客に流れたり、競争にまつわるコストがかさんで価値が散逸する。
競争の激しさはどうやって評価するか? ポーターは、競争が最も激しくなるのは次の場合だという。
◎競合企業が乱立しているか、規模と影響力においてほぼ互角である場合。
業界のリーダー企業がいる場合は、業界全体の利益になる慣行を徹底させる力をもっていることが多い。
◎業界の成長が鈍いと、シェア争いが激化する。
◎撤退障壁が高いと、業界から企業が退出しにくくなる。
たとえば処分が難しい特殊な資産に投資していた場合などがそうだ。
過剰な生産能力は、一般に業界の収益性を悪化させる。
◎競合企業が事業に対して道理に合わない執着をもっている、つまり財務業績を最優先目標としない場合。
たとえば国有企業は経営が悪化しても国家威信や雇用確保のために救済されることがある。
またイメージ上の理由から採算を度外視してフルライン戦略をとる企業もある。
価格競争は、あらゆる競争形態のなかで最もダメージが大きいとポーターは警告する。競争が価格に向かえば向かうほど、業界は最高を目指す競争にとらわれる。
これが起きるのは次のような場合だ。
◎製品・サービスの見分けがほとんどつかず(第 1章でとりあげた競争の収斂の問題)、買い手のスイッチングコストが低いとき。
このような場合、値下げによる顧客争奪戦が起きることが多い。航空業界は長年にわたってこの種の競争に終始してきた。
◎固定費が高く、限界費用が低いとき。
企業は「経費を賄う足し」になるようにと、値下げをしてでも新規顧客を獲得しようとする。これも航空業界の価格競争の背景にある考え方である。
◎生産能力の大幅な拡充が必要になったとき。
この結果、業界内の需給バランスが崩れ、設備の稼働率を上げるために価格を引き下げざるを得なくなる。
◎製品が陳腐化しやすいとき。
果物やファッションに限らず、短期間で時代遅れになったり価値が失われたりする幅広い製品・サービスにあてはまる。
ホテルの客室や航空機の座席、レストランのテーブルも、埋まらなければ「陳腐化」する。
なぜ競争要因は五つだけなのか? 五つの競争要因のフレームワークはなぜすべての業界にあてはまるのだろうか? それは、あらゆる取引の根本をなす関係を網羅しているからという、単純な理由による。
つまり買い手と売り手、売り手とサプライヤー、競合する売り手同士、供給と需要の関係だ。
ちょっと考えてほしい。すべてが網羅されているのがわかるだろうか。五つの競争要因は、普遍的かつ根本的なフレームワークである。
五つの競争要因のフレームワークがなぜすべての業界にあてはまるかといえば、あらゆる取引の根本をなす関係を網羅しているからという、単純な理由による。
私は経営者の戦略会議の司会進行を務めるとき、ポーターの五つの競争要因のフレームワークをご存じですかと尋ねることにしている。
ほとんどの人が、知っていると答える。おもしろいのはここからだ。ほどなくして五つ全部言えるかの競争が始まる。
三つか四つしか思い出せない人がほとんどのようだ。
また五つの競争要因に含まれないものをあげて、うちの業界ではこれが成否を分けるのだから、入っていないはずがないといい張る人が必ず現れる。
そこで、このフレームワークのねらいを説明しておきたい。
競争要因を五つともそらでいえても、有能な戦略家になれるわけではなく、そのふりができるにすぎない。
それより大切なのは、フレームワークの根底をしっかり理解することだ。
どんな業界にも限られた数の構造的要因が作用し、それらが体系的かつ予測可能な方法で、業界の収益性に影響をおよぼしているのだ。
column 需要と供給
需要と供給が価格に大きな影響を与えることは、誰もが習い知っている。
完全市場では需給調整機能が敏感にはたらき、供給が増えると価格は新しい均衡点に瞬時に低下する。
完全競争下では利益はゼロである。価格はつねに限界生産費に等しくなるまで下がるからだ。だが現実には「完全」な市場などまずない。
ポーターの五つの競争要因のフレームワークは、不完全な市場について体系的に考える手だてを与えてくれる。
たとえば参入障壁が存在するとき、新規供給者は市場の需要を満たそうとしても簡単には参入できない。
またサプライヤーや買い手の影響力なども、価格に直接の影響をおよぼすことがわかる。
このほかにも重要な要素はあるが、どれも構造的ではない。
よくあげられる四つの要素を考えてみよう。
◎政府による規制。
規制はつねに競争に影響をおよぼすとは限らない。
むしろ五つの競争要因のどれかに影響をおよぼし、間接的に業界構造を変化させることはある。
◎技術。
技術も同じだ。
たとえばインターネットの普及によって、顧客が簡単に最安値のものを探せるようになれば、業界の収益性は低下するが、それはインターネットが買い手の力を高めることを通して、業界構造を変化させるからだ。
◎成長率。
成長率の高い業界は魅力的と思われがちだが、これは誤りだ。成長しているからといって、収益性が高いとは限らない。
たとえば成長を機にサプライヤーが主導権を握ることもあれば、高成長と低い参入障壁の組み合わせが新規参入者を呼び寄せてしまうこともある。
成長率だけをみても、顧客の影響力がどうなのか、代替品の脅威がどれほどあるのかはわからない。
急成長を遂げている業界は「よい業界」だという根拠のない思いこみが戦略判断を誤らせることが多いと、ポーターは警告する。
◎補完品。
補完品は「六つめの競争要因」の候補にあげられることがある。補完品とは業界の製品とともに使われる製品・サービスのことをいう。
たとえばコンピュータのハードウェアとソフトウェアがその好例だ。
たしかに補完品は、業界の製品の需要に影響を与えることがある(充電設備がないのに電気自動車を買おうと思う人がいるだろうか?)。
だがこれまで見てきた要因──成長率、政策、技術──と同じで、やはり五つの競争要因に作用することを通して、業界の収益性に影響を与える。
もちろん、業界によってはこれらの要素を理解し適切に対処できるかどうかが成否を分けることもあるだろう。
だがこれらの要素の影響が増したからといって、たとえば買い手の力が高まるときのように、業界の収益性に体系的かつ予測可能な影響がおよぶことはない。
同じ技術でも、コストの上昇と価格の低下を招き収益性を損ねるものもあれば、その逆もある。
まったく影響をおよぼさないものもある。
同じことが成長率、政策、補完品についてもいえる。
競争要因が構造的であれば、その影響力が大きくなったとき、価格またはコストが既知の方向に動くことをつねに予測できる。
買い手の力が高まれば、価格は必ず低下し、上昇することはない。
サプライヤーの力が高まれば、コストは必ず上昇し、下落することはない。
五つの競争要因のそれぞれが収益性にどのような影響をおよぼすかを、図 2‐ 2にまとめた。
戦略への示唆 五つの競争要因の全体としての強さを把握することが大切だ。
なぜなら、これが価格とコストに、そして競争に必要な投資に影響をおよぼすからだ。
業界の生み出す経済価値がどのように分配されるかは、業界構造によってきまる。
つまり業界内の企業がどれだけの割合を確保し、どれだけが顧客、サプライヤー、流通業者、代替品に流れるか、また新規参入の脅威が価値をどれほど抑制するかがきまる。
業界構造は、業界内のすべての企業の損益計算書とバランスシート(貸借対照表)と直接関係している。
この分析から得られた洞察は、どこで、どのようにして競争するかという意思決定に直接活かされなくてはならない。
業界分析を実際に活用するにはどうしたらよいだろう? わかりやすい例を二つあげる。
まずは、業界で魅力的な収益が見こめるかどうかを考えてみよう。
二〇〇五年に IBMは P C事業をレノボに売却した。
五つの競争要因を分析すれば、なぜこの事業が、主力企業ですら音をあげるほど魅力を失ったのか、その理由が手にとるようにわかる。
この業界では強大な力を誇るサプライヤーのマイクロソフトとインテルが、当時も業界の生み出す価値のほとんどを牛耳っていた。
また業界が成熟するにつれて、 PCそのものの汎用品化が進み、それとともに顧客の力が増した。
PCは性能面で優劣がつかなくなり、顧客は安値を求めて気軽にブランドを乗り換えるようになった。
PCメーカー間の競争は激化し、アジアの新興 P Cメーカーの攻勢が価格低下に拍車をかけた。
そのうえ P Cの代替品になりそうな新型機器が急速に売上を伸ばしていた。
PCの機能の一部を備えた、さまざまな携帯機器である。
column 業界分析の典型的な手順
1.業界を「製品の範囲」と「地理的範囲」の二つの面から定義する。
業界に含まれるもの、含まれないものは何だろう? この手順は意外と厄介なので、じっくり考えてほしい。
五つの競争要因分析を用いれば、業界の定義が狭すぎる、または広すぎるという、よくある落とし穴にはまらずに、境界線を引くことができる。
複数の製品/地域を比較したとき、買い手、サプライヤー、参入障壁などは同じだろうか? ポーターの経験則を教えよう。
複数の競争要因に違いがある場合、またはどれか一つに大きな違いがある場合、それらの製品/地域は、別々の業界に属すると考えてよい。
つまり、別々の戦略が必要になるということだ。
次の例を考えてみよう。
◎製品の範囲。
自動車用のモーター・オイルは、トラックや固定エンジンに使われるオイルと同じ業界に属するだろうか? 油そのものに違いはほとんどない。
だが自動車用オイルは一般消費者向けの広告によって宣伝され、強力なチャネルを通じて無数の小規模な顧客に販売される。
また小型容器に詰められるせいで物流コストがかさむため、地域で生産される。
これに対してトラックや発電機用のオイルは、異なる販売チャネルやサプライチェーンを通じて異なる顧客に販売されるため、業界構造がまったく異なる。
したがって戦略的観点からいえば、これらは別々の業界に属する。
◎地理的範囲。
セメント事業はグローバルな事業だろうか、それともローカルだろうか? 先のセメックスの例を思い出してほしい。
アメリカとメキシコとでは、いくつかの競争要因は同じだが、買い手が根本的に異なる。
地理的範囲がグローバルではなく国内であるため、市場ごとに異なる戦略が必要である。
2.それぞれの競争要因を構成する当事者を特定し、必要に応じてグループに分類する。
どのような基準で分類されるだろうか? 3.それぞれの競争要因を促進する要素(ドライバー)を分析する。
どのドライバーの影響力が大きく、どれが小さいだろうか? それはなぜだろう? この分析を徹底的に行なえば、貴重な結果が得られる。
4.一歩下がって全体的な業界構造を見きわめる。
収益性のカギを握るのは、どの競争要因(一つまたは複数)だろう? すべての要因が同じくらい重要ということはない。
業界にとって最も重要な競争要因を掘り下げてみよう。
分析から得られた結果は、現在の、そして長期的に見た業界の収益性水準と一致しているだろうか? 業界内の収益性の高い企業は、五つの競争要因で有利なポジションにつけているだろうか? 5.それぞれの競争要因の最近の変化と将来起こりうる変化を分析する。
どのような変化が見られるだろう? 今後競合他社や新規参入者は、業界構造にどのような影響をおよぼすだろうか? 6.五つの競争要因に対して、自社をどのようにポジショニングできるか? 競争要因の影響が最も弱くなるようなポジションを探せるだろうか? 業界の変化を逆手にとって利用できないだろうか? 業界構造を自社の有利になるように再編できないだろうか? 五つの競争要因分析は、業界の「魅力度」を判断するために用いられることが最も多い。
もちろん、撤退、参入、投資を検討する企業や投資家にとって、これは欠かせない。
だが五つの競争要因分析を行なって、ただ業界が魅力的か、魅力的でないかを宣言するだけでは、ツールとしての力をフルに活用できているとはいえない。
このような使い方では、次の質問に対する重要な洞察を得ることはできない。
◎業界の収益性はなぜいまのような水準なのか? 収益性を支える要因は何だろう? ◎何が変わりつつあるだろう? 収益性は今後どのように変化するだろう? ◎自社が生み出している価値のとり分を増やすには、どういった制約要因を克服しなくてはならないだろう? いいかえれば、五つの競争要因分析を正しく行なうことで、複雑な競争の本質を見抜き、業績を改善するためのさまざまな措置がとれるようになる。
たとえば P C事業はほとんどのプレーヤーにとって魅力に乏しいが、アップルは利益をあげる方法を見つけたように思われる。
アップルは独自の OSを構築することで、サプライヤーであるマイクロソフトの力をかわしてきた。
また、特徴ある製品を開発することで、買い手の力を抑えている。
アップル信者は、他社製品に乗り換えるくらいなら、割高な価格を支払った方がましだと考える。
業界分析で考えるべき二つめの質問は、競争要因の影響が最も弱い場所に自社をポジショニングできるかどうかだ。
大型トラックメーカーのパッカーが編み出した戦略について考えてみよう。
この業界もやはり魅力の薄い構造をもつ。
◎大規模なトラック部隊を保有する、強力な買い手が多数いる。
こうした買い手は、トラックがコストの大部分を占めるため、価格感度が高い。
◎競争の基盤は価格に置かれる。
なぜなら、( a)業界は資本集約的で、周期的に低迷するため、競争が激しく、( b)ほとんどのトラックが規制基準に合わせて製造されるため、どれも同じように見えるからだ。
◎供給面での問題としては、労働組合がサプライヤーとして絶大な影響力を行使するほか、エンジンや駆動系部品の大規模な独立系サプライヤーも強力である。
◎トラックの買い手は、代替サービス(鉄道など)の脅威にさらされており、そのことがトラックの価格を全体として抑えている。
一九九三年から二〇〇七年までの業界の平均投下資本利益率( ROIC)は、一〇・五%だった。
だがこの同じ時期、北米の大型トラック市場で約二〇%のシェアを占めるパッカーは、三一・六%もの ROICを実現している。
パッカーはこの厳しい業界のなかで、競争要因の影響が最も弱い部分にポジショニングを確立している。
ターゲット顧客は個人運送業者、つまりトラックを第二のわが家とする男たちだ。
この顧客層はパッカーの「ケンワース」や「ピータービルト」のブランドがもたらすステータスや、運転席後部の贅沢な仮眠スペース、豪華な革張りのシートなどの多くのカスタム機能に、割高な価格を支払う。
パッカーの受注生産の製品には、個人運送業者を支援するさまざまなサービスが付帯している。
たとえばパッカーのロードサービスを利用すれば、トラックの不稼働時間を短縮できる。
これは個人運送業者の財政にとって非常にありがたい。
だからこそパッカーは、熾烈な価格競争がはびこる業界で、一〇%ものプレミアム価格を要求できるのだ。
パッカーは業界「最高」のトラックメーカーを目指さない。
そんなことをすれば、同じ製品で同じ顧客を追い、業界の価格競争にとらわれ、競争を激化させ、その結果業界構造の悪化に拍車をかけるのがオチだ。
ここでの教訓は、多くの業界の多くの企業にとって戒めとなる。
競争方法に関する自らの選択が、不利な状況をさらに不利にしてしまうことがあるのだ。
パッカーは独自性を目指して競争し、他社と異なるニーズや顧客に対応することで、違う土俵で戦える。
同社の価格やコストに影響をおよぼす競争要因は、それほど強力ではない。
「戦略は」とポーターは書いている、「競争要因に対して防衛策をとること、または業界内で競争要因の影響が最も弱いポジションを探すことと見なすこともできる」。
パッカーの事例が示すように、優れた戦略は、嵐から身を守るシェルターのようなものだ。
五つの競争要因分析は、天気予報を知らせてくれる。
構造は動態的である
競争要因の一部またはすべてが時とともに変化するにつれて、業界の収益性も変化する。
業界構造は静態的ではなく動態的である。ポーターはことあるごとにこれを強調する。
なぜなら、業界構造と企業のポジショニングは静態的だから、この変化の激しい世界では無意味だという、驚くほど根強い誤解があるからだ。
「はじめに」で述べたように、多くの人がポーターを受け売りでしか知らないため、この点は強調するに値する。
くり返すと、業界構造は静態的ではなく動態的である。
業界分析を行なうことは、ある時点での業界の姿をとらえることだが、五つの競争要因の傾向を分析することでもある。
買い手やサプライヤーは、時とともに力を増すこともあれば、失うこともある。
技術革新や経営革新のせいで、新規参入や代替の脅威が高まる場合も、薄れる場合もある。
経営者の選択や規制の変更によって、競合企業同士の競争の激しさが変わることもある。
たとえば一九七〇年のウォルマートは、まったくノーマークの存在だった。
いまやウォルマートは世界最強の買い手として、さまざまな業界に絶大な影響力をおよぼしている。
同社のチーフバイヤーは、私が知るなかで最も率直な肩書きをもつ人だ。
「国際購買レバレッジ担当副社長」というのだから。
だが業界の五つの競争要因を見守ってきた人たちにとって、これは一夜にして起きた激変ではなかった。
ウォルマートに製品を供給する多くの業界にとっては、超スローモーションで起きた列車事故だった。
激変に備え、選択を行ない、行動を起こす時間はたっぷりあったのだ。
どんな業界にもつねに変化が起きている。
業界構造をよりよく理解すれば、業界構造を自社に有利に再編できる新しい戦略機会や動きを見きわめ、活用することができる。
難しいのは、重要な変化を見分けることだ。
戦略上重要な変化とは、五つの競争要因に影響をおよぼすような変化である。
column 五つの競争要因‥利益をめぐる競争 ◎競争の真の目的は、ライバル企業の商売を奪うことではない。
利益をあげることだ。
ビジネスにおける競争の本質は、利益をめぐる攻防であり、業界が生み出す価値の分配をめぐる駆け引きである。
◎企業が利益をめぐって争う相手は、直接の競合企業だけではない。
顧客、サプライヤー、潜在的新規参入者、代替品も競争の対象となる。
◎五つの競争要因の全体としての強さが、価格とコストに、また競争に必要な投資に影響をおよぼし、業界の平均的な収益性を決定する。
優れた戦略は、業界平均を上回る業績をもたらす。
◎五つの競争要因分析を行ない、ただ業界が魅力的か、魅力的でないかを宣言するだけでは、ツールとしての力をフルに活用できていない。
業界構造は、業界内のあらゆる企業の損益計算書と貸借対照表を「説明」できる。
したがって、この分析から得られた洞察は、どこで、どのようにして競争するかという意思決定に直接活かされなくてはならない。
◎業界構造は静態的ではなく動態的である。
五つの競争要因分析を行なうことで、業界構造の変化を予測し、逆手にとって活用することができる。
なぜ一部の企業はほかより収益性が高いのだろうか? 本章ではこの質問の答えの前半を説明した──業界構造は収益性の違いをもたらす一因である。
そんなわけで、後半に進む準備ができた。
次章では、企業が業界内で占める相対的なポジションが、さらに大きな違いをもたらす要因であることを見ていこう。
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